そんな時代もありました。【RO短篇集】   作:桜雁咲夜

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この小説は、WIZぽん萌えスレに投下した小説です。
意外にもこの悪魔プリに萌えてくれる人がいて、その後萌えスレで彼女のキャラがレギュラー化したので嬉しかった思い出があります。


悪魔プリとすみやん

 紫色の毒々しい霧の化け物と巨大な毒蜘蛛を対毒特化にしたチェインで叩き潰し、まとわり付いてくるウィスパーと操り人形を水属性の力が宿ったソードメイスに持ち替えて聖堂では禁止されているその刃物で斬り払う。

 毒蜘蛛の体液と霧の化け物のせいで、悪魔の翼をかたどったヘアバンドも、濃紫の法衣も元々の色よりもずいぶん黒ずんできている。

 一人で、このゲフェン塔の地下のゲフェンダンジョンと呼ばれるここに潜りはじめてどれくらいになるのだろうか。

 ふとそんなことを考えた時、すぐそばを一次職混じりの大人数のPTが騒がしく話をしながら通り過ぎていった。

 最後尾を杖を持ったアコライトと天使の翼をかたどったヘアバンドをつけたプリーストが置いていかれないように、必死についていく。

 

「世間からみると、聖職者っていうのはああいうものなのかな……」

 

 そんなことを言う彼女も一応、聖職者。プリーストだ。

 世間一般的には聖職者というものは、成長途中は支援型のひよわでかよわい存在だと思われているらしい。(もちろん、成長しきればどんな前衛よりも硬いと言われているけれど)

 しかし、彼女はそんな聖職者像とは反対の存在。

 そんな彼女は殴りプリと呼ばれる悪魔プリ。

 

 モンクのように戦いに特化した聖職者ではない。

 どちらかというと……変わり者……だろうか。

 

 アコライトのころはモンクを目指していたのだが、結局支援もしたくてプリーストになった。

 ソロでのレベル上げは予想以上に大変で、ようやく資格を手にしたときはまだ取り切れていないスキルを放置してプリーストになってしまおうかと考えたくらいだ。

 もちろん、それは思いとどまってプリースト転職時にはバイブルを頂いたのだが。

 

「何のために、プリーストになったんだろう……誰かの助けになりたかったのに」

 

 ゲフェンダンジョンの片隅に座り込んで、悪魔プリは少し泣いた。

 

 

 

 

「……やっぱり、ひとりでくるもんじゃないっ……」

 

 すみやんは、大量のナイトメアとミストと毒蜘蛛に追われていた。

 カートを爆走させて、走る。

 幸いなことに、ここはダンジョン内でも端のほうで、そんな風にトレインしていても誰も文句はいわない。

 というよりも、時間が時間なので人がいない(人でないものはいるけれど)ので助けを求めることすらできない。

 

 蝶かハエで逃げれば良いのでは?

 それは、すみやんも考えた後だ。

 単純な話、手元に羽がない。

 気晴らしできたゲフェンダンジョン。

 まさか、こんな羽目になるとは考えていなかったからだ。

 

「しょうがあらへん……ここは、しにもどりかくごで……」

 

 覚悟を決めて、振り返った視界に座り込んでいるプリが見えた。

 座っているということは、PTが決壊でもして一人だけ逃げ延びたということだろうか。

 

「あかん……あのプリさんまきこんでしまうやん!」

 

 

 

 何か走ってくる音がする。

 悪魔プリが顔を上げると、一人のBSが十数体の化け物たちに追われている姿が見えた。

 

「助けに入ったほうがいいのかな……?」

 

 とは言うものの、下手に助けに入って相手がBOTなら助けに入った瞬間飛ばれてしまうだろう。

 様子を見てみると、どうもBSは半製造らしくあの数を捌くのは大変そうだ。悩んでいる暇はない。

 もともと支援もしたくてプリーストになったのだから、ちょうどいい機会じゃないか。

 

「助けに入ります! 横殴りになるけど、ごめんなさいね」

 

 

 

「え……なんやと?!」

 

 すみやんが驚いている隙に、マグナムブレイクを悪魔プリは打ち込んだ。敵が分散して、いくつかのターゲットが悪魔プリに移る。

 

「ほら、ぼさっとしてないでカートレボリューション! 数減らしてからじゃないと倒せないです」

 

 更に悪魔プリは叫んで、アルゴスを叩き潰した。ブレス!速度増加!インポジシオマヌス! 支援魔法も、すみやんに飛ぶ。

 あわてて、すみやんはカートレボリューションを連発させる。

 

