VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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書き忘れてたかもしれないので念の為。

10小鋼貨=1鋼貨としています。小鋼貨はオリジナル設定です。
さすがに1鋼貨=約1200円相当――だけだと貨幣の種類が少なすぎますので。


市場と学者

 クリスタがやって来てさらに1ヵ月が経過した。

 最初こそ失敗が多かったクリスタだが、慣れもあってかスープ皿をぶちまけたり、洗い物(何故か全て俺のもの)を破壊することも少なくなった。

 今まで10回中9回のところが10回中4回に減ったのだ。イチローの全盛期の打率よりやや高い程度だ。可としておこう……というかそう思ってないで突っ込みどころ満載なのがクリスタなのだが……。

 だがクリスタは間違いなく炊事や洗濯の才能があると思う。

 

 俺の持論だが家庭関連の技能――特に料理などは才能ではなく本人の性格がモノをいうと思っている。性格も才能と言われればそれまでだが。

 

 ファミレスでバイトをしているとたまにとんでもない子がやってくる事がある。

 料理は得意だとドヤ顔をしながら、米をとぐとき何故か洗剤を使おうとしたり、決まった料理を作れといっているのにオリジナルと言って塩を使うところを砂糖を使ってお客に出せない酷い味のものを作り上げたり――――しかも注意しているのに自分が正しいと改めようとしない子をいる。

 それに比べれば、素直なクリスタはきちんと相手の話を聞いて改めることが出来るのだから性格的に向いている。

 彼女はニアミスはしても大暴投はしないタイプなのだから。

 彼女の旦那さんになる奴はきっと幸せものだろう。

 結婚する野郎には記念に立体機動で巨人の目の前を飛び周ってあげるスペシャルコースを堪能させてやる。

 

 それはさておき今日は晴れていて、気持ちいい陽気が空から降り注いでいた。 

 

 平和といえよう。

 少なくともクリスタのポカが少なくなった最近では、財布的には平穏だった。

 

 

 

 そんなある日の事、俺はクリスタと共に買い物に出かけていた。

 理由は買い出しだ。

 宿屋の男手はマスターしかいない。

 しかし深夜まで店を開けている酒場の性質上、寝る時間は非常に遅くなる。

 時計は無いがおそらく日を跨いでいるのではないだろうか。

 そのため彼は昼間まで寝ていることが多い。

 宿屋と併設されているこの酒場はトロスト区の人々からも愛されており客は多い。兵士なども多く、たまにハンネスさんやフ-ゴさんを見かけることもある。

 酒場は夕方から途中まで女将と双子が給仕をしており、クリスタも最近は仕事をするようになっていた。

 

 マスターは閉店までいる。

 女将さんは見かけによらず鋭い意見でトロスト区についての情報を提供し、やり手の商売人や真面目な兵士から人気が高い。言うことの1つ1つに説得力があるのも信頼がある理由だ。

 双子は若い兵士達に人気が高い。明るく気さくな2人なので酒場の人気者になるのは当然だった。

 マスターは落ちついた雰囲気からか、ゆっくり酒を楽しみたいベテラン兵や街の老人達から好かれていた。彼も昔、兵士だったことも大きな要因だ。

 クリスタも人気者らしい。明るい双子とは違った方向性――太陽が双子なら月に例えられているクリスタ。

 そっと口元を緩めて笑みを浮かべる彼女は過酷な任務に疲れた兵士達の癒しとなっている。

 最近、クリスタの失敗で俺が被害を喰らうと他の客から、

 

「よくやった!」

「もっとやれ!」

「つーか爆発しろッ!」

 

 と歓声が上がる。

 俺が何したっていうんだ野郎共……。

 そして最後の奴、お前今度トイレにこいやっ。

 てめえは恋人がいるだろうがっ!

 隣の純朴そうな女の子が殺すような瞳で睨んでやがるぞ。

 

 

 

 

 

 まあそんなことはいい。

 今は買い物だ。

 賑やかなトロスト区の大通りを歩く。

 クリスタは真剣な目で屋台に並べられている野菜を眺めていた。

 カタリナさんに仕込まれた目利きと交渉力で獲物を狙っていく。

 その目は猛禽類を彷彿とさせていた。

 

「オジさん、このトマトっていくらですか?」

「おう、クリスタちゃんか。このトマトは5個で小鋼貨(1鋼貨の10分の1)4枚だ。バラなら1個小鋼貨1枚だから、まとめて買ってくれるならお買い得だぜ!」

「う~ん……でもこのトマトって少ししなびてませんか? ほら、こっちのは艶がいいのに。不平等じゃありませんか?」

「い、いや、確かにそうなんだが……」

「でしょ? だから、5個ならこれでどうでしょうか?」

 

 クリスタはにっこりしながらピースする。お得意の天使のお願い(ほほえみプレッシャー)で相手を追いつめる。

 指を2本立てているが2枚ということ、か?

