転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第十一話:模擬戦の後。

 

 本局内の一角にあるフェイトさんの執務室にお邪魔してソファーにちょこんと座っているのだけれど、ちょっとだけ居心地が悪いかも知れない。

 

 「なのは、スターライトブレイカーはやりすぎだよ! それにシャマルからも無理しちゃ駄目だって言われてるよねっ!!」

 

 「にゃはは……。つい熱くなっちゃって……やっちゃった……」

 

 頭の後ろを掻きながら苦笑いをしているなのはさんと、怒っても凄みがあんまりないフェイトさん。十年来の付き合いだから、言いたい事は言える仲みたいで羨ましい限り。いつも仲の良い二人だから、今のやり取りをヴィヴィオさんにはみせられないので、騒ぎを聞きつけてやってきたリンディさんの所に預けてる。

 吹き飛んでしまうかと思われた訓練場はどうにか無事だったんだけれど、二人の尋常でない魔力の放出に本局内ではちょっとした騒ぎになってた。ロゼさんは、いろいろとあって今は私の影の中で大人しくしてる。

 

 ――時間は少しだけ前に遡る。

 

 目が眩んでしまうほどの魔力光で覆われた視界はやっとの事で見えるようになり、コンクリートの床と壁でできた訓練場の様子が露わになる。

 

 ……ロゼさん。

 

 あちゃぁ……。ロゼさん、魔力を限界まで使い果たして人の形を保てなくなってしまったのか元の姿、ようするにスライムさんの姿に戻っているんだけれど普段よりも弾力性が失われてべっちょりと床にへばり付いた状態になってる。

 使い魔契約のリンクは切れていないからあわてる必要はないんだけれど、本当に魔力を使い果たしたみたいで無茶をするなーと。あとでロゼさんと無茶した件について話し合わないとね。無理はして欲しくないから。

 

 『え、え? ぇぇぇえええええええええええ!!』

 

 ロゼさんのあられもない姿を見たなのはさんは驚いて声をあげる。あれ、なのはさんってロゼさんがなんちゃってスライムさんだって事を知らないんだっけ。

 よくよく考えてみれば伝えなかった気もするし、さっきロゼさんが使った希少技能(レアスキル)の事も知らなかったみたいだから、そういう事なんだろう。

 

 『あ、ああ……ロ……ロゼが…………とけ、ちゃった……》

 

 あーうん。説明不足が誤解を招いてなのはさんが混乱してるよ。不味いなぁ、完全に勘違いしちゃっててなのはさんの表情が闇落ちしそうな感じになってる。ヒロインにそんな顔をさせる訳にはいかないためにロゼさんに念話を飛ばそう。

 ロゼさん、ロゼさーん、生きてますかー。あ、よかった、生きてるんですね。流石になのはさんをこのままで放ってはおけないので、少しだけでも動いてもらえると助かるのですが出来ますかねぇ。え、あ、面白いからもう暫くこのままで良いかって、駄目ですよーなのはさんがかなりテンパっているみたいなので念話でもなんでもいいので何かアクションをしてあげて下さいな。しぶしぶ私の言葉に了承してくれたロゼさんは、べっちょりとなった身体をどうにか動かしてくれた。念話でも良かったはずなのに、身体をわざわざ動かしたのはロゼさんなりの意思表示なのだろうか。

 

 『にゃ、にゃぁああああああ!! う、動いたぁ!! あ、あれって本当にロゼなのっ!?』

 

 確かに今のロゼさんはコールタールみたいに黒くてねちょねちょした液体状態なんだけれど、ロゼさんはロゼさんなのです。時々毒舌を吐き、ちょこっとお茶目な部分がありますが良き私の相棒さんなのです。

 

 『……うそぉっ!』

 

 うーん、そんなに驚くことなのかとも思うけれど見た事のない人にとっては、摩訶不思議な光景なのかなぁ。取り敢えずロゼさんは大丈夫な事を説明して納得して貰いロゼさんは人の形を保てないほど魔力を使い果たしてしまったそうなので、ひとまずは私の影の中に居てもらう事に。スターライトブレイカーとダークライトブレイカーの余波が外に漏れていたのか、訓練場は様子を確認しに来た職員さんや野次馬さんたちで騒がしくなり始めた。

 

 「なんだ、タカマチ一尉とハラオウン執務官か……」

 

 「……ああ、そういう事か」

 

 と、本人たちには聞こえないように囁いて納得した表情を見せながら、何事もなかったように帰って行く人たち。その言い分だと、過去にお二人は何かやらかしている事になるのだけれど、ちょっと気になったりして。

