転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第四話:ホテル・アグスタ。

 ホテル・アグスタ。

 

 そこではとあるオークションが開かれようとしていた。きっと会場では準備に追われてんてこ舞いをしているオークションの従業員やホテル側の面子も同じ様に走り回っている事だろう。そんな忙しい事極まりないホテルを襲撃する事は決定事項で、今回のメイン戦力であるガジェットドローンの出撃準備に私たちもてんてこ舞いを披露している最中である。遊んでくれないとぐずって泣いていたヴィヴィオさんを置いて来ているからちょっと心配だけれど、やる事は仕事としてやらなきゃならないのでぐっと我慢であるし、誰かがヴィヴィオさんの面倒を見ているので問題はない。

 

 「済まないね、手伝わせて」

 

 と、ガジェットドローンの準備を一緒に行っていたスカさんが私に声を掛ける。いえいえ、いいんですよ。金銭的な面で普段お世話になっているのだから、このくらいは。

 

 「だいじょうぶです、おとうさま」

 

 スカさんが作ったガジェットドローンが如何に優秀でも、やはりそこは機械なので些細な事で不調に陥ったり壊れたりすることはあるので、起動前の点検は大事。大まかなチェックは魔法を応用した装置で点検できるのだけれど、細かい所はやはり人間の目じゃないと見過ごしちゃう所もあるから、どうしても手が必要になるんだよね。

 だというのに、これだけ大量のガジェットドローンを制作して稼働させているというのに、メカニックがスカさんと私しか居なければ、そりゃ大忙しになってしまうのは必然だ。心の中で『誰か手伝って』と叫ぶけれど、誰も来てはくれない。ナンバーズの皆のほとんどは戦闘に特化してるから、こういう事に対してはてんで向いてないんだもんね。仕方ないけれど、スカさんを恨む気持ちが芽生えたりして。

 

 ゼストさんとルーテシアさんも今回の騒動には首を突っ込むよう……と言うよりも、スカさんがそうなる様に仕向けちゃったから、ちょっと心配である。怪我とかしなければいいけれど、と願いつつ黙々と作業こなしていく私。モノレールの時と同様、私はこのアジトでお留守番だ。今回のメイン戦力はガジェットドローンなので、私以外のほとんどのメンバーも待機してるんだけれど、何が起こるか分からないから原作から外れてしまった展開になっちゃえば出撃する事もあるだろう。

 仮に原作から逸れた展開になったとしても私は出撃する気は全くない。だって戦闘訓練もした事もない三歳児だから、皆の足を引っ張るだけだからね。それなら後方のウーノさんのアシスタントでもしてた方が役に立つってもん。それに今回は、原作主人公とその幼馴染二人が揃っているのだから、ガジェットドローンに勝算がないのは目に見えているし。

 

 管理局の白い悪魔だとか金色夜叉だとか闇の書の主だなんて言う厨二病真っ盛りな二つ名を冠しているSランク魔導師が三人が居る訳ですよ。それに外にはフォワード陣と夜天の魔導書の守護騎士達が全員揃っている事も知っているし。戦力過剰な地獄の釜の中に放り込まれるような事はしたくないので、スカさんからお留守番の命を貰った時は心底安堵した。戦闘訓練をした事が無いもやしっ子だけれど、スカさんのクローンだからリンカーコアを所持しているし魔力量だってそれなりに保有してるけれど彼女らに勝てる気も勝つ気もないのでこれでいいんだ。

 

 なので、最近はナンバーズの皆様の新武装の開発に勤しんでる。たまーに妙な電波を受信してしまうらしく、これどうよ、と皆に試作品を披露するのだけれどドン引きされる事もしばしば。でもそこは皆、スカさんのクローンなのだから自分たちには理解の及ばない領域に入っているのだろう、と微妙な顔をしながら納得してた事に私は納得がいかなかった。

 

 「さぁ、これで準備は整ったっ! 私の子どもたちよ行きたまえっ!!」

 

 高らかに宣言して両手を広げながら白衣を翻す姿は、まるで子供のようにはしゃいでいる。いい歳なのに。その声と共にガジェットドローンが起動して転送魔法によってアジトの倉庫に沢山並んでいたドローンたちがどんどんと減っていく。アジトに殆ど引き篭もって研究と開発に勤しんでいるから、時々こうしてストレスを発散させたくなるのだろう。その方法が世界に喧嘩を売ってしまっているってだけで。スカさんも人間だから仕方ないね。明らかに犯罪なのにどうしようもない人だなと思ってしまうのは、きっと三年間一緒に生活してきた日々がそう私に思わせるのだろう。ま、最後は大人しくフェイトさんにしょっぴかれて欲しいもんだ。

