Ideal・Struggle~可能性を信じて~ 作:アルバハソロ出来ないマン
読んでくれた兄貴姉貴たちありがとう
思いがけない光景に、脳の処理が追いつかず、つい、一夏と出会った始まりから過去を想起して、数分前に玄関先で交わした言葉までを思い出していた。俺は悪い夢を見ているんじゃないかと思ったが、何処かで呑み込めたのか、これが現実だと理解している。
夕暮れの日差しが僅かにキッチンの小窓から差し込むダイニングを抜けて、リビングへ二人を案内し、コーヒーを淹れてくるので少し席を外す旨を告げてからキッチンへと向かう。自分が落ち着きたい気持ちもあったのだろう、何時も二人に出している物をいつもより慎重に慎重を重ね、時間を掛けて焙煎した豆に、ゆっくりと水から出したコーヒーをカップに注ぎ込んでいく。コーヒーの芳醇な香りに包まれながら、何も考えない様にしてただただ無心で手を動かした。
リビングに、何時も一夏と千冬さんが来た時に出しているコーヒーを持っていき、なるべく音を立てない様にカップを置く。
「どうぞ」
そのまま、一夏と千冬さんの正面に腰を下ろして一息吐いてから、此方の現状を説明することにした。
「今、両親は仕事で家を出払っています。遅くても夜の10時までには戻るでしょう。説明をするなら、家族が揃ってからの方がいいかと思いますが――......一夏?口に、合わなかったか?」
俺が差し出した、何時も淹れている飲み慣れたコーヒーを一口啜る様に飲んだ一夏は肩を震わせ、静かに泣きだしてしまったものだから、話を中断して声を掛けた。
「――――――苦い......いつもと同じなのに、苦いよ......ばんしょぉ......」
飲み慣れた筈のものが、口に合わない。味覚の変化。女性になってしまった事で味覚が変わってしまったのか。
ああ、うっかりしていた。たしか、女性の方が味覚が鋭いんだったか。
「すまない......気が、回らなかった。紅茶にしよう。シュガーポットも持ってくるから、味を調節してくれ」
「謝らなくていい......ごめんね、バンショー」
そこまで気が回らなかった事を詫び、コーヒーを下げた。申し訳ない気持ちになり、すぐにキッチンへ戻ってヤカンでお湯を沸かし、その間に来客用に取り置きしておいたクッキーを器に盛り付け、母さんが今晩の楽しみにと残していたショートケーキを心の中で謝りながら取り出す。
沸いたお湯をティーカップに注ぎ、蓋をして暫く蒸らしつつその合間にシュガーポットを戸棚から取り出して中身が入っていることを確認してから仕上げた紅茶とフォークと共に乗せて一夏の下へ持っていく。
「こっちなら大丈夫か?紅茶なんだけど。あと、クッキーとケーキ」
苦い物がダメなら、甘い物を。単純な思考だが、今の俺に出来る事はこれくらいしかなかった。
一夏はシュガーブロックを1つ入れ、ティースプーンで混ぜた後、恐る恐るティーカップに手を伸ばし、静かに口に含むと――
「――――おいしぃ......」
口元に僅かな笑みを浮かべて、息を零した。それを見て、ようやく俺も呑んだままの息を吐き出す。
「ほっ......」
溜飲が下がったような気持ちだ。そうして、全員が気持ち1つ分程落ち着けたので、俺は改めて千冬さんから事情を聴くために話題を切りだした。
「それで、千冬さん。なぜ、一夏は女性に?どうして一夏が?どこで?何のために」
「落ち着け万掌、焦るな。順を追って説明していく」
「......すいません。どうやらまだ、頭が冷えてないようで......すいません」
