Ideal・Struggle~可能性を信じて~ 作:アルバハソロ出来ないマン
非常に短いです。
読まなくても問題ないです。
シャルをどういう立ち位置にしようかと思ったけど一人で色々してきた上で「手のかかる公の場ではほぼパーフェクトだけど私生活が本当にダメな人」が同室になると、シャルの経歴を考えると多分こうだろうな、と思いまして本文みたいになりました。
今回のお話は本当に息抜きで次回からは本文の内容を一切無視するようなシリアスに舵を切ったりします。
ご了承ください。
最近、シャルルの様子がおかしい。
いや、前からその兆候はあったのだが、最近はそれが顕著だ。最近といってもほんの1週間と少し程度だが。少しだけ、振り返ってみることにした。
「シャルル、先にシャワー浴びてきたから次使っていいぞ」
「うわ、バンショー!なんで上着ないの!ああもう、髪もビショビショ!」
「いやこれから拭くんだけどとりあえず伝えようと思ってな」
「ああ、そういう......ってわー!そんな雑に拭いちゃダメだよ!髪が痛んじゃう!」
「は?変わらんだろ」
「あ、ちょ、あー!もう!貸して!」
「うおっ...ちょ、シャルル?」
「髪の毛はね、こうやって拭くんだよ。今日は僕がやってあげるから、次からは自分でやるんだよ?」
別の日。
「バンショー!これ燃えるゴミと燃えないゴミに別けてないじゃない!」
「いやゴミ出しの日に別けるんだけど......」
「最初から別けておいた方が楽でしょ!はい、一緒にやろう!」
「おう......?」
別の日。
「バンショー!洗濯物の畳み方クシャクシャじゃないか!」
「こんなもんでいいだろ」
「君は人と仲良くなるために才能の全てをつぎ込んだのかい?ああ、違うよ、長袖のはそうじゃなくて......縫い目に合わせて重ねれば自然と......ああ、もう!貸して!」
「えっ」
別の日。
「バンショー、お風呂あがった?じゃあ、はい!ここに座って」
「は、いや...は?」
「髪の毛拭いてあげるから!」
「は?」
別の日。
「バンショー、一緒に洗濯しちゃうから洗濯物そこの籠に入れておいて」
「は?」
「僕がやってあげるから、バンショーは紅茶淹れて待っててね」
「......?」
別の日。
「バンショー、偉いね!ちゃんと言い付け通りにゴミの分別できるんだね!偉いねぇーよしよししてあげる!」
「???」
「今日も一日頑張ったねバンショー、よーしよーし。お風呂入っておいで。お風呂出たら髪を拭いてあげるからね!」
「??????」
別の日。
「バンショー、部屋の掃除も僕がやっておくから、バンショーはゆっくり休んでていいよ」
「いやそれは流石に」
「僕が。やるから。いいね?」
「......はい」
「良い子だねバンショー!」
昨日。
「バンショーの服、畳んでクローゼットに仕舞っておくからね。ちゃんと上着と下着と肌着で収納場所をプリントした紙を貼りつけておいたから、間違えないようにね」
「いやそれくらいは出来――」
「あ、でも心配だから、枕元に明日着る服出しておこうか。そうしよう!」
「......」
あのシャルルからまるで手間のかかる子供扱いをされるようになってしまった。何時からだ。何時から俺は高校生的な扱いではなく、まるで片付けも何も出来ない息子のように扱われるようになってしまったんだ。片付けも家事も何も出来ないのは事実だけど頑張ってたじゃないか......シャルルが完璧すぎるだけであって、平凡な男子高校生らしく無知なりにネットの知識やら一夏の知恵袋で頑張ってたじゃないか......。
今朝も頭を抱え込んで教室で項垂れながら、艶々になった引っかかりの少ない髪を女子に褒められたばかりで何かしたのかと訊かれたがシャルルに拭かれるようになってからこうなりましたなんて言える訳もなかった。一夏にもシャルルにも言われたが、公の場ではそこそこデキるのに私生活は点でダメと評されてしまった。一夏も何かに付けて俺の世話を全部してしまうし、シャルルもその片鱗が、というより一夏より甘やかし上手だった。俺が断ろうとしても謎の圧力に押されて屈してしまい、そのままされるが儘になってしまっているここ数日。
流石に同じ男からこれ以上世話をされるというのは、と考えたが一夏が男だった時から似たような事をされていたこともあってか、思った以上にメンタルが強くそこまで屈辱にも感じていなかった。しかし逆に、その事実が何より心にきた。あって当然の環境が別の人の手によって再構成された程度の認識しかしていない様で、俺の心は思った以上の深手を負う事は無かったが、シャルルが俺の世話を楽しみだしてしまい、いよいよ以て食事の介抱までしかねない勢いなのがよっぽど問題だった。頭を抱えて項垂れていると、そこに一夏が珍しい物を見るような表情でやってきた。
