VRゲームで進撃の巨人~飛び立つ翼達~   作:蒼海空河

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多分タイトルで誰が出るか分かる気がする(^_^;)

評価&お気に入りありがとうございます<(_ _)>


悲願の団長、智謀の兵士

 冬、差すような寒さの中、雪こそ積もっていないが何れ大地を白い絨毯で多い尽くすだろう。

 

 トントン

 

 外はもう夜の帳が下り、真っ暗となっている。

 室内を照らすのは頼りないローソクの炎だけ。

 私は巨人についてまとめた資料を1つに集めて机の端に置く。

 その生態、性質、行動原理――――それは訓練兵時代とそう大差なく、巨人に対しての知識、認識不足を証明していた。

 なにもかもが足りない。このままではまた行きは巨人に追われ死ぬ目に遭い、帰りは俯いて住人たちの罵声を浴びるだけの遠征になってしまう。

 報われない。本当に。

 

「駄目だな……これでは。来年の壁外調査に間に合うかどうか……」

 

 トントン

 

「エルヴィン、入るぞ」

「あ、はっ失礼しました、キース団長!」

「いやいい、お前が次の壁外調査に力を入れていることは知っているからな」

「恐縮です」

 

 どうやら私は疲れているらしい。

 普段はここまで抜けているわけではないのだが。

 キース団長は厳しい眼差しでこちらを探るように見ている。

 例の話についてだろう。

 

「やはり、難しいか」

「そうですね……被害を減らすとなると1つは英傑の存在が必要になります。それも傑出した存在が」

「強い兵が入ればそれだけで兵士達の精神的主柱となる、か。立体起動の第一人者キュクロのような逸材でもいればな……」

「発明家アンヘルのように画期的な発明もあればさらにいいでしょう」

 

 キュクロ――――性は不明。巨人が吐きだした女性の死体から産まれたという事で見世物扱いされ片目も奪われるなど幼少期は不遇な人生を囲っていた。しかし発明家アンヘルが作った巨人殺しの武器、立体機動装置を初めて使いこなし同時に人類初の立体機動装置を用いての巨人討伐を成功させた男。その名を語らずに立体起動術は語れない。

 アンヘル・アールトネン――――立体機動装置を作り出した天才発明家であり、当時の調査兵団団長ホルヘ・ピケ―ルと共に巨人を殺せることを証明した偉人。彼がいなければ人類は壁外へ出ることすら叶わなかっただろう

 

「だがそんな都合のいい人材が現れるのを待つのは些か悠長に過ぎるだろうな」

「はい……だからこそ今できることをするしかありません」

「そのための被害を最小に抑えるための策、陣形だが……」

「……壁外での行動ではどうしても兵の損害は出てしまいます。その損害を最小限に抑えるための優れた陣形の構築にはとなると――」

「一朝一夕でどうにもならない、か。実際、儂のチンケな頭脳では陣形のじの字すら思いつかんよ」

「そんなことは無いでしょう。皆、キース団長の事を慕っています」

「そこには何度か死線を共に潜った、というただし書きがつくがな」

 

 自嘲気味に笑う。

 付き合いの長い兵は兎も角、大概の若手の兵は5年以内に死んでしまうからだ。

 慕うにも時が必要だ。

 

 5年で9割。

 

 この数字は壁外調査での死亡率を表す。

 生存率ではない、死亡率だ。

 多くの調査兵は5年以内に9割方死亡する。

 正確には行方不明として処理する者もいるが、それはただ単に巨人が付近にいるからなどの理由で死体を回収できなかったからだ。

 逸れて行方不明となった者も極一部いるだろうが、壁外で巨人の脅威から逃れることは並大抵の事ではない。

 まして移動手段である馬を失えばもう絶望的だ。

 そうなれば喰われて死ぬか、自ら命を絶つかの2択しか残されない。

 本当に報われない。

 

