ラボと言う名の自分の研究室に引き篭もってパワードスーツの開発に精を出している時だった。
「やぁん、可愛いわぁ」
空中にハートマークを何個も浮かべそうな勢いの猫なで声を出しながら椅子に座っている私を抱きしめて頬擦りするのは、誰であろうスカさん一家の四女であるクアットロさんだ。原作アニメ三期の最終話辺りで、スカさんと同様に素晴らしい顏芸を披露し非道っぷりな思考を叫びながらも、あっさりと主人公に破れ去っていった憎めない人と前世の私はそう記憶していた。
そうして現在の私の彼女に対しての認識は、時折腹黒さを見せながら飽和状態にもかかわらず愛という名の砂糖を私に更にぶち込もうと邁進する素敵な四女さん、である。戦闘機人な彼女だけれど、柔らかい胸をぐにぐにと押し付けて頬擦りを続行してる。
どうにも抱き癖が彼女たちに付いてしまったようで、私を見るなり抱き上げて頬擦りやらおでこにキスするのは日常茶飯事と化していて。もちろん私の事を快く思ってくれていない人も居るので全員という訳ではないんだけれど、特にひどいのは長女さんから四女さんまでである。何故だ、解せぬ。
「……やめてくだしゃい」
舌足らずながらも、眉間にしわを寄せながら抗議の声を上げる私。未だに上手く喋れないのは如何なものかと思いつつも、まだ三歳児なのだから仕方ないと自分に言い聞かせる。私に頬を寄せるクアットロさんから逃げようとするけれど、抱きしめられている腕の中から逃げられる訳はなく無意味な行為で。
「だーーめっ」
逃げようとする私を見て更に甘い猫なで声を出しながらご機嫌な様子で、先ほどの私の言葉は聞き入れてもらえないまま頬擦りも続行。かなりご機嫌な様子で止めてくれそうもないクアットロさんを早々に放置して、私は空中ディスプレイを眺めながらパワードスーツの基本データをキーボードを使って打ち込む。空中モニターやキーボードを操る私を楽しそうに眺めているクアットロさんなんだけれど、何がそんなに楽しいんだか。こんな事をする暇があるのならあの見事なやられっぷりを回避する為に、立派な悪役として色々と立ち回り方なんかを考えて欲しいものだけれど、そもそもこのアジトでの生活は悪の秘密組織なんて無縁の生活である。
食料などはとある管理世界の偽装した一般家庭に通信販売で買った荷物として届いて、そこから転送魔法を使用してアジトまで運び込んでいる。もちろん魔法を使っているから、生鮮食品も腐ったりしないまま手に入れられるし。生活必需品も食品と同じ様に手に入れているし。自前で仕入れている物なんてほぼ無し。ちゃんと対価を払って、色々と必要な物を手に入れている。スカさんの研究資材もだ。文明と魔法がミックスされた世界って最高と言いたくなるのは仕方ないのかも。手に入れられないなら自給自足をしなくちゃならないし、普通に生活する事も大変だし、そんな事になれば研究や開発どころじゃないだろうし。
そうそう、このアジトの食生活なんだけれどウーノさんと私の二人で調理をしてた訳なのだけれど、それだと大変なのでただ今ご機嫌なご様子のクアットロさんにも仕込中。二女であるドゥーエさんにも頼もうかと思ったんだけれど、あの人はほとんどアジトには居なくて諜報活動に精をだしているのだから無理。
三女のトーレさんは、と思って一度お願いした所、快く引き受けてくれたは良いものの色々と問題があって……というか料理センスが皆無だったので早々に諦めようとウーノさんと相談してそうなった。……手にした調理器具をことごとく破壊していく光景は圧巻の一言だった。
生活必需品で思い出したんだけれど、彼女達が着ている通称エロスーツ。スカさんの趣味でそうなったのか、彼女達が選んでそうなってしまったのかは分からないのだけれど、ファッション雑誌とかを手に入れてそれとなく別に服があるんだよとアピールしてみたものの気付いてもらえず。ナンバーズの皆様の普段着は見事そのままエロスーツとなってしまいました。
