Ideal・Struggle~可能性を信じて~ 作:アルバハソロ出来ないマン
前例あるからね、しかたないね
誤字脱字多いね......
「シャルル、先に着替え終わったから待ってるぞ」
「あ、うん!じゃあもう少し待っててね。バンショー、待てる?」
「そこまでガキじゃない」
「冗談だってば。――――よし、お待たせ!一緒に帰ろっ!手も繋いでおくかい?」
「......ああそうだな、シャルルが迷子にならないように、手でも繋いでやるか!」
「えひゃぁ!?ば、バンショー......流石に、これは恥ずかしいよ......」
「――お前から手を繋いでくれってせがんで来たんだろ?この欲しがりさんめ」
「そ、そうじゃなくてぇ......ていうか、近い、近いよバンショー......!」
「男子の悪戯じゃよくある距離感だ。それに誰かに見られるわけでも――――」
「堺くん、デュノアくん、居ます――――あっ」
「あっ」
「あっ」
シャルルに先に着替えが終わった旨を告げ、更衣室の出入り口付近で待ちつつ声を大きくして話すシャルルと冗談を言い合っていると、同じように着替えを終わらせたシャルルが俺の下に駆け足で寄ってきて、手でも繋いで帰るかと言われた。俺はシャルルが迷子にならない様に悪戯心9割親切心1割から来る衝動でシャルルの手を一夏直伝の恋人繋ぎで握ってやると、シャルルが手を放そうとするので出入り口真横の壁にシャルルを追いこんで壁ドンをしつつシャルルが逃げられない様になるべく近付くと、シャルルは面白い程に狼狽えた。最近手玉に取られてばかりで疲弊していた俺はシャルルのその態度が面白く、ニヒルに笑いながらどうせ誰も来ないんだぜみたいな、いかにもチンピラが言いそうな事を発言し終わる前に真横のスライドドアが開き、山田先生が俺たちを探して左を見て、右を見て硬直した。そして俺たちも、この異質な近距離、握り合った手、紅潮するシャルルの頬、その全てが勘違いされる要因になり得ることを理解して固まった。
「ええと、その――――お邪魔でしたか?」
「違うんですよ山田先生これはシャルルが躓いてですねそれで俺の手を掴んで一緒に倒れてくるもんだからとりあえず壁に背を預けさせて体勢を立て直そうかって所だったんですなぁシャルル!」
「うんそうだよバンショーそうなんですよ山田先生僕ったらなんでかなんでもない所で躓いて転びかけて咄嗟にバンショーの手があったからとったらこんなことになっちゃって急いでお互いしっかり立たなきゃって時に山田先生が来ただけなんですよ山田先生!」
「え、えぇ......そ、そうですか」
山田先生が頬を赤らめて勘違いしているので、それを是正する為に一息でシャルルと誤解を解く為の言動をノータイムで刷り込む。余りにも早口かつ一息で言われた怒涛の情報量に山田先生は困惑し、呑み込んでくれた。シャルルと拳の側面を軽くぶつけあい、誤解が解けたことを祝福しあう。
「で、一体何の用事だったんですか山田先生」
「あ、そ、そうでしたね。ええとですね、今月の下旬からになるんですが、男子も大浴場を利用できます。時間帯別にすると潜り込みそうな生徒さんが居そうなので日にち制にしました。男子は週に2回、大浴場を使えますからね」
「大浴場!やったなシャルル!」
「......」
「シャルル?」
「――え、ああ!うん、フ、フランスってそういう大きい浴場とかないから、どんな物なのかなぁって」
素知らぬ顔で山田先生が俺たちの下へやってきたワケを訊くと、山田先生は今月の下旬から週に2回大浴場を男子が使える日に変更した旨を伝えてきた。大浴場、前々から入りたいと思っては我慢し続けてきたデカい風呂。ようやくあの小さなバスタブとシャワーだけの日々にさよならが言える日が来るのだ。その嬉しさにシャルルもある程度思う所はあるだろうと思い、喜びを分かち合いたく振り向けば、シャルルは徐々に顔を青ざめさせていく。声を掛けると大きく肩を跳ねさせ、フランスには大衆浴場がないと言いどんな物か想像をしていたという。顔を青くするほど可笑しな物はないと思いたい。
「そんなの入れば分かるさ。あ、でも色々とルールっていうかマナーがあるから、それは入る時に説明してやるよ」
