やはり俺が魔法使いでプリキュアなのはまちがっている。   作:乃木八

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第五話「氷の島ですれ違い!?翻弄される八幡と魔法がつなぐ友情!」Aパート

 

「これは…!?」

 

魔法学校の一室、校長の驚いた声が響いた。

 

「世界と共に生まれ、生けとし生ける者を見守り続けてきた書物…」

「まさか……リンクルスマホン!?」

 

魔法の水晶…キャシーが校長の手にしているものについて補足し説明する。

 

校長が手にしているのはみらい達が書庫で見つけた謎の本から出てきたピンク色の端末のようなものだった。

 

「リンクル…スマホン?」

「書物ということは…本?」

「伝説中の伝説の本…実在するとは……一体どこに?」

 

それぞれ疑問符を浮かべる中、校長にスマホンを見つけた場所を問われてリコが恐る恐る答える。

 

「図書館の書庫に…」

「なにぃっ!?」

「「「ビクッ!!?」」」

 

普段の校長からは想像出来ない大きな声に書庫に入ったことを咎められたかと思ったみらい、リコ、八幡の三人が身を縮こまらせた。

 

「ぅ…わぁぁぁっん!!」

 

突然、みらいの手のひらから聞こえてきた赤ちゃんの泣き声に全員の視線がそこに向く。

 

「妖精の赤子?」

 

見知らぬ赤ちゃんに戸惑う校長。そこへモフルンがリンクルスマホンを指差して告げる。

 

「その中から出てきたモフ」

「なんじゃとぉっ!?」

「びぃぇぇぇんっ!!」

 

またしても校長は大きな声をあげてしまい、それに驚いて赤ちゃんがさらに泣きじゃくってしまった。

 

「大きな声を出すからですわ」

 

ばつの悪い顔をしている校長にキャシーが呆れる。

 

「ど、どうしよう…リコちゃん、ぜんぜん泣き止んでくれないよ」

「わ、私に聞かれてもわからないわよ!どうしたら…」

 

慌てる二人に八幡がため息をついて、落ち着けと促した。

 

「…大きな声に驚いたっていうのもあるが、これはあれだな…お腹が空いてるんじゃないか?」

「「へ?お腹?」」

 

八幡の言葉に声を揃えて驚き、落ち着きを取り戻した二人。しかし、すぐにまた慌て始める。

 

「でもでも!赤ちゃんって何が食べられるのかな!?」

「まあ…人肌くらいの温度に暖められた粉ミルクが一般的だな」

「そんなものすぐには用意出来ないわよ!?」

 

泣き止まない赤ちゃんにどうやってご飯を用意しようかと悩んでいた矢先、リンクルスマホンが光った。

 

「ダイヤを呼んでるモフ……」

「ほぇ「?」」

 

モフルンがそんなことを呟いた直後に二人のダイヤが宙に浮き、スマホンにセットされる。

 

すると、スマホンに備え付けられていたペンがひとりでに動き出して、画面に絵が描かれ、可愛いキャラクターがプリントされているミルクの入ったビンが現れた。

 

「え?ミルクが…」

 

描かれたビンが実体化したことに驚き戸惑うみらい。その手のひらの上にちょこんと乗っているミルクを見て赤ちゃんが泣き止む。

 

「あうあーあうっ」

 

ミルクを欲しがるように小さな手をパタパタさせる赤ちゃんに、リコが微笑んでミルクを手渡した。

 

「本当に八幡さんの言った通り、お腹が空いてたのね」

 

一生懸命にミルクを飲む赤ちゃんの姿に全員がほっこりした気持ちで微笑みをかわしあう。

 

「っはぁー」

 

ミルクを飲み終わった赤ちゃんがそのまま眠ると、丸い光になってスマホンの中に入っていった。

 

「本に住まう妖精の赤子…リンクルストーン…そしてプリキュア…伝説の書に導かれた出会い…これもまた何かの始まり……」

 

スマホンを見つめて独り言のように呟く校長にみらいとリコは不思議そうに顔を見合わせる。

 

「…一体何がどうなってるんだか……」

「モフ?」

 

