ソードアート・オンライン ~時幻の体現者~ 作:☆さくらもち♪
フィールドに出て数時間。
教えていた少女の動きに無駄が無くなって来ていた。
恐らくこういった身体を動かす才能に天性があるのだろう。
天は一物を与えるというがまさにその通り・・・。
「はっ!とおっ!」
このあたりで一番弱いモンスターだろうと、その育っていく技術には目を見張るものがある。
「・・・ふうん」
だがそれ以上にこの仮想世界に対する適性もあるのだろう。
全員が全員に仮想空間へと行けるわけではない。
彼女や僕のような人間は最高と言っていい適性だが、一部には仮想空間に一切飛べない人物もいる。
こればかりは個々の適性なのでどうとも出来ない。
「ふー・・・つっかれたぁー」
そういいながら汗を拭う仕草。
このSAOではかなりの試行錯誤、デバッグを重ねて実現したものがある。
それが現実世界との違和感。
これはかなり近づけており、あの科学者をも悩ませた問題で、担当は僕がした。
それまではずっと手を付けれなかったそうだが、やはり
味覚、視覚、触覚、嗅覚、痛覚。
この五感の中で再現率はかなり低くしたのが痛覚だ。
人間生きていると痛みに対する耐性は少ない。
SAOの世界はモンスターとの戦闘も当然あるために自分自身が吹き飛ばされたりするのは良くある。
それに現実性を近付けて痛覚などを入れれば、痛みの恐怖で楽しく遊べないだろう。
そのため、痛覚を除いた四感がSAOの世界に実装されている。
「ねー、キョウ」
「なに?」
「このゲームってパーティーがあるって言ったよね?」
「ん、まあ」
パーティーとは、数人のプレイヤーが協力的関係になるシステム。
戦闘勝利した際に得られる経験値・資金の分配を自動的に割り振れる機能と、パーティーメンバーの居場所が分かるなど色々機能はある。
HPもあるので、MMORPGの分類になるこのゲームにおいてはかなり重要だろう。
「ならさっ、ボクと組まない?」
だが、気をつけるのは異性で組むパーティー。
こればかりはお互いの信頼関係などがあるので容易くは組めない。
SAOには、男性が女性の身体に数秒以上触ると警告画面が表示される。
これだけならば良いのだが、女性側にだけ見えるように表示される牢獄送りの画面があるため、セクハラといった行為は出来ない。
なので僕にその危険性を捨ててでもユウキと組む理由がない。
正直ソロ活動出来るほどには実力はあるつもりだ。
「理由は?」
「んー・・・特にはないよ?ただソロより安全になるかなって」
「・・・好きにしたら」
気まぐれで呟いた一言。
バッチリ少女に聞こえていたようで、嬉しいのか笑顔になっていた。
だが僕の今のアバターはかなり適当に作っている。
時間は16時30分。
「・・・もうすぐ、か」
「ふぇ?」
時間ピッタリと言わんばかりに、大きな鐘の音が鳴り響く。
それがトリガーとなり僕の身体が淡く光った。
「転移か」
転移された先はログインしたときにみた始まりの街の中心街。
大きな噴水があり、先のフィールドにいてもなお聞こえた鐘はここでも聞こえていた。
辺りを見渡してもさっきみた少女はいない。
転移先ではぐれたのだろう。
「さすが、というべきか」
恐らくこの後に続く内容は予想できる。
急な転移に他のプレイヤーは説明を求めているのか、空に向かって喋っている。
すると空が急に真っ赤に染まっていく。
システムアナウンスメントのパネルが覆い尽くし、その隙間から液体がどろっと垂れて来る。
「こりゃ、また大層な」
苦笑しながらも、協力関係だった科学者を思い出す。
『私の世界へようこそ』
確かに彼の世界だろう。
その想像、理論全て構築している。
『私の名前は『茅場晶彦』。このゲームにおいてのゲームマスターだ』
唯一とは言わない辺り食えない相手だ。
彼がゲームマスターではあるも、その絶対的権限は唯一人ではなく僕にもそれはある。
『突然の転移だったろう。しかしお気づきになられた人も多いはずだ』
『システムメニューの一番下にある設定の中にあるログアウトボタンが失くなっている事に』
一応確認はするも、僕には当然のように存在していた。
《Log out》と表示されているボタン。
元の世界に戻る気はないので押しはしない。
『だがこれは不具合などではない。繰り返し言おう。これは不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である』
これに関しては伝えられていた。
茅場本人からこのゲームの設計コンセプトを。
ゲームという遊び感覚ではなく、現実のような実感を得るための手段。
『そしてこの世界から出るための唯一の手段。それはアインクラッド最上階《第百層》にいるボスの撃破となり、それ以外の脱出方法は一切存在しないだろう』
ベータテスト実施時にはろくに階層攻略が出来なかったこのSAO。
その頂点の難易度を誇る最上階の攻略をもってゲームクリアとする。
無駄に内容や装飾など色々凝らされたものだ。
『もし諸君らのHPが0になり、ゲームオーバーとなった瞬間、システムによりアバターは即座に削除され、そしてナーヴギアから発せられる電磁パルスによって諸君らの脳は
電磁パルスは簡単にいえば電子レンジといえば分かるだろう。
人間の脳を電子レンジで温めているような感じ。
脳の限界温度はおおよそ42度。
電子レンジは100度ぐらいまで温めれるので簡単に破壊が出来てしまう。
