転生先はスカさん一家   作:行雲流水

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第九話:決戦の後。

 

 なのはさんのバスターをどうにか凌ぎきったあと、驚いた様子を見せるなのはさんだったけれど、これで終わりという訳もなく問題がまだ残っていた。クアットロさんが気絶という名の退場をした為に、ミッドチルダ中に溢れかえっていたガジェットドローンも機能を停止……したまでは良かったんだけれど、ヴィヴィオさんの暴走がまだ続いている。精神操作が解けたようなんだけれど、ヴィヴィオさんの意思と関係なく肉体が勝手に動いてなのはさんを攻撃してしまう為に、かなりつらそうな表情をしてるんだよね。ヴィヴィオさんは。でも、その光景は長続きしなかった。

 

 ――何故かって?

 

 そりゃもちろん私が止めたから。ロゼさんの防御魔法のお陰で、聖王のゆりかごのメインコントロールパネルが生きていたからクアットロさんに代わって操作したんだよね。バスターの影響で所々機能していない部分もあったけれど、突貫工事でどうにか誤魔化しながら自前でプログラムを組んで、ゆりかごのシステムに割り込んだ。ヴィヴィオさんの戦意が下がれば自動防衛モードになるのだから、欺瞞情報を流しておいたわけである。ヴィヴィオさんの闘争心は失われていなくて、戦意はバッチリあるよーってね。

 でも駆動炉が死んじゃっているので、このままだとゆっくり墜落してミッドの街の被害がとんでもない事になっちゃうからこれもどうにかしたいんだけれど、システム面で出来る事がもうないから私に打つ手はない。後はヴィヴィオさんの体の中に残るレリックを取り出すだけなんだけれど、取り出す事も出来るしそのまま体の中で眠ってもらう事も出来るし、自身のリンカーコア外からの魔力供給源として利用する事も出来るので、まぁあとはヴィヴィオさんの意思次第。

 

 『ヴィヴィオ!』

 

 『なのはママっ!』

 

 おお、感動の名シーンですよ。眼福眼福と思ってたらなのはさんがレイジングハートさんを構える。え゛、なんでそんな事をと考えるけれど、彼女達にレリックを無効化させた事を伝えていなかった。そんな事だから私は慌てて通信を開いて、星を軽くぶっ壊すビーム(スターライトブレーカー)を容赦なくヴィヴィオさんに撃ち込もうとしているなのはさんを急いで止める。

 でも私の言葉だけじゃ納得できないだろうから、レリックの構造とヴィヴィオさんに埋め込んだ経緯と施術方法、そして取り出す方法もデータとして提出しておいた。どうにかやっとなのはさんの理解を得られて、ヴィヴィオさんとなのはさんは晴れて仲直りと相成った訳である。ふぅ、と長い息を吐いて、安堵する。暴走が解けて私の存在にやっと気づいたヴィヴィオさんが驚いていた。ま、盛大な親子喧嘩をしてたんだから気づかなくても仕方ない。

 

 残りは聖王のゆりかごの破壊だけなんだけれど次元航行隊の皆様が出張って艦砲射撃で撃ち落すので問題は無いはず。ゆっくりと高度を下げていく聖王のゆりかごは誰にも止められない止まらない。ヴィヴィオさんとなのはさんにはゆりかごが落ちてしまうからと脱出を促して、その姿を確認。私たちの事を心配してくれていたけれど、こっちはこっちでどうにかなるので、ヴィヴィオさんの安全の確保をって言ったら渋々納得してくれた。

 

 「マスター。此処は危険ですので早く脱出を」

 

 「うん。いきましょうか、ろぜさん」

 

 「はい」

 

 自動防衛モードに入っていないのでAMFの影響はないので魔法を使用出来る。使用出来るのだけれどロゼさんと私はさっきのなのはさんのバスターによってガス欠状態。見事にすっからかん。なのでロゼさんにはクアットロさんを抱きかかえて貰って歩き始める。なのはさんたちはスターライトブレーカーを撃っていないので、魔力の余裕はあるはずだからそんなに心配はいらないだろう。道に迷わない様にメインパネルから聖王のゆりかごの地図をぶっこ抜いてそれを頼りに歩いているんだけれど、最深部に居た所為で脱出口まで遠い事遠い事。

