――ふへへ。……へへっ、うへへへへへ。
うはっ、やばいよココ。お宝の山だよ。奥に行くと迷子になってしまうから行くな、と言われているので行けないのだけれど触手魔法を伸ばせるだけ伸ばして奥に存在している謎の本を引っ張り出している。
内容不明の本の中身を確認して、ジャンルごとに分けているだけだから楽っちゃ楽なんだけれども、その内容が結構マニアックでツボを付いてくる物が多いから楽しい。アルハザードに関する記述の本もあれば、ミッド式ベルカ式でもない魔法体系が綴られた本、違法スレスレどころかド違法の医術本、魔法世界だっていうのに魂や幽霊の存在やオカルト話を書いている本もあるし。ほかにも色々と私の好奇心をくすぐるモノが沢山あって、手が止められない止まらない。
ちなみに私の相棒であるロゼさんは。私の下でスライムの姿のままでぷよんぷよんなクッションになってくれているから地べたに座ってても辛くはない。それに『手伝います』と言ってくれてスライム状の先から細い糸の様なモノを伸ばして本を手繰り寄せて中身を確認し、ぽいっとジャンルごとに投げ分けてくれていて私と一緒に作業をしてるんだ。
最初に検索魔法の術式を司書の人から教わって使ってみたんだけれど、術式の相性が合わなかったようなので魔法構築自体に手を入れて術式を改竄してみたんだけれど、これが功を奏したのか検索が大分早くなったよ。
一時間も経つ頃には慣れてきていて、もう少し作業効率が上げられそうだったのでマルチタスクを併用させて更に処理できる速度を倍にしてみた。そうしてそれからまた一時間が経って、私に任された仕事の殆どが終わろうとしている。
「スクライア司書長……、あの子供一体なんなんですか?」
「そうですよ。すんごいスピードで溜まってた内容不明の書物が……しかもアレ、あの子供用に考えた一週間分の仕事でしたよね? もう捌き切りそうですよ……ウソ……だろ……」
「……嗚呼今日、早く帰れるかなぁ……それなら久しぶりだぁ……感動で涙がでそう……」
「あ、あははははは。えっと、個人情報になる部分は言えないけれどかなり特殊な子なんだ。期間限定ではあるけれどココで働く事になってるから、皆あの子の事よろしくね」
苦笑いをしながらユーノさんが時差出勤してきた職員の人たちに説明をしてる。もう皆のその反応には慣れました、というかもう諦めました。異端児とかそんな感じに思われているのだろうけれど、それでもいいかなーって。
まぁ、四歳児なのに無償奉仕なんてしてるし仕方ないと言えばそうなるのだろうけれど、ドン引きする反応を見せられればそりゃ傷つくってもんで。私がスカさんのクローンだって事は他の人たちに知らせない様にって気を使ってくれているから、無限書庫の人たちはユーノさんくらいしかこの事実を知らないし、他言無用とも言い含められているから他の人に言えないんだよね、ユーノさんは。ちょっと申し訳ないけれど、その方が静かに暮らせそうだから信頼できる人にしか言わないようにしようかなーって考えてる所。わざわざ自分からトラブルを招きかねる事になっちゃいそうだしね。
で、今更なんだけれど今日は無限書庫に初出勤です。初めてだし道に迷ってもいけないからと言われてリンディさんに通勤ルートを教えてもらいながら一緒にここまでやって来て、私が同僚の人から仕事内容を聞いているうちにいつの間にか居なくなってた。貴女なら心配ないでしょうから私は自分のお仕事をしてきますね、だって。
信頼されているのは嬉しいけれど、腑に落ちない事はリンディさんの知人さんが居たみたいで『お孫さんですか?』と聞いてきたことだ。リンディさんも悪い気はしなかったようで冗談で頷いちゃったものだから、めでたいめでたいって私そっちのけで話が盛り上がってたし。事実はちゃんと伝えましょうよーと心の中で愚痴りながら訂正するのも面倒なので静観してた。
そんなやり取りがありながら、私の業務は始まって今に至るんだけれど、そろそろ与えられた分の仕事が終わりそうだから、上司であるユーノさんの所に行って新しい仕事を頂くとしましょうか。一応四歳児という身を考慮してくれて、勤務時間は朝の八時からお昼の十二時までの四時間って決まってるんだけれど終業時間まではあと二時間ある。楽しいし疲れてもいないから、問題は全然ないので仕事、仕事っ。真面目な元日本人らしく働きましょう。そうして何か調べものをしていたユーノさんに声を掛ける。
