時間はゼロが厚生施設から出所する三か月前に遡る。
「面会人だ。……案内する、ついてこい」
宛がわれた部屋にて机に向かい紙に文字を書き込んでいたゼロの手が扉越しに聞こえてきた刑務官の声でぴたりと止まる。ミッドチルダに知り合いなんて居ないに等しいし、仮に居たとしても皆塀の中。面会人の言葉にいったい誰なのだろうとこの三年間で出会った人たちの顔を浮かべてみるが、接点のある人などは極少数で一体誰なのだと思うが考えていてもらちが明かないので素直に刑務官に誰が訪ねて来たのかを問う。刑務官の口から紡がれた名前はフェイト・T・ハラオウン。自身の弁護を担当した知り合いでもある。しかし自身の裁判は全て終わり沙汰も下っているのだから、ゼロに面会を求めた理由が謎のままで。
ただでさえ忙しい管理局員という身でありながら、フェイトは更に執務官という肩書を持っている。自分の様な人間に構っている暇などない筈だけれど、と思いつつも面会を拒否するという選択肢は存在しなかった。仮にもゼロの刑期を半年間という驚異の短期間をもぎ取ってくれた張本人なのだから。
刑務官に案内されて通された部屋は、長机にガス圧式の椅子がいくつも並んでいる、割と広い会議室のような場所。その一角に件の人物は座って待っていた。
「久しぶりだね」
「おひさしぶりです。ふぇいとさん」
ドアが開きゼロの姿を確認するなりフェイトは椅子から立ち上がり、瞬間移動でもしたのかと言わんばかりの速さでゼロの下へと駆け寄りしゃがみ込む。ゼロを案内した刑務官はフェイトの姿が一瞬消えたと驚き、ゼロはフェイトの姿をどうにか目で追い自分の下へと異常な速さで魔法も使わず辿り着いた事だけは理解出来た。
「うん、本当に。元気にしてたかな? 無理とかしてない? 不便な事とかあるのかな? 欲しいモノとかはある?」
と、怒涛の勢いで捲し立てるフェイトの勢いに押されて、彼女の問いに答える暇がないゼロ。もちろんこれはゼロだけに向けられる言葉ではなく、保護した小さな子どもには必ずこのように過剰気味な心配心を発揮するフェイトなのだがその事を知らないゼロは"この人パネェ"と心の中でドン引きするのだった。
「げんきですし、むりもしていません。ふべんなこともとくだんありませんし、ほしいものもとくには……あの、きょうはどんなごようけんで?」
フェイトの質問に答えて、取り敢えず疑問であった面会に至った理由をフェイトに求めた。そのゼロの言葉にフェイトは苦笑してもう少し世間話でもと言うが、ゼロに忙しいのでしょうと言われては本題に入るしかないフェイトだった。それでも本題に入る前には手土産で持参していたショートケーキを先に別の刑務官にでも渡していたのか、絶妙なタイミングで皿に盛りつけられたケーキと珈琲、オレンジジュースがお盆の上に乗せられてやってきた。
やはりフェイトは子供に甘すぎるとゼロは眉間にしわを寄せるのだが、三か月間の更正施設生活では得られなかった"甘いモノ"の誘惑には勝てなかったらしい。目を輝かせてじっとケーキを見つめるゼロを、どんなに賢くて落ち着いた物腰の子供でもやはり子供は子供なんだなと思いながら、その事は口に出さないフェイト。
「食べながら、話そうか」
そう言ってフェイトが先にケーキを口にするのを見て、ようやくゼロもケーキへ手を出した。小さく切り分けて一口サイズにしたケーキを口にしたゼロの顔は微かにではあるが、山吹色の目を細めて咀嚼しまた口にする。ゼロの様子を見て喜んでいるみたいでケーキを差し入れて良かったと笑い、ようやく本題へと入るのだった。
「えっとね。ちょっとゼロに見てもらいたいものがあって。……捜査に協力してもらいたいんだけれど良いかな?」
「しせつのかたにきょかをいただけるのなら、だいじょうぶだとおもいます」
ゼロに否の選択肢はない。スカリエッティは逮捕されフェイト達と敵対している訳でもなく、仲が悪いわけでもない。わざわざ厚生施設まで足を運びこうしてやって来てくれたのだから。それならば困っているであろう目の前の彼女に協力する事など容易い事なのだが、何をするにも施設から許可を得なければならない。不自由だとも思うがこれは仕方の無い事で。フェイトが許可を取り忘れるはずなどないだろうが、念の為の言葉だった。
「これ、なんだけれど……」
フェイトは一枚のマイクロチップを長机の上に置いた。
「これは……。ちち、のものですか?」
