転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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 【注意】隊長陣視点の話は三人称になります。お気を付け下さいませ。


おまけの話
第一話:機動六課隊長陣視点


 古代遺物管理部機動六課部隊長である八神はやては頭を抱えていた。

 

 先のアインヘリアル強奪事件で明らかになった"戦闘機人"のメンバー全員。そこまでならば問題はなかった。過去の戦闘でスカリエッティ一味である戦闘機人の報告は受けており、その構成員もほとんど割れていたのだから。しかし、一つ問題が浮上した。アインヘリアル三号機を爆破された時の映像を流し、はやては目を細める。

 

 「なんで、この子が……」

 

 その子供とは地上本部で面識があった。少し前に地上本部の警備部隊を一部機械化するとの通達があり、その時に開催された配備説明会で陣頭指揮を執っていた小さな子供。面識のある子供がアインヘリアル強奪・爆破事件に関与していたのだから、驚きを隠せないでいた。

 

 まだ三歳という年齢ながら言葉使いや態度は大人顔負けのものであり、外見以外は社会人として立派に通用するものだった。一言で言えば類まれなる天才児で、必ず管理世界に革命を起こす人物だろうと確信していたはやて。その才覚に彼女の将来を考えて唾を付けておいたのだが、どうしてこんな事になってしまっているのだろうか。あの小さな子供がスカリエッティ一味の一人である可能性が浮上した事は青天の霹靂だった。

 子供から貰った名刺を見つめながら深い溜息を吐く。どうせこれは偽名であろうし企業も実在していないか、偽装されたペーパーカンパニーである事は明らかで。先行配備されたSUCUJIA十体はなんの問題もなく警備をし、先の本部壊滅でレジアス・ゲイズ逮捕の一件にも貢献してはいるが、SUCUJIA自体に何か仕込まれている可能性も危惧しなければならなくなった。部隊の隊舎喪失、地上本部の壊滅とそれだけでも頭の痛い案件が山積みであったのに、今回のアインヘリアル強奪事件で更に頭を抱える羽目になってしまったはやては間違いなく苦労人であろう。

 

 「はやて?」

 

 「ん、ああ、フェイトちゃんか……」

 

 スカリエッティ一味による機動六課襲撃で隊舎は壊滅しており、ココは臨時で借り受けた管理局が所持している建屋の一室、そして今は部隊長室として機能していた。隊舎襲撃によりヴィヴィオを攫われて気落ちしていたフェイトであったが、家族であるエリオとキャロにより大分復活しており、その瞳には確りと光が宿されている。

 

 「返事がないから勝手に入ったんだけれど……大丈夫? 顔色が悪いよ」

 

 「ん、あー。平気やって言いたい所なんやけどなぁ……」

 

 度重なる事件により、地上勤務の管理局員ならば誰しも疲弊している事だろう。その事を理解しているはやては立場上疲れているなどとは言えるはずもなく、そのまま手元にあった写真を入室していたフェイトに見せる。

 

 「これってアインヘリアル三号基爆破の時に居た子だよね?」

 

 「うん、そうや。なんでこんな小さい子供が場違いなところに居てたんかは謎なんやけど……」

 

 地上本部での出来事を考えれば、子供であろうが大人顔負けの態度を取っていたのだから不思議ではない。しかしそれをフェイトに伝える事はなく、写真の子供についての考察に入ってしまった。

 

 「うーん。スカリエッティ達に脅されている、とか?」

 

 「そうだったらええけどなぁ。……この子の顔、スカリエッティにそっくりやん? スカリエッティの子供かクローンって可能性の方が高そうやけど……」

 

 その言葉にフェイトは顔を歪ませるが、直ぐに元に戻る。それを察知できなかったはやてではないが、この場はあえて黙っておいた。フェイトにも色々と事情がある事は知っているし、そんな事をすれば彼女が傷ついてしまうのは百も承知だから。

 

 「それなら、どうしてこんな小さい子を危ない場所に連れて来たんだろう……」

 

