VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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ある男の決意、そして裁判へ――

 進撃の巨人には3つの組織がある。

 憲兵団、駐屯兵団、調査兵団の3つだ。

 詳しい任務を語ると長くなるため簡単に言えば――

 

 憲兵団(紋章は盾にユニコーン)――王の近衛兵、警察業務

 駐屯兵団(紋章は2つ薔薇(ばら))――壁の守備と防衛、壁内地域の防衛

 調査兵団(紋章は重ねた翼)――壁外の調査、王政府の拡大政策を担う

 

 この3つの組織の重鎮が一堂に会することは早々にない。

 平兵士レベルならまだあるとしても、役職のある人間などが話し合うことはそれだけ重要であるということだ。

 だから俺は裁判所の地下へ連れて行かれる途中で見た光景が忘れられなかった。

 それは一瞬の事だった。会話は無い。

 すれ違ったとき見た人。

 スキンヘッドの男性。

 そう――

 

(ドット・ピクシス――なんであんな超重要人物が裁判所に顔を出していたんだ……?)

 

 ドット・ピクシス……駐屯兵団の司令官にしてトロスト区を含む南側領土を束ねる最高責任者。生来の変人としても有名で「女の巨人なら喰われてもいい」と公言する変わり者。だがその能力は非常に高く、トロスト区奪還作戦ではほぼ直感でエレンの巨人化能力を利用し、大岩で門の封鎖するという前代未聞の大作戦を敢行――成功させた。

 だがそれ以上に重要なのは彼が司令官であるということだ。その発言力はエルヴィン団長や師団長のナイル・ドークを遥かに凌ぐものがあるだろう。

 

 つまりVIP中のVIPというわけだ。

 そんな大人物が何故裁判所に訪れていたのか分からない。

 俺が関わっていないことを密かに願っておく。

 話が大きくなり過ぎて、一市民な俺には荷が勝ち過ぎる事態に成りかねない。

 いやもう手遅れな気がしないでもないけど。

 

 そう考えながら裁判の日を地下牢の中で待っていると誰かが牢屋へと近づいてきた。

 その人とは――

 

「やあ、アオイ君、久しいな。君にはほとほと驚かされるよ」

「アオイ! う……無事で、……無事でよかったッ。本当に……よかった……。カルラに託されたお前を失ったらアイツになっていったらいいか……」

「この馬鹿やろう! 門兵の皆が心配してたんだからなコノヤロウッ!」

「みんな……」

 

 面会に来たのはリコ、ハンネス、フ-ゴの3人だった。

 

 

 

 

 

「うぅっ……ほんと俺はよぉ……エレン達に申し訳ねえって……うく……ずっと思っててよぉ…………。あの呑んだくれてた時代がほんと幸せだった。だから頑張っているけど……ひっく」

「ハンネスさん……」

 

 涙ながらに語るハンネスさん。

 俺も貰い涙をしたいところなんだけど……。

 

「凄く……お酒臭いです……」

「まったく! トロスト区の駐屯兵団部隊長にも昇進が決まっているのにこの体たらく! もう少しシャンとしてくれないでしょうかっ!」

「まあまあ、ハンネスはお偉いさんや例の件(・・・)で色々走り回っているから仕方が無いって。今日も遅くまで酒席に付き合っていたしな」

「例の件……ですか?」

「ああ、そこは気にしないで。こっちも忙しくてね。それよりハンネスさんじゃないけど……嬉しいよ、無事に帰ってきてくれて。君と出会ったのは1日と少ししか無いけど、想い出として残っていたから。まあ説教が大半だけどね」

 

 ハンネスさんは感極まったのか、お酒が残り過ぎた影響かは知らないが、まだ体に酔いが残っているそうだ。

 とりあえず、独白し始めたハンネスさんを後目にリコさんとフ-ゴさんが嬉しそうに話しかけてくる。

 

「お前には助かったぜ、ほんと。あの鎧の巨人は別格だって今なら言えるが、あのときは動揺していた。正直、お前が時間を稼いでくれなかったら俺はあのとき死んでいたんじゃないかって、思う。今でも体の震えが止まらないときがあるくらいだ」

「そんなことないですよフ-ゴさん。俺はただ一人でスタンドプレーをしてたんですから」

 

 嘘だ。

 フ-ゴさんはあのとき死んでいた可能性が高かった。

 実際、棒立ちしていたのを俺は遠くからだが見えていた。

 あのまま立っていたら、鎧の巨人が行う突進に巻き込まれていたかもしれない。

 そういう意味では俺のしたことは無意味では無かったのかもしれないがそれを言っても仕様が無い。

 

「だがお前の行動に救われた命は少なからずいるんだ。逃げ遅れていた市民もほとんどがシガンシナ区から脱出できた。誇っていいぜ。だからこそ――今のお前の現状が俺は許せねぇ」

「フ-ゴさん……」

「私も同感だ。人類が一丸となって戦わなくてはならないこの難事に罪がどうというのは見過ごせない。憲兵団は些か状況が見えていない。君とシガンシナ区で出会ったあの頃……少々宜しくない方法で教えを乞うていたが、強くなりたいという姿勢を私は評価していたんだ。ここで見過ごすことは出来ない」

