転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第十話:最終話。

 ――半年後。

 

 ふへぇ。久しぶりの娑婆でございますよー。太陽の光が眩しいなぁ、というのは冗談で、更生施設は閉ざされた刑務所だなんて事は全くなくて大分自由が効いたし、出来る事も多かったから困る事は少なかった。建物自体の設計もちゃんと考えられていて、日光をふんだんに取り込むようにしていたから自分が犯罪を犯して捕まっているだなんてあまり思えなかったし。

 皆よりも早く更生プログラムを終了させて先に出所しちゃうのは申し訳ない気持ちで一杯になるのだけれど『直ぐに出るから待ってて欲しい』なんて言われてしまえば仕方ない。で、なんで早くココを卒業できるのかというと、色々と管理局に協力した事と世間様への貢献度から。ハイスペックスカさんのクローンである私は持てる力の限りを振りかざして、色々とやらかしました。

 

 まずはデータでも渡したんだけれど戦闘機人の理論をもう一度最初から丁寧に纏めてメンテナンスや維持についての話をいれておいた。これは私欲の部分が大きいけれど。ナンバーズの皆さんは戦闘機人で、綿密なメンテナンス作業となる為に色々と充実した設備と技術が必要になって来るので、その辺りに困らない様にする事が目的。

 スバルさんとギンガさんっていう前例も居るから大丈夫だろうけれど、戦闘機人については管理局よりもスカさんの技術の方が上だろうしね。いや、管理局の技術者を疑っている訳じゃないんだけれど、人道的な部分を尊重してしまう分どうしても遅れるんだよね。そんな事だからスカさんの方に分があるって訳で。

 

 倫理的な問題がクリアする事になるなら事故とかで失ってしまった四肢として部分的に機械化が出来るから、義手や義足の代替案としてそれも論文にまとめて提出。他にもスカさんが得た戦闘機人で転用できる技術をいくらか纏めておいたけれど、その辺りは世間の理解を得られるならばって感じかなぁ。

 人道を無視している面もあるから一人で判断するのは難しいので、医学界等で認められれば陽の目を見る事になるだろう。戦闘機人に関しての技術はスカさんの実績がほとんどなんだけれど、俗世に興味が無かった為に論文提出とかやっていなかったスカさんの手柄を横取りした形になってしまうけれど、許して欲しい。

 

 培養槽のデータもそうだし遺伝子操作技術についても色々と考えて、遺伝子病の回避や治療法とかもこれまた論文にして医学界に提出。ガジェットドローンで培った機械工学でも、工場とかに使えるようにして補助機能的な物とか設計して経済界に殴り込んでみたんだけれど、受けが良かったみたい。

 それと魔導炉の小型化に合わせて出力を増やす為の論文と同時に特許を提出。これで日々の生活には困らないだろうと画策した。日常生活が送れないのは頂けないから、結構必死で纏めて少しでも良い金額になるように頑張ったんだ。

 

 本当は機械いじりにも精を出したかったのだけれども、アジトみたいに設備が充実していなかったし望める筈も無くてずっと机に向かって論文とか専門書とかを取り寄せてもらって知識を吸収してたなぁ。結構な量を半年間の間に書いたと思う。施設のお偉いさんに頼んで用意してもらった預金通帳を先程見てみると、この先暫くの生活には困らないくらいのお金が入金されていたから、懐は潤ってる。

 出所出来た私にお迎えをしてくれる人なんて居ないから、気楽なもんだ。風雨を凌げるアパートでも借りたいところだけれど、三歳児から四歳児にクラスチェンジした私に借りる事ってできるのかな。ミッドチルダの俗世には疎いので疑問だ。

 

 「これから、どうするのですか?」

 

 私の横に立つのはもちろん使い魔のロゼさんである。ロゼさんも社会を混乱に突き落としたりはしていないので私と一緒に厚生施設から卒業となった。というか私の出所の条件にロゼさんも一緒に出る事を私が提案しちゃったので、そうなっただけだけれど。