 5個で4枚のところを2枚に――半額にしろって凄い要求するなクリスタ。

 天使の笑顔で悪魔の要求……鬼畜だぞ。

 屋台のおっさんが固まっているし。

 恐ろしい子クリスタ!

 

「ク、クリスタちゃんは相変わらず上手だね……ま、まあ可愛いお嬢ちゃんに免じて3枚でどうだろう?」

「2枚でお願いしまーすっ♪」 

「だめだって!? まからないって、3枚だっ」

「じゃあ1枚!」

「安っ!? 叩き売りじゃねえかッ!? せめてもうちょっと――」

「ではそこのピーマン2個も加えて3枚ということで」

「……くッ……負けた負けた! 嬢ちゃんには勝てねぇよ…………ほら持ってけドロボウっ!」

「ありがとうっ! おじさんはいつもまけてくれて大好きだよっ」

「へっ……よせやい、若い子にはこれから頑張って貰うからな。……できればちょーっと手加減してもらえるといいんだがな」

「ぜんしょします」

 

(うわーどこの政治家だろう……)

 

 立派に逞しくなられたクリスタさん。

 一端の主婦になっておられる。

 俺は呆れ顔をしながら彼女を見ていた。

 クリスタはるんるん気分のままトマトとピーマンを受け取り。次の屋台(せんじょう)へと向かう。

 俺は彼女の買っていた荷物を片手で持ちながら周りの様子を見ていた。

 ウォールマリア奪還作戦から2ヵ月。

 また這い上がってやろうという人々の熱気が市場に籠もり気温が1度上昇している錯覚すらする。

「じゃがいもっはどうだい!! 安いよぉ!」

「ウチの麦はどこよりも質がいいのに、このお値段だ! 貴族にも卸している一品だ!」

「木皿やコップはどうだい。食器を作り続けて20年。自慢の品だぁ!」

 

 威勢のいい声が辺りからあがっていた。

 

 

 

 聞いたところによると値切って余ったお金はお駄賃になるらしい。

 

「余ったお金はお駄賃になるらしいので、ちょっと恩返しします! アオイさんには行きつけのお店のミックスリンゴウォーターを奢りますっ」

「俺は前の約束で帳消しと思っているから別にいいんだけど……」

「駄目ですっ! この前もアオイさんの買ってきたコップを破壊してしまいました……。それを考えるとむしろ借金が増えています。ちょっとずつ返済しないと!」

 

 むん! とクリスタは力こぶを作って気合を入れていた。

 そのやる気が空回りしてしまうパターンが多いので、ほどほどでいいのだが……。

 

(でもだからクリスタって感じなのか。何事にも全力投球なのが彼女の持ち味だ。不思議と皆が応援しちゃうんだよなぁ)

 

 知り合って1ヵ月少々――――クリスタは酒場や市場の大人方の評価が高い。

 評価というか、愛されている。

 失敗も多いが頑張り屋。

 彼女の魅力が少し判った気がした。

 

 

 

 のんびりと歩きながら買い物は続けている。

 宿屋の料理は焼き立てのパンに芋のスープ、サラダといったシンプルな献立だが、なにぶん量が必要となる。

 もう片手では持ち切れなくなりそうだ。

 

「今日も皆さん元気ですねぇ」

「ま、後ろ向きなだけじゃやってけないし、俺も元気な方がいいな。葬式並に暗い市場なんて怖くて歩けないや」

「あははっ! そうなったら、私は怖がりだから買いだしが出来無さそうです」

「逞しくなったクリスタなら、暗い雰囲気なんて笑顔で吹き飛ばしそうだけどな~。こうピカーッって目から光が――」

「ちょーっとアオイさん! 女の子に逞しいは褒め言葉じゃないですっ。それになんですか目から光って! そういう人はこうです、べしっべしっべしっ!」

「うわ、ととと!?」

 

 掌をしならせてぺちぺち左腕を攻撃してきた。

 痛くはないがグラグラと腕が揺れる。

 中身は先ほどトマトなどが入っている。落ちたら即アウトだ。

 

「ふふふっ♪ えいえいえい!」

 

 その様子が面白しろかったのかクリスタが笑顔で執拗に追撃をしてきやがった。

 

「おわっ!? 荷物を持ってる方の腕を攻撃すんな! 落っことしたら女将さんに怒鳴られるのは俺なんだからなっ!?」

「天罰ですよ♪ 女性に優しくしない男性は将来、悲劇の魔法使いになるってヒルさんとマイナさんに聞きました。アオイさんにはそういう人にならないよう教え込まないと!」

 

 魔法使いってあれですか?

