いや彼女って少しドジというかプライド高そうだなーと思った末のお話です。
不快に思ったらごめんなさい<(_ _)>
各人の動き
アオイ&リヴァイ&キッツ――南門に集合
黒髪そばかす少女――街をふらふら散策中
アニ――ちょっと南の方に
エルヴィン&ミケ――トロスト区内を極秘行動中
ハンジ――トロスト区郊外で武装中
ナイル――起こしに来た部下を怒鳴りつけた後、2度寝実行中
群れる事は嫌い。
弱い連中が集まったって、結局傷の舐めあいでしかないと思うから。
馬鹿な奴も嫌い。
目の前の現実を直視しないで、毎日を過ごす奴らに反吐が出るから。
父は……大嫌い。
ただただ稽古と称して何度も冷たい地面の味を覚えされられたから。
でも…………だったら、アニ・レオンハートという人間には何が残るのだろう?
否定しかしない私を肯定する存在などいる?
探せばこの世の何処かにはいるのかもしれない。
でもそんな無意味なことに時間を割くほど私は暇人ではない。
生来の気質から情などという不確かなものに縋るほど、私は弱くない。
(……愚問……取り戻す……それだけね)
意識が覚醒していく。
起き上がることにする。
今日はやることがあるから。
霧がかった思考は徐々に晴れていき――――
カコォンッ!
「~~~~~ッ!?!? ………………くぅ」
火花が散った。
浮浪者達に見つからないよう
恨めしく木箱から飛び出ている棒を睨む。
「………………壊れろッ」
ガスガスガスガスガス!!
念入りにぐりぐりと無機物を踏みつける。
しばらくして今している行為の無意味さに気づく。
無意味な行動は嫌い。
何事も目標まで最短で行うことこそ最上なのだから。
「…………行かないとね」
無かったことにした。
私が頭をぶつけた事実は皆無。
そう一度も無い。それで良し。
世は並べて事も無し――いつも通りの日。完璧ね。
「今日はアオイ・アルレルトと接触する……あの浮浪者共のタイミング次第かしらね」
まだ父との関係にも迫っていない。
彼と接するなら感謝される場合がいいだろう。
決して話したいからとかではない……ええ、これは作戦。親しくなって情報を引き出す、高度なテクニック。
緊張してか心臓が無駄に高鳴っているのは、まだ私が未熟な所為なのだろうね……。
「確か奴らの狙いは祭の終わり直前ね。睡眠薬で眠らせてずた袋で荷馬車に乗せて帰り客に紛れて――という流れだったかしら」
駄目なら無理やり連れ去るとも言っていた。
穴だらけとしか思えない作戦。
本当に無駄の多い……私が実行するなら祭じゃない普段の日の深夜にこっそり行う。
兵士の見回りも多いでしょうに、祭で脳まで湧いているのが端から見てて哀れさを誘う姿だった。
私の作戦に必要だからいいけど。
「さて――――もう1つの用事もしようか」
1つの実験。
父の手記の一部に書いてあったことを試して見る。
まずは南門の近くに行かないと……。
私は今日の作戦を建てながら、南門へと足を向けた。
スコンッ
頭部に軽い衝撃。
ボール……?
誰なの、こんなところで遊んでいるのは。
裏路地なのに。
「あ? ああ~~悪い悪い。ちょっと面白いおもちゃがあったから遊んでたんだけど、小さくて気付かなかったわー」
イラッ。
へらへらと……投げ飛ばしていこうか…………。
いえ結構身のこなしがいい。やる場合はてこずりそうね。
騒ぎは、起こすのは愚策。
我慢するしかないわね……。
「…………別に」
「すーまないねぇ……んじゃ」
たったったっ!
そばかす女が去っていった。
今は南側へと行かなくてはいけない。
改めて目的地へと足を向けた。
件の場所。
丁度良く兵士達が集まって話をしていわね。
とはいえ門周辺には門の開閉装置を守り兵士達が警備を行っている。
ローブで顔を隠した人がとぼとぼと近づいていっても摘まみだされるのがオチね……。
(でも裏路地なら問題ない……)
彼らは左手の小屋の近くで話しているのなら、近くまでなら行ける。
裏路地は道具が無造作に転がっていてるから見つかり辛いはず……。
「ならここから――あ」
カツン
「ん……誰かそこにいるのか」
……。
…………。
………………。
にゃぁ~♪
「何だ猫か……」
コツコツ……。
「…………(近づくだけでも面倒……)」
猫の声真似で騙されるなんて馬鹿な兵士。
でもこれじゃあ近づきにくいわね……。
「木箱はあるから動きやすいのだけど……?」
ピコン!
閃き。頭に電球が飛び出た気がした。
(……これ使える、わね)
天啓――まさに天才的発想。
正にこの木箱は私に使われる為に存在していたと断言できるほどいけると思った。
私なら――――いける。
私だからこそ、イケる。
こそこそ……。
「……裏路地なんてじめじめしてメンドイぜ、ったく…………くそッ表通りで買い食いしながら見回りしたいのによ」
こそこそこそ……。
こん。
「ああ? …………気の所為か」
コツコツコツ……。
(本当に馬鹿な兵士ばかり……木箱を被った私に気づかないなんて…………いえ私の作戦が素晴らしいのねきっと)
持ち上げる為の穴も両サイド空いているから前方と後方の確認もできる。
視界が狭いけど問題無いわ。
馬鹿みたいな兵士達は動いてさえいなければ私の完璧の偽装にも気付かない…………これなら対象にも容易に近づけ――――
コツ!