 普通ならばフェイトの言うとおり危ない場所に小さな子供を連れて行くなど愚の骨頂であるが、写真に写る子供は特殊な存在である。

 

 「この子な、地上本部の機械警備兵を作った張本人やねん……」

 

 「へ?」

 

 衝撃の事実にフェイトは驚きなのか呆れなのかなんだかはっきりしない感情を抱えて、素っ頓狂な声を上げた。

 

 「その反応が正しいんやろうなぁ……。わたし、この子と面識あるんやけどな、めっちゃ確りした子やねん。大人顔負けの論で説明会、乗り切ってたしなぁ」

 

 子供だからと言って甘い顔をする管理局ではない。不備があればキッチリ指摘するし、ダメな事があればそれも指摘される。それらを踏まえて弁舌と己の実力で技術者や本局の高官たちを納得させていたのだから、子供の実力を素直に認めるしかなかった。

 

 「は、はやてっ! この子知ってるのっ!?」

 

 「せやで。まぁ話したのは他愛のない事やったし、一言二言なんやけどな。それにその時は、こんな事になるなんて思うとらんかったし」

 

 知っていたなら速攻で身柄を確保していたと、心の中で愚痴る部隊長。だが非情にもその時は写真の子供の立ち位置など知らず、規格外の天才としか認識していなかったのだから。

 

 「こんな小さい子を逮捕せなアカンのかなぁ……」

 

 捜査官として数々の事件に関わり解決してきたとはいえ、犯罪を犯した者たちは大多数は大人だった。時折子供も逮捕する事もあったが、ここまで幼い子供は初めてであり戸惑うのは仕方ない。長年管理局に努めているとはいえ、彼女もまだ十九歳である。地球の日本で暮らしていれば、まだ学生であったかもしれないのだから。

 

 「……はやて。気持ちは解るけれど助けてあげなきゃ、ずっとスカリエッティの下で罪を犯さなきゃいけなくなるよ。だから私たちがちゃんと更生の道を歩けるように導いてあげなきゃ、ね?」

 

 執務官として働いてきたフェイトの方が、こういう事に直面した事が多いのかも知れないし犯罪に巻き込まれた自身と同じような境遇の子供を助けたいと標を掲げているフェイトだから、嫌でもなれてしまっている。それでも、何度このような光景を目にしても胸に走る痛みがなくなる訳はないのだが。

 

 「せやな、フェイトちゃん」

 

 無理矢理に笑顔を作り笑うはやて。返事の代わりにフェイトも笑う。

 

 「でも本当にスカリエッティにそっくりな"男の子"だね」

 

 エリオと仲良しになれるかな、なんて既に将来を考え始めているフェイトは子煩悩である。

 

 「なに勘違いしとんのフェイトちゃん。この子、女の子やで」

 

 「え、男の子じゃないの?」

 

 「……お、女の子やろ?」

 

 一瞬口籠ってしまったはやてはフェイトの言葉に疑いを持ってしまう。もらった名刺の名前は完全に女性の名前ではあったのだが、確かにスカリエッティにそっくりであるし幼い子供故の幼児体型で性別の判断に確信が持てないのだから心が揺れてしまっても仕方ない。ここでもゼロの性別問題が勝手に勃発し、二人の疑問は謎のままであった。

 

 ――ぶぇっくしゅっ!

 

 同時刻、某所。誰かが盛大なくしゃみを噛ましていた。

 

 ◇

 

 『諸君! 私は研究が大好きだ』

 

 突然ジェイル・スカリエッティの仕業により電波ジャックされミッドチルダにある数々のテレビ局は騒然としていた。電波を復帰させようと色々と試してはいるがそれは叶わないままで。高らかに声を上げながら大仰に両手を広げ、男がドヤ顏を画面越しにみせつける。この映像を見ている次元世界の人々がイラッ☆としたのは言うまでもない。

 

 『諸君! 私は開発が大好きだ』

 