「いいい、一緒に入るの!?」
「あーそこからか。そう、温泉とか大浴場っていうのは大勢の人と一緒に入り、一つの湯船を皆で共有するんだ。昔は混浴っていって、男女が同じ湯船を使ってもいたが、今はプライバシーや時勢、性教育の観点からほとんどが男女別になってる。だから女子は居ないよ」
「――――」
「シャルル?顔真っ青だけど大丈夫か?」
「ぼ、僕......」
「汗でも冷えてきたか。悪い事は言わないから、先に帰ってシャワー浴びてていいぞ」
「う、うん。そうさせて、もらうね......」
一緒に入りマナーなどを教えてやると話すと、シャルルはなぜか自分の身を守る様に両手で抱きしめて数歩下がった。俺に男色の気はないのでそんなに引かれても取って食ったりはしないし、したくもない。なので普通に大浴場の習わしというか、当然の事を説明すると更に顔を青くして影が射していくシャルルに俺は眉を寄せて話を切り上げ、風邪を引いてはいけないから先にシャワーを使っていいぞ、と告げるとシャルルは普段の元気な様子を一切見せないまま頷いた。無茶をさせ過ぎたのかもしれない。シャルルはまだ転入して1ヶ月も経っていないのだ、馴染むと考えるには早過ぎたか。
「あ、堺くんは少し職員室に来てください」
「え、俺何かしました?」
「いえ問題行為では無くてですね、堺くんのユニコーンを正式登録する書類とかに署名の方をして貰いたいんです」
「あ、前言ってた奴ですね。分かりました。という事でシャルル、俺はここで。先に帰っていてくれていいぞ。身体は温めておけよ」
「うん。分かった......ありがとね、バンショー」
シャルルに肩を貸そうと近寄った所で山田先生に止められ、職員室に同行を求められた。俺は問題を起こした覚えがないので見当が付かず山田先生に聞くと、どうやら注意などではなくユニコーンに関する登録書類の署名などをして欲しいという事だった。こればかりは仕方がないと思いシャルルには悪いが体調が優れない中、一人で帰ってもらうことにした。職員室で千冬さんと会った時にまた何かやらかしたのかと訊かれたのでユニコーンの正式登録をしに来ましたと告げると知っていると返された。揶揄われたことに眉を寄せていると、千冬さんが笑いながら肩を叩いてきた。ぐぬぬ。
「これで、俺が正式な登録者か。これからもよろしくな、ユニコーン」
事務的な意味合いしか持たないと言っていた書類に何枚も何枚も記名し、署名をして20分ばかり時間を取られたところでようやく書類が無くなり無事に解放された俺は寮の廊下を歩きながら1025室、自室の扉を開けながら手にしたユニコーンのブローチに声を掛けて、首から提げる。
「シャルル、戻った――って、シャワー中か」
シャルルに帰室の旨を告げるがシャワールームから聞こえる水音でシャルルが先にシャワーを浴びている事に気付いた。そこで、そう言えばボディーソープが切れていた事をふと思い出し、クローゼットにあるボディーソープを取り出して洗面所と脱衣所が一体になった一室へ足を踏み入れると、シャワールームの扉がガラリと開く。シャルルも気付いて取りにきた、という所だろうか。
「――――え、あ、え...ば、ばん、しょー......?」
「ああ、シャルル。丁度よか――――」
ドアを開けたシャルルが困惑した様子で声を掛けてきたので、振り返りながらボディーソープを渡そうと顔を上げ、俺は固まった。そこには、女子が居た。濡れた金の髪は僅かにウェーブがかっており、柔らかさとしなやかさを両立した美しい髪だった。すらりとした身体は細く、足は長い。腰は見事なくびれを作り、胸を大きく強調している様に見せていた。
「―――きゃ――」
「...まさか、シャルルか?」
「え、え、え?」
顔をどんどんと朱に染め耳まで赤くしていく女性の瞳の色はアメジストを思わせる綺麗な色で、その瞳が緩んでいくのを見て思わず肩を掴んで問いかけた。――お前はシャルルか、と。
「――――誰にやられた!どれくらい時間が経った!?」
「ちょ、ちょっとバンショー?」
「クソッ!廊下では誰もすれ違わなかったぞ!窓から逃げたか!?」
「バンショー!?何言ってるの!?」
