盾に二つ薔薇の紋章――それは駐屯兵団であることを表す。
俺は駐屯兵団の制服を身にまとった女性に声をかけた。
「すいませんっ」
「ん……? なんだい少年」
あれ――後ろ姿から
…………人違い?
「どうしたんだ? 道に迷ったとか、親とはぐれたとかかい?」
アニメで見た時では保守的で融通が利かなそうな印象を受けたんだけど。
今は背の低い自分と目線を合わせるようにゆっくり腰を折ってほほ笑む
なでりなでりと頭を撫でている。
すいませんすんごく恥ずかしいんですがががー。
「あとー、そのですね」
「うん。恥ずかしがらなくていい、ゆっくりゆっくり話しなさい」
恥ずかしさから熱くなっている頬を見てくすっと笑っている。
大人の余裕って奴ですか。
いやリアル年齢なら俺の方が――まて設定だと当時の彼女と俺の年齢が近かったなそういえば。
なんか俺と違ってお姉さん臭がしまくっている。
臭って書くと臭そうだから貫禄的なものがあるというやつか。
「手紙を届けて欲しい人がいて」
「手紙? 私は駐屯兵団所属なんだが、その届ける相手も駐屯兵団というわけかい?」
いい人だー……。
見知らぬ子供相手にちゃんと応対してくれる。
どっかのタイラントもこの位相手の話を聞く余裕を見せて欲しい。
恋は盲目とは言うけどそれ以外の人間も生きているというのに、バファリン程度の優しさでいいから周囲の人に振りまいて欲しいよ。
特に俺。後は俺。ついでに俺。
「いえ、調査兵団の方なんですが」
「調査兵団か。名前は?」
「エルヴィン・スミスという人なんですが……」
「同期にはいないな……というより知っている同期はほとんど死んでしまったんだがね……」
「あ……すいません」
俺はまた馬鹿やっちまったー!
すいません地雷を踏むのが得意みたいだ。
綺麗に整った眉を下げながら肩をすくめるクールビューティーさん。
「いや、調査兵団はその任務の特性上、巨人と直接戦う組織だから当然と言えば当然だろう。私としては外より内――壁の強化に努めた方がいいという持論はあるけどね」
「まあ人それぞれですし」
「そうだね。私は自身の考えを改めるつもりはないが、他人の考え、信念を頭ごなしに否定するつもりもない。ウォール教みたいな根拠の無い言葉を
あー居たなぁそういう奴ら。
アイツら絶対壁の秘密とか、もしかしたら巨人の秘密も知ってそうだよな。
ウォール教関係は置いておこう。
それより気を使わせてしまった気がする。
たぶん話題転換も兼ねてこんな話をしたんだと思う。
ウォール教関連はどうでもよさそうに語っていたし。
「おっと手紙の話なんだが定期的に各区を回る商人に手紙とお金を預ければいいだろう。調査兵団本部なら商品を卸す商人も多くいるしね。
最近、手紙の配達を専門にする業者も現れたそうだ。まあ早い分お金がかかるが……ふむ」
「あ、手紙出せるんですね」
「いややはり私が持って行ってあげよう。子供の持つお金では厳しいものもあるしな」
「いやでもお金くらい……」
「ははは! 男の子だな、強がるのはいいけど無い袖は振れにないだろうに。そのボロボロの服では説得力はないよ。女性にお金を払いたいならもっと整った服装で、ね?」
ボロボロなのはミカラント(ミカサ・タイラントさん)に襲われることが多いからなんですが……。
最近遠慮が無くなってきたのか大魔神ばりの球速で投石攻撃かましてくるから怖いんだよあの女の子。
これが男ならまだぶん殴れる余地があるんだけど、ミカサなんて見た目は美少女だから反撃できずなおさら一方的に攻撃される。
エレンに気にいられたいっていう乙女心が見え隠れするから尚のこと無理。
いい加減付き合っちゃいなよユー!