ま、私は同性だし別にスカさん一家の女性陣たちの裸をみてもなんとも思わないのだけれど、ゼストさんが目のやりどころに困ってるのを見ちゃって、ちょっと可哀そうだったからそれとなく頑張ってみたんだけれど、無意味に終わってしまった。ごめんよ、ゼストさん。この一家いろいろと駄目なんだ、きっと。
人様の事を駄目だ駄目だと言いながらも、自分も駄目な人間にカテゴライズされそうな勢いかもしれない。黙々と研究と開発に精を出して色々と制作中だし。でも楽しいのだから仕方ない。巨大二足歩行兵器が作れてしまうくらいなので、今モニターに映し出されているパワードスーツの制作も結構進んでいて順調だ。動力を電池にするか太陽光で蓄電池にするのか、はたまた魔力でそれらの肩代わりにするのか。
前世よりも選択肢が多くて、試行錯誤する日々が続いている。
兵装も考えているのだけれど、どうにも前世の知識故か無意識のうちに質量兵器よりになってしまっているので気を付けなきゃいけないのが玉にキズ。魔法が主体の世界だから魔法を主としなくちゃいけないのだけれど、これが難しいんだよね。質量兵器寄りになっちゃう事はスカさんには好評なんだけれど、管理世界の人たちには受けが悪いだろうから。管理局法に思いっきり抵触しちゃってるんだけれど、誰かが使う訳でもないし管理局に売る訳でもないし、個人的な趣味の領域だから開き直っている節もあったり。
ふと思ったんだけれど、スカさんはどうして質量兵器や化石燃料とかに手を出さなかったのだろう。管理世界出身の人だからそっちに馴染みが無かったでも済ませられるけれど、スカさんなら興味持ちそうなんだけれど。わざわざ貴重なレリックを動力を確保するよりも、通常動力の方が効率的なんだけれどなぁ。今度地球の技術を漁ってみようかな。前世はそっち方面に全く興味なかったし、普及してたものだからその存在が当たり前だったし。パワードスーツにも応用できそうだし。ほら、やっぱりこうして考えて色々試そうとするのは面白い。
「さて、そろそろ行きましょうか」
考え事をしながら空中に浮かんでいるキーボードにカタカタと打ち込んでいた手が止まる。声の主に顔を向ければ、にっこりと微笑むクアットロさんが。
作業の邪魔する気配が無かったから抱きしめられたままの状態だったのだけれど、何処に行くのだろうか。というか、何時の間にクアットロさんの膝の上に……。気付かない程熱中していた事に反省しつつ、何処に行くのだろうかと首を傾げる。この研究室以外に行く場所なんてほとんどないし、アジトから外に出た事ないしなぁ。この三年間。うん、立派な引き篭もりだなぁ。
「お風呂です」
何も言わない私を無視して目的の場所を教えてくれるクアットロさん。そういえばお風呂に入ったのは何時だっただろうか。暫く入っていない気がするんだけれど、きっと気のせいだ。
「……二日、ね」
なんで私の心の中を読んでいるんですかーと抗議したいけれど、二日と言い終えたクアットロさんの顔が非常に怖い。笑っているのに非情に怖いのだ。大事な事だからもう一度言っておこう、超怖い。顏芸だなんてからかっていたけれど、これは本気で不味い。背中に嫌な汗をかきながら、どうすればこの現状を回避できるのかシュミレーションしてみるけれど、答え何て思いつかない。そんな慌てた様子の私を見て可笑しかったのか、修羅を宿したクアットロさんだったけれどマリア様の様な慈愛に満ちたような笑顔になる。
喜怒哀楽の高低差が激しいなと思いつつ、彼女の言葉を無碍にすれば私の命があっさりと終了してしまいそうな雰囲気をひしひしと感じ取れるので、大人しく言う事を聞かねば。私の立ち位置はこの一家の末っ子的存在なのだから、悲しいかなお姉ちゃんたちには逆らえないのです。
「さ、行きましょうねぇ」
「……あい」