 その白衣の男、ジェイル・スカリエッティの腕の中には小さな子供が抱えられており、男と瓜二つの顔をしていたが演説で器用に表情を変えるスカリエッティとは違い幼子の顔は無表情。どうしてその場に居るのか、どうして世紀の大犯罪者であるジェイル・スカリエッティにそっくりなのか、疑問はいくつも湧いてくるが真相を知るものは少ない。

 

 「諸君! 私は研究・開発が大好きだ!!』

 

 聖王教会に所属するカリム・グラシア騎士の予言通り、無限の欲望は壺から溢れ出てこの世界を恐怖に突き落とそうとしていた。聖王のゆりかごは起動し、ミッドチルダに住む人々は狂い始めた平和に慟哭する。

 

 「あ、あの子……」

 

 ぼそりと声を漏らすフェイト・T・ハラオウン。ぎゅっと手を握りスカリエッティが潜伏しているであろうアジトの入り口を厳しい視線で見つめる。

 

 ――必ず、助けるからね。

 

 ヴィヴィオも君も、と。フェイトの誓いは公人として大人として素晴らしい物だろう。悪を倒す正義そのもので、そして彼女の持つ正義感も至極正しい物なのだが、件の子供がジェイル・スカリエッティの下に居るのは自らの意思である事を知らないのは幸か不幸か。突入メンバーであるヴェロッサ・アコーズ、シャッハ・ヌエラらと共に頷き、彼女達は巨悪に立ち向かうべく歩を進めるのだが、フェイトが子供を助ける事は出来なかった。

 

 「……居ないっ!」

 

 逮捕したスカリエッティの身柄を武装隊に任せて、崩壊しつつあるアジトを移送いで移動して来たのだが空振りに終わる。

 

 「先程まで、気配はあったんだけれどねぇ」

 

 スカリエッティの右腕といえる戦闘機人ナンバー1であるウーノを逮捕したヴェロッサが子供の居る場所を突き止めてはいたが、あと一歩遅く。子供はクアットロによって、聖王のゆりかごへと転移魔法で移動してしまっていた。空振りしてしまったフェイトの落胆ぶりは凄まじく、後に高町なのはとの関係に少々罅が入るのだが十年以上の付き合いがある二人なのだから、一応の解決は出来たと明言しておく。

 

 罅が入った原因はもちろん、高町なのはが放った処刑用バスターについてである。

 

 助け出せなかった事に後悔をしながらも、やるべき事がフェイトには残っていた。ヴェロッサに後の事を任せてアジトの別の場所に存在するという生体ポッドがある場所を目指した。

 

 ◇

 

 スカリエッティ確保の報を受けて安堵したのもつかの間、聖王のゆりかごは首都クラナガンを目指しゆっくりと移動していた。それを阻止する為にはやての家族である鉄槌の騎士ヴィータがゆりかごの駆動炉に向かったのだが、破壊したとの報告は未だに届かない。首都であるクラナガン上空でガジェットドローン殲滅の為に指揮を執っていたはやてだが、頃合いだろうと考え他の人間に現場の指揮を任せて聖王のゆりかごに突入する事となる。

 

 ――ゆりかご内部・メイン通路

 

 リノリウムの床をひた走る……事もなく飛行魔法で飛んで移動するはやて。AMFの影響で本来の力を出せずにはいるが、魔法を使えない事はないので魔法で移動し一路駆動炉へと急ぐ。時折ガジェットドローンと出くわすが問答無用で破壊して、駆動炉へと辿り着いた。そうして炉に視線を向ければ自身の大切な家族が力尽きる寸前で抱き止めた。

 そうして駆動炉はヴィータの活躍により、その活動を停止し高度を維持できなくなったゆりかごは、ゆっくりと確実に高度を下げていた。ヴィータの怪我の具合が心配なために一度脱出する事を優先し、今来た道を引き返すはやては他の部隊員が気になり移動しながらモニターで刻々と変化していく状況を眺めていたその時だった。

 

 『ディバイ――――ン…………』

 

 『ふふふ……! 貴女はこんな小さな子供を撃てるのかしら……?』

 

