VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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今回もちょっと暗いお話がくるかも……すいません<(_ _)>


シガンシナの陥落、敗者達のそれぞれ

 その日、家を失った。

 その日、母を失った。

 その日、友を失った。

 

 俺達は一体どれくらい失えば済むのだろう?

 ぽっかり空いた心の穴はひたすらに空虚だ。

 

「済まねえ……済まねえ……! 俺らがいたらねぇばっかりに!」

「ハンネスは悪くねぇ、アオイに戦いを任せちまった俺の落ち度だ。俺達が根性出して奴に向かっていれば……くそッくそォ!!」

「…………」

「ねぇ……嘘、ですよね? 兄さんが死んだなんて、そんな」

 

 ハンネスさんとフ-ゴさんが周囲を憚らず膝をついて涙を流している。

 いきなりやってきた巨人に家を押しつぶされ。

 母さんは家に潰されたときの怪我で死んだ。

 親友は門を壊した鎧の巨人に殴られ街のどこかに殴りとばされたそうだ。

 家を数件ぶち抜きながら瓦礫の下敷きになったと。

 一瞬茫然としたとき、奴――鎧の巨人が内門に体当たりし、破壊した。

 その瞬間を俺も見ていた。そしてそのあとは大恐慌。

 みんな一目散に逃げ始めアオイのことは有耶無耶になっていたと。

 

「それでも助けにいけよ!! それでも大人かよ!!」

 

 もしかしたら生きていたかもしれないっ!

 なのにこいつらは自分可愛さに逃げやがって!

 俺はハンネスさんの顔を殴ろうと拳を振り上げるが、

 

 ガシッ!

 

「やめてエレン」

「なんでだよ!? 悔しくないのかミカサ! こいつらはアオイを――」

「でも私達は、なに1つしていない」

「え――?」

「逃げることも戦うことも何一つやっていない。ただ守られるだけだった自分達が文句を言う資格なんて、ない」

 

 俯きながら、淡々と呟くミカサ。

 

「だからって――!?」

 

 ポタッ

 

 ミカサの左手の掌から流れている血。

 限界まで握りしめられた拳。

 それは、真っ白になっている手を鮮やかに染めていて、

 

「だから……だから……私は……」 

「なんだよ……なんなんだよこれ……ッ!」

 

 こいつもこいつなりに怒ってるんだ。

 でも頭がいいからどうすれば判んなくて。

 だからただ拳を握るしかない、のか。

 じゃあ俺達は誰を責めれはいいんだよ! 誰が悪いんだ!

 

「なんでこんなに……理不尽なんだよ!」

 

 理不尽なのは世界か? 

 いや違う。

 そうアイツらだ。

 アイツらが全ての元凶だ。

 

「……駆逐してやる……」

「エレン?」

「巨人なんて……駆逐してやる、この世から……一匹残らず――――クチクシテヤルッッ!!!」

 

 巨人なんて世界にいるからいけないんだ。

 

 全て全て全て全て全てッッッ!!

 この世から駆逐しきってやるッ!

 

「エレン」

「止めるなよミカサ。俺は絶対あいつらを――」

「ううん……私も、やる」

「僕もだ、エレン……」

「ミカサ、アルミン」

「大切な人達を奪った。私だって怒ってる」

「僕だって……父さん母さんに兄さんまで奪われて、黙っていられるほど、弱虫じゃない!」

「……そうか……判った。3人でいこう!」

「ええ!」

「うん!」

 

 今日俺達は3人で訓練兵団に入ることを堅く決意した。

 

 亡き家族と、友のために――――

 

 

 

 

 

 ×  ×  ×

 

 

 

 

 

 ――アオイ――

 

 意識が、あやふやだ。

 俺はどうしたっけ?

 なんかのゲームをプレイしていて、

 

 ――アオイ!――

 

 なんだよ……今考え中だってのに、

 

「アオイッ! ボーッとしてんじゃねっつの!」

「は、あれ? 俺は一体……。くーき?」

「くーき呼ぶな! 全く、どうしたってんだよ。勉強疲れでもしてんのか」

 

 やれやれと大袈裟にため息をついているのは親友の田中空樹(たなかからつき)。存在感の薄い哀しい男。

 きょろきょろと周りを見ると、エロゲショップのトレーダーや石丸電器、ケンタッキーやメイドカフェなどが建ち並ぶ……そう秋葉原だ。

 でもなんで俺はここにいるんだっけ。

 仕方無いので俺は何故か久しぶりに見た気がする親友に聞くことにした。

 