色々な事がわからないままの状況に八幡とモフルンは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、二日目の補習ですが、お茶を淹れてもらいます…マキナ先生」

「はい、次の課題はこの魔法のヤカンでお茶を沸かすことです」

 

二回目の補習の日、アイザックとマキナから課題の説明を受けた補習組の生徒達。

 

「お…よっしゃー!!」

 

その中の一人であるジュンが嬉しそうにガッツポーズを決めた。

 

「え?」

「なんだ?急に…」

 

ジュンの喜びようを見て、ナシマホウ界組のみらいと八幡が不思議そうに首を捻る。

 

「初心者でも使える魔法道具なの」

 

その疑問にみらいの隣に座っていたエミリーが答えた。

 

「初心者でも…」

 

エミリーの言葉に一回目の時と同じく、端っこの席にいる八幡が考えるようにぼそりと呟く。

 

「お茶の子さいさいってやつよ!」

 

八幡が考え込んでいる内に簡単な課題でテンションが上がっているジュンが笑いながら言った。

 

意識してか、無意識なのか、そんなことを言われて、つい、お茶だけに…?と聞きたくなった八幡だがそれをグッと飲み込む。

 

おそらく、そこまで親しいわけでもない八幡がそんなことを言ってしまえば、全員から冷めた目を向けられること必至だろう。

 

(…なんか普通に喜んでるが、多分、ただお湯を沸かせばいいってわけじゃないだろうな……)

 

初心者でも簡単に使える魔法道具で沸かすだけでは補習にならないし、なにより、一回目の時と難易度に差がありすぎる。

 

「この補習、もらったわ!」

「あー…但し……」

 

そんなことを考える八幡を他所に、リコまでもが単純に喜ぶ中、そうは問屋が許さないとアイザックが笑顔のまま無情な事実を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

氷の蒸気を吹き出す雪山、光に反射して煌めく雲、そしてカチコチな氷の花達といった景色が一同の目の前に広がっている。

 

「雪と氷で覆われた…ひゃっこい島、ここで補習を受けてもらいます」

「「「「「うぅぅ……」」」」」

「…寒っ」

「モフ…」

 

アイザックが説明しているが、全員それどころではなく、あまりの寒さに肩を抱いて震えていた。

 

「職人が魔法を込めた道具は使いやすい、この魔法のヤカンは杖を一振りするだけで簡単にお湯が沸かせます」

「も、もうわかったから早く始めようよっ」

 

ゆっくりした口調のアイザックに寒さで呂律が回らない中、ジュンが先を急かす。

 

「そう慌てなさんな、今のは普通の場所での話、この島で魔法を使うには…」

 

そこまで言うとアイザックは隣に立っているマキナへと目配せをした。

 

「…はい、高い集中力が求められます、寒さを忘れられるくらいの…ね?」

 

マキナは引き継いで説明し終えると同時にクシュンッとくしゃみをして震える。

 

「…先生も寒そうなんですけど……?」

「寒さを…忘れるって?」

 

八幡とリコが同時に問うと、マキナが震えながらこほんと咳払いをし、アイザックの方を見た。

 

「ん、んっん別に寒くなんてありません、ええ、ありませんとも…では、アイザック先生、お手本をお願いします」

 

誤魔化すように早口でそういうと、マキナは一歩下がり、アイザックが杖を構える。

 

「…うぅぅん…ふぅっっん!……」

「「「「「おぉぉ!」」」」」

 

構えて、杖をヤカンの方を向けたアイザックが気合いを入れるその姿にみらい達は揃って驚きの声を出した。

 

「キュアっふらふぁふぁー!」

「「「「「「え?」」」」」」

 

キュポンッと音をたてて、アイザックの入れ歯がとれてしまい、全員の目が点になる。

 

「はは、いれふぁふぁかひょれら」

「集中力以前の問題だろっ!!」

 

その場でガクッとなる一同のツッコミをジュンが代表して突っ込むのだった。

 

 

 

 

━そんなこんなで補習授業が始まる。

 

「リコちゃん頑張って!」

「しっかりモフ~!」

 

それぞれに魔法のヤカンが振り当てられ、みらい、リコ、八幡はセットなので三人で一つのヤカンだ。

 

