シガンシナの長い一日
それから数カ月の時が経った。
冬の間は動物達の狩りにも行けないし、川魚も採れない。
子供は遊ぶのも仕事だよ、とじーさんに促されエレン、ミカサ、アルミン達とシガンシナ区の街を駆け回った。
巨人ごっこなる進撃版鬼ごっこや雪合戦、駆けっこなどなど――精神年齢的には大人のつもりだったんだけど、童心に戻って、というかなんだかんだで楽しめた。
ミカサが巨人役――鬼役になると半端なく強くなることや、雪合戦でさりげなく俺に対してだけ小石が混入していたのスルーしよう。
もうそんな扱いなんすかね俺。
エレンと仲良くなれるようちょーっとした親切をやっているだけなんですが。
この前は着替え中エレンとバッタリドッキリ作戦を成功させたら、降りしきる雪が蒸発するんじゃないかって程、頬を上気させながら
窓から観察していたが「きゃっ!」っと言いながら顔を両手で覆っていたが、キッチリ指の隙間から覗いていたのを俺は見逃さなかったぞ。
指摘したら雪の中に埋められました。何故だ!
まあとにかくエレンやアルミンとは外界の話はそこそこに将来なにをするかという話で盛り上がる事が多くなった。
発端は俺が調査兵団に見学――実際は例の長距離策敵陣形の煮詰め作業やらなんやらだったのだが、対外的にはそうなっている――でエレンがどうするか聞いてきたから。
俺は調査兵団に行くつもりだというとエレンは笑顔で「やっぱそうだよなっ! 俺も調査兵団にいくつもりだっ!」と手を握りながらぶんぶん振りまわした。
アルミンは少し険しい顔をしていたが「僕もそうしようかな……お父さんとお母さんが見たかった外の世界を僕も見てみたい……」と言い、3人とも調査兵団に行く話でもりあがった。
エレンはアルミンに技術班とかの方がいいんじゃないかと言ってはいたが。
ミカサには話していない。
たぶん両親にバラすし。
アルミンが調査兵団に行く決意をしたのはもう少し後だった気もするけどそこはいい。
それより――
「あーーーっ、絶対そろそろ起きるはずだよな……どうすればいいんだ?」
現在845年、冬を過ぎ春を迎えている。そしてつい先日調査兵団がシガンシナ区から壁外調査へと赴いた。
「君が考案した長距離策敵陣形――その真価を発揮する時だ。朗報を待っててくれ」
先に先攻してやってきていたエルヴィン分隊長がいつものクール顔、しかし自信に満ちた表情でそう俺に伝えてきた。
俺じゃないっすアンタが考案するはずだったんですけど――なんて言えるわけもなく頑張ってくださいと言うしかなかった。
重要なのはここからだ。
原作1話は調査兵団が帰ってくる→エレン&ミカサが一団を見学→家に帰ってミカサが両親にエレンが調査兵団にいくつもりとチクる→口論の後エレン家を飛び出しアルミンと出会う→エレン&ミカサと話していた預言者アルミンが「100年壁が壊されなかったからといって、今日壊されない保障などどこにもないのに」と特大フラグおっ立てた後、超大型巨人が顔を覗かせコンニチワのサッカーシュートで物語のキックオフだ。
何もしてこなかったわけじゃない。
ちょっとトロスト区あたりに出かけないかとじーさんやエレン両親にいったりしたが、経済的に余裕があるわけではないので駄目。
そもそもエレンが調査兵団の帰りを待ち望んでいる風だったからミカサも味方してくれない。基本味方する場合が少ないがなっ!
コホン……ともかく。
じーさんも畑仕事やらあるしで駄目だった。
結局できたのは――
「アイテムボックス」
パン×211
水×130
魚×92
肉×98
スープ×15
火打石×8
木×40
マント2
所持金、鋼貨87枚
アイテムの括りはかなり大雑把で、大小種類様々なものでもパンやら魚扱いでアイテムボックスに放りこめたこと。
ただ取り出すときはキチンと取り出すものをイメージしないと望んだものが出てこないので、適当にパンを取り出そうとするとランダムで適当に出てくる。
最大10種類までしか入らないし。
まああるだけマシなんだけど。
アイテムボックス内のものは腐らないしスープも冷めないから保存という意味では最高だ。
去年から狩りやら魚釣りやら薪集めやらで材料を集め、ついでに近所のおじさんやおばさんらに配ったおかげか、いろいろサービスで貰ったりもした。
たぶん生きるだけなら大丈夫だ。
でも逆にこれくらいしかできなかった。
「845年――超大型巨人がシガンシナ区を襲う日。それは調査兵団が帰ってくる鐘の音が響くと……
カンカンカンカン!
