転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第十三話:カゼ。

 ――あへぇ。

 

 頭が重い熱い、身体が痛い寒い、鼻が詰まる苦しい、という事で私は見事に風邪を引いちゃってベッドから起き上がれないでいる。最近のどの調子がおかしいなって思っていたらコレだ。

 生まれてから四年間、風邪なんて掛からなかったし大きな病気も患ったことはないというのに。なんだろう、スカさんの所でお世話になって事件があって捕まって。それから一定の期間を経て一応独立したし、張り詰めてた糸でも切れてしまったのだろうか。こりゃもう駄目だ、と諦めて今日の無償奉仕はお休みする事を上司であるユーノさんには伝えておいたから、このまま眠ってしまっても何も問題はないんだけれども、寒さと頭痛と筋肉痛で眠れる気がしない。

 

 「マスター」

 

 かなり心配した顔で布団を被り込んでいる私を覗き込むロゼさん。風邪を引いた私を見るのは初めてだから困惑しちゃうのは仕方ないんだけれど、死んじゃうって訳でもないし気にしないで欲しいんだけれど無理だろうなぁ。精神リンクで色々と私の情報がダダ漏れだろうからね。申し訳ないとは思いつつ、何も出来ないので情報を垂れ流すしかないっていう次第。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 大丈夫かと聞かれると、大丈夫じゃないと答えたいんだけれど口が重くて開かないし頭も回らないから、ロゼさんの問いかけを無視する形になってしまう。そんな私を見て更に顔をしかめながら、どうすればいいのか困り果てるロゼさんの姿は珍しいかも。問い掛けを無視することは出来ないから取り敢えず平気だからこのまま眠って治れば儲けものだと念話で答えておいた。

 

 「ですが……」

 

 だよねー。熱は上がっている最中だし呼吸は普段よりも荒いし時折咳込んでるのだから『平気』と言っても信じてもらえないのは当たり前なんだけれど。病院には行きたくないし、歩いて行くのも不可能だからこりゃ耐えるしかないかなーって。その旨をロゼさんに伝えて私は眠りの淵へと誘われた。

 

 ――なんだろうコレ。

 

 コレが夢である事は理解しているし、現実じゃない事も分かる。けれど自分が体験した事でもないし、これから起こるであろう未来でもない。

 ただただ一人の男性が世界に絶望していく様を強制的に見せつけられていた。何処かで見た事がある人だと夢の中で余り動かない思考で、嗚呼、そうだと頷いた。スカさんだ、コレ。最高評議会の凝り固まった思考の辿り着いた先の答え、ジェイル・スカリエッティが生み出された後。聡明なスカさんの頭脳を利用しようと画策し失敗に終わったけれど。

 

 『二歩と半分……、二歩と半分だ』

 

 時折口癖のように呟いていたスカさんの台詞。今よりも若い時に既にそう言っていたんだね。研究者として魔法や科学を追求していったスカさんの姿。そうして余りの人類の馬鹿さ加減に気が付いてしまったスカさんは、どうやら絶望してしまったらしい。己の能力を生かしても、そこから先に進む事は難しいのだと。それならばいっその事、倫理もなにもかもを無視してしまった方が人類はその先の希望に辿り着けるのではないか、と。

 

 狂ってしまったスカさんの考え方の一端を覗かせる夢だった。

 

 其処から先のスカさんは度を越した非道を繰り返してた。人間の尊厳もなにもない実験を行っていたし、動物実験もしてた。

 例え失敗しても、これが先へと繋がるのだからと希望を捨てない執念があった。人間としては褒められた行為ではない、けれど探究者としてなら至極まっとうな行動なのかもね。ただ世間や常識や倫理を無視できないからこそ、人間としての理性が捨てられない私は彼のように成りたいとは思わないけれど。

 

 『足りない、足りない、足りない』

 

 なにもかも足りない、と腹の底から低い低いスカさんの声が聞こえ。スカさんの人生を強制的に見せられていただけだというのに夢の中のスカさんと私の視線がバッチリと合い、ぞわりと身体が総毛立つ。視線に宿すモノは狂気。

 オカシイな、三年間一緒に暮らしていたけれど、あんなスカさんの視線は見た事がない。夢だから都合よく解釈しちゃっているのか、それともあの三年間で感覚がマヒしていてここ最近の平和っぷりに通常の感覚が戻ったのか。どちらなのか、どうなのかは判らないけれど。そんなスカさんの視線に悪酔いしてしまったのか、どんどん気分が悪くなっていく。嗚呼、なんだか不味いなーと思った矢先。