『また、外部からの接触も有り得ない。私の警告を無視したログアウト方法・・・外部からのナーヴギアの取り外しを行い、このSAO及び現実世界からも退出している』
その説明を裏付ける現実世界での報道画面。
それによって報道されている内容はSAOをプレイし実際に死んだ事が報道されていた。
家族や身内がナーヴギアを強制的に取って死亡しているのも見える。
だが、どこにもネットワークによる死亡はない。
これはネットワーク切断の時間が1時間を経過すると信号が発信されて電磁パルスが出るが、大体は1時間以内に再接続されるためだ。
恐らく政府はこの報道後に現実世界のSAOプレイヤーを病院に運ぶために準備をしている頃だろう。
『さて、諸君らはこう考え思っていることだろう。何故と』
『何故、天才科学者である茅場晶彦はこのようなことを起こしたのか』
最もな疑問。
巻き込まれた側からすればたまったものではないし、関わりたくもないデスゲームに巻き込まれたのだから。
『私も何故かと何度も問い、そして導き出した。私が創造したのは
「はた迷惑な願いだことで」
僕の呟いた一言は大混乱に陥ったプレイヤー達には聞こえていない。
それでも、迷惑とは思ったがそれを否定はしない。
異なる世界線とはいえ一度はその奇跡を垣間見て体験した。
この仮想世界はまさに現実世界とは全く違う異世界だろう。
『では私からだが、諸君らにささやかながらもプレゼントを贈らせていただこう。確認して見てほしい』
そう、これだ。
これこそ僕がアバター設定を適当にした理由。
アイテムからプレゼントを見ると中にしっかり入っていた。
名前はシンプルに『手鏡』。
タッチして具現化させるとよくあるような丸みのある長方形ほどの手鏡が出る。
その鏡面には僕の適当に設定したアバターの顔。
だが、そんな程度の効果じゃない。
「うわっ!」
「きゃあぁっ!」
悲鳴が聞こえたプレイヤーを見やる前に僕が持つ手鏡から僕自身を包むほど淡い光が溢れ出す。
それが無くなり止まると手鏡に写るのは設定した顔じゃない。
「ん・・・」
目線は低く、視界には見慣れた白髪の前髪。
背中には髪の感触がした。
そして極めつけは鏡に写る深緑の瞳。
現実世界の顔そのものの表現。
ナーヴギアによって完全に頭を包み込んでいるからこそ可能にしたもの。
「・・・やっぱり切れば良かったなあ」
垂れて来る前髪が邪魔に思うものの結局切るのが面倒だったからと放っておいたが、これが分かっているのだからそれぐらいはすれば良かったか。
『それではこれにてソードアート・オンライン正式リリース及びチュートリアルを終了する』
無機質にそう告げると形はぐちゃぐちゃになり、消え去っていく。
システムアナウンスメントのパネルは消えていた。
「・・・んじゃ、行くか」
アイテムからローブを装備する。
これで印象に残りやすい白髪は隠せる。
身長ばかりはどうしようもないし、眼も同様だがこれだけでも大きく変わる。
「そういえば・・・あの子・・・一応探すだけ探すか・・・」
街を出る前に一度面倒を見た相手だ。
それぐらいは許されるだろう。
あの容姿から変わっていると仮定しても、見つけれるか怪しいがそれでも探すだけ探そう。
パーティーを組む前に転移が始まったから場所が全然検討もつかない。
人の集まりから移動して適当に探すと微かに泣き声が聞こえた。
「ん・・・あっちかな」
声がする方向へ進むと暗闇の中、声を押し殺すように泣く少女の姿があった。
その容姿は紫紺の髪の毛を持ち、身長も中学生ほど。
さっき転移前にみたユウキと似通っていた。
「ユウキ?」
「ん、ぇ」
大きな涙の粒を貯めながらも僕の方へ顔をあげた。
紅色の瞳に名前で反応している辺り本人か。
「泣いてるんだね」
「だって・・・帰れないんだよ?」
「それもそうか」
ユウキの隣に座り込んで泣き続けるユウキの背中を優しく叩く。
無理に変な事を言わなくても良いだろう。
それほどまで信頼を取れているわけでもないし、こればかりは本人次第。
まぁまさかこんな美少女とは思わなかったけど、これも役得。
「はぁ・・・」
数分ほどだろう。
落ち着いてきたのか、泣き啜る音もせず小さなため息が聞こえた。
その発生源はユウキからのもの。
「これからボク達どうなっちゃうんだろ」
「どうなる・・・ね。どうともなるとは思ってる」
「そう、なの・・・?」
不安そうに見てくるユウキ。
さっきまで泣いてたからか、目許は赤い。
だけどまだ目は潤んでる感じがあってちょっと見続けるのは毒になりそう。
「そうだね・・・ユウキはどうしたい?」
「ボクは・・・」
「この世界で死んだら現実世界でも死ぬ。それが嫌ならこの街に引き篭れば死ぬ事はないよ」
出来るだけ、明るい声でそう告げた。
「まあ・・・僕はここにはいるつもりはないけどね」
「死んじゃうのに?」
「ずっと引き篭る事は僕には合わないよ。現実でも変化がない毎日は楽しくないから」
つまらない人生を歩んでいるつもりはない。
自分が楽しいと思える人生を歩みたい。
それが出来ないなら死んでいる方がよっぽど良い。
時間操作なんていう大層なものがあっても。
「そうだねえ・・・ユウキはこの世界で生きる意味を見出だすといいよ。それが出来ない人間は長くないだろうからね」
僕はそうユウキへ告げると彼女から立ち去った。
泣き止んでいる様子だったし、あれだけヒントをあげれば自ずと立ち上がれるだろうから。
「さて・・・動きますか」
目指すは次の街。
そこへたどり着くまで休憩は無しだ。