「リコさん……フ-ゴさん……ありがとう、ございます。その気持ちだけでも、俺は心強いです」

「ふふ♪ 漢の顔になったな……昔とは大違いだ」

「え?」 

 

 眼鏡の奥で柔らかな笑みを浮かべる。

 リコさんは俺の疑問には答えず背を向ける。

 ただ雰囲気はとても優しい。

 

「いや1人言だ。それより、そろそろ行こう。直ぐではないが、多く時間があるわけでもないしな」

「そうだな。ほらハンネスも行こうぜ」

「お……おう……」

 

 フ-ゴさんに引き起こされて立つハンネスさん。

 リコさんとフ-ゴさんが階段へと向かうなかハンネスさんは一度振り返った。

 

「アオイ……俺は情けない奴だ……」

「いや、そんなことは――」

「慰めはいらねぇ……。今でもカルラに責められる夢を見る。どうして私を見捨てたの!? ってな」

「それは……」

 

 あのときは仕方が無かった。

 むしろ責めるなら未来を知っていたはずの俺が責められるべきだ。

 カルラさんの死の運命を避けることだって出来たのだから。

 

 だがハンネスさんは涙交じりのまますぐ脇の壁を叩く。

 顔を伏せてもう一度、壁をドンと叩いた。

 

「だが! だがな……最後は笑うんだよ……。子供達を助けてくれてありがとうって! 安心したような笑みで! お前を救えなかったのにだ! でも今なら判る。お前は生きていたから。ちゃんと大人の助けも無く生き続けてきた! それは俺の心の奥底で願っていた夢想だったのかもしれねぇ……」

 

 ググッと拳を握る。

 顔を上げた。

 そこに居たのは決意を胸に秘めた1人の男だ。

 苦しみを耐え抜いた……漢の……顔だ。

 

「だが俺ぁ決めたんだ……子供が笑える未来を作ろうってな。お前達が笑える未来を作ろうって、決めた! だから死なせねぇ!! アオイもエレンもミカサもアルミンもそれ以外の子供達もだっ!! 糞ったれな大人の事情で死なせるなんて言語道断だ! そして俺は酒を飲んでお前等に注意されていたあの頃を取り戻すために――――もう逃げることはしないと誓った!!!」

「ハンネス……さん……ッ」

 

 それを泣きながら言うのは反則、ですよ。

 

「泣いてんじゃ、ねえよ! まだなにも始まって、ねえからな!」

「ハンネスさんだって、泣いてるじゃ、ないです、か!」

 

 無理だ……これは泣くなっていう方が、無理だ。

 この前も泣いたのに、泣いてばかりだって指摘されようとも、これは無理だ。

 誰よりもいい人で……誰よりも人間臭いこの人が涙ながらに語った決意。

 巨人が相手でもないが、言葉は凄く重みがある。

 何十年も生きた人でなければ不可能な、想いという重みだ。

 弱さを認めて、克服できる、心の強い人だから。

 ごしごしと服で涙を拭う。

 ハンネスさんも同じ動作をする。

 別れる前に語った言葉を俺は終世忘れることはないだろう。

 

「シガンシナで……酒でも、呑もうや」

「子供ですよ自分は」

「細けぇこたあいいんだよ。お前は大人びてるしな」

「……カルラさんも混ぜてなら」

「当然、墓の前でどんちゃん騒ぎしてやろうや。アイツが怒って出てくるくらい、な」

 

 去っていく。

 リコさんとフ-ゴさんはずっと前に階段を上っていった。

 空気を読んだのだろう。

 全員出て行って牢屋付近は誰も居なくなった。

 そして審判の時が来る。

 俺の運命を決める、審判が。

 

 

 

 スキル取得!

 【運命】鎖状の奇縁(さじょうのきえん):『縁を手繰り、人は繋がっていく』。見知らぬ人と出会いやすくなる。

 【運命】滂沱の決意(ぼうだのけつい):ハンネス生存確定以降、取得可能。『1人の男は悲しみ涙を流し決意する、それを見た子供も悲しませたくないと決意する』。効果無し。死の連鎖に捉えられた魂を救うほど、その効果は真価を発揮する。

 

 

 

 

 

 

 俺は中央に正座させられていた。

 後ろ手で手錠に繋がれ、輪と形成した手錠と体の間に十字架を模した鉄の柱が設置される。

 正面には、白髪と髭を蓄えた男性――――ダリス・ザックレー。兵団を統括する総統だ。

 未来のエレンと同様な状況に陥っている現状はもう笑いすら込み上げてくる。

 俺はどれだけ大罪人なのだろうか。

 

 この場にいる人物を見てもそれは言える。

 

 左手――調査兵団。エルヴィン団長以下、リヴァイ、ハンジ、ミケ。

 右手――憲兵団。ナイル以下数名(名前の知らない人達)。だがウォール教らしき人達がいる。ニック神父がいないのが救いだろうか。

 後ろ――駐屯兵団。ドット・ピクシス司令官以下、キッツ、リコ、ハンネス、フ-ゴ。

 