 なのはさんとロゼさんの模擬戦だったからフェイトさんは完全にとばっちりを受けてて、勘違いして自分の部署に戻っていく局員さんたちの誤解を解こうとして止めた。わざわざ違う噂を広めることもないだろうし。フェイトさんには悪いけれど、他の人たちには一時しのぎでもこの騒ぎがなのはさんとフェイトさんの仕業だと勘違いしてもらってた方がいいかなって。

 

 「どうして模擬戦なんてしてるのかしら……? ヴィヴィオさんとゼロさんの魔法講座、だったはずですよね?」

 

 あらあら、と言いながら訓練場に姿を現したリンディさんだったけれど、背中に背負っているオーラが真っ黒だった。どこかの闇黒卿がゴゴゴゴゴ、と音を立ててるみたいに。以前に見た優しい顔でお孫さんと楽しそうに遊んでいるリンディさんは何処かへ飛んでいき行方不明になってしまった。そうしてひらひらと手を招いて私たちを呼ぶ。呼び寄せた後は堰を切ったようにリンディさんの小言が始まり、なのはさんとフェイトさんがしょんぼりし始めた。なんだろうリンディさんはストレスでも抱え込んでいるんだろうか。

 人手の少ない管理局だから有能な人材を手放す事はないだろうし、高い地位に就いている人だから権力も伝手もあるだろうから色々と気苦労が絶えないのかも。私の保護責任者になってくれている一人でもあるし、あまり迷惑を掛けないようにしなければと気を付けてはいるけれど、スカさんアジトで過ごした三年間はミッドチルダの常識を知ることがないまま過ごしたから時々やらかして迷惑を既に掛けているのか。

 

 話を元に戻すけれど、なのはさんとの模擬戦を望んだのはロゼさんだし、なのはさんはソレを受けただけなので悪くない。なので止まらないリンディさんの小言に終止符を打つために話に割って入った私。私の言葉を聞いたリンディさんは、ぐぬぬと微妙に顔をしかめたその後は納得してくれたのかどうにか止まって、なのはさんとフェイトさんが解放されたので良かった良かった、のだけれど何でかフェイトさんの小言がなのはさんに炸裂し始めた。

 

 ここじゃぁ人目もあるからとリンディさんがヴィヴィオさんを預かり私はなのはさんがどうなってしまうのか心配だったので、二人に着いていきフェイトさんの執務室にお邪魔した訳なんだけれどフェイトさんの愚痴はまだ止まる気配がない。母娘似た者同士なのか血は繋がっていなくとも、こういう所は似るんだねーって感心しちゃう。そうして冒頭のシャマルさんから無理をするなと言われている事と、なのはさんはいつもいつもいつも無茶をする事を何度も口酸っぱく言ってる。

 心配なのは解るけれど、なのはさんもそろそろいい大人でこうして社会人として働いているのだし、ましてや命を天秤にかけなければならない公務員さんなのだから。というかフェイトさんもなのはさんと同じ土俵に立っているはずなのに自分の事は棚の上にしているから、ちょっとおかしい光景でもある。フェイトさんだって誰かを助ける為なら、全力を持って無茶をしちゃうタイプだろうしなぁ。

 

 ようやく怒りが収まったのか、それとも怒りが長続きしないタイプのフェイトさんなのか険悪な空気は既に霧散してて。いつの間にか空間モニターを浮かべてさっきの模擬戦のデータを見てる。教導隊に所属しているだけあってなのはさんの考察が面白い。場面場面で悪手に出てるとか、どうすればいいのかとか、この展開には驚いたとか。きっとロゼさんも私の影の中で聞き耳を立てている事だろう。

 

 「なのはと対等に模擬戦を出来る人なんて数少ないんだけれど。……ロゼって何時訓練してたの?」

 

 機動六課に居た頃はそんな様子を一切見た事がないし、とフェイトさん。スカさんのアジトでナンバーズの皆さんと一緒に訓練は欠かしていませんでしたし、近接格闘や魔法の本を読み漁って貪欲に知識を吸収してましたし、本人の才能の部分も大きくあるんじゃないのかな。

 魔導師戦に関しては私よりロゼさんの方が確実に強い。私は引き篭もりのもやしでしかないから真面目に訓練なんてものは積んでいないし、面白そうな魔法を解析や分析をして自分流にアレンジして使ってみては直ぐに飽きて使わなくなってしまうし。唯一長続きしているのが、六課でデバイスを作った時に発動させた触手魔法なんだよね。自分の手足の代わりに自在に動かす事が可能だし、重い荷物とかも自分の筋力関係なしに魔力で持ち上げられるから超便利。