間延びしたクアットロさんの言葉に頷いて、私が設計監修したお風呂に着いた。アジトにはシャワーしか無くて、炊事場同様スカさんに懇願して設置してもらったのがこのお風呂。ウキウキで作って貰ったのはいいものの、自分の体のサイズを意識してなくて大人サイズで作っちゃったから一人で入れないっていうミスを犯してしまってた。そんな事なので私がお風呂に入るには、誰かの手助けが必要で。本日の手助け担当がクアットロさんだったのだろう。お風呂に一人で入るのは無理なんだけれど、服ぐらい一人で出来るというのに手助けしてくれるのは有り難いけれど恥ずかしい。
私と一緒にお風呂に入る当番が、血で血を洗う争奪戦になっていたと知るのはもう少し先だった。ナンバーズの皆のメンテナンスをしている時に、やたらと駆動系の摩耗が激しかったので理由を一人一人に聞いた所、正直に私に教えてくれた六番さんと十一番さんには感謝しなくちゃね。七番さんと九番さんは巻き込まれ事故みたいな感じだったそうだから、申し訳ない事をしたなぁ。
余談はさておいて。クアットロさんと一緒にお風呂に入っている訳なんだけれども、すべての作業がお任せ状態です。自分で出来るからと伝えても、笑ってスルーされるからどうにもならない。そして他のメンバーもそれを許してくれない。スカさんも一緒に入ろうと誘ってくれた事もあるんだけれど、断固拒否。即答で断って隙を見せなかった所為か、私と一緒に入ろうといろいろと裏で画策してたみたいなんだけれど、その目論見はスカさん以外の一家全員にボロ雑巾のようにノされてしまった。
そんなスカさんをちょっと可哀そうに思いながら、流石に成人している男の人と一緒に入るのは私の精神衛生上無理だったので、暴走スカさんを止めてくれた事は感謝してる。不貞腐れて泣きそうになっていたスカさんは貴重だったけれど、暫く臍を曲げていたからご機嫌取りが大変だったんだよね。煮詰まっていた理論を別の角度から見たレポートを渡してみたり、開発が難航していた作品に私も加わってみたりして一緒に居る時間を増やしてみたら、いつの間にか機嫌は直ってた。マッドな天才でも困る時はあるみたいで、頭を一人で抱えてるんだから見てられないんだよね。愛は無いけれど情が有るのだから、つい手を出してしまう。
――家長であり大黒柱であるスカさんの威厳は何処へやら。
そんな事を考えながら、クアットロさんの膝の上で洗髪してもらってたんだけれど指の力加減が微妙な具合で、すんごく気持ちいい。二日お風呂に入っていないのなら、たぶんだけれど二徹してると思う。どうにも目の前の物事に集中すると時間を忘れてしまうのはスカさん譲りみたいで、だんだんと私もマッドな領域に入りつつあるのかも知れない。
「……っ」
うつらうつらと船を漕ぎ始めるんだけれど、起きておかなければこのまま全自動でクアットロさんに全ての作業を預けてしまう事になっちゃうから、頑張って起きようと踏ん張ってはいたんだけれど結局は無理だった。やっぱり三歳児に二徹はキツイ。
「あらあら」
眠ってしまった私を浴槽で溺れない様にと抱きかかえてくれていたクアットロさんは、幸せそうな顔をしてたらしい。
――かぽーん。
とレトロな音が響きそうなアジトのお風呂は、シャワー設備しかなかったスカさん一家に好評でした。ゼストさんも時折入りに来ているみたいだから、気晴らしになればいいんだけれどね。
◇
パワードスーツが完成して喜々としてさぁ初起動だと意気込んでみたものの、被検体として適当な人材が居らず打ちひしがれていた私。だって、ナンバーズの皆様は戦闘機人なので、もともとパワードスーツを装着している様なものだし意味がない。私が実験しても良いんだけれど、作ったものは平均的な成人男性に合わせて作っちゃったから無理。それじゃぁスカさんが居るじゃんってなるんだけれど、この一家の大事な大黒柱にそんな事をさせる訳にはいかないので却下。誰か適任者いないかなーと思い浮かんだのはゼストさんだったけれども、あの人は確か病気か何かで無茶を出来ないので話を通すまでもなく諦めた。
――あれ、パワードスーツじゃなくてもよくないかな?