 

 「とりあえずは、すむところをさがしましょうか」

 

 ロゼさんの質問に答えて言葉を続ける。慎ましく日常生活を送れればそれでいいかなーって。私は自分の幸せだけを願える立場じゃないからね。そんなことだから、不動産屋さんを探してそこから住む場所を決めなきゃなぁ。無一文じゃないだけマシなんだけれど、四歳児に家を売ってくれたり貸してくれたりする奇特なお店があるのかが謎だ。

 

 「あんたがジェイル・スカリエッティの娘か?」

 

 さてロゼさんと一緒にお店を探しに行こうかってなった時、突然暗くなった視界に上を見上げれば見知らぬ人たち何人かで私を取り囲んで立っていた。それにしても、何時の間にそんな事になっていたんだか。私はスカさんのクローンってだけで親子関係はないんだけれど。嗚呼、でも"娘"って符号の方が実に簡単で分かりやすい。そんな事だから無言で私は頷く。

 

 「あんた達さえっ! あんた達さえ居なければっ!! 俺はっ、俺はっ!!」

 

 そう最初に叫んだ男の人の声に連鎖して続く周囲に居た人たちの呪いの言葉が無遠慮に降り注ぐ。家を失った人、会社を失った人、色んな人が居る。そりゃそうだよね、ミッドチルダの街に及ぼした被害は大きかったんだもの。

 

 「マスターっ! お下がり下さい!」

 

 あー待って、待ってください。ロゼさん。一般の人たちに手を出したらまた逆戻りどころか、今度は完全に鉄格子付きの塀の中になっちゃうから。ここは彼等のやりたい様したい様にさせてあげて下さいな。そのくらいの覚悟は出来ているし、罵られるくらいで済むのならまだ彼等には理性があるのだから。

 

 「ですがっ!!」

 

 止まらない罵声に反応してロゼさんが威嚇する猛獣みたいに怒っているんだけれど、不思議と私は恐怖も何も感じていなかった。彼等の言葉は人間として当たり前の行動で言葉なんだよね。

 どこにも嘆く場所はなくて、吐き出す場所すらも無くようやく見つける事の出来たジェイル・スカリエッティのクローン(大犯罪者の娘)という存在。しかも私もスカさんたちと一緒に悪事に加担していたのだから、その責任はあるのだし。

 

 「お前たちっ! 何をしているっ!!!」

 

 騒ぎを聞きつけたのか厚生施設の警備員さんが守衛所から飛び出してきた。その姿をみるなり、蜘蛛の子を散らしたように一目散に逃げていく人たち。

 そんな背中に私は頭を下げる事しかできない。助けてくれた警備員さんにお礼の為に再び頭を下げたのだけれど、気付くのが遅れて済まないと逆にこっちが謝られる羽目になって困った。私みたいな小さな子どもにやる事じゃない、けれど彼等の気持ちも汲んであげて欲しいってさ。もちろん理解しているから、その言葉に素直に頷くと警備員さんは苦笑してた。

 

 「久しぶりやなぁ。迎えにきたで」

 

 「?」

 

 ん、おや。そんな呑気な声が聞こえて来たので、そちらを振り向いてみればはやてさんの姿があった。その後ろには護衛なんだろうなぁ、シグナムさんとヴィータさんが居たよ。優しく微笑んでいるはやてさんに対して、後ろの二人は警戒心を見せているからロゼさんが反応して火花を散らしてる。

 

 迎えと言われても全然関係のないはやてさんがなんで私を迎えに来るのだろう。頭の中で疑問を浮かべつつも、私が拘置所と厚生施設に居た間と、裁判に出廷する際に色々と便宜を図ってくれた人の一人なのでお礼を伝える。ひらひらと片手を振って『気にしなくて良い』と言ってくれるけれど、一応、ね。言葉にしなきゃ伝わらないんだもの。こういう事はきっちりとやっておいた方が良いんだな。

