とにかくシガンシナ区から脱出しなくてはいけない。
俺はとりあえずマップ機能と『気配察知』のスキルを仕様しながら周辺を家々を周って毛布と着替えを用意した。
少女――――シャンレナ・コールドという名の灰色髪と琥珀色の瞳をした女の子の着替えと風避けのローブを探した。
ついでにいくらか50枚ほど鋼貨も見つけたので頂く。まんま火事場ドロボーだが使い道もないだろう。
悪いとは思いつつ集めておいた。
夜間とはいえ、個体によっては動いている巨人もいるだろう。
警戒しつつも他区を目指したのか周囲に巨人の姿は見えない。
「いない、な。よしレナいくぞ」
「は~い」
シャンレナ――レナを抱えて壁上に登ろうとしたのだが、
カチン
「あれ、故障か?」
かちかち
うんともすんとも言わない。
鎧の巨人から一撃をくらった影響だろう。
よくみると直撃を受けた左の装置は大きく歪曲。
右のトリガー部分もよくみると欠けており。ガス管も破損している。
ブレードの抜き差しの行えないほどねじ曲がり、大破といっていいほどボロボロの様相だった。
「そりゃそうか……死ぬような一撃だったんだから。無断拝借して言う事じゃないけど……ありがとう、ここまで戦ってくれて」
お礼を言いながら俺は立体機動装置を静かに室内の片隅に置く。
とはいえ装置が無ければ、半ば巨人の支配下に墜ちたウォールマリア内で生き抜くことは不可能。
アイテムボックスから代えの装置を取り出し改めて装着した。
何も無いところからものを出す姿を見てレナは「手品?」と呟いた。手品違う。
ただ追求されても困るので気付かないフリをしてスルーさせてもらった。
特に興味を引かなかったのかトコトコと俺の周りをつかず離れすフラフラしている。
「改めていくか」
「あい」
アンカーを伸ばし壁上に上る。
現代と違い、光源などない。
今は星と月明かりがあるから周囲は照らされているが、時折雲に隠れるときは暗黒に包まれる。
だが適当に取得していた『夜目』が地味に役だっていた。
シガンシナ区をざっと見まわしたところ10mが10対以上、ほとんどが突っ立ったまま、一部ゆっくりとだが動いている程度。
しかし油断はできない。
家の影に隠れていまうような小型の巨人は続々集まっているだろうし、奇行種などもいるだろう。今日の戦いでは出会ってないはずだけど、遭遇したら最悪の一言だ。
動きの予想しやすい通常種と違い、奇行種は文字通り奇行ともいうべき行動をとる。
近くより遠くの人間を狙ったり、障害物があろうと直進しつづけるものもいたり。
街中でも戦い辛いのに、平野で出会ったら巨大樹の森など立体機動をとれる地形じゃなければ非常に不利な戦いを強いられる。
これからウォールローゼまでの避難では出会わないことを願って――?
(なんかピコンとメニュー画面に――――げ)
すご~~~く見たくないものを見た。なんかとんでもない文字を見た気がする。
(…………とりあえずスルー)
どうやら運命の女神とやらがいたら、そいつは俺の事を蛇蝎のごとく嫌ってるか、それともとっても愛しているに違いない……病的に。
後回し。
いやなものは出来るだけあとで見るタイプです。
とりあえず……そう奇行種だ。
そういえばトロスト区での戦いではエレンの居た34班は初っ端から奇行種に出会ってほぼ全滅状態になっていた。
予測不可能な奇行種は非常に強敵だ。数がいくらかいる分、女型や鎧の巨人とは違った意味で厄介。
レナもいるし俺1人で相手できるわけがない。
そう考えると俺やレナが生きているのは奇跡と言っていい。
オカルト的に考えるならカルラさんが見守ってくれているかもしれないな……。
冷たい風が肌を撫でる。ぼろぼろになった服は先ほど民家から少しいただいて身なりはよくなったがそれでもきついな……。
春先とはいえ、壁上は風が少し強い。
「んしょっと」
「ぶるぶる……しゃむい」
「毛布をかぶってるといいよ」
「あ~い♪」
レナには毛布をかぶせて壁上を歩く。ゆきんこ少女の誕生だ。
「さて……」
俺の知っているかぎり、壁上に登れるまたは攻撃できるような巨人は超大型巨人や獣の巨人、女型の巨人しか知らない。
少なくとも通常種や奇行種では登れないだろう。
でなければもっと早く巨人に壁を突破されているだろうし。
ピコン
だからアピールするなメニュー。見たくないんですその
俺はとりあえずシガンシナの内門の真上辺りで適当に持ってきた毛布を敷く。
レナもふと~んと笑いながらバサバサ振りまわしながらっておい、
「「あ」」
ぴゅ~ん
夜空を滑空する毛布。ゆらゆらと揺れてある意味お化けが飛んでいるようにも見える。シュールだ。
仕方ないので、
パシュン!
