Ideal・Struggle~可能性を信じて~   作:アルバハソロ出来ないマン

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友情!

高校2年生の春頃に来たゼミ系の謳い文句「今から始めないとヤバい!」

高校3年生の夏頃に来たゼミ系の謳い文句「今からでも間に合う!」


どっちだよ





感想にてご指摘があったため一部内容を編集しております。ご了承ください。


第3話

春休み明け。

 

一夏が女性に成ってしまったことは、クラスメイトたちに伝えられた。教師陣は、口外を禁じた。口外した者は漏れなく、一族・血縁者全名が一時軟禁状態となり誓約書に記名させられた。そうして流れ出た一夏の性別が変わったという話題は全てが揉み消され、他クラスの生徒たちが知る情報は皆等しく一夏が転校した、というものにすり替わった。

 

かなしいことに、鈴音は別のクラスに所属していたため、情報統制の波に抗えず自分の恋心を伝えられないまま一夏が転校してしまったと嘆いていた。一夏は当然のことながら、ボロが出る事を避けて鈴とは極力合わない様に過ごし、俺もそれに釣られるようにして会話の機会は減っていった。

 

そして、鈴音の両親の離婚が原因となり、鈴音は中国へ帰っていくことになった。空港まで見送りに来たのは、俺一人だけで弾はボロが出る事を恐れ、女性としての一夏は鈴音との付き合いは皆無だったので来なかった。

 

寂しくなるな、などと口では言うものの、内心は親しい人物でありながら内情を知らぬ鈴音が居なくなる事を喜ぶ自分がいて、途轍もなく嫌な気持ちになった。

 

鈴音は一夏に恋心を抱いており、それを俺が伝えても良かったが今の一夏は女性だし、男に戻れるとも限らないことから余計なトラブルを避ける意味でも伝えるのは憚られた。というか、そもそもそんな馬に蹴られるような真似をすれば間違いなく鈴音は怒るだろうし、一夏が男のままであればあの鈴音の性格からして、どれだけ時間を掛けても自分の口で伝えることだろうと思い何も言わなかった。伝える事で、相手を傷つけてしまうのなら言わない方がいいこともあるのかもしれない。

 

 

 

全ては、一夏が織斑千冬の血縁者であるという点に集約された。ブリュンヒルデの血縁者であるが故に狙われる。織斑姉妹は国際IS委員会に織斑一夏のIS適正がある事を確認させた後、進学先をIS学園に確定させ日本国国家代表候補生となることを誓約し、その見返りとして中学校生活最後の1年を安全に、危険に晒される事無く地元で過ごせることが保証された。

 

千冬さんは一夏が再び男に戻れるとは限らず一生を過ごす事になるかもしれないと一夏に伝え、一夏は女らしさを徹底的に仕込まれ、身の周りや肌着、服装、口調やスキンケアといったものまで、とにかく何から何まで修正させた。

 

中でも一夏が苦労したのは身の周り品ではなく、味覚だろう。男の時は平気だった味付けが気に食わず、試行錯誤を繰り返しているのを幾度となく見かけた。織斑家へ上がり御相伴に与ることも多々あったが、たしかに味付けは変わっていた。食べ慣れた味でなくなった事に多少なりとも寂しさを覚えたが、新しい味も中々に良い物だった。

 

そういえば、味と言えば男の頃もそうであったが一夏はどうにも俺を最優先事項にしたがる節があり、様々な事を俺に合わせようとする時がある。例えば、先も上げたばかりだが味が気に入らなければ言ってくれ等と言う、俺はタダ飯を食わせてもらう側であり、決して文句を言える立場では無かったので、一夏が美味しいと思える味でいい、と断りを入れることも珍しい話では無かった。

 

その都度、俺の為に飯を作っているんだから俺の気に入る味付けを教えてくれ、と言うもんだから、一夏は人たらしの才があると改めて実感してしまった。何度も勘違いを招くような発言は控えるようにと千冬さんからの教えがあっただろうと叱るが、その事を切りだすと一夏は途端に不機嫌になる事も恒例だった。