 

 「行く当てもないんやろ? だったら六課(ウチ)に来うへんかって話なんや。まぁあと一ヶ月しか存続せーへん部隊なんやけど今後の事を考えるなら丁度ええ期間やあらへんか?」

 

 ようするにはやてさんは一か月間の仮住まいを提供してくれるという訳か。でも六課の隊舎を破壊したのはある意味で私の身内の人間なんだから、六課の人たちは良く思ってないだろうしなぁ。後ろの二人は怖い顔をしたままだし、あとひと月とはいえどそんな人間が居ることに六課の隊員の皆様は耐えられるのかなぁ。

 

 「小さい子供がそんな難しい事考えんでええ。その辺りは大人の務めやし気にせんでええさかいに。それにな、ヴィヴィオが君の事首を長くして待っとんねん」

 

 くしゃっと私の髪を撫でて笑うはやてさん。ヴィヴィオさんって六課でまだ受けていたっけと思いつつ懐かしい日々を思い出す。ヴィヴィオさんの事を持ち出されると強く出れない私が居た。断って適当に不動屋さんをしらみつぶしに当るつもりだったんだけれど……。

 

 「君に家を貸したり売ったりしてくれる不動屋さんなんて、あるんかな?」

 

 と、私の思考を読まれちょっと意地悪気なはやてさんに言われてしまってはもう逃げる道はなかった。なので素直によろしくお願いしますと伝えてまた頭を下げた。

 

 ◇

 

 やっぱり見慣れないミッドチルダの空を車窓から眺めて暫くすれば機動六課の隊舎へと辿り着いていた。車中ではやてさんから色々と六課のことやミッドチルダの事を教わりつつ、時折スカさんが起こした事件の事についても聞かれたりもしながら。はやてさんも色々と今後の為に考えている事もあるだろうから、嘘は話していないし知っている限りの事を全て喋ったつもりだ。でもフェイトさんと話した事と同じだったから目新しい収穫はなかったかも。駐車場から少し歩くと結構立派な隊舎が見えてきた。トーレさんたちが破壊したはずなんだけれど、半年でよく復興したなぁ。ミッドチルダの建設業界恐るべし。

 

 「あ…………ぜろぉっ!」

 

 機動六課の隊舎前ではヴィヴィオさんがまだかまだかと待っていたらしく、着いた途端に熱い抱擁を受けたまでは良かった。

 

 ――い、痛い。

 

 決して口には出さないけれど。ヴィヴィオさんは私の姿を見た途端にイノシシの如く突進し始めて私に抱きついたものだから、私よりも体格が大きいヴィヴィオさんの勢いに負けて地面に倒れて頭を打つ未来を迎えそうになったけれど、なんとか意地で回避しました。頭を打つ事を回避したまでは良かったんだけれど、子供の無邪気さ故なのかヴィヴィオさんは地面に倒れてしまった事を気付いていない。重いし息苦しいからそろそろ離して欲しい所なんだけれど、暫くはこの状態のままかも。

 

 「陛下、失礼いたします」

 

 むんずとヴィヴィオさんの襟首を掴んで私と引き離して助けてくれたのは使い魔のロゼさん。掴んだまま丁寧に地面に下して、どうにか窒息死することから免れて生きながらえました。ふぅ。

 

 「……大丈夫か?」

 

 その後に続いたのが凄く渋い声で話しかけてくれた守護獣のザフィーラさん。もちろん犬……じゃなくて狼の姿で。その姿を見た途端、もふもふして愛で倒したい欲求が沸き上がったけれど無理矢理に抑え込んだ。

 

 「よからぬ事を考えていないか……?」

 

