長谷川千雨の約束   作:Una

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第九話 あんたあの子のなんなのさ

 長谷川千雨が二人いる。

 その言葉は少なからずエヴァンジェリンに衝撃を与えた。

 

「なぜそう思った?」

 

 風と虫の音を聞きながら、エヴァンジェリンはネギの暗い目を見据えて話を促した。

 

「先程、ここに長谷川さんが現れました」

「なに?」

「記憶も戻っていて、あの時のアーティファクトで助けてくれました」

「ちょっと待て」

 

 言いながら、エヴァンジェリンはこめかみに指を当てた。そのまま数秒、目を閉じていた彼女は眉根にシワを寄せて、

 

「今貴様のペットに確認させた。長谷川千雨は旅館にいる。30分前の点呼の時にも姿を確認しているそうだ」

 

 ペットことカモは旅館でネギに擬態している式神の肩で、式の動きの補助を行なっている。

 

「そうですか」

「ここに、いたのか? あいつが。記憶を取り戻した奴が」

「はい」

「何をしに? 今度は何をやらかした?」

 

 ネギは一瞬視線を逸らした。

 

「僕を庇って、腹部を貫通する大怪我を負って、湖に沈みました」

「…………」

「しかし、不思議なんです。長谷川さんが湖に落ちてすぐ、僕は出せる式神を全て出して彼女を引き上げようとしましたが、どこにもいないんです」

「いない?」

「消えてしまいました。まるで煙のように。どれだけ探しても」

「召喚は試さなかったのか?」

「召喚、ですか?」

 

 エヴァンジェリンは不快そうに表情を歪め、松明の灯りで生まれる足元の影に腕を突っ込んだ。

 影のゲートを介して取り出されたのは、旅館にいるはずのカモである。

 

「おいイタチ」

「いえあっしはイタチではなく由緒正しいすいませんなんでもないです」

 

 カモはエヴァンジェリンに首根っこをつまみ上げられながら、彼女の眼光の鋭さに即頭を下げた。

 

「なぜカードの機能についてぼーやに教えていない?」

「だ、だってですね、千雨の嬢ちゃんが唯一の従者でしてね、それがその、あんなことになっちまって。そしたらほらカードの機能とか話題にしづらいじゃないですか。思い出させちゃいますし、魔法を忘れた嬢ちゃんを召喚したり念話で会話することもない以上あえて藪を突く必要もないかなって」

 

 つまりはエヴァンジェリンのせいである。

 

「…………まあそうだな」

「気を使わせちゃったねカモくん」

「い、いえそんな、こちらこそ配慮が足りず」

「ともかく一度やってみろ。それで呼び出せれば良しだ、締め上げて全てを吐かせる」

「やってみますが長谷川さんに乱暴はさせません」

 

 断固たる口調でエヴァンジェリンに釘を刺して、ネギはカードを宙に掲げ従者召喚の詠唱をする。が、なんの反応もなかった。

 

「距離が離れすぎだな」

「…………可能性の話ですが、従者が死亡していた場合はどうなるんですか? 遺体が召喚されたりするんでしょうか」

「その場合はカードの背景が空白になりただのカードになる。つまり召喚やAFなど全ての機能がカードから剥奪される。このカードを見るに長谷川千雨は存命だ」

「そうですか」

 

 ネギはため息をついた。

 

「仮契約カードにはなんと書いてある」

「え、はい」

 

 カモと交換するようにしてエヴァンジェリンが受け取った仮契約カードには、アイドルのような衣装に身を包みポーズを決めている、笑みを顔に貼り付けた長谷川千雨が描かれていた。

 

「長谷川千雨、だな。別人が魔法で変装したわけでもなく」

「はい」

 

 仮契約は魂の契約だ。いかな能力だろうと、自身の精神を変成させる能力が仮にあったとしても、それですらカードに写る姿を偽ることはできない。

 

「普通に考えれば、長谷川のやつが治癒と長距離転移の魔法を使える、ということにしかならん。まあ、召喚機能で呼び出せない以上、旅館にいる長谷川千雨と、貴様と仮契約を結んだ長谷川千雨は別人ということではあるが。なぜ貴様はやつが二人いると考えた? 召喚機能を知るより前に」

「先程僕は、長谷川さんにカマをかけました」

「ん?」

 

 エヴァンジェリンは首を傾げた。

 カマをかけた? 自分を救い、引き換えに記憶を失った少女と再会した直後に? 再会の挨拶を交わしながら? 

