ちょっと彼女の心情って書きづらいなあ(^_^;)
1歩、2歩…………ゆっくりとした足取りでアルミンはアレスお爺さんへと向かう。
死別したと思っていた家族の突然の来訪は彼にとって青天の霹靂だろう。
「本当に、お爺ちゃん、なの?」
「ホッホッホッ、世界には同じ顔の人間が3人おるという慣用句はあるが……本物じゃ。ほれ、足もあるじゃろうて」
ほいっと右と左の足を交互に上げ健在をアピールする。
私にも彼が五体満足で帰ってきた事実が理解できた。
アルミンがアレスお爺さんに正面から抱きつく。
「……う……うぅ~~~………………うぁぁぁぁぁんっっっ、おじいちゃんっ! おじいちゃん! おじいちゃぁんっ!!」
「おっと、アルミンは相変わらず泣き虫だのぉ~」
「だって、だって! ほとんどの人が死んだって聞いてたからっ、もういなくなっちゃったって……ッ!」
「そうじゃ、な。でも生きておる。こうして大切な孫を包んでいる手は、冷たい死人の手じゃなかろう?」
「うん、うん! 暖かい、よ……ぐす」
奇跡的に調査兵団の方々に救われたらしい。
それを聞いてエレンが「やっぱ調査兵団だな!」と笑顔で言っていたけど、あまり危険な事はしないど欲しいのだけどな……。
エレンの行く道が私の道――だから付いていくことに変わりはないけど。
助けられた時のことを詳しく聞こうとしたエレンを宥め、お爺さんは後で言うといいアルミンを優しく抱きしめていた。
今まで連絡できなかったのは、東区ではなく、西区の開拓地へと飛ばされたしまったからとのこと。
偶然、昔馴染みで王都でも指折りの農学者さんに出会い、ここに来る手助けをして貰ったとか。
気難しい人らしいのだが、2つ返事で頼みを聞いてくれたと笑いながら言っていた。
私達の居場所は様子を見に来てくれたハンネスさんが教えてくれたとか。
資源不足で紙は高く、お金も僅かしか無い。手紙も泣く泣く送ることが出来なかったことを済まなそうに謝っていたけど……そんなこと気にする必要ない。
私達からすれば生きていただけでもとても嬉しいのだから。
泣くじゃくるアルミンを見つつエレンが呟く。
「……よかったな、アルミン」
「私もそう思う。家族がいるのは大事」
ほとんどの人間がウォールマリア奪還作戦で死んだという話は風の噂で聞いた。
馬や立体機動装置などの撤退手段がある兵士以外の生還は絶望的だと。
あのシガンシナで見た巨人達を相手にしたら、人とはなんて小さく脆い生き物だと再認識させられる。
……実はアルミンのことで気にしていた事がある。
たった3人だけの友人同士。
私とエレンは家族だ。とても……とても……大切な、家族だ。
それは世界の全てが壊れてしまっても決して変わることの無い、不変の絆。
でもアルミンは違う。
友人として、幼馴染としてもちろん大切に想っている。
家族同然とも思っている。
しかし私にはエレンという家族が、エレンには私という家族がいるのに対し、アルミンには友人という立場だ。
除け者にしているわけじゃない。嫌っているわけじゃない。
ただ厳然たる事実として、友人と家族という言葉の間には谷のように隔絶した差があった。
「家族がいるのは……本当に、大事。私は、エレンが死んでいたら、生きていなかったから」
「軽々しく死なんていうんじゃねえよ。俺は生きる、ミカサも生きる、アルミンも生きる――――全員で生き続けるんだ!」
やっぱりエレンはとても強い……。
喧嘩を売っても逆にボロボロになったり、思慮が足りなくて叱られたりする部分はあるけど、いつも私の太陽でい続けてくれる。
心が死んで屍になった
「エレンは強い……きっとその意思があればなんだって出来る。私も――――なんだってして見せる」
「おうっ当然だ!」
アルミンはまだわあわあと泣きじゃくっている。
3人の中では彼が一番、精神的な負荷が掛かっていたのだから仕方ない。
両親は壁外で行方不明――兄であるアオイを亡くし、祖父であるアレスさんも作戦後しばらくしても戻ってこなかった為に亡くなったと思われており、今日この時までアルミンは天涯孤独の身になってしまったと思っていたのだ。
それでもウォールマリア奪還作戦で祖父と別れたその日以外、アルミンが泣いているところを見たことが無い。
影で泣いていたかもしれないけど、弱いところは見せまいと、気丈に振舞って今日まで生きてきた。
死んでいたと思っていた祖父が生きていたと知れば、思わず涙腺が決壊してしまうのは当然だろう。
エレンの横顔を盗み見てみる。
「…………」
最近は厳しい目つきをしている事も多かったけど、目元を緩めている。
笑っていた……嬉しそうに。
私の胸も不思議とポカポカと暖まった気がした。
でも――――少しだけ寂しそうでも、あった。
カルラさんの事を思い出しているのかもしれない。
私にとっては第2の母であるカルラさんは時に厳しくて、でも暖かい人で…………今では思い出だけの存在になったけど。
シガンシナの空のしたでお互いに笑い合った光景を思い出す。
そこでふと割り込んできた人の影があった。
ニカッと向日葵を連想する笑顔の人。
いつも悪戯ばかりで思いつきが服を着て歩いているような人物。トラブルメーカーの一面もある。
私はよく被害にあったから、お仕置きするために街中を追いかけまわすことも多かった。
(アオイ……空の上で元気にしているのかな……?)