 

 「おとうさま、わたしがかいはつしたものも……いっしょにしゅつげきさせても、よろしいですか?」

 

 「……ぅん?」

 

 ハイテンションスカさんに近寄って白衣の裾を軽く何度か引っ張って、私の存在に気付いてもらう。

 

 「おお、そうだったか。では、君が作ったものも披露しようではないかっ! 私たちの凄さを世界に見せつけよう!」

 

 スカさんを見上げていれば、しゃがみ込んで私を抱き上げて"平伏せ愚民共っ"と言いたげな程にマックスな状態にスイッチが入っちゃってるスカさんは高笑いを始めてしまった。あー……、そういえば三徹明けくらいだったかなぁ。原作が開始されちゃったから忙しいみたいで徹夜の頻度が上がってるんだよね。そりゃテンションもハイになっちゃうよ。

 寝てもらいたいんだけれど、流石にこのタイミングで強制シャットダウンはお見舞いできないので、ぐっと我慢。落ちてしまいそうな意識を無理矢理にテンションを上げて起きてるんだろうな、スカさんは。どうしようもなく難儀な人だし、これで失敗すれば最高評議会の三人からトカゲのしっぽ切りをされるだけだし、私も色々と考えてた。それが今回作ったものである。

 

 出撃予定のガジェットドローンが全て出払って、格納庫は大分すっきりしてた。その一角に今回私が試作した機械がある。

 

 「なんだね、これは?」

 

 まだ起動させていないので二人でそのロボットの下へ。大型のガジェットドローンと同じ筐体なんだけれど、中身は全くの別物。最近原作開始したために忙しいみたいで、スカさんとは中々会えて居なかった。同じ場所に居る筈なんだけれど、ご飯の時間とかがズレてしまってたし、一人でちょこちょこと作っていたものだから知らなくて当然なんだ。

 

 「これは、りさいくるろぼっとです」

 

 今回出撃させたガジェットドローンたちは、無残にも主人公側の皆さんにぼっこんばっこんと破壊されるだけの見せ場作りの噛ませ犬的存在。アニメでその残骸を見ちゃってたから、そうなるならソレを回収したかったんだよね。リサイクルロボットだなんて格好良さげな名前を付けたんだけれど、ただの廃品回収マシンだ。スカさんにはリサイクルの概念は持ってないみたいで、作ると作りっ放しで失敗作とか放置してゴミと化してるままなんだもの。

 勿体ないったりゃありゃしない。この辺りは元日本人である前世の私の価値観なのだろう。作りっ放しの失敗作も私が手を加えて使えるモノになれば使ってるし、今回のものも湯水のごとく消えていくお金を心配しての事。資金は潤沢にあるみたいなのだけれど、無限にあるモノじゃないからね。スカさんの欲望みたいに勝手に湧いてくるわきゃないんだし。

 

 「何故そんな物を?」

 

 嗚呼ほら、理解を得られない。さて、どう説明すればスカさんに納得してもらえるように伝わるのだろうか。スカさんと私の遺伝子は全く同じ訳なんだけれども、どうも前世の記憶がある為かスカさんの思考には似なかった所があるから、ものの考え方の違いで研究開発においての意見や主張がぶつかる事もある。なので自分が納得できないと『うん』と頷いてくれないので説き伏せるのに結構頭を使うんだよね。

 資金運用はスカさんに権限があるから、居候の身である私が勝手にお金を使いこむ訳に行かないので許可が出ないと何も出来ない。だからOKを貰う為に意見や主張が食い違えばスカさんが納得するまで話続けなければならない。……ならないんだけれど、スカさん人前で話す事とか滅多にないからかディベートとか下手です。若かりし頃、大学とか研究所とかで他の人と一緒に研究開発をしてたんだよね、と疑問なるくらい下手ですよ。自分の意見を押し通さなければならない時はどうしていたのか。