 

「僕は彼女にこう聞いたんです。『怪我はもう大丈夫ですか?』と」

「んん?」

「それに対して長谷川さんはこう答えました。『ああ、怪我はとっくに直してる』」

「…………なんだその気持ちの悪いやりとりは」

 

 違和感。

 ネギやエヴァンジェリンにしてみれば、長谷川千雨の怪我が治っていることなど、入院した時点でわかっていたことだ。

 長谷川千雨が真に記憶喪失であったのなら、記憶を取り戻す前後で記憶は連続しているはずだ。怪我もなく、京都までの道のりを一緒に過ごしてきたのだ。ネギが、長谷川千雨の怪我が治っていることを知っていることを、長谷川千雨は当然のこととして認識していなくてはならない。今更1週間も前に完治した怪我について聞かれたところで、いやお前知ってるだろなんだ今更、などと奴なら言うだろう。

 それにも関わらず、まるで怪我について初めて話題に出すかのように言葉を返す長谷川千雨の振る舞い。

 これを合理的に解釈すれば、二度にわたり命を賭けてネギを守った長谷川千雨と、今旅館にいるであろう長谷川千雨は、記憶を共有していない、ということになる。

 ネギは指を三本立てる。

 

「この段階で考えられる可能性は三つ。一つは、記憶喪失を装おうとして失敗した、一つは二人一役の入れ替わり、最後の一つは二つの人格が出入りする解離性障害。この三パターンです」

「さっきの時点で一番可能性が高いのは一つ目の装っていた、だな。後半の二つはなんというか荒唐無稽だ、可能性としてゼロではないというだけで」

「僕もそう思っていました」

 

 ですが、とネギは言う。

 

「旅館の二日目、深夜に皆さんが大騒ぎしてましたよね」

「ああ、あのラ…………なんでもない。あれな、あれ」

 

 さすがにラブラブとかキッスとか大作戦とかいう単語を口にするのは恥ずかしかったらしい。

 

「その時僕はあえて本体で千雨と鉢合わせしました。自分で言うのもなんですが、今の僕の人相は先週の自分と比べてかなり変わっています」

「そうだな。病人かリビングデッドか悩むところだ」

「そんな僕を見ても、長谷川さんは全く反応しませんでした。心配する言葉の一つもかけることなく」

 

 だからなんだ、とエヴァは思った。

 

「隈を浮かべた10歳児を前になにも声をかけないなんて、長谷川さんの性格上ありえません」

 

 エヴァンジェリンはちょっと引いた。このぼーやはあの女に依存しすぎではないかと。そこまで依存するほどに追い詰めたのは自分だが。

 

「あー、つまり、だから、あの夜旅館にいた長谷川千雨は偽物だと?」

「はい。おそらく彼女は自分の偽物を作れるのでしょう。それは恐らく僕の式神と同じように、パターン化した受け答えしかできず、融通がきかない。だから僕の顔色について何も言及せず、僕の前で生徒を軽々と持ち上げて部屋まで送り届けた」

「素の身体能力では人間一人を抱え上げることなど無理なはず、と気づかなかったか」

「加えて傷の件があります」

「確か、長谷川千雨は一般的な治癒魔法をかけられただけで体内に篭った魔力が暴走するほど魔力容量が低い。にも関わらず全くの無傷な状態にまで一夜で回復していた。この疑問は爺とも話していたが、なるほど。病院で偽物と入れ替わり、本物の長谷川千雨は抜け出していたということか」

 

 しかし、とエヴァンジェリンは腕を組み唸った。

 

「長谷川千雨が二人一役で入れ替わっていた、と考えるのが一番自然だが、そうなると一つの疑問が残る」

「普段の、今旅館にいる長谷川千雨は何者か」

 

 エヴァンジェリンは頷いた。

 

「皆さんが大騒ぎしていた夜から何度か長谷川さんをチェックしたのですが、どのタイミングでも彼女は人間なんです。式神や魔法による分身であれば、近づけば放散魔力を感じ取れるはずです」

「私の目から見てもな。式神やらが学園を歩き回っていたら私や魔法先生がすぐに気づく…………どうにも奴の能力にはまだなにか隠し事があるようだな。奴に関して説明しきれない部分がある」

「…………はい」

「能力といえば治癒に関してもそうだ。ここに来た奴は決闘での怪我はとっくに直している、んだったな? その上で腹を貫通する怪我を負ったと」

「僕の腕が余裕で通る大きさです」

 