 これ結構時間かかるんじゃないのかな。私の歩幅は子供なので小さいし、ロゼさんはクアットロさんを抱えながら私に歩調を合わせているから、滅茶苦茶進みが遅い。てか私が鈍足過ぎるんだよね。仕方ないけれど。

 

 私たちは立派な犯罪者なので運が悪ければ次元航行隊からゆりかごごと一緒に撃ち落される可能性が十分にあるから、早くゆりかごから脱出しなくちゃ命がないんだけれどどうしようもない。ロゼさんと他愛のない事を喋りながら、せめてロゼさんとクアットロさんだけでもどうにかならないか、歩きながら方法を考えていた時だった。

 

 「居たっ!」

 

 「あ、本当だっ!」

 

 「ギンガさんっ! スバルっ! 急いでっ!!」

 

 おやまぁ。ローラブレード……じゃなかった、ウイングロードを敷いてデバイスで滑走する仲良し姉妹二人と赤いバイクに跨ったティアナさんがこちらへとやって来る。

 本当ならなのはさんたちの救出に向かうはずだから不思議に感じて理由を聞いてみると、クアットロさんの確保とロゼさんと私を助ける為だって。それは間違ってて私もクアットロさんたちと一緒に逮捕されるのでは、と聞いた所そのあたりは執務官や上官たちの仕事だから私たちは関係なくて、ただ助けたいから来てくれたって。主人公属性の人たちって格好良いよね。眩しいや。

 

 真顔で三人は言い切るものだから、ちょっと驚いたけれど。それでも助かったのは事実なのでお礼を述べて、クアットロさんを引き渡してロゼさんは私の影の中に入ってもらった。その光景に三人とも驚いているんだけれど、使い魔って主人の影の中に隠れる事が出来ものだと思っていたから私がびっくりである。ロゼさんは特別なのかなぁ。どうなんだろう。この場から去る前に気になる事があるからもう一つ聞いてみる。ゆりかごの中に居た人たちは無事に脱出出来たのだろうか、と。その答えは私にとって満足なものだったので安心した。

 

 『お~い三人ともー。そろそろ急がへんとちぃーと不味いかな』

 

 そんな呑気な声で全通信で念話を飛ばしてきたのは誰であろう機動六課の最高指揮官であるはやてさんだった。モニターに映る姿を覗いてみれば銀髪なので、どうやらリィンさんとユニゾンしているみたいだった。

 私の姿に一瞬息を飲んだはやてさんだったけれど、周りには一切気付かれていない辺りは流石その若さで二佐になっただけはある。はやてさんが何を考えているのか解らない恐怖が一瞬襲うけれど考えても仕方ないし、彼女に手渡さなきゃならないものもあるからちょっと通信に割り込ませてもらった。

 

 手渡すものっていうのがアインヘリアルの操作権限。アインヘリアル制圧時に遠隔操作ができるようにしていたから、その権限をはやてさんに移譲させてもらった。これならば次元航行隊の到着を待たなくてもゆりかごを撃ち落せるだろう。

 その為にアインヘリアルを破壊ではなく制圧し自分たちの手中に収めるという面倒な事をしたのだから、活用してもらわないと取り越し苦労になってしまう。これでアインヘリアルを使って撃ち落すのも良し、次元航行隊の到着を待ってゆりかごを砲撃で壊すのも良し。その判断ははやてさんに任せよう。アインヘリアルを使わなければ、ちょっとイジけるかもしれないケド。

 

 考えていた通りになんてならなくて、色んな事が起こってしまった。本当ならこの場になんて居ないはずでスカさんのアジトで捕まる予定だったもんね。培養槽で眠ってる人たちをどうにかするつもりだったんだけれど、掛けておいた保険が効けば良いけれどなぁ。私がこうして色々と手を打てたのは、偏にスカさんのクローンだなんていうチートじみた能力と前世でのアニメの知識のお陰なんだけれどね。でもさ、色んな事が起こり過ぎて……。

