機械仕掛けの協奏曲《コンチェルト》   作:48180

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『奏でるは序章ーーこれより開演するは、出会いの前奏曲(プレリュード)


序曲『歯車は惹かれ、絡み合う』

「……ついてないわ」

 

私はぽつりとそう呟いた。

その日は夏の夜なのにやけに蝉がうるさかったのを覚えている。私は蝉の声を無視して、『世界の仕組み』について考えていた。

人間誰しも幸運続きなものはない、むしろ幸運なのが不思議なものだ。

確か誰かが言ってたな…『世の中は平等で、誰かが不幸でいるなら、誰かは幸せになっている』……だっけかな?

そうやって世界はバランスよく保っている……嫌な仕組みだ。

けれど人は、そんな世界に抗える術を持ってない……

もし神様がいるとして、この世界は神様にとってのなんなのだろう?

きっと大したことないものなんだろうな。

……例えば…『ゲーム』、将棋とか囲碁とかの盤上程度の存在なのかもしれない。

だとするなら人は神様が遊ぶゲームの駒か……笑えない話だ。

さて、話が脱線してしまった。どんな話だったっけ?

あぁ、そうだ。『世界の仕組み』についてだった。

この仕組み通りなら、今世界に一人は幸せな人が確実にいるね。……何故なら、

 

「キシャーーーオ!!!」

 

甲高い咆哮、鳥のような姿をしているが、その大きさは人と大差ない。所々むき出しになっている機械のような部品、メタリックな翼、レンズのような目がこちらを捉えていた。

暑さでついに脳がやられたか?幻覚を見ているようだ。

……いや、実際は違う。それは幻覚なんかではない。足元にある水溜りが、化け物の側にいる物体がそれを語っている。

微かに出ている月明かりが『それ』と水溜りを私の目に映させた。水溜りは月明かりの光を浴びても、紅い色で空に浮かぶ月を映している。

物体は化け物の足元にあり、それは歪だが何処かで見たことのある姿をしていた。

ーーそう、人の形だ。けど私の知ってる人の形はあんなに丸くはない、化け物から目を逸らし、化け物の周囲を見渡すと、その答えは簡単に分かった。辺りにはその人であった物体の腕と脚らしきものが転がっていた。

考えたくもないが、目の前の化け物が『引き千切った』それ以外考えられなかった。

こんな化け物に出会ってしまった時点で、私は『不幸』と出会ったとしか言いようがない。

その光景に吐き気すら出てこない、あまりに衝撃な光景に脳が麻痺しているのか?

逃げようにも足が動かない、恐怖に足がすくんでしまっているようだ。

頭では考えてるけど身体が動かないってこうゆうことを言うのね、まさか人生最後に学ぶとは思わなかったな。

……などと考えていると、鳥の化け物がその鋭い嘴を私に向けて突っ込んできた。

あぁ、凄く速い。これは避けれないな。確実に死んだ。

どうせ死ぬなら死ぬ前に、今までの人生を振り返ってみるのも悪くない…俗に言う走馬灯ってやつね。

 

『……本当に、ついてないな』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ、奏。進路希望の紙、もう出した?」

 

「いや、まだだけど……そうゆう閖はもう書いたの?」

 

「それが全然!アハハ、ヤバイよね〜!」

 

そう言うと私に話しかけてきた笑顔とちょこっと見えてる八重歯が印象的な少女は冗談交じりの笑いを私に見せてきた。

秋風 奏(あきかぜ かなで)』、私の名前だ。『春霞高等学校』に通っているただの学生、こっちは私の親友の『最条 閖(さいじょう ゆり)』。いつも明るくて元気でクラスの人気者、文武両道でちょっとした財閥のお嬢様だ。

ただの学生とお嬢様じゃあ月とスッポン、天と地ほどの差がある。

けど彼女はそんなの気にせずクラスに馴染んでいる、一言で彼女を紹介するとするなら……『完璧超人』が似合うかな。

 

「ちょっと、笑い事じゃないでしょ。閖は何かやりたいこととかないの?」

 

「う〜ん……大抵のこと出来ちゃうからな〜それにあたし飽き性だし」

 

何とも羨ましい悩みだ。何でもこなせて、財力もある。

神様はこんなにも差がある存在を生み出すものか……理不尽この上ない。

でも、彼女は悪い子でもない。むしろ良い子だ。

不思議なもので、嫌味も悪いように聞こえない、憎もうとしても憎めないほど真っ直ぐで純粋なのだ。

 

