転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第十二話:お披露目会にて。

 拳銃型魔法発射装置と簡易バリアジャケットを運用する試験部隊が時空管理局地上本部陸士部隊で発足したり、お家の庭に建設中だった公式魔法練習場がやっと完成して実験に勤しんだり、無限書庫の無償奉仕勤務に空いた時間に皆との面会に行ったり。ヴィヴィオさんと遊んだり、四歳児というのにかなり充実した時間を過ごしてた。

 

 今日は今日でその試験部隊設立の御披露目会なので、地上本部にお邪魔しているんだ。

 

 装備を設計、開発をして納入から部隊運用の基礎部分を発案とか色々と関わってしまったのでわざわざ招待状が届いていたし、地上本部の現中将さんやレジアスさん、はやてさん他諸々の人たちからも出席をお願いできないか、と遠回しに電話やメールを頂いたものだから『はい』と言うしかなくなった訳である。

 

 いつもと同じでロゼさんと一緒に地上本部にやって来た訳なんだけれど、周囲の視線が刺さってとても痛いです。一応何度か訪れた事がある場所なので、記憶に残っている人たちは私を見るモノの直ぐに興味を失せてしまうか、視線を元に戻してくれるんだけれど知らない人はぎょっとして驚いてるし。

 それは仕方のない事なんだと自分に言い聞かせて諦めてしまった方が楽なので気にしない。地上本部ロビーの受付で招待状を見せると、とある会場を教えられた。ロゼさんと一緒に広い地上本部をどうにか迷わずに会場へと辿り着いた先は、外に併設されている訓練場の一段高くなった見学席だった。すでにそこには地上本部のお偉いさんたちが居るし、本局の高官さんたちもちらほらと見かけるんだ。何処に座ろうかとキョロキョロと周りを見渡していると、現中将さんに声を掛けられた。

 

 「久しぶりだ。まさかまた君に会う事になるとは思わなかったよ」

 

 「おひさしぶりです」

 

 ぺこりと一度お辞儀をして挨拶を交わす。中将さんは私の作ったものに気乗りしていない感じだったから望みは薄いのだろう、と思っていたのですが。レジアスさんが突然私の家に訪れて配備決定の知らせを受けたのでびっくりしましたよ。

 

 「そうか、済まなかった。だがやはり人手の足りぬ陸士部隊で非魔導師が現場に立てる事になるのならば、このミッドチルダを守るべき組織としての面子が立つ」

 

 でしょうねぇ。人手があるのならやれる事も沢山増えますし、今現場に立っている人たちの負担軽減も出来るのなら作った甲斐があるってものだし、ミッドチルダの治安が良くなるのなら尚良い事だもんね。スカさんがやらかしてミッドも地上本部も混乱してしまったから、部隊再編の役に立てば嬉しいんだけれどね。

 

 「さて、そろそろ模擬戦が始まる。君の実力と試験部隊の真価、是非確かめさせて貰おう」

 

 中将さんは部下の人たちからの報告しか聞いていないだろうから、試験部隊の評価は書類の情報しか持っていないだろうから今日実際に自分の目で見て判断するのかな。まだ試験部隊だし、潰そうと思えば中将さんの短い一言でどうにでもなるだろうから安心はできない。なんでか中将さんの隣に座る羽目になったけれど、これって解説役でも期待されているのかなぁ。あまり話は得意ではないけれど自分が作ったものだし、この試験部隊の立ち上げにも関わっているから真面目に解説役を務めましょうかね。

 そう決意した瞬間に私の後ろには本局の高官さんたちも揃って腰を据えるものだから、内心焦る。ヤバいなぁ。この装備は陸士部隊用にって考えていたんだけれど、海の人たちも目を付けちゃったのか。

 海も海で人手不足なのは知っているんだけれど、陸士部隊用にカスタマイズしたものだから海には向いていない気がするんだけれど。そうなったら自分で作るのは面倒だしライセンス契約でもして、しれっとモンキーモデルでも渡しておこう、そうしよう。そんな事を考えて自分が楽を出来るようにと現実逃避していたら、お披露目会が始まった。

 

