ソードアート・オンライン ~時幻の体現者~ 作:☆さくらもち♪
件の日。
第四十七層でそれとなくくつろいでいると転移の光が見えた。
転移してきたのはSAO攻略組幹部メンバー。
『黒の剣士』と『閃光』と『絶剣』。
そして中層プレイヤーのアイドルになっている『竜使い』もいた。
「・・・あの3人を相手出来るか・・・?」
レベル制MMORPGであるSAOではレベルの差は絶対的ともいえる。
それが対人戦なら尚更に。
一人一人のレベルは調べているが、協力して来られると苦戦の可能性がある。
かといってオレンジやレッドじゃないのでこちらからは手を出せない。
なってしまっても数日街に入れないだけで些か問題はないが。
「ま、やるだけやってやるか」
装備を《隠蔽》と《速度》優先に切り替える。
索敵能力は僕の目と耳で充分だ。
そして転移してきた竜使い達にばれないよう尾行を始める。
元々彼女はここよりも十層低い場所で活動しているが、目的のアイテムを求めてここまで来たのだろう。
実力者3人がいれば充分どころか過剰戦力だが、裏で関わっているプレイヤーが問題だ。
今日が命日になるだろう件のプレイヤー。
SAO唯一の殺人ギルド『笑う棺桶』。
その幹部メンバーを始末する。
あいつらはここで潰しておかなければ後々面倒になる気がする。
「キリトさーん!助けてくださーい!」
あの竜使いの声はよく聞こえる。
まさかここまで聞こえるとは思わなかった。
透き通るというよりは元気が有り余るという感じだろうか。
彼女らの進行も色々ありながら目的地へとたどり着く。
《隠蔽》スキル全振りに加え、物理的気配も消している。
気づこうとするなら150レベルほどはないとまずスキルを打ち破れないだろう。
そして竜使いが目的のアイテムである『プネウマの花』を入手すると、木の影から赤い髪の女性が現れる。
「・・・見たことあるな」
数あるオレンジギルドの中でも中位ぐらいだったか。
『タイタンズハンド』とかいうギルドだったはずだ。
狙いは竜使いの持つアイテム。
あれはビーストテイマー本人が赴かなければ手に入らず、その入手も『心アイテムの有無』。
死んでしまった相方がいなければ入手出来ない。
存在自体知らぬ者のが多そうだ。
「・・・さあ、始まりだ」
あの赤髪が捕まったのが見えた瞬間、麻痺毒ナイフを四方八方へ投擲する。
その数150。
狡猾でありながら今の今まで尻尾を掴ませなかった暗殺者どもだ。
これぐらいせねば逆に失礼だろう。
「誰だっ!」
キリト達の方へ当たらぬよう投げたが、見えてはしまう。
だがまだだ。
二人、かかったが頭領はノー。
「さすがというべきか。プロだな」
返事はない。
まだ逃げていないだろう。
だがそれがあだになる。
時間なんてかける必要がないからな。
「冥土の土産だ。その目に焼き付けて消えろ」
プロにはプロをあてるのが1番だろう?