 そんなことはないですよーと、急いで首を振って誤魔化した。ザフィーラさんって鋭いよね。獣の直感なのかな、犬って考えると直ぐに訂正を求めて来るんだもの。私の『もふもふしたい』って気持ちが強くて、それがロゼさんに伝わったみたいでこの日の夜にロゼさんから『どんな獣が良いでしょうか』と言われて困まり果てた。

 ロゼさんはロゼさんだし、スライムさんの姿でぎゅーってするのも大好きだし、人間の姿でぎゅーってされるのも好きだから。でも獣の姿に擬態するのでもふり倒してくださいと言われると、流されそうになる私が居る。なのでこれは最終兵器として取っておこうと思う。犬や猫を飼ってもいいんだけれど、構うとロゼさんが確実に嫉妬するだろうし最後を看取らなきゃならなくなるのも確実だからね。と、閑話休題。

 

 「珍しいなぁ。ヴィヴィオが誰かに懐いとるなんて……」

 

 そういえばヴィヴィオさんには人見知り属性があったんだっけか。私の傍に何時も居たもんだから忘れてたなぁ。

 

 「さてと、まだ君に逢いたい言うとる人が居るんや。隊舎の中の案内は後にして先に会ってもらってもええかな?」

 

 私の返事を待たずに"こっちやで"と言いながら歩き始めるはやてさんの後姿を追いかける。もちろん歩幅が普通の大人の女性のものだから追い付ける訳もなく。なのでロゼさんが自然に後ろから手をだして私を抱きかかえて歩き、ヴィヴィオさんもザフィーラさんの背中に乗って移動。その後ろにはシグナムさんとヴィータさんも一緒に歩いて付いて来てる。結構な大所帯になっちゃったけれど仕事は良いのかなと思いつつ、結構な距離を歩いた。そうして辿り着いたのは海側の演習場だと思われる場所ではやてさんの足が止まった。

 

 「ああ、あの時のちびっこじゃない。……そういえば新しい人が増えるって通達があったわね、それアンタの事だったのね」

 

 「あ、本当だっ! 久しぶりだねぇっ!」

 

 訓練服に身を包んだティアナさんとスバルさんがこちらに気付いたようでわざわざ足を向けてくれて、挨拶を交わす。

 

 「ひと月ここに居るんでしょ。よろしくね」

 

 「あ、そうだったっ! よろしくねーっ!」

 

 スバルあんたねぇ、と呆れ声でティアナさんが冷たい視線でスバルさんを見ている。なんだかアニメに出ていた二人そのままで、ちょっと嬉しかったり。その後にはエリオさんとキャロさんがやって来て自己紹介を交わしたよ。

 

 「ルーちゃんがお世話になってたってっ!」

 

 「うん。きみの話はルーから聞いたんだ。これからよろしく」

 

 とまぁ、そんなやり取りと共に抱っこされたりしてた。機動六課の中では最年少組の二人は、ヴィヴィオさんよりさらに年下の私がいる事になるのが嬉しいって。

 困ったらいつでも声を掛けて欲しい、だなんてその年齢で言えるなんて成熟し過ぎてないかなぁ。もう少し子供らしくても良いと思うんだけれど、彼と彼女の過去を考えるとそうもいかないか。私も前世は両親のお陰で大分捻くれた性格をしてたしなぁ。その横でヴィヴィオさんがなんでか不貞腐れてた。ヴィヴィオさんは皆から愛されているのだから、私がいる事で誰かがヴィヴィオさんから離れていくなんて在りえないから心配いらないと思うけれど。

 

 「あ……。あの時以来だね」

 

 管理局の白い制服に身を包んだなのはさんが私に気付いて微笑みながらゆっくりとこちらにやって来た。ロゼさんが警戒心MAXなご様子だったので、心配は要らないと伝えて殺気を引っ込めてもらうのに大変だったけれど。色んな事があり過ぎてはっきりと覚えていないから、ロゼさん程警戒心は湧かないんだよね。ロゼさんは逆になのはさんの事を敵わない人って意識してるみたいで、私を守れる自信がない為に余計に警戒してるみたい。

