VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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トロスト区南方の戦いと2人の兵士

 ――緑の信煙弾が撃ちあげられる1時間前――

 

 俺は大樹の上で今まで使っていた立体機動装置の整備を行っていた。

 道具は東区で持ってきたし、整備の仕方はハンネスさんや調査兵団のみんなに教えてもらったので大丈夫だ。

 場所は木の枝で行っている。

 奇形の枝で一本だけ畳を横にしたくらい幅があり、しかも平べったい。

 横になって寝ても、寝相が良ければ落ちることもないくらいに。

 さすがにここで昼寝などする気はないが、来るべき戦いの前に立体機動装置を万全の状態しておくことも大事だと思い整備をしていた。

 

 この立体機動装置は使い手の個性が出ると言われている。

 原作ならアルミンがマルコが使っていた装置をある人物が持っているのを見て、そこから女型の巨人を割り出していたり。

 トロスト区での戦いでは104期メンバーの1人であるジャンが、自分の立体機動装置が故障したため死んでいた兵士の装置を使ったさいトリガーが固くて困惑したりと、同じ物でも1つ1つ違う。

 

 使い続ければこの道具は自然と自分色に染まっていくのだ――というと少し気持ち悪い言い方ではあるが、兎に角使いやすくなっていくことに変わりはない。

 俺が1年間使い続けたこの相棒も、随分と思い通りに動くようになっていた。

 そして今日は前から考えていたある構想を実現しようと思っていた。

 その構想とは立体機動装置の改造だ。

 

 少なくとも今できる改造項目は3つ。

 

 アンカーの射出速度。

 ワイヤーの巻き取り速度。

 空中で方向転換する為の後部ガス噴出量の調整。

 

 上記3つが調整できるとメニュー画面に出ていたのだ。

 メニュー画面を見ると、物差しのような横メモリが表示され、全ての数値が中央の50で固定されている。

 右が100で左が0。

 メモリを右にすると速度等が増し、左にすると逆に遅くなったりするのだろう。

 

 普通に考えれば速度をあげればいい――そう考えるのは早計だ。

 何故ならどれもデメリットが存在するからだ。

 

 まず3つとも性能をあげるとガスの消費量が上昇すること。消費が増えれば継戦能力に直結する。巨人との戦闘でガスが無くなれば即、死を意味する世界でこのデメリットの重要性は決して軽視するべきものじゃない。

 また速度が上昇すれば、その分攻撃や回避のタイミングがシビアになってくる。

 微調整が利かなくなって、攻撃しようとしたら通り過ぎてしまったり、必要以上に移動しすぎてしまったりする場合が頻繁に発生する。

 

 ただ速さが武器(・・)となるのも事実。

 細かい微調整を行える能力さえあれば、メリットはデメリット以上の効果を発揮し、巨人を圧倒出来る力となる。

 

「器用ささえあれば、さらに改造が可能になるかもしれないんだけど……言っても仕様が無いんだよなー」

 

 相変わらずこの世界はゲームか現実か悩みたくなる物で、メモリをいじれば性能が上がるわけではない。

 キチンと立体機動装置をバラして、工具で幾つかの部品のネジやワイヤー部などをいじるとメニュー画面に表示されている数値(・・)が微量に変化していく仕様なのだ。

 調整した結果が目に見えて判るという意味では親切設計なのだけど、変なところでリアルな所為からか時折、この世界はゲームなんじゃないかと思ってしまう。

 

 いや科学的に考えればゲームだろうと言えるのだが、ゲームの仕様外な出来事が発生し過ぎているのでとっくに現実なんだと割り切っているのだが……。

 

 カチ、カチ、カチ――きゅ!!