ふと、思う。なんで人間自体を強化する事に囚われてしまっていたのだろうか。別に肉体を強化しなくても、人間型のロボットを量産してデバイスの人工知能を転用させれば結構簡単に組めて、即戦力になりそう。AIならば経験を積ませれば色々と学んでいくだろうし伸び代は結構あるんじゃないのかな。無理にAIを搭載しなくても一定のコマンドを与えて実行するものでも良さげだし、もう少し複雑な事をやらせたいのなら遠隔操作すればいいし。使い方次第で利用価値は出てくるだろうし、色んな事に汎用させられそうだ。でもパワードスーツも人間型ロボットもどっちも浪漫溢れるものだし、こうなったら両方開発しちゃいましょう。
そうと決まればさっくり雛形を作って試作品を完成させなきゃね。ロボットの方は人型に囚われなくても全然OKだし、あとは私が何処まで良いモノに練り上げられるかに掛かってる。高笑いをしたくなりそうな衝動を抑えながら、空中に浮かぶキーボードにべこべことデータや計算式を打ち込んでいく。今の私の顔は三歳児にはとても見えない表情をしていると思う。スカさん譲りの歪な顔をしてるんだろうなぁと心の片隅で嘆いているんだけれど、けれどモノ作りの楽しさが上回ってかなりハイな状態でドヤ顏を披露してる。でも、この部屋は私専用の研究室だから誰も居ないので、そんな顔をしても無問題。
「お嬢様……」
「?」
声に振り返ってみれば、神妙な顔をしたウーノさんだった。一応危ない物もあるので入る時は連絡を下さいと皆には伝えているんだけれど、それがなかったから緊急事態なのかも。ウーノさんがそういう約束事を怠る人ではないからねぇ。。
「……お忙しい所大変申し訳ないのですが、お願いがあります」
幼女に敬語ってどうよ、と密かに思うけれどスカさんのクローンなんだし仕方ないのかなぁ。何度か敬語じゃなくても良いですとは言っているのだけれど、聞き入れてくれる素振りはない。年上の綺麗な女性から敬語ってクるものがあるから、それはそれで乙なものかもね。前世じゃこういう体験は出来なかったし。これはこれで萌えるってもん。
で、話の内容はどうやら研究に没頭しているスカさんを止めて欲しいとの事。部下であるウーノさんは上司であるスカさんに逆らう事が出来ないので、私を頼ってくれたみたい。話を聞き終えて快く了承の返事をすれば、ウーノさんは『ありがとうございます、お嬢様』と言うなり私を抱きかかえてスカさんの研究室へと急ぎ足で目指す。走るだなんて愚行をウーノさんはしない。
「あーはっはっはっはっは! ふはは、ふはっ、ふはははははっはははっ!」
広い研究室では異様な光景が広がっていた。一段高くなったステージ上にはスカさんの姿。そこで大きく両腕を広げて壊れ狂ったように笑ってる。嗚呼、初めて出会った頃にイケメンだなぁ、なんて思ってた自分が恥ずかしい。そんな異様なスカさんの前にはつい最近完成したという原作よりもちょっとスマートになったガジェットドローンたちが規則正しく軍隊の兵士の様に並び、上官の言葉を一語一句聞き漏らさない様にと真剣に聴いているよう。……いや機械だし人工知能は搭載されていないから、スカさんの言葉を理解するのは無理なんだけれどね。
どうしてこんなアッパーなテンションに入ってしまったのかは不明だけれど、予測は出来る。最高評議会の三人に何か言われたに違いない。いくら天才といえど、後ろ盾を失えば何も出来なくなるのだから所詮は子飼いのサラリーマンと変わりないのである。スカさんは。だから、まぁ、原作のような御乱心を起こしてしまったんだけれど。
その御乱心が近いうちに起こるだろうし、どうしたものかなぁ。困ったもんだ。で、最高評議会の爺様たちから無理難題を吹っかけられた無茶のストレスを研究と開発にぶつけて発散させようとしたのだろうけれど、五徹か六徹だなんていう異常な徹夜を続けてついに極限まで登り詰めたのだ。ウーノさんはそうなるとスカさんを止める術を持っていないので、私が呼ばれたって訳。いつのまにか無茶をするスカさんを止めるのは、私の役目になってた。不思議。
