Ideal・Struggle~可能性を信じて~ 作:アルバハソロ出来ないマン
誤字脱字多いね......誤字は友達!脱字はズッ友!
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一夏
「はー、すごいですね堺くん......マニュアル射撃でいきなり当てるなんて」
ピット内のモニタールームでリアルタイムに映像が送られてくるモニターを眺めていた山田先生が感嘆の溜息を洩らす。
「奴は昔からやけに勘が鋭い節があった。おそらく、認識能力が他者よりも優れているのだろう。だからISの照準補助がかえって邪魔になる」
「それよりあの機動力です。大型スラスターもなしにあの快速性、万掌が明らかに対応し切れていません。姿勢制御も無茶苦茶で、ああっ落ちる!」
「大丈夫だよ、箒」
私は、口では箒にそう言いながらも時折、真っ白な装甲の裏側から隙間を縫って輝きを放つ紅蓮に言い知れぬ不安と恐怖心を抱いていた。
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万掌
セシリア嬢を見上げたままビーム・マグナムの砲口をビットではなくセシリア嬢が駆るIS本体に固定したことで、ビットの動きが止まったのを想角のマーカーがイエローに切り替わったことで知覚した。
「――――セシリア嬢、もしや」
「流石に、バレてしまいますか。ええ、御推察の通りかと。私が《ブルー・ティアーズ》を操作するときはその操作に集中するので、私が動けなくなります」
「セシリア嬢、IS搭乗経験が浅い俺が言うのもなんだが、ISに操縦を任せ、ご自分でビットを操作すればよろしいのでは?」
「......はい?」
「いや、ISに操縦を任せればいいというだけの話では?」
「堺さん。ISは操縦者のイメージを獲得して行動に反映します。IS自身に進路軌道を予測させながら、移動を任せることは不可能ですわ。出来ていたらやっていましてよ」
「俺のは可能なようだが、異質なんだろうか」
「――世代が変わると、そのようなことも可能になりますのね」
「なるほど、そのようで」
セシリア嬢に限ってまさかそんな事はないだろうと思いながら訊ねると、そのまさかで、ビットを操作している間はその操作に集中するために動けなくなるというネタばらしをされる。確かに、1基1基が全く違う軌道を描きながら飛んできた時は恐ろしいものを感じたが、本体が動けなくなっては意味がない。しかしISに移動を任せればそんな弱点も消えるのでは、と代表候補生に向かって言うには余りにも釈迦に説法な気もしたが、セシリア嬢は面食らったようでブルーの瞳を大きく開いて僅かに身体を硬直させた。それもすぐに元通りになり、いつもの美しく凛々しい顔を作り、ISは操縦者のイメージを元に動くと説明する。教科書でも似たような記述が書いてあったが、俺の操縦するISは自分の体を動かすように意識するだけで動いてくれるし、それよりも想角が自動的に最適な進路を設定して自由に機動してくれている。それが当然だと思っていた俺はセシリア嬢に想角がおかしいだけかと訊ねると、どうやらその様だったようだ。
「しかし、私のみとは言え、そのような機密を告げてもよろしかったので?最新技術の塊、どの国も欲しがるものでしてよ。無論、私の祖国もその例に漏れません。この戦闘が終われば、データの提供を要求されるでしょう」
「――――それは考えが及ばなかった」
「堺さん、今このような状況でこのような小言を言いたくはありませんが、専用機というのは極秘事項の塊のようなものでして、そう迂闊にお話をされても扱いに困ります。この会話ログだけは後で抹消しておくので、今後はお話されないようにしてくださいな」
「以後気を付けます......」
セシリア嬢は機密事項の話を上げ、それを欲しがる国の多さとイギリスもその例に漏れないことを告げた上でこの後の展開を予想していた。それを想定していなかった俺は誰にも見られない覆面の下でやっちまったと顔を歪めながらに天を仰いだ。その様子を見てセシリア嬢は溜息を吐いてから専用機持ちとしての心得をレクチャーしてくれる。それで会話ログだけは消してくれるというので、今はそれに甘えることにした。反省しなければいけない。
「――では、再開といたしましょう」
「ええ」
先程までの融和ムードを即座に掻き消して戦う者の眼差しになったセシリア嬢が一斉にビットを動かし始めるのを見て、了承を告げつつビーム・マグナムをセシリア嬢本体目掛けてトリガーを押す。表示される視界が一瞬だけ白に染まり、恐るべき威力を持った高出力エネルギー弾がセシリア嬢目掛けて飛来するが、セシリア嬢は即座にビットの操作を中断して射線から離脱する。その隙に頭部マシンガンを使いビットを撃墜しようと連射するが、散々ばら蒔き撃ちしてきたのが祟りこのタイミングで残弾が尽きた。自動的に頭部マシンガンがオフラインになりマニュアル照準が格納され全天モニターが映り込む。
