――面倒事を頼まれたなぁ。
話は数時間前に遡る。
目の前には私の保護責任者であるカリムさんの上司さんと後見人である聖王教会上層部の三人の姿が。何処から嗅ぎつけたのだろう、私が管理局に新兵器を売り込んだ事を。彼等から聞いた話をすごく簡単に意訳すると、管理局だけではなく聖王教会にも何かをくれって事なんだろうけれど正直面倒くさいというかなんというか。
頼まれた内容については、聖王教会を創設した人物の"魂"の再生、とでも言えばいいだろうか。もっと簡単に例えるとするなら霊験あらたかな"イタコ"の様な事をやりたいという事だった。その他にも医療魔法や医療技術の向上もお願いされたけれど、本命は前述した魂の再生の方だろう。流石に死者蘇生は管理世界では禁忌とされているから出来ない、でもそれに近い事をやりたい。なら、どうするのか。
肉体ではなく精神だけ蘇らせれば管理局法に引っ掛からないのでは。
と言うのが彼らの考え方みたい。永続的になんてのは管理局から目を付けられそうだし、都合の良い時だけ呼び出せないかとも言われたけれど。流石にこんな台詞をストレートに言えないから遠回しに伝えてきたけれどね。
依頼が依頼だけに、考えさせて下さいと返事を濁して帰ってきたのだけれど、まぁなんだろうね。彼等の言い分も解らなくも無い。聖王教会の教義は割と自由で束縛するものは少なく、それ故に管理世界で広く人々に信仰の対象として布教しているのだから。
逆に言えば、確りとした
まぁ、そこまで卑屈に考えなくても良いと思うけれど、こんな無理を言われれば悪態をつきたくなってしまうのは許してほしい。
スライム状態のロゼさんの上で胡坐をかきながら、この件についてお家のリビングで暫く考えてた。色々と試してはいるんだけれど全くうまくはいってないから煮詰まっちゃってて頭を抱えている状態なんだけれど、打開策なんて見つかる訳も無く。テレビから流れる光と音をぼーっとしながら無為に時間が過ぎていた。
しっかし魂の再生なんて出来るモノなのかな。つか無理だよね、無理無理。だってもう死んじゃってるんだもん。黄泉の国から呼び出せとでも言うのだろうか。聖王教会に日本の宗教的な考え方は無さそうだし、何をしたいのやら。
ヴィヴィオさんの件もあるし、"記憶継承"なんて厄介極まりないモノが存在しているのも知っているから下手に関わりたくないと気持ちがあるのと、そういう人たちを自分の手で増やしてしまうのは頂けない。それなら医療系の魔法や医療技術の向上の方に力を入れますかねぇ。魂の再生の件については有耶無耶にして煙に巻いちゃおう。いくらスカさんのクローンと言えど、無理なものは無理。む~~~りだ~~よぉ~ってね。
「マスター」
「どうしました、ろぜさん?」
「……大変心苦しいのですが、お願いがあります」
スライムさんの姿からいつもの女性の姿となるロゼさん。今は家で二人っきりなのでロゼさんは裸だ、裸族だよ。スレンダーで巨乳で美人の裸。
男の人なら喜んでるんだろうけれど、女性の裸なんて大衆浴場とかに行けばロリから熟女、果てはお婆ちゃんまでいつでも見られるし、ロゼさんの裸は見慣れたしこのヘンテコな状況をなんとも思わなくなってる自分が居る。
それはさておき、なんでか床の上に対面で正座している奇妙な光景になってるんだけれども、ロゼさんが私にお願い事があるなんて超珍しいから、ちゃんと叶えられるものなら叶えてあげなくちゃ。いつもいつも高い所にある物や重い荷物を持ってくれたりしてて、迷惑を掛けてばかりだし。私の事を第一に考えてくれて、私の事を最優先してくれるロゼさんだもんなぁ。
「……」
何だろうと思ってロゼさんが伝えてくれるのを待ってるんだけれど言い辛そうなんだよね。
「……えっと、わたしにはいいづらいこと、でしょうか?」