「あ!強いて言うなら……」

 

閖は思い出したかのように言葉を続けた。

彼女ほど完璧な存在が興味を持つなんてどんなものか……少し私も興味が出てきた。

 

「ん?何かやりたいこと見つけたの?」

 

「う〜ん、あるにはあったけど……多分無理だからやめとく」

 

珍しい言葉を聞いた。彼女は結果がどうであれ、少しでも興味を持った物には『挑戦』をする性分だった。

だから色々な挑戦することが生き甲斐らしく、一つのことを追求せず目移りが激しい。故に飽き性なのかもしれない。

だけどどんな挑戦も最初から無理とは決めつけず、『やってみよう』がモットーな彼女が最初から『無理』と決めつけているのを聞いたのは初めてだった。

 

「珍しいじゃない、閖が最初から諦めてるなんて」

 

「ちょっと〜あたしだって人だよ?明らかに無理なものの判別ぐらいあるって」

 

今までのの行動を見てきて、その判別が出来ることが驚きだよ。

と、思うのは私の心の中だけに留めておこう。

そんな私の心を見抜いたのか、

 

「あ〜今なんか馬鹿にされた気がする〜!」

 

「そ、そんなことないわよ」

 

危ない危ない、彼女は読心術すらも使えるのではないかと疑ってしまうほど鋭い感をしていた。

 

「そうゆう奏こそ、やりたいこととかないの?」

 

「私は……」

 

閖の問いかけに、私は言葉が詰まってしまった。

何故なら、私はやりたいこととかそうゆうのを選べるほど選択肢のない人生を歩んできた。

思い返せば、いい思い出なんて一つも出てこない。

両親は物心ついた頃すでに他界しており、つい数年前までは児童施設で生活していた。

アルバイトをしながら通学、そして一人暮らし……

そんな私の進路なんて、一つに決まってた。

 

「……勿論就職よ」

 

そう、私には大学に行くほどの経済がない。自分で言うのもアレだが申し分ないほど成績はいい、だが大学に行くぐらいだったら少しでも早く働いて自分の好きに生きたい。

今まで満足な人生を歩んでこなかった分、これからは満足のいく人生にしたい……そう心に誓った。

 

「就職か〜……どんな仕事をしたいの?」

 

「………………」

 

そう、そこだ。私は正直な話、給料がそこそこで休みはあるが労働時間はかなり長い、俗に言われてる『ブラック会社』でない限り就職先は何処でも構わないのだ。

しかし進路希望には希望の職種まで記入とあるから面倒だ。

そんな言葉が詰まった私を察したのか、

 

「……決まってないんだね」

 

「……大きなお世話よ」

 

閖は私の肩にポンと手を乗せ、慰めの目をしてこちらを見つめていた。

 

「ほら、私は話したわよ。閖のも聞かせてよ」

 

「え!?いや、いいよ!どうせ対したことじゃないし!」

 

「嘘言っちゃって、貴女ほどの人が遠慮するなんて逆に興味があるわ。私だけ話して貴女が話さないのは不公平じゃない?」

 

そう、本当に興味があった。言い方が悪いけど、閖は文武両道、財力もある。その気になれば大概の願いは叶えられる……と思う。そんな彼女が遠慮することがあるとは意外だった。

 

「……絶対引かれるからヤダ!」

 

閖は顔をプイッと奏からソッポ向いた。

……絶対引かれる?そんなに途方もないものなの?

国のトップ?大統領?ギャング!?

色々な姿の閖を浮かべて考えるが、どれも何処か似合っている。でもどれも違う気がする。もっと斜め上の発想な気が……待って、引かれる…?ーーまさか!

次には凛々しい男装をした閖の姿が浮かんできた。

 

「だ、駄目よ!貴女可愛いんだから勿体無いわ!」

 

「な、何よいきなり……ま、まぁ可愛いってのは嬉しいけど、何が勿体無いの?」

 

「……何でもないわ」

 

いけないいけない、妄想が出てたわね。

そうよ、彼女が引くって思ってるのはどうせ対したことないことよ。

例えば…トリマー、動物美容師とか。

それなら自分のキャラじゃないとかで引かれると思うかもしれないわ。

他にも色々考えられるけど、言えることは一つね。

 

「閖、私は貴女がどんな道を歩んだって、ずっと親友よ」

 

「……それはこっちの台詞だよ。あたしだって、奏とはずっと親友だからね」

 