 30歳以上のどーてぃな男だけがなる都市伝説の話。

 つーかなんでその類の話を双子が知ってるんだよ……。

 

「あの双子の言うことは話半分にした方がいいよ……いやほんと」

「そうなんですか? 男には裸エプロンなるもので迫るとイチコロだとか色々と面白いお話を聞かせていただけるのですが……」

「裸エプロン!?」

 

(クリスタの裸エプロン……トントンと包丁でも使いながら後ろ姿で――――い、いやいやいや! なに阿呆なことを考えている俺! しかもその恩恵を受けるのは未来の彼女の旦那だろう。……うん、危険な芽は早いうちに摘んでおこう、全世界で半分の男性の代表としてっ!!)

 

 俺は一瞬、肌色でピンクな妄想を頭に思い浮かべたが急いで首を左右に振り、邪念を打ち払う。

 どこの誰が彼女と一緒になるかは知らないが、そんな羨ましい……もとい爛れた行為に溺れるのは宜しくない。

 決して相手の男が妬ましいとか考えてないぞ?

 

「……コホン。兎に角、あの双子はいい加減なことを言う場合が大半だから真に受けないこと!」

「そうなんですかー……判りました。人生の先輩として大切な知識を教えてあげると仰ってたのでいつも真剣に聞いてしまいました」

「ちなみに……今日もなにか教えて貰う予定だったの?」

「えっと~、確か亀さんの縛り方を教えてくれるとか。でも変なんですよね、自分を縛るやり方を教えるって言ってましたけど、亀さんを縛るのですから、自分は関係ないのに――」

「マジでもう教わらないでっ!? まっっったくあの双子は~~~! 年上だからってやることが駄目すぎる!」

 

 あの双子は一度真剣に説教しないといけないなっ!

 帰ったら説教してやる!

 そう決意しつつ買い物は続けていった。

 

 

 

「これでどうですか?」

「私も勉強するとはいったが、少なすぎだ。もうちょっと高くしないと」

「だったらこれで――――」

「白熱してるなぁ」

 

 クリスタが屋台のお姉さんと舌戦を繰り広げている。

 相手の方が一枚上手に感じるが、そんな相手にクリスタも喰らいついている。

 どうも時間がかかりそうだった。

 俺は値切りとかはあまり興味ないので、観戦するだけになってしまう。

 暇つぶしに周囲を見ていると1人の男が目に入った。

 

「ん? 変わった人だなぁ」

 

 片眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

 マントを適当に羽織っているが、片手で眼鏡の位置を調整する姿は知的な雰囲気を感じさせる。

 市場より、図書館とかにいる方が似合いそうな人種。

 司書や学者と名乗ったら無条件で信じてしまいそうだ。

 そんな男が市場で店を開いているという奇妙さが逆に目を惹いた。

 

「あの、商品を見てもいいですか?」

「……んぁ? あぁ……どうぞ」

「じゃ遠慮なく」

 

 やる気が無さそうな声で言う男は心底どうでもよさそうだった。

 片手に分厚い本、もう片方はじゃがいもを手に持って静かに座っている。

 ぶっちゃけ凄く怪しかった。

 

 商品のラインナップも変だ。

 

 作業着や道具を売っているようだった。

 エプロンなどの家庭用品から、軍手や農家の人が来ているようなツナギ等々。後ろにはスキやクワもある。

 運ぶのが大変なものばかりだ。

 ここで売る様なものじゃない気がする。

 

 全般的には農業関係が多いだろうか?

 まあ工業が発達していないので当たり前と言えばそれまでだが……。

 

「これ、頂いていいですか?」

「ん……小鋼貨6枚だ……」

「はいこれで」

 

 ちゃりんと小気味いい音を鳴らしながら店主の手にお金を渡す。

 クリスタは大半のものを宿屋の借り物で済ましている。

 お金は将来の為にとコツコツ貯めているようだが、その分身の回りの物が少ない。

 ちょうど出会って1ヵ月経つし、プレゼントとしてあげようと思ったのだ。

 

 さて……買うものは買ったからすぐ去ってもいいのだが――

 

 

 

 俺は商品を見つつ店主に話しかけることにした。

 深い意味はなく、暇つぶしの一環としてだ。クリスタの方はまだ時間がかかりそうだった。

 