「キュアップ・ラパパ!お湯を沸かしなさい!」

 

寒さで震えながら、呪文を唱えて杖を振り下ろすリコ。

 

━つるんっ

 

「あっ!」

 

手がかじかんでいるせいか、振り下ろした瞬間に杖はリコの手からすっぽ抜けて、飛んでいってしまう。

 

「痛っ!?」

 

すっぽ抜けた杖は狙い済ましたかのように少し離れたところにいる八幡の眉間に命中した。

 

「ご、ごめんなさいっ!手がかじかんで上手く握れなくて…」

「…次からは気を付けろよ……ほら」

 

八幡は額を押さえながら杖を拾ってリコに手渡す。

 

 

 

一方、他の補習組のメンバーも寒さに苦戦を強いられていた。

 

「キュアッふラはふぁ!…寒くて口が回らないよぅ…」

「キュアップ…ラわっわわわわっあ~れ~!?」

「寒くなかったら楽勝なのに~!!」

 

エミリーは寒さで呂律が回らず、ケイは足が滑って止まらなくなり、ジュンは寒さで集中できずにいる。

 

「わっわっわ~っ!?よけてよけて~!?」

 

滑って止まらなくなったケイが手足をジタバタさせて八幡の方へ勢いよく突っ込んできた。

 

「は?ちょっ待っ…」

 

━つるんっ

 

それに気が付いた八幡は避けようとして自分も足を滑らせてしまう。

 

━ゴチンッ

 

「あいたっ!?」

「いっ!?」

 

お互いに勢いよく滑った二人は追突して、尻餅をつき、ようやく止まった。

 

「っ……大丈夫…か?」

「いたた~…ごめんなさい~大丈夫です~」

 

派手な音がした割に目立った怪我もなく安堵する二人、そして、寒さが原因で起きた様々なハプニングを見ていたみらいが呟く。

 

「そっか…暖かければ魔法、使えるんだよね?」

「え?まあ…ね」

 

みらいの質問に何でそんなことを聞くのかとリコは困惑しながら答えた。

 

「良いこと思い付いちゃった♪」

「「「え?」」」

 

二人の会話が聞こえたのか、エミリー、ケイ、ジュンが声を揃えて同時に振り向く。

 

「…良いこと?」

 

満面の笑みのみらいに何を言い出すのか予想できず、八幡は少し不安になった。

 

 

 

 

「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くなっ♪」」

 

みらいとモフルン、二人の掛け声を合図にエミリーとケイを含めた四人が腕を組んで後ろ向きに押し合う。

 

「なんなのこれ?」

 

暖まると聞いてよくわからないまま参加したエミリーがみらいに聞いた。

 

「おしくらまんじゅう!体が暖まるんだよ!おばあちゃんに教わったの」

「ふーん」

 

盛り上がっているみらいを横目に相づちをうつケイ。

 

「三人も一緒にやろうよ!」

「何であたいが…」

「結構よ」

「…俺も遠慮しとく」

 

参加していない三人を誘うみらいだったが、あっさりと断られてしまう。

 

「暖かくなるんだけどな~」

「………」

 

残念そうに呟くみらいに無言の八幡。

 

(確かに暖かくなるかもしれないが、あれだけ密着して押し合うのは…)

 

年下とはいえ女の子、それは八幡にとって些か、ハードルが高すぎるのだ。

 

「声を合わせるモフー!」

「「せーの」」

 

とりあえず四人だけでもやってみようと、みらいとモフルンの合図で声と動きを合わせる。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」

「…あれで魔法が使えるなら苦労しないわ」

 

おしくらまんじゅうをする四人を見て、リコは付き合ってられないと言った感じで行ってしまった。

 

「…あながち間違ってるわけでもないけどな……」

 

リコはああ言ったが、あれだけ密着して押し合えば、少なくとも暖かくなるはなるだろう。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」

「必要なのは努力と根性よ!」

 

みらい達がおしくらまんじゅうをする横でリコはひたすらヤカンに向かって魔法をかける。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」

「キュアップ・ラパパ!…キュアップ・ラパパ!」

「ん~」

 