疑問を1つ口にするたびに、どうして一夏を狙ったのか、なんで一夏なんだ、こんなことをして何の意味が、と連鎖していき止め処なく口から幼馴染を襲った不幸を恨む言葉が溢れ出ていく。千冬さんにストップを掛けてもらわなければ、今にも立ち上がって不躾にも千冬さんの肩を掴んでいただろう。千冬さんにもわからない事かもしれないのに、そう責めるように聞くのはお門違いだった。それでも、考えが浅はかな俺は、現に腰を沈めていたソファーから前のめり気味に腰を少し浮かせていた。改めて一呼吸置いて頭を冷やし、謝罪を口にして再び腰を沈める。
「焦る気持ちはよく分かる。私も最初、ひどく取り乱したものだ」
「いや本当に申し訳ないです......それで、話の方を......自分から中断させておいてなんですが、お願いしてもよろしいでしょうか」
「ああ。第二回モンド・グロッソの決勝戦に観戦に来ていた一夏は、そこで拉致・誘拐事件に巻き込まれてな」
「拉致、誘拐......」
「私は決勝戦を放棄し、ある伝手で手に入れた情報を元に一夏の居場所を突き止め救出に向かったが――その時には既に、コイツはこの身体になってしまっていた、というワケだ」
取り乱す千冬さんなど想像だにしないが、本人がそう言うという事はきっと相当だったんだろう。拉致・誘拐。運が無いと言えばいいのか。いや、一夏は千冬さんの血縁だから、わざと狙われたのかもしれない。たとえば、千冬さんの二連覇をよく思わなかった一味が居て、そいつらが一夏を使って......妨害し、阻止を企む。なるほど、千冬さんの血縁であるという事実が動機の一因だと考えればなぜ一夏が狙われたのか、偶然ではない必然性というものが見えてきてしまう。しかし、そこで断定するのは良くないことだろう。自分で可能性の幅を狭めてしまうことは悪手だ。だが、最も可能性として高いのは間違いなく、織斑千冬の血縁者という点になるはず。
ただ家族というだけで狙われ、こんなにも理不尽な仕打ちに遭った一夏を想うと、心が痛む。それと同時に、許せない義憤の念が涌き上がる。
「一夏」
「......うん」
「今は、これくらいしか言えないし、一夏は怒るかもしれないけどさ」
「――うん」
「言わせてほしいんだ。すごい、独善的で、嫌な奴に見えるかもしれないけど、言っておきたいんだ」
一夏が、沈黙を以て話の続きを促してくれる。
「おかえり。大変だったろう?」
たった一人で、見知らぬ者たちに平凡な人生を過ごしている内は体験することすら叶わなかった辱めを受けさせられた。一夏がその時に感じた不安を、恐怖を、不甲斐なさを、心細さを、助からないかもしれないという絶望感を想うだけで、情けなく震えあがってしまった口を必死に動かして、なんとか音を発する。
しかし、なるべく安心させるような声色で。
もう大丈夫、と伝えたくて。
ソファーから立ち上がり、一夏の隣に歩み寄って膝を落としてから、そう言った。
「ぅ......ぁ......う、ぁあ、あぁああ、ぅぁああああああああああ!!!!!ばん、しょぉおっ......俺...俺ぇ......!!!」
潤む瞳をより一層潤ませた一夏は、ダムが崩壊したかのように双眸から涙を流して俺の肩に顔を押し付けてきた。男の頃より、一回り、二回りほど小さく、華奢になってしまった幼馴染の背中を何度も擦り、後頭部を抱いて撫でて慰める。千冬さんはこの光景に思う所があったのか、席を外して静かにリビングを後にして何処かへ行ってしまった。俺はただ、泣きじゃくる一夏が溜め込んでたものを吐き出しきるまで静かに相槌を打ち、慰め続けた。
「落ち着いたか?」
「――もう少し、このままがいい。ごめん、バンショー。本当に......もう少しだけ、このままで」
「分かった。気が済むまで、俺に寄り掛かってくれ」