「景気はどうですか?」

「……まぁ……ぼちぼち、かね……」

「そうですか……ちなみになんでジャガイモを持ってるんですか?」

「……ジャガイモを、理解する為だ……」

「は、はぁ……」

 

 どうしよう。

 理知的そうな人だったから、それに準じた返答がくるのかと思ったら、メルヘン的な内容だった。

 話しかけない方が良かったかな……。

 アレな人だとちょっと怖いんだが。

 男の話は続いていた。

 

「……ジャガイモに限らない……。野菜全てのことを理解したい……。私はただその為だけに生きている……」

「えーと……野菜は家族、とか?」

「……む?」

 

(俺はなにアホなこと言ってるんだろうか。ここは適当にお茶を濁して去ろう……なんか怖いし)

 

 そう思ったのだが――

 

「君ィ!!」

「は、はいっ?」

「そうだっ! 野菜は家族だ! 人類はそれを知らなければならないのだっ!」

「は、はぁ~~~?」

「アオイさん、こっちは終わったよー……どうしたの?」

 

 突然立ち上がる男。

 クリスタはきょとんとしている。

 

 俺はどうやら変な人に関わってしまったらしい。

 

 

 

 

 

「のーがくしゃ?」

「クリスタ、農学者だと思うよ。農業関係の人」

「そう、そうだ! 儂はマクシリアン・ティドール! この母なる大地を緑で覆う為に人生を捧げた男だ!」

 

 とても格好いい名前の人だなぁ……。

 真ん中にミが入ったらマクシミリアンになるぞ。

 学者より騎士のイメージがある名前だ。

 皺の深いこの人なら鎧を着れば老騎士然とした格好になりそうだ。

 どうてもいいことだが。

 

「それでその農学者さんがいきなり立ち上がってどうしたんですか?」

「うむ、特に意味はないっ!」

「「えー…………」」

 

 俺もクリスタも思わず三白眼になる。

 この人が大声を上げた所為で一瞬、市場の視線がこちらに集中したのだ。

 気まずいといったらない。

 周囲に頭を下げてお気にせずにと言ったので今は視線を感じなくなったが、こちらとしてはいい迷惑だった。

 

「まあまあ丁度いいから儂の話でも聞いていきなさい、若いの。最近の子供は兵士になるばかりで農業の大切さを疎かにしがちであってからに」

 

 やばい!? 

 この人、ハンジさんと同じタイプな気がしてならない!

 あれだ、自分の好きなことなら一晩でも語っちゃうタイプだ。

 どうにかして逃げないと――――

 

「すみません私、勤め先の宿屋に野菜を届けないといけないんです。お話は有難いんですがお暇させてもらってもいいでしょうか? お野菜が駄目になる前にちゃんと調理しないといけないですから」

「うむ、それはイカンッ! 大地の恵みである野菜は最高の状態で人々の糧になってこそ! 早く帰りなさい」

「代わりにアオイさんが聞いてくださると思いますので」

「ちょ、クリスタ――――」

 

 おま、俺を売りやがったな!?

 クリスタが申し訳なさそうしながら俺の荷物を手に取り、こそっと耳打ちする。

 

「ごめんね。カタリナさんに日が暮れる前には買い物を済まして帰ってこいって言われてるから……。それに料理が遅れるとお客さんも困っちゃうし」

「ああもう! もう回避不可なのかよ……」

「今度、とびっきりの料理を振舞うからっ!」

「しゃーないか……じゃあこれ持っていってくれ」

 

 俺はさっき買ったばかりの包みを渡す。

 

「これなに?」

「プレゼント。料理する前に開くといいよ」

「え、でも私が恩返しなくちゃいけないのに…………。でも、ありがとう。大切に、するね?」

「おう、ほらいったいった! 女将さんがカンカンになる前に行かないと!」

「うん、それじゃあ先に帰ってるね! ……えへへ……プレゼントかぁ、なんだろう? 楽しみっ!」

 

 クリスタはほわほわと笑みを浮かべながら帰っていった。

 おーいスキップすると転ぶからやめとけよー。

 

「ま、喜んでるみたいだし、いっか」

「じゃあ講義を始めるぞい!」

「…………うわー、こっちは喜べねぇ……」

 

 空気を読まないマクシリアンさんの突発講義が始まった。

 

 なんで講義を受けなくちゃいけないんだろう……?

 

 

 

 




クリスタとのやり取りは自分なりに砂糖成分を含有させたつもりだったんですがどうでしょうか?
なにか気になる方がいらしましたら、いつでも感想お待ちしています<(_ _)>

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