Ideal・Struggle~可能性を信じて~   作:アルバハソロ出来ないマン

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古戦場からの四象降臨は聞いてたけどちょっと聞いてないです(満身創痍)





日常生活に支障降臨...なんちゃって。あ、はいすいません黙ります。







第28話

六月最終週。

 

IS学園は月曜日からトーナメント一色へと変わる。その慌ただしさは前もって通達こそされていたが、それは予想よりも慌ただしく学園中が小走りで急ぐ教職員や生徒たちで溢れ返っていた。

この喧噪はこうして迎える第一回戦が始まる直前まで続き、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていたのだ。

 

それら雑務や誘導が終わった生徒たちは急ぎ足で更衣室へと急ぎ、ISスーツを装着し、トーナメントの準備を整える。男子である俺と、未だ男子であるという扱いをされているシャルロットの両名は、広大な更衣室を贅沢に、いやモラルの観点から出入り口と最奥の列、端と端で互いの姿が見えない状態で着替えを終えて合流する。

 

更衣室に配備されたモニターからは観客席の様子が映し出されており、観客席には各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会しているのが見受けられる。その会場の一席に、桜井主任の姿があることも確認できた。

 

「すごい数だな」

 

「3年生はスカウト、2年生は一年間の成果の確認。1年生は期待の新人探しをする為にそれぞれ人が集まっている様だよ。上位入賞者には早速チェックが入るんじゃないかな」

 

「気が抜けないな」

 

ぽつりと漏らすように呟いた言葉を近寄ってきたシャルロットに拾われ、各学年ごとに見られている物は違えど視線は存在するという忠告のような物を受け、肩を竦めながら愚痴を零すとシャルロットは小さく笑った。

 

「バンショーは、ボーデヴィッヒさんをどうしたいの?」

 

「――話し合いの席に座らせる」

 

「じゃあ、最初から全力でやるんだね」

 

「......まぁ、な」

 

シャルロットにボーデヴィッヒの扱いをどうするかと聞かれ、ボーデヴィッヒを打ち負かして会話の席に着かせることにした旨を告げる。その意味を理解したのか、シャルロットは真剣な顔をして、戦うのか、と問い掛けてきた。俺はそれに掌を握ったり広げたりしながら眉を少し寄せて煮え切らない回答を示した。

 

「バンショー、迷っちゃダメだよ」

 

「迷わないさ。既に退ける状況じゃないんだ。奴が誰と組もうとその時は墜とす」

 

「感情的にならないようにね」

 

「それも解ってる」

 

シャルロットとは敵になるかもしれない可能性を考慮して模擬戦などを極力避けながらも、同室であるが故に仲睦まじく友好を深めていたつもりではある。しかしこう何かに付けて俺の身の周りの事をあれやこれやと言う癖は治らず、今でもこうして敵として回る可能性がほぼ確定しているのにも関わらず俺の心配ばかりをする。

 

「さて、こっちの準備は終わったよ」

 

「俺もだ」

 

シャルロットはISスーツの確認をし、俺はユニコーンを装着する最終段階のチェックリストにレ点を打ち終わった所だった。

 

「――そろそろ、対戦表が決まるはずだよ」

 

どういう理由でかは不明だが、タッグマッチへと移行してから従来まで使っていた抽選システムが不具合を起こし正しく機能しなくなり、本来なら前日に出来上がっているはずの対戦表も、仕方なしに手作りのクジ抽選に変更され、今朝から未だに続くそれによって、引かれたカードによりその場で決められたチームとの試合が行われる方針が取られていた。

 

未だに決まらぬ対戦表に落ち着かない心を無理矢理沈め、緊張して床を踵で鳴らす貧乏揺すりが止まらぬ右足の膝を軽く叩きながら深く息を吐いた。

 

「あ、出た......って、――え?」

 

「――やっぱり、か」

 

観客席を定点カメラが映し出す映像が止まり、対戦表が大きく表示される。それをシャルロットは声で報せ、すぐに固まった。その原因がなんとなく分かるのでゆっくりと首を上げてモニターを眺めると、モニターには次のように書かれていた。

 

―― 1年Aブロック 第一回戦 一組目  堺万掌:織斑一夏ペア 対 ラウラ・ボーデヴィッヒ:シャルル・デュノアペア ――

 

と。

 

「......本当に、フラグ回収しちゃったね」

 

