ソードアート・オンライン ~時幻の体現者~ 作:☆さくらもち♪
夢を見た。
いつの記憶だろう。
桜の並木道を歩く僕と隣に立って歩く大人の女性。
「ーーーーー?」
何か喋っているのが分かる。
だけど女性の顔はぼんやりしていて。
内容は分からない。
「ーーー!」
夢の中の僕は勝手に動いていく。
誰かに呼ばれたのか、その方向へ振り向くと特徴的な少女が僕に手を振る。
その少女は見たことがあって。
年上ぶるけれどどこか抜けている彼女。
そんな彼女の事が僕は好きだったのかもしれない。
少しだけ眠っただけで結構で身体が軽くなった感がある。
懐かしいというよりあまり覚えていない光景の記憶だったけれどあの少女は誰だったんだろう。
どこか見たことがあるのに思い出せない。
「・・・はぁ」
思い出したい記憶ほど無理に探ると余計に思い出せなくなる。
そのうち分かることだろうから気にしない。
「・・・ん」
マップを見れば数人ほどの集団がこっちに向かって来ていた。
プレイヤーアイコンから見てパーティーメンバーのようだ。
「悪い!遅くなった」
「いいえ、気にしてないですよ。宿はまだ取ってませんが・・・」
「あー・・・すまん。言ってなかったな」
キリトから内訳を聞いて宿を簡単に取っておく。
宿代は後払いにしておいたので各々が払えるだろう。
「んじゃ、メンバー全員の顔合わせをしよう。俺はキリト」
その次、座っているキリトの隣に立つ大人の男性。
どちらかと言えば武士面に感じる。
「俺ぁクライン。大きなゲームはこれが初めてでよ、まぁよろしく頼むわ」
「んじゃ次はボクね!ボクはユウキだよ。クラインさんと同じで大きなゲームはこれが初めてなんだ」
「・・・アスナ。よろしく」
アスナの馴れ合うつもりがないのがはっきり分かる事にみな苦笑していた。
まぁこんなゲームに余裕を持っている人のが少なめなのかもしれない。
「僕はキョウといいます。とは言っても他に自慢できるような物はないですが・・・」
「とりあえずみんな合わせは終わったから、こっからは自由行動にしよう。明日はボス攻略だけど打ち合わせは明日に持ち込み・・・で」
「ああ、いいぜ」
「部屋割はどうするの?」
「二人部屋二つ取ってるので。鍵は渡しておきますね」
キリトとアスナに鍵を渡しておく。
すると疑問に思ったのかクラインが鍵を見つめたまま口を開いた。
「ん?キョウの部屋ってどこなんだ?」
「僕は一人部屋がいいので・・・。それに少し外に出たいので」
こればかりは譲れない。
寝る部屋に誰かがいると全然寝れない。
昔からずっと、そうだった。
「ふーん・・・。そっか」
「はい。じゃ僕外に出るので。お先に」
「ああ。気をつけな」
宿屋を後にして適当に歩いてベンチで寛ぐ。
すると背後に誰かが立っていた。
「・・・なんか用」
「用がなければいちゃダメなのカ?」
「まあ良いけど」
「そうカ」
相手は僕も知る人物。
SAOで信用に値するプレイヤー。
情報屋の『アルゴ』。
ベータテスターでもあり、多くのSAOプレイヤーからも信頼される情報屋でガイドブックの製作者でもあったりする。
「ん・・・く・・・」
のんびり体を伸ばしながら夜の風景でゆっくりするのが普段からの日課になっていた。
時間さえ合えばこうしてアルゴと一緒に寛ぐ。
会話こそ少ないがそれで充分。
「今日は珍しい事もあるものだナ」
「・・・そう」
珍しいというのは僕のパーティー加入だろう。
成り行きで入ったが普段から入っていない。
リリース日のユウキの誘いはあったが結局組まず仕舞いだった。
「・・・戻る」
「そうカ」
「おやすみ」
アルゴもいつの間にか居なくなっていた。
年齢不詳、性別女性。
不思議なプレイヤーだけど嫌悪感はない。
恋愛感情はないけれどいざという時頼れる人ではある。
「帰ろっと」