 

女になってからの一夏を取り巻く環境は激変し、親しかった男のクラスメイトはよそよそしくなり、女子生徒からも元の顔を知っているため声が掛け辛い状態が形成されていたが、その中でも付き合いが変わらなかったのが俺と弾と数馬である。4人でいつもの様に誰かの家に押しかけたりもしたが、決してゲームセンターなどにはいかなかった。一夏が経済的に苦しいことを知っていたし、女になってからバイトが出来なくなってしまったからだ。だから俺たちは常に誰かの家に集まって遊んだ。それに、元の男4人組であればいざ知らず、無理に今の一夏を連れてまでゲームセンターに耽るほどの馬鹿では無かった。弾や数馬には頭が上がらない。一夏の性別関係なしに友で居てくれた貴重な親友だ。どれだけ一夏の心を安らげてくれたか計り知る事も出来ない。

 

なるべく一夏の支えになろうと、受験勉強と一夏のサポート、たまの息抜きで弾と数馬と一夏と俺で集まり遊ぶ日々を過ごしていると、気が付けば夏休みに入っていた。普段なら怒涛の長期休学に心を弾ませるのだろうけど、3年生ともなればそうは行かない。所属していた国際交流活動部も無事引退し、夏休みを受験する高校の見学会と受験勉強、たまの空いた日に弾か数馬か一夏の誰か、ないしは複数人で集まって愚痴を吐きながら息抜きをするか勉強会をする繰り返し。

 

 

 

 

今日も、また同じ1日を過ごすつもりだった。

 

蝉の鳴く声が、締め切った窓を僅かばかり通過して聞こえてくる今日この頃。日捲り式のカレンダーを引き剥がして日付を更新する。8月12日。何ともなしにそれを見てから、熱に茹だる身体を引き摺るように階段を下りる。

 

冷蔵庫の前に貼られたカレンダーには「両親出張・3日帰らず」の予定。16日の日付を見れば「両親帰宅予定日」の文字。今日からだったか、と寝呆けていた頭を軽く振り意識の覚醒を促しつつ麦茶を取り出して、氷冷庫から氷を2つ取り出してコップに落とし、麦茶を注ぎ込んでから一息で煽り、飲み干す。からからに乾いていた口に一気に水分が流し込まれ、熱に魘されていた身体の奥を、冷たい感触が駆け抜けていくのが分かった。

余りの暑さに耐えかねて、締め切った窓を開けようかとも思ったが我慢できずエアコンのスイッチを入れてしまった。

 

やがて涼しくなるであろうリビングで寛ぎながら勉強する為に自室のある二階へ戻り勉強道具一式を携え階段を降りきったタイミングで、来客を告げるインターホンが鳴るのが聞こえた。今日の来客予定はなく、一夏たちと何かをする予定はなかったが、セールスの類だろうかと疑いつつもモニターを確認すると、一夏が映っていた。日もそこそこに上がり始め、外も暑いだろうから放っておくのは気が引け、俺は駆け足気味に廊下を抜けて玄関の扉を開けた。

 

「一夏、どうしたんだ、こんな時間に。もしかして今日、何か予定を作っていたか?――と、すまん」

 

「大丈夫、見られてもいいから。今日はちょっと一緒にお出掛けでも、っていうお誘い。根詰めすぎても、ダメになっちゃうと思って。あ、もしかして忙しかったり......する?」

 

一夏が事前に連絡も寄越さずにやってきた事に驚くが服装は明らかに出掛ける事を前提に着ている感じだ。白い袖なしのトップスの上に、グレー色のボレロカーディガンを羽織った一夏は片手に藍色のバッグを提げていて、デニムのホットパンツを履いている――そこまで見て、しまったと思い上から下まで見てしまった事に目を伏せてから謝罪をする。

 

一夏は気にしてないと手を軽く振り、今日来た理由を話し始めた。どうやら最近の俺を心配しての気遣いだったらしく、本人も外出目的の服装でやってきてくれたのだし、ここで無碍にする訳にもいかない。