 

「――――おっし!! これでいいだろう。」

 

 器用さが上がれば特殊な改造も可能とはいえ、ステータス面では一番低い。

 いずれ自分専用の装置に弄ってみよう。

 男としては『専用』という言葉の響きがとても大好きだし。

 ついでにステータスの振り替えもしておこう。

 

 

 

《メニュー・840年製立体機動装置(アオイ・アルレルト調整)》

 

 アンカーの射出速度【70】

 ワイヤーの巻き取り速度【70】

 空中で方向転換する為の後部ガス噴出量の調整【60】

 

『アオイ・アルレルト』

 性別・男 11歳

 所属兵団『無』

 称号『シガンシナに舞う鋼の翼』

 

【年齢による成長ボーナス付き】

 

 LV14

 

 筋力 :61

 敏俊性:71→81

 器用さ:42

 頑強 :115

 体力 :63→73

 知性 :50(+25)

 

 運  :65(幸運)

 残ポイント(上昇値3→4)=20P→0P

 

 

 

 【天賦】天才:成長率特大アップ

 【才能】利発:成長率中アップ&知性20%アップ

 【体質】微再生:常人より怪我&病気の治りが早い

 【体質】復活:1日に一度だけ即死ダメージを喰らっても万全の状態で復活できる

 【回避】生存本能:致命傷になる攻撃を反射的に避ける

 【探知】夜目:暗闇でもよく見える

 【探知】気配察知:30m内の気配を敏感に察知。マップ敵表示可能

 【才能】器具の才能:立体機動装置の扱いがうまくなる。また機械にも強くなる

 【叡智】逆転発想:閃き。知性30%アップ。ときおりとんでもないことを思いつく

 【回避】縦横無尽:上下左右の移動速度10%UP

 【攻撃】投刃:ブレード系武器を投げつけるとき命中率上昇

 【生活】狩猟:狩りが巧くなる。狩るとき隠蔽能力上昇

 

 

 

 ポイントは敏俊性と体力に半々で割り振った。

 攻撃を回避しやすくするためと長期戦が予想されるのでスタミナ切れを嫌ったためだ。

 『口減らし』ではじーさんを見つけて撤退しなくてはいけない。

 しかし1大都市を築ける人数の人々が巨人の徘徊するウォールマリアへと一斉に飛び出すのだ。

 奴らが大挙してやってくるのは明白であり、ウォールローゼに接近すればするほど巨人との遭遇率は跳ねあがる。

 平地ならマップ機能はほぼ100%の力を発揮できる。

 天候や一部地形に阻害されはするものの、1人策敵陣形ともいうべきこの力で大半の敵は回避できるだろう。

 だが全部を回避しきれる楽観視もできない。

 網の目のように終結した巨人達と衝突する場面が出てくる。

 最悪、じーさんが最前線に居た場合は周囲の巨人を撃破しなくては簡単に連れだすことは不可能だろう。

 

 五分五分どころか成功の見込みはかなり低い。

 だが俺はレナの命も預かっている。

 状況如何では見捨てるという最低な決断を下さなくてはいけない。

 自分達が生き残る為に。

 

 『たぶん出来るだろう』――なんて温い考えで目的を達成できるのはアニメや漫画の主人公様達だけだ。

 

 ご都合主義など無い。

 ただ――――それでも――――考えてしまう。

 理想の未来を。

 甘くて青い幻想を願ってしまうことすら駄目なのだろうか?

 俺は諦めることができるのだろうか?

 

 ………………答えは否、だ。

 

 立体機動装置を身に付けた俺は立ち上がりつつ拳の握り、力強く木を殴り付けた。

 

 ドンッ!

 

 はらはらと木の葉が舞う。

 拳からはじんじんと熱と痛みを孕んでいた。

 意味の無い行為。

 名前の通り青二才な俺が下した結論はやはり理想と幻想に満ちたものだった。

 頭に思いだされたのはアルミンとじーさんとで囲んだ家族の団欒。

 俺が取ってきた魚を見て喜ぶじーさん

 アルミンは苦笑いしながらも持って取って来てとせがむ。

 調子に乗って、後で怒られることは何度もあった。

 そんな偽りかもしれない世界――しかし決して嘘ではない暖かい空間があそこには存在した。

 

 それを失うなど、神様に頼まれたってお断りだ。

 

「カルラさんに続いてじーさんまで失うなんて、嫌だ! 力が無い? 死ぬのが嫌? だったら全力で、生き抜く気で戦い抜けよアオイ・アルレルト!! 全身全霊で――――お前のエゴを貫いてみせやがれッッッ!!!」