 

 ――流石に疲れたよ。

 

 そう思った瞬間、私の意識は深い眠りへと誘われた。

 

 ◇

 

 ――知らない天井だ。

 

 よく聞くテンプレートで使い古された台詞を頭の中に浮かばせながら、その知らない天井を目が覚めてから結構な時間私は眺めていた。腕には点滴が打たれてあるし、他にも医療器具が自分の体にそこかしこ繋がれてあるから病院なんだろう。

 

 「ろ、ぜ……さん?」

 

 喉が枯れているのか、それとも寝起きで声が出にくいだけなのか。掠れた声でロゼさんを呼ぶ。私の使い魔となって短い付き合いだけれど、既に私の半身となりつつあるロゼさんの事を思い出す。なのはさんのバスターを防ぐだなんて無茶をやってのけたのだから無事ではいられない筈。そう思った瞬間冷や汗が噴出してたまらない不安に襲われる。

 

 「マスター。ここに居ります」

 

 「……よ、かった」

 

 無事だった。最後まで言葉にできなかったけれど、とにかく無事で何時もと変わらないロゼさんの姿を見て安堵する。少しロゼさんと当たり障りのない言葉を交わしていると、色んなことを思い出す。スカさんやナンバーズの年長組は逮捕されたところを見たから、今は取調べでも受けている最中なんだろう。無茶な取り調べを受けていなければ良いけれど、管理局ってそういう所はどうなんだろう。

 フェイトさんやクロノさんみたいな人ばかりなら、きっと無茶な取り調べはないだろうけれど。世の中いろんな人がいるからね。ちょっとだけ心配なんだ。私もこれから体験するのだろうし、人の心配をしている余裕はないけれど。それに、他の皆はどうなったんだろうか。大体の経過はモニターで眺めていたから大丈夫だろうけれど、気になって仕方ない。

 

 「皆さん無事ですよ。ただ全員が逮捕されてしまいましたが……」

 

 申し訳なさそうな顔をするロゼさんなんだけれど、悲しむ事はないと思う。多分、だけれど皆覚悟はしていたんじゃないかな、私もそうだしね。やっちゃいけない事をやったんだから当然の報いだ。

 現にいまの私はベッドに拘束されて身動きが取れない状態だし。小さな子どもにこんな酷い事をって思われるかもしれないけれど、管理局側からすれば私は得体の知れない人間で、アインヘリアル強奪容疑とスカさんの演説に抱っこされて一緒に映って華々しく次元世界デビューをした訳だから、この処置は仕方ない。

 

 「誰か……気配を感じます」

 

 そう言いながら私の影にロゼさんは入って行き消える。どうにもロゼさんは人見知りが激しい所為か、私以外の人とコミュニケーションを取ろうとしないのは頭の痛い問題だ。いつかどうにかしなくちゃね。

 多分、私の身の安全を第一に考えてくれていて何かあった時は守ってくれるつもりなんだろうけれど、過保護過ぎなんじゃないかなぁ。外見が幼女だから仕方ないけれど、その他の事はちゃんとしっかりとやっているというのに、やはり見た目が問題なのかな。

 

 エアーが抜ける音と共に部屋の扉が開く。その開いた扉の向こうにはフェイトさんとはやてさんの姿があった。

 

 「……あ」

 

 「目ぇ覚めたんやなぁ」

 

 二人の姿を見て起き上がろうとするけれど、拘束具が邪魔をして上手く起き上がる事が出来ない。そんな私を見るなり二人が駆け寄って、動かなくていいからと言ってくれるんだけれど長い時間寝ていたみたいで結構体中が痛いから、贅沢を言うと動きたいんだよね。骨が軋むし筋肉が硬直しているから解したいというか。

