今回もまたご都合主義とにわか知識が含有されたお話。
ぶっちゃけつまらないです。
俺は農学者と名乗るマクシリアン氏に捕まり何故か講義を受けるハメになった。
この人が何故市場にいるのかと聞いたら、単純に息子夫婦の店番を代わっていたらしい。
いつも家に籠もって研究三昧だけじゃなく動きなさいと言われたらしいが、愛想の欠片も無かったこの人じゃ駄目だろう、色々と。
ちなみに当人達は仲良くデート中とか。……誰かダイナマイトでも持ってないかな。何故かイラッとした。
兎に角。
最初は聞き流そうと思っていたこの人の講義だが、その内容が想像以上に興味を惹いた。
ただ、残念なことにこの人の長年の間、研究し続けた内容というのが正鵠を射ているのに外してしまう珍妙なものだった。
例えば――
「野菜に限らず、家畜達に特定の歌を聞かせると成長を促進させたり、減退させたりする効果があるのだ。これは20年以上もかけて調べたもので他の学者達からは鼻で笑われたがなっ!」
まあ内容が内容だけにそう簡単に信じられはしないでしょうけど……。
「確かに歌や音楽は効果があると思います。母親の胎内にいる子供に音楽を聞かせる胎教というのも効果があるとか……」
信じられていないのは残念だが、これは現代でも研究されている分野で効果が、ある。本当に。
学者によっては疑義を感じる者もいるが、特定の音楽を聞かせるとタンパク質の分泌を促し成長促進効果を望めることが判明している。
その効果は凄まじいもので、ある特定の音楽を聞かせたトマトが1株あたりの収穫が20倍以上になったりと、ものによっては無視できない結果をもたらす。
『自然界の秘密の言語』などとも言われている。
モーツァルトの音楽は動物に聞かせると生命の危機を感じさせ逆効果という結果も出ている。
文化的には中世ヨーロッパのこの世界で、そんな現代でも研究途中の分野を発見し調べ上げた執念は凄まじいものを感じる。
彼は産まれる時代さえ間違えなければ天才と呼ばれてもいい人なのかもしれない……。
「むぅ!? なんだと……それは初耳だ! ……貴様かなり出来るなっ! 名前はなんというんだ」「アオイ・アルレルトっていいますけど……」
「なんだアレスのところの小倅か。それなら納得はできるな」
「あれじーさんを知っているですか?」
意外な人脈を発見。
この変わった人があのじーさんと知り合いなんて…………いや、じーさんも偏屈なところがあったから結構予想通りな気もする。
……うん、そこまでおかしくないや。
「アイツも農業が本業だが……学者の端くれでもあった。ただアイツは<知る><残す>という研究者や学者達にとって、単純にして根源の部分にどうしようもなく惹かれる
「そうだったんですか……」
そこまで意外じゃないな、これは。
元々知識人特有――っていうと意味不明かもしれないが、学校で言えば優等生染みた頭いいですよオーラが漂っていた。
落ちついた雰囲気に理知的な瞳はただのお爺さんとも思えなかったから。
そんな意外な事実はさておき。
彼の研究内容の他のものでは汚い話だが人糞を肥料に使用するというもの。
これはオーソドックスで効果も期待できるものだが他の農学者から猛反対を受けたらしい。
考えてみれば、西欧文化の根強いここは日本ではない。
昔の日本なら肥溜めで肥料を集めていたりしていたが、これが外国だと糞というものに強い忌避感を抱く傾向にある。
不浄のものを自分達の口に入る野菜には険悪感が先行するからだ。
それにキチンと処理しなければ害虫や野菜の病気も発生するのであながち間違ったものではない。
でも扱いを間違えなければ彼の言っていることは正しい。
いつの間にか彼とのやりとりは一方的に教わるのではなく、討論のようになっていた。
「じゃあ、これはどうじゃ? 乳や肉牛だけでなく、灌漑などの農業の利用にした家畜の利用これなら――――」
「でしたら、家畜用の数を増やす為に餌を増やさないと冬を越せないので難しいです。軍事重視の今の御時世だと馬にばかりご飯がいきますし――」
「だったらやはり駄目かの……」
「いえむしろ画期的なので、使わない手はないですので収穫量を増やせばいいんですが……あっ」
やばい……学校で習った知識だったんだけど、これ画期的ではあるんだけどどうしてお前が知っているの? って聞かれると答えようがない。
どうしよう。あまり変なところで目立つとまた憲兵団あたりに睨まれそうで怖いんだけど。
「どうしたぞい?」
「いや、あまり、偉そうなこと言っちゃっていいのかな~と。俺みたいな世間知らずが知ったかで語るといけないでしょう? こう、なんといいますかね――」
「各方面のお偉いさんに睨まれるから――とな?」
「まあ、そんな感じで」
それを聞いたマクシリアンさんはかちゃっと
「ぷくくっ……ふぁふぁふぁっ! それなら大丈夫じゃろうて! それならお前はとっくの昔に、そのお偉いさん方の知られるところにいるからのぉ!! 2年前からな」
「え、ちょっと待ってください。なんで……」
「『シガンシナ区には神童がいる。9歳で長距離索敵陣形を考案し、多くの将兵の命を救った。人類の未来は明るい――』」
「それは一体……」
「儂はこれでも人脈には自信があってなぁ、今のセリフはキースという調査兵団団長が王政府の重鎮に洩らした言葉らしいぞ。そこから周辺の者たちにも知られたんだぞい。アオイ・アルレルトという神童の名をな!」
キース団長ぉぉぉぉぉぉぉ!!??
