転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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 ※誤字報告ありがとうございます。情けない話ですが、どうしても見逃してしまう所があるので大変助かります。┏○))ペコ


第二話:機動六課隊長陣視点

 執務官に与えられた執務室にて事件の全容を纏めているフェイト・T・ハラオウンの手が止まる事はない。次元世界を股に掛けて罪を犯し続けていたジェイル・スカリエッティは自らの手でとらえる事が出来たのだから。聴取には黙秘しているので事件の全容が明らかになるには時間が掛かるだろうが、今後一切彼の手による犯罪は起こらず不幸になる人が居なくなるのならば、今の忙しさも許容できるとフェイトは考える。

 まだまだすべき事は山のようにあるし、問題も残っているのだがその内にどうにかなるだろうと疲れすぎている為に思考を放棄させた。だがしかし、彼女は誰が見ても働きすぎであろう。一夜目の徹夜で星空を見上げた事は覚えているのだが、二夜目はどうしていたのか記憶がない。そうして三夜目を今夜迎える事になりそうなのだが流石に限界だと悟り、今夜はきちんと睡眠を取ろうと決意した時だった。

 

 『フェイトちゃん忙しい所悪いなぁ、そろそろ例の子供が目を覚ますみたいなんけやど、手は空きそうなん?』

 

 「本当っ!? 大丈夫だよ、今そっちに行くね」

 

 突然入った通信だったが、何時もの事だった。"お願いやー"と独特の訛りが入ったミッドチルダ語を使いこなす長年の友人の八神はやてに苦笑しながら、通信を受けた人物の下へと急ぐ。長年の付き合いで気は知れたものだから、会話もあまりないままフェイトが所持をしている黒のスポーツカーへと二人は早々に乗り込んで件の子供が収容された病院へと赴くのだった。

 

 「あ、そうそうフェイトちゃん」

 

 「どうしたのはやて?」

 

 「助けた子な、女の子で確定やからな?」

 

 「へ?」

 

 「いや、間違えてもうたら可哀そうやからな。一応や」

 

 「う、うん」

 

 "にしし"といたずら気に笑うはやてと状況が余り理解できていないフェイト。フェイトは車を運転している為よそ見が出来ないのではやての表情を知る事は出来ないが、こうして子供の前で男の子かと問うてしまうフェイトの未来は潰えたのだった。

 

 病院に到着するなり受付で二人は別室へと通され、子供の様態について医師から説明を受けた。取り敢えず、ディバインバスターを受けた肉体的影響はない事。ジェイルスカリエッティの完全なクローン体である事。尋常では無い情報を脳髄に直接流し込まれた痕跡がある事、リンカーコアの性能を極限まで高められている事、身体能力も同年代の子供たちより遥かに優れている事。

 

 聞いているだけで二人の怒りが込み上げてくるものだった。

 

 ――あんな小さい子供に非道な事を。

 

 そう思ってしまうのが普通の人間としての感性であり思考でもある。ジェイル・スカリエッティに言わせれば己の欲望のまま子供を優秀な人間に仕立て上げる為に、最善を尽くしただけなのだからその言葉を理解する事は永遠に来ない。価値観など人それぞれで、寄るべき思想により立ち位置は変化し個人を作り上げる。生きている人間のほとんどが善性を持って生まれるが、時折悪性を持って生まれそれを行う事になんの躊躇いの無い人間が居る。悪性を所持していようとも理性で押さえる事が可能なのだが、ジェイルはそうならなかった。生きてきた環境の所為なのか、彼自身が生まれ持っていたモノなのかは誰も知る事が出来ないが。

 

 「では、こちらへ。……拘束して魔法を使用出来ない状況にはありますが、危険である事には変わりはないので十分にお気を付け下さい」

 

 『子供と言えど犯罪者、何を仕出かすか判りませんので』と続けた医師の言葉は小さな子どもに向ける台詞ではない。だが、リンカーコアを所持していない人間にとって魔法から身を守る術はないのだから警戒は仕方ない事と考えて、医師の言葉に反論はせず二人は子供が収容されている病室を目指す。子供が収容されている隣室では完全監視体制で男性の管理局員二人がモニターを見ながら控えていた。その彼等に所属と名前、訪れた理由を告げてフェイトとはやては部屋へと向かう。