「後一歩……大まかな形は出来ているのです。後少し、幾許かの材料さえあれば」

「『たられば』では完成せんぞ……といっても儂が偉そうにいうことでは無いがな」

「いえ仰る通りです。だからこそ急がねばなりません。考案しても実戦レベルにまで習熟する時間を採らなくてはいけませんし」

「ああそうだな……ところでエルヴィン」

「なんでしょうか?」

「儂はこの壁外調査を終えたら引退しようと思っている」

「ッ! それは本当ですか。いやしかし――」

「わかるんだ。儂の体はもうガタがきているとな。長く壁外調査をやってきて、何度も巨人と対峙した。かつてのようなキレは無い。次の調査で儂は引退する。だが……」

「だが?」

 

 彼の机の上に載せていた団長の手は真っ白になるほど強く強く握りしめられていた。

 しわがれた手は多くの命と共に、今日まで生きてきた。

 その想い、心中は若輩の私では揣摩臆測(しまおくそく)できないであろう。

 

「形を残したいッ!! いままで無残に死んでいった上司、同僚、部下のためにも、儂なりの手向けを残したいんだッ! あのふざけた面をした奴らに、人類の意地を見せつけてやりたい!!!」

「自分も同じ気持ちです団長。無念の内に死んで逝った戦友(とも)のためにも、次の壁外調査――必ずや成功させましょう!」

「ああ……そしてエルヴィン。お前がその想いを繋いでいって欲しい。調査兵団の、そして人類のために」

「私が、ですか?」

「そうだエルヴィン。儂のような脳筋ではない、お前の頭脳こそ次代の調査兵団に必要なのだ」

「ではやはりここ数年、壁外調査で私が団長の傍に布陣するよう指示を出していたのも」

「判っていたか。そうだ、お前はどんな状況でも冷静に冷徹に状況を見据え采配を下せる才がある。あの巨人を目の前にし、死の恐怖に打ち勝つ精神力、そして的確な判断を下せる頭脳。お前こそ団長にふさわしい」

 

 可能性はあると思っていた。

 キース団長は会議の場では必ず自分に意見を出すようにいい、その根拠を詳しく聞いていた。

 それ以外でも他兵団との会議でも自分を同席させていた。

 おそらく団長業務を覚えさせるためという意図があったのであろう。

 団長は不意に表情を崩すと、

 

「頼むぞエルヴィン」

「はっ身命を賭して」

 

 まるで息子を送る父のように穏やかな、安心したような顔でそう言った。

 

 

 しばし仕事に関係の無い話題に移った後、おもむろにキース団長は封筒を取り出した。

 

「そういえばエルヴィン、お前に手紙が来ていたぞ」

「自分にですか?」

「ああ、駐屯兵団の制服を身にまとった女性が持ってきてな。そいつも別の奴に渡されたそうだ。名前が――アオイ・アルレルトと書いてあるな。シガンシナ区出身だそうだ」

「アオイ・アルレルト……聞かない名前ですね。親戚にも居ないはずです」

「なんだ恋人ではないのか」

「いつ死ぬかもわからない身の上で恋人は作らない主義ですので。風変わりな名前なので男女のどちらかは不明ですが」

「がっはっは! もしかしたらファンレターかもな。シガンシナ区といえば調査兵団が壁外へ出入りするために使っているし、大方調査兵団に憧れた少年とかではないか?」

「可能性はありそうですが、個人の名前を知られるほど有名なつもりはありません」

「つまらんな」

 

 大きくため息を吐く団長。

 理論的に説明しただけなのですが……。

 

「とりあえず開けてみたらどうだ」

「団長も見るんですか?」

「いいじゃないか、老い先短い団長のささやかな楽しみだ」

「初めて聞きましたがそんな楽しみ」

 

 どうあっても中身を見るようだ。

 仕方なく私は簡素な封筒を開け中身をあける。

 どうやら何枚かに分けてあるようだ。

 

「どれどれ……絵といくつか文字が書いてあるな」

「先に見ないでください」

「…………」

「団長?」

「…………」

 

 表情が変わっていく。

 その時団長は先ほどまでの軽い空気を一変させ、鋭い眼差しで手紙を見つめこちらに手紙をよこした。

 

