VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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一歩踏み出す、その先へ

 アレクさんとクレアさん。

 調査兵団に入団してから10年近くになるそうだ。

 5年以内でその大半の兵士が戦死する中、戦い抜いてきた猛者。

 実力的にもかなり安定しているのだろう。

 ここで出会えたのは幸運といってもいい。

 先ほどの場所に居たのは、調査の一環として巨人達の動きを観察していたのだとか。

 エルヴィン団長の指示で(やはり団長になっていたようだ)超大型巨人や鎧の巨人など通常種とも奇行種とも似つかない巨人が出現している。

 さらに別のタイプが居ないかの先行調査の一環として、今回の戦いに赴いていたらしい。

 さっきは運悪く10mタイプの巨人に捕捉され危機に陥っていたのところ俺が来て――ということだったみたいだ。

 

 今年は物資面の問題もあり、今年は無いが来年にはシガンシナ区奪還の一環として大規模な壁外調査も計画されているそうだ。

 小規模な壁外調査は月1であるそうだが。

 

 太陽が傾き始めた時間帯。

 日が沈む時分にはまだ早く、じーさんを救出するには巨人達の包囲網を突破しなくてはいけない。

 レナを含めて軽い挨拶をした後、アレクさん達の馬を回収してこの場を後にした。

 俺は馬を走らせながら現在がどういった状況にあるのかを聞いていた。

 

「撤退中ですか?」

「ああ、朝一番で出発したはいいが野郎共もいらっしゃいませとばかりにすぐ集まってきやがったんだ。ちょっとした軍隊レベルの数がこられちゃな……」

「それじゃあ、ここら辺は撤退した後ってことですか」

 

 予想はしていたけど、かなり早い。

 数日間かけて戦っていたのかと思ったのに。

 

 それだけ巨人と人類の総合戦力差に開きがあるということなのか。

 

「それにしても兄さんの予想通りですね。人類がウォールマリアを奪還するために近い内に攻め入るだろうって。私では全然わかりませんでした。さすがです!」

「いや俺は――」

 

 半ば未来を知っていただけです。

 関係の無い読者視点だからこそ、この世界の状況をきちんと把握できた。

 馬鹿な俺だってそれぐらいわかる、はずだ。

 

「私も聞きたいなー。エルヴィン新団長が期待を寄せる超大型新人だしね!」

「俺も同感だな。団長もこの事態は容易に把握していたそうだ。遠くない未来、人類は巨人達に壁を破られ窮地に落ちる可能性があると。団長といい、君といい、何故そこまで先を読むことができるのか。説明して貰えないだろうか?」

「あーっとだからですね……」

 

 言い淀む。

 どういったらいいのだろう。

 説明を求められている以上答えなければ不信感も与えてしまうかもしれない。

 だが筋の通った理由の説明なんて昔から苦手で――

 

(あれ? でもなんとなく言うべき言葉が浮かんで――)

 

 何故だろう、説明すべき言が次々と脳の奥から浮かびあがる。

 思えば何故、疑問に思わなかったのだろう。

 俺はエレン達に世界のことを色々教えていた。

 ハンネスさん達に立体機動を教わるための小細工も弄していた。

 長距離策敵陣形もそれなりの形に仕上げることが出来た。

 

 いままでの俺がそんな大それた事を実行してきたのだろうか。

 口が動く。

 俺の意志で動かす。

 自分で考えた言葉を紡いでいく。

 ぽんこつだと思っていた脳細胞の1つ1つが電気信号を伝えあい、今人類がどういった状況であるかを俺はきちんと理解している。

 

「元々人類の生活は表面こそ平穏を保ち続けていました。けど裏を覗けばスラム街の存在、国を守るべき貴族が糸を引く犯罪の数々、憲兵団の腐敗、そして平和故の停滞――――危険な兆候はいくつもでていたんです」

 

 地球でも歴史でも国が大きく傾く理由に政治の腐敗はつきものだ。

 三国志の発端となったのも漢王朝や役人たちの腐敗が大きな要因。

 日本なら幕府は世界の流れを無視して停滞し続けたことも要因だろう。

 全てが正しいわけじゃない。

 たぶん俺の言っていることはピントのズレたものもあると思う。

 ただ今回の状況に至る原因の一要素になっているはずだ。

 

 3人は周囲を警戒しつつ、俺の言葉に耳を傾けている。

 戦いの音は遠くに聞こえる。

 だが1km圏内には敵はいない。

 まだ話せるようだ。

 