 エヴァンジェリンは眉を顰める。それは、人間にとっては致命傷もいいところだ。にも関わらず、千雨の仮契約カードは失効しておらず、本人は召喚の有効圏の外まで転移している。自力で治したのであれば随分と強力な治癒魔法だが、

 

「…………あるいは敵に治療され連れ去られた可能性もあるな」

「その場合でも、少なくとも命は保証されているということでしょう」

 

 そう言いながらネギは固く拳を握った。その拳は小さく震えている。口では平気そうにしながら、内心では千雨のことが気が気でないのだろう。

 

「自力で転移していた場合、長谷川さんは奴、フェイト・アーウェルンクスに今後狙われることになります。連れさらわれていた場合も、その犯人はフェイトかその仲間の仕業と見て間違いないでしょう」

「…………待て、アーウェルンクスだと?」

「何か?」

 

 エヴァンジェリンは押し黙り、数秒を思考に費やした。

 

「…………アーウェルンクスとは、かつての大戦を手引きした組織にいた幹部の名だ、と聞いている」

 

 私は直接遭遇したことはないが、とエヴァンジェリンは付け足した。彼女の言葉にネギもまた思考に沈む。

 

「…………大戦」

 

 ネギは魔法世界で起こったそれについて長から聞き及んでいる。自身の父にして英雄、ナギ・スプリングフィールドが身を投じた戦争であると。あの村で一度だけ見た、あの圧倒的な力を持つ父と互角の戦力がかつて敵の中にいたと。エヴァンジェリンの言葉が正しいとすれば、千雨は今後どれほどの危険に晒されることになるのか。

 背筋が凍った。

 

「エヴァンジェリンさん」

「なんだ」

 

 一度息を吸い、吐いて、ネギは正面からエヴァンジェリンを見据えた。その暗い瞳にエヴァンジェリンは興味を持った。良い墜ち方だと内心感嘆した。まだまだ足りないものも多いが、多少弄くり回せば、その容赦のなさと自身の命すら省みない在り方を昇華させ、誇り高い悪として華開くだろうと。『立派な魔法使い』として信仰されるナギの息子を、闇の福音が悪の魔法使いとして育てる皮肉な光景が脳裏に過ぎる。あまりにも愉快な光景だ。だから、

 

「僕を弟子にしてください。戦い方を教えてください」

 

 ネギの真摯な申し出を聞いた時、即決でそれを受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水を利用したフェイトの転移によって、二人は香港に来ていた。千雨の記憶には実際に香港まで来た記憶はなく、なんとなく雑多で騒がしいイメージがあった。九龍城砦とか個人的に超イカす。が、フェイトに連れられて来た場所は高級レストランが多く収容されているハイソなビル街であった。よく考えたら九龍城砦はとっくに取り壊されてたな、と千雨は時空ボケを自覚した。ちなみに時空ボケとは時間跳躍を行った際にその時代にはすでに存在しないものを有ると誤解したり、逆にまだ無いものを既に有ることを前提に思考してしまうことである。気をつけねーとな、と千雨は自身を戒め、フェイトとの会話に入る。

 

「で、ゲートポートまであとどんくらい歩けばいいんだ?」

「もうすぐ、そこの小さめのビルだ」

 

 案内されたビルは、このきらびやかなビル街の中では比較的こじんまりとした、しかしその内装には随分と金のかかっていそうなものだった。埋没しそうでありながらよく見れば一見で入ってみようとは思えないほどに格式張っている。さらに玄関の配色がなんとなく不気味で近寄りがたい。

 

「風水を利用した人避けと認識阻害だよ。配色や物品の位置で術式を組み上げ、魔力は地脈を利用している。物理的に人間の精神に影響を与える効果も複合させている、西洋魔法にはない発想だね」

「まさか街中にゲートを作ってるなんてな」

「逆だよ。もともとあったゲートポートの周囲に人間が進出してこうなったんだ。イギリスとの領土のやりとりのどさくさでね。ところで、ゲートの解放時間までまだだいぶある。それまで食事でもしよう」

「デートの誘いか? 心に決めた人がいるんですごめんなさい」

 

 フェイトはため息をついて歩を進めた。千雨は赤面した。クソいらねーこと言った。

 

 

 