 

「いや、生憎と親父たちも出張で家に居なくてな。丁度暇をしていた所だ。行こうか。着替えるからリビングに上がって待っててくれ。多分冷房効いてるからさ」

 

なんだったら何か勝手に冷蔵庫開けて飲んでてもいいからな、と階段を昇りながら声を掛けると「分かったー」と微かに返事が返ってきた。

 

部屋に入り、ジーパンを履き、アンダーシャツの上に無地の白い半袖を引っ被るように着て、その上にグレー色の薄めのジャンバーを羽織って財布と携帯を持ち、急いで駆け下りた。

 

「悪い、待たせた!で、何処に行く?」

 

「んーと、買い物!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何を買いに行くか一切相談されなかったから不安に思いながらも一夏の隣を歩いていると、向かった先は服屋の女性物コーナーだった。

 

「これ俺いる?」

 

「いる」

 

「秒速レスポンスあざーす」

 

「いえーい」

 

本当に心の底から疑問を抱き、俺が必要かどうか訊ねたところ即座に要ると返された為、それに少し茶目気を加えた返答をすると一夏もノリを合わせてきて手を掲げたので、俺も同じ様に手を出してハイタッチをした。パチーン、と乾いた音がやや響く。男だろうと女だろうと、一夏は一夏で、変わらないものもあると分かる瞬間だった。

 

「秋物」

 

「そう、秋物。んー、んー!もうすぐ、9月、だからっ!」

 

「ほら」

 

「お、ありがとっ!いいなー高身長。私ももっと身長欲しいなぁ」

 

「そのままでいいと思うけどなぁ。秋物ねぇ......まだ8月の中旬じゃないか。要るのか、それ?」

 

「いつ必要になるか分からないから、女の子は結構気を遣うんだって。私もクラスの子から雑誌譲って貰ったり書店でそういう雑誌読み耽って初めて知ったよ」

 

「俺もそれは初耳だなぁ」

 

買い物の目的は、秋物だそうで時期的にはまだ早いんじゃないかと思いながらも一夏が欲しがる、微妙に届かない位置に配置されているお目当ての服を取ってやり、一夏に渡す。何でも女性は服装のコーディネイトや日付の流れに敏感らしく、様々なパターンを考慮して買った結果、一度も着ないまま終わる服や、一度着ただけで二度と着ない服も出ることは珍しくないそうだ。一夏は千冬さんから貰った小遣いをやりくりして服を調達している。

 

「その4つでいいのか?」

 

「うん、どうせまた一か月後には来るだろうし。今日はこれくらいにしておくよ。まだ買いたい物もあるから」

 

「ほーん、じゃあこっちの2つは俺が持つよ」

 

「えっ、いや、悪いよ」

 

「いつも飯作ってくれるだろ。ギブ・アンド・テイクってやつだよ。ていうか払わせろ。女だけに払わせるなんて格好が付かん」

 

「バンショーも体裁って気にするんだね」

 

「そりゃあ、こんなご時世だからな。男をある程度見せないとお前まで笑われちまう」

 

「......ありがとうね、バンショー」

 

「気にすんなって」

 

一夏は買いたい物が纏まったのか、ショッピングを早々に切り上げてレジへ真っ直ぐ向かっていく。レジ待ちの途中で一夏が抱えていた値段の高めの2品を引き取り、俺が会計をする旨を伝えると一夏は困り顔で狼狽えた。それに対し、俺は飯を用意してもらってる日々のお返しだと伝えてなんとか支払いを代行する権利を勝ち取る。女尊男卑のこのご時世、自分の所有物たる男から満足に奉仕も受けられない女性というのは笑われるらしく、一夏を立てる意味も籠めて、俺は支払いの一部を負担することを願い出たのだ。ばかばかしいと笑いたくなるが、これが昨今の日本の現実だった。

 