ビーッビーッビーッビーッ!
鐘の音が耳に届くと同時に……何故か甲高い警告音が脳内に鳴り響く。
「う、うるさッ! なんだよもうっ! ってコレ――!!!」
【特殊クエスト発生!! シガンシナ区から脱出し、ウォールローゼまで撤退せよ!!!】
勝利条件――プレイヤー及びエレン&ミカサ&アルミンのウォールローゼまでの撤退
敗北条件――プレイヤー及びエレン&ミカサ&アルミンのいずれかの死亡
「特殊クエストッ! つまりイベント発生かッ!」
特殊クエストは言わば原作のイベントや重要なクエストの総称だ。
通常のクリアすれば終了するクエストと違い、達成には時間がかかる。
また【ミッション】が発生し、それをクリアすると報酬や各キャラの重要なイベントが発生する、らしい。
メニュー画面のQ&Aに書いてあった。
そしてズラズラとミッション内容が書かれてある。
俺はその項目を見て青ざめる。だってこれ、
「まてまてまて…………これは無い。うん無理ゲー過ぎる内容だぞ……」
【ミッション】
・調査兵団がシガンシナ区を抜けるまでにエルヴィン・スミスと顔をあわせろ――――達成報酬【エルヴィン生存フラグⅠ達成】
・カルラを救え! ――――達成報酬【1、鋼貨30枚 2、ミカサ好感度フラグⅠ達成】
・カルラを襲う巨人を倒せ! ――――達成報酬【ハンネス生存確定】
・超大型巨人に一撃を与えろ! ――――達成報酬【○○○○○加入フラグⅠ達成】
・鎧の巨人を止めろ! ――――達成報酬【1、○○○○加入フラグⅠ達成 2、フーゴ生存確定】
・巨人の侵攻を食い止めろ! ――――達成報酬【ウォールマリア陥落阻止&全女性キャラ好感度フラグ全て完了】
・街の住人を守れ! ――――達成報酬【?????】
最初のエルヴィンと顔を合わせろを無視してエレン宅に行きたい。めっちゃ行きたい。
でも団長の生存フラグⅠ達成ってつまり今後死ぬ可能性があるのか?
いやそれより困難なのは巨人にまつわるそれ以降の条件だ。
【超大型巨人の一撃~】はともかく、鎧の巨人とかどうやって止めろと!
ふっとばされて死ぬぞマジで。
誰とは言わんけど○の数からして間違いなく巨人の正体の人達だ。
誰かは置いておくとして……。
問題はハンネス関連だ。
【カルラを襲う巨人を倒せ】のハンネス生存確定がヤバい。
逆に言えば失敗は死亡が確定するかもしれないから。
ミスると多分ハンネスが死亡する可能性が格段に跳ねあがる。
ハンネスさんが原作で同じ巨人に喰い殺されてるからこの条件なんだろうけど……。
下から2番目は絶対不可能。
たぶんイベント戦闘的な奴で最初から達成不可能な条件の類だ。
一番下の奴は捨ておこう……。できたらやる、で。
でもとにかくだ。
「じーさんは確か今日内門の外に行って畑仕事をしているはず……。異常が発生したらアルミン達を探しにいくかもしれないが、内門近くに脱出用の船がある。たぶんアルミンと旨く合流して乗ってくれるだろう。ますエルヴィンだんちょの条件を達成してからエレン宅に行くしかない!」
俺は急いで着替えると外へ飛び出す。
大通りを走りながら己の考え口に出してまとめる。
うまく考えが纏まらないから……。
(くそッ! バクバク心臓が暴れてやがる。緊張しすぎだ。大丈夫、大丈夫だ……。落ち着いてやれば死なない。死なないさ)
大通りにつく。
丁度列が見え始めた。
俺は適当に民家の屋根によじ登りながら優先順位を考える。
「ミッションは達成しなくてもいいとはいえ、大半が原作キャラ達に関わる……でもどうする? カルラさんを逃がして――それからどうやって巨人達と戦うんだ。立体機動装置は……いや、そういえばん……。破られる南門の付近にたまに兵士が出入りする建物があった。もしかしたらそこにあるかも……」
