そこはまさしく灼熱地獄。地は熱を帯びて赤く染まり、割れ目から噴き出る火の柱は黒く染まった天へと昇るほどに激しい。そこには生命の源である水を悉く蒸発させ、周りの木々を塵芥へと変える。その熱によって、大地は干上がり、至るところでひび割れが起きている。火柱からあふれ出る熱風が、火の粉や灰をまき散らす。その場所は砂漠よりも暑く、生命を奪いつくすのに然程時間を有することもないだろう。もしもだが、そこが数時間前までは緑溢れる大地だったと言われたならば、いったい誰が信じるだろうか?
生命の火をを奪いつくすその場所にポツンと立っている建物が、その唯一の証なのだが、そのせいで一層の不気味さと異常さを浮き彫りにさせる。いったいどうして、緑豊かだった土地が灼熱地獄へと変わったのか?そして砦の周りには、山のように積み上げられた黒い塊の数、数、数、数。その数、実に数百にも及ぶだろう。黒い塊から発する肉の焦げた臭いが、それがさっきまで生命
その時突如、黒く染まった空から数本の切れ目が走り、そこから光が漏れる。そしてその光と共に現れたのは、背中に白い翼をはためかせた者たち、その数実に数百。彼らの手には光輝く槍が握られていた。しかしその光景を見ても、軍服の女はあくびをし、目から漏れた涙を指先で拭うだけ。そして一人の男、他の者たちとの装いが少し豪華からしてリーダーだろか、掛け声とともに光の槍が投擲された。小さな砦と一人の女に襲い掛かるのは、その数、実に数百の光の槍。もはやたった一人と小さな砦には十分過ぎるほどの数だ。それこそ、一瞬にして剣山を築けるほどの数だ。目の前に迫る槍の雨を瞳に移した女は、組んでいた腕を解き、ゆっくりと右手を挙げ、手を銃の形に構えた。その
「
軽い
「クぁは」
女の口から声が漏れた。呼吸音と思えるほどの短い声。だがそれも顕著なのは顔だった。先ほどまでは不機嫌に口を歪ませていた顔が、まるで宝物を見つけた子供のように、満面の笑みをしていたのだ。
「クぁハハハ」
また女の声が漏れた。今度は先ほどよりも大きい音で。
「くァハはハハハハハは!」
それは間違いなく、歓喜の笑い声。その声に応えるように、噴出していた炎は更に勢いを増し、熱風は暴風と化す。乾ききった岩が砂粒へと砕かれ、枯れ木が一瞬にして灰となる。その女を中心に、周囲の熱が上がっていく。そしてそれに応えるように、女の声が更に上がる。
「何を笑っている」
その声に、女はプックククと口元を抑えながらも、声の方へと顔を向ける。そこにいたのは、先ほどと同じように、翼を生やした男が一人。違うのは、その羽根は真っ黒であり、3対、計6枚の羽根であったことか。
「いやなぁに、ククク。つまらない仕事だと思っていたのだがな。なかなかどうして、クァハ、面白い奴がいたんだなぁとな。くァハハハ」
未だ笑いを堪えながら、女は男を見据える。
「お前のような奴がどうしてここに来たのかはおおよその見当がつく。だがそんなことはどうでもいい。重要なのは、
その言葉に、男は少し訝しげな顔をする。だが女はそれを気にかけずに帽子を目深に被り直し、右手の拳を前に突出し、ゆっくりと構えた。帽子の陰から覗く二つの黄金色の光が、明確な意思を持って男を射抜く。
「
「そうだな、ならば存分にやろうじゃないか」
女の意図を理解したのか、堕天使の男も私のように口元を歪め、両手で2対の槍を構える。二人の顔は、幼子のように、獣のように、悪鬼のように笑っていた。砦の周りを囲んでいた火柱が天高く昇った。
「う、うぅぅ~ん」
身体の左側全体に感じる柔らかい感触。ふわふわとしていて、どこまでも沈んでいくような柔らかさ。パチクリと目を開ければ、右目から見えるのは白いシーツとカーテンに閉められた小さな窓。そこから漏れる光が床を照らしている。
「夢・・・か・・・」
先ほど見ていた夢を思い出し、私は心底がっかりする。結局のところ、夢であろうと決着がつかなかったことは変わりないということか。そんなことを思い、再度ため息を吐くと、もぞもぞと私の胸辺りで何かが動くのを感じた。それは私が包み込むように抱きかかえていた、夜のお供だった。被っているシーツから覗く白い髪。もぞもぞと動く度にその白い髪が揺れる。その姿に笑みを浮かべ、私はギュッと抱きしめる。
「苦しい、です」
それが声を発する。もぞもぞと私の腕の中で動くのにこそばゆさを感じるが、それを無視して抱きしめ続ける。そして観念したのか、それが私の輿に手を回し、同じように抱きしめてきた。数秒?数分?しばらくはそのまま互いに抱きしめ、私は右手でそれの頭を撫でた。手に感じるサラサラとした感触が気持ちいい。ぴたりと手を止めれば、もっと撫でろと言いたげに、手のひらに頭を寄せようとするソレ。ため息を零し、私は少しばかり
「おはよう」
「おはよう、ございます」
凛とした鈴のような声が聞こえた。私は身体を起こし、そのままベッドから出ると、いつものように自分の姿を見る。大して珍しくもない下着故に、身体を隠せない部分に走る傷跡と火傷跡。家族からは卒倒モノなのだが、私はこの姿を気に入っている。まあ、年頃の娘が思う考えではないだろうがな。いつものように苦笑をすると、私はベッドの中にいるそれに声をかけた。
「朝食にしよう」
「はい」
もぞもぞとシーツから身体を起こしたそれは、未だぼーっとしているだろう頭で答えた。