 今まで知り合った兵団関係者のほとんどが一堂に会している。

 まさかと思っていたピクシス司令までいるこの状況はもうどう表現したら判らない。

 混沌といっていいくらいだ。

 緊迫した空気のなか議長であるザックレーがドンドンとジャッジ・ガベル(ガベル=小槌。よく静粛といいながら叩くあのハンマーの名称。以降、小槌と呼称)を叩く。

 

「静粛に! 静粛に! これよりアオイ・アルレルトの審議を開始する!」

 

 俺の今後を占う裁判が始まった。

 最初は俺の罪状を述べたり等で開始し、とうとうダリス議長が意見を求める。

 当然、最初に手を上げたのは裁判で言うなら検察側――つまり憲兵団だった。

 

「はい」

「ナイル師団長」

「はっ! アオイ・アルレルトは処刑が妥当と考えます」

「……ッ!」

 

 予想できたこととはいえ、処刑……死んだで貰った方がいいと間接的ではあるが、言われるのと同義な意見は正直ショックだった。

 ダリス議長は表情を変えず先を促す。

 

「何故かね?」

「現在、人類は巨人によるウォールマリアの突破により、浮足だっており治安は非常に悪くなっています。避難民による窃盗、強盗、殺人などが各区で頻発しており、ここは治安の引き締めが肝要。一部の市民……シガンシナ区を中心にアオイ・アルレルトの武勇伝なるものが流布していますがこれは非常に危険かと考えます」

「そうかの。武勇伝ならいいではないかな。人類にも希望が必要であろう」

「確かに人々の希望となる人物は必要でしょう。しかし、それは調査兵団にいるリヴァイ氏でも可能なはず」

「……んだと……?」

 

 ここで飛び火したのは意外にもリヴァイ兵士長だった。

 思わず怪訝そうな表情を彼はしていた。

 議会全体も困惑したような声が漏れる。

 まだリヴァイ兵士長の実力を知っているものが少ないからだ。

 将来1個師団と同等であると称される彼の実力を。

 

「こちらの調べによると調査兵団に所属しているリヴァイ氏は5体以上の巨人に対し、単独で撃破できる巨人殺しの天才とあります」

「ふむ、それは本当かね、エルヴィン調査兵団団長」

「事実です。こちらのリヴァイは調査兵団で巨人殺しの腕に関しては随一の実力を持っています。彼1人で1個師団に匹敵する能力を有していると言っても過言ではないでしょう」

 

 裁判に於いて偽証は重罪だ。

 エルヴィン団長は少し険しい表情をしながらもそう返答した。

 傍聴していた市民の中から「おおお……!」と驚く声。

 巨人の恐怖を知った人なら特に期待を寄せてしまうだろう。

 巨人という絶望の権化を知った人々はヒーローを待ち望んでしまうだろうから。

 ナイル・ドークは止まらない。

 

「英雄は既にいます。ならばアオイ・アルレルトは必要でしょうか? 答えは否。罪人を実力があるからと言って生かしておくのはメリットよりデメリットが多い。最悪、巨人に恨みを持った人々が自分にも出来るかもと貴重な立体機動装置を盗み、無謀な戦いを挑むかもしれない。巨人と戦ったのだから罪は帳消しにして貰えるだろうと思って。それは治安維持の観点からよろしくないと考えます」

 

 暴論だ……。

 ただ憲兵団の任務にある治安維持に関しては関係ある。

 でも、それにしたってッ!

 彼の発言は止まらない。

 

「彼は機密である人類の最重要兵器、立体機動装置を不当に奪い使用しました。彼が奪わなければその装置を使ってシガンシナの兵士が巨人達と戦闘を行えたかもしれないのに。訓練兵団にも所属していない1人の少年が少なくない兵士と市民の命を奪ったのです。その罪は重いと言わざるをえません」

「待ってください! あの立体機動装置は超大型巨人が破った南門の付近にあって、他の誰も使用することなど――」

「罪人は黙って貰おう! 咎人である君の証言を誰が信じられよう。自身の都合の良いように発言するに決まっている!」

 

 くそッッ!!

 確かに俺は窓を破って保管庫に侵入したし、そこは間違っていない。

 だがあの時、保管庫は瓦礫ですぐ埋まってしまった。

 誰も使用することはできない。

 

 でもどうやってそれを証明する?

 

 あのとき付近には人がいなかった。

 近づく人はいたとはいえ、すぐ超大型巨人が襲来し、シガンシナ区は大混乱した。

 それが無くとも俺のした行為は褒められたものじゃない。

 第三者から見た俺は、正しく犯罪者……なのだ。

 ナイル・ドークの発言に市民からも疑う声が聞こえ始めた。

 エルヴィン団長も厳しい表情だ。

 

 だがその状況を打開する人物が現れた。

 

「議長、発言してもよろしいでしょうか?」

「発言を許可する」

「ありがとうございます」

 

 その声は駐屯兵団の席からだ。

 

「憲兵団の発言は、全て無意味であり議論する価値もない」

 

 それはキッツ・ヴェールマン。

 ピクシス司令から『小鹿』と言われた男の口から語られた。

 

 

 

 

 


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