「中央は徐々に平和という毒に侵され、人類が一致団結して築き上げた法という壁を自ら崩していたんです。それでもマリア、ローゼ、シーナという壁さえあれば一応の体裁は整ってた。通行を遮断して、内側の人間程、外の世界を見て無ぬ振りをし続けた。無知は罪なんて言いますけど、知らぬ存ぜぬで自分達が置かれている状況を気にしなくなった。人類は巨人達に追われた籠の鳥であることを」

 

 右前方に巨人が歩いている。

 奇行種ではないようだし、こちらに背を向けているので気付いていない。

 目で示し合わせて左へと向かう。

 じーさんの居場所を示す矢印もどうやらやや左のようだ。

 

「恐らくですけど最初は壁の1つくらい――ウォールマリアなら破られても大丈夫なシステムができていたはずなんです。100年前の巨人との戦いに恐怖していた人々が壁を破られるという事態を考えないはずがない。食糧を含めた全ての循環システムは3つの壁それぞれで独立しつつも、補助的に助けあえるようにした。それがいつの間にか3つともなくてはならないようになってしまった。1つでも崩壊したら危険なのにそれが無くなるなんて思わなくなった。巨人の存在をとうの昔の生き物と捨て置いて。訓練兵団では立体機動の技能伝承のためと称して、成績上位者は憲兵団へ優先的に入団できるシステムも危険な兆候だったんだと思います。強い兵が前線に行かなくなっちゃいけないのに」

 

 空気が重い。

 レナは馬を操りながらメモを取るという日常生活で役に立たなそうな無駄に華麗なテクニックを見せていた。

 アレクさんとクレアさんは思い当たることがあるのか、顔を顰めている。

 

「そうして起きたウォールマリア陥落。破られることを想定しなかった為、食糧も住む場所も碌に考えていなかった。そうして残された選択肢は1つだけ――――いなくなってしまえばいい。何処か遠くへ()って貰おう、と。だから今回の出陣の目的は――――」

「アオイ君それ以上言わなくいいっ!! これ以上は聞きたくないっ!」

「アレク……」

「……すいません」

「あ、いや……声を荒げてしまって済まない。ははは、こっちが聞いた癖に情けないな。的確に説明されて驚いてしまった。エルヴィン団長も似たようなことを言っていたのにな」

 

 突然、こちらの声を遮るようにアレクさんが叫んだ。

 冷静になった後は、平静を装っているが手綱を握る手は少し白くなっている。

 クレアさんは心配そうに恋人の姿を見つめていた。

 レナはメモを取ることに集中しているのか顔を俯かせその表情は読めない。

 

 アレクさんもたぶん遣る瀬無いのだろう。

 人を死なす為に立てられた作戦なのだから。

 だが俺はそれ以上に自分の変化に戸惑っていた。

 

(俺ってここまで口が回っただろうか。どうにも最近物覚えも良くなっている気がするし、若いからなのかね……まあ、いっか。悪いことではないし)

 

 もしかしたら知性の所為だろうか。

 疑問を抱きつつも現在はそんなことに心を割いていても仕様が無い。

 

 そう結論付けたところで、暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように彼は喋る。

 

「いやいや、さすがエルヴィン団長期待の新人君だ! 入団したら是非ウチの班に入って貰いたいよ」

 

 空気を呼んでもう一人も追随する。

 

「そうだね! アオイ君のシガンシナ区での活躍も聞いてるんだよ。把握しているだけでも、巨人討伐数3。さっきのも入れれば討伐補佐1も加わるね。こりゃあお姉さん達もうかうかしてられないなぁ~」

「それだったら今までの1年間で10体くらいは巨人を倒してるんですけどそれも含まれるんですかね」

「10体も倒しているのかい!? あーーー僕は討伐数9体だから1年で追い抜かれたのか。少し自信なくしちゃうなあ」

「そんなことないですってアレクさん。俺の場合、夜目が利くから夜に闇討ちしただけですし、相手も3mや5mクラスの小型でしたから」

「アオイ君、それは謙遜し過ぎだなぁー。普通は兵士30人で1体の巨人を討てるって言われるんだから。まああくまで碌に戦わない一般兵の話で実力派の我ら調査兵達なら多少の不利は引っくり返すけどね。ただ、それでも勝つのは想像以上に厳しい面はある。だからどんな状況下でも巨人を降して生き抜いてきた君は、胸を誇っていいんだよ。レナちゃんもそう思わない?」