だからお返しさせていただこう。
邪魔者は潔く退場するべきだ。
我が一振り、見抜いてみろ。
「・・・秘剣」
昔読んだ書物に、燕を斬ろうとした剣豪がいたらしい。
余興なのかはたまた大馬鹿なのか。
その剣豪が持つ刀は
僕には長い武器は扱える気がしない。
しかしその長刀を巧みに操り、燕を斬ったそうだ。
そうして名付けられたのは『秘剣・燕返し』。
「燕返し」
再現率は低いだろう。
だがやってみるだけの価値はあった。
時間操作という異能がある。
ここSAOにおいてもそれは使えた。
だがそれは対人戦をするときだけと決めている。
でなければ何倍にもスローモーションなモンスターをただ斬るだけだ。
何も面白くない。
だからこういう仕事の時だけは使うことにしていた。
「く、そがっ・・・!」
さあ、避けてみろ。
僕が出来る腕を持って再現した究極の剣。
一の太刀で、相手の頭上から股下を断ち。
二の太刀は、一を回避するための逃げ道を断ち。
三の太刀が、左右の離脱を阻む払い。
システム的アシストがなくとも人間やれば出来るものらしい。
一瞬のズレも赦さない三つの斬撃が相手へ向かう。
まるで魔法のような、神の領域に達せん剣技。
「・・・なんだ。人違いか」
暗殺のプロならば見抜けると思ったこの剣技。
どうやら期待ハズレだったらしい。
つまらない相手だ。
向こうを見やるとどうやら僕を見付けたようでこっちに近寄って来ている。
あのナイフには麻痺毒が塗ってあるが、そのレベルは最高峰の10。
《薬師》《調合》などのスキルがマックスでないと作れすらしないものだ。
「攻略組3人を相手に逃げる気か」
「・・・まさか」
さすがにそれはご遠慮願いたい。
単純に疲れるし、負けるかもしれない可能性がある。
この件のために勝手に利用させてもらったが元は無関係だから。
「少々用事があったので居合わせただけです」
「・・・それが事実だという証拠は」
「いいえ、ありませんね」
僕があまりにも堂々としている事に拍子抜けしているのか、何を言えば良いのか分からないらしい。
戦闘はこれ以上する必要性もないだろう。
武器をストレージにしまうと両手を上げて表に出る。
そこには地面に無数のナイフが刺さったままで、警戒を続ける少女達がいた。
「『閃光』に『絶剣』。それに『黒の剣士』がいて無事に帰れる気がしないので」
「余計な真似はするなよ」
「それは良いですけど・・・これ回収していいです?」
地面に刺さるナイフを見やる。
地味にこの麻痺毒ナイフ作るの大変だから。
警戒はされた状態だが、頷かれたので回収していると別の場所から変な感じがする。
「・・・?」
その方向へ向くとそこから一本のナイフが飛んでくる。
僕のとは違う麻痺毒ナイフ。
即座にストレージから愛刀を取り出すと抜刀して斬り飛ばす。
「ちっ、まだ居たか」
全員始末した感じだったが、どうやら甘かったらしい。
お返しとばかりに僕のナイフを投げつけると的中したのか木影からプレイヤーが倒れてくる。
「随分とまぁしつこい」
どうやら見せしめで3人始末したというのに懲りないらしい。
右手に持つ刀を握り締め振り上げる。
「やめろっ!」
下ろそうとするが、声をかけられ止められた。
情けでも、時には残酷にならないとダメだけど・・・。
ここは尊重しよう。
「もう一本喰らってていいよ」
効力の延長だ。
ナイフを追加でお見舞いするとそのまま放置する。
「それで?僕をどうするんです?」
「それは・・・」
「あ、あのっ」
困りあぐねている中、竜使いの少女が声をあげた。
殺気が立ち込めていたのに中々勇気がある。
「・・・はぁ。ずっと立ってるのもなんですし・・・花は取れたんでしょう?帰りたいんですが。今日は寄りたい場所もあるので」
「分かった。だがこの場に偶然居合わせたというのは・・・本当に偶然なのか?」
「そうなりますね。用事で居合わせただけなので」
「・・・シリカ、すまない。こんな状況になって」
「い、いえ!キリトさん達が居なかったらここまでこれなかったでしょうし・・・」
「花は今中々高い。まあいないとは思うけど狙われることを考えたら早めに宿に帰ってる方がいいですよ」
「・・・そう、だな」
「じゃ、僕どっか行くので。お気を付けて」
出来るかぎり早めに去っておこう。
今は疲れたから休憩したい。
「転移、四十八層」
素早く行動した僕を止めようとしたキリト達が慌てるが遅い。
もう転移は始まっているのだから。
淡い光が無事収まる頃にはすっかり景色も変化しており、以前来た四十八層の景色だ。
水車があるのもそうだが、平和な階層だからか擦れていた心身がゆっくり出来る。
「はぁ・・・」
あの剣技は使うだけかなり精神を持ってかれる。
凄まじいほどの集中力と正確さに加え純粋な力も必要だ。
頭の冷却をする為にもこの階層はいい。
近くにあの武具店もあるから彼女に見られるかもだがいいや。
今は、疲れた。
「ん・・・う・・・」
段々とうつらうつらになってきた意識。
今日は意外と気候がいい。
このまましばらく寝ていよう。
いつの間にか意識はゆっくりと落ちていった。