超大型巨人に破られる南門の付近。
正直、激危険地帯だ。
考えただけで冷や汗が流れる。
でも立体機動装置がないとどうしようもない。
アレだけは手に入れなければ……。
「どうし――あ……」
そうして悩んでいると調査兵団の一団が通りがかってきた。
× × ×
「やっとこの日を迎えることができた……」
「キース団長の心中お察しいたします」
「ああ、エルヴィンか」
儂らは今日シガンシナ区に1つの成果と共に帰ってきた。
だが住民の視線は冷たい。
今までの事がある。
仕方ないとはいえこれで失敗したら儂の心はどうなっていたかわかったものではないな。
「傷だらけで帰ってきやがった」
「どうせまた命と俺達の血税をドブに捨ててきたに違いねぇ」
誰かが吐き捨てるように呟く。
毎回、恒例行事と言ってもいい調査兵団の壁外調査の失敗。
その生存率は3割を切っていることさえ珍しくない。
今回の調査兵団の目的は壁外での兵站拠点作り。
調査範囲を広げるにしても拠点の確保が急務だった。
また誰かが呟く。
「しかし……今回はやけに数が多いな」
「どうせアレだろ? 恐くなってすぐ逃げ帰ったに違いない」
「無駄だって理解したのなら、それが一番の成果だな」
「だがあいつら、変に蹲ってねぇな。頭でもいっちまったか?」
確かに数が多い。
普段の倍の6割……多めに見積もって7割弱の人員がここには居た。
彼らは皆一様に目をまっすぐ向け歩いている。
いつもなら絶望に目を染まらせ、住民達から逃げるように去っていくのに。
(でも今日の儂達は違うぞ)
そのいつもの違う様子に住民達は訝しむなか、1人の老婆がよろよろと先頭を歩くオレに近づいてきた。
「モーゼス! モーゼス! ……すみません息子のモーゼスが見当たらないんです。どこにいるのですか……?」
「モーゼスの母親ですか?」
「はい……」
「彼ならこちらに」
「え……」
荷馬車に横たわっている息子を母親に見せる。
しかし彼の右腕はなく、死んだように眠っていた。
「モーゼスッ! モーゼスッ!」
「大丈夫です! 息子さんは生きています。大丈夫、ですよ」
「あぁぁぁぁッ!、よかった……よかった……うっうっ、ぅぅぅ……」
老婆は息子の残った左手を握りしめホロホロと涙を流す。
「う…………かー、ちゃん?」
「あ、モーゼスっ!! 大丈夫かいっ!?」
乾いた肌からこれでかと滴を流しているとふとモーゼスと呼ばれた男が呻き声をあげ目を薄く開けた。
そして苦笑いをしながら、
「かー、ちゃん。オレがんばった、ぜ。……手の代わりに、仲間を、助けて……アイツらを殺して、やった」
「うん……うん……」
「作戦、成功して……拠点だって作ったんだ……」
「うん……頑張ったね……」
「ああ――――」
そうしてモーゼスはまた瞼を閉じた。
しかし生きている証として彼の胸は規則正しく上下している。
「すみません、息子の傍にいてやりたいんです。このまま一緒に私も連れていただけませんか?」
「……わかりました。息子さんも母親が近くにいる方が心強いでしょう。シガンシナ区を出るまでには時間が少しかかります。着替えなど準備をなされるといいでしょう」
「ありがとうございます」
深くお辞儀をして老婆は去っていく。
彼女の顔は息子が生きていたことに対する喜びでいっぱいだった。
「おい……今拠点作りに成功したって」
「嘘だろ。どうせ逃げ帰ってきた言い訳に違いない」
先のやり取りを聞いていた住民の一部から周囲へとその言葉が伝播し始めていた。
それを聞いた儂は大声で話すことにした。
人類の勝利を、な。
「嘘ではありませんっっ!! 我々人類は今日っ、初めてっ、壁外への足がかりを得たのですッ!!! それは多くの仲間達の死を乗り越えやっと手に入れた小さな成功かもしれません!!