泊まる宿屋に帰るとすぐにチェックインを済ませて一人部屋を取る。
部屋に入って扉に鍵をかけるとベッドに倒れ込む。
明日はボス攻略。
久々にちゃんと寝ておこう。
無機質なアラーム音が聞こえる。
どうやら時間らしい。
目を開けると日の光が部屋を明るくしていた。
「んぁ・・・」
今日のボス攻略は昼に開始される。
それまでに全員集合なのでそれまでは自由時間。
これ以上ベッドに転がって居ても寝れると思えないから適当に暇を潰す事にしよう。
部屋を出るとキリト達は下の階にいるようで朝ご飯を食べているようだ。
「おはようございます」
「ん、おはよう」
みんな起きていたようで食べながら攻略の打ち合わせをしていた。
僕もパーティーメンバーだし聞いておかないと。
「キョウも起きてきたことだしよ、早速始めようぜ」
「そうだな。キョウは今日のボスについてどこまで知ってる?」
「そうですね・・・」
あまり答えすぎると知りすぎている情報を出しかねない。
正直偵察してきたといえばそれで通りそうだけれど。
面倒だしそれでいざという時押そう。
「ボスと取り巻きがいて、僕達は取り巻き処理担当でしたよね」
「そうなんだが、その取り巻きが終わり次第ボス隊と合流するんだ」
「分かりました」
「その取り巻きなんだが・・・これについてはまだ言ってないからちょうど良い。取り巻きの名前はセンチネルといって、こいつは鎧を着ていて倒しづらいんだ。これはアスナにやってもらいたい」
「・・・私が?」
「ああ。アスナの武器は細剣だろ?それでセンチネルの鎧の隙間を狙ってほしい」
確か鎧通しという技術。
現実世界でも戦の時代において使われた戦闘技術だったはず。
堅牢な守りを持つ鎧にも弱点はあり、それは鎧と鎧の隙間。
稼動性を考えると必要になるが、その部分は隙間になるのでそこに剣を差し込めばダメージを与えられる。
センチネルも確かに隙間はあるので可能だ。
「自分もセンチネル処理に回ります。アスナさんだけじゃ処理仕切れないと思うので」
「分かった。基本的にはセンチネル処理に追われてボスにはあまり加勢出来ないが・・・仕方ない」
「仕方ねぇよ、こればかりはやる奴らがやらねぇと」
クラインの言う通りだ。
これはやる人がいないとダメな役割で必要になる。
正直ボスはやろうと思えばソロでいけなくもないが取り巻きでかなりジリ貧になる。
出番が無ければ良いけどね。
「んじゃ、もうすぐ時間になるから行こうか」
打ち合わせも終わり、宿屋を出ると件の迷宮区へと入っていく。
どうやら向かっていったパーティーによる掃討でモンスターの出現がなくなっているので特に危なげもなく集団場所へ着けた。
集団時間には攻略メンバーは集まり終えて準備を整えるものが沢山。
「さて、みんな!今日は第一層のボス攻略となる!」
ディアベルが今回の攻略リーダー。
ボス隊も彼が担当するパーティーのはずだ。
「今日こそは第一層を突破し、街で待っているみんなに吉報を伝えるためにも!今日は勝とう!」
彼の台詞は士気を上げるのには充分といえる。
短期的な統率力は素晴らしいといえるほどの才能。
「じゃあ・・・行くぞ!」
ディアベルがボスの扉を開くとその奥には大きな巨体が待ち構えていた。
第一層ボス《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。
その取り巻き《ルイン・コボルド・センチネル》。
『Gyaaaaaaaaa!!』
ボス部屋全体に響くコボルドの王の咆哮。
そして現れる無数のセンチネル。
「全員、突撃ー!!」
ボス攻略戦が始まった。
予定していたボス隊とセンチネル隊に分かれ、討伐を確実にこなしていく。
「さ、やるか」
センチネル如きなら数体でも余裕で相手できる。
鎧通しなんてやってれば慣れるものだ。
「せっぇやぁぁ!」
剣を振って、鎧の隙間に勢いよく突き穿つ。