「なぁ、普段からスネークばりのステルス迷彩着用のくーきさんや俺達は何しにここにいるんだっけ?」

「てめぇ今度言ったらぶん殴るぞおい……。若年性アルツハイマーにかかってしまわれた葵さんの質問に答えると、ケバブの新作があるってんでいっちょ喰ってみねえかって話をしてだだろうがよー」

「なるほど……それで石丸の近くにいるわけか。お前は石丸いかないの? キャラ的に近いよな、親戚ん家に挨拶いってこいよ『なんか血が冷たくなるっていうかさ……』とか言って」

「全国の石丸さんに謝れコノヤロウ。アメフトなんてやらねっつの。てめぇこそ、そこのケンタッキーでも行ってカーネルと話してこいや。頭のボケた年寄り同士話が会うだろ?」

「あぁ?」

「おぉ?」

 

 メンチを切り合う。どうやらまずはコイツと白黒ハッキリさせないといけないらしいな。

 近くにゲーセンもある。

 勝負はそこで決めようか。

 

「どうやらどっちが上か決めないといけないようだな」

「はっ! ボッコボコにしてやんよ!」

「勝負はなんにする?」

「少し古いがメルブラで行くか。お互い慣れてるしよ。負けた奴はケバブ奢りな。メニュの上から下までお願いしますってやろうぜ」

「乗った! じゃあ俺は使い魔ちゃんで。幼女のおみ足に踏まれるのは好きだろ?」

「だったらこっちはメイド姉妹でやってやるよ。メイドにゴミ屑みたいな目で見られたいだろ?」

「ふふふふふ……」

「くくくくく……」

 

 不気味に笑い合う俺達を周囲の人々が避けていくがどうでもいいだろう、今大切なのはこの戦いなのだから。

 

 ――おにたん――

 

「あ?」

「どうしたんだよ葵」

「幼女に呼ばれた気した」

「声かけられ事案か?」

「いや……ただなんか大切なことがあった気がしてさ」

 

 ――おにたん――

 

「やっぱり聞こえる」

「おいおい! お前が来るのはこっちだって!」

 

 体が揺れる。

 ぐんにゃりとまるで世界があやふやに感じていて……。

 

「ちょ、これはどうなってるんだ?」

 

 なんで道が二つしかないん、だ?

 確かここら辺は十字路ばかりで。

 

 ザザ……ザザザ……ザ

 

 ゲーム、ブラウン管の砂嵐、ログアウト。

 揺さぶられる体。きちんと立っているはずなのに俺はどうしたんだ。

 風邪でも引いているのか。

 

「早くこいよ、ゲームやろうぜ」

 

 友人が手を伸ばす。

 何故か2つしかない道で片方は友人がゲーセンの前で手を差し伸べている。

 もう1つの道は暗い……真っ暗闇でただ声が聞こえる気がする。

 

「そうこっちだ。遊ぼうぜ、また一緒に」

 

 ああ、そうだ。

 俺はそっちにいるのが本来正しい(・・・)んだ。だったら、

 

『兄さん早く行こうよ』

「え?」

 

 何故か懐かしいと思える声が聞こえた。

 そうテレビ越しでも、現実でもそれは何度も聞いたことのある声で。

 

『ペンダント、ありがとう!』

『君カッコイイね』

『アオイッ! 早く外の世界の事を教えてくれよ』

『酒貰っちゃしょうがねぇな。ちょっとだけ教えてやるよ』

『ありがとう……あなたのお陰で……助かった……』

『アオイも大切な家族』

 

 あ、ああこいつらは!

 

『おにたん、どこ?』

 

 暗闇から聞こえるのはアイツらの声。

 たった1年間だが過ごしてきた。 

 

「違う! 俺の選ぶ道はこっちだ!」

 

 俺は走る。

 絶望を彩る道、暗黒に染まった道に。

 

「待てよ! 戻れなくなるぞっ、お前はいいのかそれで! 平和な日本にいたくないのか!」

 

 一度立ち止まる。かつての親友(・・・・・・)が聞こえたから。

 本当に心から心配している声のようで俺に戻って欲しいと願っている。

 だけど!

 

「俺は行く! この道がどんな過酷だとても、助けられる人々がいるなら――――俺は助けたいんだっっ!!」

 

 俺の返事に後ろから聞こえる友人はやれやれといった風にため息をつきながら、

 

「お前の馬鹿は死んでも治らないな……行ってこいや。頑張れよ親友」

「おう、ガンバルぜ親友」

 

 夢幻。

 不確かな世界はやがて歪み、消えていって――

 

 

 

 

 

「ぶあぁぁっくしゅん!! 寒い……毛布は……っつー!?」

 

 夜だった。

 ガラリと瓦礫の山が俺覆っている。

 体の節々がジンジンと熱と痛みを伴って異常を訴えている。

 ただ骨などは折れてないからかちゃんと腕も足を動かせるみたいだ。

 どこかの民家の中のようだが、壊れた屑山の中に俺は半ば埋もれていたようだ。

 周囲はシンと恐いくらい静まりかえり、外の月明かりだけが室内を照らしている。

 

「俺は確か――そう鎧の巨人に……」

 

 殴られたはずだ。

 だが何故生きているんだ?