 

 本当に無意味な遠吠え。

 ただ、どこかで諦観という名の悪魔が心に巣くっていた。それを吹き飛ばすためのものだ。

 平和大好き日本人な俺はどうしても割り切ることが出来ないのだろう。

 魂レベルで俺は絶望を嫌い、希望を求めてやまない。

 御都合上等。

 

 たった1人の人間を救いに突撃し、2人の命を掛け、25万の命と化け物達が踊る戦場で暴れまわる。

 一筋の希望にだって縋りついて為して見せよう。

 男の意地を見せつけよう。

 

「絶対――――助けて見せる」

 

 その時、緑の信煙弾が空に打ち上げられた。

 

 スキル取得!

 【運命】希望の兵士:運命の女神はいつの時代も諦めない者だけに微笑む。『絶望など知らない一筋の希望を掬いあげる為に兵士は今日も戦い続ける』――スキル効果無し。ただし特定条件を達成すると強力なスキルが発現するかも……?

 

 

 

 

 

 俺は緑の信煙弾を確認したあと、小屋がある森の北側へと急行した。

 

 バシュゥン!!

 

 閃光が走る。

 想像以上にアンカーの射出音が大きく、巻き取る速度も格段に上がっていた。

 

「っく! 結構、きっちーなぁ!!」

 

 空気の壁を全身に受けとめながら空中を舞う。

 体感速度は1割上昇、ただ体の負担は3割程増えた気がする。

 バイクを最初からアクセル全開で走らせるようなものだ。

 

 トリガーを引く瞬間が一番体にくる(・・)

 ただ、不思議と耐えられるのも事実だった。

 間違いなく頑強さが高いおかげだ。

 

(さんきゅ、ミカサ。お前とのやり取りが結構役に立っているわ)

 

 なんだかんだ頑強さが高いおかげで助かった場面がいくつかあった。

 きっとミカサをからかったおかげだろう。

 無事、帰ったらお礼にエレングッズをちょろ……拝借してプレゼントしておこう。

 

 パンツが駄目だったから今度はシャツを渡して……。

 ぶかぶかのワイシャツと純白のショーツ姿でベットの上から上目遣いすればどんな男でもイチコロ間違い無し。

 頑張れミカサ。

 

 様々な姿勢で飛びながら使い心地を確かめる。

 一度ガスを使い切り、アイテムボックスから新たなガス管を装着。

 小屋に到着した頃には小一時間程経過していた。

 

「あ、兄さんっ遅いですよ! 何かトラブルに見舞われてるかと思って気が気じゃなかったんですから!」

「悪い! 森の反対側に居たから時間かかったんだ。それでウォールローゼ側になにか変化があったのか?」

「兄さんが言っていた声とかは届いていないのか聞こえません。ここから壁まで50kmはありますしやっぱり遠すぎるます。トロスト区とストヘス区の中間にこの森がある所為もでしょうけど。ただ――」

「ただ?」

「最初は勘違いかと思ってたんですが、巨人達がみんな同じ方向に移動していたんです! ほら、あの巨人達とか、あっちとかもッ!」

 

 レナが指差した方には3体の巨人が居た。

 別方向にも2体。

 全員同じ場所――――トロスト区方面へと足を向けていた。

 レナが言うにはやたらと巨人が少ないなぁ、と思っていたそうだ。

 そんなとき森の中から巨人達が現れた。

 注意を引くと大型なら木に登ってやってくる場合もある。

 小屋に隠れながらそっと見ていたら、誤って物音を立ててしまったらしい。

 だが巨人達は一度目を向けたのに無視してトロスト区方面へと歩きだしたのだ。

 その動きは間違いなく――

 

「850年の時と同じだ……とうとう動き出したんだ……」

「兄さん?」

「レナッ急いで準備してくれ! 毛布やテントとかの道具は全て小屋か、馬に括りつけたものは全て放棄! 少しでも軽くしてトロスト区へと向かうことにしよう!」

「そ、それじゃ兄さん。やっぱり……」

 

