「大事な話だ。中に入れてくれ」黒鉄はミカエラの返事も待たず土足で踏み入る。ほかの4人もまた然り
「し、主人を呼んできます」ミカエラは小走りで逃げるように作業部屋に向かった
「どなたー?」アルフレッドは無愛想な感じで黒鉄に問う
「アルフレッド……TDの名に聞き覚えは?」
その頃、アルフレッドと入れ替えに息子、べラルスが作業部屋に来ていた
「あれ、パパ?ここにいると思ったのになぁ…」
踵(きびす)を返しかけたべラルスの目に、何かが光って見えた。好奇心に従ってべラルスはアルフレッドの作業机に近寄る。そこには透き通った深い紫色に輝くゴツゴツとした鉱石の欠片のようなものがいくつか置かれていた
「宝石かなぁ。キレイないしだなー…パパはこれでなにか作っているのかな…。ひとつくらいもらってもいいかな…………いいよな」
「さっさと吐けよォ!!」べラルスはぎょっとした。声は居間の方からしていた
「てめぇなんか企んでんだろが!WPDCの検索網欺けるとでも思ったか!!」黒鉄は鬼の形相でアルフレッドに怒鳴る。ミカエラは少し離れて心配そうに見ているが、アルフレッドは落ち着いた様子だ
「勘弁してくれよ……TDの厄介になるなんて身に覚えがねぇよ」
「白を切るつもりならまぁいい、許可は出てんだ」慣れた手つきで胸から何かを出した黒鉄はそれをアルフレッドの脳天に向ける。銃だ
「WPDCは、危険因子をひろげない」
「おいおい……そんなんで脅しのつもりかよ?」流石のアルフレッドでも頬には大粒の汗が流れていた
「ちょっと!!」ミカエラは止めようと思わず駆け寄ろうとするが、
ズガァン!!
「発見し次第つぶすんだ。それが発展の理由」黒鉄はもう去ろうと歩き出していた。アルフレッドは力なくその場にうつ伏せに倒れ込んだ。頭からおびただしい血を流して。ミカエラも膝から崩れ落ちた口をその手で塞いでいるが、言葉など出てこないだろう
「結城(ゆうき)、あとはてめぇに任せる」黒鉄は部屋から出る際に、サングラスをかけたスキンヘッドの男にそう言った
黒ずくめのうちの2人が放心状態のミカエラの腕を掴み、結城に差し出す
「ゆーきさーん、どーします?」
「ミカエラ・イエランドルフ。いい女だな…積んでおけ」
「了解♪」2人は黒金のあとを追い、ミカエラを連れ出して行った
「なにしてんの?」
結城は一瞬ドキッとしたが、声の主を確認すると安堵した
「べラルス・イエランドルフ。アルフレッドとミカエラの一人息子だな」
「ママをどこに連れていくの?パパは?パパはどこ?」
「結城さん、この子はどうするんですか」もう1人の黒ずくめがきいた
「そうだな…無難に収容所に連れていこう」
「ッ!パパ!!」少年は変わり果てた父を見つけてしまった
「パパ?し…んじゃった?ねぇパパ?おじさんたちが…ころしたの?ねぇ殺したの?ねぇ…、お前らが…………殺したのか…」
「大好きなパパとママを返せ、このくそやろう!!」少年の目は涙でいっぱいだったが、見開き、2人の客をまっすぐ睨んでいた。力強く立ち、右手の握られた拳からは眩しいほどの赤い光が溢れていた
「コイツ……なんか持ってやがる!!!」結城が警戒した瞬間、拳の光は消えた。代わりに少年のおでこから両手の甲に赤く光る筋が入ったのだが。
「おいおい、なにごとー?」ミカエラを連れて行った2人が気だるそうに戻ってきた。少年はその2人を標的にした
「がっ…!」「うッ」
一瞬だった。5歳の少年の飛び膝蹴りと殴りが大の大人2人の意識を飛ばした
「なっ、ちきしょ、こんにゃろ!」
「よせ!」もう1人の黒ずくめが銃を出そうとしたが結城は制止した
「でモッ… ガッ
顔面にべラルスの蹴りが入った。この男もほかと同様に動かなくなる
「落ち着け!」結城が吠えた
少年は止まり、結城を睨んだ
「そうだ。落ち着くんだ。…いいぞ……」
ボソッ「……死ねよ─」
「─みんな死んじまえよ!!!」
結城の反応も待たず、べラルスは両手で首を締め上げた
「ぬぐッ……!!」(なんて力だ!)
2人は倒れ込み馬乗りにされた結城の意識も遠のいていく。
「死ねよ!死ねよ!死ねよ!」
(ま…ず……い…………)
「早く死んじまえよ!!」
バチュゥ……!!
結城は一瞬何が起きたかわからなかったが、呼吸が出来るようになっていた。戻ってきた視界で目の前を見るとべラルスが目を瞑り、動かないでいた。そしてそのうしろにはスタンガンを持った黒鉄
「結城、まだ生きているか?」
「助かりました…」
「お前以外息をしていないぞ─」
「─全てあの子供がやったのか?」
「そうです!何か持ってました!」
「『持っていた』?」
黒鉄がべラルスの握られた右手を開くと、そこにはアルフレッドの机にあった例の石があった。しかし、色は赤色だ
「なんかの鉱石だな」
「ただの石であれほどの力が……?」
「確信はない。が、サンプルとして持ち帰る価値はある」
「べラルスは?」
「子供は気絶させただけだ。処分は必要」
「どうするおつもりで?」
「決まっている。べラルスのことが公になれば民衆の恐怖はたちまちWPDCの懸念に変わる。もう取り返しをつけない─」
「─『エデン』に送る」
「『エデン』…ですか」結城は動揺しているようだ
「ああ、ただちだ。『アダム』さんに報告しろ」
やがてべラルスは目を覚ました。(茶色……)眼前には広大な荒野。あるのは岩石と枯れ木のみだった
あとがき
読んでくれた方、ありがとうございました!ひとまず区切りいい所まで行けて良かったです!またよろしくお願いします!