それなりに活躍?
「き、きさま……ナイル・ドーク、だと!? 憲兵団のトップが何故ここにいる!」
「言葉を慎みやがれ反逆者ども! 俺がここにいる理由だと? 憲兵団は王命のもと、壁内の平和を従事する兵士! 貴様らの企みなどまるっとお見通しなんだよ巨人信奉者ども!」
「……く、見抜かれていたというわけか」
「はっはっはぁっ! そういうことだ」
……嘘だがな! 他の馬鹿どもに無理やりメンドウな行事を押し付けられただけだけどな!
でもカマかけたらすぐベラっちまうなんて尋問しがいのねえ奴だなー。お兄さん感激するぜ。
相手は俺の後ろにズラリと並ぶ兵士たちに萎縮したのか、及び腰になっている。すぐドンパチにいくって様子でもなさそうだ。
無理やり引き連れてきた兵士どもは俺の名推理に「おお、すげえ!」とか言ってるし、それも相手を警戒させるのに一役買ってるようだな。
ま、嘘も八百って奴さ。ナイル・ドークは凄い奴。そういう印象付けは大事ってな。
さて、それより敵さんだが。
黒マントはいいとして駐屯兵に…………糞、憲兵もいやがるな。身内の不始末か……。
こりゃ下手に明るみにすると不味いか。俺の失点扱いになったらアウトだ。クビが飛びかねねえ。
幸い門付近は祭の関係上、兵士以外はこれないように封鎖してある。銃声も万単位の市民達のドンチャン騒ぎでかき消されている。
俺はそっと呟く。
「……口封じ、だな」
「おいナイル」
「あ? ……なんだキッツか。お前さんも来てたんだな」
横から出てきたのは駐屯兵団隊長のキッツ。相変わらず子供を泣かすいい顔してやがる。
「それより、アイツらだが――」
「判ってるさ。……
「…………ああ」
俺もコイツもそこら辺は心得たものだ。温情なんて欠片もない。だがそれでこそ上に立てるのだからな。
ようは反逆した兵士は全て巨人信奉者と戦って殉死したって筋書き。
とても判りやすい下衆なストーリー。汚い大人たちのやり口。
関係者には全て口止め。ちょっと騒動があったが兵士の活躍で納めた。それでいい。
世はなべてこともなしってな。
俺は手を振り上げ後ろの兵士どもに命令する。
「憲兵、銃構えぇっ!!」
「はっ!!!」
「……くそ、おい銃もってる奴らなにしてる! 反撃、反撃だぁ!」
「待ってくれ! もう弾がほとんど尽きててるんだ! それより降伏したほうが」
誰だ降伏など許すか。兵士たちはそれぞれバリケードの影に隠れながら構えている。
こいつらは選りすぐりのエリートどもだ。
市民からは
だからこそ、容赦しない。平和を乱す輩はすべからく排除。
巨人には弱くても、人相手なら上から目線で踏みつぶれるのが俺たち憲兵よ!
……まあ、最低なのは自覚してるけどな。
俺は念の為、銃声を隠すためにもう一つの音を出すことにする。
「……確か、祭を締めくくる模擬の巨人討伐の前段階は黒、赤、黄色、緑の煙弾の同時発射だったな。お前等撃て」
「は!」
それを見た反逆者どもは引き金に手を掛ける素振りをする。
こちらに反抗の意思を示そうとしたが、それを見逃す俺ではない。
「止まれ、貴様ら! 大人しくしているなら俺が上に掛けあって多少罪の免除をしてやってもいいのだぞ?」
「う、うそだ! さっきまで殺す気まんまんだった奴が言うことじゃない!」
「そうだ。俺たちは巨人様と一部になるために来たんだぞ! それを――」
「だったら秘密裏に巨人に捧げてやってもいいぞ。お前たちこそ、ここで鉛弾に当たって死ぬのは嫌だろう?」
「……そ、それは」
「俺だって悪魔じゃない。市民たちが巻き添えを喰らうのが嫌なだけだ。裏取引さ。大人しくしていれば、巨人の元まで運ぶ。お前達は本懐を果たせ、俺たちはトロスト区の平和を守れる……WINWINの関係。お互い損はないだろう?」
相手は迷っているようだ。そうしている内に煙弾が打ち上げられ、数瞬して壁上の各所で待機していた兵士たちは色とりどりの煙弾で祭を盛り上げる。
市民たちの歓声が一際大きくなった。
ファンファーレが鳴り、街の騒音は最高潮まで高まる。
……じゃあ、もういいな。
俺はそっと、右腕を真上に掲げた。反逆者どもの視線は俺の手の先を見つめ、その意味を知ろうとする。
だが奴らが結論に至る前に――――手を振りおろす。処刑の合図をするために。
「全員……撃てぇぇーー!!!」
「な――ぎゃあああ!?」
「き、貴様!? 取引わ――ぐふ!?」
驚愕の表情で次々と倒れて往く反逆者たち。