――てぃ。
「ごふっ」
無言の延髄打ちである。慈悲もなにもない見事なまでの延髄打ちは綺麗に決まり、スカさんの華奢な身体が短い吐息を吐いて垂直に崩れ落ちる。うん、自分でやらかしておきながら百二十パーセントの会心の一撃だった。三歳児の身体だと力が無いから魔法に頼ったけれど。これ、綺麗に決まらないと前か後ろに倒れて頭を打っちゃうし、凄く危険なものだから誰彼と簡単に打ち込むものじゃない。下手をすれば死んじゃうので、蘇生技術を持ってないならやらない方が賢明である。
自身を生み出してくれた親に対して物凄く酷い仕打ちなのだけれど、こうでもしないとまだ徹夜を続けてしまうのだから強硬手段に取って出てるんだ。それにこれ以上研究を続けても、効率は上がらない。むしろ下がる一方で後で色々と不具合が出てくるから。
ウーノさんがスカさんに言い聞かせて聞いてくれるのが一番だけれど、いつもいつも言っても聞いてくれないからこうして私が出動して強制シャットダウンなんて無理をしてるんだけれどね。意識を失ったスカさんを魔法で運ぶ。ほら、あれですよ、あれ。アニメでスカさんがフェイトさんを拘束してたあの魔法。その魔法を応用してぐるぐる巻きに縛りつけて空中に浮かせて運んでる最中。スカさんが落ちない様に気を付けて、スカさんの自室のベッドまで連れて行くのが常態化してる。
フェイトさんを縛りつけて、フェイトさん自身のバリアジャケットのデザインセンスも相まってお色気シーンと化してしまっていた原作ですが、今私の眼の前に居るのは紛れもない中年男性で。下手をすれば高齢者に入る部類になる人である。お色気も何もないし、男女を間違えたサービスシーンにもなりゃしない。ただただ、動けなくなったスカさんを簀巻き状態にして、うにょうにょと触手の様な魔法で自室に送っているのだからシュールな光景である。
ドナドナの曲が流れてきそうなくらい哀愁を漂わせているスカさんは、次元世界に指名手配されている大犯罪者にだなんて全く見えない。本当に貴方はアニメで犯罪者だったのかと問質したくなるけれど当の本人は夢の中だし、ココでお世話になっている恩もあるから止めておこう。
スカさんの自室にやっと辿り着いて中へと勝手に入り込んで周りを見渡すけれど、相変わらず何もない殺風景な部屋だ。ベットと机しか置いていないし、設置されているクローゼットの中はスーツだらけで他の衣装なんて見た事が無い。
そういえば女性だらけのこのアジトで、スカさんの性欲はどうやって発散しているのやら。スカさんの年齢は知らないけれど、性欲はあるだろうし七十歳を過ぎてから子供を授かったなんてニュースも極稀に見た事があるしね。不思議に思って興味本位でベッドの下を覗いてみるけれど、ストレスを発散させる為の補助製品は何も見当たらない。机は簡素なものだから、隠せるような仕掛けは施せないし。……一瞬、男色に走るのだろうかと想像してしまい、世間様に公表するのならモザイクが必要な事を想像してしまったのは私の落ち度である。すかさんかけるれじあすさん……ゲフンゲフン。ま、まぁ、パソコンとかあるからデータで持ってるかもしれないし、下種な考えは良くない、良くないよ私、と言い聞かせて想像した映像を消去させてなかった事に。
性欲はさておき、なんにしろこの一家の大黒柱なのだから元気で過ごして欲しいと思う、子供心。
部屋を眺めながらこの部屋の主をベッドの上へと乱雑に転がす。どうも魔法の術式が甘いのか細かい作業は苦手なんだよね、この触手魔法は。スカさんにお布団を掛けて上げたいけれど、自分の力じゃ無理だし触手魔法でも無理で。今度術式をもっと弄って改良してみようと決意。それを見越してか少し私たちに遅れてウーノさんがやって来て、ベッドの惨状を見るなり苦笑いをしながらスカさんにお布団を掛けてくれた。この辺りは本当スカさんの女房って言われるだけあるよねー。微笑ましい光景なんだもん、仕方ない。アッパーなテンションを沈め、ついでにスカさん自身もベッドへと沈めた時間は世間様でいう所のご飯時であった。