アンタなに言ってくれてんですかぁぁぁぁぁ!!??
「だから、ほれほれ思いついたことはどんどん吐かんかいっ。儂からすれば新たな発想を得られる良い機会を逃す手はないんじゃ! 吐かなければ何日でも張り付いてやるからなぁ!」
俺は今ほど自分の迂闊さを呪ったことはないかもしれない。
この手の学者さんは差別はしないけど、知りたいことはとことん追求する。
断っても文字通り何日でも付いて回ろうとするだろう……つまり回避不可。
多分、今日出会ったその瞬間から俺の運命は決まっていたのかもしれない。非常に不本意だけどな!
「判った判りましたよー……子供の戯言だと思って聞き流していいですからね……。なんでこうなったのやら……」
「聞くに値しないなら流すし、逆なら存分に知識の肥やしとしよう。ほらいい加減焦らすでないわ。うずうずして鳥肌が立ってきたわい」
知らんよそんなこと。
結局、鼻息荒く迫ってくるおじいさんという非常に嬉しくない状況の中で諦め気味に学校で習った知識を疲労……ではなく披露する羽目になった。
具体的には四輪農法(ノーフォーク農法)というものだ。
四輪農法……4という文字が付く通り、大麦→クローバー→小麦→株→大麦の4つの作物を順番にまわして作付けする方法。
1回あたりに収穫できる作物量が減るが休耕地を作らずに済むがトータル的には収穫出来る作物が増大する。
さらに収穫できる作物が増えることにより、家畜が冬を越す分の飼料まで確保できる。
この進撃の世界でも俺は目にすることがあったのだが、家畜は冬の前に殺し、保存食にしたりしている。飼料が確保できないからだ。
だがこの農法ならそれを解消できる。だが問題点もあった。
収穫量は増すが、畑を使い続けることにより一回の収穫量は減るので農民の説得が必須。
また収穫量を維持するために肥料の確保も必須だ。
区画整理も必要で絶対的な指導者の下、計画的に行わなければこの農法は真価を発揮しない。
俺みたいな子供などが偉そうに語っても、いままでの伝統に則って畑仕事をしてきた人達からすれば舐めたマネもいいところで、経済学専攻の俺からすればそういうものがあった程度しか知らない。
一応歴史ではこの農法が行われたおかげで人口爆発が起こり、産業革命にも繋がったらしいが。短期間でも効果を発揮するのも特徴だ。
今の段階では三田圃性――休耕地を作るタイプだ。この次の段階に進む為にはかなり問題が山積していること。
牛糞等を発酵したものを使用して効率を上げなくては難しい等々を話した。
マクシリアンさんは終始黙して聞きながらメモを取り出して書いている。……それなにに使うつもりなんでしょうか?
何故か凄く気になったが、さっさと終わらせたいので俺は教科書を朗読させられる生徒のごとく淡々と語った。
最後まで語り終わったあとマクシリアンさんは、
「久しぶりに己の知識欲がガンガン刺激されるいい話じゃった。また機会があれば会おう! ではな野菜の兄弟!」
「は、はぁ、それはどうも、では」
「うむ! わあっはっはっはぁこれは良い仕事ができそうだぞい!!」
「なんだったんだろう……あ、商品置いていったまま……どうすりゃいいんだ?」
日が落ち始め撤収を始める人達が多かった。
一瞬固まった俺だが、マクシリアンさんの息子夫婦がタイミング良くやってきてくれたおかげでなんとか帰ることができた。
さすがにあれを放っておいたら盗まれる可能性は高いし、俺が盗んだと思われても嫌だったので助かったのだが……。
この話には続きがあった。
とある画期的な農法が提案され、憲兵団の指示の下、開拓地で大々的に実施。
数年後には収穫高も3割増となる。
これにより慢性的な食糧不足を解消させる突破口となり、軍馬や兵士の増員も1、2割なら可能となったほどの成果をあげたらしい。
発案者は国の歴史に残る偉人になるだろうと周囲から称えられるようになる。
成果があがった850年にその農法名が発表され極々一部のある人物は絶叫したがそれはさておく。黒歴史として葬るに限る。
農法は名前は――――――
――アオイ・マクシリアン農法というふざけた名前だった………………。
農法の発案者の一人である農学者は休暇中にトロスト区へ向かいそこである少年と出会う。
その斬新な発想にいたく感銘を受け、仕事場である
マクシリアン・ティドール……学者の中では天才であり異端。しかし、60歳を超えた老齢の学者は貴族でもあり、発言力は絶大なものがあった、らしい。
当然、俺の戯言を現実にするほどの。
運がいいのか悪いのか判らない……ただ850年での調査兵団は
その未来にヒビを入れる要素にもなった。
後にして思えば、とてもとても不思議な……奇縁とも妙縁とも、不可思議な出会いは確かに運が良かったのだろう。
俺がしばらくの間、104期メンバーから言われた渾名が『がくしゃくん』でなければだがな!!!