二つの掛け声に紛れて、誰かが一息つくような声が混じった。

 

「?」

 

それに気付いた八幡が辺りを見回すと、少し離れたところでアイザックとマキナの両先生が椅子に座ってティータイムと洒落込んでいるのが目にはいる。

 

「ふぅ…生き返りますぅ……」

 

ホッとした表情で呟くマキナは膝掛けをかけて、マフラーが目立つ、防寒対策バッチリの格好をしていた。

 

「…それはなんかずるいんじゃないですかね」

 

八幡が恨みがましい視線を向けているとそれに気付いたのか、マキナは気まずそうな顔をして明後日の方を向いてしまう。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪…」」」あれ~?暖かくなってきたかも!」

「ねー!」

 

そうこうしている内におしくらまんじゅうの効果が出てきたようで、ケイとエミリーの頬が少し上気していた。

 

「ほんとかよ!!」

「キュアップ・ラパ…あっ!あなたまで!?」

 

驚くリコを他所に、ケイとエミリーの様子を見て、効果があることが分かると、ジュンもおしくらまんじゅうに加わる。

 

「よーし!いくよっ!!」

 

ジュンが加わって五人になったみらい達はそのジュンの掛け声で再びおしくらまんじゅうをし始めた。

 

「「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」」

「…集中力の補習なのにありえないわ!!…キュアップラパパ!」

 

━つるんっカッカッカラン…

 

暖まるために、おしくらまんじゅうをする五人を見て、憤りを露にするリコ。感情のままに振った杖がまたしても手からすっぽ抜けてしまう。

 

「くぅぅぅっ…!!」

 

自分が正しい筈なのに、まるで上手くいかない。それどころか、一人で杖を振るのが間違っているかのようで、リコは苛立ち歯噛みする。

 

「…ほれ」

 

俯くリコの前にすっぽ抜けてしまった杖が差し出される。それを受け取り顔をあげると、そこにはそっぽを向いた八幡がいた。

 

「…ありがとう……」

 

苛立っている今は顔を合わせづらいのもあって、リコはお礼を言ってそそくさと課題に戻ろうとする。が、その矢先に八幡に声をかけられる。

 

「…もう少し気楽にやってみたらいいんじゃないか?」

 

端から見れば、意固地になっているようにしか見えないリコに八幡はそんなことを言った。

 

八幡としてはもう少し肩の力を抜けという意味で言ったのだが、それはリコの逆鱗に触れたようで、キッと睨まれる。

 

「っ私は真剣になの!!気楽になんてできるわけないでしょっ!!」

「……悪い」

 

もう放っておいて!と八幡に背を向け、リコは再びヤカンに向かって何度も呪文を唱えた。

 

「キュアップ・ラパパ!キュアップ・ラパパ!」

「………」

 

一心不乱に、悪くいえばやけくそ気味に杖を振るリコを見て、八幡にしばらく忘れていた感覚が湧いてくる。

 

(…何を勘違いしていたんだか……)

 

知り合って間もない関係で、お互いのことなんて何も知らない。だから、些細な事ですれ違う、そんなことわかっているつもりだった。

 

所詮、人と人との関係なんて薄氷の上に成り立つもので、いとも簡単に踏み抜いて壊れてしまう。

 

それがわかっているのに、忘れていた。

 

悪意や剥き出しの感情をぶつけられるのは慣れている。だから誰になんと言われようとも平気な筈だった。

 

それがこの有り様、少しの諍い…いや、諍いにもなってないやり取りだけで、ひどく動揺した自分に驚く八幡。

 

今までぶつけられた悪意や感情とは違うリコの怒りに戸惑い、わからなくなる。これが掴めるはずないのに期待してしまった事に対しての代償なのか。

 

一度は答えを出した問答が再び八幡の中で鎌首をもたげる。その問いにもう一度、答えを出すことが今の八幡には出来なかった。

 

 

「…んー」

 

少し離れたところで、お茶を飲みつつ、アイザックが二人の様子を柔和な笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

 

「ラパパ!ラパパ!ラパパぁ!!…はぁ、はぁ、はぁ…」

 

何度も大声で呪文を唱えていたせいか、息切れを起こしてしまうリコ。その脳裏に過るのは先程の会話。

 