「お前こそ突然、そんな風になっちまって混乱してるだろ!これ着てろ!俺は千冬さんに報告に――」
「わー!待って待って!多分すごい誤解してるよ!落ち着いて話し合おう!」
「大事な友達がこんな風にさせられて落ち着いていられるかよ!」
「分かった!僕の不安を取り除きたいから一緒に居て!」
「―――――っ......!すまん、そうだよな......シャルルが一番、混乱してる、よな......」
大切な友人が犠牲になるのは、これで二人目だった。シャルルはデュノア社の御曹司だから、何か弱みのような物を握ろうとし一夏を襲った『男を女体化させる頭のおかしい組織』が再び関与したのかと思い誰にどんな風に襲われたのか問い詰めるが、シャルルは混乱しているせいか俺の名前を上擦り気味に呼ぶばかりで応えてはくれない。どうやって逃げたのかも分からずシャルルに制服の上着を羽織らせ、その間に犯人の逃走経路を確認し窓を開けようとするがロックが掛かっており外に逃げた形跡も無かった。相当な手練れだと歯噛みしてしまう。
なんてことだ......どうして、俺が居ない時に限って、こうなんだ...!
俺は、誰も守れないのか......!
とりあえず千冬さんにシャルルが被害に遭った事を報告しに行く為に部屋を飛び出そうとしたところでシャルルが制服に袖を通さず羽織ったまま飛び掛かってきた事で部屋から出ることは叶わず、ベッドに押し倒された。落ち着いて話し合おうと言われたが、これで一夏に続いて2人目なのだ。落ち着いていられるわけは無かった。が、シャルルが一番混乱していて、今一番落ち着きたいのはシャルルだと本人に言われたことで一気に頭が冷えた。
「はぁ!?元から女ぁ!?」
「うん......」
風呂から上がり、いつも通りの湯上りジャージ姿だったシャルルだが、普段の面影はなく、手にはコルセットを握り、ブロンドの髪を結ぶ事無く降ろしたまま俺の座るベッドの隣に腰を掛けている女性がシャルルの本来の姿だとは思えなかった。しかし、間違いなく声はシャルルの物で、静かに小さく語りだすシャルルの事実確認と俺の誤解を解く事から始まったそれを俺は黙って聞いていたが、どうやら俺はシャルルが女体化させられたと思い込んでいただけで実際はシャルルは最初から女性だったようだ。だから千冬さんに報告に行くと言った時にあれほど慌てて止めたらしい。
「――――そう、か。誰も、お前を傷つけなかったんだな」
「――――うん」
「......良かった」
「――何が?」
「......怖かったんだ。また、俺が居ない所で、俺の大事な友達が......犠牲になるなんて......そんなことになったら、俺は......自分を許せなくなる......ところだった。でも、シャルルはそうじゃなくて、最初からそうで......ああくそっ、言葉が纏まらない......!」
「......こんな時でも、バンショーは誰かの心配なんだね......じゃあ、バンショーがもっと安心できるように、僕の話をしないと、だね」
シャルルは最初から女で、誰もシャルルを襲ったりはしていなかった。その事実確認が出来て、俺は一先ず安心した。良かった、と口から出た言葉がシャルルに拾われ、声にしなかった恐怖をシャルルに告げる。俺の居ないところで友人が犠牲になるのが嫌だった。そう伝えたところ、シャルルは柔らかな慈愛の瞳を以て穏やかな口調で俺の為に自分の身の上話をしなければいけないと伝えてくる。
「――――頼めるか?」
「うん。まず、なんで男装をしていたかというとね、実家からの指示だったんだ」
「――実家からの、指示?シャルルの実家って、デュノア社の......」
「そう。僕の父がそのデュノア社の社長で、男装は社長からの直接命令」
「......――実の親が、子供に......?」
デュノア社が関係していると言われ、それを疑問に思って声を出す。するとシャルルは実の父親からの命令で男装をしていたと言い出し、俺は更に困惑した。そして、何よりもその優しい瞳をどんどんと曇らせていくシャルルを見ていて、俺は今とても辛い話をさせてしまったのだと理解した。
「僕はね、バンショー。愛人の子供なんだよ」
「――――」