一夏にしては、弱気な発言だが決して咎める事はしない。いや、まず咎める権利がない。心に負った傷は深く、何人にも癒しがたい物なのだ。けれども、その傷を癒す手伝いが僅かながらに許されているのならこれを喜ばずして何が親友か。何が幼馴染か。ただ、頭を撫でるだけで一夏が落ち着くのであれば。
ただ、抱きしめて熱を伝えることで一夏が帰ってきたのだと実感できるのであれば。
俺は喜んで協力しよう。
一夏が一番助けを必要としていた時に、何も知らなかったとはいえ遊び呆けていたのだ。償いをさせてほしかった。
「こんなことしか出来なくて、ごめん」
「――全然、気にしてないから。大丈夫......こっちこそ、ごめんな」
「一夏が、安心できるまでは傍に居るからさ」
「......言ってて恥ずかしくならない?」
「......いや、別に......あー...やっぱり、結構、恥ずかしい」
お互いに抱き合ったまま、静かに話を重ねていく。少しずつ、頭が冷えてくるに連れて羞恥心が増してくるのは仕方のないことなのだろうが、想えばかなり恥ずかしい言い回しをした気がする。
いやめっちゃ恥ずかしいこと口走ってたわ。
一夏も、余裕が出来てきたのか疑問に思った事を口に出す様になってきた。ただ口に出したそれが、俺が今、一番考えたくはないものであって、少し誤魔化してみたけれど誤魔化したら誤魔化したで後になればなるほど、重箱の隅を突くような問い詰めにあうかもしれないと思うと、まだダメージの少ない今のうちに白状しておいた方がいいと判断し、羞恥心を認めた。
「ははは、バンショーって何時もそうだよな......すぐに熱くなるし、俺が散々言ってたのも原因なんだろうけど、殴られたら殴り返す様になったし」
「殴り返す時は、まだ話し合いの余地があるのにそれを放棄して暴力に訴えるからだ。言葉が通じて意思疎通が出来るのに、思考を停止させ、力に頼る奴を落ち着かせる為にはこっちも力で対抗するしかないと思い至ったが末の最終手段なんだよ」
抱き合ったまま、日常的に繰り返してた話題をぽつぽつと話し始め、自然と笑い合う。
本当に少しずつだけど、一夏はリラックス出来ているようで、安心した。
「――えぇと、その......」
「一夏?」
「自分から抱き着いておいてなんだけど......落ち着いてきたから、離してほしいかな、って.....はは、ははは......」
「――お、おぉ!すまん、そうだな!」
「あっ......」
「なんだ、もう止めるのか」
そのまま、昔やらかした話や喧嘩した話もして、話題が尽きかけた時。一夏が急に落ち着きなく、そわそわし始めるものだから、どうかしたのかと思って顔を近づけると、抱き合ったままはちょっと、という至極全うな意見が出たので急いで背中に回した手と頭を撫でていた手を緩めて一夏を解放した。撫でていた手を離した際に聞こえた切なげな声は聴かなかった事にして腰を上げ、一夏に手を差し出して立ち上がりの補助をする。その時、リビングの入り口から居なくなっていた人物の声が聞こえて、俺たち二人はギチギチと首を回し、同じ場所で視線が固定された。
「ち、千冬姉!」
「千冬さん!戻ってきたなら戻ってきたって言ってくれればよかったのに!」
「声を掛けただろう。その様子だと気付いていなかったようだが」
俺たちは見られていた気まずさと、口走った恥ずかしい事の数々に頭を抱え、堂々と覗き見ていた千冬さんに抗議の声を上げた。が、どうやら声を掛けていた様で、この場合は千冬さんを無視してしまった俺たちが悪い。
「それは、なんというか、その、すいませんでした」
「気付かなくて......」
「なに、気にするな。それより一夏」
「な、なにか?」
「もう万掌に寄り掛からなくていいのか?必要なら私は席を外すぞ」
