ジゼル異世界出張日記~ハドラー子育て日記番外編~ 作:ディア
竜術士と竜の里、コーセルテルについて詳しく聞くためにジゼル(大)はハドラーから事情を聞いていた。
「なるほど……しかしハドラー殿は竜の神から説明があったのに関わらず私には説明がないのは違和感がある。やはりイレギュラーによるものと見なして考えた方が良さそうですね」
「ボリクス、念の為に俺が竜の神に言われたことを守っておけ。もし万が一、竜の神がお前の悪行を見て排除しようと考えるかもしれない。しかし俺と同じことをしていればお咎め無し、上手くいけば向こうの世界に戻れるかもしれん」
ボリクスという名前はジゼル(大)──以下ボリクス表記──がこちらの世界のジゼルがいることもあり、ややこしくならないように祖父の名前を名乗ることにしている。
「ええ。ただハドラー殿、私が懸念するとしたら貴方が他者をコーセルテルに連れてこないという約束、あるいはコーセルテルを部外者に口外しない約束を破ってしまっていないかという点です」
「前者はともかく後者に関しては何一つ問題はない。事情が事情なだけにやむ無しに話したことだ。その前者も俺のせいであるかも疑わしいのにどうして裁けるというのだ」
「確かに……」
「それにいざとなれば俺のヘルズクローで串刺しにしてくれるわ」
『絶っ対に止めてくださいよ!!』
聖母竜の反応を見たハドラーが笑い声を抑えて、ボリクスを見つめる。
「ハドラー殿、貴方がそういうなら安心して貴方に言われたことを守るとしましょう。ただ──」
「ただ?」
「私には家もお金もありません。どうか仕事を紹介して頂けないでしょうか?」
「そうは言っても何が出来るのかわからんぞ。魔竜王というからには戦闘が出来るのはわかっているがほかにどんな事が出来る?」
「家事が得意です。魔王軍に所属する前はハドラー様のメイドを勤めていました」
「ほう……ならば今日の昼飯の用意とこの部屋を掃除してみろ」
「わかりました」
ボリクスがそう返事したことに満足したハドラーが立ち上がりその場を離れる。
30分後、ハドラーが戻るとそこには小綺麗になった部屋と、20数種類の料理が置かれたテーブルがそこにあった。
「見事だ」
指で埃がつかないことを確認し、ハドラーが呟く。
「ありがとうございます」
「しかしボリクス、この短時間でこれだけの料理を作り上げるとは一体どうやって作った?」
「ああ、それは同時に料理を作ったんですよ。例えばこのカレーと肉じゃがはほぼ同じ作り方ですから簡単に作れましたよ」
「ほう、同時にか。俺も参考にしてみるか」
「更にこのラップを使えば、食べ残した食べ物でも保存も簡単に出来ます」
「おお……」
「その上、この魔力レンジで温め直すことも可能です」
ボリクスが取り出した箱形の機械にハドラーが目を見開く。
「そっちの魔界はそこまで進化したのか」
「魔界だけではなく地上もですよ」
「しかしレンジはともかくそのラップは見たところ使い捨ての道具に見えるが使い切ったらどうする気だ?」
「このラップは一見すると使い捨ての道具に見えますが機械なんですよ。だから故障しない限りは使えますよ」
「日進月歩、時代の移り変わりという奴か……旨いな」
ハドラーがつまみ食いをし、そう感想を呟いた。
「ハドラー殿、口に合いましたか?」
「ああ、俺の好みの味付けにしているのは流石と言ったところか。しかしこれではジゼルの口に合わないぞ」
「ご安心を。甘口味の物も用意しています」
自分と同名の名前の子竜の為に取り出した物は照り焼きチキン定食だった。
「野菜を残すようであればこちらのハンバーグ定食を食べさせてあげてください」
更にハンバーグ定食を取り出して肉汁の匂いをその場に充満させる。
そしてその匂いを嗅いだ直後にハドラーの腹の虫が鳴り響く。
「ハドラー殿の分もありますよ?」
「いや、これはジゼルがもっと食べたいと思った時の為に残しておこう。俺の場合食事は趣向品でしかないからな」
ハドラーが自分の娘の為に食事を残す姿にボリクスは羨望の目で見る。
──もし、叶うのであれば私の夫であるハドラー様にあのようにして愛されてみたい──
そうボリクスが心の中で願うと、この場にいないハドラーがくしゃみをした。
しばらくしてジゼル達を初めとした竜や竜術士達がその部屋に入って来る。
「ハドラーさん、その人は?」
「俺と同じく異世界からやって来たボリクスだ」
「はじめまして。現在ハドラー殿に雇われたお手伝いさんです」
ボリクスが頭を下げると子竜達がわらわらと群がりジゼルに飛び付く。
「ハドラー殿、助けて欲しい」
流石にボリクスもこれには根を上げ、ハドラーに助けを求める。
「良いではないか。こうやって子供に慕われるのは久しぶりなんだろう?」
「こんな風に慕われたのは始めてですよ」
ボリクスを親として慕った子供はフレイザードと自身の娘であるラーゼル、連れ子のアルビナスくらいのものだろう。他は部下であり、このようにして慕われること自体が始めてであった。
「ほら、皆急いで食べて。食べないと私が竜になった姿見られないよ!」
「えっ、竜になれるんですか!?」
「気になる? それじゃご飯食べましょう」
「あ……はいっ!」
ボリクスに見とれた若い竜術士が顔を紅潮させながら昼食を摂り始め、悶絶する。
「~っ!! んまいっ!」
「おかわり~!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
そのような声が飛び交い、ボリクスはしばらくの間、台所の主となる。
「人生でこんなに食べたの始めて……」
「僕もー」
「私もー」
当たり一帯腹ボテ姿の子竜と竜術士を作り上げたボリクスが笑みを浮かべる。
「さあ皆、外に出掛けましょうか。出ないと狼さんが皆を食べに来ちゃうわよ~」
ボリクスが保母さんらしくそう伝えると竜術士は当然、子竜達も全く動かない。その原因は何なのかと考えるまでもなく、狼はこの子供達にとって何でもないからだ。
「そう……それじゃ狼さんに代わってお腹を突いちゃおうかな?今こんなに膨らんでいるんだから吐き出すのも簡単だよね~」
ボリクスが腹を突こうとすると危険を感じた子竜や竜術士達が慌てて口を抑えながら外に出る。
「ああも言うことを聞かせるとは子育てをしていただけのことはある」
「ハドラー殿も一緒に見ますか?私の本当の姿を」
「無論だ。異世界の俺がお前を妻と認めたのだからそれを見る義務は俺にはある」
「それでこそハドラーという男ですよ。さあ行きましょうか」
ハドラーとボリクスが子竜達を追いかけるように外に出ていった。
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