 『さぁ、お集まりの皆様っ! 本日は御足労頂きありがとうございます!』

 

 拡声器を通して客席全体に響く声は、地上本部広報の人だろうか。ノリノリの声と共に聞き手の人たちが聞き取りやすいようにと少し大げさに抑揚をつけた声は会場によく通る。先ずは新兵器の説明と運用方法。そして試験部隊の面子が入場と同時にアーチェリー競技なんかでよく見るカラーターゲットがいくつも不規則に現れる。部隊メンバーの魔力量を計測した数値がリアルタイムで大型モニター上に表示されて、客席にどよめきが走る。

 聞こえてくる声は『本当に非魔導師だったのか』とか『本気……なのか』とか結構驚いているみたいで。低ランクの魔導師の人たちにも装備する計画も密かに進んでいるんだけれど、機密情報なので言えないんだよね。先ずは非魔導師の人たちで運用できることを証明しようって気持ちが地上本部側は先行しているみたいで、人員選抜に結構時間を割いていたし。なのでデスクワークを主体として業務をこなしていた人たちの筈なのに、ガタイが結構良いから魔法を使わなくてもいいスポーツ経験者でも探し当てたんだろうね。地上本部に勤める人はかなりの数だし。

 

 『では新しく試験運用される部隊によるデモンストレーションをまずはっ、ご覧くださいっ!』

 

 司会者が片手を振りかざした事を確認して部隊員は行動を開始。と言っても適当な距離からトリガーを引いているだけだから難易度は凄く低い。そしてもちろんこれだけで終わる筈はなく仮想敵も用意されているだろう。

 

 「さて、これで終われば肩透かしだが……しかし……」

 

 そりゃ、これだけで終れるはずなんてない。これだけの為にこの人数を集めたっていうのなら顰蹙を買っちゃうのは目に見えてますもん。彼等の実力を発揮すべき時間はこれからだろう。中将さんの思惑通り仮想敵部隊が現れるんだけれど、その構成は陸士部隊から選ばれた犠牲者、もとい魔導師さんが二人。

 手元のモニターからの情報によるとB+ランクの陸戦魔導師さんで一人は近接魔法がメインの人、もう一人は遠距離・支援型の魔導士さんだから相性は良さそうなんだよね。対して試験部隊から選出されたのは全十二名の内から六名。全員が非魔導師さんなんだけれども、拳銃型魔法発射装置と簡易バリアジャケットを装備している。他にもヘルメットや肘宛なんかも装備しているので見た目は地球の軍隊そのもの。女性でも扱える事を想定して作ったので、選ばれた十二名の中に女性が居ないのは残念だけれど、体力面で優れているのはやっぱり男性だから仕方ないかな。装備の数が揃えば護身用として配備する事も出来るし、女性が扱うようになる事になるのはそう遠くない未来だろうから、悲観する事でもないだろう。

 

 『それでは私の隣に居る魔導師二名に犯人役になってもらい、試験部隊には彼等二名を確保する事を目標としてもらいましょうっ!』

 

 その台詞と同時、関係者は所定の位置につく。客席のモニターにはそれぞれを追跡するように監視魔法のサーチャーが付与されて、リアルタイムで何処に居るのか何をしているのかが私たちにわかるようになってる。犯人役側にももちろん同じものが付与されていて、こちらもリアルタイムで行動が客席に入る人たちには分かるようになっていた。

 

 「始まる、か」

 

 小さく呟いた中将さんの声と同時に訓練場では犯人を捕まえる為、試験部隊六名による犯人捕獲作戦が始まった。さて、上手くいけばいいけれど、どうなることやら。まるで他人事のような考え方だけれど、一応色々と調べて警察の逮捕術とか軍隊方式のやり方とかのデータを手渡しておいたから、大丈夫だとは思う。作戦指揮を執る部隊長や小隊長クラスの人のセンス次第だろうなぁ。

 

 ――……う~ん。

 

 試験部隊の装備が完全に地球にある軍隊の特殊部隊を模したような感じだったから、私が渡したデータを元に参考に装備を選んだのだろうって思ってたら、行動自体も特殊部隊そのものだったでござる……。魔法が使えないからハンドサインを使う事は提案していたんだけれど、まさか作戦行動まで真似をするとは。犯人役の人たちに見つからないように建物の壁際に沿って移動したり、出入り口で犯人が居ないかどうかの確認と『クリア』と言う台詞。