まさか私に愛想を尽かして、使い魔契約を解除したいとか……。今までたくさんのお願いをしてきたし、それが嫌になったとか……少し考えただけでも目の前が真っ暗になっていくし、涙が零れ落ちそうになるんだけれど……。身体が小さい所為か感情の余裕も小さいんだよね。ふとした事で泣きそうになる事が多いんだな。大人なら泣かずに我慢出来ていた事が、感情に流されて泣いてた事が何度かあるし。巨大二足歩行兵器が爆発四散した時とかがそうなんだよね。恥ずかしいから皆の前では必死で隠しているんだけれど、今はロゼさんと二人っきりだし気が抜けちゃってたから余計に自分の感情に振り回されやすい状態になっちゃってて。
離婚届願いならぬ使い魔契約破棄願い……洒落にならないし、どうしよう。
今までロゼさんに頼り過ぎていたツケが回って来たんだろうか。そう思った瞬間、涙腺が決壊しちゃった。
「マ、マスターっ! 何故泣いているのですかっ」
「……ろぜさんとつかいまけいやくをかいじょするなんて ぜったいにいやです……」
ロゼさんは服を着ていないから裾を掴んで逃げられない様にすることが出来なくて、仕方なくロゼさんの右手の中指を掴む。
「えっ?」
「いやです……」
「い、いえ、マスター?」
「……いやです」
拭っても拭っても止まらない涙。止めたいけれど止まらないものは仕方ないし、涙の次は鼻水まで流れ始めるし。人様に見せられる顔じゃないだろうなぁ、絶対。なんて考えていたらロゼさんにひょいっと抱きかかえられて膝の上に乗せられた。
「マスター。私がマスターと使い魔契約を解消するなんてあり得ません。私は貴女の手によって生まれ、契約し側に仕え、貴女と共に死ぬ。それが私です」
嬉しい言葉だけれど、同時に悲しい言葉でもあった。ロゼさんはそれで良いのかなって。
「もちろんです。私は貴女の使い魔なのですから。それが存在意義であり存在理由です」
きっぱりと言い切るロゼさんの瞳に迷いはない。確かに私の使い魔ではあるけれど、ロゼさんはロゼさんだし。自分の意思を持っているのだから嫌な事は嫌だと言って欲しいし、そのくらいの我儘は良いと思うし、私がやっちゃいけない事をしていれば窘めたり諌めたりして欲しいんだよね。ストッパーが居ないと駄目人間に直ぐなっちゃいそうなんだもん。
契約破棄をする気はさらさらないし、ずっとロゼさんとは仲良しでいたいし。でも、考え方の違いや捉え方の違いで喧嘩とかしちゃってもいいんじゃないのかなって。主従関係だけれど、それだけだと楽しくないし面白くない。対等でいたいと思うのは私の勝手な気持ちなのかな。
それにこの先長い時間を共に過ごすだろうから、嫌われてしまう可能性だってあるんだ。負の感情を持ったまま使い魔契約を継続しても仕方ないしその時は潔く破棄しなきゃね。私は嫌だし凄く哀しいけれど。私の気持ちを全部ロゼさんにぶちまけた。契約は破棄したくないし、これからも一緒に居たい事。駄目な事をしている時は止めて欲しい事。
ロゼさんが考えている事を教えて欲しい事。我慢とかもして欲しくないし、我儘だって言って欲しい事。主従と言うよりも対等な関係を築きたい事。他にも色々。感情がリンクしているとはいえ完全に理解出来る訳じゃないから、きっと勘違いとか思い違いだって今日みたいに起こっちゃうだろうし、ね。
「やはり私のマスターは貴女しか居ません。貴女だからこそ側に居たいと思えるのですから」
綺麗に笑ったロゼさんは私を膝の上に乗せたまま抱きしめてくれた。胸に顔が埋もれてロゼさんの心臓の音が私の耳に届く。それはとても心地よくて温かくて。だんだんと瞼が重くなっていって、抗う術を持たない私はそのままロゼさんの胸の中で眠りに就いた。