 ごくりと生唾を飲み込むレナ。

 緊張した面持ちで次の言葉を待つ。

 

「ああ! 恐らく予想していたウォールマリア奪還作戦が開始されたんだと思う。じゃなければ、レナを見た巨人がそれを無視してトロスト区へ行くなんて考えられない。それ以上の獲物(・・)がいるんだ。大量に……」

「そうですか、わかりました! 服は駐屯兵のでいいんですか?」

「うん、少しレナにはブカブカかもしれないけど丈はできるだけ合わせてあるし、先導役の兵士達の目を少しでも誤魔化さなくちゃいけないからな。それに戦闘用だから多少なりともレナの命を守ってくれるはずだ!」

 

 あくまで誤魔化せたら儲けものといったところ。

 立体機動装置の無断使用でなにかしらの罰を受ける可能性があるしこの際、駐屯兵の服を着用しても同じだろう。

 シガンシナ区の撤退支援がプラスに働くことを願うばかりだ。

 

 そうしているとレナばもじもじと手を擦り合わせている。

 

「はいっ……えっとそれで、ですね」

「ん? どうしたんだ顔を赤くして――――もしかして風邪引いているのかっ、大丈夫かレナ!?」

 

 頬をリンゴのように染めて言い淀んでいる。

 体調不良は危険だ……でも今日しかチャンスが無い以上延期は出来ない。

 どうすればいいんだ。

 

「え、じゃなくて、えっとーーー」

「俺の後ろに乗るか? それとも担いで――」

「あーーーーーっ、もうっっっ着替えられないから出てってーーーーー!!!」

 

 レナに蹴られながら小屋から追い出された。

 

 すんません…………。

 

 

 

 ひと騒動あったが30分掛けて準備を整えた。

 事が事だけに万全の状態で戦いに臨みたい。

 馬に括り付けているのは予備のガス管2対4本のみ。

 食糧等と整備道具、残りの武器、ガスはアイテムボックスに入れ出発準備を整えた。

 

「兄さん! こっちも準備完了です」

「それじゃあ最終確認だけどレナいいか?」

「はい。まず巨人との戦闘は極力回避しつつ、周り込んで兄さんの祖父であるアレスさんを捜索。発見しだい馬に縛りつけてでも引っ張っていく――でいいですよね?」

「一部不穏な言い回しが凄く気になるけど概ねそう。…………悪いな、俺の我が儘に付き合わせてさ」

「言いっこ無しですよ兄さん。私はそれ以上に何度も助けられたんですから。例え火の中水の中、巨人の腹の中だってお付き合いします」

 

 やめい縁起でもない。

 

「不吉な事は言うなっての。行く場所は決まってるだろ」

「というと?」

「一緒にウォールローゼへ行ってお互い助かる。その未来以外はお断りだ。まだまだやる事はたくさんあるんだかなっ!」

「はいっ」

「帰ったら弟のアルミンも紹介するから楽しみにな。いざ往かん戦場へ!ってなっ」

「はい――――ってえーーーっ!? 弟なんて居たんですか兄さん!? 初耳ですよそこの処詳しく――ちょちょっとーーー置いていかないでくださいっ!!」

 

 どうにも締まらない出発。

 でもそれでいいのかもしれない。

 顔を暗くして俯いても事態が好転するわけじゃないのだから。

 気持ちくらい明るくなくては、世の中やってけない。

 本日も晴天なり。

 雲に隠れて気味だった太陽は顔を出し始めていた。

 

 やたらアルミンの存在を気にするレナを宥めつつも慎重に前方に点在する巨人と思われる光点を避け続けた。

 しかし馬を走らせ数時間が経過したころ、周囲の様子があからさまに変化していく。

 土が赤黒く、死臭漂う戦場の気配へと―― 

 

「糞っ、ここから先はかなり危険になってくるかもしれないな」

「そこら中に死体が転がっています……人が死んでいる姿はいつ見ても慣れないですね……」

「ああ……」

 