 研究者ってこういう事も大事なんだけれど……スカさんだしなぁ。他の人がスカさんに噛み付いている所なんて想像できない、彼天才なんだもの。誰か居るのならプレシアさん位しか居なかったんじゃなかったのかな、自分の研究に付いて相談できる人なん。そんなだから俗世が嫌になって、世間から離れてしまったのだろうし、長年染みついた性格を今更治せる訳もなく。

 

 「あいてのかたがたに、こちらのないじょうをしられるのはいただけませんから」

 

 尤もらしい事を適当に吹いておく。コレを作った元々の理由は、ただ単に私の勿体ない精神が炸裂してしまったからなんだけれど、無駄に資金を使ってる雰囲気を感じ取ってしまって心配になってきたし、この先最高評議会を切り捨ててしまう事はしっているし。

 新しいパトロンやスポンサーを見つけるには、アルハザードを目指すがごとく難しいだろうから、ケチれる所はケチっておきたかった。資金の使い道はスカさんが決めているけれど、資金管理はウーノさんに丸投げしているみたいなので、彼女の苦労が少しでも和らぐのなら幸いだ。電卓を必死で叩いている姿には鬼気迫るものがあったし。

 

 それにガジェットドローンの残骸を残すって事は、現場に証拠を残して『捕まえて下さい』と言っているのと同義だし。残骸から身元を特定されるのなんて当たり前だし、少しでも遺留品が少なくなれば足が付きづらくなるかなーって。と言っても、スカさんはガジェットドローンやレリックに自分の名前を彫ってしまってて、犯人は私と告げている様なものだから効果は無いのかも知れないけれど。

 てかさ、管理局は何をしているんだろうね。大犯罪者を放置して良いのか。そんな事だからスカさんは増長して名前を彫るだなんてお茶目をやらかしてるんだから、早く捕まえようよ。十年以上も放置というか、逮捕出来ないなんて市民の皆様からの評判は大丈夫かな。税金で運用しているんだから、信頼を失うのは痛手だと思うんだけれどな。

 

 「……ふむ、一理あるか」

 

 内心でスカさんと管理局の事をぼろ糞に言っていたけれど、スカさん呑み込みとか理解とかは滅茶苦茶速いので助かる。その代り、研究開発でスカさんが疑問に思ったり納得のいかない事があれば、とことんまで突き詰めた議論が始まる。以前に私がぼろ糞に打ちのめされるハメになった事がある。一度だけだけれど。泣くつもりなんて全くなかったけれど、ちょっと思っていなかった所での不意打ちだったので泣いてしまったから、本当にスカさんには悪い事をしてしまった。

 運悪くスカさんのラボに入室してきたクアットロさんから会心の鳩尾ボディブローを頂き、床へと沈んだスカさんを他のナンバーズの皆様が見事なまでの速さでスカさんを縛り上げ、そのまま説教される姿は、指名手配犯だなんて思えない光景なんだもの。私が百パーセント悪かったので、皆に理由を話したらスカさんに謝ってくれたから大事には至らなかったけれど、もう少しでスカさん一味が崩壊してしまう所だったよ。あの時は本当に焦ったなぁ。

 

 そうこうしている間に色々と準備を終えて、ホテル・アグスタへの襲撃が始まった。スカさんとウーノさんと私は、アジトで画面越しにガジェットドローンに搭載してあるカメラから現場の状況を見ている。ヴィータさんを中心に守護騎士の面々と機動六課のフォワード陣の姿もあった。どうやら順調に撃墜していってる様で、ガジェットドローンの数がどんどん減っていってる。

 

 「はははっ! 流石に高ランク魔導師に囲まれては私が作った物と言えど、プログラムされたコマンドのみしか実行できぬ機械では敵わんかっ!」

 

 心底可笑しそうに笑いながらモニターを見つめるスカさん。

 自分が作ったものをどんどん壊されていく様を笑って見てられる胆力は凄い。多分私が作ったものを壊されれば、思い入れはあるので泣くと思う。その辺りの割り切りはスカさんの方が上手くやってるみたいだし、流石悪党。

 ガジェットドローン一体にかかる製作費を知っている私は、気が気じゃない。だってさ、タダで作れる訳なんかないんだよ。モグリの業者だけれど、ちゃんと仕入れルートが存在してお金を払って資材を買って作った代物なんだもの。結構な費用が掛かっており、斬られて動かなくなる機体があれば、頭の中でちゃりーん。打ち潰されショートして動かなくなった機体をみればちゃりーーん、とお金が飛んでいく音が響いてる。嗚呼、勿体ない。