例え男に憧れていようが、美容師に憧れていようが閖は私の大切な親友。これは何があっても変わることはないわ。

と、話がひと段落して閖は自分の席に戻っていくようだ。

その際、ボソリと閖が呟いたのを私の耳は聞いていた。

 

「……本当はそれじゃあダメなんだけどな……」

 

私はその言葉の意味を深く考えず、ただ自分の目の前にある進路希望調査の紙に目を戻した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時間は流れ、放課後。

HRも終わり、部活がある者は残り少ない部活動へと足を運び、用のない者は帰宅の仕度したり、各自各々の行動に移していた。

 

「奏、一緒に帰ろ?」

 

閖が共に下校しないかと誘ってきた。

その気持ちは嬉しいのだが……

 

「ゴメン、今日はこれからバイトなんだ」

 

そう、今日はバイト先の子に代理を頼まれていて、出勤しなくてはならないのだ。

そのことを閖に伝えると、閖は『仕方ないね』っと納得してくれた。

私の生活があまり良くないこともあるが、こうゆうことがちょくちょくあり、まともに一緒に下校したことがあるのはこの三年間で数少ない。

本当、閖には毎度毎度申し訳無い気持ちでいっぱいだ。今度これまでのお詫びを兼ねて何処かに遊びに誘おうかな。

もう残り少ない学生生活、少しぐらい楽しんでも罰は当たらないわよね。

 

「ねぇ、閖。今度の週末空いてる?」

 

「週末?空いてるけど?」

 

「二人で何処か出かけない?」

 

「え!いいの!?」

 

「いいのって、どうゆう意味よ」

 

「だって奏、いつも『家計が火の車ね』って淋しそうに呟いてたし……」

 

「……貴女が気にしなくていいわよ、出費の限度は決めてあるし、その言葉は使い過ぎないための自己暗示みたいなものよ」

 

「……本当にいいの?」

 

「あまり出費しない程度にだけどね」

 

「やったー!奏と久しぶりのお出掛けだー!」

 

閖は奏と共に行動出来ることが本当に嬉しかったようで、その場で舞い上がっている。

そんなに私なんかが一緒って嬉しいのかな?

閖はルックスも良く、友達も私なんかより沢山いるはずだ。それなのにいつも私に構ってくれる…嬉しいことだが、もしかして無理して今まで構ってくれていたのか?

 

「どうしようかな〜!何しようかな〜!」

 

閖に再び目を向けたが、本当に久々の一緒のお出掛けに心を踊らせているようだ。

……やめよう、そんなこと考えるのは。

こんなにも喜んでくれてるのに私が疑ってどうする?

それこそ大切な親友に失礼だ。

 

「じゃあ私もう行くから、予定についてはまた後で連絡するよ」

 

「うん、分かった。……奏!」

 

閖は教室を出る私に向かって、

 

「…いってらっしゃい!」

 

「うん、行ってきます」

 

そうして、私はバイト先へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「奏ちゃん、もう上がっていいよ」

 

バイトの店長から退勤の指示が告げられた。

時間はもう22時を過ぎようとしていた。

 

「もうこんな時間……じゃあお先失礼します」

 

そう言うと、私は更衣室へ向かい、バイトの制服を脱ぎ、鞄の中へ入れ、帰宅の準備をした。

 

「ふぅ、今日も疲れたな……」

 

今日は喫茶店でのバイトだった。この喫茶店は夜遅くまでやっていて、私はホール…いわゆる接客業務だ。店の雰囲気も良く、私自身接客は嫌いではない。従業員も良い人ばかりで他のバイト先と比べて一番気に入っている職場だ。

……店長を除いてだが。

 

「あ、そうだ奏ちゃん」

 

店長は更衣室に急に入って来た。

……着替え終わったから良いものの、もう少しノックとかしてもらいたいものだ。

 

「……店長、ノックぐらいして下さいよ。着替えてたらどうするんですか?」

 

「なに言ってるの、むしろそれがいいんじゃない」

 

とても経営者のトップとは思えない爆弾発言、しかしこれは日常茶飯事……もう慣れてしまった自分がちょっと悔しい。

 

「いくら同性でも通報しますよ?」

 

「うん。やっぱりその冷たいシベリア極地のような罵り、養豚場の豚を見るような軽蔑の眼差し!もう少し仕事頑張れそうだわ」

 

「……相変わらず変態ですね」

 