 嗚呼、まさに特殊部隊そのものです。これなら拳銃じゃなくて自動小銃にデザインを起こしていればもっとカッコよく決まってたのに。今度作って新装備として売り込もうかな。外見だけ変えて機構自体は中身をそのままでいいんだし。

 

 「ん、頭を抱えてどうしたね?」

 

 「いえ、どのせかいのおとこのこでもかっこよいものはすきなんだな、と……」

 

 「はははっ! 確かに男は何時までも子供だ、と言われる生き物だからね。君は女の子だから理解し難いのかもしれんが、車や飛行機、憧れるモノは沢山あるよ?」

 

 珍しいなぁ、ずっとしかめっ面で笑った所なんて見た事がなかったけれど中将さんが可笑しそうな顔をしているんだもの。変な事を言っちゃったのかなぁ、気分を害していなければいいけれど、まぁ大丈夫だろう。

 

 「私もあと十年若ければ、あの部隊に参加してみたかったよ」

 

 いや……それは、どうなんだろう。中将さんには立場ってモノがあるのだから。でも童心を忘れられない男の子(バカ)が私の隣にも居るだなんて思わなかった。

 もちろんこの言葉は褒め言葉だし、私だって厨二病をこじらせた兵器を作っているのだから、ロボットとかに憧れる男の子の気持ちも十分に出来るから。逆に私の方が異端なのかもしれないね。

 

 「そろそろ決着がつくかな」

 

 モニターを見ていた中将さんの台詞で気が付く。そうだった試験部隊の人たちの事を忘れかけていたのだけれど、既に状況は犯人役二人を追い込んで逮捕寸前になっていた。大事な場面を見逃してしまった気がするけれど、あとで映像データを貰って改善案を提出しなきゃね。一応、発案者だからその辺りの尻拭いというか責任はちゃんと負わないと。無責任に放置はできないし、新装備も色々と考えている最中だからこの試験部隊をポシャる訳にいかないし。

 

 『でりゃぁぁあああああ!』

 

 犯人役の一人に飛び掛かり背負い投げを披露する試験部隊員一名。

 

 『取り押さえろぉおおお!』

 

 その声と共に残りの五人が不条理に残りの犯人役一名にのしかかる。

 

 「最後、魔法が関係していないな…………?」

 

 ――ヤバイ。あの人たち脳筋だ……。

 

 床に手足を付けて跪き頭を垂れるポーズを取りたくなるけれど、場所が場所だけに我慢。そういえば攻撃する事だけに囚われてて捕縛の事を考えていなかった。物理的手段を取った彼等に責任は無いと言いたい。

 

 「これだとあぶないですね……。ほばくけいのまほうがつかえるように、なにかかんがえます」

 

 「そうしてくれ、このままでは現場には立たせられんな。だが先は明るい。なにせ非魔導師が魔導師に勝ったのだから、な。もしかすれば歴史の転換点を私は見たのかもしれん」

 

 大げさですよ、中将さんは。そんなモノを作ったつもりはありませんし、地上本部の状況が今より良くなれば御の字くらいで考えて発案した装備ですし。てか歴史に名を残すだなんてことは考えていないから、スカさんの名前だけで十分にお腹いっぱいなんだよね。でもまぁ、そう言われて悪い気はしないし、これから私は嘱託魔導師として現場に呼ばれるようになるだろうから、出動する回数が少しでも減る事を願って作ったのだし。善意なんてものは存在していなくて、私心が大部分を占めてるし。危ない現場になんて立ちたくはないですしー。

 

 もう何度かデモンストレーションは行われ、結果は二勝一敗で可もなく不可もなくという結果。試験部隊の戦術が知れ渡れば、対抗措置を取られそうだからその辺りも課題だなぁ。今日の改善点をデータに纏めて提出しなきゃね。それにこういう事って思った通りにはなかなかいかないし、部隊が本格的に運用されるのはもう少し後になりそうな予感がする。