夕暮れの空を見上げる。
エレンとは別の意味で放っておけないタイプだった……かもしれない子。
シガンシナ区では迷惑ばかりかけてくるので正直疎ましく思うときもあったけど…………。
あの光景こそ平和な日常で掛けがえの無い毎日だった。
夢の中で無邪気に4人で走り回る姿を何度も見ていた。
エレンが先頭を走り、アルミンが慌てて追いかけて、私が危ない事をしないか見張って……、アオイは最後尾からのんびりと付いてくるか、フラリといつのまにか消えて何故かエレンと一緒に爆走している。
でも夢の終わりはいつでも同じ。頭の何処かではしっかり掴んでいないと消えてしまうと訴えても、思い通りに動けないのが夢の常。
髪が風を撫でる感触を覚えると同時にサラサラと砂のようにその姿は消えていく。
私達3人が手を伸ばしても届くことの無い先へと……。
物思いにふける私の耳に聞きなれない声が聞こえた。
「……おじいちゃん」
くいっくいっ
見たことの無い少女が後ろからそっと顔を覗かせた。
珍しい銀髪(白髪?)の小さな女の子だ。顔の左半分が前髪で隠れている。
くりっとした目は小動物を連想する。
アルミンより背が拳1つ分ほど低く、若干こちらを値踏みするかのように様子を窺っていようだ。
アルミンのお爺さんが「おおっ!」と声を上げて少女を紹介する。
「済まんの久しぶりの孫との再会でうっかりしておったわい」
「まるで空気扱い……」
「ホッホッ、済まんのぅ、爺は物忘れが激しくてな」
「ねえ、お爺ちゃん、その子は一体……?」
「アルミンは初対面じゃったか。でもエレンとミカサなら知っておるのではないか? ほれ、アオイが助けてきた少女じゃよ」
「アオイが……? あ、あああーーっあのときのアイツかあ!?」
「エレン、知り合い?」
「おいおいミカサも見てたんじゃなかったのかよ。アオイの奴が背負ってたぞ」
「ごめん、シガンシナの時はあれでも気が動転してたから、記憶が曖昧……」
「何だよ薄情だなあ~。でもそっか……アオイが助けた女の子か。俺はエレン! そっちの女がミカサであっちがアルミンだ、よろしくなっ!」
「…………よろしく」
氷のように冷淡な声。
無表情で小柄な体の半分はお爺さんの影に隠れている。
拒絶――という感情を全身から漂わせていた。
「ぐす、えっとよろしく」
「な~んか初めて会った時のミカサみてえだなぁ」
失礼な。私はこんなに無愛想じゃない。
もっと笑顔でエレンに笑いかけていたはず。
いつも愛想よくしているのにエレンはいつも気付かないんだから。
ぼんやりとだけ女の子の事を思い出したかも。
でも印象が少し違ったような……。
別にいいかな。どうでもいいこと。
ただ……そのあとアレスお爺さんの放った一言に私たちは驚愕することとなる。
「そうじゃ、孫に再会した事で忘れとったわい。お前たち朗報じゃ! アオイがな――――
――――生きておったんじゃ!!」
「え?」
「あ?」
………………………………えぅ?
お爺さんが荷物を片づけてくると言って一度戻っていった。
アオイの事については彼女――シャンレナという子から詳細を聞くといいと言われた。
進んで前に行こうとしない彼女の背中をそっと押しているところを見るに、仲良くして欲しいと思っているのかもしれない。
余り慣れ合うのは得意じゃないけど……アオイの事は知りたいからとりあえず話すことにしよう。
黙り込んだら、ちょっと(体に)お願いすればきっと快諾してくれるはず。
「……(びくっ!)」
きょろきょろ
勘はいいみたい……ふふふ……。
私たちが住んでいる開拓民用の家は東側11番第2棟という番号が書いてあるのだけど、運命の悪戯か、彼女も、
「東側11の2なら俺達とおんなじだ」
「そう、なんだ」
アルミンが今日来ると言っていた子はこの子の事だったようだ。
一番後ろに私。前方にエレン達3人が横並び。
アルミンとエレンが彼女を両サイドから挟むように歩いている。
アオイの事を聞きたいからだ。
私も聞きたいけど…………。
イラッ!
