VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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今回の話はご都合主義2割、屁理屈8割のある意味、非常にひどい話です。

ご注意ください<(_ _)>



規則は穿って見るものです

 一体どういった状況になっているのか未だによく判らない。

 ただ茫然としている間に憤慨していた憲兵団の一団が去り、喚き散らしていた恐らくウォール教であろう一団は摘まみだされていた。

 

 市民の方々は全員懇意にしている有識者達で、まあお金持ちさん方らしい。

 口々に頑張れよとか、期待しているなどの御言葉を頂いた。

 中にはうちの娘と~と言い始めた人も居て、玉虫色の返事でなんとか誤魔化した。

 最後に残ったのはダリス議長とその護衛、駐屯兵団、調査兵団の面々だった。

 ただ、用事があるとかでエルヴィン団長が席を外し、リヴァイ兵士長も揃って居なくなった。

 

 静かになった議会場でまだ唖然としている俺に対して最初に話しかけたのはピクシス司令だった。

 

「儂は君と話したい事があってな」

「は、はい! なんでしょうかピクシス司令!」

「ホッホッホッ、まだ正式な兵士の訓練を受けていない者が敬礼なんぞせんでいいぞ。固くなるな」

「りょ、了解です」

 

 いいと言われてもそれで親しそうに話すわけにもいかない。

 下手な口聞いたら、今も怖い表情をしているキッツ隊長あたりに何言われるか判ったものじゃないし。

 結局、不動の姿勢で話すことになる。

 

「まだ固いのぉ。まあいい。どうしてもアオイ君に聞きたいことがあったんじゃ」

「自分が知っていることなら……」

「ああ、本当にどうしても聞かなくてはならない最重要事項だ。君は嘘をついてはならん、よいな」

「は、はい!」

 

 随分と念を入れてくる。

 きっと凄く重要なことなのだろう。

 人類にとって重要な情報になるのかもしれない。

 ピクシス司令の目は真剣そのものだ。

 組織の上に立つ者が放つ雰囲気に俺は生唾をごくりと飲み込み次の言葉を待つ。

 

 

 

「――――女の巨人はおったか?」

「はい?」

「女の巨人じゃよ。無論、とびっきりの絶世の美女じゃ! 1年間も巨人が徘徊するウォールマリアを探索しおったんじゃ。1匹くらいおらんかったのかと聞いておる。美女は当然としてあとは胸が大きいのが好みじゃな。ぼよんぼよんと跳ねているのを一度じっくり拝んでおきたいの」

 

 ものすん~~~っごく真剣な表情でそう聞いてきた。

 週間雑誌の付録を開ける瞬間くらい真剣だった。

 

 ああ……そう言えばピクシス司令は絶世の美女な巨人だったら喰われてもいいって持論? があった気がする。

 何故か脱力したものを感じつつあるがままを話す。

 

「……えーとスイマセン、全部、男性タイプの巨人しかいませんでした……」

 

 するとピクシス司令は肩を竦めてがっかりしていた。

 本当に、心から残念そうに。

 

「なんじゃ……がっかりだのう……」

「え~っと……なんかすいません」

「謝る必要はありませんよ。司令は生来の変人ですから」

「お前は手厳しいのう……」

「部下ですから」

 

 後ろに控えていた部下であろう1人の女性が割と辛辣にピクシス司令を評していた。

 周囲も咎めてないところを見ると、いつものことらしい。

 「仕方ないのぉ……」と零す彼と少々お小言を言う部下を尻目に今度はダリス議長が話しかけてきた。

 今度は真面目な話のようだ。当たり前といえば当たり前なんだろうけど。

 

「さてアオイ・アルレルト君、少々宜しいかね」

「はい」

「この勲章は私とピクシス司令が王政府に要請して出されたものだ。本来なら王から直々に賜るものなのだが、兵団を統括する私が代理として君に渡した――というよりお前が渡せと言われたのだがね。元々叙勲の対象は『国に対して高い功績を上げた者』という曖昧な括りでな、それでも該当者くらいは何人かいるものだが長い間必要ともされなかった」

 

 まあ、毎日平和に暮らしてきたから「勲章? なにそれ?」状態だったのかもしれない。

 

「そしてここからが重要なのだが、アオイ君は人類が壁に籠もる前までは複数の国があったことを知っているかね」

「あ、はい。祖父の資料で知りました」

 

 地球で知りましたとかは言えないので安定の誤魔化しで。

 

「ふむ昔の資料か。それはそれで興味深いな……まあいい続けよう。昔の国では傭兵や市民の中で功あるものには勲章を与える風習があった。そしてその者を騎士として任命するなどしていたらしい。この騎士とは即ち、現代でいう兵士という扱いもできる」