「何、男のままのお前と俺がペアを組まなかった時点で男対男になることは何となく予想が付いてたし、第一回戦一組目なら必ず目玉をぶつけようとするはずだ。だったら、この構図になるのも必然だ」

 

「うーん......確かに、そうかも。じゃあ、互いに敵同士だけど全力で戦おうね。よろしく」

 

「こちらこそ。背中には気を付けろよ。味方が味方とは限らない」

 

「あははは......さすがにフレンドリーファイアは嫌かなぁ」

 

シャルロットは少し頭を働かせて悩んだ後、言われてみればそうだと納得した様子を見せた。そしてそのままモニターから俺に向き直り、握手を求めてきたので握手をしつつボーデヴィッヒに撃たれるかもな、と揶揄うとシャルロットは頬を軽く掻きながら苦い笑いを浮かべて否定し切れないその可能性に顔を青くしていた。

 

「じゃあ――全力で」

 

「うん。全力で」

 

互いに不敵な笑みを浮かべ、握り拳を作った手の底を軽くぶつけ合い、更衣室を後にする。薄暗い廊下を抜け、搬入口を通らずそのまま通過して操縦者通路を歩き――ピットへ到着する。

 

「では、デュノアくん、堺くん、同時に発進を開始しますのでISの装着をお願いします」

 

「はい。――装着完了しました」

 

「了解。行くぞ、ユニコーン」

 

担当教師のアナウンスの下、シャルロットと俺は互いにISを装着し、準備完了を告げる為にサムズアップを送る。

 

「IS装着確認。異常なし。カタパルトレールへ移動をお願いします」

 

機体を浮かせたまま誘導に従いカタパルトレール内へ移動すると、ISのハイパーセンサーが同期して近未来的なインターフェースが表示され、発進時のガイドラインが出現する。

 

それを目視で消すと同時に前傾姿勢を取りながら左腕にアームド・アーマーDEを展開し、両肩にマウントされた3連装ミサイル・ランチャーの安全装置が作動していることを確認した。ロック確認、安全装置は作動している。

 

「カタパルトレール内到着を確認。両名の準備よし。ゲート解放開始。ゲート解放確認、ゲート解放正常に作動。3カウント開始」

 

天井部に取り付けられた3基一組の信号灯が一斉に点灯を開始する。

 

 

 

3、ISスタンバイOK、予想進路に障害物なし。カタパルトレール内に退避遅延者確認できず。

 

2、ゲート解放完了、誘導灯点灯開始。カタパルトレール内隔離完了。

 

1、最終確認開始......システムオールグリーン、発進シークエンスの最終項目の譲渡...譲渡を確認。

 

 

 

信号灯が、待機を告げる赤から、青へと切り替わった。

 

 

 

 

「シャルル・デュノア、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――行きます!」 

 

「堺万掌、IS『ユニコーン』 出る!」

 

一足先に飛び出したシャルロットに続き、視界の彼方に見える光へ目掛けてバックパックのスラスターを全力で吹かし、カタパルトレール内に巻き起こる旋風に背中を押される感触を確かめながら空気を引き裂いてアリーナ内へ俺は飛び出した。

 

 

 

 

既にアリーナ中央部に構えている一夏とボーデヴィッヒは俺たちを待っていた様で、シャルロットと衝突しない様に距離を調節しながら慣性を徐々に殺しながら推力比を加増減させて中央部へ到着する。正面に立つ一夏が小さく微笑むのを見て、全身装甲に覆われた仮面の奥で俺も小さく笑った。そうして合流を終えると、お互い隣に立つ人物へと向き合った。

一夏とボーデヴィッヒが、俺とシャルロットがそれぞれ対面する。

 

そのまま両チームは中央からやや離れ、互いに距離を取ってトーナメントの規定に従った位置にポジションを落ち着かせた。

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

「――私も、同じ気持ちだったよ」

 

ボーデヴィッヒと一夏が互いの意思を垣間に覗かせながら、俺とシャルロットは何も言わずにそのやり取りを眺めながら、闘志を滲ませていた。試合開始を告げる5カウントが時を刻む。

 

5...

 

4...

 

3...

 

こうも5秒という時間が長く感じるのは、ISに乗っているからだろうか。まるで時間の流れさえ知覚できてしまうのではないかと思える程のハイパーセンサーのそれに呑まれそうになりながら、緊張からか喉が縮まり呼吸が掠れる錯覚に陥る。

 

2...