 フェイトに案内されたのはゲートポート用ビルの隣に立つビルの屋上レストランだった。流石にこんな高級そうな場所に制服で入るのは無理だ、と思うのだがフェイトはなんら頓着することなく出迎えたウェイターと言葉を交わしている。予約していたアーウェルンクス云々。というわけで千雨は自身の服を一瞬で制服からそれらしいドレスに変えた。世が世ならハイパーオプションプログラム#4と呼ばれるものである。

 ウェイターに案内され、二人は縁に近い席に座った。香港の夜景を一望できる良い席であるが、生来の引きこもり気質を未だに引きずる千雨はその光景は感動より恐怖の対象である。うわたっけー、こえー。

 

「君の」

「あ?」

 

 おっと、と千雨は意識を目の前の人形に戻す。悪の中ボスを前にしてやって良いことではなかった。

 

「今の服の入れ替えといい、彼の隣に現れたことといい。その技術はなんだい? 人の魔力を使わない、という点では風水に近いのか、とも思ったけれど、見比べてもまるで関連性が見出せない。それは一体なんなのかな?」

「…………科学だ。基本は電力を利用して奇跡を起こす。魔力のない私が使える唯一の武器だ」

 

 ふむ、とフェイトは呟く。その表情には全く変化がない。数秒の沈黙がたまらなく恐ろしい。この時代のフェイトはここまで不気味だったか。不気味の谷を直視している気分だ。

 千雨は、ネギに執着を持つようになってからのフェイトしか知らない。魔法世界で初めて見たフェイトは、確かに笑い声をあげるのが笑えるほどに下手くそであったがそれでもまだ行動の一つ一つに感情が付随していたように思う。

 ウェイターが配膳したコーヒーで唇を湿らせてからフェイトは問う。

 

「君がネギ・スプリングフィールドに執着するのはなぜ?」

「黙秘する」

 

 千雨も自分が即答したことに戸惑った。本当ならここで適当な理由をあげるなりネギについて惚気るなりして時間を稼ぐことができたのだ。なのに、それをしなかった。したくなかったのだ。

 

「じゃあ、ネギ・スプリングフィールドが君に執着するのはなぜ?」

「…………」

 

 フェイトの言葉を咀嚼するのに五秒かかった。

 

「…………はあ?」

 

 咀嚼した上で、結局意味がわからなかった。

 

「執着? ネギ先生が私に?」

「違うのかい?」

「いやー、ねーだろ。気に入られるようなことしてねーし」

 

 エヴァンジェリンとの決闘があるが、あれだって結局自分は何もできなかったし、ネギにはほとんど何も言葉をかけなかったのだ。

 

 ──でかい悩みなら抱えて進め。

 

 あの言葉がネギの未来を決定付けたのだ。そう千雨は確信していた。

 今の段階ならまだネギにはさほど悩みはなく、自分も大した言葉をかけていない。

 身を犠牲にして守った? 否、長谷川千雨はなんの後遺症もなく学生生活を再開させている。確かにネギの視点では戦闘によって記憶を失ったことになるし、それが後遺症と言えなくもないが、たかが一時間かそこらの記憶である。精神にも魂にも肉体にも損傷のない、十全な状態の長谷川千雨がいるのだ。ネギが気にかける要素は何一つないだろう。

 それにだ。

 

「この私が先生に気に入られることはねーよ」

 

 千雨は断言した。過去を変えようと企む自分がネギに好かれるなどありえない。あってはならないとすら思う。そんな自虐が、千雨の思考を無自覚なまま歪ませていた。

 

「つーかよ、聞きたいのはこんなことなのか? もっといろいろあるだろ」

 

 世界再編魔法についてとか、それを実行する方法だとか。フェイトの気を引くために随分と危ない情報をチラ見せしたのだ。それらについて聞いてくれないと千雨としては肩透かしである。

 

「待って。もう少しで来るはずだから…………来た」

 

 フェイトが手をかざし千雨の言葉を遮る。その視線を辿って振り向けば、自身の背後に一人の少女が立っていた。

 

「よく来たね栞さん」

 

 ウェーブのかかったショートの髪に、エルフのように尖った耳。頭頂部には細いリボンを巻いている。身にまとうドレスはシンプルなものだが、少女のおっとりした雰囲気によく似合っていた。

 千雨の血の気が引いた。

 

「フェイト様の命に従い馳せ参じました」

「義体の調子はどう?」

「何も問題ありません。さすがキュクロポスの最新型、と言ったところです」

 