目が覚めると、自室のベッドの上だった。ベッドサイドにはロゼさんが人の姿のまま腰かけていて、何かの本を読んでいる。寝返りを打って目が覚めた私に気が付いたのか読んでいた本から視線を外してこちらを見る。枕元の時計に目をやると寝てた時間はそんなに長くはないんだけれど、話を折っちゃったのは間違いないし途中で寝ちゃったのは駄目だよね。
「ごめんなさい、ろぜさん。ねてしまいました」
大切な話をしていたというのに、幼い身だと我慢とか無理が利かないのでこうして時々やらかしてしまう。ロゼさん相手だからまだ許されている節があるけれど、他の人には見せられないなぁ。
「いえ、構いません。ここの所のマスターは忙しいご様子でしたので」
そういえばロゼさんが何か私に伝えようとしてたけれど私の盛大な勘違いで妙な方向に話が逸れてしまって、結局なんの話だったのだろう。気になるし、そのままにしておく訳にもいかないから素直にロゼさんにさっきの事を聞いてみる。
「……言い辛いと言いますか、面倒な事を頼もうとしているのかもしれません」
で、ロゼさんの話を聞いて要約すると。
――なのはさんに勝ちたい。
だ、そうだ。
聖王のゆりかご内で受けたディバインバスターがどうにもロゼさんにトラウマを植え付けちゃったみたい。七発分のカートリッジとなのはさん自身の魔力を乗せたバスターを防げただけでもロゼさんは凄いし十分に強い。
ナンバーズの武闘派の皆とも対等に戦えていたし、攻防ともに十分な能力を持っている上に近接、中距離、遠距離どこのポジションからでも対応できるのだから。それなのに満足していないだなんてロゼさんはどこまで強くなる気なのだろうか。面倒な事というよりも超大変な事のような気がする。なのはさんに勝つ方法なんて。まぁ、それはさておき。ロゼさんのその意思や勝ちたいって気概は大切なものだから最大限の努力はしなきゃね。
「私にはマスターを守り切る力が足りません」
と、きっぱりと自分の戦力を分析するロゼさんはしょんぼりとした顔をしているんだけれど……いやいやいや、ロゼさんは十分に強いですってば。目を付けてしまった人が冗談みたいに強い人だから敵わないのは仕方ない。なのはさんはなんてったって主人公属性が付与されているんだから負けフラグが立ち難い人だもの。そんな人に勝とうっていうのが無茶ってもんなんだけれど、強くなりたいっていうロゼさんの意思を無碍にする訳にはいかないしどうしたものか。
ロゼさんの頭の中では対なのはさんや、対フェイトさん、対はやてさん+ヴォルケンリッターとのシュミレーションが何度も繰り広げられているみたいで、勝てる方法が浮かばないんだって。
打開する方法が何かあれば良いんだけれど、どんなものがいいのやら。割と真面目な相談だから適当に流す訳にはいかないんだけれど、私は魔導師戦に詳しくないし、戦闘訓練とかもしてないし。ロゼさんにアドバイスを送るとしても素人が口を出して良いモノじゃない気がするしなぁ。どうしよう。
「ひっさつわざ……とか」
あと決め技とか。アニメの"リリカルなのは"には最後には主役級のキャラの皆それぞれ大きい魔法を撃ってるし、ロゼさんにもあってもおかしくはないのかな。でもどんなのが良いのかな。
「確か、タカマチ一尉がゆりかごの内部で最後に撃とうとしたあの収束魔法……」
ヴィヴィオさんに撃とうとして私が慌てて止めてしまったので未遂に終わったスターライトブレイカーの事ですねぇ。そういえばロゼさんは収束魔法を習得してませんでしたか。ロゼさんは万能型の魔導師さんなので得手不得手は少ないから努力次第でどうにかなるんだろうけれど、収束系は使いこなすのが難しいといわれている魔法だから、ロゼさんの希望を叶えて上げることが出来るのかどうかは私が組む予定の術式次第。