 

 ――自主規制。

 

 強制的に夢から覚めてベッドの上に吐瀉物をブチ撒いた、筈だった。

 

 『マスター……』

 

 ロゼさん、なんてことを。私がリバースしたものをべろーんと引き伸ばしたスライムさんの姿で受け止めてくれたんだけれど、そこまでしなくてもいいんじゃないのかな。実際、汚いし。風邪の菌が存在しているだろうから、ロゼさんにうつってしまう可能性も。ロゼさんが倒れたら私が困るのでそんな事態にはなって欲しくない。

 

 『私に細菌やウイルスの類は無効ですから』

 

 そうだったのかと納得しつつ、だんだんと受け止めてくれたアレが消えていく。ロゼさんは食事を摂る必要がないから"食べる"という行為はしないんだけれど、た、食べたのかなぁ。私のアレ。なんだか複雑な心境になりながら、まじまじとスライムさんの姿で波打っているロゼさんを見つめる。

 

 『消化吸収したというよりも吸収分解した、という方が正確かも知れません』

 

 はへーと一瞬理解するけれど、やっぱり人のゲロを飲み込むのは如何なものだろうか。

 

 『マスターのモノですから。なんともありませんが』

 

 いや、うん。嬉しいのやらなんなのやら、複雑な気持ちが湧いてくる。ロゼさん、だんだんお茶目さんを通り越して変態の領域に入っているんじゃないのかなぁと心配になってくるんだけれど、またしてもリバースしそうな気が。

 風邪ってやっかいだよね。自力で治らないなら素直に病院に行くんだけれど、数日すれば快方に向かっていくんだもん。寝てればいいか、と考えてしまうのは仕方ないんだ。綺麗さっぱり吸収分解されて、丸みを取り戻した黒いスライムさん姿のロゼさんを抱き枕代わりに手を回して、口の中を綺麗にしなきゃと起き上がろうとした時だった。

 

 「ゼロ、起きたの?」

 

 私の部屋にひょっこりと顔を出したのは私服姿のフェイトさん。突然の登場に私は驚いて眠気が吹っ飛んでいくんだけれど、身体がなかなか脳味噌の命令を受け付けてくれなくて困る。起き上がろうとするんだけれど、腕に力が入らないし。

 

 「無理はしないでいいから」

 

 ぱたぱたとスリッパの音を立てながらベッドの近くまで来て、やんわりと起き上がる事を止められたんだけれど、フェイトさんはお客さんだからおもてなしをしないと。

 

 「動いちゃ駄目だよ」

 

 めっ、と怒っていない優しい顔でそんな事を言われてしまうと泣きそうになる。どうにも前世でこういう場面に遭遇した事がなかったから、誰かの優しさが身に染みて。熱の所為で潤んでいる目に余計に水が溢れそうになるけれど、どうにか我慢。それに今ここで泣いちゃうとフェイトさんが困惑することは確実だからね。

 

 「吐いたのゼロ?」

 

 知られたくない事実を簡単に看破されてしまい、仕方ないので素直に頷く。頷いた私に驚いて慌てるフェイトさんに『大丈夫』と伝えても効果は薄く、急いで洗面台へ連れて行ってくれてスッキリする事が出来た。

 甲斐甲斐しくお世話をしてくれるフェイトさんに感謝しながら、ふと思う。家の鍵は渡してあるしフェイトさんが我が家に居ることはかまわないんだけれど、なんで居るんだろう。

 

 「保護司の人から母さんに連絡が入ってて。さっきまで母さんも居たんだけれど、用事があるから戻っちゃったんだ」

 

あ、忘れてた。今日は保護司の人の訪問日だったんだ。寝込んじゃってたしロゼさんが対応してくれたんだろうけれど、それならそれで起こしてくれれば良かったのに。フェイトさん曰くさっきまで一緒に居たとの事。次の訪問日にはお礼と謝罪をしなきゃなぁ。すっかり来る事を忘れていたし、リンディさんに連絡が入っていなきゃこのまま寝てただろうし悪い事をしちゃった。それにリンディさんにも。久しく会っていないし顔を見たかったんだけれど。

 