「なんや、あんさん。なぐりかいな!」

「ええ、普通から見たら落ちこぼれですけど!!」

 

 悪魔プリは取りこぼされたナイトメアを水ソードメイスに持ち替えて叩き斬った。

 

「共闘支援くらいはできますよ」

 

 ソードメイスを構えて、にっこりと悪魔プリは笑った。

 悪魔プリの笑顔は、本当に楽しそうで……花がほころんだようなきれいな笑顔。

 すみやんには身近にいる女性で、こんな笑顔を浮かべる人は思い当たらなかった。

 

「後少し。がんばりましょうね」

 

 悪魔プリは口調こそおっとりしていて優しいが、その動きは極めて俊敏だ。

 まるでダンスを踊るように、敵を倒して行く。プリーストの法衣の裾が踊り子のそれのように舞いひるがえり、軽々と振るわれるソードメイスやチェインはまるでバトンかリボンのようだ。

 その姿に思わずすみやんは見とれてしまった。

 

 ――このプリさんとPTくめたら、もっとたのしいやろな――

 

 すみやんの頭にちらりとそんな言葉がよぎる。

 しかし、慌てて頭を振ってその考えを消す。

 

「どうしたんですか、さっきから動きが止まってますよ?」

「あ、いや……なんでもあらへんよ」

 

 すみやんは、なんだか見とれていたのが恥ずかしくなった。

 ごまかすように自作の水属性の力が施された両手斧を構えてアドレナリンラッシュを使った。

 このツーハンドアックスは威力が高いけれど、盾が装備できない分受けるダメージも大きくて滅多に使わない。

 だからカートの底に眠っていた武器だ。でも、今は少しくらい無理をしてもなんとなくこれが使いたかった。

 

 悪魔プリに対する対抗意識? いや……どちらかというと悪魔プリに少しでも自分を良く見せたいという彼なりのプライドかもしれない。

 湧いてきた追加のナイトメアを力任せにその武器の重さと自分の体重すらものせて文字通り叩き斬る。

 アドレナリンラッシュのおかげで、武器の重さも気にならない。

 それに悪魔プリから貰った支援魔法で、いつもよりも楽に斧を振り回せている。

 そんな様子のすみやんを悪魔プリは見つめた。

 

 ――このBSさんとPTが組めたら、きっと楽しいのに――

 

 共闘支援だけでも満足だと思っていたのに、つい欲が出てしまう。

 いけない……と思っても、それでも、押え切れない言葉はつい口をついて出た。

 

「アドレナリンラッシュか……PT組めたら……いいのに」

 

 人の手助けになりたいとプリーストになったものの、PTなどとは無縁。せめて、相方でも探そうと思ったものの戦闘職としても支援職としても、どこか中途半端な殴りにはそれも無理だった。

 

「ん? なんか言うた?」

「え!? あ、あの私は……」

 

 すみやんの言葉に咄嗟に答えられずまごついたとき、悪魔プリの背後にミストが湧いた。

 

「……っあぶない!」

 

 割って入るように強引にミストと悪魔プリの間に入ると、メマーでミストを倒して、その場にすみやんは座り込んだ。

 久々にSPが空に近い状態になるほど本気で戦ったからである。

 気が付けば、あの大量のモンスター達は影も形もなく、きれいになっていた。

 悪魔プリはマグニフィーカートを詠唱してから、すみやんのすぐそばに座った。

 

「ふぅ……ほんまにたすかったわ。ありがとう」

「いえいえ。困ってるときはお互い様ですから」

 

 その後……話をしようとはするのだが、何故か言葉が被ってしまい沈黙が流れて行く。

 気まずいような、なんとも言いようがない時間だけが過ぎた。

 時折、ナイトメアやマリオネットが二人を襲ってきたが、無言のまま共闘して倒した。

 

 速度ポットの効果が切れるくらいの時間が過ぎた頃、ふところからタバコを取り出して火をつけ、大きく吸うと紫煙を吐き出して、ようやくすみやんは口を開いた。

 

「なあ、悪魔プリさん……」

「はい? なんでしょう」

「SPからっぽなんやわ。わいにもマニピくれへん?」

 

 もちろん、すみやんのSPは座りながらの定点のせいでとっくの昔に全快している。

 

「じゃあ、PT組みましょうか」

「……そやな」

「よろしくお願いしますね」

「こちらこそ。これからよろしゅうな」

 

 そして、本当に楽しそうで、花がほころんだようなきれいな笑顔を浮かべて、悪魔プリは嬉しそうにすみやんの手を握った。

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