(…少し言い過ぎたかしら……)

 

上手くいかない苛立ちで頭に血がのぼっていたとはいえ、心配して声を掛けてきた八幡につい怒鳴ってしまった。

 

八幡のいう気楽が肩の力を抜けという意味合いなのをリコは分かっていた。

 

(後で謝らないと…)

 

そう決めたリコはゆっくりと深呼吸をして、頭の中を整理する。

 

「「「「おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪おしくらまんじゅうっ押されて泣くな♪」」」」

「……」

 

五人でおしくらまんじゅうをしている中、みらいにそんなリコの様子が目に入った。

 

「は~…集中しないと…!」

 

目の前に課題に集中するために一旦、その事は置いておき、吐いた息でかじかんだ手を暖め、さすり合わせると、リコは目を閉じる。

 

(…私は、立派な魔法使いになるの…!!)

 

ゆっくりと目を開いて魔法のヤカンを見据え、杖を構えた。

 

「キュアップ・ラパパ!ヤカンよ、お湯を…」

「リコちゃーん!!」

 

集中力を切らさないようにして、これならいけると確信を持った瞬間、元気な声がリコの集中を阻害しする。

 

「っう…へぇ?」

 

突然邪魔されたリコは眉を潜めて、声のした方を見ると、そこには頬を上気させ、肩で息をしているみらいがいた。

 

「はっはっはぁ…見てて!やってみるから!」

「え?ちょっと…!」

 

戸惑うリコを尻目にヤカンの前に立ったみらいは杖を構え、目を閉じる。

 

「キュアップ・ラパパ!ヤカンよ、お湯を…沸かしなさい!!」

 

みらいが呪文を唱えるとヤカンが淡く光始めて、全員の視線がヤカンに集まった。

 

━ポフッ

 

「「「おおぉぉっ……!!」」」

 

ヤカンでの注ぎ口から小さい蒸気の塊が飛び出すと、その場にいた全員が驚きの声を上げる。

 

「やったぁ!!」

「魔法モフ…みらいが魔法を使ったモフ!!」

「あっ……」

 

喜び、はしゃぐみらいとモフルンに対して、リコは見事に成功したみらいの魔法に呆気にとられていた。

 

「リコちゃん!」

「っ!?」

 

驚き、固まったままのリコにみらいがその高いテンションのまま話しかける。

 

「やったよ~!ねえ今の見た!?」

「あ、えーと…」

「私魔法使えたんだよっ!!」

「え、ええ…」

 

よほど嬉しかったのか何度もやった!やった!と喜び跳び跳ねるみらいと何とも言えない表情のリコ。

 

「…嬉しいのは分かったからその辺にしといてやれ朝比奈」

「あ、八くん!」

 

みらいのハイテンションに困っていたリコに助け船を出したのは先程のやり取りで少し気まずいはずの八幡だった。

 

「あ…」

 

八幡を見て怒鳴った事を謝ろうとしたリコだったが、咄嗟になんと言っていいのかわからず、言葉に詰まってしまう。

 

「八くん!八くん!見てた?私魔法使えたんだよ!!」

「近い、近い…わかったわかった、見てたから、だから少し離れろ」

 

リコが言葉に詰まっている間にみらいが八幡にはなしかけてしまいに、話すタイミングを逃してしまった。

 

 

「ほう……」

 

魔法に成功したみらいを感心した様子で見つめるアイザック。そして、次にジュン達に視線を向ける。

 

「よーし!あたいも…キュアップ・ラパパ!…」

 

ジュンが目を閉じて集中し、呪文を唱える。

 

「ヤカンよ……」

 

ケイも杖を振り上げた。

 

「お湯を沸かしなさい!」

 

そして、エミリーが振り下ろすのと同時に三人がヤカンに魔法を掛ける。

 

━ポポポンッ!!