 フェイトさんにリンディさんから伝言を預かっている言われ、聞いた内容は『無茶したら駄目』と厳しめの御言葉でした。手間をかけさせて申し訳ないとは思うものの風邪はどうにもならないから許して欲しい。

 

 フェイトさんはフェイトさんで私を病院に連れて行く為に残ってくれてたんだって。私の移動手段ではちょっと遠い近場の総合病院に連絡を入れて、電話をした時は混雑していたからそうだから予約した時間まで待ってたそうで。その時間が来たので私の部屋に顔を出してみれば、私が目を覚ましててちょっと驚いたって苦笑してるフェイトさん。話もほどほどに私はフェイトさんに抱きかかえられて車に乗り病院に連れて行かれたみたい。

 

 みたいっていうのは、どうも熱にうなされていたらしくあんまり記憶がないんだよね。覚えているのはフェイトさんの腕の中はとても暖かかったことと、フェイトさんが使ってるシャンプーの良い匂いがしたことくらいで。診察が終わってそのまま我が家に戻るのかと思えば、心配だからなのはさんとフェイトさんのお家に行こうねって言われて。二、三日お世話になってました、ハイ。

 

 たぶんあの場でなのはさんの家でお世話になる事を固辞すれば、もっと私のプライベートに踏み込んでくることが確実になっちゃいそうなので素直に頷いておいた。二人とも小さい頃に抱えたモノのお陰で、困ってる人をみれば放っておけない性質みたいだし、六課で一ヶ月間お世話になった時に実感してます。断れば確実に強引な手段で連行されてたと思う。

 

 それでも四歳という身で出来る事は少ないので有難い事だ。本当に申し訳ないと心の中で何度も謝りながらも、甲斐甲斐しく看病されるのは初めての体験で恥ずかしさとなのはさんとフェイトさんとヴィヴィオさんの優しさが身に染みました。あとロゼさんの過保護ぶりが更に加速してます、どうしましょう。

 

 ◇

 

 「熱、下がらないね」

 

 なのはさんのお家でお世話になりはじめて二日目。熱が下がる気配はありません。なのはさんは管理局員として出勤しているしヴィヴィオさんも学校に通ってる時間だから、お家に居るのはフェイトさんと私だけ。ヴィヴィオさんが居るのだからなのはさんのお家でお世話になるのはどうなのかなーと思ったんだけれど、フェイトさんもフェイトさんで緊急の呼び出しの可能性もあるので、なのはさんの家の方が安心だと言ってた。

 ハウスキーパーとしてアイナさんも居るから大抵の事には対処できるしね、と笑顔で言われればお世話になる身なので文句も何も言えない。ロゼさんは私の影の中で大人しく待機中なのでカウントには入らず。フェイトさんは次元航行から戻ってきたばかりなので、長期休暇中なんだってさ。本当、管理局って忙しいよね。だというのに人材不足で大変みたいだし。どうにかならないものかなーなんて考えてはいるものの、簡単に打開策が浮かぶなら誰かがやってるだろうなぁ。

 

 ベッドに潜り込んでいる私を心配そうに見つめるフェイトさんは、熱が下がらない事が気にかかるみたい。病院のお医者さま曰くただの風邪だそうだから、薬を飲んで安静にしてれば治るだろうって。インフルエンザもミッドチルダに存在するそうなので、地球と似ているんだなーって回らない頭で感心してた。身体が怠くて仕方ないんだけれど、我慢我慢。

 

 「……だいじょうぶ、です」

 

 本当は大丈夫なんかじゃないんだけれど泣き言なんていえば目の前の人はきっと余計に心配しちゃうだろうし迂闊に弱音は吐けないし。喉も痛いからあんまり喋りたくはないから念話で済ませたいけれど、そんな事をすればフェイトさんは……以下同文。でも手で髪を梳いてくれる手は温かいし、優しいし。前世でこんな事をされる機会はなかったし、私に母親が存在していればこうしてくれてたのかなーとか余計なことを考えていれば目が重くなってきて。

 

 「寝てていいよ。しばらくこうしてるから」

 

 うつらうつら、頭の上からフェイトさんの声が聞こえたのを最後に私は随分と眠っていたらしい。お日様が真上にいたはずだというのに、次に目が覚めた時にはもうお月様の光が部屋の中を優しく照らしている。

 