 まだ身体が未熟で出来る事が少ないから触手魔法に頼りきりっていう情けない状況なんだけれども、これはご愛嬌だ。あと十年も経てばなのはさんたちみたいバリバリ働くことも出来るようになるだろうから悲観することはない。日常生活の中でこの触手魔法の使用許可を管理局から貰っているので、家の中限定で使いたい放題なのでアレンジして別の事も出来るようにと画策中だ。

 

 「ロゼの魔法は基本を踏襲してるね。それに私の知らない魔法を使ってもいたし……」

 

 私はミッドチルダや次元世界での魔法運用を誰かから師事した訳でもないから、ロゼさんの魔法戦術がなのはさんの言ったように基本を踏んでいるのかどうかなんて判らないけれど。魔法についての教本や指南書を読み漁って魔法について勉強していたロゼさんだから、なのはさんがそう言っちゃうのも仕方ないのかな。変な癖が付いちゃうと癖を直すのに苦労する羽目になるだろうけれど、ロゼさんにはソレがないみたいで一安心。私が興味本位で色んな魔法を使ってみてはすぐに飽きて使わなくなってしまうけれど、ロゼさんは私が興味を失った魔法でさえ術式を覚えて戦闘に利用できたり、便利なものになるなら積極的に取り入れているから心配だったんだよね。イロモノ魔導師になっちゃわないかって。

 私はスカさんのクローンなので自分が感じていない所で常識から踏み外している所があって、それに気付くのは後になってからだし気を付けなきゃならないんだけれど、言われてから気付く事が多いからね。

 

 なのはさんさえ知らない魔法を使っていた理由は無限書庫が原因じゃないかな。奉仕勤務で魔法に関しての書物に触れることは多々あるし。

 私も有益な情報があれば、覚えて帰ってレポートに纏めているからロゼさんも同じ事をしてても不思議じゃないもの。ロゼさんは魔法ならば取り敢えず覚えて戦闘に仕えるものなら、色々と試してるみたいだしね。

 

 「私もロゼと模擬戦してみたいなぁ。シグナムとも忙しくて中々手合わせ出来ていないから……」

 

 自分の使い魔を褒められて悪く思う主人なんて居ない。ましてや管理局のエース・オブ・エースとか金色の閃光だなんて言われる人にこんな台詞を言われちゃうとは。正直嬉しいよね。ロゼさんはフェイトさんの言葉に反応してて、なんだか嬉しそうな雰囲気を感じ取る事が出来たからそのうちフェイトさんとの模擬戦もあるかなぁ。

 

 ――あれ、ロゼさんも戦闘狂にカテゴライズされちゃうの?

 

 うーん。そんな四六時中危険の中に居るつもりはないし、ロゼさんには幸せに過ごして欲しいから無茶や無理をすることを望んでいないんだけれど、ロゼさんがそうしたいのなら主人としてこの考えは失格なのかな。それなら魔法練習場も完成間近だから、ちょっと思いついた事を実行してみようと心の中で決める。もちろんロゼさんに了承を得てからになるけど、多分反対はされないだろうし今からちょっと楽しみなんだよね。

 

 今日の模擬戦の内容をしばらく三人であーでもないこーでもないって協議していたらいつの間にかお開きの時間になってて。別れ際になのはさんから模擬戦の映像を教材として使う事を宣言された。

 私が映っちゃってるわけじゃないから問題はないけれど、一部の局員さんの間でロゼさんの事が囁かれるようになる。そりゃなのはさんと対等に模擬戦をやってのけたのだから仕方ないけれど、一悶着を起こす種を蒔いてしまっている事なんて、この時の私は考えてもいなかった。

 

 ――ちなみにこの映像、SLBとDLBの部分は意図的に削除されたそうな。

 

 削除された理由はなんて事はない、この映像を見て恐怖した人たちが多数居たからだそうで。なのはさんの魔王伝説に新たな一ページが刻まれた……のかもしれない。

 

 ◇

 

 「スバルとっ!!」

 

 「…………ティアナの」

 

 「ストライクアーツっ、特別講座っ!!」

 

 「すとらいくあーつ、特別講座……」

 

 テンションのすごく高いスバルさんとげんなりしている対照的なティアナさん。最後の台詞は二人合わせて同調させるつもりだったのだろうけれど、思いっきりズレててティアナさんは完全にやる気のない棒読み状態。