 子供は既に目を覚まして起きているが拘束されている為に身動きが取れず、きょろきょろと部屋を眺めているだけだった。監視カメラの向こう側である病室では子供の使い魔であるロゼが姿を現していたのだが、誰も気づく事は出来ず。ロゼは監視されている事を勘付いていた為に、自身の存在を子供以外に知られぬように認識阻害魔法を使用していた。ただただ主人の傍に居たいが為の手段であった。そうして人が来る気配を感じ取った使い魔は、主人の影の中へと隠れてその存在を完全に消し去ったのだった。

 

 「あ……」

 

 「目ぇ覚めたんやなぁ」

 

 子供が怯えてしまわない様にと、なるべく明るく努めて病室へと入るフェイトとはやて。その姿を見て子供が起き上がろうとするが、拘束具が邪魔をして起きる事が出来ず無理矢理に体勢を崩して起きようとするものだから二人が慌てて制止する。

 

 「無茶をしないで。起きたばかりなんだし、身体にどんな影響があるかわからないから……」

 

 「せや。疲れてるなら、まだ寝ててええんやから」

 

 フェイトとはやての言葉に首を振る子供は、無表情ではあるが何かを訴えかける様だった。その姿になにか感じるものがあり、執務官と捜査官の権限を用いて子供の拘束を解く事にした。医師や警備を請け負っている局員からは反対されたが、無理矢理はやてが彼等を口八丁手八丁で丸め込んだ。そのやり取りに子供が見かねて止めに入るのだが、その言葉も捻じ伏せたのだった。拘束具から解放され身体が動く事を確認する子供を見つめながら、話すべき事を二人は考える。子供はどんな経緯でスカリエッティの下に居たのかは謎のままであるし、下手をすれば子供がこの場で暴れ始める可能性もあるのだが、その心配は杞憂に終わる。

 

 「兎にも角にも自己紹介からやな。一回会うとるから覚えて貰えてたら嬉しいんやけど、わたしは八神はやて言います。管理局でとある部隊の指揮を執ってるんやけど……難しい話は止めとこか」

 

 にっこりと笑って以前にも一度挨拶を交わしたのにも関わらず丁寧にもう一度自己紹介を始めたのははやての気遣いと優しさだろう。子供が覚えていない可能性も考えての事だが、説明会以降時間が経っていたし、目の前の子供にとって色々な事が起こり過ぎていた可能性もあるから。

 

 「ちゃんとおぼえています。あのときは おさそいありがとうございました」

 

 少し舌足らずではあるもののベッドに座ったままお辞儀をして、はやての自己紹介に確りと返事を返した。その様子にはやては記憶の改竄等をスカリエッティから受けている可能性を低いと考え、視線をフェイトへと移して次を促す。

 

 「フェイト・T・ハラオウンです。私もはやてと一緒に管理局に勤めています。それと君の弁護を預かる事になったので、これから何度も会うと思います。よろしくね」

 

 子供らしからぬ確りとした物言いで、フェイトにも頭を下げる子供。

 

 「それで、君の本当の名前を教えてもらってもええかな? 私が君から貰った名刺は偽造なんよね、だから本当の名前を教えて欲しいんやけど……」

 

 「……ぜろ」

 

 目の前の子供が賢く聡いというのは理解しており、スカリエッティの下に居た事から素直に答えてくれるのだろうかと疑問だったのだが、あっさりと質問に答えてくれた。名前だけを答えてファミリーネームを彼女の口から聞く事はなかったが。

 確か取り調べを受けて素直に自供を始めているメンバーも自身の名前を語っただけでファミリーネームはない様だった。その事実に二人は目を細めながら、スカリエッティの下で余り良い境遇でない環境で育ってきたのだろうと勘違いをするのだが、このまま重い空気のままではいけないと首を振り次の話題へと切り替える。

 

 「まずはお礼からやな。ゼスト・グランガイツからのデータやなのはちゃんにも渡したデータ、そして私が貰ったアインヘリアルの遠隔操作権限、これで助かった人が居る……だから、ありがとうな」

 

 最初に口火を切ったのははやてだった。この二日間でミッドチルダの被害状況の報告を受けていたはやてだが、状況の回復は想定していたものよりも早く、既に復興への準備が進み早い所では工事や修繕、避難民の帰還等が始まっているのだから。

