VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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オルオさん登場。

ただそれだけではなく――


正しいと思うなら

 動こうと思えば動けるのだがまだ安静にしていなさいとエルヴィン団長に言われこの数日間は部屋にずっといた。

 それと最初聞き忘れていたが、ここは調査兵団本部らしい。

 見舞いに来たアレクさん達に聞いた。

 3000人ほどの兵士がここで働いているらしい。

 

 いまさらだが調査兵団は唯一壁外に遠征し、王政府の拡大政策を担う兵団――なのだが普段は巨人との戦闘を想定した訓練と長距離索敵陣形等の戦術を教え込んでいる。

 壁外での活動においては独立した作戦立案と指揮命令の権限を持っていたりもする。

 とはいえ巨人との戦闘で一番戦死率が高い兵団だからくる人は少ない。

 その分、アットホームというか皆良い人ばかりなので色々な人が見舞いに来てくれた。

 団長は先日来たし、ハンジさんやミケさんも来てくれた。

 ハンジさんは巨人の生態について病んだ目つきで問い詰められ、ミケさんにはいつもの様に匂いを嗅がれ鼻で笑われる。

 ただリヴァイ兵士長が居たような気がしたのだが彼とは会うことは無かった。

 俺やレナ達を助けてくれたのはリヴァイ兵士長(まだ兵士長ではないようだが)らしいので、いつか彼とも話してみたいとも思う。

 お礼が言いたいからだ。

 話しかけた瞬間、目で殺されそうな気もするけど。

 

 

 

 

 

 そんなある日、見舞い次いでにとネス班長が昼食を持ってきてくれて、そのまま雑談していた。

 

 良い天気――とは言えない春の雨音が窓を打ち鳴らす。

 暗い曇天の空。

 昼間でも日が沈み始めたようなほど部屋は暗かった。

 部屋の雰囲気は別にそうでもないのだが、天候に影響されたからか自然と話の内容もしっとりしたものになっていく。

 無事でよかったとか、シガンシナ区のみんなも心配していたとか、避難民と兵士の間で騒動があったことなど……。

 

 ただそんな会話をぶち破るような人物が今日は途中からやってきた。

 バタンと部屋の空気をうち壊すように扉を開けた人物。

 

「へーーーっ、お前がシガンシナ区で奮戦した子供なんだよなぁ? ガキでも大人並みにがっしりした体格かと思えばそこまででもねーし噂はやっぱり噂ってわけか~」

 

 突如、部屋に強襲してきた人物こそオルオ・ボザドという人であり、そこ抜けに明るい口調で話しかけてきている。

 若干キャラが違うような気もするが、俺が知っているこの人はあくまで4年後であり、入団当時はまだ違うのかもしれない。

 

 オルオ・ボザド……公式が予後不良などと言われた『進撃の有馬記念』というイベントではハンネスさんに続き、人気投票では第2位になるなど原作でも愛されていた人物。俺も個人的にこの人が大好きだったりする。

 巨人化できるエレンを監視することを目的に設立されたリヴァイ班の一員でもある。精鋭である班の中ではリヴァイに次ぐ39という巨人討伐数を誇り、その実力は確かなものだ。リヴァイ兵士長に心酔してからか、口調を真似て同班のペトラに気持ち悪がられたり、エレンに自慢話をしてる時いきなり舌を噛んだりとコメディリリーフ的な存在でもあるどこか憎めない人だ。

 最後は班員を目の前で殺され激怒、徹底的にうなじをガードしていた女型の巨人に初めて刃を通すも硬化能力でガードされ無念の内に殺された人だ。絶対に助けたい。

 

 そんな大人物の襲来に驚愕しながらも、努めて平静を装っていた。

 見舞いに来てくれたのであろう人に失礼だと思ったからだ。

 ただ同じ部屋にいたネス班長の方が眉を顰めながら怒り始める。

 そう言えば新兵の教育はこの人が担当だった。

 

「こらオルオぉ! 病人の居る部屋に野次馬根性まる出しで入ってくんじゃねえ!! ちったぁ常識ってものを考えろっ!!」

「おわぁネス班長ですか!? お疲れ様です! これは……あれですよ、気の滅入る雨雲を少しでも吹き飛ばすようにしようっていう――」

「だったらその元気を外で使って貰おうか。本部の外周を50周くらいすれば雨雲が吹き飛ぶかもしれんぞ?」

「すんません調子乗りましたぁ! 訓練が終わったばかりでまたランニングは勘弁してください!」

「始めからそう言えばいいんだまったく……アオイ君済まないな、こんな馬鹿な部下で」

「ははは……」

 

 さすがにオルオさんも先輩には敵わないようだ。

 俺はどういえばいいか判らず、苦笑いをして誤魔化した。

 でもどうして彼が来たのだろう?