俺はそれを見やって一言告げる。
「人類全員の命を脅かした大罪人との約束を護る義理はねえ。俺が出来る慈悲は拷問をする余地を与えない――ただそれだけだ」
だが運の悪い奴はいる。一部では生きている人間もいた。
そいつは回収して後日アジトを吐かせるとしよう。
部下どもに命令して死体の処理や後始末などを任せ、数人の兵士を伴い開閉扉の操作室へ向かう。
すると中から誰かが出てきた。即座に対応できるよう、銃口は向けさせるが、
「やれやれ、我々は連中を入れまいと中で必死に護っていたのに酷い扱いだなナイル」
「貴様エルヴィンか。何故ここにいる。理由によっては即座に拘束させて貰うぞ」
中から出てきたのは四人。調査兵と駐屯兵の制服を身に纏った奴らだ。
その一人はいつもの胡散臭い顔の調査兵団団長――エルヴィン・スミスだった。
俺は自分でも判るほど顔をしかめ奴を見る。コイツは個人的に大嫌いだからな。
「私は調査兵団団長だ。門の様子を見た後、巨人討伐のパフォーマンスを見るつもりだったのだ。結果として奴らに捕まったのだがね」
「証拠は?」
「無いな。だが奴らがモタモタしていたのは、先に到着したキッツ隊長も見ていたはず。我々は拘束していた反逆者を始末したあと、立て籠っていたのだ。赤い煙弾も私が打ち上げたものだ」
「そのせいで俺が急ぐ羽目になったんだがな――ん?」
頭上に影が差す。
誰かと思ってみると、10人前後の兵士が立体機動で降りてきた。
ちっ、面倒な。こりゃさっさと済まさないとドンドンきやがるな。
「いやーもう終わっちゃったんだねぇ。こりゃ向かい損かな?」
「ハンジか。こちらは問題ない」
「そう? ゴロゴロ死体が転がっているけど」
「少々トラブルがあっただけだ。そちらは憲兵団が処理するだろう」
さりげに俺に放り投げる気かこの野郎。
その前に疑惑は晴れていないんだからな。
「調査兵団か。お早い到着で御苦労さまだな」
「いやぁ、天下の憲兵団さまには敵わないですよ。いよっ国一番!」
皮肉が通じねぇ。ムカつくな。しかしここでごちゃごちゃしても面倒だ。
ちっ、どーせエルヴィンの言ってることも正しいのだろう。
俺以上に罪とかには煩いキッツが特に口を挟んでいねえんだから。
適当に調書をでっち上げて酒でも飲もう。さっきにやり取りで二日酔いもふっとんじまったしな。
今日は不味い酒になりそうだ。
キッツもやって来て俺たちは雁首揃えて話す。
「どちらにせよ、同行してもらうぞエルヴィン。どの道、色々打ち合わせをしておく必要がある。この事件――表に出していいものじゃない」
「儂も同感だな。巨人信奉者は兎も角、裏切り者は内々に処理せねばならん」
「判っている。だが人の口には戸は立てられない。そこにいる兵士たちは信用できるのか?」
「憲兵団を舐めるなよエルヴィン。面倒事が避けるための努力なら全力でやるのが俺たちの組織だ。問題ない」
「…………それは頼もしい限りだな」
「これほど断言しても格好良くない言葉も無いな」
「うるせえ!」
ちっ、本当に嫌な一日になったぜちくしょう。
でも誰かがやらないといけないからな。
地獄があるとしたら俺もそっち行きだろうな。本当ならやってらんねえって丸投げしたい。
平和な日常ってのにさっさと戻ってポーカーでもしたい。
俺はガラス玉のような瞳で虚空を見つめている反逆者たちを見る。
「……もっと楽に生きろよ。いずれ死ぬなら精いっぱい生きろってんだ。笑顔でよ」
憲兵団に入ったときはみんなを笑顔にするなんて囀ってたっけな。
まあいい。ずっと前の思い出だ。
キツイこともあるがそれなりに楽しめている。
さっさと帰って俺をここに送り込んだ奴らの懐を寒くしてやろう。
俺はちんたらしている部下どもを急かすことにした。
腹の奥から声を出して叫ぶ。
「オラオラ、さっさと処理しろよ!! じゃないと日が暮れちまうぞお、う……?」
その時、視界が揺れ、俺は思わず崩れ落ちた。
「おい、大丈夫かナイル! 弾でも受けたのか!?」
「う……うぅ……」
「う?」
「うえぇぇぇ……ぼげぇぇぇぇ……」
「吐くなナイル!? くそっ、儂の一張羅にっ!!」
落ちついたらぶり返してきやがった。
くそ、迎え酒を……いや胃がぐりんぐりんしてやがって酒をうけつけねぇなこれ。
今までの経験上。うぼぇ。
……やけ酒は明日にしよう。
短くてすいません。
視点切り替えの都合です。
次回は天使なあの人視点でいきます。