Ideal・Struggle~可能性を信じて~   作:アルバハソロ出来ないマン

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オリ主て一人部屋貰ってるけど多分ずっと一夏と一緒だったから本当に一人になった時間は少なさそう。

意外と寂しがり屋だったりするというか、居て当然の人が居なくなってしまったから何か足りないなってなってる感を出したかった。


ラウラがちょっと悪役ムーヴします。でもこれ必須イベントやし...ごめんやで

ニュータイプの人ってキレるとだいたい手が付けられなくなるイメージある。アムロとかカミーユもそうだけど、バナージもブチギレしてジンネマンを一方的にマウント取って殴ったりしてたからやっぱり温厚な人が怒ると手が付けられないっていうのはあると思います。



第19話

6月上旬。

 

慣れない部屋の掃除や全く知らない洗濯をネットを活用したり一夏に聞くことでなんとか出来るようになってきたが、掃除が終わった後のスッキリとした私物の少ない部屋、使われなくなったベッドの片割れが空いたままの状況に俺は寂しさを感じていた。そこにあるのが当然だったそれが、今は存在しない。俺は生まれて初めて本当の意味で一人の部屋を手に入れたことに対する喜びよりも、一夏の居ないこの部屋がどうしても空っぽにしか思えず虚しさを抱いている。

 

朝食を摂る前の僅かな時間に早朝練習で使ったジャージやらなにやらを洗濯機に放り込んでスイッチを押し、その間にシャワーを浴びて汗を流し風呂から出た後に洗濯物を回収し、乾燥機に突っ込み洗濯物を乾燥させる。その間に一夏や箒に鈴、たまにセシリアを加えた面子でもはや言うまでも無くコ字型テーブルを1つ占領して食事を摂りながらその日の授業内容を確認したり次の週末は何をして過ごすか、模擬戦の約束を取り付けたりといった世間話と学業の話をそこそこにしつつ千冬さんに怒られない内に素早く食事を済ませ、一度部屋に戻り乾燥の終わった洗濯物を取り出しハンガーに掛けて皺を伸ばしておく。それから必要な物を抱えて、寮を後にする。

 

「――よし、行ってきます」

 

「さっきぶりだね、バンショー!」

 

「一夏?どうした急に」

 

ドアを開けると、一夏が立っており嬉しさからかついさっき会ったばかりだと言うのに頬が緩み口角が上がってしまう。何か用事でもあっただろうかと思いながら、俺は一夏に訊ねた。

 

「なんか、やっぱり寂しくて。一緒に登校しようかなって」

 

「......」

 

「バンショー?なんで無言なの?なんで黙って頭撫でてくれるの?」

 

「――俺も、いや、なんでもない」

 

少し寂しそうに笑いながらそう言う一夏は、どうやら俺と同じ謎の寂寥感に苛まれていた様でそれに嬉しさを感じて頭を優しく数度撫でてやると、一夏は背伸びをして掌に頭を押し付けつつ自分から緩やかに首を左右に軽く振って撫でられるのを楽しみながら俺がなぜ突然頭を撫でたのかと聞いてきたので、俺も寂しいんだ、と答えようとしたが意地というか、なんというか。一人でも出来ると言った1週間後にこんな風に甘えていては本当にダメな男になってしまう気がしたので、本音を押し殺して気丈に振る舞うことにした。

 

「よし、いくか」

 

「うん」

 

「――?...どうした?」

 

「ん!」

 

「ん、じゃないが。――手を......ああ、なるほど。多分、こうだろ」

 

「あーおしい!」

 

「えぇ?」

 

「正解は、こう!握手じゃなくて、手を握る、でした!」

 

「握手じゃないか。―――っ...漢字で書いても、握手だぞ」

 

「ニュアンスが違うの!もう。ぶー......えへへ......行こっか!」

 

「ああ」

 

