Ideal・Struggle~可能性を信じて~   作:アルバハソロ出来ないマン

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ニュータイプ特有の時を視て実体験するアレ

UCのOVA4話の砂漠を征くシーンすごい好きです

せっしーはちょろいので褒めればこんな感じやろ(今回)


第6話

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力は過去の兵器を遙かに凌ぐ。そういった『兵器』の扱い方を知らずに動かせば、必ず事故が起きる。これはそういった事故を未然に防ぎ、減らす為の基礎知識と訓練だ。全員、理解できずとも覚えろ。覚えていればいつか理解できる」

 

兵器。ISは兵器。束さんが夢を叶える翼として作り上げたものが、兵器。何時の時代だってそうだ。人は、人の夢をすぐに踏み躙り――人を効率的に殺す殺人兵器に変える。飛行船も、航空機も、船も、馬だってそうだ。作物を刈り取る為の鎌や、畑を耕す為の鍬も。何もかもが、全て――

 

 

―――――――人を殺す―――――――

 

 

 

 

 

僅かに一瞬ではあったが、教室の光景は俺の知らない場所へ乖離していた。人が燃え盛る炎の灰に包まれながら朝焼けを背に、剣を鎧の隙間に突き刺した男の頭部を兜ごと圧し折る大剣が目の前を掠めていき、次に見た光景は広い野原にすり替わっていた。そこでは戦車が大きな唸り声にも似たエンジン音をけたたましく鳴り響かせて前進していき、それに合わせて大勢の人々が銃を持ち、殺意に満ちた目で突撃を敢行していく。ワインのコルクを適当に抜いた時のような軽い音が響き、地面が爆ぜた。それが砲撃だと気付いた時には、俺は海の上に立っていて、鼓膜が引き裂ける程の咆哮に思わず声を上げて蹲り、震えた。音のした方を見れば、先ほど見た戦車とは比べ物にならない程の巨大な砲門――艦砲が噴煙を上げており、先ほどの大爆音はこれから響いたのだと理解できた。そして、その上からバリバリと空気を引き裂きながら飛び回る航空機の一機が、プロペラを真下に向けて突っ込んで来ている事に気が付いた。胴体らしき部分には何か、小さな円筒形の物体が括り付けられていて、それが切り離され、ゆっくりと渦を巻く様に自分の真上に落ちてきて―――当たる。

 

 

 

スパァァアンッッッ!

 

 

そう思った瞬間、脳天に鋭く重い一撃が入り一気に現実へと引き戻された。

 

「あだぁっ!?」

 

「集中するのは構わんが、せめて講義の内容に集中しろ。此処にない物を見て、追いかけるのは止せ。追いかけても呑まれるだけだ、戻れなくなるぞ。いいな」

 

「――はい」

 

――今見た光景は、夢か、幻かと疑った。だが、辺りを見渡しても俺を笑う女子ばかりで、俺と同じ光景を見ていた人は一人も居ないのだと理解し、謎が深まった。千冬さんは何か知っているのか、俺が此処ではない何処かを追いかけてしまった事を咎め、警告を発してきた。やはり、何か知っているのだろうか。聞きたくなったが、聞くに聞けない雰囲気を発していた為に、訊ねることを断念した。

 

なんなんだ、これは。

 

ひどく鬱屈とした気分になり、吐き気と寂寥感に苛まれながら2限目と3限目の間にある準備時間に頭を抱えて机に顔を沈めていると、憎悪の感覚を宿らせた女子が隣に立っていることに気が付いた。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

今来るのか、と誰にも見られない様に机の下で苦い顔を作りつつも顔を上げた時には素の表情に戻し、顔を声のした方へ向ける。そこに立っていたのは地毛が金髪の、鮮やかな女子であった。白人であろう、鼻は高く、透き通った美しいブルーの瞳を吊り上がらせて、俺を見ていた。髪の終わり際を見れば、僅かにロールしているそれを見て、ああ、お嬢様か、と察した。お嬢様だと分かれば、この高圧的な態度といい、いかにもな今時の女性であることは誰にでも理解できるだろう。

ここでいう今時の女性とは、男を奴隷、労働力としか見ない連中の事を指す。しかし、その顔をよく見れば。かのイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットその人であった。これは対応を間違えてはいけない、と何処となく察し、背筋を伸ばし胸を張って、上半身を僅かばかりセシリア嬢の方へ向けて粛然とした態度で返答をした。

 

「かのグレートブリテンの代表候補生が一人、セシリア・オルコットさんが私なんぞに何の御用でしょうか」

 