こうなると、後は残弾数が少なく威力が高いビーム・マグナムと攻撃兵装ではないシールドくらいしか装備がない。継戦能力の低さが此処にきて災いし、セシリア嬢はビーム・マグナムとシールドの双方を非常に警戒しているため決定打にはさせてくれないだろうし、シールドも徹底的に攻略してくるだろう。何か、他に武装は無かったかと武装一覧を想角も即時展開させ、それを流し読む。現在装備しているシールドとビーム・マグナムはオレンジ色の枠で、破壊されたハイパー・バズーカは灰色に染まり、残弾の尽きた頭部マシンガンは赤色で表示されている。使用可能な武器は緑色の枠で表示されたビーム・サーベルのみ。だが、此処に来て近接兵装を露見させるという事は、言い換えればもはや白兵戦を挑むしかないギリギリの状態にまで追い詰められたということを自分から示唆するということ。セシリア嬢はまだ俺が何らかの高出力兵装を隠し持っているのではないかと疑っているはずなので、ここで自分から手を見せる必要はないと判断し武装一覧を閉じた。
「その頭部マシンガンも、撃ち尽くしたようですわね」
「――まだまだ、これからだと言っておこう」
「そうですか。泥臭いやり方は好みではありませんが、互いの兵装相性の観点から長引く事は明白、かしら」
「セシリア嬢がシールドを突破してダメージを蓄積させるか、俺が一撃叩き込むか。――単純な話でしょう!」
「――――仰る通りですわ!」
セシリア嬢は話を切り出しつつ、少しでも優位を取れる位置に移動していく。想角もそれに合わせて、ビットからの攻撃をシールドでカバーしつつビーム・マグナムの射線が通る位置を確保し続けていた。撃墜には至らなかったものの蓄積したダメージが大きいのか黒煙を上げて不安定な挙動で動くビットが1基と、多少の被弾痕は見受けられるが機能に影響はないのか軽快な動きで飛び回る1基の計2基。
セシリア嬢のISは最初のハイパー・バズーカでダメージを負ったこと以外はほとんどダメージらしいダメージが入っていない。ビットを優先させすぎた、と一人反省しながら想角に部位ごとの損傷度を表示させる。バックパックの稼働率が34%低下、右足装甲版が融解し損傷。目立つ被害は少ないものの、シールドエネルギー残量は23%を切っており一刻も早く決着を付けたいと気持ちが急いてしまった。
セシリア嬢にこの勝負は意外にも簡単だと言いながら不意打ち気味にビーム・マグナムを無事なビットの方へ向け、進路を予想しつつ牽制射で一発、退路を塞ぐために追加で一射撃ちこむ。そして、ビットを閉じ込めるように赤と青の残滓が囲んだことを確認し、掠らせれば破壊出来るという気持ちの余裕もあってか、思いの外冷静にマグナム内に装填されていた最後のカートリッジのトリガーを引き、ビットを破壊することに成功する。これで、3基撃墜。残った1基は無視しても問題ない。三射連続で突き抜けたビーム・マグナムがアリーナを揺らし周囲を白に染め上げるなかで、お返しと言わんばかりにセシリア嬢は俺がビットの破壊に油断した一瞬を突き、伸ばしきっていた右腕に装備したビーム・マグナム目掛けスターライトmkⅢを速射し、撃ち抜いた。
幸いにもマグナム内のカートリッジ数は0だったので誘爆の危険はなかったが砲身部分に大穴が開き、まともな部位がグリップしか残っていないビーム・マグナムを投げ捨てる。
いよいよもって白兵戦を仕掛けるしかなくなった俺は、この勝負の武装の使用方法に問題があったな、と負けが濃厚になったことを確信しつつ最後まで見せなかったビーム・サーベルを展開させた。左腕のシールドが一瞬だけ宙に浮き、ホルダー内に収納されていたグリップが180度展開することで掴めるようになり、それを右手で掴んで一気に引き抜く。セシリア嬢はその光景に一瞬怪訝そうな顔をするも、グリップから放出されたマゼンタ色の高出力ビームが刀身を形成したことで一気に顔色を変えた。
シールドが再度マウントされ、騎士の構えを作り戦闘開始直後と比べ機動性がかなり落ちたスラスターからなんとか出力を提供させ続け突撃を敢行。シールドを前方に構えつつ、その裏にビーム・サーベルを隠しながら一気に接近し強襲する。スラスターが瞬間的に吐き出したエネルギーを、スラスターが取り込むことで不足していたエネルギーを自給し圧縮。再放出して爆発的な加速力を得る。瞬間的に叩き出した最高速度に想角がこの速度域での機体制御は直線的軌道のみに限定される旨を告げてくるが、おそらく直線的な動きで十分なはずだ。
表面装甲最適化完了率98......99%......