 

 「あの時は巻き込んでごめんなさい。それと、ヴィヴィオを助けてくれて本当にありがとう」

 

 開口一番にそう言って頭を下げるなのはさん。いえいえ。ヴィヴィオさんを助けたのは私じゃなくてなのはさんの優しさだ。ずっと拘束系の魔法で戦いながらの決着を狙ってたし、大変だったと思う。それよりもスカさんやナンバーズの皆様がご迷惑をお掛けしたのだし、むしろ私が謝るのが正解で怒られるのが筋だと思うのですが。何で皆こんなに優しいのか不思議である。

 

 「こんにちは、久しぶりだね。元気だったかな?」

 

 その後に続いてフェイトさんもやって来た。何度か取り調べをフェイトさんから受けて、裁判でも弁護人を務めてくれたしはやてさんと同様に色々と便宜を図ってもらった人の内の一人なんだよね。いつの日かお礼を必ずと心に誓う私を余所に施設での暮らしぶりとかを聞かれたんだけれど、心配し過ぎじゃないのかな。目の前の美人さん(ロリコン)は。半年前までは敵対してて、死闘を繰り広げていたのに良くこんなに気を許せるもんだ。

 この戦力過剰な機動六課に放り込まれた理由が私を監視する為だったら、なんつー策士なんだろうか管理局。確かにこの面子だと私は何も出来る事はない、というか引き篭もりだったし戦闘訓練を受けた訳でもないので無害なはずなんだけれど、スカさんのクローンだしそう思われていないのかもしれない。スカさんみたいに悪事を働くつもりなんてないし、邪魔にならない様に大人しくしておくつもりだし、出来る事があるのならば協力は惜しまないつもりなんだけれど、これからどうなるかなぁ。

 

 ――さてこのひと月、一体どんな事があるのやら。

 

 そんなこんなで六課の主だった面々にはお人形のように私は扱われておりました。ちょっと疲れたけれど皆原作通りに良い人ばかりで良かったーと一安心してた。

 

 ◇

 

 何も考えずに私を六課に誘ったのだろうかと思う事件が勃発してしまった。それも六課に来た一日目にしてだ。

 

 それは私の寝床問題である。てっきり開いている隊士部屋を貸してくれるのだろうと考えていた私なんだけれど、そうはいかなかった。空いている部屋は無いとはやてさんからにこやかに告げられ、それならば適当に書庫なんかを借りてロゼさんベッドで眠ると宣言すると力強くフェイトさんから却下され、その横でなのはさんも確りとフェイトさんの言葉に頷いているし。そんな二人の様子にはやてさんは苦笑いをしてた。絶対に他人事に思ってるよはやてさんは。

 じゃぁどうするのかってなったんだけれど皆が自室に来いと誘ってくれてたんだよね。私はちんまいから一緒にベッドに寝ても邪魔にならないからと、全員に言われ。フェイトさんとなのはさんはヴィヴィオさんと三人で同じ部屋で今更一人増えたところで問題はないらしい。スバルさんとティアナさんも別に私が居ても困らないそうだし。キャロさんも一人で寝るのは寂しいので来て欲しいって。エリオさんは流石に『僕は流石に……』と自重してくれてた。某おこじょとは大違いである。はやてさんも部隊長部屋だから広いけれど、閲覧不可な書類とかあるからと言って唯一駄目って言われた人。それはまあ仕方ないし、今度八神家の方に泊りにおいでと誘ってくれたんだ。

 

 そんなこんなで私は日替わりで皆さんの個室にお邪魔する渡り鳥になりました。

 

 荷物が少ないから良いものの、本当に場当たり的に考えていたんじゃないかと勘繰ってしまう出来事だった。初日の今日はなのはさんとフェイトさんの隊長陣の部屋です。滅茶苦茶広くて、ベッドが大きいので四人が一緒に寝る分には問題はなさそう。隊舎の食堂でご飯も済ませて、そろそろヴィヴィオさんがおねむの時間に差し掛かる頃だった。