 

1...短く息を吐き出して、思い切り吸いこんだ。

 

 

試合、開始。

 

 

 

 

「ぶちのめす」

 

「行くよ、万掌!」

 

開始を告げるブザーが鳴り響くと同時にボーデヴィッヒの大型砲に《WEAPON》レッドのマーカーが激しく拡張と収縮を繰り返し警告を発する。それを見た一夏が瞬時加速でボーデヴィッヒへ突っ込んでいき、俺はそれを援護する為に頭部マシンガンをオンラインに切り替え、マニュアルで3点バースト射撃を何度か行う。改良された新型の頭部マシンガンは弾丸自体が非常に重量のある専用弾へ変更された為に、連射してしまうと発砲煙によって自身の視界不良を招きかねない。高速戦闘時以外では細かく撃ち分けて発砲煙が視界を覆うのを防ぐ必要があるが故の3点バースト射撃だった。

 

「させないよ!」

 

「――!」

 

ボーデヴィッヒがたかが頭部マシンガンと侮り、数発食らった所で装甲の一部が破損した事を受け顔色を変える。下がれると厄介なので後方へ逃れる道を弾丸で潰して嫌が応でも前方へ退避させることで一夏と衝突させる時間を縮めた。が、そこでシャルロットがボーデヴィッヒとは逆サイドから二丁のライフルをフルオートでばら撒きながら距離を詰めてくるので、頭部マシンガンでボーデヴィッヒの後退路をなるべく塞ぐように撃ちつつ空の右手にハイパー・バズーカを呼び出す。ジグザグ回避に上昇・下降を交えた乱雑機動を描いてライフルの吐き出す炸裂弾の雨から後退しつつ、アームド・アーマーDEを展開しシールドとしての機能を活用して身を守る。

 

一夏の援護を中断し、顔の正面をシャルロットに向けながら右肩にマウントされた3連装ミサイル・ランチャーをオンラインに切り替え、アームド・アーマーDEを眼前から退かす。ミサイル・ランチャーの安全装置を解除するとミサイルのハッチが開き、ミサイルの発射を阻害する留め具がパージされる。そのまま無誘導で一発ずつ薙ぐように撃つと僅かながらの反動に上半身が後ろに反れ掛けるが、ユニコーンの補助によって姿勢制御が為される。全弾を撃ちきって飾りと化した右肩のミサイル・ランチャーを即座に放棄し、右肩の可動域を広げると同時に呼び出していたハイパー・バズーカが手に握られる。サイドアームとして装備していた肩に装備されていた物と同じ3連装ミサイル・ランチャーを、今度はシャルロットをロックしつつ連射する。上下左右斜め、その全てに近接信管榴弾の弾頭がシャルロットの周囲を覆う中で速射型に改造されたハイパー・バズーカをフルオートでシャルロット目掛けて発砲する。更に面制圧力を増やす為にシールドを閉じたアームド・アーマーDEのビーム・キャノンと頭部マシンガンも加える事で重厚な弾幕を生み出す事に成功した。

 

「――くっ!」

 

「そこ!」

 

シャルロットが逃げ場が限られる僅かな隙間を模索して足を止めた間に左脚部にマウントされたミサイルポッドをシャルロットが見つけるであろう回避のラインに置く様にして先制の3連射を行う。空になったミサイルポッドが自動的にパージされるが、それに目もくれずビーム・キャノンを連射する。

 

「っ――!」

 

シャルロットは攻撃の為に回していたライフルを対空防御へと切り替え、その場に留まりながら迫り来るミサイルの群れ目掛けて射撃を敢行。足を止めたその隙にアームド・アーマーDEを一瞬だけ浮遊させ左腕部のホルダーに収納されたビーム・サーベルを引き抜く。スラスターが放出する出力を最大まで引き上げ、ゆったりと持ち上がる機体が加速に押されると同時に機体の加速に伴って生体補助機能が緩和していたGの感触が、肉体に伝わり始める。引き抜いたビーム・サーベルのエネルギー放出口からマゼンタ色のビームエネルギーが生み出す灼熱の刀身が形成され、浮遊させていたアームド・アーマーDEを再度左腕部にマウントして固定した後にビームキャノンとして使っていた機能を切り、180度反転させて追加スラスターとして扱うことで更にシャルロットへの接近を急がせる下駄として使う。

 

「――おぉおおおおッ!」

 

