ジゼル異世界出張日記~ハドラー子育て日記番外編~   作:ディア

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これでとりあえず完結です。


第3話

「さてそれじゃ皆、私のもう一つの姿を披露するわよ。準備はいい?」

湖周辺に集まり、ボリクスがそう告げると子竜達が「いいよー」「早くー」などと言いながら期待の眼差しでボリクスを見る。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

いざ、竜の姿に変化しようとした瞬間に竜術士のマシェルに止められボリクスが顔を顰める。

「何よ、せっかく良いところなのに」

「何故体から電気が出ているんですか!?」

「マシェル、こいつは雷竜と呼ばれた竜の孫だ。ボリクスの名前もその竜から由来している」

「雷竜……!?」

マシェルは目を見開き、顔が驚愕の色に染まる。彼はコーセルテル1の竜術士と呼ばれるだけあって竜に関する知識も豊富である。故に雷竜などという未知の存在を初めて聞き、驚愕するのは無理なかった。

「そうよ。私の変身は少々特殊でね、こうやって電気を集めないと変身出来ない体質なのよ」

「そう言うことですか……しかし本当に大丈夫なんですよね?」

「子供達に被害は及ばないようにするから大丈夫大丈夫」

「本当に大丈夫なんですかーっ!?」

マシェルの悲鳴を無視し、ボリクスが姿を変える。白銀に輝く鱗に、空色に染まった腹と巨大な翼、そして電気とともに神々しさを纏うその竜に誰もが魅了され言葉を失う。

 

 

 

その姿を見た聖母竜が一人呟く。

『空の英雄、グレイナル……』

「グレイナル?」

 

その呟きに反応出来る人物はこの場においてただ一人、ハドラーしかいない。

 

『かつて人々からそう呼ばれた竜に酷似していたものですから思わずそう呟いてしまいました』

「人々から英雄と呼ばれた竜か。かつて魔物と間違われたバランにもこのような神々しさがあれば間違われずにダイと過ごしたかもしれぬな。冥竜王を封じる力を持つ竜の騎士と言っても所詮は竜、魔族、人間の三つの種族を足して3で割った存在でしかなかったということか」

『ですね……もし今後竜の騎士を誕生させる際には彼女のようなカリスマを兼ね備えさせなければなりませんね』

 

「聖母竜、竜の騎士は本来、前線で戦う兵士だ。お前程度の力では付け焼き刃にしかならん。良くてもバランの超竜軍団よりも少しマシな規模しか統率出来ん。少なくとも魔界の半分も統べることもあるまい」

『そう言えばバランは魔王軍に所属していたそうですね』

 

「うむ……かつてバランは俺の部下ではあったがその実力は遥かに超え、俺はいつその地位を脅かされるか震えていた」

『ああ……あの時の貴方は地位や名誉を気にする時期でしたね。自分よりも実力のあるバランが部下では心中穏やかではなかったということですか』

 

「しかしあの時何故バーンはバランではなく俺を魔軍司令にしたのかよく分かる。バランは少数精鋭の戦士を束ねる力に長けている一方、数多の兵士を束ねる力はないが故に俺が魔軍司令となった。ところがあのボリクスは強さに関係なくそれが出来る」

 

『何故そう言いきれるのですか?』

「そうでなければ非力な子竜達がなつく訳がない」

『……そう言えばバランは子供をあやすのは苦手でしたね』

「もしかしたら一部の地域では魔竜王とは呼ばずに聖母竜と呼ばれているかもしれんな」

『そ、そんなことは!』

「ない、と言いきれるのか? 聖母竜?」

『……』

聖母竜が子竜達になつかれているボリクスを凝視し思考する。魔族と竜のハーフではあるがあのように子供達に慕われている以上強く否定出来なかった。

 

 

 

 

「さて、そろそろここの湖を全部凍らせて見せます」

「ゑ?」

「離れて下さいね」

間抜けな声を出す竜術士達を無理やりどかし、ボリクスが湖の前に立つと息を軽く吸い、そして吸うのを止めて溜め込む。

輝く息(コールド・ブレス)!」

その瞬間、ボリクスの口から白銀の輝きが打ち出され、湖どころかその奥の草木まで凍りついてしまった。

 

「……」

この場にいた全員が唖然とし、目を見開く。

「す……」

「凄ーい!」

「どうやったらそんなに強くなれるのー?」

わらわらと子竜達がはしゃぎ、ボリクスに駆け寄るとボリクスが口を開いた。

「よく動いて、よく学んで、よく遊んで、よく寝て、よく休む。何事も一生懸命にこなすことで強くなるわ」

「へー!」

「そうするー!」

その言葉を信じた竜達が竜術士に近づき、視線を合わせるとボリクスが更に口を開いた。

「竜術士の皆さん、どうかこの言葉を忘れないで下さいね」

「当たり前です!」

「さて早速戻ってよく休みましょうか」

ボリクスがそう告げると元の魔族の姿に戻り、埃を払うと全員賛同した。

 

 

 