 てか私はどのくらい気絶していたのだろうか。きょろきょろと周りを見回してカレンダーを探すけれど、生憎と殺風景な部屋で必要最低限の物しか置いていなくて今日が何日かすら分からない。フェイトさんとはやてさんの姿が若々しいままだから、流石に何十年も寝ていたなんてことは無いだろうから、良くて数日くらいかなぁ。それなら事件の事後処理でてんてこ舞いをしてそうな二人なんだけれど、こんな所にやってきても大丈夫なんだろうか。それともまさか暇だとでも言うのだろうか。

 

 二人がこの場所へとやって来た理由は私のお見舞い……は冗談として、どうやら医療器具でモニターしていたそうで、私がそろそろ目が覚める事が判ったから時間を見計らって来たそうだ。取り敢えず二人の話を聞く事になったんだけれど、その前に拘束具を解いてくれる事となった。ベッドの上で自分の身体が問題なく動く事を確認してから、聴く体勢を取る。フェイトさんとはやてさんはそんな私の姿に驚いた様子をみせて。

 この身は幼女でも、中身は一応それなりの年数を生きて社会経験をしてきたのだから当たり前なんだけれど、前世の事を伝えるとなるとややこしくなるだけだろうし適当に誤魔化す。お互いに自己紹介となったのだけれど、私にファミリーネームが無い事に驚いて二人とも苦虫を噛み潰したような顔をするのだけれど、別に困ってなかったから気にしていないし、犯罪だけれど偽名もあったから不便は無かったんだよねぇ。取り敢えず、自己紹介は無事に済んでお互いの立ち位置などを理解した所で、本題に入るみたいだった。

 

 「まずはお礼からや。ゼスト・グランガイツからのデータやゆりかごに居た局員にも渡したデータ、そして私がもらったアインヘリアルの遠隔操作権限、これで助かった人が居る。……だから、ありがとうな」

 

 そう言って頭を下げるはやてさん。ちょっと待って欲しい。部隊を率いる隊長でしかも捜査官の資格を持っているし、一番の理由は三佐なんだから、私みたいな人間に礼を言う必要もない。むしろ私は管理局の人たちやミッドチルダに住んでいる人たちからすれば、犯罪者で責められて側の立場なんだから。

 

 「……おれいはいりません」

 

 「そう、なのかもしれへんな。けどな、君の取った行動が誰かを救ったって言うんは事実。それに私たちの力だけじゃどうにもならへん事もあったんや」

 

 「うん、そうだね。色々と調べで後から判ったんだけれど、君は"聖王のゆりかご"の自動防衛モードも防いでた。それにスカリエッティのアジトで実験台になって培養槽に入っていた人たちも君の手が入ってたのは調べて分かってるんだ。それに他の事もね」

 

 「…………」

 

 ありゃりゃ、バレバレでんがな。で、でも別に目の前の二人に褒められる為にやったんじゃないんだからね。私がやりたいからやっただけなんだからね、と口には出さずにスカさんを始めとした皆の事を聞いてみた。スカさんと年長組は原作通りに事件の捜査には非協力的で、核心部分は分かっていないみたい。年少組の皆は自分の罪を認めて捜査にも協力しているみたいだけれど、多分重要な事は引き出せないだろうなぁ。その辺りはスカさんと年長組が徹底していたし、私もよく知らないんだよね。本当どうしてこんな事を仕出かしたんだろう。

 スカさんには首輪が付いてて自重していたんだけれど、ドゥーエさんが最高評議会を潰した後にスカさんが表ざたにしちゃったもんだから、タガが外れたでも納得できなくはないけれど。もっと上手くやる方法もあったはずなんだよね。スカさんなら可能だっただろうし。でもそれをしなかったんだから、スカさんはスカさんのやりたい事をやったんだと思う。そういえばゼストさんやレジアスさんはどうなってんだろうか。

 

 「ん? 彼等も取り調べを受けている最中やな。詳しい事は判っとらへんけど、捜査には協力しとるからそんなに心配は要らへんはずや」

 

 「そうですか」

 