 

 ◇

 

 ――お披露目式後の夜

 

 地上本部からクラナガン市内にあるとある高級ホテルの最上階ラウンジには、地上本部の制服を着込んだ高官の人たちに、本局の制服を着た高官の人たち。さらには聖王教会上層部の人たちに管理局に関わっている一般企業のお偉いさんたちまでがこの場に居る。

 お披露目会は最終戦となりホテルで豪華な立食会となったんだけれど、面倒な事この上ない。本当ならお昼の試験部隊のお披露目会が終われば家に戻る為にトンズラする予定だったというのに、中将さんやら他の高官の人たちに捕まり夜まで色々と話し込んでて、結局は最後まで付き合う羽目になってしまった。

 

 「ウチにも君のような人材が欲しいのだが、働いてみないかね? 給料は優遇するぞ?」

 

 「私の養子にならないか? 苦労はさせんし、やりたいことをやってもいいから」

 

 「…………私と結婚しないか?」

 

 とまぁひっきりなしに勧誘される訳である。最後に社会的に超問題がある台詞を言い放った小父様は周囲の人たちから私刑に処されていたけれど、そんな事を平気で言っちゃう輩は放置、放置。

 管理局の人たちは見て見ぬふりをしていないで仕事をして下さいよ、と視線を送ってみたもののこんなくだらない理由で仕事なんてしたくないかぁ。遠い目になりながら、精神リンクで私の感情が伝わってしまったのか隣で控えているロゼさんが不機嫌最高潮になってるから、そろそろヤバイ。こんな事ならロゼさんに新聞の勧誘を断る時みたいに男装をお願いして強面の中年男性にでもなっててもらえば良かった。

 

 「元気だったかしら? 久しぶり、とまではいきませんが本局以来ですね」

 

 柔和に笑いながら私の下にやって来たのは制服姿のリンディさんだった。私服姿も良いけれど制服姿も良く似合ってて羨ましい限りだ。スーツの似合う女の人はカッコいいし。

 

 「あら、ありがとう。……癖って怖いわね。小さな子供を見るとどうしても抱っこしたくなるんだもの」

 

 一瞬手を伸ばして私を抱きかかえようとしたけれど、場所が場所だけにどうにか堪えて苦笑いをしてた。そんなリンディさんに遅れること少しカリムさんの上司さんも私の下へとやって来て二人が見張ってくれているから、さっきよりも状況は落ち着いた。

 やっと料理に手が付けられるとテーブルを見てみると、白い布しか見えない。身長が足りなくて料理の内容が全然わからない。いつもならロゼさんに頼んで抱っこをしてもらい、おいしそうな品を見繕うんだけれどこの状況じゃ出来ないなぁ。仕方ないのでロゼさんには適当に料理を小皿によそってもらう事に。隣でリンディさんとカリムさんの上司さんが笑っているけれど気にしなーーい。あと数年我慢すればきっと今の身長よりも成長しているはずだから。けれどもなんでリンディさんたちが此処に居るんだろう。

 

 「はやてさんにお願いされて、ね。仕事が入って来れないから代わりに出席してくれないかって頼まれたのよ」

 

 「私もカリムから頼まれてね」

 

 二人とも忙しい身だというのにこんな場所に借り出して申し訳ないです。お仕事が別にあったでしょうし、もっと有意義な事に時間を使って欲しいものだけれど、お人好しの人たちに言っても聞いてくれないんだろうなぁ。

 

 「気にしなくて良いの。それに悪い事ばかりでもないわ」

 

 にっこりと笑ったリンディさんの顔の裏には何かあるんだろうな、と思うけれど詮索するような真似はしない。人脈を広めるつもりならこういう場所はうってつけでいい機会だろうし、他の人たちも談笑しながらその笑顔の裏には個人の思惑が色々とあるんだろうしね。

 

 「ああ、そうそう。管理局に貴女の魔導師としてのデータが仮登録してあるのを見ました。嘱託魔導師になる気があるのは知っていますが、誰があんな事を?」

 