「しかし良いものを見せて貰ったぞボリクス」

ハドラーとボリクスが台所で菓子を作成しているとハドラーがボリクスを褒めるとボリクスが照れ隠しに頭をかいた。

「ハドラー殿にそう褒められると複雑ですね」

「ああ、お前は異世界の俺の妻だったな」

「でも滅多に褒めてくれないんですよ」

「異世界の俺がお前を褒めないのはお前が何かしでかしたか、今回のようなことが当たり前なのかのどちらかだ」

ボリクスの世界のハドラーがこのセリフを聞いていたなら苦虫を噛み砕いた顔で「……両方だ」と答えただろう。

 

「後者ですね。ハドラー殿」

しかしこの場にいるのはハドラーではなく無自覚に何かしらのことをしでかすボリクスだ。後者と答えるしか選択肢がない。

 

「なら少し自重することだな。輝く息ではなく、マヒャドにすれば少しはマシになるぞ」

「竜が魔法を唱えたらおかしいでしょう。常識の範囲内でやっただけですよ。規模は規格外ですが」

「その規模を小さくしろと言っているんだ」

「ええ。今度からそうします。しかし反省はしても後悔しませんよ。子竜だけでなく他の方々もやる気を出したから自重しなくて良かったと思います」

「そうか。なら俺から言うことはない」

 

 

 

そして黙々と菓子を作る二人に子竜のジゼルが駆け寄ってきた。

「ハドラー様、今日は何を作っているの?」

「俺の菓子はクッキーだ。子竜達が取り合いをするからな、こうして数をきちんと分けておけば子竜達も喧嘩はするまい」

「じゃあボリクスさんは?」

「私? 私が作っているのはプリンよ。なんなら一緒に作る?」

「いいの!?」

「おいボリクス」

それを止めようとするハドラーにボリクスが口元に人差し指の第二関節を当てる

「ハドラー殿、私に考えがありますから私に任せてくれませんか?」

「…………わかった」

それを不承不承ながらもハドラーが頷き、ボリクスが材料を追加で用意してジゼルにプリンを作らせた。

 

 

そしておやつの時間になり、子竜全員が席に着くとそこにはボリクスと作ったプリンとハドラーのつくったクッキーがそれぞれの場所に置かれていた。

「あれ? ジゼルのだけプリン多いー?」

「どうして!?」

「このプリンはジゼルが私達とは別に作ったプリンよ。皆もおやつをもっと食べたかったから自分で作りなさい」

「それでもズルい!」

「じゃあ明日から作りましょう? 私達も手伝うから」

「ちぇー」

「そうするー」

子竜達がボリクスの説得に耳を貸し、ハドラー達が感心する。

 

 

 

「うーむ、あのようにして手伝わせればいいのか」

「意外と子供ってそんな切欠から興味を持つようになるんですよ」

「しかしボリクス様、子竜達の面倒を見るのが更に大変になったような気がするんですが……」

「マシェル、余計なお節介だと思うけどそこは竜術士としての力が問われるところよ。子竜達もバカじゃない。より良いお菓子を作ろうと竜術を使おうとするかもしれない。その時に指導出来るのは貴方でしょ?」

「まあそうですが……」

「お菓子作りだけじゃなく他のことにも言えることだけど何かしら手伝わせることで経験になる。その経験が子竜達にとってかけがえのないものになる。その経験を見極めるのも貴方の役割よ」

その言葉を聞き、マシェルがため息を吐いた後笑い声を出す。

「え、何か可笑しいことを言った?」

「いえ、流石魔界を統べる竜だなって思って。僕の完敗です」

「勝ちも負けもないよ。私の娘を喜ばせる為にやったことをもう一度繰り返しているだけだから……」

ボリクスがそう口にするとボリクスの体が透け始めた。

 

 

 

「おいボリクス、体が透けているぞ!」

「うわっ、本当だ!」

「……ってことはもうそろそろなのかな?」

「……ああ、そう言うことか」

「何がそう言うこと何ですかーっ!?」

冷静でいる二人にマシェルが突っ込む。

「私はあくまで道具によってここに転移してきた存在であって、ハドラー殿のように神の力によって来たわけじゃない。そこまでは貴方も知っているでしょ?」

「ええ」

「私の仮説でしかないけど、道具の効果がこのコーセルテルに転移することじゃなく滞在させるという効果で今その期限が切れようとしている……つまり私が透けているのは少しずつ元の世界に転移している状態なんじゃないかしら?」

「なるほど……」

マシェルが頷き、ボリクスの体が点線のように消えてしまう。

「それじゃハドラー殿、マシェル、子竜達にも伝えておいて下さい。また会う時は私の世界のことを話しましょうと」

「よくわかった」

「ボリクスさん……」

「それじゃまた会えるなら会いましょ──」

 

ボリクスの体を描いていた点線が消え去りボリクスの気配も消え去る。それを見届けたハドラーとマシェルはボリクスのことを思いながら子竜達の元に戻っていった。




最後のあとがき

とりあえずこれで完結です。ご拝読ありがとうございました!
私自身書いている小説があまりにも多く(自業自得)完結している作品そのものが少ないんですね。ここで区切らないと未完の作品として終わらせてしまいそうなので読者の皆様やコラボしてくださったウジョー様に迷惑がかかるので完結しました。自分勝手な理由で申し訳ありません。


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