しかしッ、しかしッ! 何れ今日という日が人類が壁外に領域を広げた記念すべき日となるでしょう。人類は巨人に勝利を収めたのですから!」
儂はそう宣言する。
住民からは嘘だと、信じられないと、罵倒する声も聞こえる。
しかし儂は俯かん。
俯き耳をふさいでしまったら死んでいった仲間達に申し訳が立たないから。
この記念すべき日はきっと彼らも喜んでいるはず。
そう信じて歩む。
「やりましたね」
「ああ、これで思い残すことはない……やっと肩の荷が下りる」
「今までお疲れ様です――――っと彼もこっちを見ていますよ」
「ん、屋根の上でのんびりこっちを眺めておるな……よしエルヴィン――」
「はっ了解しました」
「全員注目っっっ!! 赤い屋根にいる今回の立役者に敬礼っっっ」
ザッ! と一糸乱れぬ動きで敬礼を行う。
今回の功績の立役者は誰かなど、調査兵団の多くの兵士は判っているからな。
「ッッッ~~~!!??」
「がっはっはぁ、びっくりして逃げて行きおった! 敬礼をし返すぐらいせんもんかな」
「彼はまだ兵士ではないですし、心臓を捧げることはできないでしょう」
「そういうもんかな。まあ俺は今度訓練兵団に行くからな。アイツがやってきたらたっぷり可愛がってやろう!」
「彼は立体起動装置に振り回されつつも、その加速に耐えられる極めて頑丈な体つきをしています。鍛えがいがありそうですね」
儂とエルヴィンはお互い笑い合いながら、今回一番活躍したであろう、小さな英雄の今後について話しあったのだった――
× × ×
【調査兵団がシガンシナ区を抜けるまでにエルヴィン・スミスと顔をあわせろ――――達成!】
「達成したは良いけどいきなり敬礼はないでしょ、敬礼は!? めっちゃ驚いたし、思わず逃げちまった……」
あのお茶目なパゲ野郎の奴、いきなり全兵士に対して敬礼するよう命令しやがった。
「でもよかった……。キースさんが泣きながらなんの成果も無かったってセリフを聞くことが無くて……」
モーゼスって人はよく知らないけど老婆の息子さんらしい。
よかった本当に。
なら次は、
「エレン宅に行こうっ! カルラさんが家にいると超大型巨人が蹴りあげた扉だったか瓦礫だったかが家に墜ちて押しつぶされるからな!」
その所為で巨人から逃げられなかった。
俺は急いで走っていくと、丁度エレンを追ってミカサが去っていく場面に遭遇した。
たぶんエレンが調査兵団に行きたがっていたことをミカサがバラして母親と口論になったんだろう。
俺はカルラさんの処へ向かう。
「アオイ君じゃない。エレンとミカサなら丁度そっちの方へいったわよ?」
「いえ……それよりカルラさんちょっと出かけませんか?」
「何でかしら?」
「あーえーっと……」
しまった。
どういえばいいんだ?
まったく考えてなかったぞ。
カルラさんを家から連れ出す方法……。
「そう! デートしませんか! いい花がお店にあったんですよ!」
って人妻デートに誘ってどうする俺!
「あら~~駄目よ私にはグリシャがいるからね」
ですよねー。
「でもそうね、デートはともかくお買いものには行くつもりだったから出かけようかしら?」
「是非是非!」
「デートはしないわよ?」
「いえいえさっきのは口が滑っただけですから」
怪我の功名、どうやらカルラさんはこれからお出かけするようだ。
これなら大丈夫かな……。
と思ったのも束の間――
「あ、そういえばアオイ君、エレンに変な事吹き込んだそうじゃない!! 駄目よ調査兵団なんて!」
「え、なんでそれを――」
あ、自分からべらっちまったぁぁぁ!
「やっぱりミカサが言っていた通りなのね! ちょっと来なさい!」
「あ、あ、あ~~~お助けを~~~」
叱られて十数分。
余計な時間を喰う羽目に。
ミカサっ! 今度覚えてやがれよ!!