ゼロはこの形のマイクロチップを何度かアジトで目にしていた。これは市販されているものよりも大容量の記憶媒体である。もちろんスカリエッティ本人が手を加えたもので、そこいらに出回る代物ではない。それを見た瞬間、ゼロはフェイトがこの場へとやってきた理由を理解してしまった。
「……よく……わかったね」
本来ならば、このマイクロチップの出所を語るべきなのだがそれよりも前に気付いてしまったゼロの言葉によってフェイトはその先の台詞を紡ぐことはなかった。爆破され、土砂で埋もれてしまったスカリエッティの隠れ家をわざわざ掘り起こして見つけたマイクロチップだったのだ。
「はい、なんどかみたことがありますので。ぷろてくとをかいじょすれば いいのでしょうか?」
「っ! ……お願いしてもいいのかな?」
「きざいをかりられるのなら、すぐにおわるとおもいます」
流石に施設に拘留されている身なのだからゼロはコンピューターの類はそうそう触れられない。
「施設の人たちには許可はもう貰ってるんだ。あとはゼロの返事次第だったんだけれど……」
その様子だと大丈夫みたいだね、とは言わずモニターとキーボードが空中に現れた。すでに用意は完了しており、マイクロチップをドライブへと差し込んでアクセスすれば"Please enter a password"の文字がモニターに現れた。
「局の技術者に解析を頼んだけれど、誰もロックを解除できなくて。……それで、もしかすればゼロなら解るかもしれないと思って……」
そんな事を言いながら、身長が足りないために空中に浮かんだキーボードへと手を伸ばしても届かないゼロを微笑ましく思いながらそっと抱きかかえて、フェイトの膝の上にちょこんと乗せた。
「……できるかどうかはわかりませんが、やるだけやってみます」
成長していればフェイトの膝の上に乗ることもなかった故に、このちんまい身体が忌まわしいと心の中で愚痴るゼロ。心の中を知る術がないフェイトは『ゼロって軽いなー』と真面目な話をしているにも関わらず二人はそんな事を考えていた。ゼロが膝の上から落ちてしまわない様にと小さな腹に手を回して『お願いします』と答えたフェイトの言葉と同時にゼロの手が高速で動き始める。曲がりなりにもスカリエッティが作成した物なので、直ぐに終わるとゼロは言っていたものの難しいだろうとフェイトは考えていた。すでに何度か解除キーを試したようだがロックは開かず。
「本当ならゼロに頼るべきじゃないんだろうけど……」
ロックの解除をゼロに頼んでみる、と上層部に話を持っていった時は反対されたが結局誰にも出来なかった為に上層部は仕方なく首をようやく縦に振ったという経緯もあったので、フェイトは申し訳ない気持ちで一杯だった。
もしかすれば見なくてもいい物を見てしまう可能性もあるのだから。スカリエッティが人としての道から外れた事を行っていたのはフェイトは嫌と言うほど知っている。だからこんな小さな子どもに頼むのは筋違いなのだが、頼まなければ前に進めない。苦虫を噛み潰す勢いで、この場にやってきたのだが思ったよりもゼロは何の抵抗もなく依頼を受けてくれた。
「……いえ」
フェイトの言葉を聞いているのか、聞いていないのか。反応が遅れたゼロの言葉に少しばかりの不安を覚えるフェイトだったが、直ぐにそれは払拭された。
「ぅげ…………」
「…………ぁ!」
エンターキーをゼロが押した瞬間だった。モニターには"The lock has been released"と表示され、その数秒後にはビッシリと文字がモニターへと映し出される。
流石にゼロはこの内容を見るべきではない、と考えてフェイトの方へモニターを向けて中身を見ないようにしたと同時、今だ手元にあるキーボードを神速で叩く。
「すごい! すごいよ、ゼロっ!」
「ぃ、いえ。……と、とりあえず、ろっくはもうかからないように しすてむをへんこうしたので、あとはだれでもみられるとおもいます……」
「本当? 助かるなぁ。ゼロって本当にすごいんだね! 大人でも解除できなかったのにっ!」
ゼロの腹に回していた手に力を込めて抱き直し、頬に顔を寄せるフェイト。
自身の真横で物凄く喜んでいるフェイトに対してゼロは内心で冷や汗を掻いていた。何故ならば、先ほど解除したパスワードには大変な問題があったからである。そうして同時に物凄く安堵していた。誰も解除できなくて良かった、と。
――私の娘、次元世界一超可愛いぃぃいいいい!
