そんな時代もありました。【RO短篇集】   作:桜雁咲夜

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これは、掲示板には投稿してないものだったかも。
自サイトでのみ公開していたものかもしれません。
ポエミーな内容なので、今読み返すとあるぇー? な感じになってます。


老いた商人の思い

「なーにシケタ顔してるんじゃ。おにぎりよ」

 

「のわっ?!」

 

 思いっきり背中を叩かれて、俺が咳き込んでいると叩いた張本人は豪快に笑って隣に座りこんだ。

 

「ゲホゲホ……おにぎり言うなって言ってるだろっ、この婆あっ!!」

 

 隣に座ったのは、白髪の老商人。

 しかし、若い俺なんかよりも遥かに腕力も体力もあって、ある意味恐ろしい人物だ。

 

「あん? そんなこと言っても言いのかえ? わしがいなければ、赤字幅が広がるだろうに」

 

「ぐっ……」

 

 実際、この婆さんがいなければ俺は度重なる赤字で生活はしていけなかっただろう。

 彼女が卸値で矢や罠、回復薬を俺に売ってくれる上に、モンスターが落とした収集品を代理で高額で売却してきてくれるおかげだからだ。

 

 俺の職業……ハンターは、『稼ぎ』だけ見れば恐らく他の職業を凌駕する。

 ただ、それは装備が整っているハンターか相方がいるハンターの話だ。

 

 俺自身はハンターになって間も無いのと、相方なんていないから殲滅力もイマイチ。

 高速で高威力の矢を打つことだけを目指している俺は、二極の浪漫を追いかけている。

 だから……財政が貧困化するのは仕方ない。何せ鷹は全く飛ばないし、気が付けば矢を打ち尽くしていたりすることもざらだ。

 

 婆さんとは、アーチャーのころにモロクで知り合った。

 少し高値で回復薬を売っていたので文句を言ったら、説教を喰らったっけ。

 

 

 ”あぁん?

  高いじゃと?

  店売りの値段を知っててそれを言っとるんか?

  商人は、時間を割いて露店で稼ぐんじゃ。

  文句を言う暇があったら、その足でもっと安売りしとる露店を探すんじゃな!

  その時間を惜しむんじゃったら、時間を買っていると思って我慢することじゃ。

 

 

 言い方はきつかったけれど、よくよく考えれば言ってることはもっともだと思った。

 それからは、婆さんの店で良く買うようになった。とはいっても、万年貧乏だからたいした数は買えなかったけれど。

 常連になるにつれて、婆さんは卸値で矢や回復薬を売ってくれるようになって、今に至ってる。

 

「収集品を渡しとくれ。売却して矢と罠を買ってくるよ」

 

 カプラサービスの前に移動して、倉庫に貯めていた収集品を婆さんに渡した。

 いつも、倉庫がいっぱいになる絶妙なタイミングで婆さんは声をかけてくれる。

 

「いつも悪ぃな、婆さん」

 

「うむ。儲けの無い慈善事業じゃからな。感謝の心は忘れんように」

 

「うは、きっついな……」

 

「あはは、冗談じゃよ。本当に気にしなさんな。貧乏人からは金は取らんのが、わしの主義じゃからな」

 

「じゃ、金持ちになったら金取るのか?」

 

「当たり前じゃろ? 『びじねすらいく』で何が悪いかの?」

 

「悪くはないけどさ……」

 

「文句を言うんなら、いつまでもソロなんぞやっとらんことじゃな」

 

 ニヤリと婆さんは笑う。

 

「臨時PTは組んでるが?」

 

「んー……つまり、守る相手がおれば、無茶もせんだろうし、金も貯まるぞ」

 

「結婚しろって? ……ああ、それは無理。相手いないし、もてないから」

 

「結婚しろとまでは言わんが、固定PTでも組むといいんじゃないかと思うての。ハンターは、殲滅力があるから人気あるはずじゃが?」

 

「女のハンターなら……な。俺、男だし」

 

「ふむ……」

 

「ソロが気楽だからな。今のままでいいんだよ」

 

 ”まあ……ソロに限界感じてないわけじゃないけれどな

 

「正直ではないのう……ひねくれ者は嫌われるぞい?」

 

「うるせえっっ、おせっかい婆っ!」

 

「ほっほっほっ」

 

 婆さんは笑いながら、俺が渡した収集品と自前の露店の商品でかなり重いであろうカートを軽々と引きながら、道具屋の方向に歩いて行った。

 まったく、おせっかいな婆さんだが……あれで元気付けようとしてくれていたんだろう。

 

 ありがとよ。婆さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……罠はこれだけあればいいとして……銀矢がちと少ないかもしれんが、まあいいじゃろ」

 

 白髪のお婆ちゃんが、カートの中身を確認してる。

 

「あ、いたいた。こっちにいたよー」

 

 聖書を抱えた神父の彼をよんで、ボクはお婆ちゃんに近づく。

 

「お婆ちゃん、用事ってなーに?」

 

 身体の大きさに似合わないよってよく言われる、大きな斧を肩に乗せてボクはお婆ちゃんに声をかけた。

 

「ああ、よく来てくれたね。お前、ハンターの仲間を探しとったろ?」

 

「うん。探してるけど……まさか、お婆ちゃん見つけてくれたの?」

 

「ああ、万年貧乏のハンターだがね。あんたが希望してた、神速候補だよ。そこのカプラサービスの前で待っとるよ」

 

