ソードアート・オンライン ~時幻の体現者~ 作:☆さくらもち♪
木綿季の病院から数日。
僕が頼んだ諜報部隊による情報収集が全て終了した。
今僕の手元にある紙束は、レクト社の一から全が書かれており、それは創設時期にまで遡れる。
そんな中あの会社内部での極秘中の極秘。
VR機器を利用した生体研究。
脳内の改竄を行い、精神に影響を及ぼす研究をしていたレクト社。
無論国際的に言えば禁忌ともいえる技術だ。
世に出せば日本の経済や信用度が大きく揺るぐ。
内容としては実に簡単に纏められているが、分かってしまうとその危険さが分かる。
戦争において重要とされるのは、兵器。
そしてその兵器を扱う兵士。
だが人間というのは本能的に危険を恐怖と感じる。
その恐怖が取り除くことが可能になれば。
相手をするにはとても手強い。
所謂痛覚が無いのと同然なのだ。
それがなければ人としての欠陥品といえる。
異能力者としてもそうだろう。
人として重要とも言える何かがないのだ。
僕が時間操作というものを宿すが、代償に何かが消えている。
それは自覚できるものではなく、指摘されても理解が出来ない。
そういう思考が根付いているからこそ自分自身では理解できず、欠陥品としての自覚が無い。
「証拠は、押さえた」
レクト社が秘密裏に行っている研究もそういう類だ。
元より人で行って良い技術ではない。
自らの手で正常品を欠陥品に作り替える必要が無いのだから。
『どうかしたの?』
「品は押さえた。動いて、もらえる?」
『分かったわ。今すぐにでも動いてあげる』
楓が動く以上はもうレクト社が逃れることは出来ないだろう。
ならば僕は出来ることをしよう。
「ねえ。いる」
「こちらに」
本当によくここまで育ったものだと思う。
小学生ほどの子もいれば、大人もいる。
短期間で、使い物になるほどにまで修練をするのは僕には出来そうもない。
「お茶をいれてもらっても良いかな」
「かしこまりました」
事が動くまでは僕は静観しておこう。
後は勝手に収まることだろう。
日本で今世間を賑わすは、レクト社の実態。
全仮想世界の日本サーバーを担うレクト社が秘密裏に行っていた内容が出てしまった。
SAO事件による未帰還者1000人もレクト社が工作していた事が判明。
今は解決し無事に全員帰還がされている。
「すみません」
そんな中僕は病院に来ていた。
無論僕が病気とかではなく、お見舞いで。
「はい?」
「面会なのですが。紺野木綿季の」
「ええっと・・・釘宮響さんですね?」
「そうですが・・・?」
「倉橋先生から事前にお伝えされております」
そういわれて面会者用のカードを渡された。
あの先生も中々の人物だ。
カードを受け取ると以前来たときと同じくエレベーターで五階へ上がる。
号室も場所は勿論覚えているが、如何せん別れ方があれだった。
「怖い、な」
釘宮家の当主ともあろう者が一人の少女に怯えるなど中々。
それだけ僕の存在を占めているのだろう。
意を決して三回ドアをノックする。
中からは小さくだが声が聞こえた。
「失礼します」
病室へ入って奥へ進む。
奥には起き上がった姿勢で僕を見る少女。
「ぇ・・・?」
「初めまして」
現実世界では初対面だ。
あっちの世界で幾度ともなく過ごしたが、親しい仲でも礼儀は大切だろう。
「な、なんで・・・」
「死んだ、と思った?」
コクリと頷く。
確実に死んだと僕自身も思っていたから仕方はない。
「僕は、そう思った。・・・まあ、生きてるけれど」
だが、まあ。
あの時の判断はどうだったのか。
今でも不明だ。
僕には理解が出来ない。
これこそが僕が欠陥しているものだろう。