 ひょいとナンバーズの一人によって抱きかかえられた小さな子どもは見知った顔だった。スカリエッティのアジトに居るはずの子供が聖王のゆりかごの最深部に何故居るのか一瞬頭によぎるが、今見えるモノが真実であり変わることはない。

 

 『バスタァ――――――――――! ……って子供ぉぉおおおお!!』

 

 「……なのはちゃん」

 

 「……なのは……」

 

 ヤってしまったと言わんばかりの呆れ声は、はやてとヴィータにしか聞こえない。

 

 『レイジングハートっ! 止めてっ! 止めてぇえっ!』

 

 必死に砲撃を止めようとするなのはだが、撃ってしまってはもう遅い。魔法詠唱をキャンセルすればどうにか止められるのだが、術者への影響が大きい為に余り好まれる手段ではない。

 

 『もう射出されてますので無理です、マスター。魔法ダメージは残ってしまいますが、撃たれた人たちが死ぬ事はありません』

 

 "非殺傷設定"が名目上効いているのだが七発のカートリッジをロードし一撃必殺を狙った一発は、どう見ても、誰が見てもアレは死亡してもおかしくはない立派な桃色のゴン太巨大ビームであった。

 

 「なのはちゃんがヤってしもうた……」

 

 「……」

 

 部下の失態に頭を抱える部隊長。子供の正体が民間人なのかスカリエッティの手下なのか確定していない状況でのコレは大変に不味い。胃に痛みが走り始めた事を認識しながら、部下兼大切な友人である彼女の失態の処遇と処罰について高速で考えを導きだし、答えを模索する。

 

 ――映像加工してしまおう。

 

 最低な考えを過らせながら、空中に浮かべたままのモニターを横目で見ると信じられない光景が広がっていた。処刑用バスターにより舞い上がった土埃が晴れて、映像が回復する。顔が歪になっている金髪長身巨乳の女性とその足元には例の子供の姿。そしてその後ろには気絶して倒れているナンバーズの四番目の姿があったのだから、驚くのは仕方ない。

 

 「ウソ……やろぉ……」

 

 「あ、ぁあ……」

 

 信じられない光景が広がっていた。はやての旧友であるなのはの()()を受けたというのに、生きているのだから。いや、この言い方では語弊があるのだが、ある意味で間違ってはいない。旧友のアレは肉体には限界ギリギリまでの負荷が掛かるだけで死にはしないのだが、精神的に死んでしまう可能性が大きいのである。そうしてそれを耐えられた人間は極僅か。はやては人伝に聞いた話や以前に読んだ報告書の内容でしかしらないのだが、もちろんソレはフェイトの事だった。

 まことしやかに囁かれている噂では『高町教導官の砲撃(アレ)を受けるとドMになる』と言いだしたのは果たして誰なのだろうか。その責任の所在を追及してしまえば、噂の元凶は確実完全にドMとなってしまうだろうから誰もが目を瞑っている状態なのだ。

 

 ――同時刻・某所

 

 「酷いよ……なのは、あんな小さい子に……ディバインバスターを撃つなんて」

 

 もちろんわざとでは無い事は理解しているのだが、空中モニターを目にしながらぽつりと零れたフェイトの言葉は長年の友人に向けた本心であった。……閑話休題。

 

 かなり疲れた様子の小さな子供ではあるが、どうにか命に別状はない様子で。安堵の息を一つ吐いてはやてはゆりかごの外へと早々に脱出。負傷が酷いヴィータを医療班に任せて、また部隊の指揮を執るべく通信をアースラへと繋げようとしたその時だった。

 

 「なのはちゃん……! なんつー無茶やっとんねんっ!」

 

 友人の無茶振りに怒りがこみ上げて叫んでしまうが、なのはが昔から無茶を仕出かすのは百も承知だった。だが、また同じ過ちを繰り返そうとしているのだから笑えない。今まさしくヴィヴィオの体の中に取り残されているレリックを破壊する為に、スターライトブレイカーを撃とうとしているのだから。けれど、はやてにそれを止める権利はないのだろう。なのはが無茶をするのは十年前に知っていたし、その無茶で自身も救われたのだから。そしてまた運命に翻弄された小さな一人の少女を救おうとしている。自分の身を犠牲にしてでも、だ。