絶句。まさしく、言葉が出なかった。愛人を知らないわけでもないし、愛人の子というものもどういう扱われ方をするのかも知っていた。だからこそ、絶句してしまった。
「引き取られたのが2年前でね。ちょうどお母さんが亡くなった時だったよ。父の部下がやってきて、色々検査をしているうちにISの適正が高い事が分かって......非公式だったけれど、デュノア社のテストパイロットをやることになったんだ。父にあったのは二回くらい。会話は数回したか、しなかった程度。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『この泥棒猫の娘が!』って。参っちゃうよね、お母さんも最初に教えていてくれたら、あんなに戸惑わなくても済んだのに」
儚げに笑うシャルルの感情が、共感覚を通じて俺に流れ込んでくる。慟哭、吐き出したい嘆きの衝動。不安、絶望、消滅する未来、慟哭、焦り、嘆き、嘆き、叫び、使命―――――悲鳴。
感情の奔流の全てを押し殺して、シャルルはこの場に居る。乾いた笑いに、泣き叫びたい衝動の全てを捨て、愛想笑いで済ませようとするシャルルの頬に静かに触れた。双眸から溢れ、零れ落ちるこの涙はシャルルが流すべき涙だった。しかし、シャルルが泣かない程に強く耐えているというのに俺はそれを留めることはできなかった。触れた頬からは殴られたその痛みを理解した。それに耐えられなくなった俺は、なるべく優しく、痛まない様にシャルルの体を抱きしめた。
「――――バンショー?何、してる、の......?ダメ...ダメだよ、まだ、私の話が、途中だから......ね?」
「いいんだ......」
「――――だめ。泣かないって、決めたから」
「いいんだよ、泣いて。シャルルは、生きてるんだから......泣いて、いいんだよ......」
「――――――......だめ............じゃあ、少しだけ、胸、借りるね.........――――――っ、ぅ......ぁ......ひっ...、............おかあ、さん......っ...............ぁあああ......」
この痛みを、心の摩耗を。実の親に突き放された嘆きを。本来手にするはずの愛情を。シャルルは心を摩耗させて育っていった。与えられるべき愛情を注がれずに育った。母から受けた愛は大きく、しかしそれ以上に絶望と孤独が母無き後のシャルルの心を枯れさせた。今の俺から溢れる涙はシャルルの嘆きだ。シャルルがこれほどの悲哀の奔流に耐えて良い訳がない。だから、泣いていいと言った。これ以上耐えようものなら、きっとシャルルは心を壊してしまう。だから、その前に泣いてほしかった。人であるのなら、人でありたいと言うのなら泣いてほしかった。シャルルは、俺のシャツに顔を埋め、声を殺して静かに泣いた。誰にも見られない様に、深く、深く。その顔を胸に埋め、泣きだした。
「――――もう、いいよ。ありがとうね、バンショー」
「......そう、か。なら、もう少しこのままで居るよ」
「――私がまだ泣きたがってるって、解っちゃうんだね。バンショーは」
「俺は、人の感情が何となく視えるから」
「そっか......だから、人誑しなんだね」
胸の中にシャルルを抱きしめたまま、まだ泣きたいと訴えるシャルルはその心を隠して気丈にも俺から離れようとするが、俺はそれを引き留めた。するとシャルルは俺が心を読める事に何となく察した様で離れる事を諦め、そのアメジストの瞳から大粒の涙を幾度も流しながら会話を繋げていく。俺が人誑しであるというシャルルは、俺がなぜ人誑しなのかを理解した様子だった。
「話を戻すけど......それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ってね。世界第3位のシェア数を誇っていても、所詮は第2世代機。欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されたフランスは、なんとかして第3世代機の開発を急ぐ必要があったの。第2世代機が最後発だったこともあって第3世代機の開発は国防に関わる急務なの。それに、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるんだよ」