エレンの横を歩くな雌猫……ッ!
「……ひぅっ!?」
「どうしたんだ?」
「……べ、別に」
……ちょっとイライラしてしまった。
何でか判らないけど胸がむかむかする。
抑えないと。
前では主にエレンが質問攻めしている。
「1年も巨人が彷徨うウォールマリア内で生きてたって本当かよ!?」
「う、うん……だから、余り、近寄らない、で」
エレンもそんな態度の悪い女に近づかないで。
ほら相手も顔を染めて……はいないけど。
アルミンはアオイが生き残った戦法を
「ウォールマリアの東区の門を閉鎖して1年過ごし……そして奪還作戦を予期してウォールローゼに逃げ込む作戦。移動も大型巨人の行動が阻害される森を突っ切って巨大樹の森で静観。危険や失敗の可能性もゼロじゃないけど、兄さんらしい大胆な作戦だなあ~」
「っ! そうっ兄さんは凄いの! 希望をいつも忘れず、物語の王子様みたいにいつも私を助けてくれて、いつもいつも頑張ってた! …………私なんて、足手まといになって、ばっかりで……」
「そう、なんだ。ところで――――」
「ふえ?」
……?
アルミン、笑顔だけど目が笑ってない?
「なんで君はアオイ兄さんを『兄さん』って呼んでいるのかな?」
「……兄さんは兄さんだよ。家族のいない私をずっとずっと大切にしてくれたんだから、当然でしょ? あなたこそなによ」
「兄さんの弟のアルミンって聞いてないの?
「兄さんと比べて、優しさも気遣いもデリカシーも無い弟ならここにいるって今判ったわ」
「へぇ~~~?」
「ほぅ~~~?」
バチバチって火花が散った。
仲良さそうに話してるけど、なんかチクチクする。
どうでもいい事だから無視しておこう。
私には関係ないこと。
お互い笑顔で額がくっつきそうな位置で、メンチを切っている。
そこを空気を読まずにぶち壊したのはエレン。
「お前等、そんなことどうでもいいだろ!
「エレン、僕はね――」
「ちょっと――」
「それよりアオイはどうやって巨人殺してたんだ!? アイツはシガンシナでも母さんを助けてたし、びゅんびゅんと飛びまわってたんだろう? くっそぉぉお~~~俺もハンネスさんに頼んで立体機動を教えて貰ってたらなー。今度アイツにあったら根掘り葉掘り聞きまくってやるぜっ!!」
エレン、凄い。
私でも口を挟めない空気なのにまったく気が付かずにかき消していった。
2人共も呆れたように見ているのに、全然気にしていない。
「ふぅ、エレンはまったく。シャンレナさん?」
「レナでいいです。にいさ――――ううん、お兄様にはそう呼ばれていたから」
「お兄様って……。僕はアルミン、改めてよろしく」
「よろしくお願いします」
きゅっ
握手をする。
ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……。
お互いにこにこしながら握手を続けている。
……何やってるんだろうこの2人。
もういいや。
「エレン、とりあえず戻ろう?」
「なに言ってるんだよ、まだ話が……」
「夕ご飯も食べないといけない。話なら夜でも出来る」
「おーそっか。そうだなそうすっか。おーい2人ともー、さっさと飯食いに行こうぜーーー!!」
「ぐぐぐ……離したらどう?」
「ぬぬぬ……そ、そちらこそギブアップしたらどうです?」
似た者同士?
於いておこう。
「それにしても、アオイ、無事でよかった……」
あの平和な一時がまた過ごせる。
訓練兵団には彼も来るらしいから。
きっと、それはとっても心が沸き立って、楽しく過ごせる…………世界の全てが輝くものになるだろう。
エレンと私とアルミンと、アオイと……他の人も。
口元がちょっとだけ緩む。
誰にも見られないよう服で顔半分を隠しながら日が沈み始めたなか、エレン達と帰る。
アオイに再会したら、とりあえず私達を心配させた罰として、飛び蹴りでもしておこう。とびっきりのものを。
幕間続きですがご了承いただけると助かります。
しばらくアオイ視点続きでしたし。
申し訳ありませんが次回も幕間。
その次はまたアオイ視点に戻ります。
シャンレナの態度は悪いですが、彼女なりの強がりです。
両親も亡くなった彼女にとってアオイとの絆だけが希望でもあります。
でも血のつながりなどないか細いもの。アルミンとアオイは実の兄弟だと思っているので(アオイがアルミンは弟としか説明していない)、血の繋がっている彼に嫉妬しているといった具合です。
平和な一時ですが、それも束の間のもので――――