 キュクロポスとは確かアリアドネーに本拠地を置く、義肢や外骨格など医療工学を専門にする研究施設だったと千雨は記憶している。葉加瀬の依頼で義肢を設計する際に忍び込んで研究データを拝見したことがある。さすが魔法世界の最高学府というだけあってその設計思想の斬新さは千雨の研究を大いに前進させてくれたものだ。

 

「ハセガワチサメ、紹介させてもらうよ。彼女は栞。一言で言えば読心能力者だ」

 

 知っている。だから千雨は顔を見た瞬間から自身の人格と記憶を隔離して人造人格を新しく構築している。以前から常在させていた女子中学生型人工知能をベースにして、『力の王笏』と世界再編魔法の情報、さらにオリジナルの長谷川千雨が抱いた目的を付加。

 それらの作業を行いながら千雨は動揺を完璧に押し殺して尋ねた。

 

「読心能力?」

「協力してくれる、という君の話がどこまで本当かわからないからね。彼女に触れてもらった状態で僕の質問に答えてもらう」

「なんだ、触れてないと心を読めないのか?」

「そうだね。その代わり彼女の読心は魔法世界全土を見渡しても抜きん出ている。なにせ深部記憶まで読み取れるからね」

 

 まだだ、まだ人造人格が完成しない、このままでは応答に齟齬が生じる。もう少し時間を稼がなければならない。

 

「深部記憶ってなんだよ」

「例えば一度歩いただけの街並みのような、短期にも長期にも分類されない感覚記憶。あるいは記憶の第一段階である記銘にすら至らなかった記憶のデブリ。そういったものすら拾い上げることができるということさ」

 

 はたしてそんなところまで即席のAIで再現できるかは完全に賭けになる。

 

「なんで教えてくれるんだ? 私の記憶を読みたいなら何も言わずにこの栞さんとやらに読ませるべきじゃねーのか」

「どちらにしたって結果は同じだよ。それに、そんな不意打ちのような真似をして、協力してくれるかもしれない相手の不興を買いたくない」

「心読ませる時点で不興を買うとは思わねーのか、乙女心を暴くんだぞ?」

「理性的な君なら必要な儀式だと割り切ってくれると信じているよ」

 

 けっ、と千雨は舌打ちして振り返った。

 

「ほれ、立ってねーで席座れよ、ウェイターさん困ってんだろ」

「あ、ええそうですね」

 

 千雨の隣、ウェイターに引かれた椅子に座り、栞がフェイトの顔を伺う。

 

「もう少し説明することがある。栞さん、例の魔法具は持ってきた?」

「はい、こちらです」

 

 言って、テーブルに置かれたのは、ワシの意匠を象った天秤のようなオブジェだ。手のひらサイズで、その内側から凄まじい魔力を感じ取れる。

 千雨は努めて冷静さを装って聞いた。

 

「これは?」

「鵬法璽という。契約を遵守させることを魂に強制させる魔道具だ」

「契約ね。とりあえず内容を書面にしてまとめてくんねーかな」

「栞さん」

「はい。こちらです」

「用意のいいこったなくそう」

 

 じっくり読もう。5周はしよう。そう思ったがフェイトがあっさりと書類をとりあげた。

 

「契約内容は、

 フェイト・アーウェルンクス(以下甲)は以下の項目を遵守する。

 1、ネギ・スプリングフィールドおよびその関係者に危害を加えないこと

 2、ネギ・スプリングフィールドおよびその関係者に害を為す可能性があるものがいた場合それを止めること

 

 長谷川千雨(以下乙)は以下の項目を遵守する。

 1、世界再編魔法の実行

 

 といったところだね。これでいいかい?」

 

 正直な話、契約魔法など魂や精神をいくらでも書き換えられる千雨からすればなんら障害にならない、はずだ。自信はない。これもまたギャンブルであるが、勝てばでかい。なにせネギの安寧が絶対的に保証されるのだ。自分は契約に囚われず実体化モジュールを用いて魔法世界を再構成し、その後もフェイトは契約に従ってネギを守らざるを得なくなる。

 

「あと、ネギ先生に敵対しそうな勢力や個人をリストにしたものが欲しい。あんたらが手を出さないといっても、勝手に暴走する奴らがいるかもしれねーだろ」

「わかった。あとでまとめておくよ」

 

 ちらり、とフェイトは栞に視線を送った。それを受け、栞は千雨の手を取る。同時にかろうじて間に合った人造人格を起動する。

 

「では質問を始めようか」

 

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