 あの瞬間確かに死んだと――

 

「……もしかして」

 

 ステータスを見るとスキル『復活』の文字が暗転している。通常ならみんな黄色の文字で表示されているのに、だ。

 『復活』は一日に1回限定で即死ダメージを喰らっても、万全の状態で復活できる特殊スキルだ。

 不意の一撃で死なないためと取ってあったのだが……。

 

「役にたったってことか……。それにしてもみんな無事だっただろうか」

 

 外に出れば満天の星空を望めるだろう時間。

 不幸中の幸いと言おうか、夜は巨人も活動しない。

 日光が奴らの栄養なのかは不明だが、昼間でも長時間日光を遮断すると巨人の動きが鈍くなっていくらしいし。

 一部例外で獣の巨人が率いる巨人達は夜でも動いていたが、そこら辺はまだ謎のまま。とりあえず特異な例として今はない。ないと信じよう。

 月明かりが照らす部屋を見回すと変な物音が聞こえた。

 

 ぶぴゅっぶぴゅっ!

 

 なんというか汚いけど下痢みたいな不快感のする音が室内に響く。

 

(まさか巨人が!?)

 

 俺は痛みが走る体を無理やり起こし、ブレードを引き抜こうとしたところ、

 

「あ~~おにたん、おきたー。おはよ~♪」

「へっ?」

 

 だきっと俺の首元くらいの背を持つ少女が抱きついてきた。

 子供特有の高めの体温が冷えた体には気持ちいい。って違うだろ俺!

 

「お~にたん、お~にたん♪」

 

 抱きついてきたのは途中、母親を亡くして途方に暮れていたところを助けた少女だった。

 

 

 

 にこにこ笑顔で「おにたん」と連呼する少女に少しされるがままだった俺はとりあえず事情を聞くことにした。

 

「お前どうしてここに。みんなと避難したんじゃないのか?」

「みんなってだーれー?」

「そりゃあ船にいた奴らとか」

「ふね? ふねってなぁに?」

「いや船知らないの?」

「んーーあのドンブラこってする奴かなー?」

「そうそうそれそれ!」

 

 何で俺はこの説明だけで手間取っているんだろう。

 

「おにたん、のってないからおりてきたー」

「え、いやなんで?」

「だってモノ(・・)ばかりでつまんないからー」

 

 モノ……?

 

 どうしてだろう、さっきからピントがあってないというか、どこかズレた気がするのは。

 何が――とは明確には答えが出ないのだけど。

 疑問に漢字はするがとりあえず脱出しよう。

 ここはもう危険地帯。

 安全な夜とはいえ、危ないのは巨人だけじゃない。

 人々の死肉を漁りに野犬や狼などの野生動物だってくるだろうし、夜活動できる巨人もいるかもしれない。

 まずは壁上へ登ってから考えよう。

 そう思い立ち上がる。

 少女は変わらず花の咲いたような笑顔。

 今はジャンプしてきゃきゃっとはしゃいでいる。

 

「にしても暗闇だとわかりづらくて――ってあれ見える?」

 

 目を凝らすと目のレンズをすげ替えたかのように先ほどより見え始めた。

 そういや『夜目』なんてスキルがあったのすっかり忘れてた。

 焦点を合わし意識してものを見ようとしなければ発動しないようだ。

 

「いよっし、これなら。兎に角壁上にいって様子を見てから行動しよう」

 

 俺はそう女の子に目を向けると、

 

 ぶぴゅっぶぴゅっ

 

「は?」

「きゃはははは」

 

 俺はソレ(・・)をみて固まる。

 上は少女が無邪気にジャンプしていた。

 まあこの状況で笑顔なのだから強い子なんだな、とか心のどこかで思っていたのだが……。

 

「な、なあ、なに……してるんだ?」

「うん、おにたんもやゆ~? ぶぴーーぶぴーーって音がして面白いんだよ!」

「いや……ソレは」

 

 ソレは、

 

「ソレは――人じゃないか」

「ひとー? ちがうよおにたん。ひとはおにたんでコレ(・・)はモノだよ~♪」

「いや……人間だよ。だから……」

「にんげん? んと……あ、そっか、思いだしたー。おとうさんって名まえのモノだった。ねぇおにたんもやる? ふむとオシリからぶーっぶーって音がしておもしろいよ♪」

 

 きゃはははっって無垢な笑顔で笑う姿に俺は心臓を鷲掴みされたような怖気を感じた。

 女の子の下にいるのは、足と両足を喰いちぎられ……そのあと出血多量かなにかで死んでいたであろう男性。

 お父さんって、父親か?