「おかえり。木綿季」
「うん・・・。ただいま、響」
僕の名を紡いだ瞬間。
木綿季の目から大きな涙の粒が落ちていく。
「良かった・・・。良かったよぉぉぉ・・・!!」
すぐそばに座っていた僕にしがみつくように木綿季は泣きじゃくる。
絶対に離さないとばかりに力強く。
こうやって泣いてくれる人がいる。
それは今を生きる僕にとってとても嬉しい。
死んだ時に悲しむ人がいる。
「ごめん。心配、かけた」
「ほんと、だよ・・・ほんとに・・・!」
彼女が自然に泣き止むまでは、ずっと。
近くにいると分かればそのまま泣き疲れたのか眠ってしまっていた。
「よしよし」
頭を撫でてあげながら僕は帰る時間までずっと病室にいた。
面会終了時間になると木綿季の方が帰らないでとせがんで中々に困った。
ちょうど倉橋もその時に来ており、困った顔をしていたが居ても構わないと許可を貰えた。
「ねえ、響」
「ん」
「何でボクの入院してるところ分かったの?」
確かにそれは疑問だろう。
普通に木綿季の住所を知っていても分かる訳ではない。
「僕の家・・・というよりは、教えてもらった」
「教えてもらった・・・?」
「・・・腹黒い、役人に」
今でもあの役人に会うのは少し勘弁願いたい。
なにか原に一物抱えているのが分かる。
調べれば分かるだろうがそこまでして興味も湧かない。
僕の表情で察したのか木綿季も苦笑していた。
「まあ・・・木綿季の入院場所、分かったから。別に良い」
「えへへ・・・そういえば、響。ボクって退院したらどうするんだろ?」
「・・・親戚、は?」
「・・・ちょっと、ね」
木綿季も余りいい思い出がないらしい。
となると、住む場所だが・・・。
「普通の家・・・だけど。住む?」
「へっ?」
「部屋は、余ってる。学校も、SAO事件のために支援学校があるけど、近いから」
「え、えええ、っと」
何をこの子は赤面するんだろう。
SAOの時見たく一緒に住むだけなのに。
「まあ・・・住むなら、言って。考えてからでも」
「住む!お邪魔じゃない・・・なら・・・うん」
最後の方はぼそぼそしていた。
SAOと現実ではまた違うのだろう。
僕はあまり実感が無いけれど。
「なら、退院早くできるよう、頑張って」
「うん・・・。先生がこの調子なら数週間ぐらいだって」
「ん、なら準備、しとく」
前後はするだろうが早くて2~3週間。
遅くて一ヶ月だろうが、木綿季の頑張りで変わる。
別邸の家の余り部屋を少し改装しておいても良いかもしれない。
携帯で本邸である釘宮の屋敷に電話する。
「響」
『これは・・・ご主人様、どうかなさいましたか?』
今考えてみるとあの別邸は僕が一人で過ごすためのもの。
もう一人ではないからやっぱり本邸にしよう。
「近々、僕含め、二人そっちで暮らす。準備、お願い」
『了解致しました。寸法などは』
「僕が、やるから大丈夫」
『ではお部屋等の準備をしておきましょう。他にもございましたら、その都度』
すぐさま電話は切られたが、いつも通り。
携帯を仕舞うと木綿季が不思議そうな顔で僕を見ていた。
「誰と話してたの?」
「ん、メイド」
「・・・メイド」
「変な方じゃなくて、普通のメイドさん」
「・・・そっか」
ちゃんと説明すればほっとしたのか木綿季は安心そうにする。
一般家庭はメイドなんていないから。
義理の姉の楓以外はいないし、木綿季も親戚以外はいない。
似た者なのかもしれない。
「ん・・・ふわぁ・・・」
「眠たいの?」
「ん・・・」
頷くと木綿季が僕を撫でてくれる。
それが嬉しい。
あの時みたいだから。
眠気に襲われて僕はそのまま眠った。
近くに木綿季がいると分かるよう手を握って。