 

 そうしてどんどんと破壊されていくガジェットドローンの残骸を回収しているリサイクルロボット。その光景はとってもシュールなものだ。さっきも言ったけれど、大型のガジェットドローンと同じ筐体を使用していても中身は全くの別物。

 壊れて散乱している部品を回収するための補助腕とか地面ごと穿つスコップ機能とかついてるので、回収作業を始めるとかなり厳ついシルエットになってしまう。ある程度回収して、中身が一杯になると動きが止まるんだけれど、決して故障したとかじゃない。

 

 「面白い動きだ。……私には考えつかないものだよ」

 

 その理由は、回収された部品が満タンになると自動的に転送魔法が発動される仕組みになっているから。人間や動物を転送する訳じゃないし、壊れた物を転送するだけなので転送魔法の構成も適当に組んだもので甘い。壊れている物だから、転送の過程でさらに壊れてしまっても困らないから転送にかかる魔力消費を最低限に抑えてある。装甲になる鉄なんかは炉にくべてやれば良いだけだしね。

 

 「ありがとうございます、おとうさま」

 

 一応研究開発における師匠になるからスカさんに褒められる事に悪い気はしない。

 しげしげと画面を見ながらスカさんは、私が作ったリサイクルロボットの感想を述べてくれてた。研究と開発畑の人だから、改善案とか駄目な所とか助言をくれるスカさんは頭の良いマトモな人に見える。

 何でこの人、悪の道に突き進んでしまったのだろうと考えても、原作の知識と生まれ変わってから接した三年間しか知らないから、心の深淵に触れるのは無理だろうし、見せる気も無いだろう。それでも、こうして議論するのは楽しいし、尊敬できる部分でもある。それ以外が、すっごいおざなりと言うか適当と言うか……人として欠落している部分がチラホラ見えてるから。

 

 「さて、そろそろ第二段階だ。……彼女に連絡を」

 

 派手に白衣を翻しながら後ろに控えているウーノさんに告げて暫くすると、モニター越しにルーテシアさんとゼストさんの姿。後ろにはガリューさんも映ってて、ちょっとテンションが上がった私。召喚獣ってカッコいいからちょっと憧れてる。ディベートは下手なのに、こういう騙しながら話すのって上手いよねスカさん。通信越しに映ったルーテシアさんは、まだ小さいと言うのに表情があまりない。ゼストさんはスカさんの事を信用してないから、不機嫌そうな顔。スカさんの言葉の裏にある真意を読み取りたいみたいなんだけれど、多分無駄だと思う。スカさんはスカさん本人が楽しければOKだから、きっと深い意味なんてないんだよ。

 

 この後の展開は私の記憶が覚えている限りのままで、多分同じ道を辿ったんじゃないのかな。ホテル・アグスタ襲撃は成功。そしてティアナさんの誤射により、危うく相方のスバルさんが撃ち落されるハメに成る所だった。

 それにしたってティアナさんからワザとじゃないにしろ撃ち落されそうになったスバルさんの心臓の強さには驚きを隠せない。きっと剛毛が生えているに違いない。女の子にこんな言い方は失礼だけれど。だってさ、後ろから撃たれるかもしれない恐怖を克服してるんだよね、しかも割とあっさりと。訓練校時代からずっと一緒にツーマンセルを組んで仲が良いといっても、こんな事が起こってしまえば不信感はなかなか拭えない。

 今回は寸での所でヴィータさんのフォローが入りティアナさんが放った魔法弾を撃ち落してくれたけれど。未遂に終わったとはいえ味方撃ちだなんて普通の人間ならトラウマになっちゃって、先頭に立って先陣を切らなきゃいけない前衛なんて務まらないとおもうんだけれどなぁ。やっぱりスバルさんの精神力は主役補正があるとはいえ異常だ。

 

 さてさて、ティアナさんの誤射事件をLIVE中継で見ていた訳なんだけれど、ふと思い出した事がある。うわー……、この後暫くすると、あの『少し、頭冷やそうか』になっちゃうのかぁ。個人的にもあの出来事はなのはさんもティアナさんもお互いの未熟さと不器用さ故にどっちもどっち、って感じに私は受け取っている。指導方針を伝えていないなのはさんもなのはさんだし。限界を超えてこっそり訓練をするティアナさんもティアナさんだし。でもま、あれは若気の至りなんだろう。きっと年を取れば、頭を抱えてその時の自分を恥じるようになるだろうし。