 

 『ちょっと痛いかもしれないけれど、我慢してね。ヴィヴィオ……』

 

 長らくの戦闘により周囲に散らばった魔力素をかき集めて、自身の魔力へと変換していく収束魔法。その威力は星をも軽く壊すほどと言われる事もある、高町なのはの最終兵器だった。無茶ではあるがきっとヴィヴィオは救われると、その映像を見ていた誰もが思った瞬間だった。

 

 『まってください……』

 

 『……にゃっ!』

 

 何処からともなく聞こえてきた突然の声により、予備動作である収束が一旦遅くなる。繋げていた機動六課の通信を割り込んで砲撃を止めたのは、あの小さな子供。驚いてしまったのか最近では滅多に口にする事のないなのはの口癖が出ていた。

 

 『かのじょのぼうそうをこちらで きょうせいてきに とめます』

 

 たどたどしい言葉ながら、モニター越しに映る子供の姿は確りとしたもので嘘を吐いている様には到底思えない。だが、疑心は残る。なにせ次元世界を揺るがす次元犯罪者ジェイル・スカリエッティそっくりであり、なによりスカリエッティの演説に一緒に映っていたただ一人の人物なのだから。一味の中で重要な立ち位置にいると考えられるのは安易な事だから。なのはと子供のやり取りを、注意深く観察するはやて。子供の真意は何処にあるのか、全く理解が出来ない。

 

 『えっ、え?』

 

 砲撃を止められたなのはは狼狽える。ヴィヴィオを撃ち抜く覚悟は既に霧散しており、もう一度集中しろと言われても難しいだろう。そんななのはを余所に、小さな子どもは聖王のゆりかごのメインコンソロールパネルに向き合い、恐ろしい勢いでタイピングを始めた。

 

 『ヴィヴィオっ!!』

 

 暫く待っているとヴィヴィオは気を失い地面に倒れそうになるが、それを許すなのはではなかった。そうしてしばらくして子供の手は止まり、小さく息を吐いて通信を繋げた。

 

 『どうにか とめることができました。あとはかのじょのからだのなかにねむっている れりっくをどうするか、だけです』

 

 『え? あ、うん。……ありがとう?』

 

 未だに事態が呑み込めていないなのははヴィヴィオを抱きしめたまま、子供に曖昧な返事を返す。

 

 『それと これを』

 

 そうしてなのはの下には大量のデータが送られていた。それもレリックに関する記述である。専門的な事はさっぱりと分からないが、子供からの説明を聞けばヴィヴィオの体の中に埋まっているレリックの取り出し方法だった。その真贋を突き止める為に、戸惑いながらも上司であるはやてが居るロングアーチへとデータを転送。さらにそこから専門技術者にデータを送り返事を待っている状態なのだが、遅いとはやてが心の中で悪態を吐く。

 

 『とりあえず ゆりかごのじどうぼうえいモードは ふせぎましたが くどうろがだめになっているので ついらくのきけんがあります。なのではやく にげてください』

 

 その言葉に続いて、子供は地図をなのはに寄越した。その地図は聖王のゆりかごの地図で、ご丁寧にも最短の脱出経路が記されているもので。

 

 『君はどうするの?』

 

 『こちらはこちらで どうにかなります』

 

子供の機転の早さに驚きながらも、小さな子供を置いて自分たちだけ脱出してしまうのは忍びないらしく、なのはは困惑していた。

 

 「……なのはちゃん、一旦ヴィヴィオを連れてゆりかごから脱出しよ。もろもろの問題は後からでもかまへんっ!」

 

 『わかった』

 

 納得のいかない顔をしながらも、ヴィヴィオがいる為にはやての言葉を聞くしかないなのはの表情は渋いモノだった。おそらくは小さな子供の事で思う所があるのだろうが、ヴィヴィオの状態も心配だった為に必ず後で迎えに行くと心に誓いゆりかごを後にした。犯人の生死よりも、部下の命を優先させたはやては優秀な指揮官としての証拠だろう。