 接点らしい接点もないのだけど、そこまで俺は有名なんだろうか。

 自分ではいまいちピンとこない。

 

「それで……ボザドさんはどうしたんですか。何か用事でも……」

「ボザドなんて水臭いな、オルオでいいっての。いや~俺もお前くらいの兄弟がいるからな、どんなもんか見に来たんだよ」

「オルオ……お前な」

「おっとそれだけじゃないぜネス班長! これだよこれ!」

「これ、はトランプ?」

 

 オルオさんがポケットから取り出したのはどこからどう見てもトランプだった。

 数字や絵柄などは若干違うけど、AやKなどはまったく同じ。

 というかトランプあるんだなこの世界って。

 いやそう言えばチェスとかもあったから普通にあるのか。

 オルオさんは頬を掻いて照れくさそうにしながら、

 

「これでも弟の相手もしてたからな、風邪とかで暇してた兄弟や近所の奴らとはよく遊んでいたりしてたんだぜ。まあというわけで――遊ぼうぜ! ほらネス班長も入ってくださいよ、メンツが足りないんすから」

「お前と俺は勤務中なんだがなぁ……まあお前の考えはわかった、ちっと遊ぶか!」

「オルオさん……ありがとうございます!」

 

 どうやらオルオさんは俺が暇してるんじゃないかと思いトランプを持ってきてくれたようだ。

 なんだかんだで世話好きな人なのかもしれない。

 原作ではエレンにも結構絡んでいた。

 見方を変えれば後輩想いの先輩タイプなのかもしれないな……。

 

(考えてみたら、遊ぶなんてシガンシナ区以来だ。ここは童心(今は子供だけど)に戻って遊ぼう!)

 

 そう思っているとオルオさんがいきなり悪い顔をしながら、

 

「ネス班長、ちょっくら飯でも賭けないっすか?」

「お前なぁ~~!」

 

 賭けごとのようだ。

 おい待ってくださいやオルオさん。

 凄く手なれた手つきでトランプをシャッフルしてるんだけど、結構実力ある人なのか?

 

 微妙にさっきの良い話が台無しになっている気がする。

 残念なところもこの人のクオリティといったらそれまでなのだが……。

 

「まあまあ、昼休みの一勝負! 夜のおかずが一品増えるかもしれないんだからいいじゃないですかい」

「アオイ君も巻き込んでか?」

「アオイは関係なくネス班長とだけですって。勝負はポーカー10本勝負。勝利数で勝った方が奢るってことで。アオイは奢るペナルティ無しで俺達に勝ったら折半して奢るっつーことでどうだ?」

「まあ、ペナルティ無しならいいですけど……」

 

 正直ポーカーはルールは知っているけど頭を使う類のものだし強くない。

 勝負運もある方でないし。

 ただいい暇つぶしではあるので了承した。

 ネス班長は腕を組んでむむむと唸っていたが決まったのか、

 

「よっし、判った。先輩の意地って奴を見せてやる」

「おっしゃあ、先輩だからって容赦はしないんで注意してくださいよ! 近所じゃ負けなしのポーカー達人のオルオ様の実力を見せてやあふッ!?」

「あ、噛んだ」

 

 さすがオルオさん、初めて見たけどバックが光っているような錯覚さえして神々しさを感じる噛みっぷり。

 アニメならここで盛大に血飛沫が飛び散るシーンになるだろう。現実じゃさすがにそうならないけど。

 かみまみたみたいなワザとらしさとあざとさはまったくなく、蹲って痛みに耐えている。

 すんごく痛そうなんだけど俺は俺で笑いをこらえるのに必死だった。

 

(すいませんオルオさん、悪いとは思ってるんだけど……あまりにも華麗な舌の噛みっぷりだったので……)

 

 ネス班長はまたやってるよコイツとあきれ顔。

 どうやらいつものことらしい。

 

「……兎に角勝負だ!」

 

 数秒して立ち直ったオルオさん。

 ただ勝負は大荒れに荒れた。

 外の天候もかくやと言わんばかりにそれぞれ強カードが舞い込む。

 必ず誰かがフルハウスやストレート、フラッシュをかまし、しまいにはジョーカー無しのフォーカードまで飛び出す始末。

 気づいたら全員3勝状態でラスト勝負となっていた。

 全員一回引き直したところでカードオープンとなっていたが、俺の手役は、

 

(やべえ……すんごくいい! めっちゃついてるなぁ!)