予想以上の速度で接近した俺は、この慣性に乗せられるまま前方に展開したシールドを下げ、ビーム・サーベルを握った右腕を突き出す。セシリア嬢はそれに合わせる形で俺から見て左側へ避ける動きを見せたので右腕を突きの構えから払う構えに変えて追従し、仕留めに行く。その流れを見て、セシリア嬢は勝利を確信した笑みを浮かべた。突如、セシリア嬢はその場で急停止し、今まで見た事もない速度を発揮して逆加速をしつつ俺の右側へサマ―ソルトターンを行い上下を反転させたまま抜けて行き――がら空きの側面を陣取った。
不味い、と思い機体を停止させようとするが想角が操縦者に重大なダメージを与える恐れがあると警告を発したことでそのまま突き進んでしまう。
「お生憎様ですが――――《ブルー・ティアーズ》は6基、ありましてよ」
腰部のアーマーがスライドしていき、隠れていた突起が姿を晒す。その瞬間に想角がマーカー《WEAPON》レッドを告げるが避けられない。想角に右手のビーム・サーベルとシールドを瞬間的にスイッチさせて防御を固めるが、射出された2基のビットは今までの物と違いレーザーを発射するタイプではなく――
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ビーム・サーベルが触れたスラスターの一部が瞬時に熱を放ち、ビーム・サーベルの熱から逃れるように液体となった金属が消し飛ばされていく。このまま、押し切る。少しでも切断速度を上げたかったので、左手で右腕を押し込むことで切りつける圧力を高めてやると、最も耐熱性の高い部位を溶断したのか一気に抵抗が無くなり、振り抜いた。そしてそのまま、力を籠め過ぎて崩れた姿勢を想角に修正させず、頭部を地面に向ける体勢になっていた俺は左足を持ち上げ、セシリア嬢の機体を思いきり蹴り飛ばす。それと同時に再装填の終わったミサイルが2基射出され、即座に弾けた。セシリア嬢の自爆覚悟の超至近距離による爆発兵装によって互いが互いに吹き飛ばされ、距離が生まれてしまう。
「――――ちぃ!」
「――――!」
地面へ向かって墜ちていく途中でスラスターを吹かせて機体を安定させるが、左足の駆動部がスパークを引き起こして機能低下を訴えた事に思わず舌打ちをした。セシリア嬢はもはや一言も発する余裕がないのか、無言ではあったものの切羽詰まった表情で火花を散らすスターライトmkⅢを構える。遠距離に持ち込まれては、もはやシールドさえない俺は圧倒的に不利になる。どうにかして、この距離を埋めなければと焦燥する。
セシリア嬢は既に、トリガーに指を掛けている。
気持ちが焦り、早鐘を打つように心拍数が上がっていく。
想角の生体補助機能では抑えきれないほどの焦りが、想角と俺の2つの思考を染め上げていった。
表面装甲最適化率100%......最適化完了。
ISと、操縦者の認識が一致した瞬間。スターライトmkⅢが流星を思わせるレーザーを発射した。
――パイロット保護機能解除。システム掌握。
その瞬間、想角の全身から赤色の光が漏れ始める。無茶をさせ過ぎて熱暴走したのかと思って動かそうとするが、身体が動かない。頭の中に響く無機質な声に戸惑っていると、想角が"変身"した。
セシリア嬢の放ったレーザーが目の前で捻れ曲り、分散したレーザー光はアリーナのシールドや地面、セシリア嬢のISを掠めていく。Iフィールドのような何かに守られながら、浮いたままの機体の内側から迸る赤い光はますますその彩度を上げて輝きを増していく。その輝きに包まれながら、想角の白い装甲各種が浮いた。踵を保護していた装甲が浮き、踵がヒールの様にリフトアップして、足の両サイドに収納されていた装甲が60度上方へ回転して反り上がる。足首よりやや上の位置にある装甲版がスライドしていき、赤い光を放つフレームが露出する。脹脛を保持していた奇妙な装甲が展開して、中からスラスターを装備したフレームが拡張されることで初めてその姿を晒す。そこから膝を覆っていた装甲版が大きく前方へ押しやられるようにして開かれる。