「もう終わったんだね、凄いなぁ。じゃぁ少し休憩をしようか」
柔和に笑ってユーノさんが言ってくれるんだけれど、たしか就業規定の書面には休憩時間なんて含まれていなかったハズ。
「ゼロはもう四時間分以上の仕事をしてくれているからね、少しくらいはかまわないよ」
そう言ってユーノさんがおいでおいでと手招きして案内してくれた場所は小さな休憩室で。その部屋の中には女性職員さんたちが既に何人か居てテーブルの上にはお菓子が沢山盛られていて。
「司書長、その子が例の子ですよね?」
「うわーちっちゃーーい。かーわーいーーい!」
「あらあら~」
可愛いって言ってくれた事は素直に嬉しいんだけれど、私はスカさんのクローンでスカさんそっくりだから可愛げなんて無いって思ってたんだけれど。ここの女性陣の感性は良く解らない。
あれよあれよという間に、複数の女の人たちに囲まれて抱っこされたりハグをされたり、質問攻めを受けてた。ロゼさんはいつの間にか私の影の中に退避していて、ロゼさんの事を皆に紹介する機会を失ったなーと巨乳のオネイサンの胸の中で窒息死しそうになりながら事なきを得た。ふぅ。因みにそのオネイサンには五人の子供がおり、肝っ玉母ちゃんという言葉がすんごくピッタリな人だった事を言っておく。
一通りもみくちゃにされた後はちょっとした歓迎会を兼ねた茶話会が始まって、仕事をこなしてた男性陣も途中で合流してわいのわいのと騒がしくなる。みんな司書なんて仕事をしている所為なのか本が好きみたいで、話の内容の殆どはその事ばかり。おすすめの本とかを教えてもらいながら著作権切れしている作品のデータとかを譲ってくれたりしながら、色々と気を使ってもらってる。
「あ、そうだ。凄い勢いで検索魔法を使ってたみたいだけれど、どうやってたの?」
「それ、俺も知りたい。確かゼロに教えたヤツって初心者用の検索魔法だったんだけど、なんであんな効率を出せるんだ?」
ん、ちょこちょこーと教えてもらった術式を自分向けにアレンジしただけなんだけれど。そんなに難しい事はしていないし、自分用に魔法をアレンジするのって皆さんしてるんじゃ?
「マジか……そんなことやった事ないな」
「だね。大抵、既存の魔法術式を使って皆そのままだよ~。アレンジする人ってごく一部の物好きな人って聞いたことがあるなぁ」
「そういえば、司書長の検索魔法もあんまり見た事がない術式でしたよねぇ?」
その言葉で皆の視線がユーノさんの方に一斉に向いてた。てか私もユーノさんの方を見ちゃったから人の事は言えないか。
「え、そうだっけ? 僕はずっと前に自前で組んだだけだから、皆が使っているものと大差ないと思うんだけど……」
んー、私はユーノさんと同じように物好きな極一部に分類されてしまうんだろうか。そして自前で組んだって微妙に自慢が入っている発言だと思うんだけれど、当の本人は気付いていなくて周りの人は呆れてたけれど、ユーノさんの人柄のお陰なのか職員の人たちは『この人なら仕方ない』みたいな顔をしてる。
「自分向けにアレンジってどうするんだろう?」
「それな。……やった事すらねぇわ、俺」
そこからは検索魔法の術式についてみんなで話し合ってあーでもないこーでもないって言ってる。皆の話は面白いものがあって魔法術式の解釈って人それぞれで特徴がでるんだなーって。感覚でパパッと組んじゃう人も居れば、きっちりと公式を当てはめて構築する人、公開されている術式をそのまま使ってる人などなど。興味があったので、魔法術式を見せて下さいってお願いしたらみんな気の良い人ばかりで私に見せてくれたんだ。ほとんどの人は初心者用の検索魔法よりも複雑な術式で構成された一般的に普及されているものを使用してた。見てみると、ところどことに術式の綻びがあったからそれを伝えて各々自分で修正してる。
あとは個人の得手不得手とか聞いて、苦手な物を補ったり逆に得意な部分を更に伸ばす為の術式を組み込む様に。無茶をして弄ると燃費が悪くなったり扱い辛くなるから劇的な変化はないけれど、使いやすくなったり検索が早くなってりして効率がちょっと上がってるはずだ。
「さぁ皆、そろそろ仕事に戻ろうか」
ユーノさんの鶴の一声で皆は自分の持ち場へと戻っていく。その姿を見送りながらユーノさんに仕事を下さいと頼んでみると『今日の分というか一週間分の仕事が終わったんだけれどね』って苦笑いをしながらコレをお願いできるかなって言われて新たな仕事を受けた。