 陸の中将さんですねぇ。さっき色々と話していたら、これから先の話も出て将来どうするのかを聞かれたから。無償奉仕の一環として嘱託魔導師に登録するつもりだって言ったら、話が勝手に盛り上がってて仮登録しておこうってなったんだもん。嬉しそうに話す中将さんに嫌だなんて言える訳はなく、現在使える魔法の登録をした訳で。前線に出る気はないから、結界魔法や検索魔法に治癒魔法をメインで登録したけれど。

 

 「はぁ……。陸の人たちも困ったものね…………」

 

 陸も海もどっちもどっちで変わらない気がするけれど、敢えて言わないでおく。九歳のなのはさんを嘱託魔導師にと誘ったリンディさんが言えることなのかなぁと。まぁ、なのはさんの場合は本人の意思が強かったから仕方ないにしても、元日本人としては高等学校を卒業してからでも遅くないと思っちゃうんだなぁ。それに危険が付き物の仕事なんだから、飛べなくなる可能性もある。管理局を辞めて故郷に帰るってなったときに、大変なおもいをしなきゃならないのは本人なんだしねぇ。管理世界というか、管理局を事故や怪我で退役した人たちの保障ってどうなってるんだろ。まぁ、こんな事を考えても前に進まないし、その時はその時、なんだろうけれど。

 

 「マスターどうぞ」

 

 「ろぜさん、ありがとうございます」

 

 思考の海に沈んでいた私を引き上げたのはロゼさんだった。そんなロゼさんから手渡されたお皿の上にある料理はどれも美味しそう。流石首都に建設された高級ホテルの料理だ、一口含んだだけだというのにすんごく美味しい。

 作った人に意見を聞きたくてきょろきょろとしてみるんだけれど、シェフの姿は見当たらない。んー社交界みたいな感じだから、料理の説明とかしてくれないのか、残念。代わりに確りと自分の舌と頭に料理の味を覚えさせて、家に帰ったら再現できるように頑張らなきゃね。上手くいかなかった時は悔しいけれど、上手に味を再現できると嬉しいんだな。

 

 「……失礼。ゼロ・S・フリーランダー君で間違いないかな?」

 

 リンディさんとカリムさんの上司さんの鋭い眼光をすり抜けて一人の若い男性が私の下に現れた。高級スーツを着込んだ男性からはオーデコロンの匂いが。少し苦手な感じの匂いなんだけれど我慢できなくはないし、黙っているのも失礼なので私も挨拶を返した。

 

 「ご丁寧にどうも。小さい子供だというのに感心するよ。やかましい餓鬼(こども)は嫌いでね、(みな)、君のような子供ならと思うが……まぁ、いい」

 

 そう言って彼は彼の来歴を話し始める。黙って時折相槌を打ちながら聞いているのだけど、長いので要点をまとめると中堅デバイス機器メーカーの次期社長さんだそうだ。ようするに良い所の御坊ちゃま、とか、ボンボンとか言われる類の人になるのかな。彼が付けてるオーデコロンの匂いと共に小物臭まで漂ってくるのは気の所為だと思いたいんだけれど、どうなんだろう。

 

 「殴って良いですか……?」

 

 何度か指を鳴らして物騒な事を言っちゃうロゼさんはいつも通りの平常運転。

 

 「気持ちは理解出来ますが……我慢してください貴方の主人だって我慢しているでしょう。ロゼさん」

 

 リンディさんの言うとおりですよ、ロゼさん。周囲の人たちには見えていないし聞こえていないようなので、好きに彼の理想の世界とやらを語って貰いましょう。興味のない事からでも何か発明に役立つ切っ掛けを頂けるかもしれませんし、この世界に生まれて必要のない人なんて存在していないでしょうから、彼もきっと何かをもたらしてくれる筈なんです。

 

 ――うそ~ん!