 そんな二人が私の目の前に立って、ここクラナガン郊外のとある公共魔法練習場に今日はやって来てる。自然豊かで緑溢れる場所なんだけれど、魔法練習場ってだけあって周りでは子供たちのじゃれ合い程度から真剣に取り組んでいる人まで様々。久しぶりに長時間日の光の下に居ることになるかもしれないなーなんて考えている私。ま、そんな私を見かねたのか隣に居る王様が心配してこうなった訳なんだけれども。

 

 「わ~~い!」

 

 私が外に出ているって事は、私の隣には王様、もといヴィヴィオさんがもちろん居て。今日はさっきお二人が言ったように"ストライクアーツ講座"を受ける為。興味が全くない私をヴィヴィオさんが『やってみようよ~、ゼロ~。運動がてらにぃ~』とかなり必死な感じで誘ってくれるので、それなら一度くらいは受けてみても良いかと半ば諦めて今日になってしまった。

ストライクアーツに関してスバルさんから時々教わっているはずのヴィヴィオさんなんだけれど、私が加わってしまったので多分いつもの授業よりもレベルが下がるからつまらなくなるんじゃないのかな。大丈夫かなーと心配しながら、さっそく二人による講座が始まる。うん、ティアナさんってストライクアーツ習得してたっけか。嗚呼、スバルさんから無理矢理呼び出された可能性が大きそう。

 

 ――ひぃ、へぇ、ひぃ、へぇ……。

 

 額から落ちる汗に息が乱れて呼吸が整わず、思わず動きを止める私。……アレ、変だな。ココまで体力なかった事はないんだけれど。まずは軽くウォーミングアップだねと言われて基本の形を教えてもらって、それを何度か繰り返して。ヴィヴィオさんは涼しい顔をしているというのに、私は既に大汗をかいて息を乱して動きがついに止まったところ。……オカシイ、ナゼダ。

 

 「取り敢えず……なんだろう、あースタミナなさすぎだねゼロ」

 

 「そうね。格闘技を習う以前の問題だわ……」

 

 「ゼロぉ……」

 

 超微妙な顔になるお二人と、悲しそうな顔をしているヴィヴィオさん。いや、そんな眼で見つめないで下さい。引き篭もりのもやしに体力なんて求めては駄目なんです、と開き直りながら本気で不味い気がするのは気の所為なんだろうか。

 そういえば最近は無限書庫への無償奉仕と午後からは研究室に引き篭もってばかりだったから。ヴィヴィオさんは学校に通っているから以前よりも遊ぶ回数は少なくなっているので、今思えば運動なんて全くやっていないのが現状なのかも。一緒に私と格闘技が出来ると今日のイベントを大層喜んでいたヴィヴィオさんなんだけれど、私に高望みし過ぎじゃなかろうかと。

 

 大体最近の小学生の体力があり過ぎるんだよ。外で長時間きゃっきゃと遊んでいる姿をよく見掛けるし、お金に余裕のあるご家庭ならスポーツとか小さい時から始めて英才教育を受けている子も多いし。娯楽の増えた現代社会。最近の子供はゲームばかりしていると大人たちは愚痴っているけれど、案外大人よりも子供たちの方が忙しいんじゃなかろうかと、前世の記憶持ちがぼやいてみる。

 

 「よっし! ゼロはちょっとヴィヴィオとは別メニューをしようか。ティア、ゼロのことよろしくっ!」

 

 「えっ? ちょっとっ、スバルっ!!」

 

 そんな二入のやり取りを見ているんだけれど、息がまだ整わない私。うーん、引き篭もり生活がこんな所で悪影響を及ぼしていたとは。アジト生活でも外に出た事は滅多になかったから余計に拍車を掛けているんだろうか。でも小さい頃に無茶な運動をするのは成長を阻害しちゃうから駄目だと聞いた事もあるし、どうなんだろうね。その辺りのさじ加減がわからないから難しい所かも。

 

 『ちょっとどうすんのよ馬鹿スバル! 私格闘技の知識なんてないんだけどッ』『いや~私もまさかあそこまでゼロが体力がないとは思ってなかったよ』と聞こえない様に小声でやり取りしているつもりのお二人さん。

 ばっちりと会話の内容が聞こえていますよ、とふて腐るけれど自分が招いた事だから自業自得としか言いようがない事に気付く。今度運動がてらに通勤は走って行こうかなーだなんて考えるけれど、多分やらないだろうなぁ。歩くので精一杯だし、本局まで転移してもらえるポーターまでは結構距離があるから、仕事前に疲れるような事はしたくないもん。

 

 「ほら、ゼロ。飲みなさいな」

 

 「ありがとうございます、ティアナさん」

 