 

 思わずガッツポーズしてしまった。

 やっぱり男というのはいつになっても馬鹿というか、勝負事に熱くなってしまうようだ。

 ただの遊びなのに始めてしまったら止まらなくなり、オルオさんもネス班長もどうやらグッと拳を握っている。

 かなり良い手札が入ったようだ。

 やるからには勝ちたい。

 この手札なら勝ちにいける!

 

「これで終了で」

「俺もだぜ! これなら勝てるだろう!」

「こっちも最強の布陣だ……先輩の意地って奴を見せてやるよ」

 

 ふっふっふ……と不気味な声を上げる。

 そこには3人の勝負師が確かに存在した。

 

「「「オープン!!!」」」

 

 オルオさん――全てハートマーク……フラッシュ。

 俺――K(キング)のフォーカードでジョーカー2枚込み。

 

「まっじかよ!? ふっざけんなよ!?」

「(おおこのセリフを聞くことになるなんて)……オルオさん悪いですね……俺の勝ちで――」

「ふっふっふ……いや違うな……」

「ネス班長?」

「まさか……」

「俺の勝ちだなぁーーーー!!!」

 

 ぺらり。

 

 スペードの9、10、J、Q、K……ストレートフラッシュ。

 

「まっじかよ!? ネス班長ふざけ過ぎじゃないですか!?」

「ストレートフラッシュ…………しかも9がAならロイヤルストレートフラッシュじゃないですか……どんだけ運いいんですか班長……」

「はっはっは! 先輩の意地って奴だ! ってーわけでオルオの奢りだな!」

「ちくしょーーー!!」

 

 ドタタタタと猛ダッシュして部屋を出て行くオルオさん。

 まじで負けたのが悔しかったらしい――と。

 

「アオイ! それはやるからまた、勝負したかったら言ってくれよ! 楽しかったぜ!」

 

 戻ってきてそう言った後また去っていった。

 なんだかんだで決めるところは決めてくれる人だ。

 だからなんだか憎めない。

 

「じゃあ俺も午後の訓練があるからな」

「あ、はいトランプに付き合って頂いてありがとうございました」

「おうじゃあな――っと」

 

 ネス班長も立ち上がってドアの方へ行こうとしたとき裾が引っかかって転びかける。すると――

 

 バラバラ……。

 

 カードが数枚、裾の中から零れ落ちてきた。

 

「………………」

「………………」

 

 静寂が満ちた。

 雨音がぱちぱちと窓を叩く。

 

「……ずっこくないですか…………?」

「…………先輩の意地だよ……」

「そんな意地はドブに捨ててください」

 

 イカサマ先輩にそう言っておいた。

 

 

 

 

 

 次の日。

 今日も空は絶好調に絶不調で雨が降っている。

 むしろ昨日より悪化しているのか、雨粒がバチバチと窓を強く叩いていた。

 外には何故か馬車が止まっていた。

 

(あれは――?)

 

 なにか嫌な予感がしてその馬車の紋章をよく見ようとしていたところ通路で口論をするような声がした。

 ドタドタと足音が聞こえ、その音は目の前で止まる。

 バタンと荒々しくドアが開かれた。

 

「……なん――ッ!?」

「貴様がアオイ・アルレルトだな! 私は憲兵団師団長ナイル・ドークだ。軍の備品である立体機動装置の窃盗及び不正使用の罪で君を拘束する!」

「ちょ、ちょっと――!」

「抵抗はしない方がいい。御家族にも類が及ぶ可能性を考えるならな。よしっ、連れて行け!」 

 

 手錠を掛けられ、両サイドから腕を取られてそのまま連れて行かれる。

 いつか来るかもしれないとは思っていたが突然やって来るとは想定外だった。

 気が動転した俺は彼らのされるがままに部屋の外へと引きずり出された。

 

 部屋の前ではエルヴィン団長やハンジさんら分隊長が揃っていて憲兵団と睨み合っている。

 今にも剣を引き抜かんばかりに険呑とした空気だ。

 

 各兵団同士は元々仲が良いとは言えないが、特に安全な内地へ行く為に憲兵団への入団を希望する人は多く、訓練兵団の成績上位者や一定の条件を満たした人でしか行けない。そうした人たちはエリート意識も強い。もちろん104期メンバーのマルコなど純粋に憧れて入団を希望する者もいるのだが……。憲兵団の中には調査兵団へ行く人間など「頭がおかしい、信じられない」となどと声を大にして見下す人も多く存在する。