 

 滅茶苦茶長い彼の台詞をずっと聞いていたのだけれど、言いたい事から全く有益なことを見いだせなかったよ。私に人の話を聞くセンスがないのかしら、だってスカさんのクローンだからその可能性が捨てられない。

 この世界に生まれ変わってこの手の人と会うのは初めてだけれど"勉強はできるんだけれど仕事はできない人"っぽいんだもんなぁ、目の前でまだ喋っている彼。実際に仕事をしている姿を見た訳じゃないから、断言はできないけれど。大口を叩いちゃう人は大体二種類に分けられるよね。本当に実力を持っているか、虚勢や見栄でそう言って行動に移せない人。

 

 彼が伝えたい事を要約すると"リンカーコア所持者の優位性"それと"魔法世界における大気中の魔素含有量について"。ようするに魔力持ちの人は優遇されるべきって事と、自然界に存在する魔素を使い過ぎている傾向があるから自粛しようって。

 鳥が先なのか卵が後に生まれたのか解らないけれど、どうしてそんな考えに至ったんだろうね。地球の石油と同じように、ここ管理世界では魔素の枯渇が心配されているけれど自然保護活動や企業努力、管理局による大気中の魔素量観測等によって維持されているからそんなに心配は要らないから過剰に反応する必要は今の所ないのだけれども。

 

 大気中の魔素を吸収し魔力変換をして、これまた非魔導師の人たちに使ってもらう兵器を考えていたんだけれど、耳が痛い。今の所は心配ないんだけれど、これから先の未来で魔素が枯渇しちゃうこともあるだろうし。

 その辺りのバランスも考えながら作ってはいるものの、難しくて難航してる。私は彼の話をあまり聞かないまま、遠い目をしているんだけれど良く喋れるなぁ。喋る事は苦手だから、ちょっとその口を分けて欲しいけれど彼の口だと余計な事まで言ってしまいそうなので止めておこう。

 

 最終的には自然に頼らずリンカーコアを所持している人たちだけで成り立つ社会を望んでいる、と言い放った。いや、それだと大方の人が淘汰されちゃいますよ。社会として成り立たないよ。それにリンカーコアを所持していない人だって有能な人は幾らでも居るんだから。レジアスさんや現中将さんなんかがそうだし、局員の人たちにも大勢居る。だから目の前の彼の選民意識が高目の理想はあまり好きにはなれないなぁ。

 

 「君が造りだしたモノも素晴らしいが、魔導師の人間自体を強化する事も考えてみないか?」

 

 私もリンカーコアを所持しているし、スカさんから魔改造を受けているので一応高魔力保持者ってことになるから彼に目を付けられたのだろうか。多分私が非所持者なら彼の視界にすら入ってなさそうな気がする。直前の彼の言葉にザワつきはじめる周りの人たち。お祝いモードで浮かれていた非魔導師で出世してきた陸の高官の人たちのこめかみに青筋が浮かんでて向けられた視線が超痛いんだけれど、私が言ったんじゃないんですよぅ。

 厳しい視線を受けながらも彼の事を無視するわけにはいかないので、頭を絞る。魔導師の人たちの強化も勿論考えている事だけれども、取り急ぎ非魔導師の人たちに自分の身を守ることが出来るモノを作りたいんだよね。魔導師の人たちに頼りっきりの現状をまずはどうにかしたいから。だからこそ今日のお披露目されたモノを作って管理局に売り込んだんだから、その事についてはまだまだ先の話だろう。

 

 「な、何故だ……私の意見は素晴らしい、と思わないのか君は?」

 

 確かに素晴らしい理想だとは思いますが、人の意見はそれぞれですから。それに一度にたくさんの事を取り組めるほど私は器用でもありませんし。

 

 「では、考えてはくれないのか……?」

 

 考えるだけでいいのなら。絶望に染まったような顔になっちゃってる彼に流石に『嫌です』とは言えず濁した返事になっちゃった。ま、考えてみて良い案が浮かべば開発に取り掛かるだろうし、どうなるか分からないけれど努力はしてみますかね。

 絶望に染まった顔色から微妙な顔に変わり、やっとのことで自己紹介をした時の自身に満ち溢れている顏に戻る。そうして彼は私の下から去って行ったんだけれど、もう関わる事はないかな。リンディさんとカリムさんの上司さんに『あまり気にするな』と言われ心配されたけれど、もう会わない人だから大丈夫、大丈夫。

 

 ――あの餓鬼……。

 

 そんな彼の心情を知らぬまま試験部隊御披露目会は幕を閉じた。

 




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