イグニッション・プランという言葉に、セシリアがお茶の席で言っていた話を思い出した。たしか、セシリアのISもそのイグニッション・プランの主力機候補の1機であり、イギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡ型がトライアル段階に移行していたと言っていた筈だ。実用化ではイギリスがリードしている様だったが、稼働データが圧倒的に不足していると珍しく愚痴を零していたのが記憶に新しかった。ボーデヴィッヒも恐らく、このイグニッション・プランに携わっての転入なのだろう。
「それで、デュノア社でも第3世代機の開発をしていたんだけど、ラファールが遅れに遅れての最後発機体で、データも時間も、何もかもが不足していたことから形にならなかったんだ。そして政府からの通達で予算が大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を停止、IS開発許可の剥奪までするっていう話の流れになったんだ」
「なるほど......だから男装をして、第3.8世代ISを装着している俺に接触しやすくし、そこからユニコーンのデータを盗んでこいと言われたワケか」
「......うん。元々フランスも資金を出したからと言っても、バンショーの機体を開発した次世代IS運用総合統括研究所はどの国にも従い、どの国にも属さないIS開発をしているから、研究所が要請した事を国は素直に受け入れ、国に言われた事は研究所がとりあえずやるっていうスタンスなんだ。だけどフランスは一切ユニコーンに携われなかったから、発言権がそもそも存在しなかった。バンショーの武装に、フランス産の物は一切無かったでしょ?」
「確かにな。カタログを見せてもらったが、イマイチ欲しいとは思えなかった」
フランスがそこまで追い詰められているとは知らず、それに巻き込まれ利用されたシャルルを哀れに思い頭を撫でてやると、シャルルはまた小さく目尻から涙を流して言葉を続け、男装をして近付いた事を切り出すと怒りを滲ませながら話し出し、フランスがユニコーンに携われなかった旨を聞いて、そういえばと思い返す。たしかに、ユニコーンの装備にフランス産の物もドイツ産の物も、イタリア産の物も無く。今の所はイギリスとアメリカ、ロシアだけであり、最新技術の提供に関してはロシア、イギリスの二国のみであった。こうしてみると、欧州情勢の厳しさを窺い知る事が出来た。
「ユニコーンのデータを盗んでこいって言われた僕だったけど......こんなに優しいバンショーから、そんな事、出来る訳もなくて――――僕は、僕はね、ずっと......やれる機会はあったのに、やれなかったんだ......使命よりも、友達だって言ってくれたバンショーのことを、優先したんだ......バンショーが、大事な友達だって言ってくれたから......僕は、友達を裏切りたくなかったんだ」
「シャルル......お前も、十分に優しいよ。だが、お前はこれからどうなるんだ」
「――そうだね。ばれちゃったから......本国に送り返されるだろうね。デュノア社は潰れるか、別の企業の傘下に入るか......どのみち今までの様にはいかないよ。僕にはもう、関係のない話だけどさ。――――――ああ、話したらスッキリできたかな。ごめんね、バンショー。こんなにシャツ濡らしちゃって。それと、今まで騙していて本当にごめんなさい」
「お前は、それでいいのか?」
「......しょうが、ないよ」
「これからのお前はどうなる?」
「どう......って。フランス政府もこれを知ったら黙ってはいられないだろうし、代表候補生を降ろされて、運が良くて牢屋行きかな......」
「それしかないのか?」
「仕方がないよ。僕はそうされて当然のことをしているんだから」
シャルルは諦めた様に、底を見て、理解して、足掻くのを止めた。自分の行き着く最果ての絶望を受け入れて笑った。
だが、俺は諦めない。
「可能性を信じろ、シャルル」
「――――え?」