「え、あっ、ぁ、あうぅ......あ、そ、そう、無し!それ無しだから!」
「あーそっから見られてたかーそっかー」
謝罪を口にし、一夏を優先し過ぎた事を反省し目を伏せて頭を下げる。一夏も思う所があったようで、縮こまった。しかし、無視されてしまった当の本人が気にしていないと言って別の話題を切りだしてしまってはこれ以上の謝罪も受け取ってはもらえないだろう。そう思い黙っていると、千冬さんは少しだけ目を細めて俺をちらりと一瞬見てから口元を僅かに歪め、俺たちの最新黒歴史を突きに来た。
俺はそこから見られていたか、と早々に諦め放心し、一夏はどう返答しようか迷った末に記憶から消すことを選んだようだ。
「千冬さん、これ以上はちょっと、恥ずかしくて膝が折れそうなので勘弁してもらっていいでしょうか......」
「ははは、膝をついた所で耳が潰れるワケではないだろう?」
「いやほんと、すいませんでした」
「くくく、弄りがいのあるやつだなお前は。良い歳のとり方をしたと思ったが、この辺りの事情はまだガキか」
改めて許しを乞うと、千冬さんは追撃の気を見せてくる。これ以上書き綴られたばかりの黒歴史をなじられてはこっちの心が持たない。俺の態度に満足したのか、喉の奥で笑いながら肩を叩く千冬さんに苦笑いを浮かべて軽い会釈をした。一夏はソファーの隣で体操座りをして隠れていた。
「で、だ。一夏、これからどうする」
「――?これからって?」
「そりゃあ、お前......今春休みだからアレだけどよ。もうすぐで俺たち3年生だぞ」
「......あ、あああああ!!そうじゃん!どうすんだよ千冬姉!学校!俺の事みんなにどう説明すればいいんだ!?」
「だからそれをどうするか、という意味で意見を求めて万掌の家に来たんだろう。万掌、ご両親が戻られるのは何時頃だったか」
「遅くても夜10時を回る前には帰ってくるかと。今日は一泊するといった話も聞きませんし、終電を逃す時間まで仕事が残っているなんて話もされませんでした」
千冬さんが一夏を連れて家に来た理由はそれだったか。色々あって抜けていたが、確かにどうするのだろう。今はまだ問題ないが、それでも休みは終わり俺たちは中学校生活最後の1年を過ごすことになる。
当の一夏はそれを忘れていた様で、俺の指摘を理解し始めたからか少しずつ顔色を変え、慌て始めた。千冬さんはそんな一夏の様子に頭が痛くなったのか、額に手を置いて溜息を吐きながら呆れた様子で俺に両親が戻る時間を訊ねてくる。俺はその質問に遅くても10時手前あたりだと告げる。
「そうか。――今のうちに話しておくがな、万掌」
「はい」
「私は一夏を、IS学園に入学させようかと考えている」
「なるほど......一夏ってIS動かせるんですか?」
「分からん。だが検査の結果、完全な女になっているからには理論上動かせるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ千冬姉!俺の意見は!?」
「少なくとも自衛出来る状態ではないのだ。ある程度の安全が確保される環境に身を置いた方が良いのは当然だろう。それに、国家代表候補生になるまで登り詰めれば下手な組織はお前に手を出し辛くなる」
千冬さんは一夏をIS学園に入学させ、3年間ISに関する知識と経験を積ませ一夏自身が自衛できるレベルに仕上がるまで保護してもらおうという考えの様だった。それに、確かに一夏自身が強くなれば闇雲に手を出す事は出来なくなるはずだ。相手はあの織斑千冬の弟、いや、妹で国家代表候補生ともなれば嫌でもブリュンヒルデを想起させる。これほどまでに心強い盾になるものはないだろう。
「――悪い話では、なさそうですね」
というか、それしか道が無いのでは?