 二人とも頭の回転も早いし、臍曲がり者って訳じゃないからきっといい経験になるだろうね。有名なシーンだから見たいけれど、その現場に立ってれば漏らしてしまいそうなので我慢、我慢だ。三歳児にあの現場の重圧に耐えられる気がしないんだ。精神は肉体に引っ張られてるから、前世の自分なら泣かない事も今の私だと泣いちゃう事もあったりするからね。

 

 それにしたって、なのはさんやらフェイトさんやらの過去のシーンを流して、新人さんたちと一緒に見てる場面があったけれど、あれって管理局がデータ保管してたのかなぁ。

 野暮な事を言ってしまえばアニメスタッフさんの演出なんだけれど、気になる。誰が盗撮してたんだろうってね。まぁ深く考えても仕方ないし、恥ずかしいのはその映像を勝手に流されてしまったなのはさんたちだし。怒られるのは勝手に映像を見せたシャーリーさんだし。私が心配する事じゃないか。

 

 ◇

 

 「ぜろぉ……」

 

 「はい?」

 

 名前を呼ばれて振り返れば、ヴィヴィオさんの姿が。

 

 「おなかすいたよぉ」

 

 しょぼーんという擬音が似合いそうな雰囲気で、お腹をさすってる。そういえば晩御飯の時間はとうに過ぎているから、ヴィヴィオさんが涙目で私に訴えるのは仕方ない事だ。誰もヴィヴィオさんのご飯を用意しなかったのか、とスカさん一家の残念っぷりを痛感しながら気持ちを切り替える。

 

 「……ごめんなさい。いますぐつくりますね、ひめ。リクエストはありますか?」

 

 「はんばーぐっ!」

 

 なんともまぁ子供らしい回答だった。私の研究室から調理場へと移動中、なんでか服を掴んで一緒に移動してるヴィヴィオさんに苦笑しながら歩いて行き、空腹を誤魔化すために林檎やオレンジを切って出しておいた。

 食客としてアジトに居るヴィヴィオさんの為に最近の大型冷蔵庫の中身は充実しているから、食材に困る事はない。そんな事なのでハンバーグを作る事は決定なのだけれど、ハンバーグだけなんて寂しいから付け合せや副食を何にしようかと考える。お腹が空いたと主張しているヴィヴィオさんを待たせる訳にはいけないんだけれど、手を抜きたくはないんだよね。どうせなら美味しく食べてもらいたいし。

 

 そんなこんなで調理に取り掛かる訳なんだけれども、最近はインターネットが発達しているから便利だ。美味しく作るコツなんかも検索すればすぐ解るし、隠し味とかについても書いてあるからね。料理を作る事自体は苦痛じゃないし楽しいから。

 

 「んー。お嬢、何をつくってるんです?」

 

 ひょっこりと調理場に顔を出したのはスカさん一家の六女、セインさん。最近ウーノさんやクアットロさんがご飯を作っている事に触発されたのか、セインさんもご飯を作る側に立つようになった。戦闘訓練はどうしたのだろう。今頃は皆その時間なんだけれどサボりかなぁ。あとでトーレさんとチンクさんに怒られても知らないよ。

 

 「はんばーぐです」

 

 「おお、いいですねぇ。何か手伝います?」

 

 にしし、と笑ってセインさん。優秀なアシスタントをゲットしました。これでご飯を作る手間が省けるし、お手伝いさんが居るのなら他のメンバーの分も作り置きして、後は火を通すだけにしておこうかな。訓練後に『お腹空いた』とこの場所に駆け込んでくるのは目に見えてるし。

 あとはトマトとレタスと卵の三色スープにレタスとツナの軽めのポテトサラダ、くらいかなぁ。大人数で暮らしているのでコンロの数とか多めに設置して貰っているから、並行作業で出来るのは有り難い。そんなこんなで晩御飯が出来上がり、美味しそうに頬張るヴィヴィオさんは満足げな御様子。上機嫌なので、おねむの時間になるまでもう少し。

 

 ――おやすみなさい。

 

 良い夢を。すやすやと眠るヴィヴィオさんの顔を眺めながら、こんな日常が続くのだろうって簡単に考えてた翌日、スカさんが衝撃の言葉を言い放った。さてさて、私の目の前で大泣きしているヴィヴィオさんをどうしたものかと考える。