 もしもアインヘリアルが破壊されて使えない状況だったのなら、と仮定してみたが今の現状よりも悲惨な事になっていたのは確実であったし、次元航行隊も理由を付けて来れない可能性もあったのだ。考えただけでも冷や汗ものなのだがその事を表へと出さないまま子供に感謝を伝えるのだが、渋い顔をしながらゼロはこう言った。

 

 「おれいはいりません。……ちちのしでかしたことをかんがえれば わたしのことなんて とるにたらないことです」

 

 ゼロの言葉は既に善悪の判断が出来スカリエッティに加担していた事を認めた証拠であったが、こんな小さな子供がそんな台詞を言えてしまう事に悲しさを覚える二人だが起きてしまった事は仕方ない。はやては子供に過保護なフェイトの顔を横目で確かめるのだが、取り乱す様子はないようでほっと一息吐く。が、内心ではフェイトはどう考えているのか。また保護責任者などに名乗り出てしまわないかと心配しているのだが、それはまだ先の話であろうから今は置いておく。

 

 「そう、なのかもしれへんな。けどな、きみの取った行動が誰かを救ったっちゅうのは事実なんや。それにわたしらの力だけじゃどうにもならへん事もあったんやから」

 

 「そうだね。色々と調べてて後から判ったんだけれど、君は"聖王のゆりかご"の自動防衛モードも防いでた。それにアジトで実験台になってポッドに入っていた人たちの事も君の手が入っていたのは調べてわかってるんだ。それに他の事も」

 

 二人の言葉に『ありがとうございます』と小さく頭を下げるゼロなのだが、その姿が痛々しくて仕方ない二人。

 

 「あのね、気になる事があって。聞いていいかな?」

 

 そうしてもう一つスカリエッティの事を"父"と読んだ事に驚いて、血の繋がりがあるのかと一瞬二人は錯覚してしまうが、医師の言葉を信じるのならばゼロは100%スカリエッティのクローンなのだから続柄が"父"というのはあり得ない。フェイトは先ほどから気になっていた事なので、コクリと頷くゼロに聞いてみる事にした。

 

 「スカリエッティはゼロのお父さんなのかな?」

 

 『フェイトちゃん小さい子供にめっちゃストレートになんてこと聞いとんのー!!!』と心の中ではやてが冷や汗をかきながら絶叫するのだが、口に出してしまった言葉を呑み込めるはずはなく。もちろんフェイトは自分が執務官として経験を積み、その言葉をゼロに尋ねても平気だろうと勘を利かせての事なのだが。それにゼロ本人もさして気にしていない内容なのだが、それを知らないはやては顔には出さず慌てふためく。

 

 「ちち、といえばごへいがあります。わたしは じぇいる・すかりえってぃのクローンです。なのでせいかくにはちがいますが、べんぎじょうそういったほうがわかりやすいので……」

 

 「そっか。ごめんね、変な事を聞いて」

 

 「……いえ。あの、わたしもききたいことがあるのですが……いいですか?」

 

 「ん? 答えられる事が可能なら言えるんやけど、それで構へんかな?」

 

 はやての言葉にこくりとゼロは頷いて、聞きたい事を尋ねてきた。それはスカリエッティを始めナンバーズの全員がどうなったのかと、ゼスト・グランガイツ、ルーテシア・アルピーノ、レジアス・ゲイズの処遇についてだった。本来ならば容疑の掛かっているゼロに言えない事なのだが、捜査には協力的でありスカリエッティの事を"父"と呼ぶゼロが心配しても仕方ない事だと考えて伝えられる範囲の事は伝えた。それは管理局員ならば誰しも知っている事で当たり障りのない事だったのだが、ゼロは安堵した様子を見せあまり表情の変化を見せない顔が少しだけではあるが綻んでおり、二人は話して良かったと安堵する。スカリエッティやナンバーズとは三年間一緒に生活していた事を聞いた二人だったので、ゼロがスカリエッティやナンバーズの心配をしている事はまだ理解できるが、何故関係の薄い彼等の事を聞いたのか。

 その答えは"関わってしまったから"と至極単純なもので、目の前の子供にはあまり表情というものがないのだがちゃんと人並みの優しさを持ち合わせているのだと気づかされた。

 