「それでも、と言い続けるんだ。たとえどんなに深い絶望に突き落とされようと、足掻くことを諦めてはいけない。どんなに苦しい事に直面しようと、信じる事を止めてしまってはダメなんだ」
「......でも......僕は......」
「――知ってるか、シャルル。俺たちはもう高校生で、自分の心に従っていいらしい」
「......え...――どういう事?」
「知っているかシャルル。俺たちはまだガキで、大人に守られていればいいらしい」
「......それって、矛盾してない?」
「シャルル。俺たちにはな、俺たちを支えてくれる格好いい大人が大勢居るって事を知らないだろ、シャルル。本当の大人っていうのはな――――子供のやりたいことを、全力で応援してくれる人の事をいうらしい」
「――――そう、だね。僕の周りには......そんな人たち、居なかったよ」
「......いいや、居るさ。どこでもない、このIS学園にはそういう格好いい大人が居るんだ」
「......バンショーは、僕のことをどうするつもりなの?」
「俺一人じゃ、守ってやれないから......大人を頼る」
「わっ、ちょ、ちょっとバンショー!?」
可能性を信じ続ける俺は、諦めるシャルルに語り掛ける。人の持つ可能性は無限大だ。だから、何もせず俺にばれた程度で諦めてはいけない。それに、俺はまだシャルルがどうしたいか聞いていない。でもきっと、今のシャルルは諦めているから答えてくれない。だから、だから。
俺一人じゃ、シャルルの心は救えない。だから――――大人を巻き込むことにする。俺はシャルルを抱えて就寝時間ギリギリになった部屋を飛び出した。
生徒指導室。
「――――お願いします、千冬さん。俺の友達を、助けてほしいんです。お願いします......!シャルルを、助けてください!」
「――ふむ......まぁ、デュノアが女だというのは知っていた」
「あ、知ってたんですね......」
「当然だろう。IS学園を何だと思っている。事前の生徒の素性調査くらいはしている。むしろ何時言いだすのかと待っていた所だ。最後まで騙し通せたのなら卒業式で笑って話してやろうかと思ってもいたが......」
「......お願いします、千冬さん。俺だけじゃ、国を相手に出来ない。シャルルの本音を、訊き出せない。助けて、ください」
「そうだな......まず、万掌」
「――はい」
「よく言った。そしてよく行動に移した。自らの心に従い、頼るべき者を頼る。一月前のお前では出来なかったことだろう。次に、デュノア」
「――――!」
防音性の高いこの部屋に、シャルルと巡回をしようとしていた千冬さんを連れ込み、頭を下げてお願いした。俺一人では無理だから。一番頼れる大人を頼らせてもらった。すると千冬さんはシャルルが男装していることを把握していた様で、何時言い出すのか待っていたと言う。その上で最後まで騙し通せたのなら卒業式に最初から全部知っていたぞ、と言う所まで考えていたらしい。唖然とするシャルルを横目に再び額を地面に押し付けてお願いをした。俺一人じゃ出来ないから、助けてほしいと絞り出した声でお願いした。それを聞いた千冬さんは俺の名前を呼び、頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、よく言った、と言ってくれた。それだけで、千冬さんが真摯にこの話に取り組んでくれる事を理解して、更に深く頭を地面に押し付けた。
「は、はい」
「お前は、どう在りたい」
「――――どう、とは」
「今のお前の未来は、お前次第で決まる。可能性に揺れ動くもしもの未来か、お前が諦め、絶望の底で息絶えるか。そのどちらかを選べるなら、どちらを手にしたい?」
「......僕に、選ぶ権利なんて......」
「いいや、有る。『特記事項第二一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』......少なくとも、あと2年と半年の猶予はある。その間、お前は諦め続けたまま絶望に身を委ねるのか?それとも――――大人たちを信じて、可能性の指し示す不確かな未来に希望を託すか?」
「―――――」
「お前が選べ。デュノア。未来はお前の掌の中にある」