 

 ホテル・アグスタ襲撃から暫く立った本日スカさんの唐突な発言により、ヴィヴィオさんをアジトから追い出す日がやってまいりました。追い出すって言ってしまうと語弊があるかもしれないけれど、ヴィヴィオさんの気持ちになれば"追い出される"で間違いはないのかも。ヴィヴィオさんが泣き叫ぶ理由を作った張本人は知らん顔で。

 

 ヴィヴィオさんは、巨大戦艦である聖王のゆりかごを起動させる鍵の役割であった聖王オリヴィエのクローンとしてとある違法研究所で人為的に生み出された存在だ。その違法研究所はスカさんと協力体制を取っていた筈なのに、いつの間にかスカさんの命令でナンバーズの皆様が違法研究所を襲撃しヴィヴィオさんを拉致ってきた訳で。

 違法研究所も潰されたことに対しての文句を付ける事は出来ない立場にあるので、だんまりを決め込むしかないみたいで報復とかそういったものは一切ない。そうしてそれから暫くはヴィヴィオさんとスカさん一家と私は一緒にこのアジトで生活してたんだけれど、今日のスカさんの一言で、此処から追い出す事を決定した。年長組である四女の皆さんまではヴィヴィオさんがアジトに居る理由を知っていたので、不思議に思った彼女たちはスカさんに理由を聞いていた。で、スカさん曰く。

 

 『その方が面白い』

 

 との事。そうは言っているけれど本心は"最高評議会の爺共の言いなりになんぞ、誰がなるか"の方がウエイトは大きいんじゃないのかと推測する。天才の考えている事なんて理解できないから突拍子も無い事をするもんだ。それでも私は原作を知っているので、ヴィヴィオさんが機動六課に保護されて後になのはさんの養子となる事を知っているから、このイベントがないと逆に困るから渡りに船。そんな事なのでただ今絶賛ぎゃん泣きしているヴィヴィオさんをどうにか泣き止ませて、色々と画策しているスカさんの指示通りになるようにしたいのだけれど、それが難しい。対スカさん用最終奥義である物理的強制シャットダウンなんて以ての外だし、無理矢理に移動用の生体ポッドに閉じ込めるのは可哀そうだし、昏睡系の魔法も何だかなぁと思うし。なにより私の良心が痛むし。小さい子供だから、この先の事を伝えても理解してもらえないだろうしなぁ。

 スカさんから言い渡されたタイムリミットまでは後少し。無理矢理にヴィヴィオさんを移動用生体ポッドへ押し込めようとしたスカさんを説得して、時間をもらったけれど無理そうだなぁ。

 

 「ぜろぉ……」

 

 うぅ、そんな目で見ないで下さい。無力な私を呪っても良いので、とにもかくにもヴィヴィオさんを機動六課の誰かに保護をされるイベントは確実にやらなきゃならない事だから。もう希望が無さそうなユーノさんとなのはさんの貴重なフラグをバキ折りしてでも、なせねばならない事だ。じゃないとヴィヴィオさんの将来が不安でたまらない。

 

 「なかないで。だいじょうぶだから……」

 

 「……」

 

 泣きすぎて疲れたのか、少し落ち着いた様子のヴィヴィオさんは今だに仏頂面で。大人の言葉を完全に理解なんて出来る訳なんてないのに、子供特有の察しの良さで機嫌は相変わらず悪そう。小さな子ども相手に、どんな言葉を掛ければ良いのかどんな行動を取れば良いのか。経験値の少ない私には難題だった……のだけれど。

 

 「……」

 

 寝て、しまった。そう言えば、お昼ご飯を食べてから暫く経ちいつものこの時間はヴィヴィオさんはお昼タイムだった。その習慣からだろう、必死に睡魔と格闘していたヴィヴィオさんだったけれどついに負けて、眠ってしまった。そんな様子を見て私は大きく一つ息を吐き出す。

 

 ――大丈夫。君にはもっと大切な人たちが居るのだから。

 

 そう、ヴィヴィオさんはこの場所に居るべき人じゃないから。君は太陽のように輝いて、生きて行く人なのだから。だから、その輝きを受け止めてくれる人達の所へ。眠ってしまったヴィヴィオさんの寝顔を見ながら私は、生体ポッドの扉を静かに閉じた。

 

 

 

 

 




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