更に一段階フレームが膨張した感触を受けて機体が伸び、それに連動するように太ももを覆っていた装甲版の奇妙な継ぎ目が裂けることで対応した。腰部前面のアーマーは斜めに吊り上がるようにして溜めこんだ熱を放出したいと言わんばかりにフレームを見せつけ、前面左右のアーマーに挟まれた装甲部位も大きく膨らみ、爆ぜるが如くフレームが内側からアーマーを食い破るようにして大気に晒される。腰部背面もエネルギーパックをマウントしていた装甲版が開き、追加のスラスターが顔を覗かせた。両腕がフレームの拡張により引き延ばされ、それに対応する形でZ字型の継ぎ目と継ぎ目が開かれることで光が漏れ出していく。胴体が少し伸び、肩幅が広がり、胸から露出するフレームの拡大率は今までの物よりも遙かに大きく、それを阻害しないために装甲が下方へスライドし、フレームの下側へ収納される。両肩の中央部が大きく横に裂け、紅蓮にも似た粒子を垂れ流すフレームが威圧感を抑える事無く顕現する。背部に備え付けられていたバックパックが展開していき、先程まで使用が不可能だった位置に収納されていたビーム・サーベルがせり上がってうなじを保護するように展開し、ただでさえ強力な出力を誇っていたバックパックスラスターの両脇から、追加のスラスターが1基ずつ展開した。そして、それらが一瞬、かつ同時に行われていくのを動く事が出来ず困惑の色を強めて眺めていた俺を放ったまま、頭部の"変身"が始まっていく。
両側面を保護していた装甲が耳から離れ大きく開き、バイザーがそれに連動して中央で割れながら左右の空間に収納されていく。自らの双眸が露出したのも束の間で、すぐに目から下を覆っていた覆面が上方へ階段の様にスライドしていき俺の視界を完全に塞いでしまう。想角が視界のシャットアウトを確認しつつ、広がったままの両側面の装甲を回転させ、頭頂部に収納していた人型のマスクを降ろし俺の顔を塞ぐマスクの上に固定した。そこから、開いたまま180度回転した両側面の装甲が再度密着する。最後に本機の最大の特徴であったブレードアンテナの中央に金色の光が筋を作り、半分に割れ――V字型のアンテナへと変形し、全ての変身工程が完了した。
自分の操縦を全く受け付なくなった機体の双眸が緑の鋭い眼光を放ち、ビーム・サーベルの出力が急激に上がっていく。それはマゼンタ色をしていた刀身がやや白く染まるほどの変化を如実に見せつけていた。
「――――変わった?」
セシリア嬢は、自身が撃ったレーザーがIフィールドのような物で弾かれたことよりも、想角の見た目が変身したことに強く警戒した。
「――!」
口を完全に固定され、通信機能も制限されているのか一切の会話を行うことが出来ず、急激に動き出した想角に俺は肉体を乗っ取られたかのような錯覚を受けた。自分で動かしていないのに、自分の体が動いている。それはまるでISを人間が操縦しているのではなく、ISが人間を操縦しているようだ。しかし、今もっとも恐ろしいと感じたのは、これほど訳の分からない状況に追いやられていてもそれを上回る安堵に包まれていたことだった。多角形直線機動を描きながら、今までに感じた事のない慣性に身体の節々が軋みを上げ始め苦悶を声を漏らすが、想角は先程までと違いその一切を通達しない。それどころか、更に出力を上げて突っ込んでいくものだから、本当に身体が千切れてしまいそうになる。いや、事実千切れかけている。恐らくセシリア嬢に急接近しビーム・サーベルを振るったのだろう、右腕が豪速で振り抜かれ肘より先の骨と筋肉が軋んだ。暴走かと思ったが、この変身が始まる前に聞こえた僅かなアナウンスがこの機体の特徴であることを告げていたので、
「―――......っ、!......!」