 幼い子供を見限るだなんてひどいと言われても、優先すべきは部下の命であり比重が重いのである。もちろん助けたいのは山々であるが、今は猫の手を借りたいほどに忙しいのだから。犯罪者に構っている暇はないし"どうにかする"と言った子供の言葉に賭けている部分もあった。

 

 『部隊長っ!』

 

 「おお、ティアナ。無事やったんやなっ! 怪我とかはないっ?」

 

 唐突に入った通信にはやては顔を綻ばせる。管理局内部は混乱に混乱を呼び通信回線は大量の通信でパンク状態だった為、一時的に音信不通状態になっていたのだ。大事な部下の様子に安堵して、報告される内様に耳を傾ける。

 

 『理由は判りませんがガジェットの動きが全て止まったので、私とスバル、ギンガさんの手が空きそうなのですが……』

 

 「ギンガ、無事やったんっ!?」

 

 "ギンガ"の言葉に即座に反応したはやては驚いた様子で、ティアナからもたらされた吉報に喜びを隠せない。スバルとギンガによる戦いへと発展していたのは知っていたが、戦闘が忙しく経過を知る事が出来ず仕舞いだったのだから。ティアナからの報告によると、どうやら戦闘に発展してからいくらも経たずに洗脳から解放され自我を取り戻したとの事。戦力が足りない為にそのまま戦線復帰、今に至るという訳だ。

 

 「お疲れのところ悪いんやけど、三人でゆりかごの中に入ってこの子を探してもらえんかな?」

 

 その言葉と共に、助け出すべき三人の画像データをティアナに送り、そのデータを見たティアナは顔が引き締まる。

 

 『了解しましたっ!』

 

本来ならばティアナの直属の上司であるなのはが下命する事が筋であるが、その人物は今はゆりかごからの脱出中で手を取れない。なのはへと通信を繋げなかったティアナの機転に感謝しながらはやては部下に命令を下し、そうしてなのはが先程子供から転送された地図のデータをティアナへと渡して"頼んだで"と短く伝えアースラの管制室へと急ぐはやての表情は硬かった。なにせ聖王のゆりかごは巨大で、何処かに墜落してしまえば甚大な被害を被ってしまう事は目に見えて明らかだった。出来る事ならば塵芥にして消滅させてしまいたい所では有るが、どだい無理な話である。

 なのは、フェイト、はやて三人によるトリプルブレイカーを以ってしても無理であろう。ゆりかごの破壊だけが目的ならばそれで構わないが、如何せんデカすぎるのだ。アレは。破壊して瓦礫が街に散らばる事だけは避けたい。落下地点も大体の予想しか出来ず、その区域の民間人の避難が遅れているとの報告も受けている。管理局の動きの遅さを嘆きながら、それでもやらなければならないと決意をしてアースラの管制室に辿り着いた。

 

 「みんな、ごめん。またせたな」

 

 本来ならばはやてはこの管制室に腰を据えているべき人間である。部隊の最高指揮官が前線で戦うなどと笑えない冗談であるのだが、如何せん管理局の人材不足が招いてしまった結果と、優秀な高位ランクの魔導師という肩書がそれを許してくれない。

 指揮官の帰還に顔を綻ばせるロングアーチメンバー。はやての顔を確認し怪我がない事にもう一度安堵して、気持ちを切り替えた。事件はまだ終わっておらずミッドチルダの危機は去っていないのだから。聖王のゆりかごが人口密度の高い場所に墜落すれば、被害がとんでもない事になってしまうのはココに居るメンバーが全員理解していた。

 

 「さっそくで悪いんやけど、本局のクロノ君に繋いでくれへんかな?」

 

 その言葉の瞬時に回線を開いたオペレーターは優秀で。即座に中央モニターには真剣な表情のクロノ・ハラオウンが小難しそうな顔をして口を開いた。

 

 『……言いたい事は分かっている。出港していないすべての次元航行艦を向かわせよう。今少し持ちこたえてくれ、はやて』

 