 

 調査兵団には現状を打破したい革新的な人材が集まりやすく変わった人も多い。

 そうして人達からすると、見下してくる上に勤務中の飲酒、官品の横領、賄賂など腐りきっている憲兵団に対して良い顔が出来るわけもない。

 

 結果、両陣営が睨みあうことになる。

 

「どけ、エルヴィン。これは法に則っている正式な権限の行使だ」

「もちろん判っています。ただ事前の連絡もなく、調査兵団で保護(・・)していた少年を無断で連れて行くのは越権行為が過ぎるのではありませんか?」

「憲兵団は壁内での警察業務と、王の近衛兵を担う組織だ。邪魔立てするなら貴様とて拘束する権利を私は持っているのだが?」

「憲兵団は駐屯兵団の上位組織ですが、調査兵団は独立した権限を有しています。好き勝手振舞われるのは憲兵団の師団長としてどうかと思いますね。それに彼は多くの巨人を屠ってきました。人類にとって有益な人材を不当に裁こうとすると市民も黙っていませんよ」

「愚問だな。罪は罪だ。どんな成果も関係無いし、民の意見など意味を為さない。人気者が罪を帳消しにできるなどあっては成らないことだ」

「そうですか、それは残念ですね」

「判ったならどけ。言いたいことがあるならば裁判所で聞こう」

「そうですね。では最後に――」

 

 エルヴィン団長が傍によってきた。

 小さい声で言う。

 

「安心していい。我々は君を全力で擁護する。君は君の正義を証明すればいい。必ずそれに答える者達がいることを忘れないでくれ」

「……わかりました。信じています」

「――おい餓鬼」

「えっ!?」

 

 横からスッとリヴァイ兵士長――いや兵士長じゃないのだがつい思ってしまうのだ――が突如やって来た。

 驚いて返事できない俺に気にする風でもなく話し始める。

 

「俺は分別の無い餓鬼が嫌いだ。口だけの餓鬼も嫌いだ。掃除が出来ない餓鬼も嫌いだ」

「は、はい……」

 

 それって餓鬼はみんな嫌いってことじゃ。後やっぱり綺麗好きで掃除好きなんですね。

 

「ただ」

「……?」

「知らねえ奴の為に行動して命を賭けられる馬鹿な奴は――――――嫌いじゃない。びくびくしてんじゃねえよ、胸を張りやがれ、俯くんじゃねえ! 自分《てめえ》のやったことを自分《てめえ》が信じてやれないでどうすんだ。…………今までやったことを、後悔はしてないだろう? 餓鬼が」

 

 本当にもう、何と言えばいいのか……。良い人ばかりで、泣きそうだ。

 凄い人達ばかりで俺なんてまだまだだと思う。

 でもここで俺がすることは泣くことでも感動することでもない。

 

 胸を張って前に行こう。

 だって、俺はみんなを救いたいから戦ってきたんだ。

 エレン達もカルラさんもハンネスさんもフ-ゴさんも――シガンシナ区の皆を守りたかったから。

 

 なにも恐れる必要は、ない!!

 

「――はいっ!!!」

「いい返事だ。餓鬼はそんぐらい馬鹿でいい」

「おい連れて行け」

 

 一瞬だけ口元を緩めたリヴァイ兵士長(もう兵士長でいいと思う)。

 後ろで待っていた憲兵が俺を拘束し連れていく。

 連れられた場所は奇しくもあの有名な場所。

 巨人化できるエレンの是非について議論された場所で行われるのだった。

 

 春の嵐はまだ吹き荒れていた。

 

 

 

 

 




ナイル・ドーク登場。悪い人じゃなさそうだけど今回は完璧悪役扱い。
いやほんと悪い人じゃないですよ、たぶん。

エルヴィン団長を通り越してリヴァイ兵士長が〆。
熱血気味だけど、やっぱりこういうセリフが似合う人ですね(*^_^*)
熱すぎではと思いましたが、アニメの8話あたりで致命傷を負った部下相手に「お前の意思が俺に力を与えてくれる! すっとだ!」だったかを語っていますし結構熱いところがある人物だと思います。だからペトラなども心から信頼しているのでしょうし。

調査兵団は何度も壁外調査を繰り返して850年時は300人の大隊規模になってしまうけどどうしようかな……。

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