立体機動装置のアンカーを突き刺す。
穴が開くけどこの際しょうがない。
なんという装置の無駄使いだ。
お掃除大好き兵士長に目撃されたらしばかれること間違いなしだ。
「レナ……毛布で遊ばないように」
「あい!」
ビシッと敬礼――左手を胸に右手を背中につけるコニー式敬礼を行っていた。
キース教官の目の前でやったら両手でアイアンクローされかねない。
レナがやっていると微笑ましいけど。
そんなこんなで上を見ながら一緒の毛布に入る。
疲れていたのかレナはすぐ寝息を立て始めた。
俺はそっと毛布から出るといい加減、鬱陶しくなってきたメニューの一覧を見る。
【特殊クエスト発生!! シガンシナ区から脱出し、ウォールローゼまで撤退せよ!!!】――継続中
勝利条件――プレイヤー及びエレン&ミカサ&アルミンのウォールローゼまでの撤退
敗北条件――プレイヤー及びエレン&ミカサ&アルミンのいずれかの死亡
【ミッション】
達成・調査兵団がシガンシナ区を抜けるまでにエルヴィン・スミスと顔をあわせろ――――達成報酬【エルヴィン生存フラグⅠ達成】
達成・カルラを救え! ――――達成報酬【1、鋼貨30枚 2、ミカサ好感度フラグⅠ達成】
達成・カルラを襲う巨人を倒せ! ――――達成報酬【ハンネス生存確定】
達成・超大型巨人に一撃を与えろ! ――――達成報酬【○○○○○加入フラグⅠ達成】
達成・鎧の巨人を止めろ! ――――達成報酬【1、○○○○加入フラグⅠ達成 2、フーゴ生存確定】
失敗・巨人の侵攻を食い止めろ! ――――達成報酬【ウォールマリア陥落阻止&全女性キャラ好感度フラグ全て完了】
達成・街の住人を守れ! ――――達成報酬【隠しミッション追加】→住人【カルラ、バルド、フ-ゴ――救出】&【迷子の子供シャンレナ救出】&【鎧の巨人を止めろ達成】&【超大型巨人に一撃を与えろ達成】&【カルラを救え】&【巨人3体以上撃破】――
ここまではいい。俺が頭を悩ますのは最下段の条件達成時に出た報酬――隠しミッション追加。
多分、特定条件達成で提示されるものだ。
相変わらずゲームか現実か判らなくなるのでこの手のミッションはもう出なくてもいいのに。
でも提示されてほっとくとそれはそれで酷いことが起きそうで恐い。結局、俺は出てしまったらやらずにはいられなくなるんだろう。
やらずに後悔するよりやって後悔するほうがまだ救いがあると思うから。
もう半ば現実と考えているけど、あえてゲーム的に考えるとシャンレナを助けるという条件が特に地雷で鬼畜くさい。
あのときは見捨てることが出来なかったけど一歩間違えると目の前でカルラさんが食い殺されると言うトラウマ的光景を目撃する羽目になる。とりあえずは達成できたからいいけど……。
そして問題はこれだ。
【隠しミッション】
・ウォールマリア南東の山奥の村周辺にある【アニの父の手記】を発見しろ! ――達成報酬【1、○○加入フラグⅠ 2、フラグ○○○○○加入&○○○○加入フラグⅡ 3、ア二好感度フラグⅠ 4、リヴァイ班グンタ&エルド&ペトラ&オルオ生存フラグⅠ】
※注 失敗条件有り――山内での巨人討伐、山奥の村に侵入時は失敗となる
・アニと会話しろ! ――達成報酬【アニ好感度フラグⅡ】
※注 847年訓練兵団入団までに行うこと
・アニに父の手記をわたせ! ――達成報酬【1、ア二好感度フラグⅢ 2、アニ加入フラグⅡ】
※注 847年訓練兵団入団までに行うこと
・846年口減らし出兵時にアルミンの祖父アレスを救出しろ! ――達成報酬【1、アレス生存確定 2、アルミン好感度フラグⅠ 3、アルミン強化】
※注 失敗条件有り――846年までに勝利条件ウォールローゼ撤退を達成すると
凄いアニ押しのイベントなんですが……。
アニの父の手記を発見しろの達成条件が厳しい……。巨人を倒すなとか村の中に行くなとかかなり面倒な事になる。
ただ達成報酬が凄く気になる。
ゲームとか関係なしにこの手記ってなにかの謎が書かれているのではないか?
もしかしたらアニを救う手がかりにもなるかもしれない。
このままいけば彼女は
そうなると人類的にはかなりの大損害を引き起こす。
そのためにもどうしても達成したい。リヴァイ班のメンツを助けられるかもしれないのもだ。
でも……自分とレナの命も大事だ。無敵のチートさんではないんだ。俺tueeだってできない。
喰いつかれれば筆舌に尽くしがたい痛みを味わい死ぬ。
だからできれば気付かないフリを思わずしたくなってしまった。見て見ぬ振りすれば良心の痛みを軽減できるから。
とはいえもう見てしまった以上な……。
アレス――じーさんも1年間もお世話になってるし、やっぱり助けたい。
ただ達成するにはウォールローゼに戻るなって書いてある。
たぶん戻ってしまうとエレン達と一緒に開拓地へ送られる可能性が大だからだろう。
そのためには行方不明まま行動し、戦いに乗じて救出するしかない。
確か口減らしを行ったときも一応生存者がいたはす。数万で言って数十名とか言ってたからヤバいことには変わらないけど。
でも助けたい。
そのためには壁外で一年過ごす必要がある。
どうするか……。
俺は一晩中悩み続けるのだった。