未遂に終わったとはいえ魔法を発動させている所を見ていたから、なんとなーく術式の理解はできる。できるんだけれど、なのはさんが独自で組んだものだからスターライトブレイカーそのものを完全にコピーして私が組み上げることは不可能。
だけれど方法はいくつかある。
魔法術式も組み上げてないし、今すぐ使うのは無理だけれど詳しく調べればどうにかなるかな。なのはさんのスターライトブレイカーをそのまま使う訳でもないから、収束魔法についての記述をネットで漁れば見つかるだろうし。
もう少し踏み込みたいのなら無限書庫で探せばいいもんね。無償奉仕勤務中だし、司書の資格もあと少しで取得できるから堂々と魔法について調べられるようになるんだよね。やっててよかった。取り敢えず、基礎部分だけでも組んでおこうと研究室に移動して魔法術式を組む為のシステムを起動させて椅子に座る。部屋にはロゼさんも来ているから一緒に術式を組まなきゃねぇ。ロゼさんが使うものだから、ロゼさんが使いやすいように組まないと。
――へくち。
ずずっと鼻をすすって、タイピングを再開するんだけれど今の時点で収束魔法の欠点がいくつか。距離減衰が大きいし、装填までに時間が掛かる事や魔力消費が多く連発が出来ない事。この辺りが問題になって、文字通り最後の一撃としなければならないから、使いどころの判断の難しさという点もあるかな。戦闘慣れしていたり、後詰の仲間が居るのなら気にしないまま撃てるだろうけれど。
「しかし、確実に止めを刺すという意味では理想的かと」
あの……物騒な台詞を言わないで下さい、ロゼさん。ロゼさんを殺人者や犯罪者にさせる気はないんですから。いやまぁ、更正施設を出る前に魔法を使用するなら必ず"非殺傷設定"を付与する事をロゼさんと約束したんだけれど、だ、大丈夫かなぁ。もう一度確認しといた方が良いかな、うん。
そんな私の心配を余所に、モニターに浮かぶ術式の羅列をロゼさんと二人で眺めながら、あーでもないこーでもないって言いながら消したり書いたり、理論を追加してみたり要らないモノを削いでみたり。考える事自体は楽しいから苦にはならないんだけれど、拘りだすとトコトンまで突き詰めようとするのがスカさん譲りの悪い癖で。勘違いして泣いてしまったのがお昼ご飯の少し前、それからお昼ご飯も晩ご飯も忘れてずっと術式を構築してた。
嗚呼、不味いなぁ。保護司さんにご飯のメニューとちゃんと作って食べているか確認の写真を送らなきゃならないんだけれど……。うーん、今日は仕方ないからお昼ご飯の画像はインターネットで拾った画像を加工して送って、夕食はおそくなったけれどキチンと作ろう。
とりあえず収束魔法と呼んでもおかしくはないモノが出来たんだけれど、試し撃ちを何処でやろうかなぁ。そこから術式の甘い部分や上手く構築できていない部分の手直しとかをしなきゃならないし、何時何処でやるべきか。
まだ公共魔法練習場は完成していないからお家の庭でブッパしちゃえばまた怒られるし。スターライトブレイカーもどき(仮)と"拳銃型魔法射出装置"の威力とじゃ桁違いのもになるはずなので怒られるだけじゃ済まない気もするし。ちょっと時間が掛かるけれど公式魔法練習場に行ってそこで試し撃ちをしましょうか、とロゼさんに伝えた。
「マスター、いつ行きましょうか?」
と。なんだかしっぽをぶんぶんふってるロゼさんの幻が見える。嗚呼、うん。これ一週間後にだなんて言えば確実に気落ちするロゼさんが目に浮かぶから、明日早起きして無限書庫へと出勤する前にどこかの公共魔法練習場を借りましょうかね。その時間帯なら空いているだろうし、その方が危なくないだろうし。そうと決まれば早くご飯を済ませて、お風呂に入って一日の疲れを落としてベッドにインしなきゃ。