「珍しいね、バンショーがそんなに人前で頭抱えるなんて」
「うーん......いや、なんかな」
「あれ、バンショー......髪のケアとか始めた?」
「あれはケアというかなんというか......」
「制服の皺もないし......」
「――――実はな......シャルルが全部やっちまうんだ」
ボーデヴィッヒの一件でまた溜めこんだ物をある程度吐き出してスッキリしたのか、一夏は俺の下にやってきて心配そうな表情をつくり俺に話しかけてきた。しかし、俺の私生活のだらしなさを知っている一夏の目は思った以上に鋭く、すぐに髪や制服の皺の無さを指摘し始めた。流石にコレは隠せないかと思って一夏に全てを打ち明けることにした。
「――――――全部?」
「ああ、全部。洗濯も、掃除も、乾燥機も、洗濯物畳むのもゴミの分別も――――......一夏?」
俺が全部と言ってからかなり間が空き、一夏が全部と訊き返してきたので家事全般全部シャルルがやっていると言おうとしたところで無言になって震え出す一夏が視界に入り、どうかしたのかと訊こうと身を乗り出した。
「......――――い」
「ん?」
「――ずるい!」
「は?」
「ずーるーいー!私もバンショーのお世話したいー!」
「――......はぁ」
頬を膨らませて目をぎゅっと閉じながら、胸の前で両手を握り絞めて小さく叫ぶ一夏の態度をみて、俺は相談する人選を間違えたと悟り力なく自分の席に身を沈め、天井を腐った瞳で眺め続けた。
放課後。
「――と、いうことで!万掌のお世話は私がします!やります!」
「え、えぇ......ねぇバンショー、これどういう状況?」
「シャルルに嫉妬した一夏が俺の世話を変わると言い出した」
「自分でやる気はないのかい......?僕が言うのもなんだけどさ」
「やろうとしたら全部お前らに有無を言わさずやられてんだよこっちは!」
俺の右腕をずらし、腹回りを自分の両手でグルりと囲い自分の物アピールをしながら頬を僅かに膨らませた一夏を見て、シャルルが困惑気味に俺に状況説明を求めてきたので簡潔に説明するとごもっともな意見と自嘲の言葉が出てきた。そこまで言えるのなら是非とも俺の世話を止めてほしい。せっかく一夏離れが出来始めていたのに今度はシャルル離れが出来なくなってしまう。
「私もバンショーの髪の毛拭きたい!ベッドのシーツ直したい!お味噌汁は――毎日作ってるからいいとして、制服の皺とか伸ばしてあげたいの!」
「で、でも織斑さん別室じゃない?」
「それでもしたいー!シャルルだけずるい!」
「ずるいって言われても......」
「シャルルはお世話するの嫌なの?」
「嫌って言うか......うぅん、いや、あの――――普段は、お兄ちゃんみたいに頼りになるのに、私生活だけ本当にだらしなくて......手のかかる歳の離れた弟みたいになるのが可愛くて......えへへ、僕はバンショーのお世話するの、好き、だよ」
一夏が本当によろしくない方向に駄々っ子と化してしまい、俺から離れる事無くここ2週間程我慢してきた欲望をこれでもかと告げる。その度に俺の目が死んでいくのはもう語るまでもない。シャルルから兄だの弟だの言われて俺は非常に困惑しながら、俺自身が自立出来る事を忘れて話を進める二人に至極全うな提案をすることにした。
「俺のお世話をどっちがするとか止めないか?俺一人で出来るんだけど」
「「それはダメ!」」
「は?」
一番の解決策が秒速で否定され、理不尽な回答に困惑を隠せなかった。俺は一体どうやって一人立ちすればいいのだろう。ユニコーンは何も答えてはくれなかった。
結局。
「バンショー、ちゃんと櫛で髪の毛を梳こうね。ドライヤーも掛けてあげる」
「......」
「大人しくしてて良い子だねぇ。後でいっぱい撫でてあげるね」
翌日。
「おはよーバンショー!洗濯物洗いに来たよ!ほら、ベッドのシーツも外して取り替えてあげる!」
「......」
「朝ご飯はこっちで食べる?それとも食堂?」
「......食堂」
俺は私生活を過保護な二人に1日毎に一夏とシャルルが交代する形で管理され、シャルルとの会話も今ではほとんどが俺の私生活を甘やかす甘言ばかりになった。一夏は目に見えて活力を取り戻していき、それを喜んでいいのか悲しめばいいのか分からない複雑な心境でお世話され続ける身となった。まぁ実際、恥という感情を捨てれば何もかもやってくれるのだから本当に助かっている。
俺の自立は、まだまだ遠い先の話になりそうだ。
ダメ人間万掌が誕生させられました。
これはネタ要素に振り切っているのであまり深い事は考えなくても次回からは普通にシリアスしてたりするので問題ないです。
ただ本当にシリアス続きが苦手なだけなんです。