そういえば暫くまともな食事を摂っていなかったな、と思い調理場へと足を向ける。辿り着いた先の大型冷蔵庫を覗き込んでみれば、適当な食材がチラホラと。使いかけの野菜やお肉が転がってる。これで海鮮食材でもあればもう少し豪華なものになってたかも知れないけれど、無いものは仕方ない諦めよう。もう一つ必要な一番大事な物があるかどうかを確認して、必要な材料を取り出していると戦闘訓練を終えてお腹を空かせたのか台所にやって来た人たちが数名。
"お腹空いたー!"と私の後ろで吼えているんだけれど、この身は幼児なので大人と同じようにテキパキと調理はできないので、やってきたメンバーに手伝ってもらおう。その手伝いの方法が、世間一般のお手伝いの仕方と大いに違うのはスカさん一家だから、と納得してもらうしかない。
「はっ!」
気合の入ったトーレさんの声が一つ零れる。一瞬遅れて空中に放り投げたキャベツが千切りとなってボウルの中へと入る。もちろん切ったキャベツの破片がボウルの外に落ちる事は無い。全てボウルの中に入る匠の技である。そんな神業を見せてくれるトーレさんなんだけれど、まな板の上で包丁を持って千切りが出来ないのはこれ如何に。料理が出来なくて、半べそをかいていた難儀な彼女なのだけれど投げたキャベツを木端微塵にする姿は様になっているし、これも"切る"という調理の工程の一部なのだから料理をしているという部類にいれてあげて欲しいものだ。
……賛否両論あるだろうけれど。
「うっはー! すごいっスっ!」
丸椅子に座って無邪気に笑って手を叩いているのはスカさん一家の十一女のウェンディさんだ。手伝う気は全くない様子で呑気に自分で用意したお茶を淹れて飲んでいる。というのも、食べ終わった後の片づけが残っているから。いつの間にか出来上がっていたルールがあり、ご飯を作らなかったり手伝わなかった人は後片付けをしなければならないのである。
だからウェンディ―さんは後片付けをするのだろう。手伝わなかったり、サボったりすれば後日食事抜きの刑が待っているから。派手なキャベツのみじん切りを披露している横で、地味に山芋を摩り下ろしていたのは皆のアイドル、クアットロさんだ。いつの間にか台所へとやってきて、私が擦っていた山芋をニコリと笑い奪い取って無言で擦ってくれてた。
ここまで言ってしまえば、日本に住んでいる人たちなら分かってしまうだろう『お好み焼き』である。イカやエビがなかったのは残念だったけれど、代わりにコーンやチーズ、ウインナーが入っているから具が寂しいって事はないかな。
久しぶりにまともにご飯を食べるから、胃が持たれてしまわないか心配だけれどフライパンに火を入れて焼き始めると良い匂いで食欲をそそってきたから平気かな。仮にお腹を壊しちゃっても痛んだものを食べた訳じゃないし、気にしたら負けだから満足するまで食べよう。
あ、そういえばお好み焼きは初めて作ったもんだから、物珍しいのかナンバーズの皆様がいつの間にか全員集まっていた。二女のドゥーエさんが居ないのがちょっと寂しいけれど。今度帰って来たときにまた作ろう。きっと楽しい食卓になるに違いないから。全員集合しちゃったものだから、皆がお腹一杯になってくれるまで食材が足りるのか心配だったけれど、冷蔵庫の食材を総動員してどうにかなった。
皆美味しいと言ってくれていたし、御残しも無かったから作った甲斐があった。途中、悪乗りしちゃったウェンディさんとセインさんが本来ならお好み焼きに入れない具材を投下しようとして、ウーノさんとトーレさんクアットロさんにしこたま怒られていた、南無。原作だと皆一度は犯罪者として裁かれた人たちだけれど、私にとっては三年間一緒に過ごした人たちだから無碍には出来ない人たちになりつつあった。
――すやぁ。
簀巻きから解放されてベッドですやすやと眠っていたスカさんが目覚めて、後にこの出来事があった事を知り臍を曲げたのは機嫌を取り戻すのに苦労したのは余談である。
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