「っ!――ここ!」

 

ミサイル弾幕を粗方取り除いたシャルロットは即座に突撃する俺を墜とす為に武装をショットガン2丁に変更し、対空防御弾幕を面に展開。轟音と銃口から刹那的に見える閃光と、放たれたショットガンの弾丸を捉えるハイパーセンサーに感動を覚えながらバレルロールでショットガンの有効範囲から逃れるが、僅かに装甲に被弾し装甲の一部が欠ける。しかし些細なダメージであった為に気にせず更に接近する。

 

「散弾ではなぁ!」

 

「なっ!?」

 

推力比が1を軽く超えるISの機動性を活かし、戦闘機では実現不可能な機動で太陽を背にした位置まで上昇し、それを追いかけ、俺を見上げたシャルロットは見えすぎるハイパーセンサーの影響で太陽を直視し目を細める。人の癖というものだろう、手を掲げて太陽から視界を塞がざるを得なくなったシャルロットはそれに歯噛みしつつ、視界を覆いながらもう片方の手に握ったショットガンを連射した。その狙いの甘い弾幕を気にせず、追加スラスターとして使っていたアームド・アーマーDEを再びビーム・キャノンに転換させ、再度射撃を行う。狙うのはシャルロットが太陽から目を守るために翳した手に握られているショットガンであり、ビーム・キャノンの一射が吸いこまれるようにショットガンの銃身に直撃し、エネルギー弾が銃身を溶解させ誘爆を引き起こす。右手に握るビームサーベルを逆手で持ち、刀身を小指側へ向けながら未だに太陽を背に突撃をするとシャルロットは破壊されたショットガンの代わりにシールドを呼び出して防御を固めた。

 

「う、っ...なら――!」

 

「――ちぃ!」

 

シャルロットへ斬りかかる為には高度差を同じにしなければならず、限界まで太陽を利用した俺はシャルロット目掛けて機体の高度を下げ始める。それと同時に視界の回復したシャルロットのショットガンの精度が上がり始め、牽制射代わりにバカスカ撃っていたアームド・アーマーDEをシールドへ切り替えて致命的損傷を起こし得る物だけを防ぎ、僅かながらの被弾は気にも留めずに突っ込んでいく。

 

いよいよ接近戦の距離に到達するとシャルロットがシールドを構え、その機体をボーデヴィッヒ側へと動かし始めた。全天を捉えるハイパーセンサーの一端に映っていた一夏とボーデヴィッヒの戦闘が、最も意識の集中する真正面に収まる位置に移動した。

 

一瞬だけ其方に意識を集中させると一夏はボーデヴィッヒのISに搭載されている特殊兵装、A(アクティブ)I(イナーシャル)C(キャンセラー)...慣性停止能力の影響で斬りかかったものの動きを止められている様で、ボーデヴィッヒはそんな一夏に大型砲の砲口を向け、今にも撃たんばかりの体勢で残酷な笑みを浮かべ勝ち誇っているのが見えた。

 

「これからだ!」

 

「何の話!」

 

「堕とすのさ!」

 

「――ああ、そう!――って、うえぇ!?」

 

一夏のサポートを最優先に切り替える為に、シャルロットのショットガンをシールドで防ぎながら機体の出力差で無理矢理追いつく。逆手で持ったビーム・サーベルをシールドの影に忍ばせながら、右腕を後ろへ引いて限界まで刀身を隠しつつシャルロットのシールドとアームド・アーマーDEが衝突し、そのまま下がろうとするシャルロットに前に進もうとする俺の出力が合わさり、凄まじい勢いで後退を始める。その直後にはボーデヴィッヒにシャルロットをぶつけようとする俺の意図を理解したのか、シャルロットは後退を止めて全力でスラスターを前進に切り替えた。シャルロットは世代差から生じる出力の差に押されながらもシールドを斜め上方へ跳ね上げようと試み、それに乗った俺も同様にすることで互いがシールドを打ち上げた状態が形成され視界が広がった。

 