想角がパイロット保護機能の一部をカットしてるせいか、息が出来ないまま慣性の暴力に振るわれ全身が消費されていく。このじゃじゃ馬が加速する度に肺が潰れたと錯覚するほどの衝撃を受け続ける。四肢に掛かる力が抜け始めてきたが、想角がそれを許さず、外側からフレームを通じて無理矢理力を籠めさせた。握り潰されるほどの圧力で保持された俺の腕を容赦なく振るい、何かを焼き切ったのだろう。ビーム・サーベルが空振りではなく、何かを切り裂いた感触を捉えて、視界が復活した。視界だけではない、想角がシャットアウトしていた物全てが再接続され、それと対になるように輝きを放っていたフレームは光を失い灰色になり、展開していた装甲各部位が折り畳まれ縮小して元の位置へと戻っていく。顔を覆っていたマスクが即座に元の位置に格納され、バイザーがスライドして戻ってきたのち、V字のアンテナは再び一本のブレードアンテナへと戻った。
「―――はっ......はっ......もど、った?」
「堺さん!貴方!何度も呼びかけたのに一体どういうおつもりかしら!?」
「すまない......機体が、変身してから、言う事を聞かなくなった。乗っ取られたような、感じがした」
奪われた全ての機能が復活したことに安堵し、吐き出された酸素の全てを取り込み直すように短く何度も呼吸をしていると両手に何も装備していないセシリア嬢が心配そうな顔と怒りを籠めた顔の両方を覗かせながら近付いてきた。俺に何度も呼びかけたそうだが、俺はそれを一切聞いていない。だから俺は、想角が変身したと思ったら肉体を乗っ取られたと話すしかなかった。セシリア嬢は困惑していたが、これ以上模擬戦を続ける気にもなれずに中止を告げる旨を述べたあと、俺を抱えてピットに運び込んでくれた。
機体から降りると力が入らず、倒れそうになった所を一夏と箒に支えられ、そのまま担架に乗せられて保健室に連れていかれた。
模擬戦は、試合内容に難有りと判断され無条件で失格に。
セシリア嬢は自身の未熟さに思う所があったらしく、一夏にクラス代表を譲ったことで一夏が1年1組のクラス代表になった。
当の一夏が、一番納得していない顔をしていた。
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千冬
「――――で、今回の件ですが。一体どういう意向であのようなISを堺に?納得のいくご説明をお願いしたい」
「アレは私たちの間でも意見の割れていた物です。故に今回の事故は想定されたケースであり、我々も現にこうして仕様を説明する為にIS学園に赴いたのです。ただ、少々来賓手続きに手間取りまして――――その間に、問題が起きてしまった」
「ではその説明をお願いしたい。早急に」
「お、織斑先生。お気持ちは分かりますが落ち着いてください......」
「――すみません、少々焦りすぎました」
堺の乗るISが変形し、操縦者を潰しかねない空中機動を連続して行い始めたことを不審に思っていると、次世代IS運用総合統括研究所の一団がスーツを着てやってきた。そして、モニターに映る変わり果てた想角を見て責任者と思わしき男が「ああ、遅かったか」と声に出したので問い詰めようとしたところ、山田先生に制止される。確かに焦りすぎた節があったので自重して、一呼吸置いて頭を冷やした。
「順番に説明していきますが、アレは本来、堺万掌くんに送る専用機ではなかったのです」
「それはどういうことです」
「はい。我々が送る予定だった本来の機体は、堺くんの強い希望とあって全身にシールドを装備した防御偏向型IS『フェネクス』というもので、それは我々技術団が作り上げた世界にも類を見ない攻撃兵装を持たないISになる予定でした」
「......」
それはひょっとしてギャグで言っているのかと思いたくなる発言に頭を抱えていると、山田先生も同じところで疑問を抱いたのか苦笑している。
「しかし、搬送2週間前に研究所が篠ノ之博士から襲撃を受け、我々が用意していたフェネクスを破壊してしまったのです」
「あのバカが?それは一体、何の為に」
「襲撃は一瞬の出来事で、粉々に砕け散ったフェネクスを更に押し潰すように巨大な兎の絵が描かれたコンテナを残していき、襲撃してきたISは去っていったのです。我々も中身を検めるまでは、それが篠ノ之博士が差し向けてきた物だとは気付かなかったんですよ」