手早くパパッと、とまではいかないけれどなるべく早くご飯を作って食べてお風呂そして歯磨きにトイレを済まして目覚ましをセット。念の為にロゼさんに目覚ましのアラームと同じ時間に起こしてもらう様にお願いして、今日という日に幕を閉じた。
◇
翌朝、早朝。太陽が昇る頃合いにはお家を出て、お家から一番近いけれど遠い公共魔法練習場へと足を踏み入れてた。平日の早朝だから人の姿はまばらで、試し撃ちにはもってこいの環境かなぁ。誰かが怪我をしちゃったりすると大変なので、結界を張るけれどあんまり慣れていない魔法だからきちんと使えるかどうか心配だったりするんだけれど、うっきうき状態のロゼさんを見てると失敗できないなぁ、ってプレッシャーが。もちろん術式の構築の方も心配だったりする。確認は何回もしたし、撃つまでには至ってないけれど何度か少量の魔力を通して詰りがないかどうかも確かめた。
でも何が起こるか分からないから。科学も魔法も、ね。でも迷っていても仕方ない。試さなきゃ始まらないし、此処は覚悟を決めなきゃね。それにこれで完成って訳でもなくて不具合を洗い出してから、さらに高みを目指さないと。
きん、と耳に音が響き何かがずれるような感覚。
「はじめましょうか、ろぜさん」
周辺に影響がないように結界を張ってロゼさんに声を掛ける。
「マスター、了解です」
その言葉と同時にロゼさんの足元には黒く丸い魔方陣が現れて、術式が発動される。取り敢えず今日はロゼさんの魔力と周囲に自然に存在している魔素を利用して撃ってみようって話をしてるんだ。どのくらいの威力があるかどうかも分からないし、五割程度の力でって話もしてる。最初から全力全開は怖くて試せないもの。
すっと一つ深く息を吸い込んで起動詠唱が始まる。基礎術式は私が組んだんだけれど、その発動に関してはロゼさんの魔法センスや感性とかが色々と加わるから、同じ術式を使用しても全く同じ威力や効果が得られる事はない。要するに魔法を使用する術者の得手不得手やらセンスやら努力やらが加味されて、同じだけれど同じじゃない魔法になるんだよね。不思議だ。
「群衆の影の中 秘密裏に事は成り 憎悪の声が歓喜する」
んー、あれ。おかしい……。
「さぁ 逸脱の民を撃ち 逃亡の夢すら砕け」
なーんで、そんな物騒な詠唱になっちゃってるんですかーーー! 参考にしたのはなのはさんのスターライトブレイカーなんだから、もっとこう正義の味方らしく明るいものにしましょうよぅ。そんな言葉だとお先真っ暗な未来しか見えないじゃないですかぁ。
「遍し潰せ」
なんで悪そのものみたいな、暗黒面に落ちちゃってるんですかぁ。私、私の所為なのか、ロゼさん、私の暗黒面に引っ張られたのぉおお。スカさんの所為もあるのかぁああああ。というかその詠唱だとミナゴロシじゃないですか、気の所為ですか。誰か気の所為だと言って下さい。
「――Darklight breaker」
っ。ロゼさんの超問題のある魔法詠唱はさておいて本来の威力の五割しか出力していないというのに、凄いな、コレ。身体が余波で押し飛ばされそうになるから、周りに生えてる一番大きな樹に触手魔法を発動させて巻きつけて飛ばさないように固定しているんだけれど、根っこからひっくり返りそうで怖い。
でも結界魔法はきちんと機能しているみたいで、外に漏れている様子はないから一安心。これさ、外に居る人が知ったらビビるだろうね。現実逃避したい気分になるけれど、色々とチェックしとかなきゃいけない事があるので気を逸らす訳にはいかない。術者であるロゼさんの肉体的、精神的負担軽減も試みなきゃいけないし、威力が足りないなら足しこまなきゃだしねぇ。
「これは……凄まじいですね」