一夏に出発を促す声を掛けると、返事をしたかと思えば手をずいっと差し出してきたので、何をしているのか聞くと、ん、としか言わない。意味を理解しあぐねて考えたところ握手だと思ったので差し出された手をがっちり掴むと解釈自体は間違っていなかったのか惜しいと言われる。しかしこれ以外の握手を知らないので、怪訝そうな顔をすると一夏が手を解き、互いの指を絡ませる様にして握り直しながら、握手ではなく手を握りたかった、というものだから、漢字でも書いても握手じゃないか、と反論するとニュアンスが違うと言われては呑み込むしかなかった。不貞腐れて頬を少し膨らませるもののすぐに機嫌を良くした一夏に引っ張られる様に互いの指を絡ませて握り合ったまま登校した俺たちだったが、クラスの女子たちに『恋人繋ぎ』なる物をしていると言われ、指を絡ませながら手を握るコレの意味を知った。

 

散々弄られた俺は一夏を少し睨むが一夏は照れ笑いを浮かべるばかりで誤解を解く気が欠片も見られず、それに気力を削がれた俺は、自分だけが怒っても仕方ないかと諦め、一夏が笑ってるならそれでいいと妥協した。それに、セシリアの時にもあった『俺の初めてがセシリア事件』の時と違い、俺は誤解されてもその誤解を解こうという気にはならなかった。なぜだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は皆さんにですね、転校生を紹介します!なんとなんと、2人もいますよー!」

 

SHRで挙げられた最初の話題は、俺の耳どころかこのクラスの女子の耳にも入っていなかった情報の様で、すぐさま大きな波紋を呼んだ。相変わらずこのクラス全員の驚愕する甲高い声はキンキンと響いて耳が痛くなる。こればかりはどれだけ時間が過ぎても慣れる事は無い。それより疑問に思ったのが1年1組に転校生が集中し過ぎているという問題だ。まさか他のクラスにもこんなに転校生がやってくるものなのだろうか。

 

「それでは紹介しますね。どうぞ!」

 

「失礼します」

 

スライドドアが開き、2人の生徒が教壇へ上った。それだけで、クラスが一気に静まりかえる。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さん宜しくお願いします」

 

その原因は今自己紹介をしたこの金髪が原因だろう。俺と同じ制服に、長ズボン。やや女顔ではあるが人懐っこそうな顔立ちに礼儀正しい所作、髪はセシリアと同じかそれ以上に濃いブロンド。男にしては長すぎるその髪だったが、フランス人は男でもロングヘア―にする人が多いと聞いた気もしたし、髪型なんて個人の自由だからそこまで気にする事でもなかった。だが問題は、俺と同じ男という点だ。

 

「お、男......?」

 

「あ、はい!こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて、本国より転入を――」

 

「き......」

 

「はい?」

 

『きゃああああああ!!!』

 

その質問が飛んできた瞬間になんとなく次のアクションが直感に頼るまでも無く理解出来たので、予め人差し指を耳の穴に突っ込んで栓をすると、それを容易く打ち破る怒号が聞こえた。バイタリティー溢れる女子たちだと感心させられるが、それ以上に耳が痛かった。

 

「男子!二人目の男子!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「堺くんが筋肉質高身長イケメンに対して、デュノア君は可憐華奢イケメン!絵になるぅ~!」

 

「ガッチリ体系の男と華奢な男!うへへへへ!」

 

クラス中から湧き上がる欲望の声と感情が、俺の体とデュノアの体を突き抜けていくのが分かる。たった数秒ほどしか経っていない邂逅だったが、一瞬で標的にされるデュノアに同情したからか、途端に親近感が湧いてきた。しかしその女子の声には一切反論も動揺もしない。一々反応するよりも、適度に受け流した方が良いというのはこのIS学園で2か月間過ごして手に入れた自論である。流石に受け流しきれない物は拾う他ないが。

 

「んん!あー、静かにしろ。そう騒ぐな」

 