 病み上がりである小さな子どもに長時間聴取を行う事は憚られた。その為に今日は必要最低限の応答で済ませるつもりだったのだが、ゼロが確りとした受け応えをした事により想定よりも進んでいた。

 地上本部に配備されれたSUCUJIAの事、アインヘリアル強奪事件の指揮はゼロが執った事。ガジェットドローンについてやアジトの概要。しかしながらゼロはスカリエッティの目的は知らず、ただ一緒に三年間暮らした共に彼の研究や開発を一緒に行っていたという情報しか得られなかった。その事を責める積りはない二人なのだが、スカリエッティによる犯行声明の時に一緒に映っていた子供だから重要な事を知っているかもしれないという期待は外れ、結局スカリエッティの目的は分からず仕舞いになってしまった。

 

 「ああ、そうだ。最後になるんだけれど……この人が何処に行ったとか、行きそうな場所を知らないかなぁ?」

 

 空中にパネルを表示させて映像を出すフェイト。その人物は誰であろうゼロの使い魔であるロゼだった。ナンバーズによるレジアス・ゲイズ襲撃を阻止し、高町なのはのディバインバスターを防ぎきった事。そして、アインヘリアル強奪事件にも関わった人物として重要参考人扱いになっていた。ゼロがティアナ達によって確保された後より行方知れずで、六課や管理局、はたまた聖王教会までの力を借りて血眼になって行方を追っているのだが、手掛かりは一向に掴めそうもない。実はゼロが六課の手によって確保された際にゼロの影に隠れただけであり、ロゼが主人の傍から離れるという選択肢は存在しないのだが彼女が"使い魔"という事を知らない人間にとっては、逃走を図ったと思われても仕方ない。

 

 「ろぜさん。ろぜさん、でてきてください」

 

 使い魔の主であるゼロもゼロで適当だったので仕方ない。ティアナ達によって確保された際にその辺りの説明をきれいさっぱり忘れていたのだから。ティアナ達も崩壊するゆりかごから"はやく脱出しなければ"と急いでおり、目の前で主人の影の中へと消えたロゼを見て驚きを隠せないまま取り敢えず脱出する事を優先したのだった。

 はやてにアインヘリアルの遠隔操作権限を渡した後には、ゼロの意識が落ちてしまい今に至ってしまったという訳で。『もしかしてやっちゃいました?』と心の中で冷や汗を掻くのだがゼロなのだが、今まで気を失っていたのだからこの騒ぎを収める術はない。

 

 「お呼びでしょうか、マスター」

 

 突然三人の前へと現れた画像の女性。

 

 「は?」

 

 「うぇっ?」

 

 素っ頓狂な声を上げて二人は目を見開く。驚きで声がまともに出せずロゼの姿を見て指を指すだけで、動けない。この状況をどうしたものかとゼロは考えるが、主導権は二人が握っているのだからと思考が再び動き始めるまで静観を決め込む。もちろんロゼも主人が何も言わないのだから、発言などする事はなく幾ばくかの時間が過ぎる。

 

 「え……えっと。なんで貴女がここにいるのっ!?」

 

 「せ、せやっ! 逃げとったはずやろっ!?」

 

 「…………」

 

 無表情のままで二人の問いかけに答えないロゼ。

 

 「ろぜさん。おふたりにてきいはありません。しつもんにこたえてもらってもいいですか?」

 

 「……分かりました。…………私がこの場に居るのはマスターの傍に居る為で、それが私の全てだからです。なので元から逃げてなどいません」

 

 片眉だけを器用にぴくりと動かして主人の言葉に不承不承ながらも返事をしその通りにする。先程までゼロが拘束されていたという事実に不快感を抱き不機嫌極まりないのだが、事前にゼロから"何もしないでください"と言い含められていた為に影の中で大人しくゆりかご脱出以降主人の言葉を守りながら、ずっと新たな言葉を待っていた。ゼロが意識を取り戻し、少しの間だけではあるが姿を現して主人の無事を喜んでいたのだがそれもつかの間、二人が訪れ邪魔をされたのだからロゼは二人に余り良い印象を持っていない。

 

 「マスターって、ゼロの事でいいんだよね?」

 

 「はい」

 

 「マスターって言うたけど、どういう関係なん?」

 

 「主人と使い魔。これ以上の表現はありませんが」

 