「え?」

 

 かきかきとメモり中だったレナは、突然声を掛けられて、目を白黒させている。

 どうやら自分に話が振られるとは思っていなかったようだ。

 困惑した表情を浮かべつつも返事を返す。

 

「そう、ですね。兄さんはちょっとおバカですけど、強くて優しくて――とても尊敬できる人です。だからワハハと笑っていればいいのではないでしょうか?」

「う~~~ん褒められて、いるのか?」

「褒めてる褒めてる、アオイ君はレナちゃんに愛されてるねぇ♪ まあ私のアレクに対する愛には敵わないけど!」

「嘘だな。俺の方がクレアを10倍は愛している」

「じゃあじゃあ私はそのさらに100倍は愛しているからっ」

「クレア……」

「アレク……」

「リア充はあっちに逝っててくれ…………」

 

 忘れてた……こやつらバカップルだった……。

 そんなキャラは104期のアイツらだけで十分だっつーの。

 なんで巨人でもない相手で俺はこんなに疲れているのだろう。

 これでも馬に乗って疾走中だ。

 戦場でいちゃこらしている先輩方を余所目に本来の目的であるじーさん救出を考える。

 

(前方の人々にかかりきりになっているのか、巨人達は俺達の存在に気づいていない。だが壁が近い。おそらくトロスト区の門もそう遠くないはずだ。じーさんは撤退できたのか?)

 

「あ、壁が近くなってる」

「レナ?」

 

 レナは前の方を見ている。

 馬が蹄で大地を駆けるたびに悲鳴や怒号が大きくなっている。

 大型の巨人なら何体かいるようだ。

 

 俺達は進路を北西に向けて巨人達を避けるように行動していた。

 アレクとクレアさんは調査兵団謹製の馬を失わない為にどこかしらの門から入らなくてはならない。

 壁上に登って終わりというわけじゃないのだ。

 たぶん周り込んで門を目指すのだろうが――

 

 その時、アレクが大声を上げた。

 

「あれは――――ネス班長!? シス先輩とトーマ先輩も! なんでここで戦っているんだ!? 確か先に撤退していたはずなのに……」

「あれを見てっ! 馬が1頭しか見当たらない……。たぶん馬が居なくなっていまったから逃げるに逃げられない状態なんだと思う!」

「拙いな……どんどん巨人達が寄っていっている。10体はいるぞ。民間人まで交じっているようだしどうすればいいんだ」

 

 右方向には距離は300m程。

 巨人達と戦う3人の兵士。

 10人前後の武装していない人々が右往左往していた。

 逃げればいいのだろうが腰が引けてしまったのか、ただのオブジェクトみたいに震えているだけに見える。

 

 そこで俺は気になる人を見つけた。あれは――

 

「じーさん!?」

 

 お気に入りのこげ茶色のシックなコートに身を包んだ白髪の男性。

 怪我を負った若者を必死に巨人達から離そうしている。

 だが歩みは遅いけれども巨人達は確実に人々へと近づいていっている。

 

 門近くで民家が周辺にあり、それが巨人達の歩みを妨害しているのも大きい。

 追い詰められながらも有利な地形で戦闘を行っているのはベテランらしい味を出している。

 

 だがそれより、

 

「遠目だが確かにあれはじーさんだ! 間違いない、レナッ!!」

「は、はい」

「あの赤い屋根の家の下にコートを着ているお爺さんがいるだろう? 周り込んで一緒に逃げるんだ!」

「じゃああれが――」

「ああ! 俺の祖父であるアレスじーさんだ。俺はあの人達と協力して巨人と戦う。だからこれはレナにしか頼めない事だ……頼めるか?」

「もちろん! 頑張って兄さん。ここを抜ければ――」

「ウォールローゼに撤退だ。さっさとお家に帰って飯でも食おうぜ!」

「うんっ!」

 

 レナは俺達と離れ、左から周り込んでじーさんの元へと向かう。

 

「あそこに君のお爺さんがいるのかい?」

「ええ、だから俺はネスはん――あそこの兵士達と協力してなんとか撤退しようと思います」

「本来なら力づくでも止めたいところなんだが……」

「そういってる場合じゃないよ! あのままじゃジリ貧だよ、先輩達を助けないと!」

「だな、済まないアオイ君、もう一度手を貸して貰ってもいいか? 数が多い以上戦える人が欲しい」

「俺も祖父を助けたいですし、当然手伝います!」

「よし! じゃあ突っ込むぞ!」

 