おそらく凄まじい速度で目が濁っていくのだろう、この学園で3週間ほど受けていなかった不穏な気配を纏う好気な感情の波に充てられた俺を、教壇に立つデュノアともう一人の銀髪で眼帯という凄まじい属性を持ってきた低身長な人も見て不安そうな顔をしている。千冬さんはその空気を切り替える為に手を叩き、喝を入れる。俺を突き刺す不穏な感情の波が和らいだ所で改めてデュノアの隣に居る銀髪少女を眺めることにした。髪は白と言った方がいいのか、教室の照明によって銀髪に見えているとも言えるほどのそれを腰まで伸ばしたロングヘア―で、癖が一切付いていない。左目を塞ぐ眼帯は医療用の物ではなく、真っ黒な眼帯で、昔漫画で見た軍人が似たような物を付けていたことを何となく思い出した。開いている方の右目は見事に深紅。此方も長ズボンというか、軍人が付けていそうなアレ。太ももに余分な膨らみを作り、膝から下で一気に絞って軍靴のような何かで覆っていることから察するに『軍人』という奴か、それに近しい雰囲気を感じた。デュノアは外国人の男にしては身長が低すぎるが、それよりも尚低いのが銀髪の方だった。

 

「.........」

 

そして極め付けにこの無言である。緊張しすぎて挨拶を忘れてしまった、などという雰囲気ではない。その瞳に宿しているのは冷たく鋭い気配だった。クラスの女子たちもそれに気付いているのだろう、なるべく触れずにデュノアを見ているので分かる。が、銀髪少女はそんなクラスの気を知らずにその冷たい赤の視線で俺たちを一瞥して下らなさそうにし、それもすぐに止めて千冬さんをじっと見つめた。

 

「......はぁ。挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

千冬さんにそう言われ、即座に態度を変えて佇まいを直して素直に返事をする――ラウラと呼ばれた少女を千冬さんが面倒臭そうな雰囲気を隠す事無く、むしろ顔からも滲ませたことで察した。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えるラウラは背筋をまっすぐに、手の中指をズボンの縫い目に合わせて置き、踵を合わせて返事をした。間違いなく軍人っぽさを露骨に醸していた。千冬さんのことを教官と呼ぶのはドイツ出身以外で居ないだろうから、多分ラウラはドイツ人だろう。というのも、一夏が第2回モンド・グロッソの決勝戦を観戦に行って誘拐されたときに、情報を提供したのがドイツという話を千冬さんから聞かされた。その見返りということで千冬さんは1年間ドイツでISに関する教鞭をとっていたようで、それから1年間は誰も知らない時間を過ごし、その後IS学園に籍を置いたらしい。らしいというのは山田先生や他の諸先生方からそうだと聞いただけだからだ。

 

流石に一夏の心に掛かる負担も大きいのでは、と思い元気に振る舞える様になった一夏がまた沈んでしまうのを見たくはなかった俺は、席を1つ挟んで窓際に居る一夏に目を向けると、一夏はあからさまに苦い顔をしていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「......え、あの......以上ですか?」

 

「以上だ」

 

名前以外何も言わなくなったラウラと、それにどう反応していいのか困惑するクラスが作り出す無言の空気感に堪えられなくなった山田先生がおずおずと訊き返すと、ラウラは容易く自己紹介は終わったと言い切った。泣きそうになっている山田先生を放っておきながら、ラウラは一夏を見た直後、

 

 

 

「――!貴様が......」

 

 

 

一夏の下に移動して、思い切り一夏の頬を叩いた。

 

 

 

 

「――え?」

 

 

 

甲高く鳴るビンタの音に、静まりかえっていたクラスが、更に静まりかえった気がする。

 

「私は、認めない。貴様があの人の家族であるなどと、認めるものか」

 

「貴様ッ!一夏に何をするか!」

 

「箒さん!落ち着いてくださいまし!」

 

「――......や、やった...な......」

 

「万掌さんが耐えているのです!貴女が耐えないで、どう――」

 

「――やったな」

 

「万掌さん?」

 

「やったな!人も気も知らないで、一夏の心を傷つけたな!絶対に許さない!折角一夏が笑えるようになったのに、貴様の無心な態度がまた一夏を傷つける!お前はテロリストだ!一夏を悲しませる悪だ!」

 

「きゃあ!」

 

「なんだ貴様――ぶげぁ!」

 

「落ち着け堺!」

 

「黙れ!」

 

話し合いの、最初の一言すらないまま暴力に身を委ねたラウラは、一夏の身体を傷つけ、次いで言葉で一夏を傷つけた。それだけで、俺はもう何も考えられないくらいに激怒した。ラウラを口汚く罵り、鏡さんの机を踏み台にしてラウラ目掛けて飛び掛かり、思いっきり顎を殴りつけてからそのままマウントを取り目一杯の力で拳を振り抜く。千冬さんに止められたが、それを一言で切り捨てひたすら拳を振り抜き続ける。