 

「「「やったぁ!!」」」

 

三つのヤカンから立て続けに鳴った音が成功を知らせ、手を上げて喜ぶ三人。

 

「………」

 

おしくらまんじゅうに参加した全員が成功して喜んでいるのをリコは驚きと戸惑い、そして不安が入り交じった表情で見つめる。

 

成功したみらい達四人が集まって喜びあっていると、そこに、先程までくつろいでいたアイザックとマキナがゆっくりと歩いてきた。

 

「ただ単に体が暖まったから成功したのではありません…みんなで集まることで心まで暖まり集中出来たのでしょう」

 

アイザックが四人の顔を見渡し、マキナの方を見て首肯する。

 

「…という事で、みなさん合格です♪…くしゅんっ」

「「わぁー!!」」

「「やったぁ!!」」

「…やっぱり寒いんすね……」

 

課題に合格したことに喜ぶ四人とマキナのくしゃみにツッコむ八幡。

 

「…こほん、ではアイザック先生、スタンプを…」

 

八幡のツッコミにマキナはアイザックに先を促すことで誤魔化した。

 

ポンッ、ポンッ、ポンッ、リズムよくカードにスタンプを押すアイザック、そして四つめのカードにスタンプ押そうとした時、リコの声がそれを止める。

 

「待ってください!」

「ん?」

 

アイザックは手を止め、顔を上げて、なんですかな?といった視線を向けた。

 

「合格なんてやっぱりおかしいです!!」

 

厳しい表情でそう言うリコにみらいが戸惑う。

 

「なんで?ちゃんと出来たでしょ…」

「私はなにもしてないわ!!」

 

みらいの言葉を遮り、リコが叫んだ。

 

「…君達は三人で一組、誰かが成功すればいい、そういう決まりです」

「でも…」

 

諭そうするアイザックにそれでもリコは食い下がろうと口を開きかけた時、それまで黙っていた八幡が口を挟む。

 

「…言いたいことはわかる、だが、その理屈でいくなら俺もなにもしていない」

「それは…」

 

八幡の言葉にリコは一瞬、言い淀み、そこからアイザックが畳み掛けるように結論を出した。

 

「決まりは決まり、君達は合格」

 

ポンッとカードにスタンプが押されて、リコは俯いてしまう。

 

「どうしちゃったの?合格出来たんだから…」

 

リコがどうして落ち込んでいるのかわからずに、その理由を問うみらい。

 

「朝比奈、それは…」

 

先程と同じようにキッとみらいを睨むリコを見て、これ以上はまずいと感じ、止めようとした八幡だったが、それは杞憂に終わった。

 

ひとしきりみらいを睨んだリコは踵を返して、スタスタと歩いていってしまう。

 

「あ、リコちゃん…?」

 

リコの後をみらいは戸惑いながら追っていった。

 

「…はぁ……」

 

それを見て浅くため息を吐くと八幡はさらにその後をゆっくりとした足取りで追う。

 

「「「?」」」

 

そんなみらい達の様子にエミリー、ケイ、ジュンの三人が何事かと歩いていってしまった三人の姿を唖然と見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リコちゃんってば~」

「モフ?」

「……」

 

みらいが一人でつかつかと歩くリコに呼び掛けるが返事がない。

 

「…というか、お前らどこまでいくつもりだ」

 

後ろからついてきていた八幡が疑問を口にした。

 

辺り一面銀世界、周りには何もなく、目印になるような物もないため、このまま進めば下手をすると迷子になるだろう。

 

「………」

 

八幡の問いも無視して、黙々と歩くリコ。そんな様子に遂にはみらいは俯き、ボソッと呟いた。

 

「…リコちゃんの為に頑張ったのに……」

「っ!」

 

その呟きが今まで黙っていたリコの怒りに火を着け、言わずに我慢していた言葉が堰を切ったように溢れ出す。

 

「私の為にって、ちょっと魔法が使えたからっていい気にならないでっ!!」

「別にいい気になんて…」

 

怒りと嫉妬が混じりあったリコの言葉に圧されて戸惑うみらい。

 

「なってるじゃないっ!!」

「なってないよっ!!」

 

リコにつられて、みらいも語気を強めてしまい、互いにヒートアップする二人。

 

「モフ…」

 

言い争う二人にモフルンがどうしたらいいのか困った顔をしているのを見て、八幡が仲裁するために口を開く。

 

「待て、とりあえず二人共落ちつ……」

 