 晩御飯は定番の卵粥だった。懐かしいな、と思いつつ誰かに作ってもらったものを食べるのは初めてだと感慨深く思いながらも、熱の所為で味がわからない。ヴィヴィオさんが横で『おいしい』って嬉しそうに食べてるんだけれどね。ちなみに作ってくれたのは仕事帰りのなのはさん。『味わかるかな?』って聞かれたんだけれど嘘を吐く訳にもいかないので正直に答えると、やっぱりかみたいな顔をして笑ってた。明日はフェイトさんが朝とお昼と夜に御飯を作るから楽しみにしててね、って。

 早く回復すればいいんだけれど、頭はまだ重いまんまだし鼻も詰まったままでこの感じだと明日は確実に寝込んでいそうな気がする。御飯が終われば病院で処方された薬を飲んで、そそくさと客室に連れて行かれて寝かされました。一日中寝ていたから寝れないかなって考えは間違えで、また直ぐに寝ちゃってた。途中なんどか目を覚ましながらだったけれども。

 

 「ゼロ、眠れない?」

 

 差し込んだ明かりで目が覚めると、なのはさんとフェイトさんの姿。時間が気になって部屋の時計を見るんだけれどいつもの場所に時計はなくて。そっかココは自分の部屋じゃないんだった。

 

 「熱、お昼の時間より上がってる……」

 

 やんわりと私のおでこに添えられたフェイトさんの手が少し冷たくて気持ちいい。

 

 「んー。フェイトちゃん」

 

 「どうしたの、なのは」

 

 なのはさんとフェイトさんが小声で話してて内容までわからない。話し終えるとフェイトさんが部屋を出て行き、なにかを手に持って直ぐに戻ってきた。

 

 「……熱下がらないと辛いから。"座薬"、イれようか」

 

 座薬ってなんだっけか。座って飲む薬で座薬、だよね。そっかそか、それなら簡単。……いや、現実逃避は止めよう。入れようの文字が挿入()れように聞こえたのは、きっと熱の所為だ。座薬を入れること自体は構わないんだけれど、今の状況だと確実になのはさんかフェイトさんの手によって施されるだろうから、全力回避しなきゃ。見てくれは子供だけれど、心は一応大人を自負しているので恥ずかしいですってば。

 

 「いやです」

 

 顔だけ出していたんだけれど、ぼふっとお布団を被って逃げる。そんな私の様子にお二人は少し驚いたみたいで。あーそっか。基本私って言われた事は『YES』っていつも返事をしているから、『NO』って言ちゃった事にびっくりしたのかなぁ。ご飯の後に飲んだ薬も嫌がらずに素直に飲んだし、なのはさんとフェイトさんが驚くのは無理もない。ないんだけれど、今回はどうしても自分の精神衛生上拒否したい。

 

「はいはい。お手洗いに行こうね、ゼロ」

 

 ぼふっと被ったお布団をいとも簡単に引っぺがされて、なすすべもないままになのはさんに抱きかかえられてトイレにドナドナされる。いや、うん、まぁ。トイレに行かなきゃならないのは理解出来る。

 排泄物と一緒に座薬が出ちゃう可能性があるから、済ませておかなければならないことも。だけれど、なのはさんまで一緒に入って来るとはコレ如何に。便座に座るのは体格が足りなくて少しばかり苦労するけれど、ゆっくりと時間を掛ければ座れるし。なので全力でお断りして心の整理がつくまでトイレに籠城してたら、なかなか出てこなかった為にフェイトさんがドアを蹴破ろうとしたので慌てて出る羽目になっちゃった。

 

 「ゼロ、力んじゃ駄目だよー」

 

 結局トイレから客室のベッドへと戻って、なのはさんに寝間着のズボンを強制的にずり降ろされ下着まで下げられた私は、まな板の上の鯉ならぬベッドの上の幼児で抵抗も何も出来ないまま。ロゼさんに助けを求めたけれど、ロゼさんも私の今の状態が気になっているのか私が少しでも楽になるのならば我慢して欲しい、と言われ。なんだか裏切られたような気もするけど、怒る気も起る気力もなかったので諦めの境地に陥った私。

 

 ――あひん。

 