ですねぇ。なのはさん、こんなものを放つつもりだったんだ、未来の娘に。映像越しで見るよりもこうして直に体感するとスターライトブレイカーの凄さがまじまじと解ってしまう。これは本当に奥の手だよねとロゼさんと話しながら、一応ロゼさんの必殺技リストに追加される事となったのだけれど、使い道……あるのかなぁ。
私の心配を余所にロゼさんはロゼさんでスターライトブレイカーもどきである"ダークライトブレイカー"がいたくお気に召した様子で、喜々として改良を重ねようとするものだから、さぁ大変。止めるにも止められず、相談されると答えない訳にはいかないので通称DLBは早々にして完成しちゃいました。しかも私の悪癖が発動して、周囲の魔素と戦闘で散らばった魔素、そして私の魔力もついでに吸い取る仕組みにしちゃった。
暫く私は戦闘に参加できないから後方支援のみの予定なので、魔力が底をついても状況的には不味い事にはならないだろうし、オン・オフの切り替えも出来るから。威力をもっと簡単に増やしたいなら、デバイスを作ってカートリッジシステムを組み込めば更に倍ドンが出来るんだけれど、この事をロゼさんに教えちゃうと多分止まらなくなるだろうから、ロゼさん自身が気が付くまで黙っておこう。その方が世の中の為だし私の精神衛生上も平和になるからね。決して現実逃避なんかじゃない。
「試し撃ちがしたいです……マスター」
で、DLB。試し撃ちからに三日後には完成して良い事なんだけれど、試す相手がいないからロゼさんがちょっと不機嫌になってた。もともとロゼさんはナンバーズの武闘派の皆と戦闘訓練をたくさん積んできているから、身体を動かす事や魔法を使って魔導師としての腕を磨くことは楽しいのだろう。JS事件から後は、拘置所生活の後に更生施設で生活。そして機動六課での一ヶ月間はあまり運動自体していないから、もしかするとストレスが溜まっているのかなぁ。
それなら早く我が家の敷地内に建設中の公共魔法練習場と格闘技リングの建設完成を急いでもらおうか、どうしようか。あんまり業者さんのお尻を叩いて急かしちゃうと不良施工になっちゃいそうだし難しいなぁ。模擬戦できる相手が簡単に捕まれば良いけれど、生憎と魔導師の知り合いは居ないし、居たとしてもなのはさんたちだから。忙しいだろうし、我儘で簡単にお願いするわけにもいかない。お願いしちゃうと二つ返事で言葉が返ってきそうだから余計に、ね。
仕方がないので、試し撃ちがしたいというロゼさんの気を逸らす為に、ちょっと違う魔法にも手を出して戦術の幅を広げようと誤魔化しながら。その効果は多少はあったのかロゼさんが興味を示してくれたので助かった。ロゼさんは魔法指南書を読み込んで自分で考えて魔法を使えるようになった訳なんだけれど最近のロゼさんはダークライトブレイカーを私と一緒に構築したのが嬉しかったのか、他の魔法もやたらと私と一緒に組みたいって顏には出さないけれど身体に表れてる。毛並の良い大型犬がしっぽをぶんぶん振ってる姿が幻視できるのだから。そして私もそんな姿のロゼさんに弱いのだし、お互いにどうしようもない主従なのだろう。
心の中で愚痴りつつも、私に甘えてくれるロゼさんは好きだし魔法術式を組み上げることも楽しいから全然問題はない。ロゼさんと私で喜々として作業をしているから止めに入る人が居なくてちょっと不味いかなぁ。前にお昼ご飯の画像を誤魔化したヤツは保護司の人から怪しまれてたし。うーん、流石にこの生活が続けられなくなるのは不味いから、きちんとした食生活を送らなきゃね。
「いきましょうか、ろぜさん」
「はい」
そうして今日も、無限書庫へと出勤時間の前に家から一番近くて遠い公共魔法練習場にロゼさんと二人仲良く歩いて行くのだった。
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前半は蛇足だったかもしれない……orz