「え、でも、それが今回のことと一体なにが……?」

 

 喉に魚の骨が引っかかったような感覚がする。

 なんだろう、一瞬凄く狡い大人の言い分が頭に浮かんだんだけど……気のせいかな。

 

「さて、今回の焦点はアオイ君の罪に関するものだ。これはどう言い繕っても罪に代わりない。なんらかの罰は必要になってしまうのだ。今回のことは不用意に立体機動装置を窃盗しようと企む者は重罪であると喧伝する側面もある。ただ実際に君を裁くわけにはいかない。君は人類にとって有益な存在だからな。だからこそ我々は一計を案じた。このことは有識者の皆には説明済みだし、勲章を与えるための茶番だと勘違いした憲兵団にもあとで説明するが――」

「ちょ、ちょっと待ってください! 少しだけ整理していいですか?」

「うむいいぞ」

「えーっと結局俺のしたことは罪なのでなにかしらの罰が必要ってことなんですよね?」

「そうだ」

「それで勲章を授与したのは罰……ではない?」

「当然だ。何処の世界に勲章が罰などという輩がいるのだ」

「さっき罰って言ってませんでしたか?」

「言葉の綾というものだな。結果的には罰になるとも言える」

 

 うわーなんか屁理屈になってきてる。

 そして頭がこんがらがってきた……。

 結局どういうこと?

 

 頭を抱える俺を周囲の人も苦笑いしているし。

 

「話を戻そうか。勲章の授与は兵士として君を認めるためにある。これには年齢制限がないからな。君はまだ11歳。問題となったシガンシナ区での立体機動装置使用では10歳だ。訓練兵団の年齢制限に引っ掛かる」

「……そうですね」

「なら勲章を授与して兵士になれば君は無罪というわけだ」

「あれ……なんででしょうか、一気に判らなくなったんですが……」

「勉強が足りないな」

「えー勉強の問題なんでしょうか」

「あははは! つまりだねアオイ君や」

 

 ここでバトンタッチしたのかハンジさんが朗らかに笑いながら説明する。

 

「君は超大型巨人を始め多くの巨人を討伐或いは退かした功績で勲章を授与されることとなった。ここまではいいね?」

「はい、そこまではいいんですが……」

「じゃあ一体いつ授与される事になっていたのか?」

「え?」

 

 ハンジさんはそこで仰々しく両手を広げ、まるで劇団の演目をやるかのようにわざとらしく語り始めた。

 

「功績を上げたその日に本来授与されるはずだったアオイ少年! しかし、悲しいかな巨人の襲来で人類は危急存亡の事態。仕方なく……そう仕方なく授与される日を遅らせることとなった――」

「ちょっとまって……それってまさか――」

「ああっ!! なんと運命の残酷なことか! 昔から兵士になることを切望していた彼は、勲章を授与されたら心臓を王に捧げ当然、兵士になるはずだった! そうシガンシナ区が巨人達に攻撃されたあの日に!」

 

 屁理屈だ……とんでもない屁理屈を言っている。

 

「つまりそれって――」

 

 そこで普通の口調、ただにんまりと満面の……それはとてもとても素晴らしい笑顔でハンジさんは宣う。

 

「本来ならシガンシナ区が超大型巨人に襲われた同日に君は勲章を授与されて正式に兵士となる予定でした。やんごとなき理由で(くんしょう)だけ貰えず、命令書だけは貰い兵士にはなれました。命令書は巨人のシガンシナ区襲来で消失しました。でも兵士ではあるから立体機動装置を使ってもなんら問題ありません。だって兵士だもん。まる」

「めっっっっっっちゃくちゃ屁理屈じゃないっすかーーーっ!!??」

 

 顎が外れるくらい大口を上げて叫ぶ。

 世紀の屁理屈ここに極まる!

 子供だってもっとマシな言い訳しますよ!

 

「まあまあ君も晴れて無罪放免なんだし、ね?」

「いや、そうなんですけど! そうなんですけどっ!!」

「アオイ、諦めることだな。お前が兵士になることは確定だ。一人前の兵士になれるよう鍛えるがいい」

「いえキッツ隊長、自分は兵士になるのが嫌というわけではなくてですね。こう、なにか腑に落ちない気持ち悪さがあるといいますか……」

「おーい、ダリス……お主の馬車に相乗りさせて貰ってもいいかの。部下達も含めると大人数での」

「仕方ないな、中央へ行く途中までならいいだろう」

 

 あっちはあっちでもう帰り始めてるし。

 