じゃないと俺のHPが削られる。服は物理的に削られる。
あとお金だが初期の所持金、100鋼貨あった。ヒッチに3枚使ったから97枚。
1鋼貨、一家族4人の1日分の食費になるから、子供の持つお金としては結構な額。
服みたいな残る品物は買うとじーさんにどこで買ってきたとか言われそうなので使えない。
ヒッチみたいに他の人にやるものか食い物を買って胃に収めるしか使い道が無い。
仕方無いから川で魚釣りやったり、少なくなってきたけど木の実や兎や鹿等の野生動物をハンティングしてる。
やり方はよっぱらいおじさん事、ハンネスさんに教わった。
暇なときに捕まえて捌いたり、お店に持ち込んで小遣い稼ぎ=酒代の足しにするのだとか。
ちなみに暇な時とは門番をしている時である。
エレンじゃないけど仕事しようよおじさん……。
狩りとかをする理由は街の外に逃走すれば高確率で逃げれるからだ。
1つしかない内門の出口で待ち伏せされるとオワタ状態になるが。
エレン&ミカサグループは万事が万事、やってくるわけではない。
ただ知識欲の権化と化し始めているアルミンは同じ屋根の下で暮らしている訳で、ちょこちょこ後ろをついてくる。
原作キャラじゃなくていいから妖精のように可愛い妹(クリスタ辺りなら俺はもう死んでもいい)だったら嬉しいが所詮男。残念臭しかしない。
「少年?」
「あ、すいません。でも大丈夫ですか? 結構遠いと思うんですけど」
割と重要だ。
渡す手段が見つかったのならそれを使った方が迷惑にはならないと思うし。
「なんだ手間の心配をしていたのか。なら心配いらないよ。私は普段トロスト区に勤務しているからね」
「あれ、じゃあなんでここに?」
「数日間研修で来ているんだ。ああ、研修てのはまあ普段違う場所に行って勉強することだと思ってくれればいい。巨人の姿をキチンと見てこいってな。ウォールマリアなんて内地に居るとどうしても巨人というものの存在を忘れてしまう。調査兵団と協力して壁外の途中まで支援する任務もあるしな」
「へ~まったく戦わないってわけじゃないんですね」
「そうだね。やりたがる人も少ないからたまに貧乏くじを引く場合もある。私は要領よくないから何度か支援をするハメになったよ……あのときは本当に怖かった……」
「そう、なんですか?」
意外だこの人はアップアップしつつも任務をこなしそうだけど。
「ああ……君も兵士に憧れているのかい?」
「はい、調査兵になるつもりです」
「ッ! そうか……しかし、死ぬぞ?」
「死なないようがんばりますっ!」
これから生きていく以上巨人達との戦いは避けされないのは俺だってわかる。
だから変わらない。
女型とか鎧の巨人とは正面切ってやりたくないけどなっ!
たぶん怖いから遠目でガンバレーって言ってそうな気がする。
「気合だけではなんにもならないぞ。悪いことは言わない。どうせなら駐屯兵団はどうだい? 人々と直接触れ合う機会も多い人類の盾だ。地味だと言われているがその地味な仕事こそ一番大事な事だと私は思っているんだ」
「それでも、逃げたくはないんです」
強くはなりたい。
ただ……死ぬ目にはあいたくない。
平和ボケ日本人な俺じゃあどこまでできるか判らないけどさ。
グッと女性を真正面から見つめる。
一瞬だけ彼女は悲しそうな顔をしたがすぐ表情を引き締めると、
「……そうか。さっき人の信念を頭ごなしに否定はしないといった。だからこれ以上言葉を重ねても駄目だろう。ただ――」
女性は一度言葉を区切り、
「最後の瞬間まで意味のある人生を送れるよう応援してるよ。もちろん駐屯兵団にきたら歓迎する」
「はいっ!」
にこっと笑い頭を再度撫でてきた。
さらにはこれでお菓子でも食べなさいと鋼貨を一枚渡してきた。
ホントええ人やー。
クールさん最高!