 苦笑いしながら手渡してくれたものはスポーツドリンク。ぐぃっと一気に飲み込んだつもりなんだけれど、子供の口だから量はそんなに減っていない。ふぃー生き返る。ヴィヴィオさんは先ほど言った通りスバルさんと続きをやってる。きついだろうに、でも楽しそうな顔してるんだよね。vividの知識はあんまりないけれどこれから格闘家としての道を歩んでいくであろうヴィヴィオさん。私が競技選手として一緒にヴィヴィオさんと高みを目指す事はしないと思う。

 研究と開発、そして管理局の無償奉仕とか色々とやる事が山積みだし、沢山手を出して全部手中に収めるのは難しいだろうから。だからこうして観客として見守っていくくらいしか出来ないだろう。ま、カッコいい事を言うつもりはなくてただ単に原作の道筋を変えてしまう事が怖いだけなんだけどね。ドゥーエさんやゼストさんにレジアスさんを生きながらえさせた一因を担っている私が言う事じゃないかもしれないけれど。

 

 「それで、どうしてアンタがこんなことを?」

 

 「?」

 

 特に深い理由はないし、しいて言うなら誘われたからって言うのと将来に何か役に立つ事があるのかもしれないって考えてだったんだけれど。ティアナさんはどう思っちゃったのだろうか。

 

 「どう言えばいいのかしらね。アンタは基本、無駄な事はしないでしょ?」

 

 そう、なのかな。そんなつもりは全くないけれど。無駄な事をしないというなら、多分今この場所には立っていないだろうし、他にも今までやって来た事もやらないだろうし。ティアナさんと私が考えている"無駄"な物の解釈に乖離があるのならそうなんだろうけれど。

 

 ――へくちっ!

 

 んー神妙なシーンでお気楽そうなくしゃみが出てしまう。真面目に問い掛けられているというのに、相手の人には失礼に当たる事だから『済みません』と伝える。ティアナさんは気にしなくて良いっていってくれるけれども、やっぱり失礼だもの。でも出ちゃったものは戻せないから仕方ない。それならちゃんとはぐらかさずに答えなきゃね。

 

 「かくとうぎにきょうみがまったくない、というわけではありませんから」

 

 うん。ヴィヴィオさんと試合を観戦する事が何度かあったけれど、観るのは楽しいし競技中に使用される魔法に興味を示して家に帰って術式を真似してみたりするのも役に立つんだよね。

 身体を動かす事は苦手だし苦痛なんだけれど、誰かとこうして一緒に何かをやるのも楽しいしね。でも、本気でその道を目指すなら片手間でやる事は出来ないだろうし、そこまで器用でもないから。それでも今回の件を断りきれなかったのは、心の何処かで"やってみたい"って気持ちがあったのかも。

 

 「なるほど、ね。まぁ、気になるから聞いただけで深い意味はないの。でももう少しアンタは外に出るべきね、体力、なさすぎよ」

 

 呆れた視線を向けてくるティアナさん。あ、はい、それに関しては言い訳のしようもなくただ単に引き篭もりのもやし故にという事で、体力をつけたい所存であるんだけれども時間取れるかなぁ。取れると良いなぁ。遠い目をしていると、更に呆れた視線を向けてくれました。ごめんなさい。

 

 「自覚できただけでも良い事なのかしらね?」

 

 「…………」

 

 反論もなにも出来ずに、一度仕方ないヤツみたいな感じで笑ったティアナさんにぐにぐにと頭を撫でられる。恥ずかしいけれど、触れられるのは嫌いじゃないから甘んじて受ける。

 そのあとはティアナさんのデバイスや使用している魔法について聞きこんじゃった。拳銃型魔法射出装置に転用出来ることがないかなーって。銃型のデバイスを使用している人は少ないし、ティアナさんの意見や考え方や戦術を聞くのは楽しいし。なにより実戦を経験している人だから答えが的確なんだ。聞いた話を元にレポートに纏めなければと頭の中はその事で占領されていたから、ヴィヴィオさんとスバルさんのストライクアーツ講座も終わったようなんだけれどヴィヴィオさんが不機嫌なんだよね。どうやら一緒に出来なかった事が不満な様なんだけれど、体力が違い過ぎるから一緒のメニューをこなす事は出来ないって伝えたんだ。心苦しいけれど、そのうちにコロナさんが一緒に競技を行うようになるんだし心配はいらないだろう。

 

 少しの間だったけれど体を動かした所為なのか、その日の夜は一瞬で深い眠りに就いた私だった。もう少し体力を付ける為に頑張ろうっと。

 




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