人類は数多の大戦を経験した。小型核兵器の使用すら見られた
「惨劇を繰り返してはならない」と、残された人々は団結を見せ、『WPDC(世界平和宣言委員会)』を無能だった『世界政府』に引き替え樹立した
全世界を範囲とした民主主義政府に、設立当初は疑念や反対が殺到したのだが、それから6年。大きな問題もなく、WPDCは世界中の人々の信頼を得るようになっていた
"表向きの"平和は確保されていた……
超高層ビルが立ち並ぶとあるまち。このうちの一つであるアパートに暮らす5歳の少年、べラルス・イエランドルフは、牛肉に香辛料を振りかける若い母の華麗な手つきに見入っている
「パパの誕生日だから彼の大好きなステーキをつくるのよ~」
「僕もやりたーい!」
そう答えた少年に母は優しくレタスを差し出した
「こうやってちぎるのよ」
やがて家中に香ばしい香りがひろがった。自らの部屋にこもり、何かの作業をしていた、天パで青くヒゲが残るこの男、アルフレッド・イエランドルフも夕食への期待を高めていた
「パパー?ママがご飯だってー」案の定息子が来た
「おう、すぐ行くって言っといてくれ」アルフレッドの手元は何やら光っている。気になった息子はたずねずにはいられない年頃だ
「なにつくってるの?」
「なぁに、仕事のものだ」
「おしごとのなにつくってるの?」
「ハハ、子供にわかってたまるか」
それから2分ほどで、食卓に家族3人は揃った
「今日は僕も手伝っただよ〜」
「だから美味いのか」
ほのぼのとした空気に、母、ミカエラが切り出す
「ねぇ─」
「新しい職場はどうなの?最近どうも疲れてるみたいだけど」アルフレッドへの質問だ
「ハハハ、心配するな。俺が疲れてるのは個人的な趣味のせいだ。仕事のせいじゃあない」微笑んでいたが、その返答には若干間があったように思えた
「そう……ならいいんだけど…無理してない?」
「バカ言うな。WPDCは最高の職場だ、俺達は恵まれてるんだぞ?文句ばかり言うんじゃあない!」
「そうじゃなくて!」
「─何日も作業部屋に閉じこもって……一体なにを作っているの?」その瞬間、アルフレッドはテーブルに手をつき立ち上がった
「心配するなつってんだろ!!」そして、夕食も最後まで手をつけず、2人を残してまた作業部屋にもどる
(またパパとママがけんかした…)少年の胸は張り裂けそうだった
(パパがだぶりゅぴーでぃーしーにてんしょくしてからけんかばかり。それからずーっと何かつくってるし。だぶりゅぴーでぃーしーは人の心をめちゃくちゃにするちょー悪いやつだ!)
壁に投影されていたニュース番組が「WPDC」の単語をちょうど出したので、べラルスは思わず反応した
『「移住計画」についての新たな声明をWPDCのガドファ氏が発表しました』
また同じころ『ピンポーン、来客です』
「はーい」心当たりはなかったが、ミカエラは玄関に向かっていた
「はーい?」ドアを開けると立っていたのは全身を黒く染めた男。髪はぼさぼさで、特に前髪は口にかかるほど伸ばされていた
「WPDC特務警察TDの黒鉄(くろがね)だ。アルフレッド・イエランドルフの家宅で間違いないな?」手には何やらバッジのようなものをもち、提示している
黒鉄と名乗る男の後ろには、同じく黒ずくめの男が4人いるのが見えた
あとがき
読んでくれた方、ありがとうございました!
更新は不定期と思いますが、よろしくお願いします!