千冬さんは、凛とした表情でシャルルに問いかけた。シャルルの両手を交互に指して絶望か、希望か、と訊いている。
「――――僕、僕...は......」
「シャルル。これはシャルルが決める事だ。それは、俺には出来ないよ」
「デュノア。これは、お前が選ぶべき物だ。誰かに正しい選択を委ねれば、それはお前の正しさでは無くなる。お前の思う正しさは、お前の
シャルルは、自分で決められる運命に動揺して、俺を見た。『俺に決めてほしい』、そう言っている様に見えたシャルルに、激を飛ばす。俺は飽くまで可能性を示しただけで、選ぶべきはシャルル自身だと教える。千冬さんも、いつか俺に話した正しい選択というものを教えながら、シャルルの心を指で軽く突き、其処に答えがあると言った。
「............居たい、です。ずっと、ずっと......バンショーと、皆と......ずっと......―――――織斑先生......私はIS学園に、残りたいです。――私を、助けてください!お願いします!」
「――――よし!よく言った!私は今から関係各員を呼び出し、早急に対策に乗り出す。まだ通達の一切が出来ていない以上、デュノアを女だと明かすと余計な混乱を引き起こしかねん。デュノアは学園側から追って通達が下るまでは男装を続けろ。残り2年の間にお前の要望の全てを訊いて、叶えてやる。子供が涙を流して頭まで下げて頼み込んでいるのだ。大人を信じろ。その涙を無碍にはしない。我々に出来る事の全てをしてやる」
シャルルの心の底から湧き上がった可能性を信じ、助けを望む声に千冬さんは即座に答えた。夜も更けてきたと言うのに今から対策を立ててくれると言った。子供が信じる大人で在りたいが為に、千冬さんは俺たちが伸ばした手を掴んでくれた。こんなに、こんな格好いい大人になりたいと思わせてくれる人がこのIS学園には居る。自分の無力さを嘆くだけじゃなく、誰かを頼ることで解決する可能性もある。千冬さんに教えられた言葉は、千冬さんが実行してくれた。どんなに頭を下げても、どんなにお礼を言っても足りないだろうが、俺とシャルルは二人して深く頭を下げ続けた。
「今日はもう就寝時間だ。静かにするのなら走ってもいい。それと、明日遅刻などしたら許さんからな」
「――はい。シャルル、行こう!」
「――――うん!」
千冬さんから走って寮まで戻っていいと許可を頂き、シャルルに手を伸ばすとシャルルはそれを掴み、立ち上がる。失礼しましたと言いながら飛び出す様に職員室を抜けて、小さく走りながら自室を目指す。
「――――バンショー!」
小声で話しかけてくるシャルルの声に、此方も小さく小声で返す。
「なんだ!」
「私ね、バンショーを、織斑先生を信じてよかった!ありがとうね!」
「――ああ!」
「それから、私の名前!シャルロットって言うの!改めて、よろしくね!」
「......シャルロット、可能性を信じるって難しいけどさ!――それでも、俺は信じ続けたいんだ!」
「――うん!私も、これからはずっとバンショーの事を信じるね!」
強く握り合った手で互いの熱を伝えあいながら、心の底から笑うシャルロットの本当の笑顔を見た。
月明りが差し込む寮の窓に照らされるその顔は、まるで華が咲いた様に朗らかで。
シャルが可能性堕ちしました(台無し)
ちょっとシャルちゃんチョロすぎない?と思うかもしれませんけどオリ主はギャルゲーでいう好感度最大値獲得選択肢をオート選択です。チョロくならないわけがないです。
選択肢がない場合は無理矢理生やすので(千冬さんに相談するとか)防げないです。
オリ主は直接心を絆しに来るので多分ISに乗ってなくても一番危険な人だと思います。怖くないですか?話しかけてくる言葉の全てが自分の心を満たすのって。自分はすごく怖いと思います。でも他人を理解するニュータイプならそうだと思うんです。そういう読心術にも似たそれを当然の様に使い、互いを理解し合おうと考えるのがニュータイプだと思うんです。
・小話
オリ主がユニコーンの正式登録をしに行った時に、千冬さんは「デュノアの正体を知ったオリ主が相談に来た」と思ってます。
でも実際にはユニコーンの正式登録の話だったので面食らって笑っているって感じです。