その間にシャルロットに愚痴を零す様に、勝負は始まったばかりなのに既に勝った気でいるボーデヴィッヒに忠告するように叫び、シャルロットがそれに応じるがイマイチ分からなかった様で、思考のほとんどを戦闘行為に割いている為に短い言葉でボーデヴィッヒを獣から人に戻すと伝えるとなんとなく理解してくれたのか、シャルロットは空いた手に残るショットガンを構えながら話を打ち切って、がら空きになった俺の正面目掛けて突きつけたそれが火を噴いた。が、回避を任せていたユニコーンが肉体を捻じ切らん勢いで身体を左斜め前方へ捻りながら突き進み、アームド・アーマーDEをスライドさせて手首で展開し、普段より腕1本分ほど伸びたアームド・アーマーDEを鈍器代わりに使いショットガンを殴りつけることで射線を無理矢理逸らすことで致命的損傷を与える確率を大幅に下げ、斬りつける為に身体のラインに隠していた右腕が被弾することも無くやり過ごすことに成功する。観客席に座る桜井主任が顔を青くして立ち上がるのが見え、やっちまった事を心の隅で謝罪しながら、殴り付けたショットガンの内側に忍ばせたアームド・アーマーDEを腰の捻りと左腕の引き戻しを連動させたパリィで弾き上げ、シャルロットの胴体を逆にがら空きにさせる。

 

そのまま逆手に持ったビーム・サーベルを突きでも放つかのような動きで穿つとシャルロットは咄嗟にシールドを解除し、胴体の前で再度出現させるがエネルギーの刃が迫ってこない事に気付き対応に移る。が、それよりも俺の方が速い。パリィで左側に捻らせた上半身の動きに連動して右肩が前に移動し、左肩が後方へ下がっていく。そうして大きく振られた右腕をスナップさせながら、逆手のビーム・サーベルが正面からではなく、側面からシャルロットを襲う。

 

「っ、この――ッ!」

 

シャルロットがシールドを即座に左手にリポップさせビーム・サーベルを受けながら、カウンターとして出現させた大口径ライフルを頭部マシンガンで先手を取って潰す。大質量弾に圧し折られ破壊されたライフルに顔を少し青くするシャルロットを、シールドを溶断し切ったビーム・サーベルが襲う。しかし咄嗟に後方へ下がったシャルロットの判断が功を奏し、胸部装甲の一部を焼き切っただけで振り抜けてしまった。だが逆手に持ったビーム・サーベルの意味がこの体勢で活きてくる。

 

中途半端な格好で左半身側へと振り抜いた右腕が握る逆手のビーム・サーベルの刀身を一度消滅させ、手放しながら柄を親指で弾き回転させ、正しく握り直したビーム・サーベルに再びマゼンタ色のエネルギー刀身を形成させ、前進しながら、一気に右側上方へ引き戻す動きで右手に握ったビーム・サーベルで豪快に切り上げる。それと同時に左肩にマウントされた3連装ミサイル・ランチャーのロックを解除し、ボーデヴィッヒ目掛け無誘導で一斉射を行う。

 

「え、え!?」

 

「ISは、こういう事も出来るんだろ!」

 

「――わ、く、避けて!」

 

「何――がぁっ!」

 

左肩のミサイル・ランチャーが一斉射された反動を敢えて殺さず、上半身が反れて下半身が持ち上がる。空中なのに倒れそうになる感覚を感じながら右足を振り上げ、ユニコーンの機体制御によって頭部を左側へ流しながらその場で側転をするように動き、振り抜いた右腕と胴体をカバーする為に右足を振り抜いてシャルロットを蹴り飛ばしてやると、シャルロットはまさか蹴られるとは思っていなかった様で動揺しながら吹き飛ばされる。ISによる白兵戦は、ボーデヴィッヒがセシリアと鈴音を殴りつけていた所から得たヒントを元に咄嗟に思い付いた物だったが、なかなかに強烈な一撃が入ったようで、シャルロットは慣性制御を急ぐが間に合わず、一夏を煽るので忙しいボーデヴィッヒはその対処に遅れてしまい衝突して互いが絡み合ったまま地面に墜落した。

 

ボーデヴィッヒの集中が途切れ、AICから解放された一夏はそのまま雪片弐型でボーデヴィッヒのワイヤーブレード1本を斬り飛ばして無力化し、瞬時加速で即座に団子状態の一角から脱出した。一夏の脱出を確認した俺はこの機会を逃すつもりは無く、右脚部のミサイルポッドと左腕に呼び出したもう1基のハイパー・バズーカ+3連装ミサイル・ランチャー両兵装の全弾を斉射する。更に頭部マシンガンもこの時ばかりはフルオートで容赦なく弾幕を張り続ける。

 