 

「貴様のような奴の言葉に!どれだけ一夏が心を穢されたと思っている!どれだけ一夏が自分の無力を嘆いて泣いたか知っているか!どれだけ一夏が、どれだけ一夏が千冬さんの事を想って泣いたか!貴様はその一切を知らないからそうやって平気で人を傷つけるんだ!お前のような奴がいるから世界から争いが無くならないんだ!この薄汚い悪魔め!」

 

「止めろ馬鹿者!山田先生、ラウラを!」

 

「は、はい!」

 

「離せ!千冬さんだって解ってるでしょう!そいつのしたことは、一夏の心を壊すことだ!」

 

「それでもやっていい事と悪い事があるだろう!冷静になれ!」

 

「どう冷静になれって言うんです!」

 

「ええい、分からんガキめ!お前も暴力に頼ってどうするという話だ!今から貴様を4時間生徒指導室に軟禁する!そこで頭を冷やせ!」

 

ラウラの口から言葉が出るよりも先に拳で。千冬さんに羽交い絞めにされてからは足で蹴ったが山田先生が間に入った事で蹴れなくなり歯が割れるかと思う程に力を籠める。山田先生に抱えられて保健室へ運ばれるラウラが教室から出ていくまで、ずっと睨み続ける事しかできない今の自分に、腹が立った。俺を羽交い絞めにしたまま顎を掠る様に千冬さんの拳が抜け、急に立てなくなった俺を雑に担いだ千冬さんは振り返り、一夏を見た。

 

「織斑、お前も一緒に来い。二人で頭を良く冷やせ。いいな」

 

「――――」

 

「一夏!」

 

「っ!ぅ、はい......」

 

呆然自失、というか瞳から涙を一筋流していた一夏を、千冬さんは強く名前を呼んで正気に戻し、俺と共に職員室の奥にある生徒指導室という防音性がそこそこに高い6畳ほどの部屋に押し込められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ごめんね、万掌......手、痛いよね」

 

「一夏の心の痛みが解るから、そっちの方が、痛いよ」

 

「......ごめんね、万掌。寄り掛かってもいい?」

 

「いいよ」

 

「ごめん。本当に、ごめん」

 

「――いいって。ほら、おいで」

 

「――うん」

 

壁に二人して背を預け、殴り慣れていない手の指の皮が若干擦り剥けている俺を気遣う一夏だったが、こんな小さな痛みよりも一夏が受けた痛みの方が、よっぽど重く響いていた。一夏も一人で居られないのだろう、また、あの時の様に俺に寄り掛かってもいいかと聞かれるので勿論だと即答する。一夏の為に胡坐を掻いていた足を開いて足を立てて隙間を作りそこに一夏が正面から俺に抱き着くように座る。一夏の心が持たなくなった時に、よくやっていたリラックス方法だった。そのまま抱きしめる様に包み込み、割れ物を扱うよりもなお繊細に頭を撫でる。

 

「やっぱり、私――――助かったのが、間違いだったのかな」

 

「違う。一夏は助かって当然だったんだ。そんな事を言うな」

 

「――――......万掌」

 

「いいよ」

 

「......ぅ......え、ぐ......ごめん......なさい......千冬姉......ごめんなさい、ごめんなさい......ぅ、あぁ......あぅ、ひぅ、あ、あああ......」

 

一夏が胸に顔を押し付けたまま、助からない方が正しかったというから本当に限界が近かったことを悟る。一夏が俺の名前を呼ぶので、何も聞かずに承諾すると、一夏は静かに泣きだしたが、千冬さんを想って泣いて赦しを乞うばかり。ずっと、こうなのだ。

 

一夏が原因で千冬さんのモンド・グロッソ2連覇を逃したという輩に心ない言葉を投げかけられた時。一夏は必ずこうして俺に寄り掛かり、千冬さんへ懺悔する。だからこそ、人の為に涙を流せる一夏を、一夏の心をこうまで傷つける奴らを、俺は絶対に許さなかった。

 

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。俺はあいつを、許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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