服屋を出たその足で、化粧品店に向かった俺たちだったが化粧品に関してはサッパリで、一夏が商品と睨めっこする光景を眺めているだけに終わり、ランジェリー関連は流石に近くの休憩スペースで休ませて貰った。そんなこんなをしている内に昼食にはやや遅い時間になってしまい、どうするか悩んだ結果、夕飯の材料を買って俺の家で食事を共にする方向性で固まった。

 

「結構買ったなぁ」

 

「うん、でも本当に女の子って買うもの多くて大変だよ。なんで時間かかるのか分かっちゃった」

 

一夏に苦労を掛けるワケにはいかないので荷物の8割を引き受けた俺は、どことなく楽し気な雰囲気を醸す一夏を見て、バレないように頬を緩ませる。振り返ってみれば今日一日、勉強のことなんて一切気にせずに過ごしていた。受験生としてそれはどうなのか、と思いもするが一日くらいは許してほしい。

 

「バンショー、どうかした?」

 

「ん?いいや。飯、楽しみだと思ってな」

 

「――そ、そう?じゃあ、頑張って作るね!」

 

目を伏せて自嘲気味に笑っていた所を一夏に見られ、咄嗟に飯が楽しみだと答えると、少し動揺した様にも見えた一夏だったが、すぐに目を輝かせ満面の笑みを浮かべる。咄嗟についた嘘なので、少し申し訳なくなるが、別に楽しみじゃない訳ではない。大いに楽しみにしている。だから、嘘ではない、と自分を言い聞かせて帰宅を急ぐ一夏に合わせるように、少しだけテンポを上げて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――美味い」

 

「ほんと!?」

 

「一夏、火」

 

一夏に作ってもらった夕飯を頂きながら、まだ手付かずだった味噌汁を一口啜るといつも違う、味の深みに驚き、美味い、と零してしまった独り言を一夏に拾われてしまった。俺の独り言に飛び跳ねんばかりの勢いで食いついた一夏が、料理の途中だと言うのに火から目を離し、此方に身体ごと向いて来たのでせめて火を消してから反応をしろと咎める。

 

「どんな風においしかった?」

 

「んー......出汁、いや、味の厚みが違う......?深みというか、旨味、みたいなモンが......こう、薄くないんだよ。よく分からんが、飲みこんでも、最後まで美味いっていうか」

 

俺の忠告を聞いて火を止めてからスリッパをぱたぱた鳴らして小走りでやってきた一夏は俺の座る椅子の隣にやってきて膝立ちになり感想を求めてきたので答えてみるが、うまく言葉に出来ずに四苦八苦し、結局あやふやなまま言い終ってしまったが、それでも一夏には通じた様で、

 

「へー、へー!やっぱり分かるんだ!バンショーってやっぱり良い舌持ってるよ!」

 

と、一人ですごく喜んでた。

 

「お前に鍛えられた舌だけどな」

 

と、何気なしにそう返して、つい良い位置に一夏の頭があったので、箸を置いてから頭頂部に手を置いて撫でる。流石に嫌がるかと思って、しばらく撫でるが特に何も言ってこないので続けることにした。

 

「一夏?怒ってたり、する?」

 

「全然怒ってないよ!んふー!もっともっと!」

 

怒ってるのかな、と思って少しビビリながら声を掛けると、一夏はもう嬉しくって嬉しくってしょうがないといった顔をしながら俺に頭なでなでの続行を要求してきた。それどころか自分から頭を手に押し付けてくるので俺はどうしようもなくなり、結局一夏が満足するまで撫でることになった。この日から一夏の中で「俺が褒めるレベルの食事を作る=頭を撫でてもらえる」という謎の関係が成立し、俺が料理を褒める度に頭を差し出す一夏に困惑し、スルーしたりすると撫でてくれないのかと絶望した顔でうちひしがれるので、それに折れた俺が毎度撫でるといった光景が出来上がるようになった。おかげで飯が美味い。

 

 

 

 




一夏って絶対犬だと思うんですよ、タイプ的に。

しかも結構な忠犬だと思う


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