ソードスキルなんて今の状態で使えば硬直で死ぬ。
単純な技術でどうにかするだけ。
僕に群がって来るセンチネルをどんどん片付けていく。
ここのセンチネルはベータテストと変化しており、開幕から無限リポップだ。
そしてセンチネルの討伐数が多いプレイヤーにヘイトが優先するようになっている。
当然ながら僕にかなりのヘイトが向いているのは討伐数が多いからだ。
『Glaa...Gaaa!!』
二度目のコボルドロードの咆哮。
目を向けると本来ある4本のHPゲージが残り1ゲージ分になっていた。
そして持っていた斧とバックラーを放り投げたかと思うと、取り出したのは異なる武器。
「キリトさん」
「なんだっ!」
「・・・ここ、任せて良いですか」
「なにかあるのか」
その問いに頷く。
キリトに僕の担当を任せて、ボスの方へ一気に走る。
その間に武器の変更を済ませる。
持っていた片手剣をコボルドロードの目の前に放り投げ、その間にストレージから予備の片手剣を取り出す。
だがコボルドロードも馬鹿じゃない。
取り出しているのはベータテストとは違う武器。
元々はタルワールという曲刀だが、持っているのは野太刀。
そしてすぐさまとある構えを取りはじめた。
それは《刀》スキルの範囲攻撃技。
「はぁぁぁぁぁっ!」
こっちも《ホリゾンタル》を発動させて相殺する。
それと同時に持っていた片手剣が壊れた。
ボスの攻撃力があまりにも高すぎてスキル相殺による耐久減少に堪えれなかったんだろう。
「・・・まさか、貴方がね」
「ばれていたのかい」
「・・・さて、どうやら」
なんでこんな自殺行為にも等しい真似をしたのか。
それはディアベルの行動にあった。
恐らくベータテスターなら知っているだろう階層ボスのラストアタックを。
ラストアタックを取ったプレイヤーには特別なアイテムを送られる。
それは優位な物が多く、強力だ。
ディアベルはそれを知っていて前へとくり出ようとしていた。
「死なれると、目覚めが悪いので」
あまり関係性がなくとも目覚めが悪くなったら困る。
睡眠自体そこまでとらないが、それでもだ。
それに攻略メンバーも統率者の喪失がおこるとパニックになる。
『gaa!!gaaaa!!』
「全く・・・があがあと吠えるだけか」
コボルドロードが下に武器を構えた。
あれは・・・《刀》の《浮舟》という技だったはず。
当たればまずいな。
「ここで潰してやる」
あれよりも早く攻撃が当たる技。
脳内で模索、検証、比較。
数コンマに等しい処理が廻る。
「ふっ・・・!」
《レイジスパイク》で突進。
真っすぐ突き進む技で僅かにこっちが先に攻撃を取った。
《浮舟》の不発どころか、スキル硬直を喰らったコボルドロードは今無防備。
「・・・チェック、メイト」
突進技は硬直が少ない。
そのまますぐに違うスキルに繋げていく。
《ホリゾンタル》に繋げて、すぐさま止めに繋げる。
コボルドロードのHPは5分の1。
横薙ぎから体勢をすぐに整えると勢い飛んで最後のスキルに繋げた。
二連撃技《バーチカル・アーク》。
V字に斬られ、そのままHPはみるみると無くなり0になる。
『gya...gaaa......g.a..aaa』
コボルドロードの体が光るとポリゴン片へと変わっていく。
そしてボス部屋の真ん中には《congratulation》と大々的に表示される。
「た、倒した、のか?」
「ああ、倒したんだ!」
「倒したぞおおおおおおお!!!!」
ついに果たされた第一層ボス攻略。
それがようやく成された。
「はぁ・・・」
「すごいな、君は」
「別に・・・」
称賛するディアベルをよそにキリトの方へ向けば疲れきったのか地に座っていた。
「なんでや!」
お互いがお互いを励まし合い、分かち合っていた勝利の中、その声は響いた。
「なんでや、なんでや!」
「キバオウさん?どうかしたのか?)