やっぱり忙しいんだろうなこの部署なんて考えながら、私はさっきまで居た場所に戻って作業を再開。仕事内容は新しく情報として入ってくるデータの仕分け。管理世界で起こった事がリアルタイムで更新され情報として無限書庫に溜まっていくものだから、捌いても捌いても終わらない永遠地獄。
「マスター」
隠れていたロゼさんが影の中からぬっと出て来てしれっと私の下に潜って座布団替わりになってくれ、一緒に作業をまた開始して。時折突拍子もない内容の記事があったりして面白いんだよね。魔法の事だったり、事件だったり、どこそこの子供が粗相をしたとか、内容は多岐に渡る。残りの一時間少々はその業務に当たり今日の無償奉仕勤務を終えた。コツを掴んで来たので明日には更に倍の量を捌いてみようかと心に誓う。お昼を知らせるチャイムと共に私の下へと何人かの職員さんがやって来た。
「ゼロ、今日はもうあがりなんだよね?」
「? ……はい、そうですね」
お昼までの就業時間だから今日はこれでお暇するつもりだ。帰り支度をロッカーでしてたんだけれど、どうしたんだろう。
「あのね、言いたい事があって……」
内容を聞いてみれば、さっきの検索魔法についてのお礼だった。皆口々に作業がはかどった、とか効率が良くなったありがとうって言ってくれるんだけれど、私はアドバイスをしただけで組み直したのは本人なんだから。コツさえつかめば色んな事に応用できるし、後はその人のセンスや努力によりますって伝えておいた。また魔法術式を見てもらってもいいかなってお願いされたんだけれど、アドバイスを送るくらいならいくらでもと思って軽く返事をしてしまった。この皆の真面目さが後に一悶着を起こすのだけれど、まぁ仕方ないよね……。アハハ……。私の所為じゃない、きっと。
――ところでゼロって男の子ですよね?
そんな言葉が私が退社した後で言われていたらしい。いい加減性別を間違えるの止めてくれませんかねぇ。
◇
――機動六課解散から四か月。
研究やら開発、論文に特許などに精を入れつつ、片手間に無償奉仕勤務で無限書庫へといったりきたり。スカさんたちが居る拘置所に顔を出してみたり――面会は裁判中なので無理だけれど――、更正施設組の皆に差し入れをしたりとそれなりに忙しく充実した日々を過ごしてる。
時々なのはさんが仕事で遅くなったりする事もあって、家にはヴィヴィオさんが遊びに来てて一緒に外へと繰り出してご飯の買い出しやらウインドウショッピングをしたり、格闘技に興味が出て来たみたいで試合観戦に行ったり、遊びの時間も充実してた。あ、そうそう。元気印のヴィヴィオさんですが、なのはさんと我が家で養子の話をした直ぐ後にstヒルデ魔法学院初等科に入学したそうな。会うたびに楽しそうに学校の話をしてるから、きっと充実してるんだろう。
今日は今日で、スカジアさんの追加配備分の納入日なので私は地上本部へとお出掛けです。スーツ姿でビシッと決めたロゼさんに何故だか抱きかかえられたまま受付に。用件を伝えてロビーで佇んで暫くすると、はやてさんが私の下へとやって来た。
「ゼロ、久しぶりやなぁ。元気そうで何よりや。一人暮らし始めた言うてたから心配で様子見に行きたかったんやけど、忙しゅうて今になってしもてん、ごめんなぁ」
眉をハの字にしながら謝るはやてさんにわたしは気にしないで下さいと伝える。はやてさんが忙しいのは百も承知だし、一人暮らしといっても家にはロゼさんが居るし、皆心配してくれてて私の様子をちょこちょこと見に来てくれるから。寂しい思いとかは全然してないし、毎日が楽しいから充実してるんだよねぇ。
「ご飯とかちゃんと食べとるん? 掃除も一人じゃ大変ちがう? 困った時は言うてぇな、出来る事があるなら手伝うし」
はやてさんも小さい時は一人で苦労してたから多分心配なんだろうなーと思いつつ、あの家での生活に不便もないし困ってもないんだけれどその時はよろしくお願いしますと言っておいた。
そんなやり取りもそこそこに、案内された場所は以前にも来た事がある例の部屋で。そう、地上本部内にある訓練所だ。周りを見渡すと今日の主役であるスカジアさんの改良版は既に運び込まれており、先代スカジアさんと共に並んでいる姿を見るとちょっとだけ誇らしい気分になる。自分で発案して制作から売り込みまで行ったものがこうして役に立って認められたんだから、ちょっとくらい喜んでもバチは当たらないよね。
