VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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乙女心は触るな危険

 ログアウトがログアウトしました――違う。

 ログアウトが居留守使ってやがります、どうやれば出てきますか?

 

「送信、と」

 

 パシン

 

 弾かれるように、先ほどの内容は送信されずただ表示されたままだ。

 

「駄目か……」

 

 送信ボタンを押してもウンともスンとも言わない。

 

 既にログインしてから1ヵ月経過していた。

 あのアルミン&エレン連合にしつこく質問された日の夕方一度ログアウトしようとボタンを押した。

 試しに今押そう。

 

 ポチポチ

 

 しーーーーーん

 

 今日もお日柄良くいつものように反応無し。

 つまりこれだ。

 メニューは表示されるし、ログアウトもGMコールのボタンもある。

 しかし一切反応しない。

 押しても空しくポチポチできるだけ。

 端からみたら俺は凄く馬鹿に見えるだろう。

 一度アルミンに目撃されたが「まあ兄さんだし」で終わった。

 お前マジで一度しばくぞおい。

 とにかく無反応な一日。

 

 頭のよろしくない俺は必死に考えた結果、4つの仮説を立ててみた。

 前者2つが現実的にありえそうで、後者2つはオカルト、都市伝説級の眉つばな可能性だ。

 

 1――なにかしらの原因でログアウトできず病院に搬送されている場合

 

 一番ありな展開だ。だったらなんで運営から何の連絡も無いのかという疑問が残るが。

 

 2――ログアウト不能&時間加速機能の故障

 

 時間加速はVR技術を開発した佐藤氏が発明した新技術。

 3年前に安全性を確保した上でゲームに実装されはじめ、最大10倍の加速が可能だそうだ。

 しかし本当にそうなのか?

 某アクセル的世界みたく1000倍なんてこともできるのではないか。

 偶然俺がそのなにかしらの要因でそんな事態に陥っていたら拙い。

 10時間が400日以上の月日になるのだから。

 

 次からオカルトの類だ。

 

 3――俺はすでに死んでいて魂というか俺という意志がデータとしてゲーム内を彷徨っている

 

 これはソード的ラノベでそんなキャラがいたから思った仮説だ。

 ぶっちゃけSFとオカルトなんて相性よくない。

 考えるに値しないのだが……。

 

 4――ゲームでは無く進撃の巨人の世界は存在し、俺はアオイ・アルレルトとして転生している

 

 ここに至っては超オカルト過ぎ展開。テンプレートに鉄板100枚重ねたほど本や創作では存在するが現実としてはありえないの一言だろう。

 

 

 

「ただ可笑しい部分は確かにあった」

 

 前者の2つ――ここがゲームと言える数少ない根拠はステータスやアイテムボックスの存在だ。

 進撃の巨人はダークファンタジーのジャンルだが魔法なんて便利なものは無い。

 一昔前の現実世界に巨人が現れて――という話で巨人という存在以外は魔法のまの字もない。

 

「でも後者2つ……とくに4つ目の現実世界であるという理由になる根拠があり過ぎるのが問題だ」

 

 後者2つのオカルト的事態を一笑に付すことができない理由がある。

 動物の肉を肉屋の親父が捌いていたが臓物1つ1つが精巧で……思わず後で吐いてしまった。

 そこまで精巧にゲームは作っていないはずなのに。

 痛みもそうだ。初日に犬にかまれて痛かったがそもそも痛覚は全面カットだったはず。

 何故痛覚が実装されているのかが不明だ。

 記憶――俺はともかく他の人間が『アオイ・アルレルト』という男の過去を知っているのも不思議だ。

 そもそも最初この時期の出会いを経たから、訓練兵団に入団しイベントで出会った相手と仲がいいという筋書きらしいのはチカサさんに聞いた。

 でも細かくプレイヤー1人1人の過去を作っているのか?

 エレンやミカサは俺のことを非常に不本意だが……変人という事以外あまい知らなかったらしい。

 だがここで登場したのがゲスミン、じゃなくて弟なアルミン。

 

 昔あったこと――例えば両親がある日家先で捨てられていた俺を拾ったとか、名前はミカサの母親のアドバイスを貰ってアオイにしたとか。

 さらにはその日の朝食の献立から語り始め俺が明後日の方向ばかり見て、前を向けと注意しましたとか、会話の受け答えが変やら、いままで食べたパンの枚数を知っていると言わんばかりの無駄記憶力を披露しエレンをドン引きさせていた(ミカサは感心したように頷いていたが)。

 

 死んでもログアウトしない仕様なので極力死亡は避けたい。

 現実世界なら即デットだし、仮想世界でもどんな可笑しな事態になるか判ったものではない。

 結局のところとにかく生きて生きて生き抜くしかない。

 最悪パターンであろう4のここは現実である、という考えで動くしかない。それにしても――

 

「だーーーーーっ! 頭脳労働なんて嫌いだ! 適当に体動かす方がいいや」

「……奇遇ね。私もおんなじ」

「だよなだよなっ」

「だからかくれんぼはもう辞めたら?」

「いや何い――――」

 

 さて俺はどなたと会話しているのでしょうか?