「――――」
束の名が挙がったことで一気に警戒心を強めて話を聞いていると、間違いなくあのバカがやらかしていそうなことで、思わず額に手を突いたまま天井を見上げてしまう。
「で、コンテナを開けてみると一枚のメモと膨大な数のファイル。そして想角が収納されていました」
そう言いつつ、胸元にぶら下げた来賓者であることを周囲に通知するネームプレートに『主任-桜井』と書かれた男は、メモのコピーを手渡してくる。
「『こんなクソだっさいISをプレゼントするとか正気じゃないね!束さんが作ったこの子を送ってあげなよ。武装の一切はないからそっちでなんとかするように。 PS.またふざけた物を作るようならコア返してもらうからね』」
「篠ノ之博士の感性には困った物です。我々の意見が珍しく満場一致を果たして作成したISをダサいの一言で片付けてしまうのですから。ああ、話が脱線してしまいましたね、申し訳ない。そうして送られてきたのが想角で、同封されていた資料の全てを全職員が共有した上であれを本当に送るべきか、会議を何度も重ねました。当然、危険性も知っていたので現場の作業員たちは強く反対しました。私も反対したうちの一人です。しかし、我が研究所の成り立ちが成り立ちなだけあり、上からの指示には逆らえんのです。ましてやそれが、各国政府の意思とあっては一研究所ではどうすることも出来ません」
読み上げたメモのコピーを返すと、それを桜井主任は受け取りながら束のセンスを疑うと言い出す。――これについては何も言うまい。桜井主任は真面目な顔を作り、危険性などを考慮した上で会議を重ね、研究所全体が反対意見で固まり始めた所で政府からの圧力を受け、苦渋の選択の末送る方向に舵を切ったらしい。
「我々の中にも堺くんと同じ歳くらいの子供を持つ職員もいます。政府の指示とはいえ、自分たちの子供を殺人マシーンに乗せることを快く思う人間がいるワケがない。何が面子だ、何が国の威信だと思いながら、それでも届けなければならない物であるが故に多少の遅れを出しても全力で武装を作成し、搬送しました。が、搬送してからほんの数時間後に、職員たちが決起したのです。やはり、使わせてはいけないと。あれはそれほどに危険なISなのです。我々が思いついても、研究に移すことすらしなかった悪魔の技術を当然のように積んでいる」
「資料を見せてもらっても?」
「構いません。むしろ、知って頂きたい。あれがどれほど危険な物なのか、我々が何故、此処に来たのかを」
桜井主任は握り拳を作り音を立てることさえ気にせず悪態を吐く。何時の時代も、圧力には逆らえないものだ。私もそうであったように。資料を拝借し読み進めていくと、今すぐにでもあのISをスクラップにしたい衝動に襲われる。なるほど、確かにアレは危険だ。
「よくわかりました。アレは存在していい物ではない。『インテンション・オートマチック・システム』、『サイコフレーム』、『デストロイモード』。その何もかもが人類には早すぎる。人間がISを使う事はあっても、その逆は有り得てはいけない。そんなシステムが普及してしまえば、人はISを動かす為のパーツでしかなくなる」
「その通りです。故に私たちは立ち上がった。研究者として、いや、研究者である前に、一人の大人として、子供にあんな物を使わせてはいけないと思い、こうして足を運んだ次第です」
「貴方たちの来賓理由はよくわかりました。私も一人の大人として、あれの存在を許すことはできません」
そうして、次世代IS運用総合統括研究所とIS学園の意見が一致した事で堺万掌の専用機『想角』はセシリア・オルコットとの模擬戦終了後、IS学園の地下に存在する極秘格納庫の中で一時的に凍結処理を施され、3か月後の7月21日を以て破棄される方針で固まった。
また、この模擬戦を目撃した者たちには口外禁止の御触れが回り、セシリア・オルコットのブルー・ティアーズに記録された会話ログだけでなく、映像記録も漏れなく削除されたことで模擬戦があったという事実は闇に葬られた。
凍結処理(呼べば来ちゃう)