可能性を狭めずに様々な状況を想定したが、いずれも無理が生じる。一夏の意思を無視してしまうような結論だが、一夏を守るというのであればこれ以上ない名案だと思った。
しかし、それに一夏は黙っていなかった。
「――――――っ!万掌、お前までそんな事を言うのか!一緒に藍越学園に行くんじゃなかったのかよ!」
「――状況が変わったんだ、一夏」
「そんなこと!」
「――――そんなことで済ませていいレベルじゃないだろう!お前は女の子にさせられて!どこの国の、どんな奴らが狙っているか分からない日常を送るんだ!普通の高校に通って、普通に毎日楽しく生きていけるワケないだろう!自分を大切にするんだ一夏!お前が一番安全に暮らせるのがIS学園しかないんだよ!」
「――!」
一夏は、俺がそんな事を言うと思っていなかったのか裏切られたような表情で立ち上がり、俺の服の襟を掴んできた。一緒だって言ったのに、そう訴えかける視線に耐えきれず目を反らして一言。状況が変わった。そうは言ってられない事態になった。だから、仕方がない。そう言った。
しかし一夏は、そんなこと、で済ませようとした。俺は怒った。2週間も経っていないのに事の重大さを理解していない一夏は、俺との約束なんていう些細な物を自分の身の危険以上に優先しようとした。だから、俺は声を張り上げて怒った。一夏が無事なのが、一番良いんだ。怪我無く過ごせるのが一番なんだ。分かってくれ、と思いを込めて襟を掴んでいた一夏の腕を乱暴に振りほどき、少しだけ肩を強く押して距離をとり、一夏を睨めば、一夏は言葉を詰まらせ瞳を揺らした。
「――――――ゃ、だ......」
「......いやだ......一緒が、いい......ずっと、ずっと、一緒だったんだ。これからも、ずっと......ずっと、一緒に居てくれるって、約束したじゃないか!」
一夏は俺に拒絶されたからか、表情に影を落とし小さな声で何か繰り返し呟いている。俺は聞き取れず一歩前に踏み出して言葉を聞こうと思った瞬間、一夏は声を張り上げて飛び掛かってきた。
突発的、かつ人一人分の体重が乗った突進を食らい、踏ん張る事すら出来ずに押し倒され、一夏にマウントを取られ、両腕から繰り出される容赦のない顔面狙いのパンチを何発か食らう。
「止めんかこの馬鹿者!」
千冬さんは黙って見ているワケにはいかなくなり、一夏を止めに入るがそれを俺は手を広げて制止させた。
俺は、大丈夫です。目線は一夏を見たまま、手だけでその意思を伝えた。
時間にしてほんの数秒。数十回の殴打を必死に繰り返した一夏は疲れたのか、肩で息をしながら涙に濡れた顔で俺を見下ろす。
「女になった俺と一緒が、嫌なのか」
「違う」
「俺が、嫌いになったのか」
「違う!」
「じゃあ、なんで!」
「――俺じゃあ、お前を守れない!お前を襲う奴らから、不条理から守ってやれない!俺だって、お前と一緒が良かったさ!ああ、そうだよクソッタレ!高校も、大学も!就職先まで同じ所だったらいいなって思い続けてたさ!お前だけじゃないんだよ!俺だって!お前と一緒が良かったんだよ!でもダメなんだ!もう、ダメ......なんだよ......」
殴られた痛みと、心から湧き上がる悲しみによって言葉を次第に詰まらせる俺を、一夏が見ている。
「俺は、一夏の無病息災が、一番なんだ......だから、頼むよ......」
「俺は、万掌と、一緒がいい......それだけで、何もいらないんだ......」
話しても、解りあえない。
互いに譲れないものだから。
千冬さんは、どんな顔をしているのか。見えないから分からないけど、こんな状況になったのは千冬さんのせいではない。
俺たちが、揺るがない芯を持っていて、それがぶつかり合っただけなんだ。
だから、俺たちで解決しなくちゃいけない。
「――......なぁ、一夏」
「......なんだよ」
「俺はさ、お前が男とか、女だとか......性別なんてどうだっていいんだ。お前が最初から女でも俺はお前とこうして本音でぶつかり合うだろうと思う」
殴られた頬が少し腫れているのが分かる。口の中も切れてるのか、ちょっと痛い。
でも、その痛み以上に。
――俺を想う一夏の心が解るから。
俺の心が痛かった。
「だけどさ。お前が危ない目に遭って......これからも、そういう事が起きたら。そう思うと、俺は――俺じゃ、ダメなんだって、思ってさ」
随分と細くなってしまった一夏の指を、俺の頬を殴りつけて痛めたであろう指を、繊細に、優しく。そっと包む。
「お前は、自分で自分を守れるくらいに強くならなきゃいけないんだ」
しっかりと一夏の目を見て、俺は。
はっきりとそう言った。
「――千冬姉」
「なんだ」
「......俺、IS学園に、いくよ」
どれだけ時間が経ったか分からないが、室内はすっかり薄暗くなり、頬の痛みは引いていた。
「――そうか。忙しい1年になるぞ」
千冬さんは、酷く冷めた声でそう言った。
一夏とオリ主はホモではありません(断言)