 

 「そうだ、皆で一緒にお風呂に入ろっか!」

 

 良い事を思いついたとばかりに、一度手を叩いて嬉しそうにするなのはさん。

 

 「あ、いいね、なのは。皆で一緒に入ろう」

 

 なのはさんに続いてフェイトさんも同意。この二人がそういうのなら決定事項だろうし、慣れていない場所で一人でお風呂に入るのは大変だから有り難く素直に頷く。ロゼさんはお湯に浸かると、しばらくふやけてしょんぼりしてしまうのでお留守番。

 

 「……ぜろのえっち!」

 

 何処でそんな言葉を覚えたんだろうか。そんな子に育てた覚えはありませんと冗談で心の中で思いつつ、何故か赤面しているヴィヴィオさん。ヴィヴィオさんの突然の発言にきょとんとする私となのはさんとフェイトさん。

 あれ、もしかして私の性別ヴィヴィオさんに勘違いされてるのかしら。確かにアジトじゃぁ長袖長ズボンを着ていた、でもそれは実験で使ってた薬品が肌に直接付くと危ないし、機械いじりの時に火の粉なんかが飛んで来たりするから危険防止の為だったんだけれど。でもいわれてみれば今もズボンを穿いててスカートなんて無縁だった。それにスカさんのそっくりさんな為に男顏だし二次性徴期も訪れていないからその事が助長してるので、ヴィヴィオさんが勘違いしても仕方ない……のかな。でもやっぱり複雑で。

 

 ――私、一応女の子に分類されるはずなんだけれどなぁ。

 

 心の中で強くそう思いながら、釈明をお願いしようとなのはさんとフェイトさんに視線を向けてみれば、二人は微笑ましそうに私たちを見ているだけで助けてくれる様子が全くない。なので自力で解決するしかなくなってしまったよ、トホホ。

 ヴィヴィオさんに私の性別を説明して納得してもらうまでにはかなりの時間を要し、これなら見てもらう方が早いから皆と一緒に脱衣所に直行して『ぱおーん』(ぞうさん)がない事を確認してもらったら納得するしかないよね。なんでこんな事をしているんだろうって私の魂が飛びかけていたけれど、どうにか自我を保った私は偉いと思う。あとでヴィヴィオさんにはお説教タイムを設けねばと考えながら、久しぶりに入った浴槽は気持ちよくて。それになのはさんとフェイトさんが劇甘モードだったので全自動だったし。悪い気はしないけれどやっぱり慣れないし恥ずかしい。

 

 機動六課の皆様にリクエストされた事もあり後日、ヴィヴィオさんのアジトでのご様子をご鑑賞して頂く事になりました。その映像を見てしまい顔を真っ赤にしていたヴィヴィオさんは可愛いと思います、まる。

 

 ◇

 

 ヴィヴィオさんの盛大な勘違いを解いた翌日、私はとある場所へと呼ばれていた。そこは機動六課の部隊長室。高級そうな革張りの黒くて大きなソファーには私が真ん中に座って、両隣にはなのはさんとフェイトさん。対面のソファーにははやてさんが座ってる。珈琲もテーブルの上に用意されていて、私にはオレンジジュースを淹れてくれてた。で、この四人が部隊長室に集まった経緯なんだけれど、これは私の進路相談とでも言うのかなぁ。ヴィヴィオさんはなのはさんの養子に入る事は決定しているみたいで、行先の無い私の事を心配してくれての事なので無碍には出来ないし、断りきれなかった為にこうなっちゃった。出来るのなら、私とロゼさんとで生計を立てたいんだけれど四歳児という身が邪魔をしてしまう。