 そっかそか、良かった。無茶をした甲斐があったなぁ。それにレジアスさんが生きているのなら最高評議会の内情が原作よりも少しわかるはずだし、最高評議会に誑かされて違法なものに手を出してしまった事も理解してもらえるだろう。それでもレジアスさんは本局側からすれば危険思想の持ち主で敵視すべき人材だろうから、出所できても監視対象になるかも。保護責任者が必要な歳でもないし、元陸の最高責任者だから何かしらの伝手はあるだろうしミッドチルダ復興の一助になって欲しいって勝手に思ってる。

 ゼストさんに関してはそんなに罪は重くならないみたいらしいので、彼が望むなら管理局への復帰も可能だってさ。てか、元部下の人たちから嘆願書が提出されているんだって。十年前に死亡判定がされて長い月日が経っているけれど、人望があったんだねぇ。無口な人だからどうなる事かなって心配だったけれど良かった。

 

 「けど、どうしてそんな事が気になるん? 君にとっては赤の他人やろ」

 

 確かにそうだけれど接点を持っちゃったから、気になってしまうのが人の心というか。これは言えない事だけれど、アニメで事情を知ってて生きて欲しいって願いが私の心のどこかにあったからね。私がお二人に聞きたい事はこれ以上ないんだけれど、お二人の方が私に聞きたい事が色々とあったみたいで、この後も結構な長い時間病室で話し込んでいた。取調べというよりも質疑応答みたいな感じだったし二人の性格からなんだろう、私が責められる事も一切なかった。

 そんな二人の紳士な姿に感動した訳ではないけれど、私が知っている事は包み隠さず話したつもりだし、嘘も言っていないから彼女達の捜査の妨げになるような事はしていないだろう。

 

 「ああ、そうだ。最後になるけれど、この人が何処に行ったとか、行きそうな場所をしらないかな?」

 

 フェイトさんに問われて空中にモニターが浮かぶ。そのモニターを覗いてみればその人は誰であろうロゼさんで。あれ、もしかして逃走犯にでも間違われているのだろうか。

 

 「……あ」

 

 そういえばスバルさんたちが助けに来てくれた時、私の影の中に隠れてその後はもしかして誰とも会っていないのだろうかロゼさんは。私以外と。ロゼさんの人見知りっぷりに頭を抱えつつ。

 

 「ろぜさん、ろぜさん」

 

 「お呼びでしょうか、マスター」

 

 私の影から出てきたロゼさんは、素知らぬ顔で私の傍に立つ。二人を警戒しているのか若干視線が厳しい物だったけれど、ロゼさんはあんまり表情が変わらないから私以外には判らないかも。

 

 「はっ?」

 

 「ぅえっ?」

 

 うん、ごめんなさいお二人が驚くのも仕方ない。逃走犯として捜査しながら追っていただろうし、こんな所に居ると思っていなかったのだろうし。ロゼさんはロゼさんで口を噤んだままだから、なんでここに居るかの説明は私がした。何故だ。私の使い魔である事、素体が実験の失敗で偶然"命"を受けたスライムというか液体金属というか。キチンと説明するには不可思議過ぎてお二人は唖然としていたけれどね。

 ロゼさんはこのまま監視対象となるみたいなんだけれど、主である私の傍を離れたがらないからどうしたものかと思ってたんだけれど、このままで良いらしい。処分が甘くないのかなと思うけれど、彼女たちの優しさに甘える事にしておいた。

 

 それからは今後の話をもう少しだけ。どうにもなのはさんのバスターを防いでしまった後遺症があるみたいで様子見であと二・三日は大事をとってこのまま入院。回復を待って私の移送が決定してるってさ。小さな子供をそんな場所に行かせることは気が引けたみたいで上層部に掛け合ってくれたみたいなんだけれど、上からの命令じゃどうしようもないよね。

 それに私が生活していたアジトはもう崩壊しちゃって戻る場所もないのだし。しばらく拘置所暮らしの後に年少組の居る厚生施設に行くそうなのでどうって事ないし。二人が病室から出ていくと、また睡魔に襲われた。やる事も無いし、無理に起きておくこともないから私は素直に意識を手放す。