誰が想像出来ようか。世紀の大犯罪者といわれたジェイル・スカリエッティがこんな阿呆丸出しの文字をキーワードにしていたのだから。以前にスカリエッティがパスワードを解除している所を偶然見てゼロは覚えていた。その時のゼロは、こんな簡単なパスワードだと誰にでも解除出来てしまうから変えろとスカリエッティに忠告をしていたというのに、どうやら変更をしていなかったようで。
冗談半分で解除キーを打ったゼロは『変えてなかったのかスカさんっ!』と心の中で叫びながら、フェイトがキーボードへ打ち込んだ文字を目で追っていない事を切に願いながら、スカリエッティの親馬鹿ぶりに怒りを覚える。先程神速でシステムを改竄しロックを掛けなくても良いようにしたゼロは『犯罪者なら最後まで犯罪者らしくしててよスカさん』と心でぼやく。それでも完全には憎めないゼロのその思いは、ゼロ以外の誰にも届かず知られる事はないのだが。
「あ、ゼロも見て平気だよ。きっと専門的な事になるだろうから、私にはちんぷんかんぷんだろうし、ゼロさえよければ意見を貰えるかな?」
解除キーの内容について気付いていない様子のフェイトの言葉に安堵して、モニターへと視線を向けるゼロ。確かにこれは専門分野で素人には分からないものだろうし、スカリエッティが独自に更に手を加えたものだからその辺りに転がっている専門家ですら首を傾げる代物であった。その内容に『やっぱスカさんは凄いや』とゼロは思うのだが、次の瞬間には口元が引き攣り始めていた。
――なんで見つけた物がコレなんだろう……。
と。その内容に画像データが添付されていなかった事を幸運に思いながら、どうしたものかと考える。自身の後ろで喜んでいる女性にどう伝えるべきなのか。彼女の生い立ちを間接的に知っているゼロとしてはマイクロチップに収められていたデータの内容は、彼女の古傷を抉る可能性が高いことを嫌でも解っているのだから。オタクでコミュ障というゼロの人間関係の薄さが頭をより悩ませていた。
「……どうしたの?」
少し考えている様子のゼロを不思議に思い問いかけるフェイト。
「あ、いえ。……いでんしこうがくにくわしいかたならわかるとおもいますが。……ふぇいとさんにとって、きいてもあまりいいものではないかもしれません」
「……私に関係のある事、なのかな?」
「はい。どうしますか?」
山吹色の瞳でまるで射抜くように確りとフェイトの目を見つめる。その目にはきっと、私の事を案じてくれて心配してくれているとフェイトは確信し決意する。
「……大丈夫だよ。もう過去には決着を付けているから」
ゼロがフェイトの過去を知っている筈はないのだが、スカリエッティの研究を手伝っていたと言っていたし、フェイトとスカリエッティのやり取りを見ていたのならアリシア・テスタロッサのクローンだと知っていてもおかしくはない。遅かれ早かれ内容は知る羽目になるのだろうし、どちらにせよゼロがフェイトの事を案じてそう言ってくれたのだから逃げる訳にはいかなかった。
「たんてきにいえばありしあ・てすたろっさのいでんしときおくのでーた。そしてぷれしあ・てすたろっさのいでんしでーたです……」
一拍置いて、何故父がこうして手元にデータとして所持しているかの理由は解らない、とも。フェイトはゼロの言葉に頭が回らずその言葉の意味だけを受け取り、なにも口にする事が出来ない。ただただ『何故』という疑問だけが残り、ジェイル・スカリエッティに問質した所で黙秘を続けている彼から有益な情報など得られるはずはないのだから。
それでもこの場で出来る事は少なく、ゼロにその内容を確認してもらう事くらいだった。ゼロがそのデータを見た所でなにも出来ないし、望んだところでなにもさせられない。簡単な内容をゼロから聞き礼を述べて、更正施設をフェイトは後にした。
◇
高町なのはは悩んでいた。
聖王のゆりかごの最深部に居たナンバーズの一人を撃ち抜く為に放ったディバインバスターは、唐突に抱きかかえられた子供と共になんの抵抗も出来ないままその威力を受けるはずだった。カートリッジを七発使用し自身の魔力も込めて撃った渾身の一撃だったというのに、防がれた。撃ち終えた後の土埃が晴れ、ようやく着弾点の様子が見えるようになっったその時、どこからともなく現れていた金髪の女性によって。ファイリングロックを解除していたが故に物理ダメージが受けた者に影響されてしまう為、通常のバスターよりも強化されていたというのにだ。