 声にならないうめき声を一度だけ上げて、羞恥心と共に空気の中へ無理矢理に溶け込ませて。遣り遂げきったとなのはさんはドヤ顏をしてるし、フェイトさんはフェイトさんで眉尻を下げたまま心配そうな顔をしているし。理由も理由で怒れる訳なんてないし、明日の朝まともにお二人の顔を見れるか、そっちの方が心配だった。しばらくの間お尻の違和感に惑わされながら、結局は熱にうなされながら眠りに就いていた私。

 

 座薬が効いたのか一時のものだったのか、翌朝になれば大分熱は引いていて。ちょっと怠いけれど昨日よりも全然マシだし、これなら明日には平熱に下がり切っているだろう。

 朝一番に私の様子を伺いに来たなのはさんとフェイトさんも、ほっとしていたからきっともう大丈夫。それでも今日一日は安静にしているようにと言われ、なのはさんとヴィヴィオさんは仲よさげに家を出ていき。フェイトさんも安心したのか、昨日みたいに難しい顔をしていない。味覚もちょろっとだけ戻ったのか、御飯の味がわかるので『美味しいです』って伝えると、へにゃりとフェイトさんが笑ってくれた。

 

 回復した後日、リンディさんを始めなのはさんフェイトさん、そして何故かヴィヴィオさんまで加わり、『通信端末を渡していたのに何故使わなかったのか』と問い詰められるし『心配するから連絡を寄越して』と泣きつかれて。私が無茶をする事に頭を抱えていた皆さんなんだけれど、皆さんこそ無茶を目一杯やっちゃう人たちなんだから、どっちもどっちだよなーって口には出さないで心の中に留めておきました、マル。

 

 ◇

 

 公式魔法練習場が完成してからしばらく、契約内容には一般の人たちにも開放する事が建設条件にも入っていたので敷地内にフェンスを設置したり家から入る道とは別方向の場所にちゃんとした入り口を業者さんに作って貰ってたんだけれどやっとそれが完成した。近所に魔法練習場がなかった為に御近所様には好評で、休みの日の昼間は結構人が集まってる。その集まっている事を良い事に、日差し避けで作った屋根とベンチが設置されている場所にはこんな張り紙がある。

 "魔導師の挑戦者求。勝者には金一封"なにも見返りがないものに人は寄り付かないのは理解しているから、金一封はまさしく客寄せパンダ効果を狙って書いたんだよね。それに大した額でもないし、挑戦者を求めてるロゼさんが早々負ける訳はないし。その一言の効果は抜群で挑戦者は後を絶えない。しかも勝った人が居ないから噂が余計に拍車を掛けて結構な自称腕自慢の人たちが集まってくるけれど、ロゼさん一人だから流石に一日に何十人も捌く事はできないから一日一人って制限があるけれどね。

 

 ルールもちゃんと作ったよ。

 

 一に、挑戦者は一日に一人まで。再度の挑戦は一年以上の期間を経てから。

 一に、魔導師ならば年齢・性別・人種問わず。使い魔との共闘も可。召喚獣との共闘も可。

 一に、使い魔、召喚獣のみでの参戦も可。魔導兵器(傀儡兵等)のみの参戦も可。

 一に、用意したダメージ判定測定器を両者必ず装備する事。

 一に、デバイス使用も可。個数制限無し。

 一に、勝負が判定されるまで時間無制限一本勝負。

 

 尚、未成年者は保護者の許可を必ず取る事。

 

 とりあえずこのルールで運用して問題が出ればルールの改定や追加を行う事も記しているから、何か問題が起こっても大抵の事には対応出来る筈。あ、ちなみに公式魔法練習場にも使用ルールがある"私闘は固く禁ず"それだけなんだけれど、大事な事だ。

 ちなみに私闘を起こすとロゼさんが問答無用で割り込んで止める手筈となっている。今の所、御近所の人たちが利用しているだけだし、ガラの悪い人たちが集まったりしていないから平穏そのもの。私も時々、体力作りと新作魔法の練習を兼ねて利用している。これでようやく大手を振って魔法の練習ができるから安心だ。

 迷惑を掛けることはないのが良いんだし、どうやらこの辺りの地区は陸士一○八部隊の管轄みたいだから気を付けなきゃね。お姉ちゃんズのパパりんになる予定の人の不興を買ってはいけないもん。

 

 「よろしくお願いします」

 

 無表情のまま一礼するロゼさん。髪が長くて邪魔になるだろうからと簡単に纏めて上げたんだけれど、気に入っている様子で。ロゼさんもお洒落に興味があるみたいだから、今度お買い物に行って色々見繕わなきゃね。