 

 ――私がすべき事は、まだまだ沢山残っているけれど。

 

 でも今は少しだけ……。

 

 ◇

 

 「…………っ」

 

 窓の外を見上げる。視界に広がる青い空。何度か見た事があるけれど、ミッドチルダの空は不思議が一杯だ。アニメで見た時は創作物だったし『魔法世界』だなんていう設定があったから納得出来ていたけれど、実際、自分の眼で見ちゃうと疑問が湧いてくるんだよね。だって太陽以外の惑星だか衛星が何個か空に浮いているし。そもそもお互いの星の重力干渉が無いのかなーって。潮の満ち引きとかさ、絶対地球と違うよね、これ。

 

 「外が気になるの?」

 

 ハンドルを握ったまま助手席に座っている私を見るフェイトさん。いやさ、私の事を気にするよりも前を見て下さいな、と心の中で願いつつ。

 

 「いままであまりそとにでたことがありませんし、こうしてゆっくりけしきをみるじかんもありませんでしたから」

 

 そうなんだよねぇ。ほとんどあのアジトで過ごしてたし外に出たのなんて数えるくらいだし。行くとしてもアジトに被害が出ない様に実験をしに無人世界へ行ってみたり、あとは地上本部にスカジアさんの配備説明とアインヘリアル強奪の時だけだもんねぇ。マジで引き篭もり状態だった事と転送魔法で移動を殆ど済ませていたから、窓の外に気を取られても仕方ありませんて。

 

 「……っ!」

 

 ちょっと涙目になっているフェイトさんなんだけれども、なんで彼女と私が一緒に居るかというと、病院から拘置所までの移送をフェイトさんが請け負ってくれたらしい。それで今はフェイトさん所有の黒いスポーツカーの中だ。ものものしい護送車とかに乗るのかなって思ってたんだけれど、病室に顔を出したのはフェイトさんでフェイトさんが拘置所まで送るよーと言って軽いノリで現れた。なんでそんな事になったのか聞いてみると『君の弁護を請け負ったから』なんていう理由だった。弁護士さんってそこまでしないと思うけれど、管理局は司法と警察と軍隊が一緒くたになったような組織だから出来るんだと思う。凄く突っ込みを入れたいけれど。

 

 「直ぐに出られるように弁護、頑張るからねっ!!」

 

 気合を入れるのは嬉しいのですが、前見て下さい、前、前っ。危ないですからっ。前世で運転免許証を持っていた身からすれば、普通に他の車も走っているので怖いんですってば。この車に自動運転機能でも付いているのなら、事故の寸でで止まるんだろうけれど。確証はないし知らないんだもの、恐怖心しか湧きません。フェイトさんも私も喋る方ではないから車中は静かなものだ。あ、ロゼさんは私の影の中に居ます。一度ロゼさんと私を引き離した事があるんだけれどロゼさんが勝手に抜け出して戻ってきちゃったものだから、例外的に一緒にいる事が許可されました。

 まぁ、得体の知れないスライムさんを監視するのは難しいと判断されて丸投げされたとも言えるけど。ロゼさんが悪さをすると私の刑期が伸びるそうなので、私の傍で大人しくしてもらってる。自分の事で私に迷惑を掛ける可能性が出たものだから、ロゼさんはその事に滅茶苦茶不服そうだったけれど。

 

 「……着いたよ」

 

 病院から拘置所までのドライブは直ぐに終わった。心配性のフェイトさんとの別れ際に『何かあれば直ぐに連絡を』と言われたけれど、たぶん大丈夫かな。変な人が居ればロゼさんが守ってくれるし大丈夫。それに拘置所のイメージってよくないものだったけれど、結構清潔で広いし。三歳児という事で無理はさせられないからと配慮してくれているみたいだしね。

 

 そんなこんなで拘置所生活を暫く送りながら、いくつかの裁判を経た後は厚生施設で暮らす事となりました。もちろんナンバーズの年少組のみんなとロゼさんも一緒に、だ。




9208字

 本編ラスト一話!

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