「――その話し方は気に入りませんわ。私を知っていることは当然としても、そのように媚びた言い方はお辞めなさい。今回は許します」

 

「そうか、すまないことをした。で、セシリア嬢。なぜ俺に声を?」

 

「あら、多少は私の気を良くする言葉遣いが出来ますのね。気に入りました。では堺さん、男というだけで世間一般に蔓延る情けない者たちと同列に扱ってしまった事を最初にお詫び申し上げます」

 

「その謝罪、確かに受け取った。しかし俺もそういう扱われ方をされるのには慣れている。余り気負う事ではない」

 

相手をどれほど尊大に見れば気を良くするのか、まずは牽制の意味を籠めてかなり謙った口調で勝負を仕掛ければ、セシリア嬢は先の態度とは裏腹に顔をきつく顰めて、俺の口調を非難し、普通に話せと申してきた。相手にそう言われたのであってはこの口調を維持する必要もなく、素の口調に戻して話に応じればセシリア嬢は俺の口調に気を良くしたらしく、その辺りに居る奴隷であることを受け入れた男たちと同じ様に見ていた事を謝罪した。セシリア嬢はかなり出来た人間の様だ。自分の非をこうも容易く受け入れ、それを謝罪するなど大人でも出来る人物は少ないだろう。纏っている憎悪も霧散している様だし、ジャブの意味で打った言葉がまさかの大当たりに入るとは思いもしなかった。俺自身、特に気にもしていなかったのでその旨を告げる。

 

「貴方が良くても私が気にしますのよ。世界で唯一の男性操縦者を侮辱したとあっては、ブリテンの名が泣きます」

 

「では、その謝罪を受けるが、要求したい物がある」

 

「――ええ、お聞き致します」

 

セシリア嬢は自らの感情に任せた失態で、イギリスの名を傷つけることは避けたいと思い、俺は特に気にしていないがセシリア嬢の気持ちを汲んで謝罪を受ける。が、どうせならと思い、一つ条件を付ける事にした。セシリア嬢は眉を一瞬震わせて怒りの感情を見せたが、すぐに引き込み俺の要求をとりあえず聞く事にしたようだ。

 

「かつての日英同盟の様に、貴女とは是非とも仲良くしたいと思っている。親友が紅茶を愛飲していてね、個人的にイギリスの紅茶文化を理解したいと思っているのだが、ここは日本だ。故に本場の味を知ろうとしても限界があり、困っていたんだ」

 

「まぁ!紅茶を嗜まれるご友人が居られますのね。そのご友人を大切にされるべきでしてよ。望んで欲しても、親しき人はそう容易く手に入る物ではありませんわ。そうですね、ご都合よろしい日に、私のハイ・ティーに同席されてもよろしくてよ?その際には本場の紅茶をお淹れいたしますわ」

 

「セシリア嬢自ら?」

 

「ご不満がお有りでして?」

 

「いや、まさか。その逆だ。故郷に居る旧友たちに自慢できる。是非ともご一緒させて頂きたい」

 

「まぁ、お上手ですこと」

 

「いや、まだ口下手でね。研鑽途中だよ」

 

一夏がよく紅茶を飲む様になったので、俺も紅茶を買い、様々なフレーバーを考案しては湯加減を調節したり、淹れ方や蒸らしの時間を考えては試し、考えては飲みを繰り返しているのだが、なかなかこれだ、という味に巡り合えずに困っていたのだ。それをセシリア嬢に相談した所、セシリア嬢は途端に笑顔になって両手を胸の前で合わせ、喜びの感情を露わにして、少々早口気味になりながらも近い内にお茶に同席するかを訊ねてきた。セシリア嬢のような美人が自ら淹れてくれるなど、願っても巡り合えない好機だっただろう。思わずセシリア嬢が自ら淹れるのか、と訊ねてしまい不満を買ったが、すぐに本心を吐露させるとまた気を良くした様で、口元を上品に掌で隠し、目尻を下げ自然に笑っている。その後しばらく会話に華を咲かせたが、予想以上に時間が過ぎるのが早かったみたいだ。

 

「貴方は随分と私を楽しませるのがお上手な様ですわね、紳士見習いさん」

 

「満足いただけたなら、俺の勉強も効果があったということだ。これからも励むよ」

 

「努力なされる殿方はたいへん素敵でしてよ。何か困った事があれば仰ってくださいな。私の協力できる範囲でお力添え致しますわ」

 