鬱蒼と茂る木々の隙間をすり抜けるように、一人の男が走り続ける。月の光すらも届かず、先の見えない真っ暗な森の中だというのに、男は器用にも木を避けるように走り続けていた。必死に走っているのだろう、男の息はぜいぜいと荒れ、纏っている衣服は泥や黒ずんだナニカで汚れていた。ズボンは飛び跳ねた泥で斑模様を描き、上着の袖口は真っ黒であり、腹部は薔薇のように真っ赤だ。不思議なことに、男が走った後にはなぜか赤色の雫が落ちており、それが点々と道を作っている。
「なぜ、だぁ・・・・」
荒い息だというのに、男は切れ切れに言葉を発する。
「なんで、こうなったんだぁ・・・!」
男が思い出すのは、いつものように行っていた食事。久方ぶりの新鮮な食糧にありつけたことに狂喜し、男は無我夢中でそれを食べていた。ガリ、ボギ、クチャ、と小気味よい音を聞きながら、食事を味わっていた。そしてその日は酷い大雨だった。
感じたのは、腹部に感じる熱。まるで真っ赤にあぶられた鉄棒に貫かれたような感覚。見れば、自分のお腹から何かが飛び出ていた。それは5本の細い物で、ところどころで節があり、まるで刃先のように平らの形をしていた。
それはなぜか真っ赤に染まっており、その先端からぽたぽたと赤い雫が滴っていた。ゴプリと、男の口から何かが溢れた。それは鉄の味がして、真っ赤な色で、少し粘り気があって・・・、痛みが走った。
「ぐぎゅぁあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!?」
叫びながら男は、自分の腹を貫いているそれを抜こうと背中に手を回す。すると、それがずるりと抜け、その際にまた激痛が走った。なんとか口から洩れそうな言葉を飲み込むと、男は後ろを振り向いた。そこにいたのは、全身をずぶぬれにして立っていた一人の少女。白い髪が顔に張り付き、黄金色の瞳が、自分を射抜くように見つめていた。そしてその右手は、真っ赤な絵の具に手を突っ込んだかのように、紅く染まっていた。
「なんてこと、なんてことをしやがるんだよお前はぁ!?」
男は痛みと驚きで思考がごちゃ混ぜになりながらも、なんとかそこから言葉を捻り出す。
「せっかく久方ぶりの食事をしていたってのにぃ、なんで邪魔をするんだよぉ!?ふざけるんじゃないぞこのクソガキぃ!!お前のせいで中身が零れちまったじゃねぇかぁ!食べ物を無駄にするんじゃないぞぉ!!」
チラリと少女の瞳が、男の後ろにあるそれを見る。それは二足歩行のする、|ちょっと変わった皮を被った動物だった。
「そうかぁ、お前も腹が減ってたのかぁ?だからって人の食事を邪魔するのは感心しないんだよぉ!!俺だって腹が減ってたんだ。八当たりは駄目だろうがぁ!だったら俺が食った後に残りを分けてやるから、もう八当たりはやめるんだそぉ!!」
男は腹から血を流しつつも、礼儀知らずの少女に説教をする。それはとても奇妙な光景だ。それこそシュールと言えるだろう。そして説教を受けた少女の返答はこうである。
「私のために、喰われてください」
そして少女は一歩足を踏み込んだ。
男はどうにかそこから逃げ出し、どうにか距離を取ろうと走り出す。その少女が行ったのは破壊。コンクリートの壁が地面が、まるでビスケットのように砕け散った。それもたった一度の攻撃で。その一挙手一投足が、男を壊すための武器であった。そこから逃げ出せたのはまさに幸運であった。少女がなぜかその動きを止め、その隙に逃げだしたのだ。なぜ動きを止めたのか、男には解らなかった。だが、これは幸運だと男は思った。まだまだ自分は生きられる、そう男は思った。だが、今はこの傷を癒すのが先である。まずはこの窮地を脱し、しばらくは身を潜めよう。
そう思った男は、そのまま森を突き抜け、広い野原に身を出し、
『圧潰』
呆気なく潰れた。
「どう、でしたか?」
「20点だ、馬鹿者」
真っ赤な花を地面に描いた少女は、いつの間にかいた、黒服の女性に声をかけた。女は赤銅色の髪をし、それは風に揺られていた。女の言葉に、少女はなぜ?と言いたげに首を傾げた。
「油断しかしていない奴の背後を取りながら、一撃で殺せなかった時点で判定を放棄するわ。それにその後もなんだ。無駄に壁や地面を破壊しおって。まだまだ力に振り回されているじゃないか」
女は少女に指を突きつけながら、少女の欠点を上げる。やれあれが駄目、やれこれが駄目と、まるで小姑のようである。しかし、それは彼女にとっての事実なので、甘んじて受け入れるしかないのだ。
「だが、最後のあれは良かったぞ。まだまだ言いたいことはあるが、それだけでも進歩したのだろうな」
そう言うと、女は少女の頭を撫でる。少女は顔を赤らめるが、されるがままな辺り、別段いやではないのだろう。
「では帰るぞ、ヴァイス。無事
「やめてください・・・その、恥ずかしい、です」
女は、撫でている手とは逆の手でパチンと指を鳴らす。すると、男だった何かがぼっと炎に包まれ、一瞬にして灰へと還った。
そして二人の足もとには何やら光が走り、それが何かの絵を描く。それは三角形に囲まれた豹の横顔が描かれていおり、それが二人を包み込むと、一瞬にして光となって消えた。風が何事もなかったのように吹いた。
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