 ロゼさんは長身巨乳の金髪碧眼の美人さんだからどんな格好をしても似合うだろうし。今だって白のワイシャツと黒ジーンズに皮のブーツ姿で至ってシンプルな格好なんだけれども、着こなしているからなぁ。

 私はスカさんのクローンなので羨ましいと嫉妬心を抱きつつも、スカさんの因子を持っていた一女さんから四女さんまでは美人とかの部類に入る人達だったので、自分の将来にちょっとだけ期待していたりもする下心。モテるのは前世では無縁だったからね。ちょっとくらい希望を持っても良いじゃないか。

 

 と、余所事を考えている間に本日のロゼさんの対戦相手は額に青筋を浮かべてた。

 

 「噂はマジだったのか。女だなんて舐めてやがる……」

 

 社会不適合者の烙印をポンっと押されてしまいそうな雰囲気のガタイの良い不良少年。彼が今日の挑戦者だった。自分の事は棚の上に上げておいて、人様を容姿で判断するのは良くありませんよーと心の中で叫んでおく。

 私も私でロゼさんに挑戦者が現れれば一緒に練習場に繰り出してるんだ。一応ダメージ判定器や訓練場の設備はDSAAのシステムを流用して改良したもだから怪我を負う事は早々ないだろうけれど、事故が起こって怪我をしちゃったらこんな事やれなくなっちゃうので"治癒魔導師"として控えてる。

 

 『――Ready Go!』

 

 柱に設置されているスピーカーから人工音声が流れる。お互いにミッドチルダ式の丸い魔方陣を発動させてロゼさんは動く様子を見せず、相手の少年はロゼさんの様子を伺いつつも(タイミング)を狙って。逆にロゼさんはすました顔で、彼が仕掛けてくるまで何もしない戦法だ。何時もの事だけれどね。

 

 「……しゃらくせぇっ!!」

 

 状況が全く動かない事にしびれを切らしたのか、足に身体強化魔法と跳躍魔法を発動させた少年がロゼさんに飛び掛かかり、右ストレートを撃ち込もうと腰を捻り回転運動を加えて威力上げてロゼさんの左顔面に容赦なく叩きこむ。ロゼさんはその勢いを利用して、撃ち込まれる筈だった少年の右手首の部分に手刀で軽くいなした。弾道はそれて空振りに終わる。

 

 「なっ! くそっ!!」

 

 一度で決まると思っていたのか少年は驚いた表情を見せ、近接格闘戦で挑み続ける。んーちょっと手数が少なすぎるかなぁ。得手不得手はあるだろうし、それが彼の戦闘スタイルだというのなら仕方ないけれど。

 何度か近接戦で打ちあいをする二人なんだけれど、実力差は素人の私から見てもはっきりとしていた。武闘派のナンバーズの皆さんと手合わせしていたロゼさんだけあって、そこらに居るちょっと力自慢の青年じゃ力不足だったかぁ。ちらっとロゼさんが私に視線を向けたので、私は一度頷く。そんなロゼさんと私のやり取りを、ムキになっている青年は気付く様子は微塵もない。

 

 「……決めます。御覚悟を」

 

 そう言ったロゼさんは、相手の最初に放った技を模倣して倒してしまった。うーん、挑戦者に失礼だから余り手を抜いて遊んじゃ駄目だと伝えていたんだけれど、今の所実力者は現れそうにないなぁ。

 よし、今回の賞金は次回の賞金に加算しておこうかな。そうしておけばこの挑戦に興味を持つ人が沢山現れる可能性がある。でもちゃんとこの辺りはロゼさんと相談しなきゃ。戦うのはロゼさんなのだし、私の一存で決められる事じゃないもんね。噂がミッド中にまで広がってくれれば強い人が現れるかもしれないけれど、まだまだ先の話だろうと遠い目になる私だった。

 

 

 




9672字

 おそらく二次創作ではド定番の風邪イベント。オリジナリティーが出せれていればいいんだけれど。

 フェイトさんだと嫌がる姿を見せれば座薬を入れられない可能性があるので、なのはさんの方が遠慮がなさそう。可愛い我儘くらいに捉えて。
 
 あと総字数が二十万字を超えていました。完結するまでにどのくらいの字数になるのやら。そして作者のモチベーションは持つのやら。
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