「いいじゃねえかアオイ。無事だったんだ。お前の無事はきちんとエレン達に伝わっているだろうしな。次いでに格安で酒が買えるルートでも作ってくれねえか? 久しぶりにアクアビットとか飲みたいんだよ。ほらカルラの墓参りの予行練習だと思って」

「それはいいな! ってわけでアオイ頼むぜ!」

「頼むぜ! じゃありません! ハンネスさんにフ-ゴさん! 貴方達は兵士達の模範となるべき立場でしょう! あ、アオイ君、いつでも駐屯兵団に来ていいからな。私は君のように頑張り屋な少年は気に入っているんだ。また会おう」

「あ、はい!」

「ふん……アオイ、人類の為に死ぬその時まで戦え。それが私の願いだ、裏切ってくれるなよ…………よし、トロスト区へ戻るぞ。仕事は山のようにあるからな!」

「キッツ隊長、ありがとうございました!」

「全ては人類の為だ、貴様個人の為じゃない。感謝する暇があるなら強くなれ。……俺より、強くなれる素質があるのだからな……」

「……はいっ!」

 

 ハンネスさんとフ-ゴさんはリコさんに引っ張られながら退出。

 キッツ隊長も部下を引き連れ去っていった。

 

 

 

 残されたのは俺とハンジさんとミケさんだった。

 

「さて私らも行きましょうか! 今後のことも話さないといけないし! あ、アオイ君、ウォールマリアの巨人について微に入り細を穿ち、こまか~く聞かせて貰うからよろしく! 今日は、寝かせないからね♪」

 

 なんだろう、ハンジさんは女性なんだけど、この発言を聞いても色っぽさをまったく感じない。

 ほぼ100%巨人のことだよね、これ。

 むしろ恐怖しか感じないんですけど。

 俺、今夜は徹夜なのかな……?

 

 ナイスミドルなミケさんぼすけて!

 

「君は停滞した人類に希望を(もたら)す男になるかもしれないな。そういう匂いがする」

 

 関係無い話ですね、徹夜確定って奴ですね、はい。

 

 

 

 この後、はぁはぁと荒々しい息遣いと変質者的な表情で巨人のことをしつこく聞いてくるハンジさんをなんとか止めながら、裁判所前にいたエルヴィン団長に今後について聞いてみた。

 

 所属兵団については『訓練兵団に3年間所属し、担当教官からその実力が兵士に値すると認められた者のみ兵団に所属することができる。この時、立体機動訓練を○○時間修めていない者は無条件で不合格とするものとする』という軍法律により、俺は兵士ではあるが所属兵団は無いという宙ぶらりんな立場に置かれた。

 どの道、訓練兵団には一度行かなければならない。まあ最初からそのつもりだったのでいいのだが。

 元々100年以上前の規則な上に立体機動装置という新技術もない時代からあった規則なので仕方がないらしい。

 いくつかの条文においては散見される『立体機動が~』という文章は、すべて後付けだとか。

 昔はみんな関係なく兵士だったから仕方ないのだろう。

 

 複雑なことに兵士ではあるが所属兵団は無い。

 調査兵団や駐屯兵団の宿舎も外来が一時的に使えても長期間は駄目らしく、話しあいの結果、トロスト区の一角にある宿屋を下宿として借りることとなった。

 調査兵団の最寄りの街がトロスト区であり、駐屯兵団はどの区にもあるからだ。

 兵士に支払われる給金は宿代として支払われ、俺は調査兵団と駐屯兵団の仕事や訓練を訓練兵団に入団できる年齢になるまで見習いとして参加することとなった。

 

 また訓練兵団に入団したら調査兵団の壁外調査も臨時で参加することになるらしい。

 命令権者は普段は駐屯兵団、壁外調査関連なら調査兵団とかなり複雑だ。

 

 ただ1年間も巨人が徘徊するウォールマリアで過ごしてきた俺としては安全面が確保されているだけでも非常にありがたい。

 

 そんなこんなで、846年も終わり、無事847年の訓練兵団に入団しました――――とはいかなかった。

 運命の女神様はまだ俺に安息というものを与えてくれない、スパルタ女神様だった――

 

 

 

 

 

 

 

 




これで846年は終わり――じゃないです。早く進んで欲しいと願う方すいません<(_ _)>

ストーリーが亀行進ですが原作が進まない以上、駆け足は更新停止につながりかねませんのでお付き合いいただけたらと思います。

次回は舞台をトロスト区へと移します。
ヒッチやミカサなどヒロイン勢が登場していますが現在は847年まで会えません。

846年時代のメインヒロインは次回登場します。
847年以降は今後どうなるかはわからないですが。

超大御所さんなんですが……いいですかね?

ここまできたらいろんな人と出会っていいじゃないとか思っちゃ、駄目ですかね?

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