もう言葉のかけようもないほど残念な女性だ。

……こんなんでも店長なんだから世の中理不尽この上ないったらありゃしない。

 

「ただの変態じゃないわ、変態と言う名の淑女よ」

 

「そうですか、それじゃあお疲れ様でした。変態淑女さん」

 

「いい!もう少しきつめに!見下すように!……ってあまりに心のオアシス過ぎて本来の目的を忘れていたわ」

 

店長はその場を去ろうとする私に対して何か用事があったようだ。

しかしそのことを今まで忘れていたらしく、ついさっき思い出したようだ。

 

「何ですか?夜も遅いですし、私もう帰らないと……」

 

「真面目な話、ウチの社員にならない?」

 

「え……」

 

店長の話を要約すると、高校卒業後、そのままこの店の正社員にならないかとの事だった。

給料もアルバイト経験を考慮して底上げ、正社員雇用としては破格の条件だった。

しかし、そこに一つの疑問が浮かぶ。

 

「どうして…私にそんな話を?」

 

「誰にでも言うわけじゃない。仕事の出来る奏ちゃんだから声をかけたんだよ。でも強制はしない、奏ちゃんには色んな選択肢がある。進学にウチじゃないとこへの就職、それこそ星の数ほどあるんじゃないかな?」

 

店長は私の将来についての例え話を話してきた。

……店長には申し訳無いけど、私にある選択肢は星の数ほどないです。

 

「だから、その選択肢の中にウチも入れといてって話なんだ。どうかな?」

 

それは本当に信頼してくれてるからこその話だった。

……まさかこんなに早く進路先が決まるとは思わなかったな。

さっきも説明したが、私はこのお店自体嫌いではない。むしろ好きだ。従業員、お店の雰囲気、来てくれるお客さん、どれを取っても嫌いになる要素がなかった。

だから私はこの誘いを受けようと思った。

 

「……店長、本当に私なんかでいいんですか?」

 

「勿論。けど正社員は卒業してからね、もし留年なんかしたら一生アルバイトでコキ使っちゃうからね!」

 

店長はビシッと私に指差し可愛く警告をした。

店長、その言い方だと例え留年してもバイトは続けていいよって聞こえますよ。

 

「……分かりました、考えておきます」

 

「いい返事になることを期待してるわよ。あともう一つ」

 

「まだなんかあるんですか?もう本当に帰らないと時間が……」

 

時間は既に22時を回り、長針が6を指そうとしていた。

本当に帰らないと家に着くのは23時を超えてしまう。

そうなると明日の学校にも響くし、週末の予定も立てないといけない。やることは意外に多いのだ。店長のご厚意は有難いが、これ以上は流石に厳しい。

 

「いや、大したことじゃないわ。ただ帰り道気を付けてってだけよ。この頃何かと物騒だし……」

 

店長は単に私の心配はしてくれているようだ。

そう、この『七咲町』では猟奇的殺人事件が起きている。

被害者は老若男女問わず、また金品の盗難などもなく、純粋に殺害が目的という惨たらしい事件だ。

被害者は確か……今朝のニュースでは5人目まで報道されていたかな?

警察も必死だが、その猟奇的殺人の犯人に繋がる証拠は一つもなく、更に決定的な恐怖があった。

どの被害者にも共通して言えること、それは『惨たらしく殺害』されているということ。

ある人は首から上がなく、しかしそれは刃物による切断ではなく、力強く引き千切られた傷跡だったらしい。

またある人は身体が縦から綺麗に別れていて、見つかったのは半分だけとか……

思い出しただけで吐き気が出てきた。

 

「噂じゃあ極悪囚人が脱獄したとか、殺人鬼集団の仕業とか……」

 

店長は何故か一間を置き、

 

「怪物の仕業…とかね」

 

「……店長、所詮全部根も葉もない噂じゃないですか」

 

「まぁそうなんだけどね〜……最近はあまり聞かないけど、用心に越したことはないからね」

 

「そうですね、用心します。それじゃあお疲れ様でした」

 

「はい、お疲れ〜学校頑張ってね」

 

私は店長に挨拶をして、更衣室を後にした。

 

「……本当、どうにかしないと……」

 

店長は奏の去った更衣室でただ一人、遠い目をして天井を見つめていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……ついてないな」

 

私が喫茶店から自転車に乗り、アパートに帰る途中の出来事だった。

目の前には『工事中につき通り抜け禁止』の立札……

あの喫茶店からアパートに帰るにはこの道が1番近いのだが、これでは仕方がないな。

 