 人々が戦った形跡がそこかしこに広がっていた。

 具体的には赤い沁みが大地に広がり、足や手がゴロゴロと転がっている。

 地獄絵図というものがあれば、この光景を差す言葉なのかもしれない……。

 

 シガンシナ区で何度も見て耐性が付いてしまったからか吐き気こそ催さないが気分のいいものではない。

 周辺の地形は林がポツリポツリと点在し、遠目には1、2軒ほど民家が建っていた。

 農家か宿屋でもあったのだろう。

 しかしそうすると街道に近い場所まで来たわけだが人の姿が――死体ではなく生きた人々が見えないのが腑に落ちない。

 何か見落としがあるのかそれとも――

 

「おかしい……何で死体ばかりなんだ? かなりの大人数がトロスト区から出陣したはず。なのに周囲がこんなに静かなんて」

「待ってください! もしかして出遅れてしまったのかも……」

「やっぱりそれしかないのか……?」

「すみません兄さん! 私がもっとしっかり見張ってれば――」

「レナが見ていたときは巨人が居なかったんだろう? そういったら俺だって巨人が少ないようには感じていたんだ。お互い様だ」

「兄さん……」

 

 申し訳無さそうに顔を伏せる妹分の肩を慰めるように叩く。

 俺は出来るだけ平静を保つように専念しつつ、ミッション画面で失敗という文字が表示されていないことを再確認した。

 

(つまりまだじーさんは生きているんだ。ミッションの文字を押すことでその対象となる人物、物の方向に矢印が出る。未だ消えてない。ならまだ間に合うはずだ! 俺は諦めない。希望を捨てたらそれで終わりだ――可能性があるならそれに賭ける!!)

 

「まだ全てが終わったとは限らない。だから行こう――家族が死ぬのは嫌だからな!」

「…………はいっ!」

 

 俺はシュンとしてしまったレナを励ます。

 元気を少しなくしていた彼女も強く返事して進み始めた。

 

 じーさんがいるであろう矢印の方向に従い突き進む。

 そうしているとマップに青点が2つと赤点が1つ表示されていた。

 もしかしたらいるかもしれない。

 だがそうすると巨人から逃げているのか?

 拙い――急ごう!

 

「前方に巨人が一体居ます! どうしますか?」

「レナはスピードを落として俺の後ろ100m程に位置してくれっ! 俺は――――アイツを倒す!!」

「わかりました……兄さん死なないで」

「当然!!」

 

 グッと親指を立てて安心させるように言う。

 100%勝てるとは断言しないものの殺し切る覚悟で急ぐ。

 平地なので巨人がいると目立つ。

 馬の手綱を扱き全速力で向かっていくとみるみる接近していった。。

 マップを確認すると、まだ2つの青点は小刻みに動いて赤点と接触しないようにしていた。

 

「あれは――」

 

 ドン! と巨人が土煙りをあげながら腕を振りまわしている。

 でかい……10mはあろう奴だ。最近の巨人は発育がよろしいのだろうか。

 発育がいいのは女性の胸だけにして欲しい。

 

 衝撃がこちらまで伝わったのか、前髪がすこし左右に分かれた。

 目を凝らし見ると立体機動装置を駆使して巨人の周囲を飛びまわっている。

 どうやらじーさんではなく、兵士のようだった。

 

「じーさんじゃなかったか……でも助けに入るかどうするか――――ッ!?」

 

 対象まであと50mといったところで動きがあった。

 兵士の片方が巨人に捕まったのだ。

 このままでは喰われてしまう!

 

「――――クレア! 巨人が俺に気を取られている内にお前は逃げろ!」

「なにいってるのよアレクッ! 今助けるから――」

 

 巨人の口が開き、男の兵士は抵抗しながらも逃げれない。

 だがそうは問屋が卸さない。

 

 巨人はこっちに体の正面を向けている。

 男は巨人の右手掴まれていて俺は見えていない。

 女の兵士も背を向けている。背後に回ろうにも左手が小刻みに動いて女兵士を捕らえようする。攻めあぐねているようだ。なら俺は左に周り込む!! 