「おいエルヴィン、これをどう思う」

「手紙がどうし――ッ!!」

 

 その瞬間、私は体内に稲妻が走ったと錯覚する程の衝撃を受けた。

 

『長距離策敵陣形』

 

 最初にそう書かれた手紙の内容を驚くべきものだった。

 

『扇型の陣形』

『巨人との戦闘を極力回避』

『信号弾による部隊の運用』

『通常種と奇行種に対しての対処法』

『各人員の配置について』

 

「ああ……ああ……そうだ。これが足りなかった。これとこれを合わせ、そしてこうすれば――――」

「エルヴィン――驚いているところ済まないが、お前も扇型の陣形を考案していたな?」

「――はい。私が考えていた陣形も扇型で――極力巨人との戦闘を回避することを前提としたものです」

 

 まるで私の想像していた――完成型を表したかのような図。

 緻密なまでに配置されたその陣形は確かに私が求めたものだった。

 

「ならやることは判っているな?」

「はっ、この人物と接触し、更なる陣の完成に努めること、でよろしいでしょうか」

「そうだ。子供のファンレターなどとんでもない。一足早いクリスマスプレゼントを糞の役にも立たない神様は用意くれたようだ。大方、引退した兵士が暇を持て余して考案したのだろうが、利用出来るものはなんでも利用せねばならん。こちらは兵士の命を預かっている身だからな」

「私としてもこの手紙の主とは一度話してみたいところです」 

「なら明日には出立してシガンシナへ迎え。そうだな……ハンジとミケも連れて行け。今後ともお前とは長い付き合いになる奴らだしな、そのアオイとやらと顔見知りになった方がいいだろう」

「はっ! エルヴィン・スミス了解致しました」

 

 バッと心臓を捧げる敬礼を行いこの場は終わった。

 アオイ・アルレルト――どんな人物かは知らないが会うのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 ――二日後――

 

 トロスト区で一泊し、ハンジとミケを伴い私はシガンシナ区へと足を向けた。

 馬を走らせたとはいえ、既に太陽は傾き始めている。

 肌を差す寒風が平地に吹き付ける中、南に向け走る。

 元々シガンシナ区に一泊したのち当の本人宅を訪れる予定であったので馬の任せるままに走らせている。

 私は2人と雑談ついでにアオイ・アルレルトについて話しながら進んでいた。

 

「うううう~~寒いですねぇ、私は愛しい愛しい巨人ちゃんと戯れたいんのだけどなー」

「シガンシナ区は最前線の街だ。任務を終了すれば壁上から眺めるくらいの時間はとるつもりだ」

「さっすがエルヴィン! 判ってる~♪ ついでに巨人ちゃんで暖をとらないかい? 彼らは常に高温だからね、一家に1人いるだけで薪の節約になる」

「そしたら街じゅう巨人だらけで人類は終わりだな」

 

 ハンジは巨人の研究を第一とした研究家気質の女性。その巨人殺しの腕は確かだ。

 変人と周囲からは言われているがその絶え間ない熱意は巨人の秘密を明かすには必要だろう。

 

「すんっ、やはり匂うな……ソイツの手紙には何かある」

「ミケもそう思うか」

「ああ、罠とかは感じないが……何かトンでもない秘密を隠している匂いがする」

「そうか……気を付けないといけないな」

 

 ミケ……ハンジと同じく信頼のおけるベテラン団員だ。巨人殺しの腕も確かだが、その鋭敏な嗅覚で幾度も助けられた。

 他人の匂いを嗅いでは馬鹿にしたような顔をするがこれも一種のブラフのようなものだろう。

 私でさえミケには隠しごとが出来ない。

 その男が怪しいと言っているのだから、今回の件は慎重に当たらねばな……。

 

 一路シガンシナを目指し、日が傾く前にどうやらシガンシナ区へと到着できた。

 予定より早く到着できようだ。

 下馬し私は内門の門番に話しかける。

 