――嘘。
信じられない光景が広がっていた。これで終わる、と思っていた一撃が防がれた事実。小さな子供を撃たなくて済んだ安堵と、防がれてしまった悔しさに。その狭間で思考をぐるぐる回らせても答えなど出せないまま今に至ってしまった。謝らなければならない、と打ち終えた後からずっと抱えていた気持ちだったのだが、なのは自身無茶をした事もあり事件の終了後はヴィヴィオと共に病院へと運ばれてしまった。
同時に撃ってしまった子供も病院に運ばれたのだが、運ばれた先は別の病院で。管理局が運営している負傷した犯罪者や病気で刑務所等に居られないものが収容される専門の病院。自分が入院している場所とは遠く離れていた事と、子供もすぐに目が覚めて病院から拘置所に移送されフェイトと共に裁判へと入ってしまった。会いに行こうとしたのだが、管理局上層部からの許可が下りず諦めるしかなかったのだった。
そしてさらになのはに衝撃の事実が突き刺さる。
「ぜろだっ!!」
フェイトが自室に持って帰った仕事の写真の一枚を、偶然見たヴィヴィオが大きな声を出した。ご飯を終えてそろそろヴィヴィオも眠くなり始める時間帯であったのだが、その写真を見てテンションを最高潮にさせたと同時『ゼロに会いたい』とぐずり始めたのだから二人して困ってしまった。会いたいとヴィヴィオが言った人物は既に塀の中であり、半年間の更正施設での再教育が決まっていたのだから。どうにかフェイトと二人でヴィヴィオを宥めすかして、ベッドへと送り込むことに成功したのだが大人二人が小さな子どもに頭を抱え、どうしたものかと考えるが良い答えは浮かばず。
ヴィヴィオとはスカリエッティのアジトで仲良くしていたらしく、取り敢えずは半年たてば会える事ができるのだからヴィヴィオにはその時まで良い子にしてようと言ってどうにか納得してもらった。ゼロと呼ばれる子供が出所後にどういう境遇になるのかは判らないが、弁護を請け負ったフェイトが居るのだからその行方を知る事は簡単だ。撃ってしまった事に後悔がないと言えば嘘になる。撃たなければクアットロによってなのは自身やヴィヴィオが助からなかった可能性もあるのだから。けれどあんな子供を巻き込むつもりなんて微塵もなかった。
無事でいてくれた事、生きていてくれた事に感謝をしているしヴィヴィオにスターライトブレイカーを撃ち込まずに済んだ事も、気持ち的にも大分救われている。自身の体調もスターライトブレーカーを撃っていれば、もしかすれば未だに入院していたかもしれないし、空を飛べなくなる可能性もあったのだから。あの小さな子供には沢山助けられたのである。
そうしてもう一人、自身の全力を込めたディバインバスターを防いだロゼと呼ばれる使い魔の存在。何故防げたのか疑問だった。そうしてその使い魔もゼロと共に厚生施設へと入所してしまった。機会があれば今一度手合わせをしてみたいと血が騒いでしまうのだから、自分でもどうしようもないとなのはは苦笑する。そしてロゼの主人であるゼロは一体どれだけの魔導師としての才覚があるのだろうか。あの年にして破格の原石なのであろう。きちんとした道しるべを作り導けたとしたら、自分よりももっと高みを目指せる存在となるだろう、となのはは心を躍らせる。口角が吊り上るのを我慢しきれず、口元を手で押さえても笑いは止まらない。でもそれは、キチンと子供と和解をしてからの話だ。兎にも角にも……。
――謝らなきゃ。
ぐずりつかれてベッドで眠るヴィヴィオの顔を見ながらなのはは心に誓った。
そして、魔導師の道をゼロが目指してくれるのならば私が全力でソレをサポートしようと布団の中で高町なのはは明るい未来を夢見ていた。
◇
機動六課が解散する一ヶ月前、本局から陸の地上本部を経て機動六課に一つの指令が下る。その内容は"問題児を引き取れ"と遠回しに書かれていた指令書だった。何故今頃そんな命令が、とはやては考えてみるのだが本局に更生施設からクレームが付いた事をしらないのだから、正解を導く事もないまま。命令は既に下されて否はないのだから丁度手隙であったシグナムとヴィータを連れて手配した車に乗り込み仕方なく迎えに行く羽目となった。そうしてタイミングよくゼロと再会した訳なのだが、ソコで一悶着を既に起こしており深い溜息を吐くのだが、はやてにとってその光景は心に抱えている傷のかさぶたを剥がされるような気持ちにならざるを得なかった。