今日はスカジアさん改良版の性能テストと御披露目会みたいなものなんだけれど、実の所先代スカジアさんとの差は余りないんだよねぇ。ぶっちゃけ耐久性や稼働時間を引き延ばしたくらいで、目新しいモノは先代では実行できなかったコマンドを少し組み込んだくらいでそんなに変わってないし、管理局から依頼されたスカジアさんに追加して欲しい機能をちょこちょこーっと付与したくらい。欲を言えば、なのはさんの砲撃ぐらいの威力を撃てるスカジアさんにしたいんだけれど、こんな事をすれば過剰戦力としてみなされるだろうし燃費も唯ならないことになっちゃうから自重した。
スカジアさん追加配備よりも真の目的は別の事だから、この説明会は余興みたいなものだ。だからと言って手を抜けばきっとそれは分かる人にはすぐ分かっちゃうからやらない。以前と同じように真面目に説明をして先代スカジアさんとスカジアさん改良版の違いと利点と欠点を上げて、今回初参加の人にもわかりやすいように配慮もしなきゃ。
色々と言わなきゃならない事はあるんだけれど、運用ノウハウのデータは地上本部の方が蓄積してあるだろうから、その辺りはもうお任せしても良いだろう。前回にも参加してた人や、ずっと先代スカジアさんのメンテナンスをしてくれてた人たちも参加してて質疑応答は濃いやり取りが出来たと思う。
そうしてお披露目会は終了して、本来の目的である人物に接触を図ろうとしたんだけれど、なんでか向こうから私の方へやって来た。
「君があのお方の言っていた子供か……」
あのお方って言うのはもちろんレジアスさんの事だ。私の目の前に立つ人は地上本部のトップであったレジアスさんの後任となった中将さん。レジアスさんよりもちょっと若くてあんなに恰幅も良くないけれど、制服越しに筋肉がちゃんとついているのは分かるし、叩き上げの人と言われているそうだ。というか、レジアスさんから私の事をどう聞いていたのかすごく気になる所ではあるんだけれど、それが目的じゃないからポケットからケースを取り出して名刺を渡す。
「……その年にして既に起業しているのか。やれやれ、あのお方が驚く筈だ」
溜息を吐き二、三度頭を振ったレジアスさんの後任である中将さんは放っておいて、話が進み辛くなりそうだから本題に入らせてもらおう。
レジアスさんがあんな事を仕出かしたお陰で本来なら本局や海の息が掛かった人が後任に就きそうなものだけれど、そうならなかったのはレジアスさんの息がまだ残っている証拠。その事実を良い事に、私が開発した"拳銃型魔法射出装置"を地上本部に売り込む算段だ。質量兵器アレルギーのトップだった最高評議会の面々は居なくなってしまったし、以前よりも旧時代的な考え方の人は減っていると思われる。それならば魔導師に頼らない新たな戦力をと考えて私が作ったのがコレなのだから。そして売り込みを掛けるのなら一番手っ取り早い人物って、組織の一番上に立つ人が良いよねーって事でこの人に目を付けた。
「なるほど、場所を変えよう。立ち話する内容でもあるまい」
本当ならアポイントを取って会うのが筋なんだけれど、中将さんは私に興味があるのか時間を空けていたようだ。周囲に人が居るからあまり聞かれたくない内容だったし有り難い申し出を素直に受け取る。別室へと通されて豪華な革張りのソファーに腰かけて、ロゼさんに持ってもらっていた"拳銃型魔法射出装置"をジュラルミンケースから取り出してもらって彼へと向ける。
「これは……質量兵器……。まさかデバイス登録をして使用しろ、と? 笑えぬ冗談だ。君も知っているだろう、銃そのものは確かにデバイス登録できるが鉛玉や火薬も使用制限がある。そんなものを仮に大量配備したとしても全く意味のないものになる」
ええ、もちろん知っていますし、鉛玉も火薬も使用制限されているのは承知です。管理局法を犯すような事は致しませんし、使用者を危機的状況に追い込む気もない。驚いている中将さんにきちんと説明しましょうか。
見た目は確かに質量兵器そのものですし、装置の外装は金属で構成されているものだからそう見えるだろうけど、中身は魔法由来のもので質量兵器には定義されないモノにちゃんとなっています。銃口もあるけれど、そこから射出される弾は金属で出来たものじゃないし、弾丸として射出されるエネルギーも火薬ではなく魔法ですし。