 いくら社会進出が早い管理世界とはいっても、流石に四歳は異常みたいで。保護責任者の話とか養子としての引き取り手の話とかその辺りがメインに据えられてた。

 有り難い事に私を引き取りたいとか保護責任者になっても良いって名乗り出てるもの好きが既に居るらしい。多分裏には色々とその人たちの思惑があるんだろうけれど、スカさんという保護者を失った私がこの世界で生きて行く為には必要になるから私もその時は利用させてもらうとしよう。でもロゼさんと慎ましく生活する為の資金はあるし、保護責任者も里親も必要ないから難色を示した為に話は前に進む様子はない。どうも三人は私に保護者が必要だって思っているみたいで話は平行線になっちゃうんだよね。

 

 「……やりたい事がある?」

 

 こくりと一つ頷いてそれを見たはやてさんは『それは何なん?』と促されたので私が厚生施設の中で考えていた事を話す。内容は簡単な事で、スカさんが引き起こした一連の事件の被害者の人たちの為の基金を設けたいって事。その事を話した途端に三人とも微妙な顔になったけれど何でだろう。

 お金のあてはちゃんとある。私が研究して論文にまとめたものや、特許申請をして得た使用料からお金をつぎ込むつもりんだんだけれど。もちろん自分の生活もあるから全額なんてつぎ込む事は出来ないけれど、慎ましい生活をすればどうにかなるだろうって。

 

 「そ、そこまでしなくても良いんじゃないのかな?」

 

 と、なのはさん。

 

 「そうだよ。責任はスカリエッティにあって君にじゃないよ?」

 

 と、フェイトさん。気持ちは有り難いけれど、ちゃんと裏事情もあるんだよね。だから無償の善意だなんて良いもんじゃない。コレを理由にしてスカさんたちの刑期短縮とか恩赦を嘆願するんだし。

 きちんと話さないと三人は納得してくれそうもないので私の真意をちゃんと伝えると、ビックリした顔をしてた。まぁ四歳児の考える事じゃないんだけれど、私はスカさんのクローンだって事で納得して欲しい。そんな事なので、管理局内で伝手があるなら教えて欲しいし、もちろん見返りもちゃんと用意すると言った。その言葉にはやてさんは頭を抱え、なのはさんは苦笑い、フェイトさんは魂が抜け落ちてた。

 

 「はぁ……わかった。その件についてはどうにか出来ると思う。けど無理はアカン。これだけは約束してな?」

 

 真っ直ぐに私を見るはやてさんの瞳に嘘はないと思うから、こくんと確り頷いた。もしかすればやらなくても良い事で、無駄な事なのかも知れない。でも、やらなきゃいけないんだと思うから。

 

 ――一年後、スカリエッティ基金設立。

 

 紆余曲折しながらようやく設立できた。被害者の人たちの気持ちを考えればその命名はないじゃないか、と言われそうだけれど本当に困窮して困ってる人たちを助けたいって意味合いで付けたのもある。藁にもすがる気持ちならば利用できるものはどんなものでも利用するだろうし、一応代表者である私の名前は偽名になってるから平気かなって。色々と煩雑な手続きが必要で、諦めそうになった事もあるけれど。もちろんスカさんたちの釈放や恩赦について影響力のある管理局と、管理局に発言力の有る聖王教会にはこの事を伝えて了承も貰っているから、ちゃんと形になった訳だ。そしてこれは"贖罪"なんてものじゃなく、私のエゴが生み出した産物だ。だから他の人から褒められるモノでもなし、むしろ責めてもらっても構わない。ただただスカさんやナンバーズの皆は私にとって『家族』なんだもの。

 この話をすると六課の皆は微妙な顔をしちゃうからあまり大きな声で言えないけれど。たとえどれだけの時間が掛かったとしても、もしかすれば死ぬまで掛かったとしても遣り遂げればいけない事だもんね。

 

 だからその日に向かってゆっくりでも良いから進もう。

 

 ――いつかまた一緒に皆と暮らせる日を望みながら。

 




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