 もしそうなら、なんで父をおもちゃみたいに……。

 純真無垢な笑顔。でもよく見ると顔や手、白い服のそこかしこに生々しい血の痕がこびりついていた。

 壊れている――そう思ったとき俺は昼間のグリードさんとの会話を思い出す。

 

『訓練兵時代に立体機動ミスって高所から落下、仲間の頭が潰れる瞬間の表情を間近で直視しちまった奴とか居たんだが――其れ以後ずっとケラケラ笑って心が変になる奴もいるんだよ……。精神がぶっこわれちまってさ……』

 

 この子はどうだ?

 初め見た時、母親の体をただひたすら揺すっていた。たぶん事件前は母と一緒に出かけていただろうこの少女は目の前で母が岩に潰され死ぬ瞬間を目撃している可能性が高い。

 街ではそこら中で人々が巨人に喰われ、悲鳴をあげる瞬間だって目と耳に焼きついているだろう。

 極めつけは父親の死。

 小さな体と心で耐え切れるのか?

 俺だって同じ立場なら狂う自信がある。

 

 どこからズレてしまったかは知らないけど、彼女の心の歯車はもう……もう――

 

「う……あぁ……っ」 

「おにたん?」

 

 救われない。本当に救われない。

 助けたのに……命を助けたってのに酷い……。

 

 涙が流れる。

 どうして俺はこんな後悔ばかりしているんだ。

 おぼろげな夢のどこかで俺は言っていた。

 

『この道がどんな過酷だとても、助けられる人々がいるなら――――俺は助けたいんだっっ!!』

 

「何様だよ俺は偉っそーにっ! ただ叫ぶだけの餓鬼じゃねぇかよ!」

 

 ガンッ!!

 

 瓦礫に拳を叩きつける。

 焼けるような痛みと共に血が飛び散ったが気にしない。

 馬鹿に付ける薬はこの程度じゃ治らねえぇ。

 

「くそう! くそう! くそう!」

「おにたん!?」

 

 ガンガンガンと力の限り叩きつける。

 カルラさんで反省したのに目の前の女の子1人だって救えてねぇじゃないか!

 

 そうして再度俺は拳を地面に叩きつけようとしたところで止められた。

 

「おにたんめぇーっ!」

「離してくれ……俺は」

「ふぇぇぇぇぇん!!」

「え?」

 

 女の子がぼろぼろと涙をこぼし始めた。

 

「ひっく、おにだんめぇ……血ーめぇなのー……死んじゃめぇなのー……はむぃ、ぺろ、ぺろ……」

「あ……」

 

 思いのほか力強く俺の右腕に縋りつき、拳の血を舐めはじめる少女。

 時たま鼻をぐすっと啜りながら、でも丁寧に大切ななにかを守るように。

 

(俺は、また馬鹿なことをしていたんだな……)

 

 俺が血を流す瞬間、過剰に反応した。

 もしかしたら彼女は人をそこら辺の石ころだと思い込むことで心の均衡を保とうとしたのかもしれない。

 俺の場合だけは反応したけど、多分人と認識した相手は傷つくのを見るのが嫌なんだろう。

 きっと母や父が流した血がトラウマになって。

 幼いながらも必死に守ろうとする彼女は元々、心根がとても優しい少女なんだろうな。

 

 お詫びにもならないが残った自由な左手で、軽く砂を被った灰色髪を撫でる。ふんわりと女の子らしい甘い匂いがした。

 

「ぐすっ、もっと……ぺろ」

「ああ、悪い」

 

 両親がいないなら俺が守ろう。

 それが助けた俺の――彼女の心を守り切れなかった俺なりの贖罪だ。

 

 小さなおかっぱ頭を犬みたいに、俺の左手に押し付けながら少女は尚も舐め続ける。

 流した涙は、少ししょっぱかった。

 

 

 




女の子は生存……ただし両親死亡で少しメンタル面が危なっかしく。
名前を出していませんがオリキャラです。
本来は存在したかもしれない人々。
助けていけばそんな人も現れるはず。

女の子はもしかしたら、ミカサさんをさらに狂化したverに変身するかも(^_^;)

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