 俺達は巨人と戦闘を繰り広げているネス班長達と合流すべく馬を走らせる。

 

 家々に挟まれた隘路で立体機動を繰り返し巨人の攻撃を避けるネス班長達。

 背を向けたいが、家は川字に3軒ずつ建っているだけでそこからは平地になっていた。馬がいない以上自分の足で走らないといけない。

 

「やめ、やめてくれぇぇぇぇえぇぇぇぇ――がぼ!?」

「ひいぃぃぃ!!」  

 

 民間人の一人が巨人に喰われる。

 目の前で喰うという原始的行為に男は怯えていた。

 戦いなんてものじゃない、ただ一方的な捕食行為がそこでは展開されている。

 

「ネス! やべぇぞ、ガスがもう残し少ない! うお!?」

「そんなこといっても仕方ねぇだろう! ここを切りぬけなきゃ逃げれないんだからな! トーマっ、いけるか!?」

「これでもう一体!」

 

 うなじを削ぎ取り巨人が倒れる。

 だが、

 

「オォゥ――」

「しまっ――がは!?」

「トーマットーマッ!! 生きてるかおい!」

「かろうじて……だが糞ッあの野郎死ぬ間際に殴ってきやがって……左手が動かねぇ」

 

 やばい! 

 どうも見ても圧倒的不利な状況へと追い込まれている。

 俺は大声でネス班長達に伝える。

 ついでに奴らの気を引けたら儲けものだ。

 

「支援に来ました! こっちで何体か引きつけます!」

「「「ォォォォ――」」」

 

 よっし3体引っかかった!

 ぐるりと首を振り向かせた巨人は3~5m級。

 動きは早いが俺はいち早く馬から飛んで回避行動に移る。

 ネスさん達の近くに2体。

 俺を追いかけ始めた3体。

 もう5体は少しマップ表示で見えないが少々離れた位置にいるようだ。

 

「おお、助かるぜ! 1人怪我しちまってどうしようもねーんだ頼むぜっ」

「ネス班長、俺達もお手伝いします!」

「アレクにクレアかっ! はっは地獄に仏とはこのことか! じゃあそうだなガスを交換してくれ! お前達は避難に遅れた民間人達を引き連れて逃げてくれ。俺もシャレットと一緒に隙を付いて逃走する!」

「「了解しました!!」」

 

 アレク&クレア組は撤退支援。

 負傷したトーマさんと民間人達も逃げ始めたようだ。

 ネス班長とその相棒のシスさんはアレクさん達のガス管と交換し、立体機動で巧みに巨人達を翻弄し始めた。

 

「お爺ちゃんは私の馬に乗って!」

「お前さんは――」 

「シャンレナって言います。兄さん……アオイさんに助けられてここまで来れました。彼も一緒に戦っているので早く逃げましょう!」

「アオイ……アオイじゃと!? 生きて……いたのか……」

「お爺ちゃん!? 泣くのは後にして早く行こうっ。兄さんはとってもとっても強いから大丈夫!」

「う……アオイ、儂は――」

 

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 状況は確実に傾き始めている。

 

 そう――だから対応が遅れた。

 後方から来る敵が想像以上に素早く動いていることに。

 

 ぞわっ……。

 

(な――――っ!?)

 

 急速に膨れ上がった殺気。

 一気に警鐘を鳴らし始めた生存本能は俺に回避行動を促す。

 巨人の手を掻い潜りながらアンカーを屋根に設置。

 立体機動装置のファンがガスを排出しながら回転しウインチが耳触りな金属音を鳴らし始めた。

 

 俺が驚愕の表情で後ろを振り返ると――

 

 ドォォォォォォンッッッ!!!