 そろりそろりと後ろを振り向く。

 

「…………」

「…………」

「ぎゃーーーっ! で、でたーーー!」

「失礼。人をお化けみたいにいわないで」

「いきなり出てきたら怖いわっ」

「だったらそんなうす暗い、樽の影なんていなければいいのに」

「こっちも事情があるんだよ……」

 

 幽鬼のごとく現れたのはミカサ・アッカーマン。

 リヴァイ兵士長に次ぐ最強クラスの兵士になる(予定)の少女だ。

 いまじゃほとんど絶滅したと言われる東洋の血を引く少女(たぶん俺も引いている気がするけど……)。

 その貴重な゛血゛を狙われ誘拐犯に襲われた。

 両親は殺され絶望の淵に立っていた少女を救いあげたのがエレンだ。

 エレンは3人いた誘拐犯の内2人を殺し、不意を突かれ残りの1人はエレンではなくミカサがエレンに諭され殺した。

 1人になって、「寒い……もう帰る場所が無い……」と悲痛な声をあげたミカサをエレンが自分の暖かいマフラーをあげて家に来い等の話からイェーガー家のお世話になっている。その時エレンから貰ったマフラーは宝物のように大切にしている少女。その過去はかなり重い。

 それ故か家族を失うことを恐れ、特に自分の住む世界をくれたエレンの言葉にはかなり従順な様子を見せる。盲従しているわけではないので時にはエレンを諭す場合もあるが。とにかくエレン第一な女の子――――それがミカサという少女だ。

 

「とっとと出る。エレンが呼んでる」

「また質問大攻勢かよ……」

「…………」

 

 じーっとミカサさんがこちらを注視してくる。

 これで頬でも染めてくれたら男としては嬉しい限りなのだが。

 目のハイライトが若干消えかかってます。

 ぶっちゃけ怖い。

 

「……エレンもなんでこんな奴」

「私にかまってくれないのってかー」

「……(キッ!)」

「すんません」

 

 美人って睨むとめっちゃ怖い。

 整ってるから余計に。

 しかし俺はめげんぞ。

 こうなったらミカサの顔を赤らめて遊んでやる!

 

「私は別にエレンば無事なら……」

「えーエレンはミカサのこと大好きだと思うぞ」

「なっっっ!!??」

 

 ボンッ――とエレン製瞬間湯沸かし器を注げばあっという間に乙女に変身。

 マフラーをいじいじとしながらあたふたしてる。

 リンゴのように赤くなった頬を隠しているが潤んだ目までは隠せてない。

 すんごくきゃわいいのーですが……。

 …………なんだろう、今猛烈に殺意が湧くんですが。

 固定砲台にエレンって名前の球を込めて巨人に打ち込みたい。

 爆発しなくていいから吹き飛べこの野郎。

 正気に戻ったのか、あわわはわわと右往左往していた少女はキッと再度こちらを睨みつけてくる。

 しかし先ほどと違って目力は雲泥の差。

 ドーベルマンがチワワクラスになっている。なにこれ可愛いんだけど。

 

「エレンはそんなこと言わない」

「まあ俺も推測だし判らないけどさ」

「だったら適当な事言わないで……ッ!」

「でも聞いたぞ? エレンに俺の家にこないかって言われたからエレン家に来たんじゃないか」

 

 ふっふっふ……強がっても目が泳いでいるぜぇ……(悪い顔)。

 

「だから?」

「ほらアレだよ、女の子に家に来いだなんてまるで『今日からお前は俺の嫁』みたいな感じじゃんか。将来をゼンテーにお付き合いしましょうって意味に取れるんだけどなー」

「ヨメッッッッ!!!???」

 

 ボボンッ

 

 ぷしゅ~と真っ赤な風船が破裂してへなへなと地面に落ちた。

 どうやら処理落ちしてしまったらしい。

 純情だな……。

 

「ヨメ……エレンのヨメ……ふふふふふふ……♪ まずは朝起きて、ご飯食べて貰って~お仕事言って夜は縛って~それから、それから……きゃ――――」

 

 うん一部不穏な単語があるけど無視しよう。

 俺の精神衛生上よろしくない。後何故かイラッとしたぞ。

 なんでだろう、雨ふってないのに局所的豪雨が起こりそうだよ……。チクショー!