「じゃあコレは預かっておくよ、アオイ・アルレルト君」
「え、なんで名前」
「手紙に書いてあるじゃないか」
真面目そうで抜けているね君は、とからから笑いながら女性は懐のポケットから眼鏡を取り出して付けた後、最後に自己紹介した。
「私はリコ・プレチェンスカ。君の入団を待っているよっ」
「ッ!? はいっありがとうございました!」
俺はバッと頭を下げてしばらく彼女を見送った。
家の角を回り彼女が見えなくなった後で、
「やっぱりリコじゃんかーっ!? 眼鏡を追加装着とか味な真似してくれたぜまったく! 驚きで声上げるのを抑えるので必死だったよもう!」
ビックリして不自然に体を揺らしてしまったくらいだ。
シリアスな雰囲気が似合う――といかシリアスな場面ばかりで彼女を見ていたので穏やかな笑顔がいまいち想像できなかった。
リコ・プレチェンスカ――――精鋭班の一員としてエレンがトロスト区奪還作戦で登場した駐屯兵団所属の数少ない眼鏡っ娘。
名セリフといえばあれだろう。
アニメ13話屈指の名場面。
エレンが巨岩で門をふさいだ時、作戦成功を知らせる黄色い煙弾を打ち上げたのち、泣きながら「人類が今日初めて……巨人に勝ったよ……ッ!」といった場面。
「皆、死んだ甲斐が……あったな……」も同様。
主要キャラとは言い難いがそこそこ物語にも出てくる個人的には有名人。
「やばいな……テンションあがってきたーー! 今日はいい一日だっ、運がいいなぁ」
「そうそれはよかった」
「うんうん、最近は恐怖の撲殺魔が背後から来たりして怖かったからなっ」
「そう……」
「…………」
「どうしたの?」
「……手加減してもらえませんか?」
「嫌」
「そこをなんとか」
「厭」
「このとーりっ」
「否」
「病み様ミカサ様鬼神様っどーか平にご容赦をっ」
「……あなたが泣くまで殴るのやめない」
「そのセリフをここで聞くとはっ!!」
orz
何故かいつも以上にぼこられました。
ちなみに殴られた理由はエレンと同じベットに放りこんだこと。
朝食を作り過ぎたのでおすそわけにイェーガー宅に行ったらエレンもミカサ寝こけていたので親切心からやったのだが。
ラッキーと思えばいいじゃんっ。
何が駄目なんだっ!
――次の日――
本日はスペシャルミッションがある。
それはもう人類の命運をかけた戦いだ。
この戦いに勝利せねば俺に未来は無い。
邪魔が入ってはこの任務に支障が出るため根回しも入念に施した。
具体的には、アルミンには幾つか外界に関しての資料を手書きで書いて渡したし、エレンには調査兵団ごっこを今度しようぜっと約束して先延ばしに、ミカサには前日エレンの使用済みパンツを枕元に置いておいてあげた。きっと良い夢を見てぐっすりに違いない。
そこまでして俺が今日という日に臨んだ相手は、
「ハンネスさ~ん、立体起動教えてください!」
「おめぇまだ子供じゃねぇか。駄目だ駄目だ。教わりたいなら12歳以上になって訓練兵団に行きな」
ハンネス――――普段は呑んだくれの不良兵士だが、エレンとミカサを2度も救ったいざという時頼りになるおじさんだ。
巨人との初遭遇の時はかなわないと即時撤退をしてエレンの母、カルラを見捨てたが「それは俺に勇気が無かったからだッッ!!」と自分の弱さを認め慟哭するほどいい人だ。
カルラさんを死なせた彼はそのことでエレンとミカサにかなり負い目がある描写はあったが、できれば助けたい。
だからこそ俺は引けないんだ!
「そんなわけで」
「なにがそんな訳なんだよお前」
「どーぞどーぞお代官様お納めくだせぃ」
「あん……鞄かついで来たと思ったらおめぇ……ッ!?」
「どうしたんだーハンネス」
「おいフーゴこれ……」
「これ酒屋でならんでる蒸留酒。アクアビット(ジャガイモの蒸留酒)かっ。結構高いはずだぜ、どうしてこんなもん持ってるんだ!」
ハンネスさんやフ-ゴさん(原作だと鎧の巨人に門ごと吹っ飛ばされていた人)他の門番達も集まってきた。
酒好きのハンネスさんはすぐ物がわかったようで驚いた顔でこちらを見る。
ちらちらと酒を見ながらだが。
そんな欲望に素直なハンネスさんが好きですぜ。
「最近、俺ってよく狩りとかにも行ってるじゃないですか」
「ああーたまに見かけるよな……」
「でも獲物が大きい場合家だけじゃ食べきらない時って多いんですよ。アルミンも自分も子供ですし、じーさんもそう多くの量は食べれないんで。エレン家におすそわけしても余るくらいなんですよね」
「まぁイェーガーさん家もグリシャさんは普段診療で出掛けていること多いから3人分だしなぁ……」
「そんでまぁ肉屋とか酒屋とかにも格安であげてたりするんです。酒場は料理出す時、肉や魚は消費量多いですから」