爆音が響き、黒煙に覆われた地上を眺めながら視界を覆い始めた発砲煙を晴らす為に頭部マシンガンの連射を中断し、高度を取った。

 

「万掌、ありがとう!」

 

「気にすんな。それに、まだ終わってない」

 

「解ってる」

 

フォローに対して感謝を告げる一夏と短く言葉を交わし、黒煙渦巻く地面を睨みつけながら残った武装を確認する。アームド・アーマーDE、ビーム・サーベル4基、頭部マシンガン残弾128発、そして――ビーム・マグナムが残弾5発、予備弾倉2基の完全状態で残っている。

 

ボーデヴィッヒもシャルロットも、ビーム・マグナムの恐ろしさは体験済みだろうから必ず警戒する。そう思って今の今まで伏せていた切り札だったが、この辺りで戦局を完全有利に持っていく為に使用を解禁することにした。

 

右手に呼び出したビーム・マグナムを握り、両手で黒煙の中心目掛けて1発撃ち込む。内臓された冷却装置が呻り声を上げて供給される過剰エネルギーによって砲身が溶融しないよう冷却され、正しく供与された破壊の力が砲身を通過し砲口へ近づく度に増幅ユニットを通過していきその輝きを太陽のそれに近付けていく。砲口に収縮したエネルギーの光弾は周囲の空間を陽炎で揺らすほどの熱量を発し、周囲の光景から砲口へ目を移すにつれて空間歪曲に凄まじい放電音を立てるスパーク、目が眩むような光量を放つ小さな太陽、それを自由に操る真っ白な全身装甲のISと、見る者を圧倒する光景が生み出された。観客席に座る来賓はその眩さに思わず手を翳して自らの目を光から守り――次の瞬間には甲高い放射音を立てて真っ直ぐに突き進む白光球は一瞬だけその進路上に存在していた全ての原子を焼き尽くし、虚無へと作り替えながら突き進んでいく。その後を辿るのは残滓とも言うべき僅かなエネルギーにも関わらず、周囲に強烈な紫電を撒き散らし白光球を追いかける放射ビーム。どちらも、食らってはいけない類の兵装だと一目見れば分かるものだった。それが黒煙の中に飲み込まれる直前、静止した。

 

「――忌々しい、太陽め」

 

煙を吹き上げて黒煙を晴らし、その姿を太陽の下に晒したボーデヴィッヒはワイヤーブレードを使いシャルロットを絡めとり、眼前に突き出していた。シャルロットのISはダメージレベルが大きく上がっており、シャルロットも苦々しい顔をしている。どうやら、俺の攻撃全てをシールド代わりにシャルロットを使って防いだ様で、ボーデヴィッヒはそこまで致命的な損傷を受けている様子は見られない。AICを使い、ビーム・マグナムをその場で止めたボーデヴィッヒはシャルロットをワイヤーブレードで操作して、ビーム・マグナムの射線に置き、AICをキャンセルした。直後――拘束されたシャルロットが、太陽に包まれた。

 

過剰なまでの破壊力を秘めた光球が突き刺さると同時、触れた装甲の一部が溶融しては焼失するを幾何か繰り返し、光が収まった所でシャルロットのISが大破判定を受けて戦闘不能状態に陥ったアナウンスが通達される。

 

「元々ダメージを食らっていたとはいえ......恐ろしい威力だ。――やはりビンテージ......使えん奴だったが、まぁ盾代わりと効力確認程度くらいには使えたか」

 

既に用済みと言わんばかりに冷めた目でシャルロットを一瞥したボーデヴィッヒは、もはや盾にすらならないと言いながらシャルロットをアリーナの外壁に放り投げ、俺と一夏を睨みつけた。

 

「さて、続きと行くか。来い、理想を掲げる弱者共。現実を教えてやる」

 

尊大な態度で手招きをして挑発するボーデヴィッヒの傲慢さに、パートナーを道具としか思わぬ在り方に怒りが滲み、その怒りに共感したユニコーンの内側から、鮮烈な赤が装甲の奥から溢れ始める。

 

 

「――行くぞ、一夏」

 

「――うん!」

 

こんなやり方でシャルロットが退場するとは思っていなかったが、ボーデヴィッヒを一人にする作戦の第一段階は達成した。

 

ここからが、俺たちの本当の作戦開始だ。

 

 

 




ビーム・マグナムの威力が高すぎて持て余し気味になってしまう。

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