 ロゼには使い魔の特徴と言っても過言ではない、耳や尻尾が存在していない。なので二人の疑問はミッドチルダや次元世界に住む人間が普通に抱いてしまう疑問なのだが、当の本人たちはその理由に気付かない。

 

 「……ほんとうに使い魔なん?」

 

 「はい」

 

 「でも、尻尾や耳の特徴がないけれど……」

 

 「くどい」

 

 ぴしゃりと言い放ち、これ以上の質問は無駄であると言いたげだった。その言葉に二人はゼロに顔を向けて助けを求める。

 

 「ろぜさん。もとのすがたにもどってもらってもいいですか?」

 

 一瞬ロゼは目を細めてゼロを見、何か言いたげではあったものの主人の言葉はロゼにとって絶対で逆らえないものである。ゼロからすれば『嫌な物は嫌と言えば良い』と言うだろうし以前にロゼの忠誠心の高さ危惧して『私の全ての言葉を受け入れないで良い』と伝えていたのだが、そのつもりは全くロゼにはなかった。

 

 ――ぷるん。

 

 金髪碧眼のスレンダーな女性から刹那にして黒い液体へと変化し、一呼吸だけ置いて粘性を帯び丸い塊へと変貌したロゼ。ロゼの元の姿を見てもらった方が早いだろうと考えたゼロの思惑はもちろん失敗していた。

 

 「………………っ!」

 

 「な、なんやこれぇぇえええええええええ!!!」

 

 驚く二人であったが、モニター越しにこの部屋でのやり取りを見ていた隣の部屋で待機している局員と医師も同時に腰を抜かしていた。

 なにせ、常識を通り越している出来事に脳の処理が追いつく筈はなく、脳を回転させようとしてもエラーを起こして空回りするのだから、情報の処理が進まない。"生命体"なのだから契約できるはずなのにそんなに驚く事なのだろうかと不思議に思いつつ二人の様子に困り果てて、どう説明したものかと考えあぐねているゼロであるが。

 こちらの世界の常識については不得手であり、スカリエッティのアジトで過ごした時間もこちらの世界の常識(ルール)を学ぶこともなく育ったのだからどうしようもない。面倒極まりないが事の成り立ちを最初から説明した方が賢明なのだろうと、つたない言葉でロゼと契約に至った経緯を二人に話す。もちろん、ヴィヴィオが居なくなってしまい寂しかったなどとは決して口にはしないのだが。

 

 「……そ、そんな事あるんやなぁ」

 

 「うん。驚いたよ」

 

 少しばかり遠い目をする二人と驚かせて済みませんと謝る幼女。そしてスライム状態のままのロゼ。なんともまぁ、混沌とした絵面だった。そうして暫くして話は一段落して、ゼロとロゼの今後についての説明をしてフェイトとはやては部屋を出る。スカリエッティのクローンという事で一体どんな子供なのだろうかと不安はあったが、話してみる限りゼロはキチンと物事の善悪を判断出来、そして自分が犯した罪を理解して甘んじて罰を受けると言っていた。あとは裁判の結果次第であろうが、これならば獄中生活などはぜずに厚生施設で再教育を受け短い期間で出所する事が望めるだろう。ただ彼女に向くであろう疑惑の解明をしなければならないのだが、それは裁判の弁護次第となる。

 

 ――大丈夫。

 

 "ジェイル・スカリエッティのクローン"という事が一番の焦点になるだろうとフェイトは考える。しかしいくらクローンと言えど考え方や理想、生き方まで同じだとは限らない。その証拠に彼女は既にジェイルとは違い自分の罪を認めて反省をしている。まだ三歳という子供。そんな子供に一生牢獄で過ごすようなことはさせたくないし、させないと誓い病院を後にした。

 

 ◇

 

 ゼロの法廷での様子は大人顔負けの確りとしたもので舌足らずではあるものの自分の犯した罪を全て伝え、受けるべき罰は甘んじて受けると言い放った。健気な態度の様ではあるがゼロ自身は『ヤッちゃったものは仕方ないよねー』という軽い気持ちだったのだが、ゼロの心の内を知らないフェイトはそれはもう頑張った。幼い子供を塀の中に入れる訳にはいかないと奮起して、半年間の更正施設送りと出所後の一定期間管理局での奉仕との沙汰が下った。裁判長の言葉の後に長い溜息を吐いたフェイトは間違いなく優秀な執務官だ。

 

 裁判中に拘留されていた留置所でのゼロの態度は大人しいモノで、拘置所から厚生施設への申し送りの書類にも注意すべき事等は一切書かれていなかったのだが、ココで一悶着があった。

 

 ――この子供、ヤベェっ!!