 「助かるっ! クロノ君お願いや!!」

 

 状況判断とそれを即座に実行させられる能力を持つ上司にはやては感謝しながら、沈みゆく聖王のゆりかごを厳しい視線で見つめる。

 

 ――墜落したら、ミッドが被る被害……考えとうもないわ。

 

 ふ、と誰にも気づかれない様に鼻を鳴らして悪態を吐いたはやてはモニターから視線を外して、オペレーターの一人に落下予測をリアルタイムで更新するようにと頼む。少しのズレが甚大な被害をもたらす可能性があるのだから見過ごすことは出来ない。無理矢理にアースラの砲撃でゆりかごの軌道を変える事も多少ならば可能である。即座に対応できるようにと細心の注意を払いながら、出来る事は最早ないのだと自身に言い聞かせ管制室の指揮官が座る席へと移る。

 

 『部隊長っ! 例の子供と容疑者の一人を確保しましたっ! 今、脱出中ですっ! それと子供から"コレ"を預かりました。部隊長に渡してくれとの事だそうですか……」

 

 中央モニターに突然割り込んだ通信には、風切り音を混じらせながら映るティアナの姿と共にバイクのタンデムシートにちょこんと座り眠っている件の子供が。その横にはスバルがナンバーズの四番であるクアットロを米俵のように担いでギンガが厳しい視線で担がれているクアットロを見つめていた。

 ナンバーズの扱いが雑だな、とはやては心に抱きつつも口にはせずゆりかご墜落にはまだ時間に余裕がある事を伝え、無茶をしないで脱出するようにと通達。彼女らと同じころなのはとヴィヴィオが脱出したという報告を受けて、これで聖王のゆりかごに残っている人間は居ないと一息吐き次の準備に取り掛かる。もちろん、次元航行隊一斉射撃による聖王のゆりかご粉微塵計画の事だ。一瞬遅れていた思考を元に戻して、ティアナからの報告で受け取ったデータを確かめる。

 

 「ウソ……やろ…………っ!」

 

 確かめたデータの内容に驚いて椅子から立ち上がるはやてだったが、直ぐに力が抜けもう一度椅子へと座る羽目となる。はやてが驚くのは仕方ない、スカリエッティ一味によって奪われてしまったアインヘリアルのコントロール権限だったのだから。しかもアインヘリアルの射撃権限は本来ならばもっと上の高官に付与されていたものである。本来、佐官程度の権限で請け負えるものではないのだが、はやての決断は早かった。

 その理由は次元航行隊を待たなくても、ゆりかごを粉微塵に出来る事。そして仮に失敗してしまったとしても後詰である次元航行隊の一斉射撃でカバーは可能。棚から牡丹餅というか、なんというか。得体の知れない子供の存在に少しばかりの恐怖を覚えながらも今はそんな事を気にしている暇はないのだ。選択肢は多いに越したことはないし、いまのゆりかごの位置ならば最小限に被害を収めされるだろうから。

 

 ――これでミッドチルダを救えるっ!!

 

 ギュッと強く拳を握り込んでアースラメンバーに二基のアインヘリアルによるゆりかご一斉射撃計画を皆に伝えた。その後の展開は早かった。次元航行隊が到着する前にゆりかごははやての計画通りにアインヘリアルによって粉微塵にされ、姿なく消し飛んでいく。

 これは管理局が後から調べて判った事なのだが、本来のアインヘリアルの出力よりも三割増しになっていたのは件の子供がこっそりと手を加えていた為だった。強化しなくとも十分な威力のあるアインヘリアルを更に強化した理由をとあるロリコン執務官が聞いた所『大艦巨砲主義って浪漫ですよね』と要領の得られない年頃の女の子には理解出来ない回答だった為に、真実は闇の中へと葬られた。某砲撃馬鹿が子供に聞いていればもしかすれば理解を得られたかもしれないが、そうなる未来は訪れず。……彼女らの名誉の為に名前は伏せておく事としよう。

 




10617字

 おまけ編に突入。おまけの第九話くらいからテコ入れしております。
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