「あと知ってる道は……あそこぐらいか」

 

私の言う道は日中でも薄暗い路地を通る道だ。幅は自転車が通るには余裕がある道だが……

 

「他に道は知らないし、やむを得ないか」

 

正直気乗りはしなかった。けどいつまでもここで立ち止まっているわけにもいかないし、この時間で知らない道を行くのも危ない。選択肢はないに等しい。

……選択肢がないか、私の人生みたいだ。

私は自分に皮肉を込めながらもその路地へと足を運ぼうとした時……

 

『怪物の仕業…とかね』

 

何故か店長のあの一言が頭に響いた。

……まさか。化け物とか非現実的なもの、あるわけないじゃない。

奏は首をブンブン振って言葉を早く忘れるように路地へ向かった。

 

「………………」

 

しかし、彼女は気付いていなかった。彼女を見つめるその瞳の存在に……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、現在に至るわけだ。

私もあの無惨な物体となるのだろうか?

なるだろうな、こんなことならもう少しお洒落すればよかったな。

……無惨な死体になるのにお洒落って、死化粧ってか?我ながら笑えない冗談だ。

もう目を閉じてしまおう。幾ばくもない命、せめて何も見ずにいたい。

私はそっと瞼を閉じ、ただ静かにその時を待った。死ぬ瞬間を……

どうせ苦しいだろうけど、出来れば苦しまずに死にたいな……いや、本当に死にたくはないけど。

などと考えが頭を巡っている中、少し不思議な感覚がした。いつまで経っても身体に異変がないことだ。

あれだけ勢いよく向かってきたんだ、そろそろ襲われてもおかしくない。なのに痛みとか何も感じない。

私は恐る恐る瞼を開けてみた。そしたらそこには、異様な光景が映り込んできた。

 

「おいおい、自殺志願者かよ。世話が焼けるぜ!」

 

そこには黒いコートを羽織り、後ろ姿だが声からして男性と思われる人物が奏の前に立ち、化け物に立ちはだかっていた。

 

「……え?」

 

「何ぼさっとしてんだ!さっさと逃げろよ!」

 

男性は声色を強くして、奏に言い放った。

逃げろ?何がどうなってるの?

奏には目の前の現実が理解出来ず、放心状態だった。

無理もない。目の前に化け物がいて、襲われたと思ったら謎の人物が助けてくれた……

あまりにも突拍子なく非現実的な出来事だ。

しかし化け物はそんな奏や謎の人物のことなどお構いなしのようだ。

 

「キャオーーー!!」

 

「うお!こいつ…!」

 

謎の人物が抑えていた化け物が暴れ始めた。

謎の人物は振り払われないように必死に抑えているが、払われるのも時間の問題のようだ。

 

「くっ!こうなったら仕方ねえ!」

 

謎の人物は体勢を崩しながらも化け物に蹴りを入れ吹き飛ばし、化け物と謎の人物の間には少し距離が出来た。

 

「お前に怨みはないし、正直悪いとも思うが……ぶっ壊させてもらうぜ。……我、イーラの名において告げる。我を阻む敵を……」

 

謎の人物は拳を振り上げ、何やら呪文みたいなのを唱えていた。

……そうか、私は夢を見ているんだ。そうでなきゃこんなこと現実に起きるわけない。

 

「滅ぼす、『拘束機能解放(リミッターバースト)』!!」

 

謎の人物の拳は機械的な音を立てて、変形していった。その形は暗闇でよく分からなかったが、恐らく鋭利な刃物みたいな形をしているようだ。

 

「キャオーーー!!!」

 

謎の人物に呼応するかのように、化け物も甲高い鳴き声を放った。

謎の人物と化け物の戦い、私はとても奇妙な夢を見ているみたいだ。疲れてるのかな?少しバイトの日数減らそう。うん、そうしよう。息抜きも必要だよね、週末閖と思いっきり遊ぼう。

遠く薄れゆく意識の中、目の前にいた謎の人物は化け物の羽根、脚、頭と化け物の身体と言う身体を引き裂き、バチバチ、ベキベキっと鈍い音と共に楽しそうな高笑いが聞こえてきた。

……私が最後に見た光景は、これが最後だった。

 

 

 

 

 

…………続く




オリジナルは初めてなんで、右往左往てんやわんやだと思いますが、お付き合い頂けると嬉しいです。
まだ序曲ですが、感想など頂けると励みになります。
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