 

 涙ながらに叫んだのは、この施設に勤務する男性刑務官だった。

 

 ゼロは普段の再教育では同時に逮捕され同時に移送されてきたナンバーズと呼ばれる仲間たちと一緒に更生プログラムを受け何ら問題はないのだが、プライベートの時間となると途端に不味くなる。幼い子供だというのに平気で徹夜をし、何か作業をしているのだ。しかも消灯時間を過ぎても月明かりを頼りに書き続けているのだが、ルールを犯している訳ではないので指導をしたくとも出来ないのが公僕の辛い所。仕方なく注意で済ませるのだが、いう事を聞くような耳を持っているのならばそもそも徹夜などしないのだ。自身の能力に疑問を抱きながら何日か経過すれば分厚い紙の束を渡されて、学会に提出するかどこそこの大学の何々教授に渡してくれと頼まれる。

 こんな子供が何故と疑問を抱きつつも、手紙や書類を出すこと自体はこれまたルールには抵触していない。受刑者から頼まれたのならばちゃんと言いつけ通りに出さなければ己が罪を犯す事になってしまう。なので懐疑に思いながら刑務官は自分の仕事をきっちりとこなした。そうしてその生真面目さから施設職員全員が頭を抱える羽目になってしまったのだった。

 

 ゼロを担当した職員は言う。無表情ながら幼子がその瞳に宿すモノは"狂気"なのかもしれない、と。

 

 更生施設職員の業務規定には受刑者の資産についても管理しなければならないとある。何故ならば、出所後に無一文だと再犯の可能性が高まる為に施設で軽作業をこなすのだが、その対価がきっちりと支払われる。そのまま受刑者に手渡してしまえば使い込んでしまう事が簡単に予想できた為、職員がきっちりと出所までは管理すると定められていたのだから。

 ゼロたちは口座を持っていなかった為に新しく専用のものを開設したのだが、ゼロは施設長に直談判をしてもう一つ通帳を手に入れていた。流石に本人の希望とはいえどそれをゼロ本人に渡す事は不可能で、こうして担当の刑務官が管理する事になっていたのだが、たまたま目に通してしまった通帳に驚愕した。

 

 「うそ……だろ……」

 

 一度の口座振り込みに自身の年収近い額が振り込まれているのだから、驚くのは仕方ない。そしてそれがいくつもある。何故あんな子供がと疑問に思うのだが、振込相手の名義を見て更に目を見開いた。

 

 「なん……だと……」

 

 いくつもの大学の名前と学会の名前。他にも病院の名前まである。よくよく思い返してみれば、ゼロが紙の束を渡した時に口にしていた大学の名前や学会の名前が一致する。

 

 「どうしたの?」

 

 「いや……これ……」

 

 「なによ……これ……」

 

 隣に座って事務作業をこなしていた女性同僚がひょいっと男が作業していた画面を覗き込んで驚愕する。そこには受刑者の名前に巨額の振込の文字がディスプレイ上に映されており、彼女もまた自身の給料と比べてしまい頭が真っ白になってしまう。

 

 ――幼女に……負けた…………。

 

 と。ゼロがジェイル・スカリエッティのクローンである事は厚生施設の全職員が周知しているのだが、まだ子供である事や普段の大人しさからゼロが持つ破格の才能に想像もつかなかったのだろう。この噂は瞬く間に職員たちに広がり"幼女に負けた"と仕事のモチベーションを下げてしまった。

 事実を鑑みた施設長は管理局に『こんな問題児は手に負えん』と匙を投げた抗議文を送り、それを受けた時空管理局の本局は面倒事は地上本部に任せようと地上本部に連絡を入れ。地上本部も地上本部でいまミッドチルダの復興で忙しいからと、逮捕した機動六課に任せようと見事な連携のたらい回しとなった。こうして当初の予定よりも幾日か早く出所したゼロを半ばヤケクソではやてが迎えに来たのだった。

 

 

 




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