『OHANASI』するために逃走する双子を追いかけトロスト区を駆け回ったり、ようやく終了した壁外の死体処理の次に巨人との強制格闘戦を命じられて愕然とする俺がいたりと平穏そうで平穏じゃない日々を過ごしていたある日のこと。
俺は珍しく調査兵団本部へと訪れていた。
先日は壁外調査へ赴き、消耗も少なかったベテラン兵達の活躍を中心に被害も1割にも満たなかったらしい。
死んだ人がいるので素直に喜べないが、以前と比べて格段に違う被害からたまにお礼を言われるのがこちょばったい。
長距離索敵陣形はエルヴィン団長がいたから完成したのであって、俺など関係ないと言っても謙遜としか受け取ってくれない……。
「自らの功績を無駄に誇らないとは良い心構えだ、兵士としての気構えが既に出来ている!」と何故かさらに評価があがるので半ば諦めている。
お願いしますからネス班長、それを新兵達にいい教訓として教えないでください……頼みますから。
嘘から出た真とでもいうのか? 嘘というか勘違いなのだが、もう訂正することも不可能な段階にいっていた。
先日といえばリヴァイ班のメンツに出会ったのは感動的だった。
ペトラさんやオルオさん達にとっては壁外調査では初陣らしいが気負いもしなく、落ちついた様子。
「俺が年上の貫禄を見せつけてやるぜ!」
「オルオだけには良い格好させないわよ」
「なあグンタ、巨人との戦闘をおさらいしておこう」
「そうだな、まずは――」
上からオルオ、ペトラ、エルド、グンタさんの順だ。
オルオさんとしか知り合いでなかったが、彼と一緒にそうそうたるメンバー――将来そうなるであろう人達と出会えたのはとてもうれしい。
一言二言話したあと、すぐ行ってしまったが彼らなら大丈夫だろう。
訓練兵団の成績も優秀だったらしいし、やはり出来る人といった雰囲気が全身から出ていた。
きっとエレンも彼らと同じような感覚を受けたに違いない。
(絶対助けよう……俺も彼らに負けないくらい強くなって! …………そういえばリヴァイ班と<初陣>ってなにかあった気がするんだけどー……気のせいか。うん置いておこう、きっとどうでもいいことだ)
一瞬、記憶の片隅に引っかかるものがあったが思い出せないので気にしないことにした。
そんなことより……。あの人達と一緒に馬を並べられる頑張ろう。
まだまだ俺はひよっこなのだから。
まあとにかく数日前のオルオさん達とのことはいい思い出ですってだけだ。
いつものように馬を預けたあと本部のドアを開ける。
正面玄関には来客用のテーブルや椅子が並べられているが普段は皆の憩いの場だ。
でも今日は少し静かな気もする――というかぴんぴんしている人と逆に項垂れている人と別れていた。
(どうしたんだろう……? 若い人が沈んでいて、ベテランが励ましている? この前は壁外調査もあったし、やっぱり巨人と戦うのが思った以上にきつかったとか?)
そう考えつつ俺はきょろきょろと周囲を見る。
迎えの人が玄関にいて一緒にくるように言われていたからだ。
俺が探していると普段騒がしい玄関には立ち寄らない人物を発見した。
その人は俺に気づくといつものしかめっ面でコツコツと近づいてきた。
思わず姿勢を正す。
怒らせた覚えはないけど、どうしてもピンと背筋を伸ばして対峙してしまう。
だって怖いし。
「来たか餓鬼…………エルヴィンが呼んでいる。いくぞ」
「あ、はい!」
不機嫌顔のリヴァイ兵士長――先日訪れたのはリヴァイ兵士長が正式に兵士長へと大抜擢されたお祝いでなのだが――もう脳内で兵士長と呼んでも間違いではなくなった。
どうしてだろう……。
リヴァイ兵士長の機嫌が微妙に悪い。いつもの3割増しくらいでだ。
眉間の皺が寄っていまにもキレるのではないかと戦々恐々としつつ一緒に歩く。
今日来たのはエルヴィン団長に呼ばれたからだ。
少し緊張しつつも団長室がある2階へと向かう。
本当、なにかあったのだろうか?
どうでもいい伏線やらも敷設しつつ(^_^;)
農業関係は調べたけど、情報がいろいろあって途中で断念……(-_-;)
頭が痛くなる……。
ちょっと事実と違いすぎるのでは等のご意見がありましたら可能な限り修正します。
ご都合主義として流してくれると嬉しいですが……(汗)
もう少し早く行動させた方がよかったかなー。