そこまで言いかけて、モフルンが鼻をくんくんさせているのに気付き、八幡は言葉を止めた。

 

「…モフッ」

「?」

「モフルン?」

 

突然走り出したモフルンに、喧嘩していたことを忘れて、二人は驚く。

 

「…モフルン、まさか……」

「甘い匂いがするモフー!」

 

いち早くその可能性に気付いた八幡が聞くと同時にモフルンが答えた。

 

「もしかしてリンクルストーン?」

「行ってみるモフ~!」

 

モフルンが感じたリンクルストーンかもしれない匂いに、喧嘩していたことは一旦、置いておいて四人はその匂いがする方向に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━とある洞窟の髑髏の城━

 

その城の主、ドクロクシーの座る玉座の階段下で、闇の魔法使いであるトカゲ男ヤモーが大鍋をぐるぐると、かき混ぜていた。

 

「んー…ん」

 

━ポチャッ

 

かき混ぜている途中、ヤモーが骨のような物をを鍋の中に入れると、紫色の毒々しい煙が上がって、何かの形を示す。

 

「フムフム…かの石は天空より凍てつく大地に降り注ぐ、と占いに出ています」

 

どうやら鍋をかき混ぜていたのは占いだったらしく、上がった煙から結果を読み取ったヤモー。

 

「つまり、氷の島にリンクルストーンが現れるようです」

「…今度こそエメラルドですか?」

 

ヤモーの占いに同じく闇の魔法使いであるコウモリ男バッティが訝しげな視線を向ける。

 

「む?」

「貴方の占いは宛にならない」

 

占いにケチをつけられたヤモーが皮肉たっぷりでバッティに苦言を呈した。

 

「ハッ…プリキュアに負け続けるバッティさんには言われたくありませんね」

「なにっ…!」

「なんです…!」

 

互いの言葉でカチンときた両者がメンチを切り合う中、ドクロクシーの瞳がギラリと光って、洞窟全体が揺れ始める。

 

「っ!?」

 

そのあまりの振動に、積み上げられていた石が倒れて散乱し、バッティとヤモーが狼狽えた。

 

「ドクロクシー様がお怒りですっ!」

 

二人はその場でひれ伏して、主の言葉を待つと、再びドクロクシーの瞳がギラリと光る。

 

「一刻も早くエメラルドを手に入れよと仰っています!」

「か、必ずや……」

 

ドクロクシーの怒りが収まるまで、二人はひれ伏したままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、みらい達はリンクルストーンの匂いを追って氷の山で覆われた道を歩いていた。

 

「良い天気で良かったモフ」

「ええ」

「そうだね~」

「…だな」

 

専用のポーチにすっぽりと入ったモフルンが無難な話題を振ると、リコ、みらい、八幡の順でこれまた無難に答えて、会話が止まってしまう。

 

「あうぅ…」

「モフ…」

 

続かない会話にみらいが困った顔を浮かべ、モフルンは辺りを見回して、話題になりそうなものを探す。

 

「モフッ!キラキラした煙が山から出てるモフ~!」

「ほんとだ~!」

 

モフルンが見つけたのは他のものより、頭ひとつ大きい氷の山だった。

 

「…もしかしてあれが?」

「ええ、氷の火山よ、細かい氷の粒が吹き出てるの」

 

氷の火山、マホウ界にくる途中、カタツムリニアで話題に挙がった氷なのに火山という矛盾した名前のあれだ。

 

「へぇ~…あっあれ!」

「へ?」

 

リコの説明に感心しているみらいが何かを見つける。

 

「あの岩…雪だるまみたい!」

「あ、ほんと…」

「「あっ」」

 

みらいの言葉に素直に答えるリコ。しかし、すぐに喧嘩していたことを思い出し、慌てて取り繕った。

 

「…あなたじゃなくてその子と八幡さんに言ったんだけど?」

「わ、私も…八くんとモフルンに言ったもん…」

「…俺達を出しに使うなよ……」

「モフ…」

 

喧嘩する二人の間に挟まれて、八幡とモフルンが疲れたように呟く。

 

 

「スッゴい氷柱モフ~!」

「…これはすげぇな」

「わぁぁ…」

 