 

 とりあえず物凄い乙女ミカサを見たので満足したとしよう。

 後はエレンが来る前に脱出を――

 

「あ、いたーーーっ!」

「兄さんもう逃がさないよっ」

「げっ」

 

 エレアル部隊が来やがった。

 しかも俺の後ろはミカサも居て挟み打ちの恰好になった。

 仕方無いから諦めるか、はぁ~~。

 

「判った判ったから、今日は何の話がいいのさ」

「じゃんぐるって奴の事教えてくれよ! どんな生き物がいるのか知りたいっ」

「僕はすこーるとかについて知りたいな」

「まったく毎日毎日飽きないなーたまには家族と遊んだらどうだ?」

 

 ミカサとかミカサとかミカサとか。

 嫉妬したミカサに睨まれる俺の気持ちを少しは汲んで欲しい。

 

「だってアオイの話の方が面白いしっ。ミカサはなんてゆーか過保護過ぎだしさー」

 

 おいちょっと待て。俺の後ろのご本人様がいるのだけど。

 

「それに女だし、話題っていうか合わないしな」

 

 ちょおま。

 

「だったらミカサより(・・)アオイやアルミンと話してた方が楽しいぜ!」

 

 キラッ! と白い歯を見せて笑顔を頂きました。

 うん普段だったらお前なーとか帰してたんだけどね?

 後ろからダークオーラが漂ってきたんですが……。こうゴゴゴゴゴって擬音付きで。

 キリンは命の危機に陥ると首を地面に突っ込んで現実逃避するそうです。

 俺も現実逃避しちゃだめかな。

 

「……(ふいっ)」

「殺すころすコロす殺すころすコロす殺すころすコロすアオイはやっぱり殺す――――」

 

 ああ、どうしよう。

 巨人より人類に殺されそうです。

 後ろの貞子さんは俯いて顔にかかる前髪で表情が窺えないのだけどヤバイ。

 どれだけヤバイかって俺のスキル『生存本能』がガンガン警鐘を鳴らしているって判るくらい。

 カンカンカンカンカンって脳内でかき鳴らされてるよ!

 これって致命傷に至る攻撃を回避とかじゃなかったっけ?

 じゃあ命にかかわる危機に襲われているんでしょうか。

 

 どの道ここにいるのは下の下策だな。

 

「エレン、アルミン」

「どうしたんだ?」

「兄さん?」

「俺は今絶対絶命の危機にある。だから――――」

「「だから?」」

「逃げるんだよーーー!!!」

「コロスッ!!!」

「ぎゃーーー来たーーー!?」

 

 近頃鍛えられてきた敏俊度でも振り切るのが困難なミカサ型タイラントから全力で逃げる。

 

「待て」

「待てるかッッ」

 

 結局この後、命を賭けた(俺だけ)シガンシナ区リアル鬼ごっこは小1時間ほど続き――捕まってぼこぼこにされました。

 頑強さのお陰か生きていたけど服がボロボロだった。

 この後、アルミンやじーさんにも怒られるわで散々な一日。

 

 乙女心は弄っては駄目だと深く心に誓う日となった。

 

 

 

 

 

 ――さらに半月後――

 

 俺はだんだん冬の気配が近づくシガンシナの街中を歩いていた。

 それはある目的の為だ。

 

 ゲームか現実か判らないが訓練兵団入団まで時間が飛ばないのならハッキリ言って暇だ。

 暇つぶしついでに漫画とかでみた長距離策敵陣型の図ややり方、といっても概要にもならないような子供のお絵描きなんだけど――を書いて手紙にしたためてみた。

 渡す相手はエルヴィン・スミス。

 調査兵団第13代団長――になる予定の人。

 現在はキースという人が団長らしい。

 これがどういう影響を持つかは知らない。

 けど第一話でキース団長がお婆さんで死んだ息子さんが無駄死にだったと叫ぶ姿はできれば見たくない。

 これが役に立つかは分からないけど、何もしないよりいいはず。

 そう思って行動したのだが――

 

「どうやって渡そう……?」

 

 馬鹿な俺はその受け渡し方法をまったく考えていなかった。

 各町に配置される駐屯兵団と違い調査兵団は壁外の調査が主だ。

 当然多くの人員は一か所に集まっている。

 調査兵団の本部はウォールローゼとシーナの中間――トロスト区の向こう側らしい。

 すんごく遠い……。

 ウォールマリア~ローゼ間って100kmあるらしいし、直接はアウト。

 

「郵便的なものあるかな……?」

 

 一度帰ってじーさんに聞こうか考えていたところある人物が目に入った。

 

「ん……あ、あーーっ! あの人はッ」

 

 俺は急いでその人物の下へと走る。

 恐らくローゼ内の内地にいく可能性がある人だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




調査兵団の本部は『進撃の巨人 INSIDE抗』より。

ミカサにやられたのは全面的に主人公が悪い。

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