 

「俺が男の人を助けますっ! 女の人はうなじをお願いします!」

「援軍!? ありがとう、助かるっ!」

 

 馬上で立ち上がり、両手ブレードを構える。

 

「――はっ!」

 

 巨人から左10m。男と巨人の口まで2、3m。

 馬から飛び上がり一瞬の浮遊感を感じた。

 躊躇せず全力でトリガーを押し、敵の右肩に突き刺す。

 違和感を感じたのか数瞬相手の動きが止まった。

 

「止まったのが――――お前の失敗だぁぁぁぁぁ!!」

 

 調整したばかりの立体機動装置の鉄線は火花を散らしながら一息に相手懐へと飛び込む。

 俺は2本の剣をいつものY字に構えて肉を削ぐやり方ではなく、二の字を描くように構え回転する。

 ガスの噴出量も増大させたおかげか通常より激しく世界が回転した。

 

「ォォォ――」

 

 相手の左が俺を掴まんと迫る。

 

 しかし止まらない。

 その程度で勢いを止めると思うな!

 

 ザシュンッ!!

 

 刃の駒が邪魔する障害物を退ける。

 遠心力が最大限にかかった切っ先は巨人の掌を真一文字に切り裂いた。

 さらにそのまま相手の顔へと迫り、

 

 ザザン!!

 

「ゥォォォォォォォォォォォォ!?」

 

 視界を奪う。

 一陣の剣舞は2つの眼球を抉るように裂き相手は硬直する。

 鉛を目に流し込まれたような熱に相手は案の定、両手で目を覆う。

 男は隙を付いて逃げ出した。

 

 だがこれだけで終わるほど人類は甘くない。

 強敵が最大の隙を見せたのだ――終わるわけがない。

 

「そんなにお腹減ってるなら――あの世で糞で喰いやがれイ○ポ野郎ーーー!!!」

 

 女兵士が少々下品な言葉を吐きつつ、巨人の背後から直接うなじを削ぎ落す。

 致命傷を負った巨人は声にならない悲鳴を上げながらうつ伏せに倒れこんだ。

 

 なんとか転がりながら地面に着地しつつ俺は息を吐く。

 

「はぁぁーーーっ、10m級はきっつい……」

「ありがとう! 駐屯兵もやるじゃないかっ! ベテランでもあんな動きはそうそうできないんだぜ!」

「ありがとうね、恋人が目の前で喰われるなんてことにならずに済んだよー」

「いえいえ困った時はお互い様ですから――?」

 

 あれこの2人どっかーで見たことあるような。

 急に黙った俺を見て怪訝そうな顔をした2人も何故かじっとこちらの顔を見る。

 そうなにかを思いだすように。

 

 閃く――そうこの人達とは会った時がある!

 よく見るとこの2人の紋章は自由の翼――つまり調査兵だ!

 

「あーーーーっアレクさんにクレアさんっ!! 先導役だったんですか!?」

「アオイ君じゃないか!? 無事だったのか!」

「もしかしなくてもシガンシナ区に送った少年じゃないっ! 良かった、生きててたんだ……。調査兵の皆が喜ぶよっ!!」

「あ、あのー兄さんどういった関係で……?」

 

 戦闘が終わったタイミングを見て近くまで来ていたレナは困った顔を俺達を見ていた。

 

 俺が一時期、エルヴィン分隊長に連れられて調査兵団へ赴いたとき知り合い――シガンシナ区に送り届けるときも護衛として一緒に行動した。

 人の縁とは不思議なものだと強く思った一幕だった。

 

 

 

 




その他大勢の兵士その1、その2見たいな2人です。

846年のこの戦いに原作キャラを出せなかった……。
まだ新人であるリヴァイ班は実力的にアウトだし、リヴァイさんもいない可能性が高い。
エルヴィン団長もこんな危険任務に出張るわけない。
出すならマイナーキャラのディータ・ネス(ネス班長)やルーク・シスあたりしかいないという人材的に暗黒時代中の調査兵団(^_^;)

リヴァイはいつ入団していたのだろう……?



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