「これを魔導師たちに配備させろ、というのかね?」
もちろんソレでも良いでしょうけど、本来の目的はリンカーコアを持たない一般局員の人に向けて作った代物で、引き金を引くだけで女性でも撃てるってのがコンセプトだから。その辺りの事をキッチリと説明して、コレを作った経緯と目的説明。おっかない視線を私に向けてる中将さんの心中や如何に。
「しかし本当にそれで魔導師に勝てるのか、と疑問なのだが……。犯罪者にも魔導師は居る、そういう輩にはどう対処する?」
確かに。でも一人で立ち向かう訳ではない。管理局は組織だ。組織として治安を維持し市民の皆様を守るという大義名分がある。
だからこそ、その強みを利用しなきゃね。局員の魔導師一人と、リンカーコアを持たない局員が百人集まりコレを装備したとすれば、どうなるのか。流石に高ランク魔導師には敵わないだろうけれど、低ランク魔導師や高ランク魔導師の足止めくらいなら運用方法次第できっとどうにか出来る。街の治安維持という意味合いならば、必ずしも魔導師でないと駄目だって事はないだろう。コレを武装した局員が巡回できたりするのだし、足りない人手に猫の手くらいは差し伸べられるだろうから。
「なるほどな。だが、その為の予算は? 人材の育成はどうするのだね?」
予算は流石に私ではどうにもなりませんね、最初は少数で構成された実験部隊でも創設してはどうでしょうか。コレを装備されるための人材の育成は管理外世界の軍隊を参考にすればいいでしょうし。その為の文献とかは無限書庫で漁ってレポートにまとめてあるから教導隊や陸士訓練校の教官たちにでも任せれば出来ると思う。というよりも訓練何て射撃訓練だけであとは体力の問題になるだろうし、難しく考えなくてもいいんじゃないのかな。
「では、もう一つだ。武器を持つ、という事は局員の命も危険に晒される、という事だ。攻撃をする手段を得ても身を守る術がない。そんな局員を私は前線に立たせる事など出来はしないよ」
そう言い切る中将さんは本当に現場からの叩き上げの人なんだろうねぇ。レジアスさんもきっと彼と同じセリフを言うに違いない。キャリア組や技術系から出世した人ならこういう言葉は中々でないから。目先の利益に囚われて飛びつく可能性の方が高いし、下っ端局員なんて使い捨てくらいに考えていそうだし。もちろんすべての人がって訳じゃないだろうけれど。
心配性な中将さんを見越してちゃんと対策は取ってあるんだ。簡易バリアジャケットなるものを作っておいたのだから。武器を所持するのに防具はない状態っていうのはナンセンスだよな、と思い至って作った試作品。数か月前、難航していた開発品だけれどどうにか試行錯誤をして、漸く形になった品なんだよねぇ。
常時魔法を展開していると燃費がとんでもない事になってしまったから身体全体を守るというよりも、胸や腹部の急所部分を守るものにしてみた。何もないよりマシだし、この世界は治癒魔法っつー便利なものがあるし。防御魔法発動も手動にして、任意に発動するようにして出来るだけ魔力消費しないように努力してみたけれど、そのうちヒューマンエラーとかポカミスとかでスイッチの入れ忘れが問題に上がるだろうから、何か対策を施さないと。でもまぁ、その辺りは地上本部の人たちの意見も取り入れて改良していければ良いなって。一人で考えているとどうしても煮詰まっちゃうし、偏るしね。
中将さんにはこの事もきっちりと伝えた。隠して後で大問題になってもいけないし、そんな事をしちゃえば"信頼"を得られない。私は売り手で、買い手は中将さんになるんだから、お客さんに不誠実な対応なんてした日には、次のご来店を望めないもんね。
――世間に浸透している常識を覆すって難しい。
魔法が当たり前に存在し、魔導師が存在しその力を駆使して平和を守る。その当たり前が崩れることはないのかもしれないけれど……。私の作ったコレが何時の日にか陽の目を見られる事があるのなら、それは管理世界が半歩でも進んだ証拠、なのかもしれない。
8896字
誤字報告、感想、お気に入り感謝です。作者乱心の為に一度消してしまったので申し訳ない限り。2/15日の更新はまるっと話が新しくなっております。某シーンを没にして差し替えしました。