「ありがたい。貴女のような学友に巡り会えて、俺は幸運だ」

 

「本当にお上手。これ以上口説かれようものなら、私、絆されてしまうかもしれません。――あら、もうこんな時間。では堺さん、御機嫌よう、またお近い内に」

 

「ええ、また」

 

最初はどうなるかと思ったが、最後にはこれ以上ない程に気を良くして、スカートの端を摘んで礼をして帰っていくセシリア嬢を座ったまま見送るのは失礼だと思い、立ち上がって見送り、席に着くのを確認した所で俺も身体を向き直して席に着いた。

 

「バンショーってさ」

 

「うん?」

 

「女誑しの気でもあるの?」

 

「なんてことを言うんだお前は」

 

「だってぇ、あんなに楽しそうに喋ってたら、そりゃあ......うー!」

 

「そのうーうー言うのを止めなさい」

 

「うー!」

 

一夏がやけに不貞腐れた態度で俺の机に顎を乗せながら謂れも無い悪評を口にするので、抗議の意を唱えつつ、頬を膨らませて拗ねる一夏の頭をワシャワシャと撫でているとすぐにチャイムが鳴り、一夏は大慌てで席へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備について説明する。と、その前に、アレがあったか」

 

千冬さんが教科書のページを捲ろうとしたところでその動きを止め、何かを思い出したように教科書を置いた。

 

「再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦への出場だけに限らず、生徒会の開く会議や委員会への出席など......まぁ、クラス長のようなものだ。ちなみにクラス対抗戦とは、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更出来ないから、そのつもりでな」

 

クラスがざわざわと騒がしくなる。そりゃあ学級委員をやるやつ居るか、と言われて自分から手を挙げる日本人はそう多くはない。それにISに乗って戦うということを考えると、ここはオーソドックスにIS適正の高い人、もしくはセシリア嬢の様に代表候補生である人物を推すのが正解のはずだ。それだけで、勝利できる確率は跳ね上がる。セシリア嬢の性格を考えれば誰かが推薦するだけでやる気を滾らせることだろう。

 

「誰かやろうという気概のあるやつは居らんのか?自薦、他薦は問わんぞ」

 

「はい!堺くんを推薦します!」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「いや駄目でしょう」

 

「選ばれた以上拒否権はないぞ、堺。選ばれるなりの理由があるのだ、覚悟を決めろ」

 

余りにもあり得ない発言が出た事で俺は即座に否定するが、千冬さんは辞退を許してくれない。普通に考えれば俺でなく、セシリア嬢かIS適正の高い人を選ぶはずだ。

 

「でしたら俺はセシリア・オルコット嬢を推薦します。理由としては、彼女はイギリスの代表候補生であり、恐らくこのクラスの生徒だけで見ればISの累計起動時間は間違いなくトップでしょう。それに、国家代表候補生に選ばれるということはIS適正が高く、かつ秀才であるということ。それならばIS適正がCであり、起動時間も数十時間にしか満たない俺なんかよりもよっぽど適任だと思います」

 

「ふむ、セシリア・オルコットも推薦、か。他に誰か居ないか?」

 

「――はい!私は織斑一夏さんを推薦します!」

 

「えぇっ、私ぃ!?」

 

「織斑一夏、と。他!」

 

俺は至極全うな理由を述べて訴えるがセシリア嬢の名を挙げる者は少なく、逆に一夏の名前まで上がる始末だ。これは荒れるだろうな、と思いながらもっと自薦して対抗馬になってくれる人が出てきてくれないだろうかと祈るも、その願いは無慈悲に断ち切られた。

 

「ではこの三者でクラス代表の座を決める模擬戦を行ってもらう。異論は聞かん」

 

「いや聞いてくださいよ!」

 

千冬さんの締めの発言に、思わずツッコミを入れつつ立ち上がる。

 

「なんだ、何か言いたい事でも?」

 

千冬さんの俺を見る目が予想以上に冷たくて、たじろぐがそれ以上に俺の意見を言いたい気持ちが強かった。

 

「ありますよ!なんで俺なんですか!常識的に考えれば、明らかに実力がはっきりとわかっているセシリア嬢や、IS適正の高い人を候補にするべきです!それに――」

 

「それに、なんだ」

 

「――俺は、争うのが、苦手......なので」

 

先程の幻視、でいいのだろうか。幻視した光景を思い返し、一人で気を沈め、細くなっていく声でなんとか伝えきる。

 

「知らん。ISに乗る以上、やらなければならん時がある。子供の我が儘が通る場所だとは思うな」

 