ほうほうの体で去っていくアオイ。
彼の耳に届かない言葉があった。
「あら……今日の分はあるし、やっぱり買い物行かなくてもよさそうね。ふふふ♪ どうせだったら今日は奮発してちょっと豪華にしようかしら。アオイ君のお誘いを断っちゃったしお詫びも兼ねてアルレルトのみんなも呼んで楽しくやりますか!」
「しまった。時間をいくらか無駄にしちまった。次は急いで南門から立体機動装置を借りなくちゃ」
無論、借りるといってもお願いするわけない。
某はちゃめちゃ魔法使いのようにただ死ぬまで借りるだけだ。
「くそっ! ミカサがいるとはな……」
「折角エレンをボコれると思ったのによぉぉ~~」
「ちっ……ってテメエは――」
なんだよ今度はコイツらかよ。
目の前にいる3人組はよくアルミンをいじめようとするチンピラどもだ。
アルミンを苛める理由は外に興味を持っているから異端者だと言っているから。
俺とも仲が良いわけなく。
ただ俺はミカサてんてーに鍛えられまくったおかげで体が石のように頑丈だ。
鍛えてない奴らの拳では効かない。無視してもいいんだけど、
「ああ? んだよてめえ」
「今俺等は機嫌わりーんだよ目ざわりなんだよ」
「…………」
確かにムカつく奴らだけど。
こいつらだって死んでいいわけない。
だったら――
「なあ今日は内門にいった方がいい……」
「あ?」
「なにいって――」
「今日はマジでヤバイことが起きる気がするんだよ」
「あぁ? だったらどうしたって――」
「俺の勘はマジで当たるんだよっ! いいからコレやるから飯買って内門いってみろ。家族連れていけんならピクニックにでもいけって!!」
ちゃりっと鋼貨5枚を彼らに無理やり握らせる。
日本円なら1枚1200円程の価値。
6000円なら幾らか食糧だって帰るだろう。
「お、おいこれ」
「いいから持ってけ! 騙されたと思って今日は家族サービスしていけ!」
「あ、待てって!」
俺は走る。
ミッションの多くが巨人と戦闘するなら立体機動装置が無ければどうにもできない。
日が傾き始めている。
アニメの時も確か僅かに周囲がオレンジ色だった。
もう、時間がない!
「確かここら辺に――あった!」
南門近くの小屋。
壁が間近ということで日が当らず周囲はうす暗い。
人気もないようだ。
でも敵が来るという前提なら武器の保管もしてあるはず。
「鍵が――やっぱ掛かってる、か。でも小窓があるな……ちょっと中を覗いてみよう」
俺は祈るような思いでその小屋の小窓から中を覗く。
「っ! あったっ!」
でも通常の窓より厚く作ってある。
叩く程度じゃ……。
なにか道具がないかと探る。
早く……早くしないと壁が破られる。
「これなら……」
石を見つけた
俺のハンドボール位の大き目の石だ。
よし――いっけぇぇぇぇ!!
ガシャン!
「よっしゃぁ!」
急いで中に入る。
立体機動装置、ベルトと装具一式。
超硬度ブレードもあるっ!!
女性用なのか身長が150ちょいの俺でも付けられそうな装具がある。
ついでに悪いとは思いつつもアイテムボックスに立体機動装置と装具一式を入れてみる。
立体起動装置×3
装具一式×3
よしギリギリ入ったようだ。
かちゃかちゃと震える腕で急いで付ける。
「急げ――急げ――もう時間がないかも――?」
その時ふと疑問に思う。
何故静かなんだ?
ベルトを締め直し立体機動装置を装着。
ガスも満タンで定期的に補充していたようだ。
音を鳴らしながら疑問に思う。
今窓ガラスを割ったんだ。
誰かが怒鳴りこんでもおかしくない。
なのに聞こえるのは犬の吠える声と鳥の声。
「ッッ!!??」
ガンガン頭が鳴り始めた!
感覚から生存本能のスキルが発動したと理解する。
反射的に俺は窓から外へ飛び出し無意識にワイヤーを射出、そしてその直後――
ドガガァァァァァァンンンンッッッッ!!!
間一髪で脱出。
俺の居た小屋は瓦礫に押しつぶされバチバチと破片が俺の頬を打つ。
「あ、ぐぺッ――!?」
しかし近くに来ていたであろう兵士に樽が降りそそぐ――否、岩が降り注ぎ人間だったものの臓物と血をまき散らした。
「う、うぷ――うぇぇぇぇッッッ!!」
人が人で無くなる瞬間を直視してしまい空中で汚物をまき散らす。
遠目じゃなく、目の前だったら失神する自信がある。
「ぺッ! くっそ! まき散らすならペトラさんがまき散らすシーンにして欲しいぜッホント。げほッ!」
気管に残った汚物と酸っぱい匂いにむせながらきゅるきゅるワイヤーに引き上げられ、壁上を目指す。
長い長い一日が始まった。開始を告げる音楽は飛翔した瓦礫が落ちる振動音と人々の悲鳴だった――
原作では腕一本だけしか残らなかったモーゼスは、腕一本なくしつつも生存。
調査兵団は兵站作りの成功。
でもシガンシナ区陥落で結局無意味に(^_^;)