「どうしたのもこうしたもない!あんのガキ!」
ガキと指差されたのは僕。
まあ確かに1番背は低いけれど。
「あの子が・・・どうかしたのかい?」
「あのガキ、ボスの使う技知っとったんやぞ!それやのに何も思わへんのかい!」
「ちっ」
知ってたから何だと思うが、そもそも情報自体何故教えないとダメなんだか。
知りたいなら自分で得れば良いのに。
ベータテスターに聞けば分かることだ。
「た、確かに」
「キバオウさん、確かにあの子は知っていただろうがそれは僕も同罪だ。僕は・・・ベータテスト経験者なのだから」
「な、な・・・!」
攻略リーダーからの宣言。
それによって一気に疑心暗鬼へと変わる空気。
「くっくっくっ・・・」
だがそれも一人の笑い声で止まる。
その主はキリトのもの。
「な、なんや!なにがおかしいんや!」
「いや?これほどまで可笑しいと思ったことはないだけだよ」
「なんやて!?」
まあキリトの方に同じくだが。
「なんで知ってたかなんて簡単さ、俺が教えたからだよ」
その瞬間キリトから視線が送られる。
なるほど、合わせろということか。
「俺がこうやればいいと教えた。ソードスキルに関してもタイミングもそうだ」
「なんや、なんやそれ・・・」
「それに考えてもみろ?当選確率数百倍だったSAOのベータテストに当選したプレイヤーの中に何人のゲーマーがいたと思う?殆どはあんたらと変わらないニュービーだったさ。だが俺は違う。俺はニュービーなんかよりも遥か上の階層にたどり着いた。ボスの事を教えれたのも上の階層で散々そういう相手と戦ったからさ」
「そんなん、チートやろ!チーターやろ!」
「ベータテスターのチーター・・・だから
うざったい群集なことで。
キリトがわざわざ悪役になる必要もないのにな。
だがこれでベータテスターにも二手に分かれる。
情報や技術を独占するベータテスターと、そうでないベータテスターに。
「良い名だな、ビーター。貰った。今日から俺はビーターだ!他のベータテスター如きと一緒にしないでもらいたい」
そういい、キリトはボス部屋から第二層へ繋がる扉へ向かっていった。
彼が悪役に自らなるというならせめて餞別は渡しておくべきだろう。
本来僕が被るはずだったのだから。
「キリトさん。これ渡しておきます。使ってください」
「・・・ああ」
コボルドロードのラストアタックボーナス。
僕が止めを刺したので貰っていたがそれをキリトへ渡す。
すぐに装備して黒いコートが反映された。
そのままキリトは消えていった。
パーティーも抜けて。
「・・・じゃ、僕も」
目的を果たすためのパーティーだったから、離脱する。
メンバーの中でユウキだけは不安そうに僕を見ていたが気にしてはいけない。
関係を探られれると彼女にまで被害が及ぶ可能性を考えれば不干渉が安定だ。
「馬鹿な奴ら」
デスゲームを未だに分かってないプレイヤーだが自由に動けるようにはなった。
久々に外の空気は吸いたいだろう?
僕も使いたくてウズウズしてた。
「さあ、一暴れさせてもらおう」
ストレージから取り出すのは一振りの刀。
SAO上では二つとない僕だけが持つ武器だ。
彼をチーターというなら僕も近くなってやろう。
仲間は多い方が良いだろうから。