小さな子供を責める大人たち。仕方ない事だとは思うが、どうしようもないどす黒い人間の心の闇は幼い子供に容赦などないまま平気で向けられていた。その言葉にじっと耐え抵抗も釈明も何もしないままの子供は、さながらあの頃の自分を見ている様であった。これ以上は見ていられないと止めに入ろうとした時、騒ぎを聞きつけて厚生施設の職員が止めに入り先を越されてしまう形となった。このタイミングでしゃしゃり出ていく事は出来ず、遠目からゼロと職員の様子を伺いながら善き所で今来た風を装ってゼロを迎えた。
子供にとっての半年という期間はおおきいのだな、と実感するはやて。ゼロの伸びた身長に目を細めて車へと案内し六課の隊舎を目指す。ゼロに対して不安要素は少しばかりあるが、今は気にしても仕方ないし当の本人たちの問題でもある。だから余計な事は口にせずに厚生施設での暮らしぶりやこれから赴く機動六課の事を簡単に説明。それからしばらくして、六課へと辿り着いた。ヴィヴィオによって熱烈なタックルを受け頭を地面に打つ寸前のゼロであったがどうにか止まり事なきを得た。
ゼロへの案内もほどほどに旧友からの約束事があった為に、合流した面子と共に海側の訓練施設へと一緒に足を向ける。取り敢えずははやての言う事を大人しく聞いてくれているし、反抗する様子もない。更正施設で優良判定を受けている事だけはあるようで、同年代の子供よりも接しやすかった。訓練を終えた部下たちに、ゼロは挨拶を済ませ件の本人が現れた。
「あ……。あの時以来だね」
「こんにちは」
ゼロの姿を見るなり目を細めて笑うなのは。ディバインバスターを受けた後遺症という名のトラウマが発動してしまわないか、ココに居る全員が心配していたのだがゼロはなのはの姿を見て頭を下げて、なのはの言葉に確りと返事をした。
「あの時は巻き込んでごめんなさい。それと、ヴィヴィオを助けてくれて本当にありがとう」
「いえ。しかたのないことでしたし、ちちやみんながしたことをかんがえればとうぜんだとおもいます」
ゼロはなのはがディバインバスターを撃つ事は知っていたし、ゆりかごの最深部へとクアットロと共に居た時点で覚悟は決めていた。それに使い魔のロゼの手により必殺のバスターの一撃を直接受けた訳でもないので、周囲でなのはとゼロのやり取りをハラハラしながら見ている六課メンバーの心配を余所にトラウマになるほどの精神的ダメージはなかった。
しかし見た目が四歳児であり、なのはの砲撃の威力を知っている者としては心配になってしまうのは仕方ない。それほどまでになのはの砲撃は訓練といえども威力は高いし発動させた防御魔法も貫通させてくる。七発のカートリッジを使用した必殺のディバインバスターを防いだと報告書で見たり聞いたりした者たちは、驚きを隠せないでいた。この世でなのはの"あの"砲撃を防ぐ人が存在していたのか、と。
防いだとはいえ一緒に巻き込まれてしまっているのだから、恐怖を感じない事はあるまい。なにせ四歳という年齢で、戦闘や訓練に参加した事はないと聞いた。だからこそなのはのあの桃色のゴン太ビームにトラウマを抱えていないか心配していたし、なのは本人にも苦手意識を持ってしまわないかと考えていたのだから。幼い身ながら、スカリエッティやナンバーズが犯してしまった罪を認めて彼等の罪と自身の罪を謝る健気な姿は、色々な事情を持っている六課メンバーに同情心を煽ってしまっている事をゼロは気付かない。
「けれど、ゼロが助けてくれたのは事実だよ? 実際ヴィヴィオに向ける筈だった砲撃も止めてくれたし、ね。だから……ありがとう」
綺麗に笑って礼を述べるなのは。そしてその顔を直視できないゼロ。変えてしまった出来事に負い目を抱えているゼロはなのはの言葉を素直に受け止める事が出来ない。堂々巡りの押し問答を暫く繰り返し、なのはは結局ゼロの言葉に折れる形になってしまう。ヴィヴィオを止めたのはなのは自身の力だとゼロは言い切って、バスターの話はこれでもう終わりだと言わんばかりにそれ以上は何も言わなかった。
ゼロの横では人見知りをするヴィヴィオが嬉しそうにしているし、六課解散までの一ヶ月でこの規格外の幼児にどんな事が起こるのか、もしくは起こしてくれるのか。楽しみになったなのはだった。
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