「やらなければならないのは、今じゃないでしょう!俺は降りると言っているんです!それを織斑先生、あなたが許していないだけだ!」

 

「えー、堺くんやらないの?」

 

「もしかして、怖かったりする?」

 

「やーん、高身長で筋肉質なのに草食系!かわいい!」

 

「――っ!このッ――」

 

人の気も知らないで、勝手な事ばかり――!握りしめた拳がギチギチと音を立てるのも気にせずに、抗議を続けようとしたがそれを止める人物が表れた。

 

「お止しなさい堺さん!みっともない!」

 

怒気で満ちた声で、机を思い切り叩いて立ち上がったのはセシリア嬢だった。

セシリア嬢の方に身体を向ければ、彼女は怒りで頬を朱に染め、目を吊り上げて荒々しい形相をつくっていた。

 

「事ここに至って、推薦者が辞退出来ないという仕組みは聊か古めかしさを感じざるを得ませんし、堺さんが遺憾に思う気持ちも理解できないものではありません。ですが推薦された以上、貴方にも何かしらの魅力があってのこと。それは物珍しさから来る好奇心と言うだけかもしれませんが、それでも貴方は選ばれたのです。ならば、話し合いで解決できる状況はとうに過ぎましてよ。あとは、戦って、勝った者に全て委ねるしかないですわ。――いいですか、堺さん。これは決闘でしてよ。貴方が私を重んじてくださる理性ある殿方であれば、正統な決闘を侮辱するような行為はしないと信じておりました」

 

「――セシリア嬢......」

 

「ですが!貴方のその態度はなんですか!理屈を捏ねて、逃げ回って!私を想ってではなく、ただ貴方が逃げたいが為に私を隠れ蓑に使うばかり!これ以上の侮辱を味わった事はありませんわ!――貴方それでも、男ですか!闘いなさい!私を立てた貴方の目は、理不尽に抗う者の目です!押し殺されて、黙っている貴方ではないでしょう!なぜ剣を取らないのです!抗いなさい!立ち向かいなさい!言いたい事があるのなら、勝者となってから幾らでも言いなさいな!私が認めた貴方は闘いもせず、逃げる事しか出来ない臆病者で、貴方と友人でありたいと想った私の目は節穴だったのかしら!」

 

 

「――――――私と闘いなさい!堺万掌!」

 

 

セシリア嬢が、息を吸い直す声だけが響き渡る静寂が生まれた。

 

 

――俺は。

 

握り締めた拳が、胸の位置にまで持ち上がっていることに気付き、かっとなった事を静かに恥じて、自分の胸に手を広げて、置く。

 

 

セシリア嬢の叱咤激励が、心を撃ち抜いた。真っ直ぐな、飾り気のない本心から放たれた言葉が突き刺さった。そこで、俺は自分の醜さに震えた。セシリア嬢を言い訳にして、自分が戦うことを避けた事実を突きつけられ、臆病者と罵られて。上品な口調を崩さないセシリア嬢が、

 

 

 

 

 

こうまで奮い立たせてくれているのに、立ち上がらない訳には行かなかった。

 

 

 

 

息を大きく吸って、腹の底から声を張り上げる。

 

「セシリア嬢、申し訳ない。俺は、貴女を盾に逃げてしまった。許されることではないし、謝罪したところでこの謝罪に意味がない。故に行動で示させて頂く」

 

「――どのように?」

 

 

 

セシリア嬢の、深い碧色の、透き通る瞳を裏切らない様に。

 

 

 

「――――――剣を!」

 

 

 

白い手袋は持っていなかった為、セシリア嬢の足下目掛けてハンカチを、吠えながら投げつけた。

 

 

 

「良いお言葉でしてよ、堺さん――――グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、国家代表候補生が一人、セシリア・オルコット!この決闘、受けて立ちますわ!」

 

 

 

セシリア嬢は、投げつけたハンカチの意味を理解し、毅然とした表情のまま優雅に拾い上げる。

 

 

 

それで、決闘が成立した。

 

 

 

「――よし、話は纏まったようだな。模擬戦は一週間後の月曜、放課後に行う。織斑、堺、オルコットの3名はそれぞれ準備しておくように。場所は第3アリーナだ。覚えておけよ」

 

ぱん、と千冬さんが手を叩いて話を纏め上げた。

 

 

 

俺とセシリア嬢は、互いの目を睨みつけたまま、静かに席に着いた。

 

 

 

 




イギリス人てこれくらい言いそうな感じする(偏見)

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