 

「ぐゥう――はぁぁぁッ!?」

 

 俺やネス班長にはわき目も振らず後方の人々へと突撃する巨人。

 巨体が通り過ぎたことで巻き起こされた突風でバランスを崩し屋根に叩きつけらた。

 肺から空気が強制的に吐き出され意識が一瞬遠のく。

 忘れていた。

 巨人の中で厄介なタイプがいることを。

 

「奇行種……かよ……」

 

 ふらふらとよろけながらも立ち上がる。

 だが周囲を見たとき俺は絶望的な状況に追い込まれていたのだと理解した。

 

 奇行種であろう巨人はこれまた10m級でぐったりとした民間人を笑顔で喰らっていた。

 ネス班長とシスさんは気絶しているのか屋根の上で倒れている。

 それ以外の人間も先程の衝撃からか瓦礫の下か蹲るようにして地面に転がっていた。

 一瞬にして希望が砕く事態。

 ふざけてやがる。

 どこまで神様は俺達を追いこめたいんだ!

 

 ドクン

 

「ゥゥゥォォォ!!」

 

 巨人達が群がり始めた。

 ある者は胴長短足。

 ある者は怒り顔。

 ある者は手が異常に細い奇形。

 

 どいつもこいつもスキップでもしたいのか、体重を感じさせない足取りで寄ってくる。

 レナは頭から血を流し、シガンシナ区で無くなった母親のような態勢になっていた。

 じーさんはもうつ伏せで動かない。何故かカルラさんを思い起こす。

 俺はまた駄目なのか?

 

 ドクン!

 

「――――く……」

「う…………ゥ」

 

 離れているのに大切な人達の呻き声が耳の傍で聞こえる。

 走馬灯のように流れ始め俺を追い詰める。

 遣る瀬無い。

 

 だが俺は自然と腕を動かしていた。

 カランカランと折れたブレードを外し新たな剣を付け引き抜く。

 ギャリッ! 音がして火花が散った。

 

 ドクン!!

 

 不意に目の前が暗くなったと錯覚する。

 巨人が日を隠しているわけじゃない。

 太陽は今だ肌を焼くほど俺を照らしている。

 意識がハッキリしているのに俺は水の中にいると思えるほど体が鈍い。

 心のどこかで臆病な俺の声が囁く。

 

 ――死にたくない、早く逃げよう――

 

 声を荒げて反論する。

 

 ――ふざけるなっ! みんなを置いて逃げるのか!?―― 

 

 耳触りな声でさらに返された。

 

 ――世の中、出来ることと出来ないことがある。諦めたって誰も責めやしないだろう? 俺は全力を尽くしたんだから――

 

「――ざけんな……ざけんな、ざけんじゃねぇーーー!!」

 

 剣を降るって目の前の暗闇を切り裂く。

 体に纏わりついていた倦怠感が風と共に吹き飛ぶ。

 ビリビリと全身に稲妻が走り、毛が逆立ち、全身の血液が沸騰しそうだった。

 

 ドクンッ!!!

 

 くるくると2刀の剣を振りまわす。羽のように軽い。

 翼が生えたと錯覚するほど体は軽やかだ。

 今ならどんな敵だって切り倒せると確信を持って言える。

 

 1歩、確かな足取りで前へと進む。

 脳裏には人類最強の男といつも家族を大切にしていた少女の姿が浮かぶ。

 

 世界が緩やかに動いていく。

 全てが――――遅くなっていく。

 俺はその中を普通(・・)に歩く。

 

「俺は生きて……生きて皆と……帰るんだ……だからとっとと退きやがれぼけくそがぁぁぁ!!!」

 

 トリガーを引き、剣を振るいながら俺は巨人の群へと立ち向かった――

 

 

 

 スキル取得!

 【才能】激情の守護者:1対多数の圧倒的不利な状況で戦闘を行うと10%の確率で全能力中上昇。『誰かを守る為なら、自らの魂を穢し、野獣になっても構わない』。天賦スキル『リミッター解除』を習得するための必須スキルの1つ。4つの才が会得した時、人は人を超える存在となる。

 

 

 

 




次回は大暴れの回。

補足

ディータ・ネス(ネス班長):調査兵団に入ったエレン達、新兵の教育も担当した人。自分の馬にシャレットと名付け大切にしている。禿げていることを気にしているのかバンダナで頭を覆っていたりする。部下思いで奇行種出現時はアルミンのところへ行かせたくないと、仲間のシスとともに巨人を討伐する腕前も持つ。女型の巨人と交戦して死亡。

ルーク・シス:ネスと2人で奇行種を討伐できる凄腕。女型の巨人と交戦したが握りつぶされ死亡する。

トーマ(性不明):ミケ・ザカリアスの部下。伝令係としてエルミハ区やストヘス区といろんな場所へ向かう。一応生存している模様。


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