「やった♪」

 

 指をパチンと鳴らしてボクは満面の笑みを浮かべた。

 

 お婆ちゃんは、もちろん本当のお婆ちゃんじゃない。

 ボクがノービスのときから、親身になって面倒見てくれた人だ。

 

 狩場のこととか金儲けの仕方とか商人の心得とか色々叩きこんでくれた。

 商人になってからもつらくて泣いていたときも元気づけてくれた。

 

 

 ”商人がつらいのは当たり前じゃ。

  商人は戦闘力がない。それを自覚してできうる限りの手を使うんじゃよ。

  文句を言う暇があったら、その時間で金を稼ぐ方法を探すんじゃよ。

  財力があれば、戦闘力を買うこともできる。

  世の中金がものを言うんじゃから

 

 その言葉を頼りにボクはがんばって、狩場で今の仲間の彼に出会えた。

 もちろん、こんなことを言いつつもお婆ちゃんはお金がない人にいつも優しい。

 

 

 ただ、一つ疑問なのはいつになってもお婆ちゃんは商人のままで、転職しなかった。

 その実力は、ボクなんかよりも遥かに上のはずなのに……

 

「で……そのハンターには、話は通してあるんですか?」

 

 黙っていたプリーストの彼が怪訝な顔でお婆ちゃんに質問する。

 

「いいや。通してはおらんよ。話をつけるのはあんた達じゃよ」

 

「俺達がですか……」

 

「えーーーーー。めんどくさいよぅ……」

 

 ぼそぼそと言っている間に、お婆ちゃんはボクのカートに自分のカートに載せていた銀矢と罠を載せかえてしまう。

 

「ほれ。そのハンターに、婆さんから頼まれたと言ってこれを渡しておくれ」

 

「え、お婆ちゃんは来てくれないの?」

 

「わしが行っても仕方ないじゃろ。これをきっかけにして、話を切り出せばよかろ?」

 

 片目を軽く閉じてお婆ちゃんは、悪戯っぽく笑った。

 

「殴りプリーストに戦闘狂ブラックスミス、それに神速ハンター。後は支援職がいれば万歳じゃな」

 

 一瞬、ボクは目が点になった。

 

「ひどーーーいっ! ボク、戦闘狂じゃないもんっ。一応これでも製造もできるもん!」

 

「……少なくとも製造系のブラックスミスは、喜々として他人様製作の属性ツーハンドアックスなんぞ使わん」

 

 お婆ちゃんは、びしっとボクが握り締めている斧を指差した。

 たしかに、ボクの名前ではない別のブラックスミスの銘が彫られてるし、星の欠片が埋め込まれてる。

 

「たしかに、お嬢は製造系じゃないよな……どう見ても、狂墨」

 

 しげしげと、相方の彼がボクを見てつぶやいた。

 

「うっ……だって、ボクの能力じゃLV3武器は絶対成功しないし……いいじゃないかー、他人様に作ってもらったって……ナイフとか鉄とか鋼鉄なら作れるんだし……ごにょごにょ」

 

「ああ、こら泣くなよ。みっともないな」

 

 ボクが涙目になったので、彼は慌てる。

 そして、くしゃくしゃと頭を撫でられた。

 

 ……うー、いつになっても子供扱いされる……。

 まあ、嫌いじゃないけどさ。

 頭撫でられるのも。

 

「はは、とりあえずは会って見ることじゃ。がんばるんじゃな」

 

「うん。ありがと! またね、お婆ちゃん」

 

 ボクはひらひらと手を振って、かけだした。

 後に続いて、プリーストの彼も付いてきてくれる。

 

 ハンターが仲間になってくれれば、きっともっと楽しくなるはず。

 

 いつも、世話やいてくれてありがとう……お婆ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて……と。あとは、あの娘たちとおにぎりがうまく行くことを祈るだけじゃな」

 

 鍛冶屋とプリーストが人込みに消えたことを確認して、わしはため息をついた。

 

 わしのレベルで転職していない者は珍しいじゃろう。

 商人としてのレベルも最高のものになっているはずじゃ。

 

 それでもわしは、商人であることにこだわり、転職せずに今日まで来た。

 

 

『他に会いたい人はいる? 時間は、後少ししかないけど。会いたい人がいるなら急いで』

 

 

 どこからか声が聞こえる。

 

「会いたい人間はもういないよ」

 

『もうすぐ生命の残り火が消えるのよ? 後悔しない?』

 

「かまわん。少し長生きしすぎたよ……もうわしの仲間たちは先に逝ってしまったから」

『そう……』

 

「やりのこしたことはこれで全て終わったしのう」

 

 

 わしがノービスのころから一緒にいた仲間は、当の昔に逝ってしまった。

 一人残されたわしは、臨時を組むこともなくそのままずっとソロだった。

 

 

 移り行く人々。

 わしがノービスだったころには存在しなかった新しい職業。

 後悔はしていない。

 それでも、この世界は楽しかったから。

 

 

 声は聞こえなくなった。

 わしは、改めて道端で露店を開いた。

 

 飛ぶように、品物は売れて行く。

 売り切れるころには、わしの生命はもうないだろう。

 じゃが、それで良い。

 いつものように暮らして、その中で死ぬ。

 

 商人として、それが一番幸せだ。

 

 さようなら、この世界。

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