「すまない、少々宜しいだろうか」

「あん? これは珍しいな、調査兵団の御一行とは。壁外調査でもやるのかい」

「3人でか? はははははっ!! 毎回、壁外調査は無駄に人員が減るというが減り過ぎて3人とはお笑い草だな!」

「「あっはははははは!!!」」

「「「…………」」」

 

 別に珍しいことではない。

 

 訓練兵団を経たのち訓練兵には3つの道が用意されている。

 王のもと安全な内地で王の近衛兵を担う憲兵団。

 壁の守護と強化、壁内地域の防衛を担う駐屯兵団。

 壁外へ遠征し、王政府の拡大政策を担う調査兵団

 

 誰もが危険を避け安全な内地勤務ができる憲兵団を希望する。

 成績上位10名が憲兵団に入団できるが、所詮それは人参(・・)だ。

 立体起動術に優れた優秀な者のみ内地に行けるという特権。

 一見合理的だが頭の良いものはすぐ気が付く。

 立体起動術を廃れさせないための人参なのだ。内地行きという特権は。

 

 巨人殺しの技術を磨けば磨くほど巨人から遠ざけられるという矛盾。

 腐った政策。

 しかし多くの人間が迎合している。

 何せ不満が出ないよう逃げ道が用意されているからだ。

 憲兵団は10名のみ。

 しかし訓練兵は駐屯兵団か調査兵団か選ぶ権利がある。

 安全か危険かを選べるのだ。

 しかも駐屯兵団に入ったのち憲兵団へ行く道も残されている。

 結果、大半の兵士は駐屯兵団へと入団する。

 

 調査兵団など気狂いの自殺志願者達が行くものだと思っているのだろう。

 

 別に気にしない。

 ハンジやミケも同様だ。

 この程度の嘲笑、死なない分だけ楽だと言える。

 巨人どもは笑顔を浮かべながら人を喰らう奴だっているのだから……。

  

「済まないが1つ聞きたいことがあるのだ」

「なんでぃ死にたがりの調査兵さんよ」

「アルレルト宅に行きたいのだが、知っているなら教えて欲しい」

「…………ほう」

 

 アルレルトの名を出した途端、兵士達の様子が変わった。

 ゲラゲラ笑っていた者達も値踏みするようにこちらを窺っている。

 警戒しているのかもしれないが愚策だな。

 その様子だけでも有益な情報だというのに。

 どうやらアルレルトという名はシガンシナの駐屯兵にある程度の影響力を持つ者のようだ。

 

「最近の調査兵は憲兵のマネごとでもしているのかい?」

 

 少し歳のいったベテランの兵士が訝しむように聞く。

 

「いや特にそんなことはしていない。ただアルレルト氏と個人的な話をしたいだけだ」

「アルレルト()ね……。さてどうするか――――」

 

 その時、声変わりも終えていない甲高い子供の声が響く。

 

「すげーーーっ!! あれ自由の翼じゃないか、見ろよアルミン、調査兵団の兵士だっ! 英雄達だっ」

「はぁっ……はぁっ……エレン、そんな急がなくても。珍しいけど興奮しすぎだよ……」

 

 黒髪と金髪の少年達がこちらに走っているのか見えた。

 

 

 




少し解説。

駐屯兵が警戒したのはアオイのせいです。
真面目なエレンと違い、アオイは駐屯兵の酒盛りにも好意的、といか自分からお酒を持ってくる始末。もちろん立体起動を教わるためですが。
元々型破りでいい加減な面もあるからか彼は駐屯兵達に好かれています。だって良いお酒持ってきますし(^_^;)
そんな駐屯兵も一応悪いことしてる意識はあります。そんな中現れたエルヴィンさん。
めっちゃ真面目そうです。ハンジやミケもぱっと見真面目そうです。そんな奴らがいきなりアルレルト宅に行きたい――以前リコさんにしこたま怒られたこともあり、警戒しているというわけで。憲兵団のまねごとは大げさですが、自分らの酒蔵的存在のアオイをどうにかするのではと深読み中。
ついでにハンネスさんもこの場にいます。彼は鈍いようで鋭いところもあるのでアオイが調査兵団を希望するのではといぶかしんでいます。

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