先に進むと、次に見えてきたのは地面から生える大きな氷柱だった。そのあまりの大きさに三人のテンションが急上昇する。

 

「氷柱じゃなくて氷の火山に住むアイスドラゴンの爪よ」

「おおっドラゴン!」

「あ…今、ドラゴンって言いました!?」

 

ドラゴンという単語に思わず八幡が大きな声を出し、みらいはぐいっとリコに顔を近付けた。

 

「あなたには言ってないわ、二人に言ったの」

 

はしゃぐみらいにリコが腕を組んでピシャリと言い放つ。

 

「っ…なんかやな感じ!」

 

あからさまなリコの態度にみらいがムッとして言い返した。

 

「っそれはこっちの台詞よ!!はしゃいじゃって!」

「へ?」

 

少し言い返しただけで再び怒り出したリコにたじろぐみらい。

 

そこから、先程の続きと言わんばかりにまた言い争いが始まる。

 

「あなたにはマホウ界や魔法が珍しくて楽しいかも知れない…けどね、私にとっては違う…魔法は遊びじゃないの!!」

 

立派な魔法使いになる、その目標に向かって努力してきたリコにとって、みらいの行動ひとつひとつが真剣味に欠けたように見えたのだろう。

 

それなのに自分とは違って、あっさり魔法を成功させたみらいに、リコは憤りを覚えていたのだ。

 

「待て、さすがにそれは言い過ぎ…」

「っ遊びだなんてっ!!」

 

仲裁しようとした八幡の言葉を遮ってみらいが叫ぶ。

 

━うわぁぁぁんっ!!

 

みらいが叫ぶとそれに反応したかのように赤ちゃんの大きな泣き声が響いた。

 

「「「!?」」」

 

その泣き声に一同が言い争いを忘れて驚き、慌ててリンクルスマホンが開く。

 

「どうしたの?」

「うぅうわぁぁぁん!!」

 

リコが問うも、赤ちゃんに答えられる筈もなく、泣き止まない。

 

「…あれだけ大きな声で言い争ってたらそりゃ泣くだろ」

 

八幡が呆れた声でぼそりと呟いた。

 

「そう…だよね…ごめんね……」

 

そう言ってみらいが優しく頭を撫でると赤ちゃんは再びすやすや眠りについてスマホンの中に戻っていく。

 

「ひとまず、落ち着いたな」

「「ほ……」」

 

みらいとリコが声を揃えて、無事泣き止んだ事に安堵するとお互いに顔を見合わせた。

 

「「フンッ!!」」

「はぁ…」

「モフ…」

 

これまた同時にソッポを向く二人に今度は八幡とモフルンが顔を見合わせてため息をつく。

 

 

「リンクルストーンあるところに彼女達あり…」

 

遠く離れた木から単眼鏡を使って、みらい達の様子を伺っていたバッティがニヤリと笑った。

 

「フッ…しかし、良いですね…仲間割れとは」

 

今がチャンスだと思い、バッティは仕掛けるタイミングを見計らう。

 

 

 

 

 

 

「「?」」

「なんだ?」

「モフ?」

 

四人の真上を大きな影が通過して、何事かと空を見上げるみらい達。

 

「あっ!ドラゴンだ!!」

「おお…本物だ…」

 

初めて見るドラゴンに気まずい空気を忘れて、感動するみらいと八幡。しかし、それとは裏腹にリコの表情が曇った。

 

「まずいわ……」

「へ?」

「なにがだ?」

 

ただならぬリコの様子に八幡が問う。

 

「アイスドラゴンが高く飛ぶのは嵐を避けるためだって授業で習った…」

「「ええ!?」」

「…この銀世界で嵐って…かなり…いや、洒落にならないだろ」

 

驚くみらいとモフルン、そして八幡は冷や汗を浮かべて呟いた。

 

これだけ氷に覆われたひゃっこい島では、嵐…というよりは吹雪というべきか、どちらにせよこのままだと遭難してしまうだろう。

 

「来るわ、嵐が…」

 

先程まで晴れていた天気がどんよりした雲に覆われる中、不安そうなリコの言葉が空に響いた。

 

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