(……しまった、壁にぶつかったか、移動して――――)
スッ
あれ何で周囲が明るくなって……。
「………………」
「………………」
眼鏡を掛けた灰色髪の女性兵士が目の前にいる。
手には私が偽装に使っていた木箱……。
「…………なに、してるのかな? ここは兵士以外は立ち入り禁止よ」
「………………」
考えろ……考えるんだアニ・レオンハート。
貴女ならきっとこの窮地を脱する天才的な策を思いつけるはず――
「……見学……代表者の人達を近くで……見たかったにゃん……ッ!」
うるうるうるうる!(上目使い)
「――――なッ!?」
…………わ、私は馬鹿!?
馬鹿なの!?
にゃ、にゃんとは何なのか――い、いや思わずさっきの猫の声真似の事を思い出していただけ、決して間違った対応をしてしまったわけじゃない、そうこれは高度なテクニックで…………そんなわけ、ないわよね……。
恥……恥ね、これは――もう死にたい……。
「な――」
ほら相手の兵士も顔を真っ赤にして怒って――
「凄く可愛い!! もうこんなちっちゃい子が小さい箱に入り込んで、ちょこちょこ来るなんて、とてもかわいらしくて――――」
「……あれ……?」
私の策は上手くはまった……の?
意味も判らないまま、ちょっとだけなら見学してもいいと、顔が蕩けさせた女性に言われた。
ふふふふふ……私の演技力は舞台女優を張れるほど天才的ね…………。
気を取り直して――――女性の影で巨人討伐をする代表選手を近くで観察する。
私の天才的な演技力で騙された女性はうまく盾になってくれている。
視線の先には目つきの悪い男と、布で顔を隠した男がいる。
「リヴァイ兵士長頑張ってください!」
「別に頑張るほどのことじゃねえよ。ただ、殺すだけだ……」
あれが調査兵団のリヴァイ兵士長――――私達の目的には邪魔になる存在。
「お前も油断せずな」
「はい、勿論ですキッツ隊長!」
「…………済まぬがそこの覆面……いやバンダナかの、の兵士が駐屯兵団代表かね」
「貴公の仰る通りですが――なにかありますかな?」
「いや名前を窺いたいな、と――」
「すみませんが、政治的な理由でお見せできません」
「――――なッ!? 私は貴族だぞ!? 失礼ではないかねッ?」
「……兵士である自分にはなんとも言えませんな。他の貴族の方々から口止めをされているので……」
「――他の貴族に、だと? …………なるほど、それは失礼した。どうやら交渉する相手を間違えたらしい」
「ご理解してくださることはこちらとしても助かります」
「フンッ、気にするな。さて相手は誰か……バルド公か? いや革新派のアールトネン子爵の可能性も……ぶつぶつ)」
黒いバンダナで頭と口元を隠している男がもう一人の代表者のようね。
(貴方達に恨みは無いけど……私達の故郷を取り戻す為に……死んで貰うわ……)
かしゅん左手に着けた指輪の針で誰にも気づかれないように自傷行為を行う。
指輪にはとげが仕込んであり、自分自身を引っ掻いたせいで赤黒い血が私の指を伝う。
ここで私が明確な目的意識を持っていれば、別の存在へと
(今回は違う。父の手記では……確か自傷行為を行いつつも目的意識を持たず、命令口調で念じることが大切とあったはず)
念じるのはあのリヴァイ兵士長とやらと顔を隠した兵士のこと。
殺せ……殺せ……殺せ……。
心で強く、強烈にイメージする。
巨人達に命令するようにあの2人を喰い殺すように……。
目をつぶってリアルに念じていた。
だが――――
『……行ってきま~す!』
満面の笑みで笑う少年の姿――
(――――はッ!? 私はなにを……)
敵であろう兵士の会話を聞いていたときふと私は数ヶ月間監視していたあの男の子の事を思い出した。
何の脈絡も無い突然の驚き。
声がどこからか聞こえたような気がして……。
何故かは判らない……ただなんとなく、本能で嫌悪感を感じてしまっていた。
こんな行為に何の意味があるのか、と。
誰かを殺してなんになるの?
自己満足で人を殺してどうなるのか?
そもそも念じたところで50mの壁を登ることはできない――つまり成果を知ることなど不可能に近い。
ならばこの行為は私の大嫌いな無意味な行動と同等だった。
私は父の手記に書かれていた手順を実行して巨人の力を試そうとしていたわけだが、愚かなことに肝心の確認方法を考えていなかった。
急速に私の中での
(……バカバカしい。今はただもう1つの目的を果たせばいいじゃない)
女性兵士にお礼を適当に言いながら私は『小鳥の大樹亭』を目指しゆっくり歩いていった。
心の中で燻るもやもやした感情をもてあましながら――――
スネーーークッ!
あと覆面はアオイ君なわけですがアニさんは気付いておりません。
彼女は鈍いのです。