「あってめぇ読めたぞ! だから酒をいくらか安く買えたってわけだなっ!」
「まぁそんなわけっす」
こういう裏ワザ的なのは日本でもよくやってたりする。
行きつけのお店――特に気の良いおばさんとかと仲良くなると一品サービスとか。
チェーン店だとまず通用しないので小さなお店で常連になるのがコツだ。
バイト代が出るまえとか金欠時にはとってもお世話になりました。
「まったく……」
でめぇこんな事ばっかり覚えやがって、痛くないけどヘッドロックしたままぐしゃぐしゃ髪の毛を乱暴に撫でられる。
他の人もはははっ、と笑いながらその光景を見ている。
「いいぜ」
「え、ホントに!」
「ただし俺がお前を抱えて壁をちょっと昇るだけだ。立体機動装置はワイヤーを巻き取る時、かなり体に負担がかかるからな。その感触だけでも訓練になるんだよ」
「うんうんそれでいいです!」
「はっはっはっ、じゃちょっと待っててくれや」
笑いながら立体起動装置を準備していくハンネス。
「ありがとよ、今日は良い酒が飲めるぜ坊主!」
「ほんとほんと」
「いやいや、ちょっと水筒の中にお酒が混ざってるだけなんでしょ?」
「ちげぇねぇ!!」
「「ははははは!!」」
ゲラゲラ笑いながらみんなで笑う。
いいねーちょっとみんなで悪だくみとか。
大学の仲間と酒場で悪ふざけする感覚に似ている。
テンション高めで門番のみんなと話しているとハンネスさんがやってきた。
「んじゃあ。やるか――――でもちょっとその前に」
キュポンと小気味良い音を立てて酒瓶の蓋を開けラッパ呑み。
んくんくと喉を数度鳴らしたのち、
「ぷはーっ! きっくなーー。でも透き通った色と同じでまるで水のようにスルスル喉のなかに流れこんでいきやがるぜ」
「あ、ずりーぞハンネス! 俺達にも呑ませろってっ!!」
「俺が手伝うんだから一番に呑ませてくれって。それに慌てるなよ。アオイよー、その鞄の膨らんだ部分はみんな酒なんじゃねぇか?」
「さすがお酒の亡者ハンネスさん。ご明察……まだ数本ありますよ」
「「おおおおおっっ!!」」
「亡者じゃねえよ。まっ、とりあえず壁昇りいきますか!」
「はいっ!!」
やったー人生初の立体機動装置!
どんなものか楽しみだ。
うきうきしながらハンネスさんが俺を後ろから抱きしめるように抱え飛び立とうとした時――
パシッ
にゅっと誰かの手が伸びてきてその動きを止める。
「なんだよ……俺ぁさっさとやって酒呑みたいんだが……」
「ほう……お酒ですか?」
「ああ、こう暑い日にゃあ冷たい酒でくいっとやると最高なんだ」
「でも勤務中ですよね」
「なんだよかてぇこと――――」
ギリギリギリ……。
ハンネスの腕がきしんでいる。
「にこっ」
後ろに立っていたのは……般若の形相をしたリコさんでした……。
その日、内門の一角では不思議な光景が広がっており、一部の人々は指を差しながらわいわい騒いでいた。
「だから……あれだ、暑い日には水が欲しくなるだろう? その中にたまたま大人のジュースが混ざっていたって――」
「ほうほう、だから呑んでもいいと。そんな子供でも判るような苦しい良いわけ通じるとでもッ!? そもそも大の大人、しかもそれなりに歳のいったオジサンが率先して悪い見本を子供の前に見せていいんですか! 我々駐屯兵団は市民の目の触れるところで仕事をしてるんですよ……聞いてますかこの恥さらしなセンパイ達ッ!!!」
「「「はい…………」」」
それなりに歳の行ったおじさん4人+1人子供が地面に正座をして眼鏡をした女性に叱られていた。
すでに軽い輪ができており、羞恥プレイになっている。
これはこれで恥を晒しているのだが頭に血ののぼったリコは気付いていない。
「アオイ君もだっ!!」
「はいっ!?」
「12歳から訓練兵団に入団させているという事はそれ以前の子供には体が出来ていないという事だ。何故年齢制限を設けているかの意味を君にじっくりみっちり懇切丁寧に教えるからな!!」
「は、はいぃぃぃ!!!」
このあと夕方になるまで数時間、精神的にボロボロになるまでリコさんの冷たい視線を貰いながら熱血的セッキョータイムが続いた。
ついでに帰る途中ミカサさんが屋根の上から飛んできて、流星キックをかましてきて完璧にノックアウトした……。
ちくしょー厄日だ!!
進撃の巨人で酒に関することはなかったのですが10巻でゲルガーさんが「誰だよこれ先に飲みやがった奴は!!」で激おこしてたときの空ビンがブランデーとかそれっぽいなーと思ったのでやりました。
アクアビットは15世紀にできたとか。
リコは現在19歳――850年では25歳としておきます。詳細な年齢が分からないので。